1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
罹災都市借地借家臨時處理法案(政府提出、貴族院送付)
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昭和二十一年八月三日(土曜日)午前十時三十分開議
出席委員
委員長 本田英作君
理事 石原圓吉君 理事 鈴木仙八君
理事 林連君
廣川弘禪君 九鬼紋十郎君
大矢省三君 鹿島透君
酒井俊雄君 中田榮太郎君
出席政府委員
内閣事務官 財津吉文君
内閣事務官 大橋武夫君
司法政務次官 古島義英君
司法事務官 奧野健一君
司法事務官 加嶋五郎君
厚生事務官 加藤清一君
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本日の會議に付した議案
罹災都市借地借家臨時處理法案(政府提出、貴族院送付)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=0
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001・本田英作
○本田委員長 開會致します、質問を續行致します──酒井俊雄君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=1
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002・酒井俊雄
○酒井委員 本法案は、彼の戰爭に依りまして罹災致しました、洵に氣の毒な人々の保護、竝に都市復興の促進、それから戰爭に依りまして土地、建物に關する法律關係が色々複雜になつて來て居りますので、其の整理調整等の立場から之を設けられると云ふ御趣旨であります、洵に必要なことでありまして、私共も一日も早く是が實施をされまして、只今申しました色々な目的が貫徹されることを、心から希望するものであります、特に御承知の通り、戰災に依りまして家を失ひ、或は家具、什器を失ひ、衣類、寢具を失つて、住むに家なく、寢るに夜具なしと云ふ憐れな人々が、隨分多くの數に上つて居るのでありまして、之を此の儘推移させることは、國家の爲に重大なる問題であると思ふのであります、併し私は、少し言ひ過ぎかも分りませぬが、本法案はそれ等の人達を救ふ爲の法案と致しましては、甚だどうも意に滿たない所が澤山あるのでありまして、單に此の戰爭に依りまして複雜になつた都市の土地、建物に關する法律關係の整理と云ふことに役立てる爲には、是で結構だと思ひまするが、罹災者の保護救濟と云ふ立場から此の法案を眺めて見ると、非常に意に滿たない所が多いやうに考へられるのであります、さう云ふ點を少しく申述べまして、此の點に對する政府の御意思のある所を御伺ひしたいと思ふのであります
それは、此の本法案の形式の上からは、罹災を致しました人々の救濟は、一應是で目的を達せられると云ふ仕組には確かになつて居りまするが、事實此の法案の條文に依つて、それ等の罹災された氣の毒な人々が救濟されるかどうかと云ふことになりますと、實際上には此の法案の恩惠を受けると云ふことが、大部分の人々に於て出來ない結果になるのではないかと考へるのであります、と申しますのは、罹災當時借家權を持つて居りました者、其の家に住んで居りました者は、此の法律が實施されます時から一年間の間に、地主に對し借地の申込をなし、或は借地權者に對して其の讓渡の申込をなせば、借地の讓渡を受け、或は借地權は優先的に契約の成立を見ることが出來ると云ふ形の保護、形の上から見れば洵に結構だと思ひますが、第一の難點は、昨日も武藤さんの質問にございましたやうに、今六大都市あたりでは、都市へ轉入することに付きまして制限を致して居りますが、果して此の制限が、其の一年間に撤廢になるかと云ふことが大なる疑問であると思ふのであります、其の點に付きまして、主として轉入制限は食糧問題に關係してであると思ふのでありますが、さう云ふ都市轉入の事情が若しも緩和しなかつた場合には、一體どうなるのだ、是が緩和しなかつた場合には、此の法文は空文に終るのではないかと云ふことを考へるのであります、此の點に付きまして、本法律に依つて保護の對象となる所の罹災者は、轉入を特に許すと云ふやうな特例でも、萬一の場合には設けられる御意思があるかどうかと云ふことを、一應御伺ひしたいのであります
次にもう一つは、復興院あたりでは、安い建物を建て、家賃を安くして、是等の罹災者に之を貸し與へると云ふことに一生懸命になつて居ると言はれるのでありますが、それは恐らく本法律案の直接の内容を成す所の、借地借家と云ふものに關係するものではないと思ひます、事實上復興院でなさる所の貸家なるものが澤山出來れば、勿論罹災者は救濟されると云ふことになりますが、併し是も復興院自ら仰しやるやうに、そんなに澤山期待の出來るものではないし、假に是が或る程度出來たと致しましても、それは本法案の内容を成す所の貸家でも何でもない譯です、本法案に依つて救はれる筈の罹災者、さう云ふものとは直接的な關係のない事柄と思ひます、そこで本法案に依つて保護しようとする所の罹災者、是等の人々の立場から言ひますると、どうしても元住んで居つた所に自分が土地を借りて、自分が家を建てると云ふことが實質上の中心になる譯であります、お上がやつて下さる所の建物なるものは、是は罹災者一般に對する救濟であり、施設であると私は思ふのであります、本法案が對象として居る罹災者と云ふものは、やはり自分で家を建てると云ふことが中心になるのだと考へるのであります、然らば本法案に依りまして、優先的に自分で土地を借りて、家を建てると云ふ場合を考へて見ますると、是が非常に……形の上では確かに一應整つて居るのでありまするが、不可能なことではないか、全く不可能とは言ひませぬが、不可能に近いことではないかと思ふ、此の法律に依つて保護される罹災者の全部から見ますると、大多數の人に取つては、自分で家を建てると云ふことは不可能に近いと思ふのであります、假に相當多數の預金を持つて居ると致しましても、今預金は封鎖されて居りまするし、武藤さんの質問にもありましたやうに、其の建築の爲に認められる額は一萬圓であると云ふことになりますれば、事實此の點に於ても、自分で家を建てることは不可能なことだと思ふのであります、況して、私共名古屋でありまするが、名古屋あたりの罹災者の大部分の状態を、色々な調査されたものや、或は我我が直接に見聞した所に依れば、もう家財道具もすつかり燒かれてしまつて、職は失つてしまつて居る、其の日の生活にも追はれて居る者が大部分であります、殆ど八割、九割も斯う云ふ人に依つて滿たされて居るのであります、斯う云ふ人が、假に一年以内に申込めば優先的に土地を借りることが出來るさうだ、さう云ふ法律が出來たと云ふことになつて、申込んで見ました所が、さうして轉入が許されると假定致しました所が、事實家を建てる所の力がない、資金もない、材料がないと云ふことは別問題と致しましても、大體材料があつても資金がないと云ふことになりますれば、一體どうなるのだ、一年内に申込めば茲に契約が成立をする、成立しても、半箇年以内に建物所有の目的で其の土地を使用し始めなかつたならば、此の契約は駄目になつてしまふのであります、さう云ふことになりますれば、法制と致しましては洵に立派なものである、併しながら實際上に此の法律に依つて救濟されると云ふ部面は、罹災者の中の僅かな者に止つてしまふのでありまして、八割、九割もの人々は、立派な法律の出來たのを眺めるだけのことでありまして、之に依つて實質上救濟されると云ふことは不可能であると、私は考へるのであります、斯う云ふ點に付きまして、一つ關係當局から先づ御答辯を御願ひしたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=2
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003・古島義英
○古島政府委員 酒井さんの御質問は洵に御尤もであります、此の法案で戰災に依る被害者を全部救濟することの出來ないのは、御説の通りであります、併しながら戰災者が住むに家なく、食ふに其の職がない、斯う云ふ場合に、之を全般的に法律で救濟すると云ふことも、實際上の問題としては困難であります、自分のことを申上げては洵に恐縮でありますが、私も身を以て逃れた一人でありまして、一物も身に著けずに逃れた人間であります、其の立場から見ますると、此の法律で全部を救濟すると云ふやうなことが到底出來ぬことは、私自身も承知致して居りますが、偖て飜つて考へて見ますと、戰災者を全面的に救濟することが、一本の法律で出來るかどうかと申しますると、是は出來ぬことであります、一切の其の他の施策を致さねば救濟は出來ませぬが、偖て茲に問題になりますのは、轉入を許されない、轉入を許されぬものがあるに拘らず、斯う云ふ法律を拵へても駄目ではないかと云ふ御話でありますが、是は全く考へを異にするのであります、轉入を許されたが偖て建てる場所がない、都會地に入ることは許されたのであるが、自分の住む所を拵へようとしても、其の場所もないと云ふやうな人は、更に轉入を許されても轉入すること能はざることに相成るのであります、若し是が九月一日なり、十月一日なりから、此の法律が施行されることになりますれば、向ふ一年間でありますから、其の間には轉入も許されることになりませう、轉入も許されることになりますれば、先づ以て自分の住む所を何とか考慮せねばならぬのであります、そこに於て嘗て自分が住んで居つた、若しくは借りて居つたと云ふ場所に來て、此處に家を建てたいと思ふが、是は何處に交渉して宜いか、交渉しても借りられないと云ふ時には、やはり此の法律を拵へて置きまして、自分は借家で居つたのであるが、借地權があれば地主に向つて借地の申出をする、或は又借地人が家を拵へて居つて、其の家に住んで居つたと云ふ人であれば、前借地人に向つて、こちらに讓渡して呉れぬかと云ふ交渉をする、そこで徐ろに、自分で建てる家を工夫致すと云ふことも考へられるのであります、さうすれば、先づ以て此の住の問題が大體に於て目鼻が付くのでありまするから、そこに轉入された意味が通ずるのであります、而も又、轉入を許されても、建てる資金がないではないかと云ふことでありまするが、勿論其の通りであります、全く資金がないと云ふ時にはどうする譯にも參りませぬが、本會議で大臣が提案の理由を説明致した時に申したやうに、やはり是は家を建てると云ふ意欲もあり、資料も持つて居るのであるが、而も場所がないと云ふやうな困つて居る者があるならば、それを救濟しようではないか、斯う云ふ意味合ひから出て居る、殊に其の意味と、一方に於ては復興を促進すると云ふ意味合ひとが兼ね合つて、此の法案が出て居ると云ふ説明を致しましたが、左樣な意味で出て居るのであります、かるが故に、此の法案に於て全般を保護すると云ふやうなことは、司法當局と致しましても考へて居りませぬが、少くとも建てる意欲があり、建てる資力を有するに拘らず、建てることが出來ぬと云ふやうな者がありますれば、それを救濟せねばならぬと云ふので、急いで此の法案を出した次第であります
尚ほ復興院の方のことは、別に是は説明を願ふでありませうが、成程復興院の方で住宅を拵へる、或は又住宅營團の方で住居を拵へると、斯う致しましても、全面的に之を救濟をし、全面的に收容することが出來ないのは、御説の通りであります、此の方は寧ろ社會政策的の施設として致すのであります、此の法案の方に、建てんとする意欲があり、建てんとするだけの資力を有するが、尚ほ建てることが出來ないと云ふ者を救濟すると云ふ建前から出て參つて居ります、自ら此の對象が違つて居るのであります、左樣な意味で立案致したのでありまするから、其の資材等を持つて居る者を前提として、若しくは工夫の出來ることを前提と致しまして、又其の意欲のあることを前提と致して居るのであります、資力がなくてどうにも建てることが出來ぬと云ふ場合には、同じく此の法案の中にありまする、第一の借地人が自分で家を建てる、さうして何等の介在者もなしにそこに家を建てたならば、其の家屋に向つては第一著に借家の申入をすることが出來る、さうして借家の申出に依つて其の家屋を借りることが出來ると云ふ規定を設けまして、資力はないが其の家に住みたいと云ふ人には、其の途を開いてあるのであります、大體住居の方から言ひますれば、どうしても資力がない場合は救濟は出來ませぬ、どうしても建てる意欲のない者は救濟は出來ませぬが、其の他の人は相當救濟し得られると信じまして、之を出したのであります、左樣御諒承を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=3
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004・酒井俊雄
○酒井委員 勿論私は、此の法律に依りまして全部の罹災者を救へと云ふやうな御尋ねをして居る譯ではないのでありまして、此の法律を出されまする所の、其の目的の範圍内に於ては、十分救濟が出來るやうに御考案が願ひたいと云ふ注文なのであります、政府當局に於きましても御承知の通り、都市に於きまして建物を借り、長年此處に住んで參りました者は、中には父祖の代から其處に住みまして、さうして家の業として色々な職業をして居りまして、財産は外になくても、其の場所、或は老舖と申しまするか、其の家の持つて居る所の權利、斯う云ふものの力に依つて、都市の人々の生活が保たれて來たと云ふことは、田舍と違ひまして、此の土地と建物が大きな役割をして來たのであります、其の住んで居つた建物を一期にして烏有に歸し、總ての物を烏有に歸したと云ふ此の被害は、形に現はれました物資上だけの被害でなくて、其の奧に潜んで居る所の無形の利益、是が恐らく都市の生活と致しましては、形に現はれた物質以上の大なる損害になつて居るのが、隨分其の數に於て多いと思ひます、況して繁華な目拔きの通りなんかに家を借りて居りました者の權利と云ふものは、御承知の通り、是は財産的に見ましても實に莫大な價値のあるものでありますが、さう云ふものに於ても、一朝にして烏有に歸して無資力になつた爲に、折角斯う云ふ法律を制定致しまして、實施されましても、指を咥へて見て居らなければならぬ、それに對して、資力のない者は此の法律が救つてやる所の對象たる罹災者ぢやない、資力のある者だけ家を造り、力のある者だけ救つてやるのだ、斯う云ふのが此の法律の目的の範圍に含まれる罹災者だ、それが對象だと云ふことは、餘りに私は、此の法案が持つ使命と致しましては情ないと思ふのであります、家を建てる力のない者には、私は其のやうな救濟方法が出來ない譯でもないと思ひます、例へば父祖の代から何十年も住んで立派な老舖、立派な無形的な權利を持つて居つた人々に對しては、地主なり或は借地權者なりに買取の義務を負はせると云ふやうな方法を設けることは、絶對に必要ぢやないかと考へるのであります、是は政府當局も御存じの通り、建物が滅失しなくて、罹災しなくて、建物が現存して居りました當時の都市の状態を考へて見ますると、此の家屋の老舖料と申しまするか、さう云ふ無形的の價値は、隨分高價に賣買されて居る事實は、否定の出來ない事柄であります、恐らく都市の家屋に對しては、全部が大なり小なりの老舖料と申しまするか、まあ權利金と申しまするか、そんなものが附著致して居りまして、殊に目拔の通りなんかでは實に莫大な一財産である、何萬圓、又何十萬と云ふやうな恐ろしい老舖料、權利金と云ふものが授受されて居つたことは明かな事實であります、それが一朝に致しまして、罹災の爲め、家を建てる力がない爲に是が無になると云ふことは、實に忍び得ない事柄だと思ふのであります、其の無形的な權利、斯う云ふものを公平な社會的な客觀的事情、さう云ふものに依りまして評價を致しまして、之を借地人なり、或は地主なりに買取りの義務を負はせると云ふことは、是は氣の毒な人を救ふ途にもなりまするし、一方それでは借地人或は地主に對して酷ではないかと云ふ御考へがあるか分らぬと思ひますが、私は酷ではないと思ひます、と申しまするのは、そこに建物が建つて居つた時代のことを考へて見ますと、地主は單に地料を借地人から得て居つたのであります、借地人は此處に家を建て、家を貸した家賃を單に得て居つたのである、今度是が空地になつて、さう云ふ土地の上にありました建物に附隨する無形的な權利、是は地主と雖も、借地人と雖も只取る譯には恐らく行かない權利である、其の家に附著し、其の家に住んで居つた者が持つて居つた無形的な權利、之を何かの事情に依つて、地主が自分の方へ貰はう、自分の氣に入つた者に後を繼がせようと考へたと致しましても、やはり其の權利を買取つて、自分で使ふなり、次の者に讓つてやるなりしなければならなかつたのであります、家主に致しましても其の通りであります、單に出て行けと云ふ譯には行かなかつたのであります、自分の家に附いて居る權利などは認めないと云ふ譯には行かなかつたのでありまして、やはり其の家を自分が使はうとすれば、或る程度の權利金、立退き料と云ふか、何と云ふか知りませぬが、何れに致しましてもさう云ふ無形的な權利を買取つて、自分で使用しなければならなかつたと云ふことは事實であります、隨て此の際其の家がなくなれば、地主で言へば、自由に他に借さうと思へば、或る程度のやはり權利金と申しまするか、そんなものを取つて貸すことが實際上には出來るのであります、法律上の技術と致しまして、其の額だとか色々なことが問題になるだらうし、それが認められるかどうかは別問題と致しましても、事實は空地になつて居る土地を貸すには、都市に於ては相當な權利と云ふものを取つて借すと云ふことに、恐らく是はなるのであります、又借地人に致しましても其の通りであります、自分で家を建てる、さうして自分が此處にどうしても住む、住むことが今度は出來るのであります、自分が家を建てて住むと云ふのなら、當時此處に住んで居つた罹災者も、是には敵はぬと云ふことに法律上なると私は考へるのであります、立派な場所で、曾て彼處に自分が住みたいなあと思つて居つても、多額な權利金を出さなければ住めなかつたのであるが、今度は新たに家を建てやうとする借地人には幸ひであるかも知れないが、兎に角其處が空地になつた、立派な場所であるから、建てて商賣をやるにしても何にしても、何しろ莫大な利益がある譯です、其の地主或は借地人に、此の罹災の爲に、家がなくなつた爲に轉げ込んで來た所の無形的な利益、是は權利がありながら、財産がないので借り得べき土地も借れないと云ふ此の罹災者に一つ與へると云ふ、地主の側或は借地權者の側から言へば、買取權と云ふものを認めることは、必要じやないかと、私は考へるのであります、此の點に付て政府の御考へを御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=4
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005・古島義英
○古島政府委員 洵に御同感の御意見でありますけれども、此の老舖、其の家に附いて居ると云ふか、其の場所に附いて居ると云ふか、其の暖簾に附いて居ると云ふか、何れに致しましても無形の財産のあることは、私の方でも認めるのであります、此の無形の財産があります以上は、それの買取り請求權があつて然るべきだと云ふ御意見、洵に御尤もであります、所が實際から申しますと、其の場所、家屋、暖簾に權利がありましても、是は其の場所、家屋、暖簾があるから値打があるのであります、そこで、例へば黒燒屋がある所に事務所を作つても、前の老舖の權利と云ふものは認めることが出來ない、其處に同じ商賣をやると云ふことに於て、其の權利が認められることになるのであります、地主が之を買取つて同樣の仕事をすると云ふのなら、其の暖簾を持つて居た人を救濟すると共に、地主も餘り損害はありますまい、所が地主が地主たるの故を以つて──地主も戰災に依つて相當の被害を受けて居る、然るに地主たるの故を以て全く商賣を異にし、仕事を異にして居るに拘らず、其の暖簾を買はなければならぬと云ふことになると、一方は救濟出來るが、一方に於て又新たな被害者が出て參ると云ふことになる、そこで左樣な老舖は、自ら其の場所を占領し、自ら左樣な所に家屋を建てて營業をして行く方が却て宜いのではないかと思ふ、資力がない、成程資力がなければ其處に家を建てられないことは當然でありますが、同樣の仕事をさせると云ふことで金主を見付け、若くは同樣の開業をさせると云ふことで其の場所を占領させる、是は必ずしも不可能ではなからうと存じます、さうすれば強ひて地主に買取をさせなくても、やり得ると云ふ見込が立ちますので、却て借地權を確保致し、其の場所を占領し得られると云ふ權利を確保して置いた方が宜いのではないかと存じますので、其の權利を買取らせると云ふだけのことは、まだ政府として考へて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=5
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006・酒井俊雄
○酒井委員 是はもう押問答になりまするので、御答辯を要求致しませぬが、私は別に住んで居つた個人に附著するやうな、家に附著するやうな特殊的な價値、暖簾金と云ふものを主として申上げた譯ぢやないのであります、客觀的なる價値、一般的なる價値、主として土地の位置、土地的價値と云ふものは、是は客觀的、一般的なる價値だと思ひます、又其の價値の持つ其の量は相當大なるものが都市に於てはあると思つて質問した譯であります、其の一般的なる價値に、幾分の今の特殊的な暖簾金と云ふやうな、個人或は其の家の傳統と申しまするか、營業と申しまするか、さう云ふやうなものに附著した價値も考慮に入れる、價値の分量の中に加へると云ふことは或る程度必要だと思ひまするが、主として私が質問致しました趣旨は、客觀的なる土地的、場所的なる價値に對する救濟はどうかと云ふ積りで、御尋ねしたのであります、此の點は此の程度に致しまして、此の際大藏省關係のことを伺ひたいと思ひますが、お見えにならないさうでありますから後に致します、是は後から復興の係り、復興院と申しますか、そちらの係りの御方にも御尋ねしたいと思ひまするが、司法當局にも御尋ねを致したいのであります、それを何かと申しますると、都市への轉入の制限、之に對して法律を作られる上に於ては、當然そちらの方の係りと十分御協議を戴きまして、さうして此の法律の實質を成るべく多分に實現する、形式の上からも何も交渉する必要はないでありませうが、實質的に此の法律が保護する所の人々に、其の效果を與へる爲に、復興院のどの係りになりますか知らぬが、其の方面と十分協議して戴きまして、一般的に都市へ轉入が許されぬ場合に於ても、特に此の罹災者であると云ふ條件、其の他の條件が加はることも必要だと思ひまするが、何れに致しましても、此の罹災者である所の人々、而も此の法律に依つて保護される適格者である人は、一つ優先的に何か都市に入れてやる、一般が許されぬでも入れてやると云ふ御交渉を、眞劍に一つやつて戴きたい、是が何か具體的な結果を見るやうな御運びに願ふことが出來ないかどうかと云ふことを御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=6
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007・古島義英
○古島政府委員 酒井さんの御質問は洵に一々御同感の意を表する外はないのであります、此の轉入問題等に付きましても、勿論是は都市計畫の大問題でありまして、今後の都市は立體的に致すべきか、平面に擴がりつ放しで置くべきか、又人口を五百萬、三百萬と云ふことに減じた程度に置くべきものか、何程膨脹しても構はずに放任すべきかと云ふやうな問題は、都市計畫上重大な問題であります、そこで今日都市に轉入することを禁止すると云ふやうなことは、如何なる意味に於て出て居るかと云へば、私が申上げるまでもなく、都市に於ける食糧問題等もあり、さうして餘り膨脹すると云ふことは、治安の問題から考へても、膨脹した儘で放任すべきものでないと云ふ公法的の問題も考慮に入れてあるのであります、左樣なことは今日から豫想せねばならぬのであります、そこで司法當局として考へねばならぬことは、若し左樣な制限をされたから、制限範圍内に於て轉入する者は少なからう、そこで居住の問題等もそれ程心配するに足らぬだらうと云つたやうな考へで居りますと、大變な間違ひでありますので、若し轉入が自由に許されても、尚ほ彈力性のある法律を拵へて置かねばならぬ、制限されても尚ほそれに間に合ふやうな法律を拵へねばならぬと云ふのが、司法當局の建前であります、そこで此の法律の心持も、それ等のことを織込んでの立案でありまして、第一の老舖の問題等、之を考慮に入れなかつたかと云ふと、入れては居るのでありますが、實際は此の法律に織込むことが出來なかつたと云ふことに相成るのであります、恐らく其の他の何等かの名に於ての立法を拵へ、或は戰災者救護法と云ふやうなものでも何か拵へると云ふことになるならば、其の時には酒井さんの御希望等も十分採入れて立案致したいと考へて居ります、尚ほ只今の轉入問題等は、左樣な事情から參つて居るのでありますから、茲に法律を拵へると云ふ時には、轉入されて尚ほ住む場所もないと云ふことを豫想致しまして、さう云ふ場合には十分に是が建て得られる途を拵へると云ふことが、先づ政府當局とすれば導く途だと云ふことを考へまして、此の立法が出來た譯であります、どうか左樣な意味に御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=7
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008・酒井俊雄
○酒井委員 是は結局司法省の建前と、私の質問を致して居る所の建前とが、逆な立場と申しますか、立場が異つて居りますので、到底私の滿足の行くやうな御答辯は得られないと思ひますけれども、どうか此の法律が出來まする以上、此の法律の可能な範圍に於て、十分救濟の手を伸ばすと云ふ方向に働いて戴きたいと私は考へるのでありまして、頭から都市へ入れた者、都市へ轉入の出來た者、さうして家を建てる力のある者と云ふものに對して、是が適用されるのだと云ふ御考へ方は、此の法律運營に付てでも、是は狹過ぎると私は思ふのであります、此の法律運用に當りましても、別に此の法律の目的を逸脱せずに、今の力のある者、入れた者だけ救濟すると云ふことでなしに、それ等の條件に適はない人、權利の實質は持ちながら、資力がない爲め、或は都市轉入制限の爲に條件に適はない者も、與ふる限り此の法律で救濟すると云ふ御立場で、一つ法律の御實施を願ひたいと、斯う思ふのであります、而も此の法律は、法律の表題が示すが如く、成立すれば臨時處理法となる譯であります、臨時處理法案であります、此の終戰後の亂れたる土地の状態、或は家屋の状態、さう云ふものから生活が脅やかされて來て居る、さう云ふ状態を處理し、整理し、救濟すると云ふ所の、是は臨時的な法律だと私は思ふのであります、だからこそ、都市計畫の方面で言ひますれば、都市計畫が十分に成立つには、當局の説明に依れば、それは五、六年先だ、それも都市計畫が出來て、建物も出來て、完成の意味ぢやないさうであります、計畫を立てるだけに、全國的に見ると五、六年先になると云ふ話であります、だから元來言へば、是が永久的なる法律ならば、其の都市計畫と歩調を合せて進むべき法律だと思ふのでありますが、是は永久的な借地借家關係を定めるものではないのでありますから、都市計畫が假令五、六年先に延びましても、純然たる都市計畫に基いて借地借家關係を茲に築かうと云ふ法の狙ひぢやないと思ひます、さうしてみると、是は何處までも一時的な處理であります、一時的と申しましても、其の一時的が將來に向つて、事實上、又實際生活の面、實際具體的な面には、其の生活、其の建物、其の土地關係と云ふものの權利議務の關係が、永續して行くのかも知れませぬが、今此處で此の法律に依つて定めようとする權利、義務關係の安定は、一時的な關係を定めようとして居るものだと私は解釋致します、だからこそ、今の都市計畫なんかの部面は五、六年も先に計畫が樹つのだと云ふことでも、此の法律の意義がある譯です、是が永久的なら、それと竝行して打立てられた計畫の下に行く法律でなければ意義を成さぬと思ふのですが、一時的だと云ふ所に意義がある譯ですから、一時的處方であるならば、今の都市計畫の線に完全に沿はなければならぬ、或は十分沿はなければならぬと云ふことは、是はもう前提として、此の法律は豫測をしてないのだと思ふのであります、だから勿論現在の状態に於きまして、明かに將來の都市計畫に反すると云ふが如き、さう云ふ内容の救濟を此の法律から望まうと私は思ひませぬ、明かに將來の都市計畫に反すると云ふことが、現在の状態に於て明瞭であると云ふ、其のことに對しては、何等要求しないのでありまするが、都市計畫と云ふものは五、六年先に成立つものだ、此の救濟は目前に迫つた救濟だ、であるから明かに都市計畫と矛盾すると云ふことがない限りは、どうしても都市計畫と云ふことは直接的に頭に置かずに、臨時的な處置である此の法律を、一ぱいに働かさして戴きたいと云ふのが私の希望であります、而して又是が、此の法律の持つ所の本當の使命であらうと私は思ふのであります、さう致しましたならば、此の法案の立法趣旨を逸脱しない限りに於て、出來るだけ廣く罹災者を救濟すると云ふ方途に向つて、當局は御進めを願ひたいのであります、頭から力のある者、都市へ入れた者のみを救濟するのだと云ふことは、根本的に考へ方が──私が間違つて居るのか、當局の方が狹く解されるのか知りませぬが、私は間違つて居ると思ふのであります、其の根本の當局の御考へ、飽くまで今の條件は甘んじて受けて、今の都市轉入の問題も向ふ樣任せにして置いて、こちらから何等働きをしない、許された場合には、其の者は此の法律に依つて保護されると云ふ……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=8
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009・本田英作
○本田委員長 酒井君、御發言中ですが、厚生省の御方が來られましたから……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=9
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010・酒井俊雄
○酒井委員 分りました──さう云ふ消極的な御考へか、此の法律を活用する爲に、實際上活きて使ふ爲に必要だから、其の必要の範圍に於ては、他へ向つても積極的に働き掛ける御考へか、もう一度責任ある御答辯を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=10
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011・古島義英
○古島政府委員 洵に御尤もであります、唯此の法律を拵へまして、積極的に轉入を勸奬するかどうかと云ふことになりますると、別に勸奬することは出來ませぬ、併しながら、都市計畫上何等かの障碍になる分は勿論此の障碍になる分だけはやらぬと云ふことは當然のことでありまして、御説の通りであります、併し復興局其の他の都市計畫の方面と何等の交渉なく、全くの無關係で立案が出來て居るかと云ふと、決してさうではありませぬ、都市計畫の大方針と致せば、實際の都民の生活上も、餘り小住宅は造らせない、又餘り小さな借地と云ふものは、今後許さぬと云ふやうなことにすると云ふ希望もありますので、然らばと云ふので、こちらから又借地權の分割の問題等に付ても、或は分合するに致しましても、其の點を考慮致して分合すると云ふことに相成つて居ります、餘りに小さな分は取上げて、寧ろ適當な坪數にしなければならぬと云ふことは、今後の都市計畫上當然必要が起つて來るのでありますから、法律でも其の點は考慮に入れまして立案してあるのであります、今後之を積極的にと申しますか、法律の建前上、積極的にこちらからどうすると云ふ問題は起つて參らぬ法律であります、併しながら、實施に當つては、勿論酒井さんの御意見等は之を考慮に入れまして、此の法律運用に付ては、十分考へて實行させるやうなことに致したいと存じます、左樣御諒承願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=11
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012・酒井俊雄
○酒井委員 建前が違ひますので、此の點は先程申しましたやうに、私の質問に對して、私の氣持に副ふやうな御答辯は願へませぬ、併し是も已むを得ませぬが、實施に當つて御考慮願へると云ふことを承りました、是非とも其の方面の御考慮を十分御願ひしたいと思ひます
社會局保護課長さんがおいでになりましたから、一寸御伺ひ致します、司法當局に御尋ね致しましたことと大體同じやうな内容でありますが、此の法案は形式の上から見ますと、一應罹災當時の借家人と云ふやうな者を救濟する組織は出來上つて居りますが、實質的に見ますと、御存じの通り、此の法律が施行されます時から一年以内に、自分の權利を是等の人々は主張しなければならぬ、假に權利を主張して、罹災者が土地を借りることが出來たと致しましても、今の都市轉入の制限がありますので、其の制限に引掛つて都市へ入れない場合、是はさう云ふ人に取つては空文に歸すると云ふことになりますし、假に都市へ入れたと致しましても、罹災者の實情を見ますのに、當局でも御存じの通り、家財道具等凡ゆる物を燒かれて、罹災した者は恐らく裸一貫になつた者が多いのであります、多少荷物の疎開でもして置いた者は別でありますが、疎開する場所も中中あるものではない、だから實際と致しましては、あの空襲當時のことを思ひ浮べて戴けば分るのでありますが、何一つ持出すと云ふことは不可能でありました、罹災した者は眞裸であります、さう云ふ者は一體土地を借りる所の契約は出來ても、家を建てることは實際出來ないのであります、偶偶金のある人があるかも分らないが、まあそれは少いと思ひます、金のある人があつても、一萬圓程度で建てなければ、それ以上引出すことが出來ない、封鎖になつてしまつて居る、さう云ふ金を持つて居る人は、此の罹災者の多數の中から云へば非常に數が少い、裸一貫が多い、さう云ふ者が優先的に土地を借りました所が、家を建てることが出來ない、家を建てることが出來なければ、借りてから半年以内に之に著手しなければ、此の折角の權利も解消されてしまふと云ふことになる、之に對する救濟方法──形だけ此の法律が通りましても、何等か之に對てし救濟の手を伸べなければ、此の法律の實質的な效果を擧げることは殆ど不可能になつて、八割、九割の者は、立派な寶を見ながら、寶の持腐れと申しますか、何等效用をなさないのであります、そこに於て、さう云ふ人々に對しまして、一つ司法當局と協力して戴いて、此の法律に依つて救濟さるべき適格者たる罹災者、さう云ふ人々に對しては、何等か都市轉入の制限に付て、茲に特別なる手段を執つてやることは出來ないかと云ふことを御尋ねをしたいのであります
尚ほ一つは、事實長年の間都市に住みまして、其の建物に住んだ故に營業も出來、其の土地に住んだ故に商賣も繁昌した、其の土地的價値、建物的價値、さう云ふ無形的な權利を、是等の借家人は有形なるものを失ふと共に失つてしまつた、さう云ふ氣の毒な者に對して、是は社會局の關係ぢやないかも分りませぬが、何等か社會的手段を以て家を建てる爲に應援でもしてやる──何等か資材的關係、或は金錢的關係と云ふやうな方面で、應援でもしてやると云ふ方法は執れないものかと云ふ、二つの點に付て御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=12
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013・加藤清一
○加藤(清)政府委員 只今私の名前を御指名の上での御質問のやうに承りました、内容と致しましては、第一は都市轉入の緩和を圖つてはどうかと云ふこと、第二番目は建築資金の貸付をやるとか、或は又資材の融通等をやつて、本當に建物を建てることが出來るやうにしてやつたらどうかと云ふことと、第三には、今までの色々な權利を活かして使つて行けるやうな風に、保護の點を考へてやつたらどうかと云ふ三點のやうに承つたのでありますが、甚だ申上げ兼ねるのでありますけれども、三點とも私の關係外のことでございますので、他の政府委員の方から御答辯を願つた方が適當であると思ひます、何卒惡しからず御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=13
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014・大橋武夫
○大橋政府委員 復興院と致しましては、罹災者の一般生活の安定と云ふことを官制に規定致してございます、左樣な觀點から、一般罹災者の生活安定に關しましては、一般的な注意を致して居ります、勿論是等の實際の施設に付きましては、復興院に於て擔當すべき部面もありまするし、又厚生省、内務省、其の他の部面に於て擔當することになつて居る部面もございます、都市の轉入制限の問題に付きましては、制限の實際の取扱ひは内務省の所管と相成つて居るのでございます、建築の資金の貸付又は資材の融通、是等の事項に付きましては、復興院の最も密接な關係を持つた仕事でございますので、此の問題に付きましては、復興院と致しまして十分に留意を致して居ります、先づ資金の問題でございまするが、資金に付きましては、只今の所自己資金の封鎖すら行はれて居る實情でございますので、建築資金の貸付に付て積極的に働くと云ふ時期ではないやうに考へられます、隨ひまして復興院と致しましては、建築に關するものと致しましては、建築の資力の乏しい人達に對しましては、公共團體又は住宅營團に於て建築をさせることに致しまして、之に對して政府から相當の補助をして行く、所謂公營住宅を促進すると云ふ方法に依つて、最も困つた人達に住宅を提供すると云ふ面を考へて居ります、併しながら今後情勢の推移に依りまして、昨日本委員會に於て申上げました通り、公共團體の補助等に依る、所謂公共的なる建物だけで、此の住宅難を緩和すると云ふことは到底困難でございますので、今後に於ては、益益國民一般の自力に依る建築と云ふことに力を入れなければ相成りませぬので、隨ひまして今後建築資金の貸付等に付きましても、十分實情を調査致しまして、適切なる措置を講じたいと考へる次第でございます、尚ほ資材の點に付きましては、昨年終戰以來厚生省に於きまして、當時の最も窮迫したる建築の資材の實情に鑑みまして、所謂簡易住宅の資材と云ふものを斡旋を致しました、是は公共團體又は住宅營團を通じまして、資材を一般に賣渡すと云ふ方法を執つて居つたのでございますが、此の方法は、其の當時目論まれましたる建物の設計が、一般に喜ばれませぬでした爲に、只今では此の資材の賣渡しと申しますか、所謂出來上つた家を組立てる爲の一組の資材、さう云ふものの賣渡しは止めて居ります、併しながら建築一般の資材の融通に付きましては、物動其の他の面に於きまして許し得る限り、出來るだけ努力を拂つて居るやうな次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=14
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015・酒井俊雄
○酒井委員 是も復興院の方の御關係か、社會局の方か分りませぬが、序ででありますから御質問申上げますが、今都市に於きましては──私は東京のことは餘り詳しく分りませぬ、私は名古屋でありまして、罹災者の一人でありますが、個人的に造ります小さな家屋はぼつぼつ出來始まつて居りますが、國或は公共團體でやらなければならぬ所の衞生的な設備、或は公共的な設備が、非常に抛り放しにされて居る傾向があるのであります、例へば汚い話でありますが、便所などの設備は殆んど出來て居りませぬ、考へ樣に依れば街中便所であると云ふやうな考へ方かも分りませぬが、非常に不潔であります、近頃さう云ふ不潔な行爲をした者は處罰すると云ふことを、名古屋あたりでは當局は發表致しましたけれども、併し設備がなければ是はどうも無理な話ぢやないかと思ふのであります、それと共に非常に暗がりの場所が多いのであります、家のないやうな所は殆ど眞つ暗の儘放置されて居る、是が爲に夜は一寸出歩けない、内務省方面の關係、詰り刑事上の犯罪などと云ふことも、斯う云ふことから隨分行はれて、治安は是が爲に餘程脅かされて居ります、一つ其の由々しい問題は、其の爲に風紀を非常に紊す者が多いのであります、是は恐らく何處の都市へ行つてもさうだと思ひますが、實に風紀を紊す行爲、合意的な行爲もあれば、犯罪的な風紀を紊す行爲も澤山行はれて居る、だから今の電燈の設備、或は便所などの設備、或は下水の設備、是は都市計畫などと直接的な關係がある問題でありまするが、五、六年先に其の計畫が成立たうと云ふ、其の都市計畫を當局は待つて居られるのかどうか、是はさう云ふものを待つべき問題ではない、人間に最も直接的に、最も速かに要求されるのは、詰り明るい場所と清潔な場所と云ふことであらうと思ひます、さう云ふ點に付きまして、此の衞生的な施設、或は下水施設、或は點燈の設備と云ふやうなものを、斯う云ふ災害都市に至急に、一齊に行はれるやうな御意思があるかどうかと云ふことを、關係當局に御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=15
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016・大橋武夫
○大橋政府委員 只今の御尋ねは洵に御尤もな點でございます、當局と致しましては、共同便所であるとか、或は下水道、衞生設備の復舊には日夜努力を致して居るやうな次第であります、又街路の照明に付きましても同樣でございます、是等の事項は、何れも各罹災地に於きましては極めて喫緊の要務でございますので、一般の都市計畫が決まつてから、緩る緩るとやつて行くと云ふやうな考へは全然持つて居りませぬ、是は應急的に、成べく速かに復舊をして行くと云ふ方針でございます、現に下水道に付きましては、終戰直後から全國的に急を要するものから復舊工事を致して居りますし、引續き現在も、各地共取急いで行つて居るやうな次第でございます、唯下水道に付きましては、何れも是等に對して政府で三分の二の補助をやると云ふことになつて、現に實行中でありますが、公共設備の中の共同便所、或は街路照明等に付きましては、政府の方で只今の所補助を考へて居りませぬ、隨ひまして是は地方の自治體、又は關係の電氣業者等に於きまして、自發的に復舊を急いで貰つて居るやうな次第でございます、是れ亦資金及び資材の面から急速に運ばないのは、私共極めて遺憾に思つて居るのでございますが、今後共出來るだけ努力致しまして、御趣旨に副ふやうに努めたいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=16
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017・酒井俊雄
○酒井委員 時間が迫つて參りましたから、あと簡單に御尋ねをしたいと思ひます、今罹災都市に於ける土地關係、或は建物關係の法律關係に於きまして、一番困つて居りますのは、どさくさに紛れて無權限で空地へ家を建ててしまふ、燒跡へ家を建ててしまふ、請求しやうがどうしやうが動かない者が、名古屋あたりでは相當あるのであります、尚ほ一般大衆も、どうも近頃は個人の權利は餘り主張出來なくなつて居る、而も斯う云ふ罹災都市で、家を建てられても仕方がないと云ふやうに、誤解をして居る向が餘程多いのであります、是は司法當局あたりの御專門の方から見れば、そんな馬鹿なことはあるかと云ふ御考へかも知れませぬが、大衆と云ふものは、斯う云ふ法律關係なんと云ふものに付ては、洵に愚なるもので、無權限で家を建てられましては、已むを得ぬと云ふことで、一應二應催告は致しますが、頑張られて其の儘になつて居る、是が爲に、後に新しい適正なる法律關係をここに築くことが出來ないで困つて居る、或は自分が使用したいと思つても、使用出來ないで困つて居ると云ふ状況が相當あるのであります、此の處理は一體自然に任せるかどうか、唯今までの民事裁判に任して置くかどうか、民事裁判に任かして置いたのでは、當局には、御專門の御方が多いのでありますが、中中斯う云ふ無權限で一旦家を造つたり、家に住んだり致しますと、立退きなんと云ふ事件は、私共も何時も手こずるのでありますが、容易ぢやない、一審に一年掛かる、控訴でもされ、無茶苦茶に上告でもされると云ふことになると困る、數年掛りの問題になつてしまつて、調停などでも、良心のない者にはあの調停などと云ふものは役に立ちませぬ、だからさう云ふ者を救ふには、成程形式上は法律は完備して居るのであります、民事訴訟で行けるのでありますが、それでは間に合はないのであります、斯う云ふ土地の正しい權利關係を取戻すと云ふことは、罹災者を救ふ上に於ても、此の法案其のものの凡ゆる年限の關係から言ひましても、そんな呑氣な訴訟を考へて居ると云ふやうなことは、間に合はないと思ふのでありますから、此のどさくさ紛れに、無權限で横暴に人の權利を侵害して居ると云ふものに對する、何等か救濟方法、整理方法と云ふものを御考へになる餘地はないかどうか、民法或は訴訟法の定むる、從來の手續に任して置く御考へかどうかと云ふことを、一寸承りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=17
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018・古島義英
○古島政府委員 御質問のやうなことは、丁度大正十二年の震災後にも甚だ多かつたのであります、震災當時に於ける建物の大部分と云ふものは、全く權利なくして勝手に建てたものが多かつたのであります、其の點などを考へまして、今囘は此の法律を拵へたのでありますが、勿論無權限で建てた其の人に向つて、早急に之を取拂へと言ふことは、如何なる法律を拵へましても、法律手續で中々容易に出來ませぬので、本法案は全然それを否認して居ります、左樣な場合に於ては何等の保護をしないと云ふことになつて、是は認めないことになつて居りまするから、其の他の自己の權利を主張して、或は所有權を主張するなり、或は土地の借地權を主張するなりして、相當許されたる手續を取るより外は、今日の所途がないと信じまするが、又能く協議致しまして、之に依つて復興を妨害されると云ふ弊害が甚だ多いのでありますから、是等に向つては適當な處置を執るやうに、十分考慮致して見たいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=18
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019・酒井俊雄
○酒井委員 恐らく此の問題程土地關係或は建物關係を妨害致しまして、其の權利者を困らすものはない、其の弊害の及ぶ點は、恐らく全國の都市にあると思ふのでありますが、單に今の御當局の御答へでは、やはり其の權利義務を普通の裁判手續に依つて主張をし、裁判上片付けることに任せると云ふやうな御答辯でありまするが、どうしてもそれでは此の整理は不可能だと思ひまするし、此の問題を片付けなければ、此の折角の立派な法律も、實施に當つて其の實質的效果を阻碍されることが大きいと思ふのであります、そこで私共考へまするに、さう云ふ者には何等か一つ、此の際處罰規定を設けると云ふやうなことをして戴きたいと思ふのであります、是は單に個人の土地の所有權を侵害したとか、或は其の他の個人的利益を侵害したと云ふのに止まらないのでありまして、斯う云ふ者は結局戰後の復興或は戰災者の保護と云ふものに對して、其の公の利益を侵害するものでありまして、法律が許さないことまでも知つて居つて、尚ほ單なる實行力を以て斯う云ふ不法なことをすると云ふことは、私は放置すべき問題ではないと思ふ、單に民事上の訴訟手續に任すべき問題ではないと思ふ、重ねて御尋ねするやうでありますが、何等か處罰規定を設けて戴く御考へはございませぬかどうか、御尋ね致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=19
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020・古島義英
○古島政府委員 復興を促進する大妨害をなすものは、無權利で左樣な所を占領するものだと云ふことは、洵に御説の通りであります、何等か方法を考へねばならぬのでありまするが、我々と致しまして一應之を考慮致して見れば、若し刑罰法規を設けて其の主人公を處罰致しましても、家族が居住して居る以上は、其の家族に向つては、同じく訴訟手續なり、調停手續で明渡しを請求してでなくんば、家屋の取毀しが出來ない、斯うなると思ひます、さう致しますると、不法に占據して、不法に家屋を拵へた其の居住者全體を處罰すると云ふことにでも致さねば、酒井さんの御希望は十分達する譯には參らぬことと信ずるのであります、併しながら威嚇的に其の主人を處罰致してと云ふことも考へられますが、是は容易く出來ませぬことで、又何等か此の點に向つても、同じく不法占據者に對する制裁の意味に於て、どのやうな方法か講じられるやうに、能く協議熟慮致して見たいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=20
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021・酒井俊雄
○酒井委員 御答へで御趣旨は能く分りました、唯私はさう云ふ處罰規定を設ければ、勿論家族に累を及ぼすと云ふやうな法律は出來ない譯であります、家族を持つて居る者を追出すと云ふのは、具體的には出來ないのでありませうが、威嚇的に一般社會に警告すると云ふ效果はあると思ひます、之に對しては別に御答へを求める譯ではありませぬが、さう云ふ意味で何等かの制裁を設けて欲しいと思つたのでありますが、何等か外に考へてやらうと云ふ御答辯で、私は一應滿足致します、──委員長に伺ひますが、まだ三項自ばかりあるのですが……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=21
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022・本田英作
○本田委員長 それでは次會に讓ることにしまして、本日は是にて散會し、明後月曜正十時に再開致します
午後零時五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00419460803&spkNum=22
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