1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
罹災都市借地借家臨時處理法案(政府提出、貴族院送付)
訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律案(政府提出、貴族院送付)
辯護士及び辯護士試補の資格の特例に關する法律案(政府提出、貴族院送付)
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昭和二十一年八月七日(水曜日)午前十時四十四分開議
出席委員
委員長 本田英作君
理事 石原圓吉君 理事 鈴木仙八君
理事 武藤運十郎君
九鬼紋十郎君 佃良一君
金井芳次君 大矢省三君
酒井俊雄君 中田榮太郎君
出席國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
出席政府委員
大藏政務次官 上塚司君
司法政務次官 古島義英君
司法事務官 奧野健一君
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本日の會議に付した議案
罹災都市借地借家臨時處理法案(政府提出、貴族院送付)
訴訟費用等臨時措置法の一部を改正する法律案(政府提出、貴族院送付)
辯護士及び辯護士試補の資格の特例に關する法律案(政府提出、貴族院送付)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=0
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001・本田英作
○本田委員長 開會致します──武藤君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=1
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002・武藤運十郎
○武藤(運)委員 先達ての私の司法部に對する質問の中に、契約解除の場合に再び借地權が元の借地權者に戻るのであるけれども、其の場合に地主の承諾は要らないのかどうか、又要るに付ては其の條文は何處にあるかと云ふ質問を致しました所が、奧野民事局長の御答辯では、それは物件契約だから要らないと云ふ風な御説でありまして、更に私から、借地權の中には、物件たる地上權と、債權たる賃借權と兩方含ましてあるやうだけれども、賃借權の讓渡契約に付ての解除の場合に付きましても同じでありませうかと云ふ風に伺ひますと、同じであると云ふ御答へがあつたのであります、私も非常に忙がしいので、勉強が足りませぬから能く分らないのでありますけれども、賃借權の讓渡の場合には、やはり債權契約であつて、第四條の承諾があつたものと見倣すと云ふ風な條文を入れて置く所を見ますと、解除の場合にも、やはり同じやうな意味の條文が入らなければならないのではないかと云ふ風に考へるのでありますが、此の點に付きまして一つ御教示を願ひたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=2
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003・奧野健一
○奧野政府委員 讓渡契約を解除致しますと、所謂讓渡行爲がなかりしことに當然復歸致しますので、其の場合には讓渡の效果がなくなつて、移轉せざりしことになる譯ですから、今度は歸つて來る關係は再讓渡ではなくて、當然前の讓渡がなくなつたと云ふことになつて、元に復歸するのでありますから、其の復歸する關係に付て地主の承諾と云ふことは要らないことになる譯であります、讓渡の場合だけに付て地主の承諾が要ると云ふことが民法第六百十二條にあるので、今の場合、更に元へ歸るのは、更に讓渡するのではなくて、前の讓渡契約解除の結果、前の讓渡關係なかりしことになつて當然元に復歸するので、其の間讓渡と云ふ新しい行爲を必要としませぬので、更に再讓渡に對する地主の承諾と云ふ風な手續が要らないと云ふやうに解釋して居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=3
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004・武藤運十郎
○武藤(運)委員 さうすると、物件契約とか債權契約とか云ふ問題とは今度離れまして、只今御説のやうなことになりますやうに伺ふのでありますが、賃借權の讓渡契約が行はれまして、今民事局長の御説の通り、是は讓渡でありますから、當然民法上地主の承諾を必要とするのでありますが、それは第四條に依りまして承諾あつたものと看做されるのであります、さうしますと、之に依りまして地主と舊借地人、即ち讓渡人との關係は全く法律上斷絶を致してしまひまして、地主は何等關係ない第三者になると思ふのであります、さうなりますと、是で關係がないのでありますから、再び讓渡契約の解除に依りまして舊借地人になる場合に於きましては、前から知つて居る人だからそれは差支がないと言つて異議を述べない場合もありませうし、或は又自分の意思に反して讓渡が行はれたと云ふ風な場合がありましても、四條に依つて承諾をしたものと看做されてしまふのであつて、地主としましては其の讓渡に付て快く思つてないかも知れぬ、隨て舊借地人に對して快く思つて居ないかも知れぬのでありまして、必ずしも舊い借地人が又借地人になることを承諾しないのではないかと思ふのであります、其の場合に承諾したものと看倣すと云ふ風な規定を置かなければ、どうもやはり工合が惡いと思ふのであります、それから法律論と致しましては、なかりし状態になつて當然復歸すると申しましても、それは讓渡契約の當事者間に於て契約解除の關係が然る譯で、第三者である一遍縁の切れた地主に對しては、新しく再讓渡と同じ意味に於て、承諾を必要とすると云ふことに法律上はなるのだと私は思ひますが、此の點に付てもう一度御教示願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=4
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005・奧野健一
○奧野政府委員 私はそれから先は意見の相違になると思ひますが、第三條に依りまして半強制的に讓渡を認めて置きながら、一般原則に依り、地主がそれに對して承諾するかしないか、承諾しなければ其の結果として讓渡は効力を生じないと云ふのでは、折角三條に於て強制讓渡を認めた立法の趣旨にも添ひませぬので、其の場合には地主が承諾したものと見做して、完全な讓渡契約が有效に效力を生ぜしめる爲に第四條の規定を置いた譯であります、それが七條に依りまして讓渡行爲が解除になりまして、先程物件契約云々と申しましたのは、讓渡契約それ自體は所謂法律上は準物件契約、詰り讓渡される客體が賃借權と云ふ債權でありましても、其の債權を讓渡すると云ふ其の、讓渡と云ふ法律行爲は準物件契約と云ふことに言はれて居る譯で、それが解除されれば物件的に效力を生じてしまつて、當然復歸する關係になりまして、債權讓渡のやうに、それに基いて原状に囘復すると云ふ債務が出來て、其の債務に基いて更に讓渡すると云ふ再讓渡の形にならないで、當然復歸する、それが準物件行物たる讓渡の解除の效果と云ふ風に考へて居ります、さう云ふ關係からして、初めよりさう云ふ讓渡がなかりしと同じやうな状態になるので、再讓渡の關係に立たない、更に其の復歸に付て地主の承諾と云ふことは必要でありますので、承諾あつたものと見做すと云ふ規定も置く必要はないことになるかと存じます、隨ひまして、地主は前の借地權者が讓渡したことに付て心中面白く思つて居ない場合もあるだらうと云ふのでありますが、是は法律の規定即ち第三條に依つて、其の人の意思に拘らず讓渡を求められることになる關係で、地主として任意に讓渡した場合と違ふのでありますから、其の點に付ては快く思はないと云ふことは言へないのではないかと思ひます、さうして地主に取りましては、讓渡關係がなくなつて、元の借地人が借地人と云ふことになるのであります、前々通りの關係に還る譯で、此の問題に付て異議を挿む理由はないと考へます、更に復歸の關係に付て地主に承諾をする權原を與へるか、或は承諾あつたものと看做すと云ふ規定は必要がないのではないかと考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=5
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006・武藤運十郎
○武藤(運)委員 私は地主に異議を申立てる機會を與へると云ふ意味ではないのであつて、寧ろ異議を述べさせない方が本當なのでありますから、強ひて地主の權利をここで荒立てしめるやうなことを考へて居るのではありませぬ、或は私の質問しましたことと、奧野民事局長の話とは、法律上の見解の相違になるかも知れないのでありますが、將來實際の解除がありました場合に、私が今申上げたやうな、地主から承諾をしないと云ふやうな異議が裁判上出ないとも限らない、斯う考へますので、四條の規定を準用すると云ふ一項を、七條の終りにでも入れて置けば全く問題が起らないのでありますから、さう云ふ風にしたらばと云ふ私の考へであります、殊に先程申しましたやうに、地主は其の讓渡契約に付て快からず思ふ場合も、私は決してないことはないと思ふのであります、承諾したものと看做されて縁が切れる場合に、例へば多額の敷金を預つて居つた場合には、一應返すと云ふやうなこともあるかも知れないのでありまして、戻つた場合に再びそれが取れないと云ふことがあつて、なにかに付けて地主は自分が不利益な立場に立つことを避けようとするから、斯う云ふことに付て又問題を餘計にするやうなことがありはしないかと考へて、質問致した次第でありますけれども、併し當局の方で此の場合には必要がないと言はれれば、強いて此の一項を入れろと云ふ譯ではないのでありまして、是れ以上は見解の相違でありますから、私の質問は是で打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=6
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007・本田英作
○本田委員長 それでは私から一寸御伺ひ致します、物件令の十八條に、罹災土地に殘存する枯樹木、燒機械、燒金屬類で、地方長官の指定するものは建物の燒失した時より一月を經過したる時は國庫に歸屬す、斯うなつて居りまして、但書には「權利者に於て地窖に藏置したる物件其の他特定して留保の意思を明にした物件に付ては此の限に在らず」と云ふことになつて居りまするが、此の地方長官の指定したもので、國庫に歸屬すと云ふやうな取扱をされたものがあるでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=7
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008・古島義英
○古島政府委員 無論國庫に歸屬したものがありますが、此の時には屑金物其の他は之を公共團體に蒐集させまして、公共團體が多くは賣却致して、其の清掃の費用に充てさして居つたのが實例であります、左樣な状況でありますから、一手に集荷致しまして其の儘で居るものもあります、併しながら其の所有權は公共團體が持つて居るのが實際の状況であります、國家が持つて居る場合と云ふものは、探せばないことはありますまいが、現在の状況に於ては餘りありませぬ、それから十八條の規定は、本法に於ては三十四條に於て申上げてあるやうに、やはり此の法律が施行されましても、其の效力は殘つて居りますので、實際問題としてはそれ等の方々に損害を與へると云ふやうなことにはならないと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=8
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009・本田英作
○本田委員長 それでは今上程されて居る本法の第三十三條の「現に存するもの」と云ふのはどう云ふ意味でせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=9
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010・古島義英
○古島政府委員 地方長官が許可致して使用權を讓るもので、其の使用權が取消されもせず、返還もせず、現在使用權を其の儘持つて居る、斯う云ふ意味合ひに取つて戴けば宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=10
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011・本田英作
○本田委員長 それは三十四條でせう、是は三十三條です、三十三條の一行目です発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=11
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012・奧野健一
○奧野政府委員 三十三條は所謂公法上の使用權の場合で、是は現在に於きましては神奈川縣のみにある事例であります、神奈川縣に於きましては、終戰當時に於きましては、其の件數が百二十六件ありましたが、現在殘つて居るものは二十六件ある譯でありまして、此の二十六件の使用權は尚ほ五箇年存續すると云ふ趣旨であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=12
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013・本田英作
○本田委員長 是は其の事業をやらない者でも之に含む譯なんですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=13
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014・奧野健一
○奧野政府委員 現在ありますものは色々な使用の目的に使用されて居りまして、戰災者の住宅であるとか、或は工場或は寄宿舍、待避壕、倉庫等の敷地とか、或は現在殘つて居りますものは製材工場、鐵工所、工場寄宿舍等の建物の敷地、其の上に對する使用權、今申しましたやうな工場寄宿舍、鐵工所、製材工場、戰災者の住宅と云ふ風な目的に其の土地を此の使用權に基いて使用して居る譯でありまして、何れも戰災者の生活安定、及び都市復興用の資材の生産上必要な役割を致して居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=14
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015・本田英作
○本田委員長 さうしますと、此の五箇年間と云ふ點ですが、若し其の事實が軍需會社見たやうな事業をやつて居つて、事實上は此の戰爭が終了した爲に事業をやつて居ない、さう云ふものが五年間も使用權を行使するが爲に、第二條の、其の以前の建物の借主なんかが、其の權利を行使する上に於て侵害されるやうなことはないでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=15
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016・奧野健一
○奧野政府委員 此の五箇年間の期間中と雖も、此の企業者が其の土地の使用を、今言ひましたやうに軍需的な關係で使用して居つたものは、終戰と同時に其の使用を止めることになるかと思ふのでありますが、さう云ふ風に使用を止めた時とか、或は其の他企業者に義務違背等があつた場合には、地方長官に於て此の使用權を取消し得ることになつて居ります、又此處にありますやうに、第三十三條の第二項に依つて、其の土地が換地處分になつたやうな場合も、其の使用權を取消し得ることになつて居りますので、さう云ふ風に使用を止めたやうな状態で居る場合に於きましては、五年内と雖も地方長官に於て使用權を取消して、前の借地權者等が自由に之を使用し得ると云ふやうな状態になり得ることになつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=16
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017・武藤運十郎
○武藤(運)委員 一つ條文の解釋に付て御伺ひしたいと思ひます、第二條の第四行目「權原により現に建物所有の目的で使用する者があるとき、又は他の法令により、その土地に建物を築造するについて許可を」云々と云ふのがあります、最後に來て「第三者に對抗することのできない借地權」と云ふのがあります、此の「權原により現に建物所有の目的で使用する」と云ふこと、それから「他の法令により」と云ふこと、それから「第三者に對抗することのできない借地權」と云ふことを、一つ具體的に例を擧げて御教へを願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=17
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018・奧野健一
○奧野政府委員 御尋ねの「權原により現に建物所有の目的で使用する者」と云ふのは、一番代表的な例は、所謂今度廢止致さうとする罹災土地物件令の第四條第一項或は第四條第四項等に依りまして、既に罹災建物の居住者が「バラック」を持つて居る場合、或は居住者が「バラック」を持たない場合に於ては、物件令四條の第四項に依つて所有者であるとか、或は所有者から使用を許された第三者が現に建物の所有の目的で使用して居ると云ふ風な場合を意味するのでありまして、其の場合は前の建物の借主と雖も借地權の設定を求めることが出來ないことになつて參る譯であります、それから「他の法令により」と云ひますのは、都市計畫法第十一條とか、二十一條の二とか、或は市街地建築物法の第八條とか、九條とか、或は特別都市計畫法三條等に依つて、其の土地に建物を築造するに付ては許可が必要であると云ふ場合は、其の許可がなければ賃借の設定の申出が出來ないと云ふ意味であります、それから第二條の末項の「第三者に對抗することのでもない借地權」云々と云ひますのは、既に罹災建物の跡地に借地權がありまして、其の借地權が對抗要件を備へて居る場合、即ち賃借權の登記がしてある場合、或は登記がなくても對抗し得る場合を第十條に規定して居りまして、前から借地權を持つて居つた場合、此の場合には借地權の登記或は建物の登記がなくても對抗し得ると云ふ十條、併し是と同樣な規定が廢止さるべき物件令第六條にもある譯でありますが、是等は登記がなくても對抗力がある譯であります、即ち對抗力を備へて居る借地權があれば、結局其の借地權は第三條に依つて其の借地權を讓り受ける途を開いて居るのでありまして、借地權がなければ第二條で借地權の設定を求める行き方を認め、借地權があれば其の借地權を讓り受けをすると云ふ方法に依つて、何れか一方の方法で借地權の取得を認めて居る譯であります、そこで借地權があるのかないのかに依つて、なければ二條、借地權があれば三條と云ふ道に行くのでありますが、此の場合に借地權はあるが、對抗力を備へて居ないやうな場合、一體それをないものとして否認して、二條で借地權の設定を求めるのか、或はそれとも三條で其の借地權を認めて、其の借地權の讓り受けを求めるのか、はつきりしないことになりますので、さう云ふ對抗要件を備へてない借地權は、二條、三條の適用に關する限りに於ては借地權はないものとして、二條に依つて直接借地權の設定を求めると云ふ道に行く、さうではなく、對抗要件の備つて居る借地權のある場合に於ては、二條の働きがなくて、三條で其の借地權の讓り受けを求めると云ふ方法で行く、要するに二條の働きに行くか、三條の働きに行くかと云ふことの明確なる指針を示す上に於て、さう云ふ對抗要件の備つて居ない借地權があつても、借地權でないものとして、三條で行かないで、二條で行くんだと云ふことを意味して居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=18
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019・武藤運十郎
○武藤(運)委員 大體分りましたが、さうすると一番初めの「權原により現に建物所有の目的で」と云ふのは、舊令物權令四條の一項と申しますと云ふと、二十九條に當るのだと思ひますが、二十九條は、此の場合には尚ほ賃借權が一箇年間續く、斯う云ふ風に書いてありますが、一箇年間續いて物權令に依る賃借權があるから、結局賃借權設定の申込をすることが出來ないと云ふことになるのでありませうか、一年後は、さうしますとどう云ふ風になるのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=19
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020・奧野健一
○奧野政府委員 一箇年は當然そこに繼續して使用し得るのでありますが、其の後尚ほ引續いて其の土地を「バラック」等の使用の爲に繼續して使ひたいと思ふ場合に於ては、三十二條に依りまして、即ち二條以下を準用して居りまするので、借地權の設定を求めたり、或は既に存する借地權の讓渡を三條に依つて讓り受けると云ふ關係に立つ譯でありまして、さう云ふ風な敷地に付て、借地權までを取得する必要がないと思ふ者は、一箇年だけは尚ほ物權令の引續きで使用出來ると云ふことになる譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=20
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021・武藤運十郎
○武藤(運)委員 さうしますと、結局燒跡に「バラック」を建てて居つて、物權令四條の一項ですか、之に依りまして建てて居つた者が、飽までも優先をする、さう云ふことになるのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=21
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022・奧野健一
○奧野政府委員 さうでありまして、本法は寧ろ二十九條、三十二條が主眼でありまして、現に前に建物に居住して居つた者が、其の燒跡に「バラック」を持つて居ると云ふものを第一位に保護する目的でありまして、若し本法がないと、九月三十日以後は不法占有者と云ふことになつて、明渡しを命ぜられる運命にありますので、是等の者の居住權を保護する爲に先づ一年間保護し、更に土地に付て借地權を得せしむる途を三十二條に開きまして、之に依つて是等の罹災者を第一位に保護しようと云ふのが、本法の最大の狙ひであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=22
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023・武藤運十郎
○武藤(運)委員 今度は第六條に付て、第六條の二行目に「權原に依り現に耕作の目的で使用する者」と云ふのがありますけれども、是は所謂菜園か何かで、承諾を得て野菜を作つて居ると云ふやうなものを指すのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=23
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024・奧野健一
○奧野政府委員 左樣であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=24
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025・武藤運十郎
○武藤(運)委員 第八條へ參りまして、最後から二行目の「共益費用不動産保存不動産工事の先取特權」と云ふのがございますが、一つ具體的に例を擧げて戴きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=25
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026・奧野健一
○奧野政府委員 是は民法の規定に依る先取待權を意味したものでありまして、是は民法の物權編に於て規定されて居る、即ち共益費用と云ふのは其のものの價値を増加せしむる爲に費した費用、是等の費用の債權を非常に優先的に保護する、或は不動産保存の費用、今不動産が滅失毀損される虞のある場合に、それを保存する爲に費した工業の費用と云ふのでありまして、不動産工事の費用、工事の先取特權と云ふのは、建築等に依つて工事代金等の先取特權、是等のものは何れも民法に於て、それ等の債權を他の債權に優先して保護を與へて居るのであります、是等のものの先取特權には及ばない、それ等のものに次いで優先的に此の八條の先取特權を保護して行かうと云ふ、其の順序を茲に決めたのでありまして、是は大體此の前の借地借家臨時處理法にも同樣な規定がありまして、或は現在の借地法にも同樣な規定が十三條等にもある譯で、大體さう云ふ先例に倣つた譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=26
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027・武藤運十郎
○武藤(運)委員 御解釋は分りました、共益費用、不動産保存、不動産工事は分りますが、具體的に一つ地均しをしたとか何とか云ふ例を御擧げ願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=27
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028・奧野健一
○奧野政府委員 具體的にと申しますと、不動産保存と云ふのは、所謂滅失の虞ある場合の修繕したもの、修繕費のやうなものを意味するのでありまして、不動産工事と云ふのは、所謂建築とか其の他の請負代金であるとか、さう云つた賃金──賃金は別の關係になりますが、不動産工事の請負代金とか云つたやうなものがそれに該當する譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=28
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029・武藤運十郎
○武藤(運)委員 共益の方を一つ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=29
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030・奧野健一
○奧野政府委員 共益費用と申しますのは、結局其の利用價値を増す爲に色色な設備をして、其の設備に要した費用に依つて其の物の價格が全體的に上つた爲に、要するに皆が利益を被ると云つたやうな意味の費用を掛けられた場合に、其の費用の請求が共益費用の財源と云ふことになるのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=30
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031・武藤運十郎
○武藤(運)委員 それでは九條へ參りまして、一行目の終ひの方の「その當時の借地權以外の權利に基いて」と云ふ、借地權以外の權利の具體的の例を御擧げを願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=31
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032・奧野健一
○奧野政府委員 使用貸借に基いて、例へば親類關係があるから、地代は取らないが、其の土地を使つて居つて宜しいと云ふので、さう云ふ使用貸借に基いて家屋を持つて居つたと云ふやうな場合を豫想して居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=32
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033・本田英作
○本田委員長 九鬼紋十郎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=33
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034・九鬼紋十郎
○九鬼委員 それでは第二條に付きまして、二行目の「その換地に借地權の存しない場合」、斯う云つた條文になつて居りまするが、其の換地に借地權の存在したことが、罹災以後に於ても存在したと云つた時には、やはり此の條文から行くと借地權が存して居ると云ふことになりますが、さう云つた點は、やはり罹災後に存した借地權に付ても此の條文は有效になる譯でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=34
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035・奧野健一
○奧野政府委員 左樣であります、罹災前、或は罹災後何れを問はず、其の敷地或は其の換地に借地權が存しないと云ふ意味であります、尤も是は先程も申しましたやうに、末項の規定に依つて、第三者に對抗することのない出來ない、所謂登記と云ふやうなもののない借地權の場合は是は借地權のないものとして第二條の適用を受け、其の罹災後の借地權と雖も、既に對抗要件即ち登記等の要件が備はつて居る場合に於ては、借地權の存する場合として第三條で其の讓受を求めることが出來ると云ふ風になる譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=35
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036・九鬼紋十郎
○九鬼委員 尚ほ三行目に「他の者に優先して」と云ふ字句があるのでありますが、此の他の者に優先してと云ふことは、例へば登記されて居るものに付ても優先してと云ふ意味でありますか、其の優先の意味をもう一つ伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=36
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037・奧野健一
○奧野政府委員 優先と申しますのは、大體借地權に類似した所謂地上權であるとか、或は他の借地權を規定して、自分の方の優先した借地權の設定を求めることが出來ると云ふ意味でありまして、即ち優先される他の借地權は、若し第二條に依つて申出をする前に借地權がありまして、其の借地權が對抗要件が備はつて居ると云ふ風な場合でありますれば、當然第三條で其の讓受を求めると云ふやうなことになる譯でありますから、此の二條の關係に於きましては、申出前に於ける對抗し得る借地權のあつた場合に於ては、優先の問題は起らない、即ち三條の讓受を求めると云ふ方に行く譯で、二條の關係はないと云ふことになる譯であります、隨てここに他の者に優先してと云ふ意味は、申出當時に於ては借地權は何等對抗力がなかつたが、其の後借地權を外の人に設定をする、設定をするだけではまだ對抗力を生じないから、何等所謂競合の形にはなりませぬので、結局後から借地權を設定して、逸早くそれまでに登記をしてしまつたと云ふやうな場合に於ても、此の二條に依つて申出をなした者の方が優先すると云ふ趣旨であります、言ひ換へれば、二條に依つて賃借の申出をする當時に於ては借地權がなかつたか、或はあつても登記の對抗要件を備へてなかつたやうな場合に、此の借地權申出後、此の二條に依るものの申出に依る借地權の登記をやらない前に、他人の借地權に登記等をして對抗力を生ぜしめても、二條による申出人の方の借地權が優先すると云ふ趣旨であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=37
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038・九鬼紋十郎
○九鬼委員 第十條に於きまして、二行目の「又はその換地に借地權を有する者」斯う云つた條文になつて居るのでありまするが、之に依りますると、其の當時に於て借地權を有する者に重きを置いて、借地權と云ふものには關係がなくなつて來て居る、それに付て借地權を重要視する意味に於て、其の換地に存する借地權として「有する者」と云ふやうなことを變へると云つたやうな御意向はないでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=38
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039・奧野健一
○奧野政府委員 御尤もな御質問でありまするが、是は成るべく罹災者を保護しようと云ふ譯で、罹災當時から借地權を持つて居つて、建物を持つて居つたが、其の建物が罹災したが爲に、建物の登記等に依つて、借地權の對抗要件を備へやうとしても備へられない者を保護しよう、任意に讓受けたやうな者まで保護すると云ふよりも、引續き借地權を持つて居つた者を保護しようと云ふ風な建前から、「借地權を有する者」と云ふ風に致しましたので、單に借地權をとするよりも、罹災者の保護と云ふ方に重きを置いた譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=39
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040・九鬼紋十郎
○九鬼委員 第十六條に於きまして、「裁判所は、當事者間の衡平を維持するため必要があると認めるときは、割當を受けない者又は著しく不利益な割當を受けた者のために、著しく利益な割當を受けた者に對し、相當な出捐を命ずることが出來る」。斯う云つた「著しく」と云ふ字句があるのでありますが、甚だ限界が不明瞭であり、又多少でも不利益を受けた者に對しても、其の平衡を保つ上に於て「著しく」と云つたやうな字句をなくするか、或は修正されると云つたやうな御考へはないでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=40
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041・奧野健一
○奧野政府委員 其の點も御尤もでありまして、裁判所が割當をするのに、初めから著しく不利益な割當をするやうなことは、一體をかしいではないかと云ふ疑問が出るかと思ひますが、是は御承知のやうに、特別都市計畫法等に依つて、過小敷地のやうなものは認めないと云ふ風なことになつて參ります關係上、公平に割當が出來なくて、過小敷地の方は廢めるとか、或は協定に依つて過小でないやうな割當をすると云ふことになりますと、そこに著しく不利益の場合も、必ずしも全然之を避け得ない場合がありますので、斯う云ふ字句を使つた譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=41
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042・九鬼紋十郎
○九鬼委員 第二十八條の「借地借家臨時處理法及び戰時罹災土地物件令はこれを廢止する。」斯う云ふ條文があるのでありますが、其の後二十九條に於ても、「舊令第四條第一項」と云ふ規定がある、其の後ずつと、十四頁の三行目にも「舊令」と云つた字句があるのでありますが、是は恐らく戰時罹災土地物件令を以て舊令と斯う云ふ呼び方をして居るのであらうと考へるのであります、さうしますと「戰時罹災土地物件令」と云つた下に、何か以下舊令と稱すと云つたやうな注意を入れて置いた方が宜いのではないかと思ひますが、如何ですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=42
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043・奧野健一
○奧野政府委員 是は當然土地物件令を意味するのでありまして、最近に於ては、大體舊令と言へば、其の前の廢止すべき令を意味するのであることは分ると云ふ意味からして、現在の立法の慣例として特に括孤して註釋を加へると云ふ取扱ひをしないことになつて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=43
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044・九鬼紋十郎
○九鬼委員 是で私の質問は終りました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=44
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045・本田英作
○本田委員長 鈴木仙八君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=45
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046・鈴木仙八
○鈴木(仙)委員 大藏御當局に二、三點御伺ひ致したいと思ひます、巷間戰災保險金支拂特殊預金に付ては、政府に於て一定保證額を支拂ふと云ふやうなことに傳へられて居りますが、其の場合、同一人に於て數口の保險契約をなす者ある場合、口數個々別々に右の保證額を支出をするのであるかどうか、それが御伺ひ致したいと思ひます、それから若し同一人數口の保險金を便宜上一通帳に記入しあるものの取扱ひは、個々別々の保險口數に遡及して、保證額を支拂つて下さるのかどうか、此の點を伺つて置きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=46
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047・上塚司
○上塚政府委員 戰災保險の處理方法に付きましては、新聞等に於て色々と論議されて居りますけれども、實はまだ關係筋との間に交渉が殘つて居ります、はつきりと今日申上げる時機に達して居りませぬ、あの新聞に出たのは何處から出たのか、我々も實は不思議に考へて居る位であります、まだ發表の時機に其の點は達して居りませぬ、もう極めて近い機會に於て議會に提案し、同時に一般に詳細を公表することになつて居ります、それまではまだ、交渉の關係で私の口から詳しくさう云ふ點に付て申上げる權限を持つて居りませぬ、其の點惡しからず御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=47
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048・鈴木仙八
○鈴木(仙)委員 若し同一人が數口の保險金を掛けて居りまして、是が一口に於て處理をされるやうな場合は、軍需的産業でない場合、平和的事業に於て相當額借入れをした者等は、唯其の借り金が殘つてしまつてどうも處置が付かないやうな場合が澤山あるのぢやないかと思ひますが、此の點に十分御考慮が拂はれたいと思ひます
それから次に戰時火災保險制度施行前の火災保險加入者が、戰災に依り、保險會社に對して契約金支出の請求をなしたる所、會社に於ては戰時保險加入を理由に、保險金の支出に應ぜざるのみならず、何等之に對する善後の處置を講ぜざる會社は勿論、戰時保險制度施行當時に於ける普通保險加入者保護を怠りたる大藏當局の責任をどうなさるか、此の點を御伺ひしたいと思ひます、又斯樣な場合に於て、全國の普通保險加入者の拂込みたる掛金は假令少額たりとも、元利共進んで返還するが至當であらうと思ひます、竝に一定額打切られたるものありとしたならば、其の殘額の保險金に對して、同樣な措置を講ぜられることが至當と思ひますが、之に對して大藏省はどう御考へになつて居るか、御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=48
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049・上塚司
○上塚政府委員 其の處理の根本の原則をなすものは、戰爭に依つて生じたる、政府に對する凡ゆる請求權を百「パーセント」課税すると云ふ形に於て打切ると云ふ精神でやることになつて居ります、戰爭保險に付ては、是はやはり戰爭に關系するものであると思ひますが、或る一定の限度以上のものを拂戻すことに付ては制限を受けて居ります、今御例證になりました個々の場合は、其の原則の下に、技術的に保險會社と被保險者との間に話合ひを付けて戴かなければならぬことで、私も個個の細かい場合に付ては、茲に御答へをする知識を持ちませぬ、左樣御諒承願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=49
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050・鈴木仙八
○鈴木(仙)委員 戰爭は儲かるものでないと云ふ觀念の下に、さうしたものを百「パーセン」と打切ると云ふ、其の大きな精神は分つて居るのですが、其の儲からない戰爭に依つて、政府の爲に保險會社が一般保險加入者から受取つた金も、戰災保險の支拂が出來ないと云ふ理由の下に、掛金まで沒收されてしまうのかどうか、さうなると保險會社は儲かる、其の點を私は御質問したいと思つて申上げたのです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=50
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051・上塚司
○上塚政府委員 其の點は銀行の預金者の場合も同じです、今囘の處置は、軍需補償を打切ると云ふ大きな一つの鉈を揮ふ譯で、其の結果どうなるかと申しますと、軍需會社は全面的に非常な打撃を受けて破綻を來す、さう致しますと、今度はそれに金を貸して居つた金融機關、それから保險會社等も同じでありますが、金融機關、銀行、保險會社、それ等のものが非常な打撃を受ける、其の結果は其處に預けて居つた人、或は其處に保險を掛けて居つた人々、無盡であれば無盡を掛けて居つた人々も、非常な打撃を受けて徹底的に困つて來る、さう云ふ風に相關聯して居るものであります、隨て其の補償打切と云ふことは、預金者の利害に直ぐ關係して來るし、被保險者にも亦當然影響を及ぼして來ることになる譯で、それを此の儘にして置けば、軍需會社は總て戰災に依つてやられ、それから場合に依れば賠償に依つて取去られると云ふやうなことで、殆ど潰れ掛かつて居るにも拘らず、戰災補償があると云ふことで、それを頼りにして今會社を食ひ潰して居ると云ふ状態になつて居る、金融機關でも同じであります、それで此の儘やつて行けば、經濟界は化膿してしまつてどうしても立つて行けなくなるので、之に向つて「メス」を入れるのが今度の補償打切と云ふことになつて來る、隨て政府が手を下すと云ふことになつて來ますが、實質は其の儘にして置けば、例へば銀行の預金でも、保險の掛金でも、其の預金は取れない状態に現在ある、それを取れるものと考へて、所謂擬制資本の上に仕事をして居るのが現状であります、それに「メス」を入れる、其の點に付ては或る程度の犧牲は已むを得ないことになつて來るのではないかと思ふのであります、此のことに付ても、此處に色々數字や例證を擧げて申上げることの出來ないのは遺憾と致しますが、大體是で御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=51
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052・鈴木仙八
○鈴木(仙)委員 若し是が一定額の保險金補償額を打切られる場合──是は一つの場合でありますが、都市、殊に帝都などに於ては、殆ど戰災の爲に燒けてしまひました、全部が全部さうでないが、大體巷間傳ふる所に依りますと、借家人は其の家財道具を比較的安全な方面に疎開せしめて、男主人が殘る、さうして何時かは敵機がやつて來て燒かれてしまふだらうと燒けるのを待つて居て、防火にも努めず、逃げてしまつた、さうして保險金を取ることにのみ汲々として居たと云ふことが傳へられて居りますが、善意な保險加入者、所謂軍需産業でなくとも、平和事業者が相當借入金をして居つた、此の處置はどうなる、其の處置如何に依つては、是は重大なことになるに違ひないのでありますが、是等を十分御考慮下さるやうに御願ひ致します
それからもう一點御伺ひ致したいと思ひますのは、只今の御言葉で、戰災保險に對しての政府の處置は、敗戰國民とてし或る程度已むを得ざるものと云ふ考へを持ちませうが、保險加入者は何れも自己の財産に對する安心感、又は自己の住居に對する安全感から、一定料金を支拂つて萬が一の災害に對する補償を得る目的であります、目下戰爭に依つて罹災をせる數多の人々が、凡ゆる資材難と勞力難に打贏つて、漸く自分の住宅を建設を致しました、此の住宅に對して、安定感を求めようとして加入する保險金の支拂に對して非常に疑義を持つものである、それは諸種の障碍を考へて、若し燒けた場合はどう云ふ風な形に於て保險金が下るのであらうかと云ふ風な疑義を持つて居るのであります、又罹災をしない人と雖も、あの戰災の大火事を目の前に見て、此の問題を考へる時、其の不安と云ふものは大變だらうと思ふのでありますが、所謂保險會社に對する信頼、竝に政府を信頼せざる此の状態に對して、大藏當局はどう云ふ風に御考へになり、御處置をする御積りであるか、其の點を御伺ひして見たいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=52
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053・上塚司
○上塚政府委員 破壞されました金融機關竝に政府に對する國民の信頼、之を取戻すと云ふことは、現下の一番大事なことであらうと思ふのであります、只今御話になりましたやうな保險金の問題ばかりでなく、私共の心配致して居りますのは、此の五百億に亙る新圓が民間にずつと散らばつて居る、それを此の儘に放置しますると非常な「インフレーション」になりますから、さう云ふものを一時も早く日本銀行に囘收をしなくてはならぬのでありまするが、其の最も障碍となるものは、恐らく此の金融機構の破壞、信用の毀損及び政府に對する所の經濟上の信頼感が薄くなつたと云ふやうなことが、最も大きな問題と思ひます、之に對しては政府としても非常に實は苦慮して、如何なる方法を以て其の散らばつた所の新圓の吸收を圖るかと云ふことに付て、極力努力を致して居ります、要するに今度の金融緊急綜合施策が、相當に國民の間に浸透しまして、十分に理解を得て其の協力の下に或る點までの成功を見ましたならば、更に是は國民の強き協力を得まして、折角大きな犧牲──財産税其の他預金の打切り等を行つて、此の當面し處理をました後に、再び「インフレーション」其の他に依つて、國民に對する二重の損害を與へないやうな努力をすることが一番の急務だと思ひます、さうして國民がそれを十分に諒解して協力して戴きましたならば、其の事柄も成就することが出來るかと思ひますが、其の協力が十分でなかつた場合には、非常な困難なことになるのではないか、幸ひにして國民の共鳴と協力を得て、此の當面の處理及び其の後に來るべきものの處理が巧く行きましたならば、金融機關も立ち直る、潰れるものは潰れ、新しく存立をして繼續されるべきものははつきり繼續すると云ふことに決まります、又政府に對する信頼も亦囘復することを得て、經濟界の安定を期するのではないかと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=53
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054・鈴木仙八
○鈴木(仙)委員 政府に於ける財政の大綱、經濟界の問題は大體分つて居りますが、一般國民と致しますと、先ずさうした大きな問題を考へる前に、自分の衣食住の安定と云ふことを考へます、隨ひまして此の保險金の問題を私は御尋ねして居るのでありまして、假に小さな事業を起すにも、先づ住宅を建築をするにも考へられることは、保險の問題、所謂安全感の問題でありますが、色々之に對して、保險加入の際には新圓を以て其の保險金を支拂へば、新圓に依つて萬が一の際保險金は支拂はれる、併し封鎖預金を以て支拂つた場合には、やはり封鎖預金でなければ支拂ひが出來ないと云ふやうなことや、色々なことが傳へられて居りまして、之を私はどうしても大藏御當局の御處斷に依つて、一般國民が安心して小さやかながらも立直る、復興の第一歩を踏み出すと云ふやうな點に御留意あらんことを切に御願ひ致しまして、私の質問を打切りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=54
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055・本田英作
○本田委員長 本案に對する質問は一應之を以て終了致しました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=55
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056・武藤運十郎
○武藤(運)委員 一寸一點だけ……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=56
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057・本田英作
○本田委員長 武藤君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=57
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058・武藤運十郎
○武藤(運)委員 先程聽き落しましたが、辯護士會か何かで條文の修正のやうなことを言つて來て居るやうでありますけれども、疎開の場合の借地權ですが、是は前にどなたか御質問なさつたかも知れませぬけれども、疎開の時には借地權を補償して、借地權を買取つたものもありますし、借地權は補償しない、建物だけ買取つたものもあるやうでありますけれども、借地權を補償したものに付ては、借地權者と云ふものがないのですから第二條で行き、借地權の補償してないものは第三條で行く、さう云ふ風に解釋をして宜しいものでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=58
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059・奧野健一
○奧野政府委員 第九條に依りまして、曾ての借地權者であつた者と雖も、第九條の適用を取けまして、前七條の規定を準用する譯でありまして、其の場合に申出當時に誰も借地權者がないと云ふ場合には、第二條で借地權の設定を受けると云ふことが出來ることになる譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=59
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060・武藤運十郎
○武藤(運)委員 私の御尋ねしたいことは、それは問題ないのでありますけれども、建物を強制疎開を致しました場合には、必ずしも借地權までなくしたと云ふやうなことではないと思ふのでありまして、借地權の殘つて居るのもあるし、借地權の殘つて居ない、借地權も補償をしてなくして、東京都なら東京都が、所謂借地權の補償をして買上げたやうな形になつて居るのもありまして、それを東京都では、解除した場合には持主の方にそつくり其の儘返してやると云ふ形に多分なつて居ると思ふのでありまして、結局借地權を補償して、建物と一緒に借地權を補償したものは、借地權者がなくなつたものになつて居るだらうと思ふのでありますし、借地權の補償しないものは、依然として、罹災地と同じやうに、借地權がありまして、借地權者が居ると思ふのであります、其の場合に居住者が疎開跡を借りる場合には、第二條で行くべきか、第三條で行くべきかと云ふことを伺つて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=60
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061・奧野健一
○奧野政府委員 疎開跡地に對しての借地權が、買收等に依つて既になくなつて居る場合でありますれば第二條で參りますし、まだ買收等をされないで借地權が殘つて居る場合には、借家人が第三條に依つて其の借地權の讓受を求めると云ふことになるのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=61
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062・武藤運十郎
○武藤(運)委員 さうしますと、結局先程の第九條で元の借地權者であつて、而も借地權の補償を一旦受けたものは、借地權の設定を求めることが出來ると云ふことになりますね発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=62
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063・奧野健一
○奧野政府委員 左樣であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=63
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064・九鬼紋十郎
○九鬼委員 もう一つ念の爲に御尋ねしたいのですが、又同じやうな問題でありますけれども、一例を擧げて御質問申上げたいと存じます、罹災當時に其の建物の借主か、其の所有者に對して申出をする、申出をした以後に於て、假に土地の所有者が、故意に他のものに其の所有權を讓渡して、そこに地上權を設定をし、登記をしたと云つた場合には、申出だけを以て優先して此の第三者に對抗することが出來るのでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=64
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065・奧野健一
○奧野政府委員 申出が所謂正當な事由で拒まれた場合は駄目でありますが、さうでない場合に、即ち申出に依つて借地權の設定を受けた場合は、後で所有者が他のものに地上權を設定して登記をしても、それを否認して自分の方の借地權を主張することも出來ると云ふのが、優先と云ふ趣旨に考へて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=65
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066・九鬼紋十郎
○九鬼委員 もう一つ御尋ねしたいのですが、申出の時に、既に借地權が存して居る場合は此の條文は適用されないと云ふのでありますが、罹災後に於て其の借地權を設定されて居り、而も罹災の時に於ては借地權が設定してなかつたが、申出るまでの期間に於て借地權が設定されてしまつたと云ふ時には、此の條文では對抗出來ないのですか、其の間のものを保護する意味に於て、此の借地權が罹災當時になければ、借主に對して有效になるやうな、さう云つた條文に書き改めてはどうかと思ふのであります、さうして又此の優先と云ふ意味では、後に於て其の解釋に不徹底な所もあると思ふので、それに對して賃借權の登記、及び其の土地に或る建物の登記がなくても、之を以て對抗出來ると云ふやうな條文を附けたらどうかと思ふのですが、其の點の御意見は如何ですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=66
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067・奧野健一
○奧野政府委員 第一の御質問で、罹災當時に於ては借地權がなかつたものが、此の二條に依つて申出をする前に借地權の設定されて居る場合でありますが、其の場合に借地權に付て既に登記等の對抗要件が備はつて居ると云ふ場合に於きましては、其の借地權を第三條に依つて讓り受けると云ふ方向に參る譯であります
それから御説のやうに、優先してと云ふことでは色々疑問もあるから、登記なくして對抗し得ると云ふ風にはつきり書く氣はないかと云ふことでありますが、此の點は前の借地借家臨時處理法、即ち關東大震災當時の臨時處理法にも、是は借家の關係でありますが、他のものに優先してと云ふやうな用例がありますので、之に依つて大體分るのではないかと云ふやうに考へまして、はつきり登記なくして對抗出來るとか、さう云つたことを避けた譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=67
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068・九鬼紋十郎
○九鬼委員 能く了解致しましたから、私の質問は是で止めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=68
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069・本田英作
○本田委員長 本案の質問は一應是にて打切りと致します、午後は、併託になつて居ります二法案に付て司法大臣の説明を承ることに致しまして、其の法案に付ての質問は明日から始めることに致します、更に本案に還りまして、本案の取扱に付て皆さんと御協議したいと思ひますから、成べく委員諸君を誘ひ合せて御出席を御願ひ致します、午後は一時に始めることに致しまして、休憩致します
午前十一時五十七分休憩発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=69
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070・会議録情報2
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午後一時三十三分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=70
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071・本田英作
○本田委員長 開會致します、訴訟費用等臨時措置法中改正法律案の提案理由の説明を求めることに致します──木村司法大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=71
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072・木村篤太郎
○木村國務大臣 只今議題となりました訴訟費用等臨時措置法中改正法律案の提案の理由を御説明申上げます、民事刑事の訴訟費用及び執達吏の手數料等は、それぞれ民事訴訟費用法、刑事訴訟費用法及び執達吏手數料規則中に規定され、其の後經濟情勢の變遷に應じて數次の改正の後、最近では昭和十九年訴訟費用等臨時措置法に依り戰時中の暫定特例として増額の措置が執られ、同年四月一日以來實施されて居るのであります、併し其の後二年間の經濟情勢の變遷は眞に甚しく、例を日本銀行調の東京小賣物價指數に取つて見ましても、本年二月現在の物價は昭和十九年同期に比し三倍強の騰貴を示し、曩の暫定措置に依る増加額も全く實情に副はぬものとなりました、其の爲め民事刑事の訴訟關係者は非常に重い犧牲を強ひられるに至り、又執達吏は其の生活上非常な困窮に陷つて居るのであります、更に延いては、其の爲め民刑訴訟及び強制執行制度の圓滑な運行をも阻碍し、戰後經濟の復興にも支障を來す虞があるのであります、仍て政府は此の際暫定的に是等の額を増額して、現在の窮境を打開する爲に此の法律案を提出した次第であります、以下改正の要點を簡單に申上げます
第一は民事刑事の訴訟費用及び執達吏の手數料立替金等を現状に即するやうに増額した點でありまして、今囘の改正の眼目であります、増額の程度は大體物價指數に依り三倍程度に致しましたが、書記料、飜譯料及び執達吏の旅費等、右の標準に依り難いものに付ては、若干の例外を設けてあります、第二條乃至第四條の改正規定が即ちそれであります
第二は執達吏の差押及び競賣手數料の計算方法を改めた點であります、此の手數料は債權額又は競賣金額の多寡に應じて定まるのでありますが、從來債權額又は競賣金額を千圓以下六段階に分け、各段階毎に手數料額を定めてありますけれども、其の段階の分け方が細か過ぎ、且つ千圓を超ゆる場合に段階がない爲め、現在では手數料の算定に適正を缺く憾みがあつたのであります、それで今囘の改正に依り、一萬圓以下を六段階に分けて、各段階毎に手數料額を規定することに致しました、第四條第二項及び第三項の改正規定がそれであります
第三は本法の性格であつた戰時特例としての建前を改め、之を當分の間の臨時措置とした點であります
本法は既に述べましたやうに、戰時に於ける特例として制定されたのでありますが、戰爭終了後の經濟情勢の推移は遽かに即斷を許さず、今囘の措置は尚ほ當分之を繼續する必要がありますので、本法を暫定的立法として、規定を其の趣旨に改めたのであります、即ち民事訴訟費用法等の基本法に手を觸れなかつたのも、今囘の措置が臨時の措置であつて、恆久法の改正は經濟の安定した後に之を期すべきものと考へたからであります、第一條の改正及び附則第三項の削除は此の點を明にしたものであります
以上が本改正案の提案理由であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=72
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073・本田英作
○本田委員長 次に辯護士及び辯護士試補の資格の特例に關する法律案の御説明を御願ひします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=73
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074・木村篤太郎
○木村國務大臣 次に辯護士及び辯護士試補の資格特例に關する法律案の提出の理由に付きましては、本會議に於きまして御説明申上げた通りでございますが、更に敷衍致しまして、其の理由を御説明申上げたいと思ひます
終戰に伴ひ海外からの引揚者は、日々其の數を増加して參つて居ります、是等の同胞は突如として故國に引揚げを餘儀なくされた者で、其の多くは永年其の地で培ひ來つた生業を一朝にして失つてしまひ、引揚げた後に於て尚ほ相當なる職を得て業に就くことは、今日の場合甚だ困難な情勢にあるのでありまして、是等の者に對しましては、救濟援護の必要極めて切なるものがございます、本案は引揚者であつて、從來朝鮮に於ける司法の協力者としての朝鮮辯護士令に依る辯護士たる資格を有する者及び朝鮮辯護士試補たる資格を有する者に對し、辯護士法に依る辯護士又は辯護士試補たるの途を拓かんとするものであります
先づ第一條に於きましては、朝鮮辯護士令に依る辯護士たる資格を有する者は、辯護士法に依る官制上の辯護士審査委員會の銓衡に掛け、之に通つた者には辯護士法の辯護士試補として一年六月以上の實務修習を了へ、考試を經ることなくして、辯護士法の辯護士たり得る資格を附與することを規定して居るのであります
辯護士審査委員會は現在辯護士法第十三條第二項に依り司法大臣の諮問機關として、辯護士會の行つた辯護士の登録、若くは登録換請求の申達の拒絶、又は退會の命に關する不服申立の當否を審査することとなつて居りますが、今囘本法に依つて此の審査委員會の機能を擴充して、獨自の銓衡機關ともするのであります、之に伴ひ官制の改正を必要とすることは申すまでもありませぬ、銓衡することとしたのは朝鮮辯護士令に依る辯護士の有資格者でありましても、例へば永年辯護士業務から遠ざかつて居て、法律知識や實務に疎いやうな者は、直ちに正義の擁護者としてこちらに於ける辯護士業務を營むことを得せしめるのは如何かと思料されるからであります
次に第二條では、第一條の銓衡に漏れた者と雖も、更に辯護士法に依る實務修習の機會を與へ、考試を經ることに依つて、將來辯護士となることを得せしめることとすると同時に、朝鮮辯護士令第五十一條の規定に依る朝鮮辯護士試驗はこちらの、司法料試驗又は辯護士試驗と略略同程度のものと思はれるので、朝鮮辯護士試驗の合格者で朝鮮辯護士試補たる資格を有する者にも同樣に辯護士法による實務修習の機會を與へ、考試を經て將來辯護士たり得るの途を拓かんとする趣旨を規定して居るのであります
更に第三條に付て申上げます、禁錮以上の刑に處せられた者や、懲戒の處分を受けて後一定期間經過しない者は、朝鮮辯護士令に依る辯護士及び辯護士法に依る辯護士たる資格を缺くのであり、又朝鮮辯護士試驗の受驗資格がなく、隨て朝鮮辯護士試補となり得ない譯でありますが、所謂政治犯を犯した者に付ては、昨年十月公布された勅令第五百七十九號、大赦令に依りまして刑の言渡が將來に向つて效力を失ひ、此の恩典に浴し得なかつた者も更に其の後に公布せられた勅令第七百三十號、政治犯人等の資格囘復に關する件に依りまして、將來に向つて人の資格を囘復して居るのでありまして、他方懲戒の處分を受けた者と致しましても、過般大赦令と共に公布されました勅令第五百八十二號、官吏、官吏待遇者等の懲戒及懲罰の免除に關する件、勅令第五百八十五號、公證人、辯護士、司法書士、辨理士及計理士の懲戒免除に關する件等に依つて、將來に向つて懲戒を免除されたのでありますから、是等の恩典に浴した政治犯は、將來に向つて辯護士又は辯護士試補たる資格を囘復して居る譯であります、殊に政治犯と申しましても、政治的、社會的、思想的、宗教的自由、又は言論、著作、印行、集會若しくは結社の自由を制限する法令で、而も終戰後廢止又は停止されるに至つたやうなものにあつては、嘗て之に違反した廉で拘禁又は有罪の言渡等を受けた事實がありましても、斯かる事實があつたと云ふ理由で辯護士審査委員會の銓衡が左右されるべきものではないことは申すまでもないのでありますが、こと人權の保障に關することでありますので、先づ此のことを法文上明かに致したのであります、それと同時に、右申上げました法令の違反者は、恐らく全部前申述べました恩赦等に依つて救濟され、隨て辯護士たる資格を有することに於て何等妨げがなくなつて居ると思料されるのでありますが、何分にも内外地に於ける數多い法令の違反のことでありますので、萬一救濟漏れの場合に、違反者たることを理由として辯護士としての缺格者とすることなからしめると共に、禁錮以上の刑に處せられた等の爲に受驗資格を缺き、隨て朝鮮辯護士試驗の合格を取消され、延いて辯護士試補たる資格を失ふことをなからしめることと致したのであります
終りに第四條でありますが、前三條は辯護士及び辯護士試補の資格に關する特例をなすものでありますので、濫りに之を擴張することは、目下の所、辯護士の品位の保持等の點から考へても、最も考慮を要する問題であることは申上げるまでもない所でありますが、終戰に伴ふ引揚者の救濟援護の爲め、是等引揚者に限り此の特例を認めることを第四條に於て明かにしたのであります
尚ほ引揚げと云ふことに關しては、朝鮮からの引揚者を狙つたのでありますが、例へば朝鮮に於て辯護士開業中應召して、終戰後朝鮮を經由することなくして復員する者もあるかと考へられるので、此の疑義を避ける爲め、引揚地を敢て朝鮮に限定しなかつたのであります、又本州、北海道、四國、九州又は命令を以て定める其の附屬島嶼に限定したのは、それ以外の地域に對しては、曩に聯合國最高司令部から日本政府の統治權行使が禁止されて居り、實際上我が國の司法の協力者として辯護士業務を營むことが出來ない状況にあるからであります、以上本案提出の理由の概要を御説明申上げたのでありますが、何卒愼重御審議の上御決議あらんことを切望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=74
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075・本田英作
○本田委員長 本日は此の程度で散會致しまして、明日は休んで、明後日は十時から只今説明を煩はしました二法案の質問を續け、尚ほ罹災都市借地借家臨時處理法案の決定を致したいと思ひますから、左樣御承知を願ひます
午後一時四十六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013794X00719460807&spkNum=75
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