1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年十二月四日(水曜日)午前十時十二分開議
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議事日程 第五號
昭和二十一年十二月四日
午前十時開議
第一 參議院議員選挙法案(政府提出) 第一讀會
第二 昭和二十一年勅令第三百五十一号貴族院令第一條第三号、第五号及び第六号の議員の任期延長に関する勅令の一部を改正する勅令案(政府提出) 第一讀會ノ續(委員長報告)
第三 議院法の特例に関する法律案(政府提出) 第一讀會ノ續(委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=0
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001・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 諸般の報告は御異議がなければ朗讀を省略致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=1
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002・会議録情報2
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〔參照〕
去月三十日内閣總理大臣ヨリ左ノ通第九十一囘帝國議會政府委員仰付ラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
大藏省所管事務政府委員
大藏事務官 愛知揆一君
同 今井一男君
一昨二日内閣總理大臣ヨリ左ノ通第九十一囘帝國議會政府委員仰付ラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
大藏省所管事務政府委員
大藏事務官 池田勇人君
同 櫛田光男君
同 福田赳夫君
昨三日政府ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
参議院議員選挙法案
同日内閣總理大臣ヨリ左ノ通第九十一囘帝國議會政府委員仰付ラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
政府委員
復員事務官 荒尾興功君
同 山本善雄君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=2
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003・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より本日の會議を開きます、請暇の件に付御諮りを致します子爵高橋是賢君病氣に付會期中請暇の申出がございました、許可を致して御異議ございませんか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=3
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004・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=4
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005・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 去月三十日第五部選出豫算委員吉村友之進君、第一部選出豫算委員水野甚次郎君、第五部選出請願委員竹下豐次君、第九部選出請願委員岩見蘭始君、孰れも都合に依り委員辭任の申出がございました、許可を致して御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=5
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006・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、就きましては、第一部、第五部及び第九部に於て各各其の補闕選擧を行はれむことを望みます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=6
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007・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第一、参議院議員選挙法案、政府提出、第一讀會、大村内務大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=7
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008・会議録情報3
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参議院議員選挙法案
右
勅旨を奉じて帝國議會に提出する。
昭和二十一年十二月三日
内閣總理大臣兼外務大臣 吉田茂
國務大臣 男爵 幣原喜重郎
司法大臣 木村篤太郎
内務大臣 大村清一
文部大臣 田中耕太郎
農林大臣 和田博雄
國務大臣 齋藤隆夫
遞信大臣 一松定吉
商工大臣 星島二郎
厚生大臣 河合良成
國務大臣 植原悦二郎
運輸大臣 平塚常次郎
大藏大臣 石橋湛山
國務大臣 金森徳次郎
國務大臣 膳桂之助
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参議院議員選挙法案
参議院議員選挙法目次
第一章 総則
第二章 選挙権及び被選挙権
第三章 選挙
第四章 投票
第五章 開票
第六章 選挙会及び選挙分會
第一節 地方選出議員の選挙会
第二節 全國選出議員の選挙分会及び選挙会
第一款 選挙分会
第二款 選挙会
第七章 議員候補者及び当選人
第一節 地方選出議員の議員候補者及び当選人
第二節 全国選出議員の議員候補者及び当選人
第八章 議員の任期及び補欠
第九章 訴訟
第十章 選挙運動
第十一章 罰則
第十二章 補則
附則
別表
参議院議員選挙法
第一章 総則
第一條 参議院議員の定数は、二百五十人とし、そのうち、百五十人を地方選出議員、百人を全國選出議員とする。
地方選出議員は、各選挙区において、これを選挙する。その選挙区及び各選挙区において選挙すベき議員の数は、別表でこれを定める。
全國選出議員は、全都道府縣の区域を通じて、これを選挙する。
第二條 投票区及び開票区は、衆議院議員の選挙の投票区及び開票区による。
第二章 選挙会及び被選挙会
第三條 衆議院議員の選挙会を有する者は、参議院議員の選挙会を有する。
第四條 日本國民で年齢三十年以上の者は、参議院議員の被選挙権を有する。
第五條 禁治産者及び準禁治産者並びに懲役又は禁錮の刑に処せられその執行を終り又は執行を受けることがなくなるまでの者は、被選挙権を有しない。
第六條 全國選出議員選挙管理委員、都議会議員、選挙管理委員、道府縣会議員選挙管理委員及び市町村会議員選挙管理委員、全國選出議員選挙管理委員会、都議会議員選挙管理委員会、道府縣会議員選挙管理委員会及び市町村会議員選挙管理委員会の書記、投票管理者、開票管理者、選挙分会長及び選挙長並びに選挙事務に関係のある官吏及び吏員は、その関係区域内においては、被選挙權を有しない。
第七條 在職の裁判官、檢察官、会計檢査官、收税官吏及び警察官吏は、被選挙權を有しない。
第八條 衆議院議員と兼ねることのできない職にある者は、参議院議員とも兼ねることができない。
第三章 選挙
第九條 通常選挙は、議員の任期が終る日の前三十日以内にこれを行う。
前項の規定により通常選挙を行うべき期間が参議院開会中又は参議院閉会の日から三十日以内にかかる場合においては、通常選挙は、参議院閉会の日から三十一日以後三十五日以内にこれを行う。
通常選挙の期日は、少くとも三十日前にこれを公示しなければならない。
第十條 選挙は、投票によりこれを行う。
第十一條 参議院議員の選挙には、衆議院議員選挙人名簿を用いる。
第十二條 地方選出議員の選挙に関する事務は、都議会議員選挙管理委員会及び道府縣会議員選挙管理委員会が、これを管理する。
都議会議員選挙管理委員会及び道府縣会議員選挙管理委員会は、地方選出議員の選挙に関する事務については、市町村会議員選挙管理委員会を指揮監督する。
第十三條 全國選出議員の選挙に関する事務を管理させるため、全國選出議員選挙管理委員会を置く。
全國選出議員選挙管理委員会は、内務大臣の所轄とし、全國選出議員選挙管理委員十人を以てこれを組織する。
第十四條 全國選出議員選挙管理委員は、参議院においてその議員の中からこれを選挙する。
委員の任期は、三年とする。但し、補欠委員の任期は、その前任者の残任期間とする。
第十五條 全國選出議員選挙管理委員会は、全國選出議員の選挙に関する事務については、都議会議員選挙管理委員会及び道府縣会議員選挙管理委員会を指揮監督する。
都議会議員選挙管理委員会及び道府縣会議員選会管理委員会は、全國選出議員の選挙に関する事務については、市町村会議員選挙管理委員会を指揮監督する。
第十六條 全國選出議員選挙管理委員会は、委員の中から委員長一人を選挙しなければならない。
委員長は、委員会に関する事務を総理し、委員会を代表する。
第十七條 全國選出議員選挙管理委員会は、委員の半数以上の出席がなければ会議を開くことができない。
委員会の議事は、委員の過半数でこれを決し、可否同数のときは委員長の決するところによる。
第十八條 全國選出議員選挙管理委員会に書記を置き、委員長の指揮を受け委員会に関する事務に從事させる。
書記は、委員長がこれを任免する。
第十九條 この法律及びこれに基いて発する命令に規定するものの外、全國選出議員選挙管理委員会に関し必要な事項は、委員会がこれを定める。
第四章 投票
第二十條 投票は、地方選出議員及び全國選出議員ごとに一人一票に限る。
第二十一條 投票管理者は、参議院議員の選挙權を有する者の中から市町村会議員選挙管理委員会の選任した者を以て、これに充てる。
地方選出議員の選挙と全國選出議員の選挙を同時に行う場合においては、市町村会議員選挙管理委員は、地方選出議員の投票管理者を同時に全國選出議員の投票管理者とすることができる。
投票管理者は、投票に関する事務を担任する。
第二十二條 市町村会議員選挙管理委員会は、各投票区における選挙人名簿に記載された者の中から、本人の承諾を得て、五人乃至九人の投票立会人を選任しなければならない。
前項の規定による投票立会人が三人に達しなくなつたとき、又は投票立会人で参会する者が投票所を開くべき時刻になつても三人に達しないとき若しくはその後三人に達しなくなつたときは、投票管理者は、その投票区における選挙人名簿に記載された者の中から三人に達するまでの投票立会人を選任し、直ちにこれを本人に通知し、投票に立ち会わしめなければならない。
地方選出議員の選挙と全國選出議員の選挙を同時に行う場合においては、市町村会議員選挙管理委員会又は投票管理者は、地方選出議員の投票立会人を同時に全國選出議員の投票立会人とすることができる。
投票立会人は、正当の理由がなければ、その職を辞することができない。
第二十三條 選挙人は、投票所において、投票用紙に、地方選出議員又は全國選出議員の選挙につき、自ら議員候補者一人の氏名を記載して投票箱に入れなければならない。
投票用紙には、選挙人の氏名を記載することができない。
第二十四條 投票の拒否は、投票立会人がこれを決定する。可否同数のときは、投票管理者がこれを決する。
前項の決定を受けた選挙人において不服があるときは、投票管理者は、仮に投票をさせなければならない。
前項の投票は、選挙人をして、これを封筒に入れて封をし表面に自らその氏名を記載して投票箱に入れさせなければならない。
投票管理者又は投票立会人において異議のある選挙人についてもまた前二項と同樣とする。
第二十五條 島その他交通不便の地について、投票の当日に投票箱を送致することができない情況があると認めるときは、都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会は、適宜にその投票の期日を定め、開票の期日までにその投票箱、投票録及び選挙人名簿を送致させることができる。
第二十六條 天災その他避けることのできない事故に因り投票を行うことができないとき、又は更に投票を行う必要があるときは、投票管理者は、選挙長(全國選出議員の選挙については選挙分会長)を経て都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会にその旨を届け出なければならない。この場合においては、委員会は、更に期日を定めて投票を行わせなければならない。但し、その期日は、少くとも五日前にこれを告示しなければならない。
第二十七條 通常選挙、第六十二條若しくは第六十八條又は第七十一條の選挙を同時に行う場合においては、地方選出議員又は全國選出議員の選挙ごとに、一の選挙を以て合併してこれを行う。
第二十八條 この法律及びこれに基いて發する命令に規定するものの外、投票については、衆議院議員の選挙の投票の例による。
第五章 開票
第二十九條 開票管理者は、参議院議員の選挙權を有する者の中から市町村会議員選挙管理委員会が選任した者を以て、これに充てる。
地方選出議員の選挙と全國選出議員の選挙を同時に行う場合においては、市町村会議員選挙管理委員会は、地方選出議員の開票管理者を同時に全國選出議員の開票管理者とすることができる。
開票管理者は、開票に関する事務を担任する。
第三十條 第二十二條の規定は、開票立会人にこれを準用する。
第三十一條 開票は、投票の当日又はその翌日(一開票区に数投票区があるときは、すべての投票箱の送致を受けた日又はその翌日)にこれを行う。
第三十二條 開票管理者は、開票立会人立会の上、投票箱を開き、先ず第二十四條第二項及び第四項の規定による投票を調査しなければならない。その投票を受理するかどうかは、開票立会人がこれを決定する。可否同数のときは、開票管理者がこれを決する。
開票管理者は、開票立会人とともに、市町村その他都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会の定める区域ごとに、投票を点檢しなければならない。
投票の点檢が終つたときは、開票管理者は、直ちにその結果を選挙長(全國選出議員については選挙分会長)に報告しなければならない。
第三十三條 投票の効力は、開票立会人がこれを決定する。可否同数のときは、開票管理者がこれを決する。
第三十四條 左の投票は、これを無効とする。
一 成規の用紙を用いないもの
二 議員候補者でない者の氏名を記載したもの
三 一投票中に二人以上の議員候補者の氏名を記載したもの
四 被選挙權のない議員候補者の氏名を記載したもの
五 議員候補者の氏名の外、他事を記載したもの 但し、職業、身分、住所又は敬称の類を記入したものは、この限りでない
六 議員候補者の氏名を自書しないもの
七 議員候補者の何人を記載したかを確認し難いもの
八 参議院議員の職にある者の氏名を記載したもの
前項第八号の規定は、第六十二條若しくは第六十八條又は第七十一條の選挙の場合にこれを適用する。
第一項第八号の規定は、通常選挙の場合において、在任期間の長い地方選出議員又は全國選出議員たる参議院議員の職にある者の氏名を記載した投票にも、また、これを適用する。
第三十五條 開票管理者は、開票録を作り、開票に関する次第を記載し、開票立会人とともに、これに署名しなければならない。
第三十六條 投票は、有効無効を区別し、投票録及び開票録と併せて、市町村会議員選挙管理委員会において、議員の任期間これを保存しなければならない。
第三十七條 第二十六條本文の規定は、開票にこれを準用する。
第三十八條 この法律及びこれに基いて発する命令に規定するものの外、開票については、衆議院議員の選挙の開票の例による。
第六章 選挙会及び選挙分会
第一節 地方選出議員の選挙会
第三十九條 選挙長は、参議院議員の選挙權を有する者の中から都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙委員会の選任した者を以て、これに充てる。
選挙長は、選挙会に関する事務を担任する。
第四十條 選挙会は、都道府縣廳又は選挙長の指定した場所でこれを開く。
第四十一條 第二十二條の規定は、選挙立会人にこれを準用する。
第四十二條 選挙長は、すべての開票管理者から第三十二條第三項の報告を受けた日又はその翌日に選挙会を開き、選挙立会人立会の上、その報告を調査しなければならない。
選挙の一部が無効となり更に選挙を行つた場合において、第三十二條第三項の報告を受けたときは、選挙長は、前項の例により、他の部分の報告とともに、更にこれを調査しなければならない。
第四十三條 選挙長は、選挙録を作り、選挙会に関する次第を記載し、選挙立会人とともに、これに署名しなければならない。
選挙録は、第三十二條第三項の報告に関する書類と併せて、都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会において、議員の任期間これを保存しなければならない。
第四十四條 第二十六條本文の規定は、選挙会にこれを準用する。
第四十五條 この法律及びこれに基いて発する命令に規定するものの外、選挙会については、衆議院議員の選挙の選挙会の例による。
第二節 全國選出議員の選挙分会及び選挙会
第一款 選挙分会
第四十六條 選挙分会は、都道府縣廳又は選挙分会長の指定した場所でこれを開く。
第四十七條 第四十八條において準用する第四十二條の規定による調査が終つたときは、選挙分会長は、選挙録の写を添えて、直ちにその結果を選挙長に報告しなければならない。
第四十八條 前二條に規定するものの外、選挙分会については、前節の規定を準用する。
第二款 選挙会
第四十九條 選挙長は、参議院議員の選挙権を有する者の中から全國選出議員選挙管理委員会の選任した者を以て、これに充てる。
選挙長は、選挙会に関する事務を担任する。
第五十條 選挙会は、選挙長の指定した場所でこれを開く。
第五十一條 選挙長は、すべての選挙分会長から第四十七條の報告を受けた日又はその翌日に選挙会を開き、選挙立会人立会の上、その報告を調査しなければならない。
選挙の一部が無効となり更に選挙を行つた場合において、第四十七條の報告を受けたときは、選挙長は、前項の例により、他の部分の報告とともに、更にこれを調査しなければならない。
第五十二條 選挙長は、選挙録を作り、選挙会に関する次第を記載し、選挙立会人とともに、これに署名しなければならない。
選挙録は、第四十七條の報告に関する書類と併せて、全国選出議員選挙管理委員会においても議員の任期間これを保存しなければならない。
第五十三條 第四十一條、第四十四條及び第四十五條の規定は、選挙会についてこれを準用する。
第七章 議員候補者及び当選人
第一節 地方選出議員の議員候補者及び当選人
第五十四條 議員候補者となろうとする者は、選挙の期日の公示又は告示のあつた日から選挙の期日前二十日までに、その旨を選挙長に届け出なければならない。
選挙人名簿に記載された者が他人を議員候補者としようとするときは、本人の承諾を得て、前項の期間内に、その推薦の届出をすることができる。
前二項の期間内に届出のあつた議員候補者がその選挙における議員の定数を超える場合において、その期間を経過した後、議員候補者が死亡し又は議員候補者たることを辞したときは、前二項の例により、選挙の期日前十日まで、議員候補者の届出をなし又はその推薦届出をすることができる。
一の選挙区において議員候補者となつた者は、他の選挙区においては、議員候補者の届出をなし、又はその推薦届出を承諾することができない。
全國選出議員の議員候補者となつた者は、地方選出議員の議員候補者の届出をなし、又はその推薦届出を承諾することができない。
議員候補者は、選挙長に届出をしなければ、議員候補者たることを辞することができない。
第一項乃至第三項及び前項の届出があつたとき、又は議員候補者の死亡したことをしつたときは、選挙長は、直ちにその旨を告示しなければならない。
第五十五條 議員候補者の届出又は推薦届出をしようとする者は、議員候補者一人につき、五千圓又はこれに相当する額面の國債証書を供託しなければならない。
議員候補者の得票数が通常選挙における当該選挙区内の議員の定数を以て有力投票の総数を除して得た数の十分の一に達しないときは、前項の供託物は、國庫に帰属する。
前項の規定は、議員候補者が選挙の期日前十日以内に議員候補者たることを辞した場合にこれを準用する。但し、被選挙權を有しなくなつたため議員候補者たることを辞したときは、この限りでない。
第五十六條 有効投票の最多数を得た者を以て当選人とする。但し、通常選挙における当該選挙区内の議員の定数を以て有効投票の総数を得た数の四分の一以上の得票がなければならない。
在任期間を異にする議員の選挙を合併して行つた場合においては、前項但書の得票者の中で得票の最も多い者から、順次に在任期間の長い議員の当選人を定めなければならない。
当選人を定めるに当り得票数が同じであるときは、選挙会において、選挙長がくじでこれを定める。
第七十三條の規定による訴訟の結果、更に選挙を行わないで当選人を定めることができる場合においては、選挙会を開き、これを定めなければならない。
当選人が当選を辞したとき、死亡者であるとき、又は第五十七條の規定により当選を失つたときは、直ちに選挙会を開き、第一項但書の得票者で当選人とならなかつた者の中から当選人を定めなければならない。
第六十二條第一項第五号及び第六号の事由が第六十一條の期限前に生じた場合において第一項但書の得票者があるとき、又はその期限経過後に生じた場合において第三項の規定の適用を受けた得票者があるときは、選挙会を開き、その者の中から当選人を定めなければならない。
第二項の規定は、在任期間を異にする議員の選挙を合併して行つた場合の当選人について前三項の事由が同時に又は引き続いて生じた場合にこれを準用する。
第四項乃至第六項の場合において、第一項但書の得票者で当選人とならなかつた者が選挙の期日後において被選挙權を有しなくなつたときは、これは当選人と定めることができない。
第五十七條 当選人は、選挙の期日後において被選挙權を有しなくなつたときは、当選を失う。
第五十八條 第五十四條第一項乃至第三項の規定による届出があつた議員候補者がその選挙における議員の定数を超えないときは、その選挙区においては、投票は、これを行わない。
前項の規定により投票を行わないこととなつたときは、選挙長は直ちにその旨を投票管理者に通知し、併せてこれを告示し、且つ、都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会に報告しなければならない。
投票管理者が前項の通知を受けたときは、直ちにその旨を告示しなければならない。
第一項の場合においては、選挙長は、選挙の期日から五日以内に選挙会を開き、議員候補者を以て当選人と定めなければならない。
在任期間を異にする議員の選挙を合併して行つた場合において、第一項の規定の適用があるときは、くじにより、いずれの議員候補者を以て在任期間の長い議員の選挙の当選人とするかを定めなければならない。
前二項の場合において、議員候補者の被選挙權の有無は、選挙立会人がこれを決定する。可否同数のときは、選挙長がこれを決する。
第五十九條 当選人が定まつたときは、選挙長は、直ちに当選人に当選の旨を告知し、同時に当選人の氏名を告示し、且つ、当選人の氏名及び得票數、その選挙における有効投票の総數その他選挙の次第を都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員會に報
告しなければならない。
当選人がないとき、又は当選人がその選挙における議員の定数に達しないときは、選挙長は、直ちにその旨を告示し、且つ、これを都議會議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員會に報告しなければならない。
第六十條 当選人は、当選の告知を受けたときは、その当選を承諾するかどうかを都議會議員選挙管理委員會又は道府縣会議員選挙管理委員会に届け出なければならない。
第六十一條 当選人が当選の告知を受けた日から十日以内に当選承諾の届出をしないときは、その当選を辞したものとみなす。
第六十二條 在任期間を同じくする議員の選挙について左に掲げる事由の一が生じた場合においては、更に選挙を行わないで当選人を定めることができるときを除く外、都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員會は、選挙の期日を定め、少くとも三十日前にこれを告示し、更に選挙を行わしめなければならない。但し、同一人に関し左に掲げるその他の事由により又は第七十一條の規定により選挙の期日を告示したときは、この限りでない。
一 当選人がないとき、又は当選人がその選挙における議員の定数に達しないとき
二 当選人が当選を辞したとき、又は死亡者であるとき
三 当選人が第五十七條の規定により当選を失つたとき
四 第七十三條の規定による訴訟の結果、当選人がなくなり又は当選人がその選挙における議員の定数に達しなくなつたとき
五 選挙運動を総括主宰した者が選挙に関する犯罪に因り刑に處せられ当選人の当選が無効となつたとき
六 当選人が選挙に関する犯罪に因り刑に處せられ当選が無効となつたとき
第七十三條の規定による訴訟の出訴期間は、前項の規定による選挙を行うことができない。その出訴があつた場合において訴訟が裁判所にかかつている間もまた同樣とする。
第一項の選挙の期日は、第七十三條の規定による訴訟の出訴期間滿了の日、その出訴があつた場合においては都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会が第七十五條の規定による通知を受けた日から三十五日を超えることができない。
第一項各号の一に該当する事由が議員の任期が終る前六箇月以内に生じたときは、同項の選挙は、これを行わない。
第六十三條 当選人が、当選を承諾したときは、都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会は、直ちにこれに当選証書を付與し、その氏名を告示し、且つ、都道府縣の長を経てこれを内務大臣に報告しなければならない。
第六十四條 第九章の規定により訴訟の結果選挙若しくは当選が無効となつたとき、又は当選人が選挙に関する犯罪に因り刑に処せられ当選が無効となつたときは、都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会は、直ちにその旨を告示しなければならない。
第二節 全國選出議員の議員候補者及び当選人
第六十五條 地方選出議員の議員候補者となつた者は、全國選出議員の議員候補者の届出をなし、又はその推薦屆出を承諾することができない。
第六十六條 議員候補者の得票数が通常選挙における議員の定数を以て有効投票の總数を除して得た数の十分の一に達しないときは、第六十九條において準用する第五十五條の規定による供託物は、國庫に帰属する。
第六十七條 有効投票の最多数を得た者を以て当選人とする。但し、通常選挙における議員の定数を以て有効投票の総数を除して得た数の八分の一以上の得票がなければならない。
第六十八條 在任期間を同じくする議員の選挙について、第六十二條第一項各号に相当する事由の一が生じた場合において、更に選挙を行わないで当選人を定めることができず、又は更に選挙を行わないで当選人を定めてもなお、当選人の不足数が、第七十一條第一項に
いう議員の欠員の数を通じて通常選挙における議員の定数の四分の一を超えるに至つたときは、全國選出議員選挙管理委員会は、選挙の期日を定め、少くとも三十日前にこれを告示し、更に選挙を行わしめなければならない。但し、同一人に関し他の事由により選挙の期日を告示したときは、この限りでない。
在任期間を同じくする議員の選挙の当選人の不足数が第七十一條第一項にいう議員の欠員の数と通じて通常選挙における議員の定数の四分の一を超えなくても、在任期間を異にする議員の選挙が行われる場合においては、前項の規定にかかわらず、その選挙と同時に
更に選挙を行う。但し、在任期間を異にする議員の選挙の期日の告示があつた後前項の事由を生じたときは、この限りでない。
前項の選挙の期日は、在任期間を異にする議員の選挙の期日による。
第六十二條第二項乃至第四項の規定は、第一項及び第二項の場合にこれを準用する。
第六十九條 第五十四條第一項乃至第三項、第六項及び第七項、第五十五條第一項及び第三項、第五十六條第二項乃至第八項、第五十七條乃至第六十一條、第六十三條並びに第六十四條の規定は、全國選出議員の議員候補者及び当選人にこれを準用する。但し、第五十五條第三項中「前項」とあるのは「第六十六條」、第五十六條第五項、第六項及び第八項中「第一項但書」とあるのは「第六十七條但書」、同條第六項中「第六十二條第一項第五号及び第六号」とあるのは「第六十八條」、第五十八條第二項、第五十九條、第六十條、第六十三條及び第六十四條中「都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会」とあるのは「全國選出議員選挙管理委員会」と讀み替えるものとする。
第八章 議員の任期及び補欠
第七十條 議員の任期は、前の通常選挙による議員の任期満了の日の翌日から、これを起算する。但し、通常選挙が前の通常選挙による議員の任期満了の日の翌日後に行われたときは、通常選挙の期日からこれを起算する。
第七十一條 在任期間を同じくする議員の欠員については、その欠員の数が(全國選出議員についてはその数が第六十八條第一項にいう当選人の不足数と通じて)通常選挙における当該選挙区内の議員の定数の四分の一(全國選出議員については通常選挙における議員の定数の四分の一)を超えるまでは、補欠選挙は、これを行わない。
議員に欠員を生じたときは、内務大臣は、参議院議長からその旨の通知を受けた日から五日以内に、都道府縣の長を経て都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会(全國選出議員については全國選出議員選挙管理委員会)にその旨を通知しなければならない。
都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会(全國選出議員については全國選出議員選挙管理委員会)は、前項の規定による通知を受けたときは、その欠員となつた議員が第六十一條の期限前において欠員となつた者である場合において第五十六條第一項但書(全國選出議員については第六十七條但書)の得票者で当選人とならなかつたものがあるとき、又はその期限経過後において欠員となつた者である場合において第五十六條第三項の規定の適用を受けた得票者で当選人とならなかつたものがあるときは、直ちに議員が欠員となつた旨を選挙長に通知しなければならない。
選挙長は、前項の規定による通知を受けた日から二十日以内に、第五十六條第三項及び第五項乃至第八項の規定を準用して当選人を定めなければならない。
都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会(全國選出議員については全國選出議員選挙管理委員会)は、第二項の規定による通知を受けた場合において第三項の規定の適用があるとき及び同一人に関し第六十二條(全國選出議員については第六十八條)の規定により更に選挙の期日を告示したときを除く外、在任期間を同じくする議員の欠員の数が(全國選出議員についてはその数が第六十八條第一項にいう当選人の不足数と通じて)通常選挙における当該選挙区内の議員の定数の四分の一(全國選出議員については通常選挙における議員の定数の四分の一)を超えるのを待ち、最後に第二項の規定による通知を受けた日から三十五日以内に、補欠選挙を行わしめなければならない。
在任期間を同じくする議員の欠員の数が(全國選出議員についてはその数が第六十八條第一項にいふ当選人の不足数と通じて)通常選挙における当該選挙区内の議員の定数の四分の一(全國選出議員については通常選挙における議員の定数の四分の一)を超えなくても、在任期間を異にする議員の選挙(地方選出議員については第六十二條の選挙を含む。以下これに同じ。)が行われる場合においては、第一項及び前項の規定にかかわらず、その選挙と同時に補欠選挙を行う。但し、在任期間を異にする議員の選挙の期日の告示があつた後、都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会(全國選出議員については全國選出議員選挙管理委員会)が第二項の規定による通知を受けたときは、この限りでない。
前項の補欠選挙の期日は、在任期間を異にする議員の選挙の期日による。
補欠選挙の期日は、都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会(全國選出議員については、全國選出議員選挙管理委員会)が少くとも三十日前に、これを告示しなければならない。
第六十二條第二項乃至第四項(全國選出議員については第六十八條第四項)の規定は、補欠選挙にこれを準用する。
第七十二條 補欠議員は、その前任者の残任期間在任する。
第九章 訴訟
第七十三條 選挙又は当選の効力に関しては、衆議院議員の選挙又は当選の効力に関する訴訟の例により、訴訟を提起することができる。但し、全國選出議員の選挙については、選挙の効力に関する訴訟及び当選の効力に関する訴訟の中で第六十七條但書に定めた得票に達したとの理由、第六十九條において準用する第五十六條第八項若しくは第五十七條の規定に該当しないとの理由又は第六十九條において準用する第五十八條第六項の決定が違法であるとの理由で出訴するものは、全國選出議員選挙管理委員会の委員長を被告としなければならない。
第七十四條 檢察官は、選挙運動を総括主宰した者が衆議院議員の選挙に関する罰則の準用により刑に処せられ関係当選人の当選を無効であると認めるときは、公訴に附帶し当選人を被告として訴訟を提起しなければならない。
第七十五條 前二條の規定による訴訟については、衆議院議員の選挙に関するこれらに相当する訴訟の例による。但し、これらの訴訟に関する通知は、全國選出議員については内務大臣及び全國選出議員選挙管理委員会にこれをしなければならない。
第十章 選挙運動
第七十六條 第六條に掲げる者は、その関係区域内における選挙運動をすることができない。
第七十七條 本章において選挙運動の費用とは、参議院議員の選挙における選挙運動の費用で衆議院議員選挙法の規定による選挙運動の費用に相当するものをいう。
本章において選挙運動に関する收入とは、前項の費用に充てる目的で收受した金錢又は財産上の利益をいう。
前項の財産上の利益の評價については、衆議院議員選挙法に規定する選挙運動の費用に関する財産上の利益の評價の例による。
第七十八條 議員候補者又は推薦届出者は、衆議院議員の選挙における選挙運動の費用の支出に関する責任者の例により、選挙運動の費用の支出に関する責任者(以下支出責任者という。)を定めなければならない。
支出責任者の解任及び辞任、その職務の代行並びに支出責任者及びその職務を代行する者に関する届出については、衆議院議員の選挙におけるこれらの場合に関する例による。但し、全國選出議員の議員候補者については、支出責任者及びその職務を代行する者に関する届出は、全國選出議員選挙管理委員会にこれをしなければならない。
第七十九條 支出責任者は、命令の定めるところにより、選挙運動に関する收入及び選挙運動の費用を都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会(全國選出議員については全國選出議員選挙管理委員会)に届け出なければならない。
第八十條 議員候補者を推薦し又は支持する政党その他の團体の主幹者は、命令の定めるところにより、選挙運動に関する收入及び選挙運動の費用を、二以上の都道府縣の区域にわたり又は主たる事務所のある都道府縣以外の区域において議員候補者を推薦し又は支持する團体にあつては、その主たる事務所のある都道府縣の都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会を経て、内務大臣に、その他の團体にあつては、その主たる事務所のある都道府縣の都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会に届け出なければならない。
前項の規定は、政党その他の團体の支部で議員候補者を推薦し又は支持するものにこれを準用する。
第八十一條 前二條の届出を受理したときは、内務大臣、都議会議員選挙管理委員会若しくは道府縣会議員選挙管理委員会又は全國選出議員選挙管理委員会は、命令の定めるところにより、その届出の要旨を公表しなければならない。
第八十二條 第七十九條及び第八十條の規定による届出書類は、これを受理した内務大臣、都議会議員選挙管理委員会若しくは道府縣会議員選挙管理委員会又は全國選出議員選挙管理委員会において、議員の任期間これを保存しなければならない。
前項の期間内においては、命令の定めるところにより、何人も届出書類の閲覽を請求することができる。
第八十三條 内務大臣は、選挙運動のために掲示し又は頒布する文書図画の形式、数量、掲示の場所等に関しても命令で制限を設けることができる。
第十一章 罰則
第八十四條 第七十六條の規定に違反した者は、これを六箇月以下の禁錮又は三千圓以下の罰金に処する。
第八十五條 第七十八條第二項の規定により届出を怠つた者は、これを千圓以下の罰金に処する。
第八十三條の規定に基いて発する命令に違反した者も、また、前項と同樣とする。
第八十六條 第七十九條又は第八十條の規定による届出を怠り又は虚僞の届出をした者は、これを六箇月以下の禁錮又は三千圓以下の罰金に処する。
第八十七條 前三條に定めるものの外、参議院議員の選挙に関しては、衆議院議員の選挙に関する罰則を準用する。但し、全國選出議員の選挙における選挙分会長又は選挙分会場は、これを選挙長又は選挙会場とみなす。
第十二章 補則
第八十八條 全國選出議員選挙管理委員、投票管理者、開票管理者、選挙分会長又は選挙長は、選挙権を有しなくなつたときは、その職を失う。
第八十九條 選挙の施行に関する費用については、命令でこれを定める。
第九十條 学校その他命令で定める営造物の設備は、命令の定めるところにより、演説による選挙運動のためにその使用を許可しなければならない。
前項の営造物の管理者は、命令の定めるところにより、演説会開催のために必要な施設をしなければならない。
都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会は、命令の定めるところにより、議員候補者の氏名、経歴等を掲載した文書を発行しなければならない。
市町村会議員選挙管理委員会は、命令の定めるところにより、議員候補者の氏名等の掲示をしなければならない。
第九十一條 東京都の区の存する区域並びに市制第六條及び第八十二條第一項の市については、この法律中市会議員選挙管理委員会及び市会議員選挙管理委員に関する規定は区会議員選挙管理委員会及び区会議員選挙管理委員又は市会議員区選挙管理委員会及び市会議員区選挙管理委員に、市に関する規定は区にこれを適用する。
この法律の適用については、町村制第三十八條の町村の町村長選挙管理委員会及び町村長選挙管理委員は、これを町村会議員選挙管理委員会及び町村会議員選挙管理委員とみなす。
この法律の適用については、町村組合で町村の事務の全部又は役場事務を共同処理するものはこれを一町村、その組合会議員選挙管理委員会及び組合会議員選挙管理委員又は組合管理者選挙管理委員会及び組合管理者選挙管理委員はこれを町村会議員選挙管理委員会及び町村会議員選挙管理委員とみなす。
町村制を施行しない地においては、この法律中町村会議員選挙管理委員会に関する規定は、町村長に準ずべきものに、町村に関する規定は町村に準ずべきものにこれを適用する。
第九十二條 交通至難の島その他の地においてこの法律の規定を適用し難い事項については、命令で特別の規定を設けることができる。
第九十三條 この法律の施行に関し必要な規定は、命令でこれを定める。
附 則
第一條 この法律は、公布の日から、これを施行する。
第二條 破産者で復権を得ない者、貧困に因り生活のため公私の救助を受け又は扶助を受ける者、一定の住居を有しない者、又は刑の執行を終り若しくは執行を受けることがなくなつた者で衆議院議員の選挙權を有しない者(選挙に関する犯罪に因り刑に処せられた者を除く。)は、當分の間、この法律の規定にかかわらず、参議院議員の選挙權を有する。
皇族及び華族の戸主は、當分の間、この法律の規定にかかわらず、選挙権を有する。
前二項の者について必要な選挙人名簿に関しては、命令でこれを定める。
第三條 在職の行政裁判所長官及び行政裁判所評定官は、日本國憲法施行までの間、この法律の規定にかかわらず、被選挙権を有しない。
第四條 第十四條中「参議院」とあるのは、参議院が成立するに至るまでの間は、「衆議院」と読み替えるものとする。
第五條 第七十三條及び第七十四條の規定による訴訟に関する通知は、地方選出議員の選挙については、第七十五條の規定にかかわらず、当分の間、内務大臣及び関係都道府縣の長を経て都議会議員選挙管理委員会又は関係のある道府縣会議員選挙管理委員会に、これをしなければならない。
地方選出議員の選挙については、第七十三條の規定による選挙の効力に関する訴訟及び同條の規定による当選の効力に関する訴訟で第五十六條第一項但書の得票に達したとの理由、第五十六條第八項若しくは第五十七條の規定は該当しないとの理由又は第五十八條第六項の決定が違法であるとの理由で出訴するものは、当分の間、第七十三條の規定にかかわらず、都議会議員選挙管理委員会又は関係のある道府縣会議員選挙管理委員会の委員長を被告としなければならない。
第六條 第七十八條第二項の規定による支出責任者及びその職務を代行する者に関する届出は、地方選出議員の議員候補者については、当分の間、同項の規定にかかわらず、都議会議員選挙管理委員会又は道府縣会議員選挙管理委員会に、これをしなければならない。
第七條 第八十七條の規定による当選人又は選挙運動を総括主宰した者が刑に處せられたときの通知は、当分の間、同條の規定にかかわらず、内務大臣及び関係都道府縣の長を経て都議会議員選挙管理委員会又は関係のある道府縣会議員選挙管理委員会に、これをしなければならない。
第八條 衆議院議員の選挙に関する罰則の準用については、第六條に掲げる者は、当分の間、これを吏員とみなす。
第九條 戸籍法の適用を受けない者の選挙権及び被選挙権は、当分の間、これを停止する。
第十條 この法律により初めて行う参議院議員の通常選挙は、詔書を以て定める日に、任期六年の議員の選挙と任期三年の議員の選挙を、一の選挙をもつて合併して、これを行う。
第十一條 この法律により初めて行う参議院議員の通常選挙については、第五十五條第二項及び第五十六條第一項但書中「通常選挙における当該選挙区内の議員の定数」とあるのは「当該選挙区内の議員の定数」、第六十六條及び第六十七條但書中「通常選挙における議員の定数」とあるのは「議員の定数」と読み替えるものとする。
第十二條 第一期の参議院議員については、その通常選挙が日本國憲法施行の日前に行われたときは、その選挙において選挙された者は、日本國憲法施行の日から議員となり、その任期は、その日からこれを起算するものとし、その通常選挙が日本國憲法施行の日以後
に行われたときは、その任期は、通常選挙の日からこれを起算するものとする。
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〔國務大臣大村清一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=8
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009・大村清一
○國務大臣(大村清一君) 只今上程に相成りました参議院議員選挙法案に付其の提案の理由竝に法案中主要な事項の概略を御説明申上げます、日本國憲法に於ては、第一に參議院議員は全國民を代表する選擧された議員であること、即ち國民代表であること、第二に、議員及び其の選擧人の資格は、人種、信條、性別、社會的身分、門地、教育、財産又は收入に依つて差別してはならないこと、即ち平等選擧であること、第三に、參議院議員の任期は六年として、衆議院議員の任期よりも長期のものとし、且三年毎に議員の半數を改選すること、第四に、参議院には解散のないこと等の基本的事項を明かにして居るのであります、參議院議員選挙法に於て、參議院議員の組織及び其の選擧の方法を定むるに當りましては、新憲法の是等の基本的事項に則り、新憲法の精神に最も能く合致する制度を採用しなければならない譯であります、而して新憲法が、「國權の最高機關であつて、國の唯一の立法機關である」、所の國會を構成するのに衆議院及び參議院の兩院を以てして居りますのは、蓋し兩院制度を採用して長短相補はしめると共に、審議の愼重を期し、以て國權の最高機關たる機能の發揮に遺憾なからしめようとして居るのでありまして、此の兩院制度の採用の趣旨に顧み、參議院議員の選出方法は衆議院議員とは異つた方法を採り、兩院の構成を出來るだけ異質的のものたらしむべきであるのであります、參議院議員の組織に付きましては、此のやうな見地から、或は職能代表制を何等かの形に於て採用すべきものであるとし、又或は兩院若しくは一定の團體等より推薦した一定數の侯捕者の中から之を選擧する方法に依るべきである等、各種の試案が各方面から提案されて居るのでありますが、是等の諸案を檢討致しまして、之が採否を決するに當りましては、新憲法の規定乃至は精神に何が最も能く適合するかを考慮する必要があることは申す迄もない所であります、職能代表制は必ずしも新憲法の規定に違反するものではないとも考へられますが、國民代表の制度として職能代表制が果して適當なものであるかどうかに付きましては、理論的に多少疑問がありますのみならず、職能代表制がよしんば國民代表制として適當なものであると致しましても、現在の我が國に於きましては、未だ職能組織の完備したものがないのでありまして、此の不完全な職能組織の上に職能代表制を強ひて用ひますことは、不適當でありますと共に、果して平等選擧の原則に適合するかどうかに付きましても疑問の餘地があるのであります、次に兩院や一定の團體等の推薦した候補者の中から選擧させます方法は、各部門、各職域の學識經驗共に優秀な人材を選擧する點に長所があるやうに思はれますが、衆議院又は政府推薦の方法を採りますならば、参議院の獨立性を害する虞がありまして、適當でありませぬ、又參議院の推薦の方法を採りますると、自薦の弊に陷る危險がありまするし、其の外に適當な推薦母體を發見することも困難でありますのみならず、斯樣な候補者推薦の方法は、選擧人の候補者選擇の範圍を制限致しますると同時に、立候補を極端に抑制することと相成りますから、國民の自由に表明された意思を飽く迄尊重しなければならない、所謂自由選擧の見地から申しまして、果して妥當であるか、否か疑はしいのであります、此のやうに考へて參りますと、參議院の組織を如何に定めるかの問題は、國民代表及び平等選擧竝に自由選擧の原則と、參議院の獨立性確保の方針を堅持しながら、其の範圍内に於て參議院の構成を、衆議院とは出來得るだけ異質的なものたらしめる爲には、如何にすれば宜いかと云ふことに歸著するのでありますが、結局主として被選擧人の年齡及び選擧區の構成に付て、衆議院議員の選擧の場合と異ならしめることに依りまして、此の構成上の相違を實現して行くより外致し方がないと云ふ結論に相成る譯であります、以上の考へ方に基きまして、參議院議員選擧法に於きましては、先づ被選擧人の年齡を三十歳とし、衆議院議員の被選擧年齡よりも五歳を高めることと致しました、次に參議院議員は、地方選出議員と、全國選出議員の二種類に區分を致し、地方選出議員は各都道府縣を一選擧區として選擧し、全國選出議員は全國を一選擧區として選擧することと致しました、地方選出議員に付きましては、原則として府縣の區域を一選擧區として選擧する衆議院議員との間に選擧區構成上差異がないことに相成りますが、第一に各選擧區に於て一時に選擧せられる議員の數が、參議院の場合には、衆議院の場合に比し、遙かに少いことになつて居りますから、此の同一選擧區より選出されましても、參議院議員と、衆議院議員との間には、自ら異つた色彩を有することになるものと期待致されますし、第二に投票方法に於ても、衆議院議員の選擧に於ける連記制に對して、參議院の場合は、單記制を採ることに致して居りますので、兩者は自ら異色を見せることになると考へられるのであります、全國選出議員は、全都道府縣を通じ、全國を一單位として選擧されるのでありますが、是は地域代表的の考方を全然考慮に入れず、專ら學識經驗ともに優れた、全國的な有名有為の人材を簡拔することを主眼と致しますと共に、職能的知識經驗を有するものが、選擧される可能性を生ぜしめることに依つて、職能代表制の有する長所を採入れむとする狙ひを持つものであります、全國選出議員候補者は、候補者單獨で名乘を擧げるものもございませう、又全國選出議員候補者でありまして、一地方に地盤を求めて地方選出議員候補者と、殆ど同樣の地盤を根據として出馬するものがあることも豫想致されます、併し農工商、學者、醫師、辯護士、政黨等全國的の團體から、事實上の推薦指示を受けて立候補するものが少くないであらうと察せられるのであります、之に依りまして社會各部門、各職域の知識經驗ある全國的人物が選出されることを期待致されます、勿論此の全國單位で選擧を行ひますることは、技術的に申しまして、多くの困難と障碍が豫想されるのでありますが、是等の難點にも拘はらず、敢て此の制度を採用することに致しましたのは、偏に參議院構成を衆議院と異るものたらしめ、參議院に相應しい性格を有せしめようとするに外ならないのでありまして、地域代表的性格を有する地方選出議員と相俟ちまして、全國選出議員は參議院を特徴あらしめることに、大いなる效果があるものと思はれるのであります、以下參議院議員選擧法案の内容に付て、逐次其の概要を御説明申上げます、第一には參議院議員の定員に付てであります、參議院の地位と職能とに鑑み、議員の定數は衆議院議員に比し相當減少することが適當であると考へられまするが、他面議案審査、其の他議院の活動に支障なからしめることが必要でありますから、是等の事情を酌量致しまして、議員定數は之を二百五十人と致したのであります、其の中百五十人を地方選出議員とし、各選擧區に於て選擧すべき議員の數は、最近の人口調査の結果に基きまして、各都道府縣の人口に比例して、最低二人、最高八人の間に於て、半數交代を可能ならしめるが爲にそれぞれ偶數となるやうに定めることとし、殘りの百人を全國選出議員と定めたのであります、第二には選擧權及び被選擧權に付てであります、先づ選擧權に付きましては、新憲法第十五條には「公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する。」と規定してあり、衆議院議員竝に地方議会の議員及び地方公共團體の長の選擧に付きましては、既に年齡二十歳以上の日本國民は、一定の缺格條項に該當するものを除き、男女を問はず等しく選擧權を有することとせられて居るのでありまして、參議院議員の選擧權に付きましても、其の範圍を衆議院議員の選擧の場合と同一に致し、衆議院議員の選擧權を有するものに對して總て之を認めることと致しますと共に、更に一歩を進めまして、現行衆議院議員選擧法には未だ選擧權を認むるに至つて居ない破産者、被救護者及び刑餘者等にも之を與へることと致したのであります、被選擧權は前にも申述べましたやうに、衆議院に對して參議院を異質的なものたらしめると共に、參議院の性格に相應しい分別と經驗を特に保たしめる爲に、日本國民で年齡三十年以上の者に之を與へることと致して居るのであります、其の他一定の選擧事務關係者及び在職の裁判官、檢察官等の被選擧權、竝に官吏、府縣會議員等の兼職禁止の取扱は、概ね衆議院議員の選擧と同一と致したのであります、第三には、通常選擧の期日に付てであります、參議院の通常選擧は通例、議員の任期が終る日の前三十日以内に之を行ひまして、任期滿了前に新議員を定めることとし、若し此の期間が參議院開會中又は參議院開會の日から三十日以内に掛る場合に於きましては、現任議員に選擧運動上の不利を來さしめないやうに致しまする爲に、參議院閉會の日から三十一日以後三十五日以内に之を行ふこととし、出來るだけ參議院議員の缺けることなきを期して居るのであります、尚最初の參議院議員の通常選擧に付きましては、特例を設けまして、詔書を以て定める日に之を行ふことと致して居るのであります、第四には、參議院議員の選擧の管理機關でありますが、地方選出議員の選擧に關する事務は、都道府縣の選擧管理委員會が之を管理し、全國選出議員の選擧に關する事務に付きましては、新たに參議院に於て其の議員の中から選擧する全國選擧管理委員十人を以て組織致します所の全國選出議員選擧管理委員會を設けて、之が管理に當らせることにして居るのであります、第五には、投票及び開票に付てであります、地方選出議員と全國選出議員の選擧は別個に行ふ建前として居りますが、選擧事務手續の便宜上、兩者の選擧を同時に合併して行ふことをも認めて居るのであります、其の他一般に投票及び開票に付ては、衆議院議員の選擧の投票及び開票の例に依ることとして居るのであります、第六には、選擧會及び選擧分會に付てであります、地方選出議員は都道府縣を選擧區として選擧せらるるものであり、尚當選者の最終決定を行ふ選擧會に付ても、衆議院議員の選擧の選擧會の例に依ることとするを以て足り、特段の措置を講ずる必要はないのでありますが、全國選出議員に付きましては、當選者の最終決定を行ふ選擧會の外に、都道府縣毎に開票の結果の中間集計を行はせる必要がありますので、其の爲に特に選擧分會を設けることと致して居るのであります、第七には、議員候補者及び當選人に關する事項でありますが、議員候補者の屆出及び推薦屆出は、後で申述べますやうに、選擧公營として行ふ議員候補者の經歴等に關する文書の發行の準備其の他との關係上、選擧期日前二十日迄に之をしなければならないことを致し、又地方選出議員付ては、一つの選擧區で議員候補者の屆出を爲し又は議員候補者の推薦屆出の承諾を爲しました者は、他の選擧區では議員候補者の屆出を爲し又は其の推薦屆出を承諾することが出來ないことと致しまして、重複して立候補することを認めないことと致しますと共に、近時の物價状況に即し、供託金の額は之を五千圓とすることと致したのであります、法定得票數は、地方選出議員に付ては、他の各種選擧の場合と同樣に、議員定數を以て有效投票の總數を除して得た數の四分の一でありまするが、全國選出議員に付きましては特に其の數を引下げまして、之を八分の一と致して居るのであります、繰上補充は、同點者の場合を除き當選承諾期間内に限つて之を認めることと致しました、又全國選出議員の補闕選擧及び再選擧は特に闕員及び當選人の不足數が通じて同種の議員總數の四分の一を超えるに至つた時に始めて之を行ふものと致して、煩瑣な手數と莫大な經費努力を要する全國選出議員の選擧は、之を出來るだけ最少限度に止めしめるやうに配意を加へて居るのであります、第八には、選擧運動及び選擧運動の費用に付てでありますが、選擧運動及び選擧運動の費用に關して煩瑣な取締や制限を設けますことは、選擧を何となく近附き難いものたらしめ、其の明朗濶達性を失はしめるのみならず、却て之に對抗する新たな脱法的措置を誘發するやうな結果となる場合もあり、特に全國選出議員に付て之を見まする時は、假に制限拘束を加へましても、其の實效を收めることは極めて困難であると申さなければなりませぬ、寧ろ此の際選擧運動に付ては、買收とか選擧妨害とか等の惡質犯の處罰だけに止め、他は之を放任して、一般國民の健全なる批判に委せるのが、最も賢明な方策ではないかと考へられるのであります、仍て參議院議員の選擧に付きましては、選擧運動は原則として之を自由とすることとし、事前運動、選擧事務所及び休憩所の設置、戸別訪問等に關しても、何等の制限を設けないことと致したのでありますが、唯選擧運動の費用に付きましては、衆議院議員の選擧に於けるやうな費用の最高制限の制を廢止し、之に代へまして、政黨及び議員候補者の選擧運動に關する收入及び支出の公開を行はしめることと致したのであります、第九には、選擧の公營に付てでありますが、參議院議員の選擧には、地方選出議員の選擧及び全國選出議員の選擧を通じまして、議員候補者の經歴等に關する文書の發行、議員候補者の氏名の掲示及び選擧演説會場の施設の公營を行ふこととして居るのであります、其の他訴訟及び罰則に付ても、概ね衆議院議員の選擧の訴訟及び罰則に準じて、規定を設けることと致して居るのであります、以上、參議院議員選挙法案の提案の趣旨竝に其の主要な事項に付て、御説明申上げました次第であります、何卒御審議の上、御協贊あらむことを切望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=9
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010・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 質疑の通告がございます、秋田三一君
〔秋田三一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=10
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011・秋田三一
○秋田三一君 私は前議會に於きまして、改正憲法の審議に當り、參議院が衆議院と共に國憲の最高機關たる關係より致しまして、其の組織竝に運營は直ちに國運の進展、國民の福祉の上に大いなる影響を齎すものでありまするからして、其の組織に付ては特に愼重なる考慮が拂はれ、其の運營は又最も宜しきを得ることに努めなければならないことを強調致したのでございますが、本日茲に愈愈參議院議員選挙法案が上程せらるるに當りまして、私は重ねて此の觀點より致しまして、更に参議院と政黨との關係に付て今一度所見を述べまして、政府當局の御見解を伺ひたいと存ずるのでございます、私の前議會に於ける質問に對しまして、一部に於ては、秋田は政黨を否認するものではないかと云ふ疑を持たれた方もあつたやに聞き及んだのでございますが、是は大いなる誤りでございまして、當日の議事録を仔細に讀んで戴けば自ら氷解致す所でございます、私は唯議會政治に於ては、政黨は當然發達すべきものであるが、動ともすると黨勢擴張の餘波として色々の弊害を生じ、是が又、嘗て我が國に於て屡屡國民の指彈攻撃を受けたことのある所謂政黨の横暴跋扈を繰返すやうなことなきや、萬一斯かることありたる場合には如何にして之を抑壓防止するやと云つたことでございます、其の當時も述べましたやうに、新憲法に於きましては事實天皇の大權は著しく縮小致しまして、政黨の領袖が就任すべき總理大臣の權力は恐るべく増大致しましたし、又衆議院の權限も絶對的と相成りましたので、樞密院が廢止せられました後は、此の第二院たる參議院こそ、實に此の政黨の行過ぎありたる場合に、之に反省を促し、之が抑制の任に當るものでなければならぬと思ふのでございます、無論衆議院に於きましては、假令参議院が衆議院で可決したものを否決致しましても、新憲法に依りまして再び之を議決することに依つて成立致さす權能がございますので、若し衆議院が何處迄も強行すると云ふことになれば、其の議案は成立致すのでありますからして、理論的に申しますると、結局に於ては、此の參議院は無力に近いものであるかも知れませぬ、併し、之に依つて一般國民の正當なる批判を得、與論を喚起することが出來ましたならば、逸ることあるべき衆議院の行過ぎ、即ち政黨の跋扈に對しましても、十分反省の機を與へ得るものと信ずるのでございます、是は固より機構を論ずるのでありまするから、最惡の場合を考へて見た爲に起る論でございまして、私は決して何時も政黨が横暴であり、又行過ぎがあると思ふ者ではありませぬ、政黨は民主主義の下、議會政治の運營上當然起るものであり、又健全な發達を致すべきものであると云ふことは十分了承もし、又希つて居る者でもございます、即ち私は衆議院に於ては、各政黨が有らゆる政治問題に關し、十分黨として研究を重ね、それぞれ主義政策を樹て、其の遂行を期して華々しく論議を進め、主張を鬪はし、以て何處迄も黨の主張貫徹に努力を致すべきだと思ふのであります、併しながら一度問題が衆議院を離れまして、第二院たる參議院に廻りましたる場合に於きましては、全然是と變つた立場、觀點より致しまして、冷靜愼重に之を再檢討致す所に、此處に第二院の存在價値があるのではないかと思ふのであります、是が若し參議院に於きましても、衆議院と同一政黨に依つて組織せられ、同一の主張論議を重ぬるものでありましたならば、參議院は單に衆議院の延長でありまして、衆議院一院でやるのと何等異る所なきのみならず、却て繁雜を加へて、寧ろ二院を廢して一院制と致した方が宜しい位であります、況や若し參議院が、起ることあるべき此の政黨の横暴跋扈、即ち政黨に依つて組織せらるる所の政府竝に衆議院の行過ぎを抑制する役割、使命を持つものと致しますならば、衆議院と同一の政黨に依つて組織せらるると云ふことは、政黨の横暴を批判せしむるに、同じ仲間の横暴なる政黨員を以てするものでありまして、折角設けられましたる參議院と云ふ抑制機關が、内容的に全然無意義と化す結果となりまして、機構と致しましては極めて拙劣なるものとなるでありませう、此の點、前議會に於きまして、衆議院の一部に一院制が唱へられまして、參議院の組織が衆議院と何等異る所がないならば、即ち第二院に相應しき學識、經驗ある練達堪能の士が選出せらるるやう致すに非ざれば、寧ろ一院制に致すべしとの論議があつたのでございますが、誠に同感を禁ぜざるものであります、今假に之を具體的に例示して見ますれば、若し現在の如く、衆議院に於きまして、與黨たる自由黨、進歩黨が多數を占め、社會黨等の野黨と主張を異に致しまして、過半數の決議に依り或議案が決定致したと假定致しまして、是が參議院に廻りましたる場合、若し參議院が、衆議院と同樣に政黨化して居り、自由、進歩の與黨が多數を占めて居つたと致しましたならば、是等の黨に屬する議員は、黨の方針、主張を尊重、又は拘束せらるるでありませうからして、何等衆議院とは異つた論議を致すことなく、議案は一院と等しく、直ちに過半數を以て確定致すでありませう、若し又是が衆議院とは異つて、反對黨たる社會黨などの野黨が多數を占めて居つた場合には、衆議院とは反對に之を否決することになります、併しながら結果に於きましては、衆議院は多數黨たる與黨に支配せられて居りますからして、直ちに問題を再び議案とする擧に出でて、二度之を議決することに依つて、其の議案を最終決定致すでありませう、其の間二院を通じて得る所のものは、冷靜、愼重の審議に非ずして、單に感情の益益激化、對立するのみでありまして、最高機關の雙翼たる此の兩院の關係は、斯くして漸次遊離し、自ら險惡の一途に向つて進むことでありませう、國家の爲、誠に憂ふべきことと言はねばなりませぬ、無論新憲法に於きましては、假令第二院が政黨に關係なく、全然別個の組織を以てし、別個の立場、觀點に於きまして、愼重に之を論議致しましたと致しましても、衆議院は爲さむと思へば、參議院に於て否決せられましても、再び之を議案とし、二度可決することに依つて、議案の成立を期することはあるでありませう、併しながら少くも政黨が對立し、衆議院の延長の如くして、感情的に白熱論議するのとは大いに趣を異に致しまして、參議院が其の望むやうな人格、識見共に社會の師表たるべき立派な議員を以て組織し、其の人々の感情に囚はれず、公平無私の見地より愼重、冷靜に表決したる其の立論主張は、必ずや社會の公正なる批判を喚起し、衆議院に對しましても、自ら反省の機を與ふることともなるのであります、私は此の意味に於きまして、どうしても第二院たる參議院に於ては、衆議院と異つて政黨に重きを置くと云ふよりも、寧ろ組織する議員各人に重きを置いて、衆議院議員よりも更に學識深き、又經驗高き立派なる議員を求めまして、之に依つて權威ある論議を進め、各議員の囚はれざる批判に基く表決に依りまして、各議案を眞に是々非々的に決定致して行くと云ふのが我が國情に適ふ第二院たる參議院の運用ではないかと思ふのでございます、前囘例證して申しましたやうに、明治憲法の下に、第二院的役割に於きまして、相當功績を擧げました我が貴族院が、能く其の使命を果し得た所以のものは、華族議員、勅選議員、其の他の議員が殆ど政黨に入らず、是々非々主義を以て政府竝に衆議院と相對して居つたからでありまして、彼の衆議院が推薦議員を以て翼贊政治會を組織し、國内を一政治結社を以て結ばむと致した當時に於きましても、貴族院は二院制の建前より致しまして、衆議院と一緒になることを好まず、是は結局に於て、當時戰時下擧國一致の態勢論に制せられまして、政府の慫慂と衆議院の御附合に依つて大部分は入會致しましたのでございますけれども、尚一部の議員の方々は、確か幣原さんも其の一人であつたかとも思ふのでありますが、斷然同會への入會を拒否し續けられたのであります、結局二院制に於ては、衆議院を離れて別個の立場に於て更に審議することが當然であるとの論は、大體に於て貴族院を支配した議論でありまして、又至極當然なことと信ずるのであります、米國に於きましては、兩院を通じて二大政黨に分れ、而も何等運營に差支なきのみならず、益益民主主義の美點を發揮し居りまして、私共の敬服し、寧ろ不思議とする位であります、併し米國人と我が日本人とは性格を異にし、又國情も訓練も異つて居るのであります、歐米に於きましても、イギリスやアメリカの如きアングロ・サクソン系と、フランスやイタリヤの如きラテン系とは性格を異にし、從つて國情も異り、制度も違つて居るのでありますが、我が國は寧ろ後者のフランス、イタリヤのラテン系に類似致しまして、ものに熱し易く感情的であると云ふことは、何人も否定し得ない事實でありまして、此の大いなる事實を沒却し、此の性格的根本的に異る國情を無視致しまして、最も大切なる國權の最高機關を規定するに當りまして、唯單に米國に於て行はれて居るから宜しいと、簡單に之を理想にし、之を眞似て見ましても、實際に於きましては、なかなかうまく行はれ難いものでありまして、其の爲に一時的にも混亂を招き、想はざる不幸を來すと云ふこともあり得るのでございます、此の故に英米の制度を採入れるに致しましても、國情と時機とに付ては餘程考慮を要しまして、唯單に流行のやうに、民主的だから宜しいとか、或は理想的だと、何も彼も簡單に眞似て行くと云ふことは、恰も戰爭中に全體主義が宜しい、或はヒユーラー・システムが宜しいと、何も彼もドイツのフアツシヨを簡單に受容れた我が軍國主義が、取返しも附かぬ失敗を招いたのと等しく、軈て大いなる悔を齎すでありませうことは、明白だと存ずるのでございます、現に前々議會に成立致しました勞働組合法の如きも、決して良くは使はれて居らぬと思ふのでございます、既に罷業續出、石炭は出ず、電力は停まり、交通も亦脅かされまして、復興どころか、生産日に低下致しまして、國民は全く乞食の生活を續けて居ると申さねばなりませぬ、是もアメリカの如く、權利は主張しても義務も亦能く履行し、勤勞も充實した勤勞をやると云ふならば宜しいのでありますけれども、我が國は唯都合の好い所だけを眞似まして、權利のみを主張し、義務は怠りまして、勤勞時間の如き、北海道の或炭坑の例を見ましても、實稼働時間僅か三時間と云ふ甚だしき例もあるやうでありまして、嘗て勞働組合法案が上程せられました時、私は本演壇より致しまして、日本産業復興の爲に勞資協調を唱へ、勤勞精神作興の國民運動を提唱致したのでございますが、僅か一年で事は正に反對の結果となつて居りまして、一部勞働者は或は今の處仕合せで居るかも知れませぬけれども、國民の大多數と云ふものは非常の迷惑をし、一部勞働者も亦近い内には、自ら齎した所の此の産業破綻の爲に失業の憂き目を見ることは明白だと存ずるのでございます、是れ即ち制度の變改、法律の施行の如きは最も其の國情と時機を考慮する必要ある所以でありまして、一國に良く行はれて居るからと言つて何も彼も國情や國民性の異つて居る他國に當嵌めることの不都合なる理由でもございます、民主主義はポツダム宣言に依りまして無論我が國の實現しなければならぬ義務であります、のみならず我が國と致しましても進んで實現すべき立派なる主義でありまして、其の實現に何等躊躇致す者ではありませぬ、併し今申しましたやうに、法を實施するには自ら時機があります、殊に大切なる國權の最高機關を構成する場合等に於きましては、最も愼重に實施しなければならぬと云ふことは言ふ迄もないことであります、此の參議院の政黨化に付きましても、我が國の政治教育がもつと進み、感情的なる國民性も餘程訓練陶冶せられました曉に於ては、アメリカの如く兩院の政黨化も結構でありませう、併し何と言つても今日の日本に於きましては、御承知の如く既に選擧が非常に感情的であります、又論議が衆議院内の風景に見るが如く非常に感情的である現状でありましては、今俄に之を眞似て實施すると云ふことは愼重に考慮致すべきだと思ふのでございます、昨日配付せられました参議院議員選挙法を見まするのに、前議會に於きまして憲法審議の際に、私は此の壇から主張致し、又一般にもあれ程叫ばれまして、政府當局も亦同感の旨を答へられた參議院議員の選出方法が、必ず第二院の役割に相應しき學識經驗ある練達堪能の士を選出するやう特段なる技術的工夫が拂はるべきだと要求せられましたに拘らず、此の参議院議員選挙法に於きましては、殆ど其の工夫を凝らされたる跡もなく、第一院たる衆議院の選擧と殆ど同一であると云ふことは、私共の誠に失望を禁ずる能はざるものでございます、年齡の如き三十歳に低下して、寧ろ當時現れて居つた臨時法制調査會の案よりも、更に其の希望の方向と反對に進んで居りますのは如何なる理由でございますか、是では當時私の憂ひました衆議院の落選組が向ふであらうやうな結果となり、輿論一般に望んで居る第二院に相應しき學識經驗家を得ることは不可能に近いと思ふのでございますが、果して是は如何なる次第で斯くなつたのでございますか、或は約半數百名を廣く全國的に求むる所に此の人を得る途があり、差異があると言はるるかも知れませぬが、事實全國民は誰が國家的に宜しいか、單に表面有名なる者ばかりを知つて居りまして、眞に望ましき人を知らない缺陷がありまして、結局に於きましては、其の地方地方に馴染の深い人が票數を纏めることに依つて當選を期することになりまして、茲にも何等特徴なき單なる地方議員が選出せられる可能性が多いのであります、殊に又人數の如き、著しく減少致しまして二百五十人と致したのは如何なる根據に基くものでございますか、凡そ民主主義に於きましては、成るべく多くの人の聲を聽き、成るべく多くの者の議決に依つて事を定むるのが民主主義の要諦ではないかと思ふのであります、然るに一方に於ては質の良い議員の出る道を塞ぎ、而も亦一方人數を少くする等のことは、參議院の力をして益益弱體に陷らしむるものでありますまいか、殊に私をして理窟を言はしむるならば、衆議院と等しく國民大衆より選ばるるならば、殊に今囘の參議院議員選挙法に現れたる如く、全國一選擧區と云ふ大選擧區に於て衆議院より以上に大衆より直接選ばるると致しましたならば、民主主義と云ふ建前から見まするならば、衆議院と増しこそすれ何等弱少の權限であるべき筈はない、同樣同等以上に選出せらるる参議院の權限は當に衆議院と同等であるが當然だと言へるのであります、是が憲法に定められましたる如き劣弱なる權限であつて敢て差支なき所以のものは、第二院の選出方法が國民大衆とは多少縁遠い方法に依つて選ばるると致しましても、其の議員の質に於て特徴を有し、變つた方面より参議院の權威を持たしめることに依つて兩院の關係を妙味あるものとし、以て最高機關の構成と運營を完全に近からしめむとした爲であります、然るに今囘の参議院議員選挙法に現れたる結果は、全く是等と相反し、總てに於て劣弱極まるものでありまして、何の爲の参議院か、當初に於て既に其の存在價値を疑ふものでございます、金森國務大臣は前議會私への答辯と致しまして、参議院が抑制機關として練達の士を以て愼重に國政を審議する特殊の役割を持つことに同感の意を表されました、此の法案に依つて組織せられましたる参議院に於て、果して其の目的を果し得ると御確信がございますか、御答辯を御願ひしたいと思ふのであります。無論最初はうまく行かないけれども、其の内國民が自覺して次第に良くなるとの答は、此の際一樣に唱へられるべき答辯と致しまして豫期せられる所でございますけれども、我が國は一日一刻も混亂或は不能率を許さるべき時ではありませぬ、國民が一致、全力を擧げて少しの無駄もなく國力の復興に日夜努力して行かなければならない時であります、私の申す迄もなく法律は憲法と違ひ、何時でも容易に變改出來るものであります、其の時々に應じて變へて行くことは一向差支ないのであります、衆議院の選擧法の如き、度々時勢と必要に應じて變改されて居ります、参議員選挙法の如きも、時に應じて變改して何等差支ないと思ふのであります、即ち國民大衆が眞に民主に目醒め、民主に慣れて來ました時、漸次理想に近附けて行くことは差支ありませぬので、其の時々の實情に即して、國運の進展に都合好き方法を採ることこそ立法者の務ぢやないかと思ふのであります、今近附く參議院議院選擧を前に致しまして、其の模樣を豫想して見まするのに、其の期日が曩に委員會に於て金森國務相が申されましたやうに、四月初旬頃擧行せらるると致しまして、其の前に市町村長選擧、地方議員選擧、知事公選等が引續きございまして、各政黨の活躍、黨勢擴帳運動は、此の機を逸せず大いに展開致さるるでございませうし、漸く出來上つたばかりの各黨地盤も、茲に漸く固まつて來ることになるのでありまして、戰時中政黨から遠ざかつて居つた地方民も漸く政黨化致されまして、此の最終の衆議院議員選挙の行はれまする頃には、数次の選挙に依りまして、最早大部分は政黨化せられまして、此の春衆議院議員選擧の時代とは餘程趣を異にし、中立にて立つと云ふことは、殆ど不可能となりまして、参議院に出る人は、孰れかの政黨に屬し、政黨の後援に依らなければ當選不可能と云ふことになるかも知れぬと思はれるのでございます、即ち各政黨に於きましても、其の勢力を擴張し、其の主義、主張を貫徹する爲には、當然黨としての活動を以て黨員より此の参議院議員を選出するやう努力することになりまして、結果は黨人に非ずんば参議院議員たる能はず、從つて今囘の参議院議員は總て是れ黨人を以て組織せられ、衆議院と同一政黨に於て支配せらるることと相成りまして、先に申述べましたやうに、一院制と何等異る所なく、矛盾甚だしき結果となるでありませう、或は参議院は政黨化せられても、其の運用方法として参議院議員は如何に黨籍は持つて居り、又黨より推薦せられて居つても、其の言動は必ずしも黨の主張方針に囚はるる必要なく、各員獨自の立場、意見を以て、勝手に論議して差支ないと云ふ自由を與へることに依りまして、此の矛盾の打開も講ぜらるるかとも思ひますけれども、併しながら是も糊塗的な胡麻化しでございまして、數を以て爭ふ黨と致しては、一絲亂れず陣容を整へて鬪ふこそ、黨本來の結成の目的であり、又結束の意義があるのでありまして、是が別段参議院に於ては顧慮する必要なしとする如きは、到底許されざる事情であり、又衆議院に於きまして、除名等の嚴罰を以て黨の結束を嚴守せしめる精神に對しましても、決して認め得ざる所のものであります、又議員其の者の良心的にも、更に其の後に來る自己の選擧對策より致しましても、黨の方針に反する行動は黨を脱退せざる限り、現在の日本に於きましては決して取り得ざる態度であります、そこで私は参議院をして眞に我が國情に適したる價値ある二院としての機能を十分發揮せしめます爲には、どうしても参議院は政黨と全然分離するやう努め、是迄の樞密院に於けるが如く、又衆議院議長、副議長の如く参議院議員は黨籍を離脱したる者を以て組織することとし、更に参議院議員の選擧に當つては政黨は政黨としての活動、即ち公認候補等を立て、黨一致の態度を以て推薦又は運動する等の黨規黨則に依る活動は、之を遠慮することに定めて置くことが肝要ではないかと思ふのであります、而して衆議院は政黨の活躍に依つて積極的に發案審議し、主義政策の實現に務めますと共に、参議院は又學識經驗者を以て組織し、消極的に之を冷靜批判し、補足して、以て國政の愼重を期すると云ふ自ら兩院の特徴を持たす所に、國權の最高機關を二院とした妙用を發輝し得るのではないかと思ふのであります、前議会に於きまして、私は偶偶當時發表せられました臨時法制調査會の参議院法要項案の中に、参議院議員の一部百五十名を全國一選擧區とし、衆議院議員等より構成する推薦母體に依つて其の二倍の候補者を出し、此の中から半數を選出せしむるとの案に對しまして、私は衆議院が餘りに参議院の組織に深く立入ると云ふことは、二院制の建前より面白からずと主張致したのでございますが、偶偶時を同じくして齋藤國務相は閣内に於て此の議論を持出されたるやに新聞紙で承りまして、誠に敬服致して居るのでございますが、或は此の政黨に依る兩院の關聯性に付きましても御經驗上御意見のある所ではないかと思ふのであります、無論一般政黨と致しましては、一應何も彼も政黨の力で處理すべきでありまして、殊に國家の最高政治機關を政黨より手離すと云ふことは、忍び難いことであることは固よりのことであると察するのでありますけれども、併し政黨と致しましても、國家の政治の爲に出來て居るものと致しますならば、國家の爲に本當に宜いことであるならば潔く手を引き、さうすることに黨の方針を定められるのも亦政黨の執るべき態度でないかと思ふのであります、此の参議院の政黨離脱に對し或は民主主義に反するものなりとの論も出るかと思ふのでありますが、既に參議院議員が國民大衆の直接選擧に依つて選ばれ、其の選ばれたる議員が各自の囚はれざる意思に依つて、自由に發言表決致すことこそ民主主義でありまして、何も政黨を形造らなければ民主主義でないと云ふ論は成り立たないと思ふのであります、又参議院が黨籍を離脱することは、樞密院と等しく再び官僚的特權階級の專横を再現するものではないかとの論も出るかとも思ふのでありますが、樞密院と參議院とは其の生立が違ひ、其の組織を異にして居るのでありまして、前者は政府の任命で其の多くは官僚出身者であるのに反しまして、後者は一般國民の直接選擧に依るものでありまして、一般地方人より多く出ることとの根本的差異があるのであります、新憲法に依りますと、内閣總理大臣は議席を有することが條件でありますが、參議院が若し政黨と離脱する場合に於きましては、今日吉田、幣原兩總裁が貴族院に議席を持つて居らるるのと異つて、今後の参議院に於きましては政黨の領袖なるものは全然居られなくなりまして、從つて今日の如く總理大臣を第二院に求むることは出來なくなることとなるでありませう、併し是はそれで宜いのではないかと思ふのであります、今迄は政黨の總裁は議席を持つて議會内に活動するの必要から致しまして、貴族院が勅選議員制があり、政府の都合で殆ど何時にても勝手に任命出來ることから致しまして、翼贊政治會の時には阿部大將、小林大將、或は又日本政治會の南大將などと皆簡單に勅任せられまして議席を持たれたのでありますけれども、今後眞に政黨の首腦となり、黨を代表し、黨を率ひて政策の實現を期するが如きものは、どうしても今迄の如く單なる上置きで、形式的に議席を持つて居ると云ふことでは相濟まず、根本的民主的に堂々と大衆選擧に打つて出で、現實に國民の信望を贏て衆議院議員となり、以て全然黨人として活躍するのが總理たる根本資格でありまして、參議院も亦今日迄の如き形式的の黨人を廢し、總て政黨との因縁情實を離れまして、純然たる批判の立場に於てこそ初めて政黨の組織する政府竝に衆議院と相對して其の政策態度を批判し、冷靜に之を監視して行けるのではありますまいか、私は此の上程せられましたる參議院議員選挙法に於きまして、私が豫て主張したる参議院議員に第二院たるに相應しき理想的議員を選出するの方法を全然阻まれて居ることを見出しまして頗る失望致したのでございますが、同時に此の新たなる参議院に於きまして、せめて今度は少くも弊害なからしむる消極的方法として、参議院が政黨と離脱することの最後の一線を劃することを主張致しまして、折角設けられましたる此の参議院が、せめて聊かにても二院としての存在價値あらしめたいと念願致すものでございます、無論此の参議院と政黨との關係の如きは、事極めて大いなる政治問題でございまして、到底私如き薄學未熟の者の一朝にして論ずべき問題ではなく、幾多學識經驗ある先輩同僚竝に衆議院の方々や、廣く一般輿論に教へらるる所を俟たなければならぬと思ふのでありますが、私は單に僅かなる私の實際感より致しまして、唯茲に參議院議員選挙法の審議が始まりますのに當つて、大膽率直に問題を提供致しまして、御高教を仰がむと致すものでございます、今日は取敢ず御提案になりました政府當局の中、以前からの關係のありました金森國務相の御意見と、自由黨進歩黨の總裁たる吉田、幣原兩大臣の御所見を伺ひまして、更に御臨席の政黨の大先輩たる齋藤、植原兩國務大臣にも、若し御高教を承る點がありましたならば、御所見を伺ふことが出來ましたならば幸甚と存ずるのでございます(拍手)
〔國務大臣大村清一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=11
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012・大村清一
○國務大臣(大村清一君) 秋田議員の御質問に對しまして先づ私より答辯を申上げます、御述べになりました如く、國會政治の健全なる發達の爲には、其の裏附けとして健全なる政黨の存在が必要であることは申す迄もございませぬ、茲に政黨と申上げましても、是は世に所謂私黨的なものを申上げるのではございませぬ、國權の最高機關たる議院、國會を運營致します基礎となる政黨は申す迄もなく公的性格を十二分に備へたものでなければならぬと存じます、新憲法に於きましても、國會議員たる公務員は一部の奉仕者でなく、全體の奉仕者でなければならぬと云ふことが明定されて居る程でもございます、今後我が國の政黨は此の點に於きまして十分なる發達を遂げることを期待致す者であります、此のやうな見地に立ちまして參議員議員選挙法に於きましては、政黨員が參議院議員たることを何等禁じて居ない次第であります、參議院は御述になりました如く、第二院としての機能を十分に發揮する如く構成せられなければならぬことは申す迄もございませぬが、曩に縷縷御説明申上げました如く、新憲法に於きましては參議院の構成に關する基本的事項を段々と規定致して居りまして、今迄試案として世の中に唱へられましたものに付きましては、多くは此の基本的事項の制約を受けまして、それを採用することが困難な次第でございます、併し新憲法の基本的事項に則りまして、參議院の性格に相應しい議員が選出せらるる如く、政府は有らゆる工夫を致しまして、茲に本案を提出致しました次第であります、而して本法律案は其の運用宜しきを得まするならば、参議院の性格に相應しい議員を得ることは決して困難ではないのであります、新憲法の實施せられました曉に於きましては、國民が主權を持つのであります、故に選擧人は參議院の性格に相應しい議員が選出せらるる如く、選擧人として善處せられることを政府は期待を致すものであります、之に依りまして、新しい政治が圓滑に、又十分に運營せらるることを希望して已まざるものであります、尚年齡の點に付きまして御述になりましたが、參議院議員の選擧年齡を衆議院議員に比しまして如何に定めるか、何歳を以て參議院議員としての保守性を持たせる上に於て適當であるかと云ふ點に於きまして、之が斷定を致しますことは、なかなか困難でございまするが、結局五年を高めて三十歳と致したのでございます、之に依りまして、概ね必要なる社會的經驗を積んだ思慮と分別を有する者を得ることが出來ると考へて居るのであります、又現在貴族院の各種議員の最低年齡は三十歳となつて居るのであります、是も法律上餘り高い年齡制限を設けることは適當でなく、寧ろ實際の運用に任した方が宜いと考へられたからであると存ずるのであります、現に實際問題と致しましても、多額納税議員の被選擧年齡は三十歳でありますが、事實選出せられました人の平均年齡は六十餘歳と相成つて居ります、参議院議員の場合に於きましても、實際選出される者は相當高い年齡の者と相成るであらうと考へて居る次第であります、要するに國民が参議院の性格に鑑みまして、選擧の實際の運用に依りまして、學識經驗と練達堪能の士を選ぶ如く努めることに依りまして、此の問題は實際上解決される問題と考へて居る次第であります、次に定員に付て御述になりましたが、参議院の地位と職能に鑑みまして、有能達識の士を選出することに努めまする上、又参議院の機能の上から申しまして、衆議院よりも其の定員を相當縮減することは適當であると考へるのであります、現に諸外國の兩院制度に付きましても、多くの例は衆議院よりも第二院の方が相當其の定員を少く致して居るのであります、アメリカに於きましては第一院は四百三十五名でありますが、第二院は九十六名、カナダは二百四十五名に對して九十六人、オランダは百人に對して五十人、或はフランスは六百十八人に對して三百十四人と云ふやうに、餘程そこに開きがあるのであります、唯イギリスに於きましては第一院が六百十五人、第二院が七百八十五人、イタリヤは第一院が七百人、第二院が五百三十五人と云ふやうな例外はございまするが、大體に於きまして、諸外國の例も第二院の數は少くなつて居ります、唯我が國の参議院に於きましては、其の機能に鑑み、殊に委員會に依りまして議案を審査すると云ふやうな點を考慮致しますと、之を餘りに少くすることも實際上差支を生ずることでございまするので、結局二百五十人と云ふことを以て定員と致したのであります、以上御答へ申上げます
〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=12
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013・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 秋田君の御質問に對して御答を致します、政府の所見は一應内務大臣から只今説明を致した通りでありまするが、尚私が一二所見を附加へます、御話は、御意見に依れば、新憲法はアメリカの模倣なりと云ふ斷定のやうに伺ひましたが、是は御承知の通り法制審議會に於て久しく審議熟慮をした結果出來上つたものを政府案として提出致した譯であります、從つて直ちに模倣と言はるることは甚だ穩當を缺きはしないかと思はれます、又参議院は政黨を離脱した方が宜からう、是も御意見でありますが、併しながら事實民主主義が日本に於て發達し、從つて又政黨政治が發達し、政黨が發達して來ると致しますると、政治に於て重要なる地位を執る參議院が政黨から離れると云ふことは是は事實に於てむづかしいことではないかと考へるのであります、(拍手)更に數に付ての御話でありますが、數を制限し、選挙法を制限し、選挙法を衆議院と異にし、又年齡に於て衆議院と之を異にして居ることに依つて參議院たる性格も自然現れて來、又參議院たる職務、特質が政治の上に於て現はるることと私は考へるのであります
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=13
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014・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 只今秋田君より參議院と政黨との關係に付きまして御質疑があつたのでありまするが、之に對する答辯は即に大村内相竝に吉田首相から述べられた所で、實は盡きて居ると私は考へます、御承知の如く参議院も衆議院と同じく新憲法第四十三條でありましたか、之に依りまして、全國民を代表する選擧せられたる議員で組織せられると、斯う書いてあります、從つて總て選擧に當りましては、政黨と云ふ此の結集せる勢力を基盤として立候補する者は自然有利な立場を占めることでありませう、固より議員候補者は法制上必ずしも政黨員たることを要しませぬ、又事實上其の當選せられると否とは此の本人所屬の政黨に對する民心の向背と云ふことに依つても影響を受けるのでありまするから、政黨以外の勢力を基盤として立候補せられ、さうして選出せらるると云ふ人も必ずあり得ることであります、併し大勢は何としても參議院も衆議院と同樣、政黨の勢力が伸びて來るものと豫想せられます、是は結局總て議員は選擧せられると云ふ主義を憲法で採用致しましたる以上は、是は必然の勢ひであると私は考へます、で政黨の勢力が此の兩院雙方に伸びて行くものと致しまして、參議院議員は衆議院議員と較べますると、任期も異つて居ります、それから其の選擧の期日も大體、大抵の場合は異つて居ります、又衆議院は解散せられることがありまするけれども、參議院は解散がないのであります、從つて參議院は甲の政黨が多數を制する。參議院は乙の政黨が多數を占めるといふやうな場合がありまして、其の結果兩院の間に意見の衝突といふものが、是は起り得るのであります、是は兩院制度を採用致して居りまする諸外國に於きましても、往々其の實例を見る所であります、我が憲法は斯かる衝突のあつた場合には、衆議院の決議が優越性を持つことを新憲法で認めて居ります、其の優越性を認めまする以上は、政治の實際上の運營に於きまして差支が生ずる、兩院の意見が違つたから、此の政治の運用が圓滑に行はれないと云ふやうな虞はないものと考へます、又参議院の數のことに付て御話でありました、是は大村内相からも詳しく御説明があつたのでありまするが、參議員の數が少いと云ふと、どうしても弱體になると云ふやうな御話があつたのでありますが、此の參議院が政治上に於て重きをなすかなさぬかと云ふことは、必ずしも議員の數に依るものでなくて、質に依るものであろうと考へます、御承知の如く既に公布せられましたる新憲法、此の新憲法の採用致した條規に則つて、さうして民主主義と云ふものを徹底致さむとする限り、今囘参議院議員の選挙法案に掲げてありまする此の規定が、先づ一番適當であらうと我々は考へたのであります、斯う云ふ趣旨に御了解を願ひたいのであります
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=14
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015・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 秋田君から私に對しまして、參議院議員は愼重練熟なる方であるべきものであると云ふことを、私が前の議會に於て申上げましたのに、今囘の選挙制度に依りまして、果して其の趣旨が完くせられて居るかどうかと云ふことも中心としての御尋でございました、私は確かに參議院議員は愼重練熟な方であり、各方面の知識經驗を豐かに御持ちになる方が望ましいのであらうと云ふことは今日も考へて居ります、從つて参議院議員の組織等を考へまするに付きましても、斯樣な結果が得られまするやうに意を用ひたのでありまするが、現實の制度としては、どう云ふ制度にするが宜いかと云ふ點に付きましては、なかなか實行上困難なる點がありまして、各方面の御意見を伺つて見ましても、どうも是は憲法的なる制度に、恐らく持味とでも言ふべきものと思ひまするが、此の制度をはつきりした法規を以て金縛りに致しますることは、なかなか好い結果が得られないのでありまして、大體國會は國民に直結して居りまして、最も自由なる働きが出來なければならぬ、憲法上民國に主權があると掲げられてありますることは、國民の働きが自由であることを豫想して居ります、して見ますれば、之に直結したる國會の働き、及び組立等に付きましても、出來るだけ自由に國民の氣持に合ふやうにしなければならぬと云ふ時に、はつきりした法規を窮屈に定めますると、曩にも申しました金縛りと申しまするか、鋼鐵製の制約を加へたと云ふやうな形になる譯であります、能く發達して居りまする諸國の憲法の制度を考へて見ましても、左樣な制度では、何時かは或は早く、又破壞されて來るのでありまして、最も彈力性のある所謂コンステイチユーシヨナル・コンベンシヨンと云ふやうな風のもので、健全なる常識を綜合したやうな規律で以て規範して居る所は、其の儘秩序が能く續いて居るやうに思ふのでありまして、日本の参議院の制度に於きましても、其のやうな考に基きまして、此の選擧の制度、或は議員の數等に付きましても、参議院の目的に害にならぬやうなと云ふ消極的な方面に重きを置きまして、斯う云う風にありたいと云ふ方面の積極的な部分は、此の國民全體の健全なる常識の結集の結果として程良く行くであらうと云ふ點に著想を致しました譯でありまして、規律がないと云ふ譯ではございませぬが、謂はば眞綿で拵へた絆の如きやうな氣持でありまして、鋼鐵製の法規を以て抑制するのではなくて、眞綿の如き柔かいもので程良く秩序が得られるやうにあつたならば、参議院は新しき組織ではありまするけれども、うまく行くであらう、そこで比較的自由な全國的選擧制、或は地方でも比較的廣い區域の選擧制と云ふものを作る、被選擧年齡に付きましても割合にゆとりのある方法を以ちまして、それ以上は國民自體が参議院と云ふものの本來の性質を考へられまして、自由なる、賢明なる判斷を用ひられることを望むやうにして、先づ踏出しを決めて行かう、斯う云ふやうな考を持つて居る次第でございまして、御趣旨とは違ひませぬが、謂はば彈力性のある社會秩序に依頼したいと云ふ考でございます
〔國務大臣植原悦二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=15
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016・植原悦二郎
○國務大臣(植原悦二郎君) 秋田君の御陳述は主として質問と申すより御意見のやうでございましたから、拜聽して置けば宜しいやうに感じましたが、特に名を指して、政黨に關する意見を、あるならば述べたら宜からうと云ふやうな御言葉もありましたから、此の際ちよつと時間を拜借して申上げて置くことが宜しからうと存ずるのであります、政黨に關する秋田君の御所見は、最初から終り迄、政黨と云ふものは弊害を釀すものだ、横暴をするものだと云ふ、どうも秋田さん御自身の御意見のやうに承りました、(拍手する者あり)私共は民主政治を行ふ、殊に皆樣方が御決定になりました所の新憲法をして有終の美を濟さしむるならば、政黨以外に依つて事を爲すことは斷じて出來ないと信じて居るのであります、故に若し政黨が惡いものであり、政黨が横暴をするものであり、弊害を釀すものであると致しまするならば、是は全國民、即ち選擧民が之を正すより致し方がない、それを正すべきであると思ふのであります、私は民主政治の下に於て、政黨を國民が尊重し、尊敬し、之に依つて國政を行つて貰ふことを信頼を以て致すやうにならなければ、民主政治は出來ないと思ふのであります、それ故に秋田さんの御説の衆議院が横暴をするものである、弊害を齎すものであると云ふ御意見に對しては、私共異つた意見を有するものであることを御承知を願ひたいのであります、實は皆樣方能く御考慮なされましたら、御分りのことと思ひますが、滿州事變以來、國民が政黨を非難し、罵倒し、政黨を無視しようと致したことが、ナチ式の團體が跋扈して、さうして今日の悲境を呈するやうな實情になつたのではありますまいか、政黨を尊重すること程、民主政治を完成せしむる所以であります、それ故に衆議院に於て、政黨が健全に發達し、参議院に於ても同じやうに政黨の勢力が伸び、健全なる政黨が出來てこそ初めて民主主義の政治が行はれるもの、参議院に於て政黨を離隔するやうな御考は、新しい憲法を御制定になつた皆樣方の御趣意に反するではなからうかと云ふやうな感じさへ致すのであります、そこで貴衆兩院が政黨を以て横斷するからと云つて、私は政黨の横暴も、弊害も起らないと思ひます、先刻も幣原國務相の申された通り、衆議院の選擧の時と参議院の選擧の時とは、期日も違ひます、参議院は解散される虞もありませぬ、のみならず半数改選に依つて、任期は衆議院の解散され勝ちのものに比較して頗る安定して居るものと考へなければならないのであります、さうして参議院の方は必ずや衆議院の如く政權と云ふ立場でなく、参議院の組織に鑑みましても、参議院の職責は衆議院に於て早急に、火急に、動もすれば群衆心理に依つて國論と遠ざかつた決議をする虞のあると云ふ時に、参議院は此の決議を遲滯せしむる、一應國民の前に之を痛烈に批判して國民の判斷を請ふ、是が参議院の主たる職責ではありますまいか、さう云ふ立場を考へますれば、矢張り参議院に於ても政黨に屬し、政黨と連絡を取り、衆議院の火急、早急、或は國論に反するやうな決議を一時遲滯せしめて、國民に愼重なる考慮を煩はす、衆議院をして反省せしむる、是が参議院の主なる使命、そこに参議院の練達堪能、政治的の經驗者を必要とする所以があるものでありまするならば、参議院の方も政黨に所屬し、必ずしも政黨に所屬したからと云うて、衆議院の多数に從はなければならない理由はない、参議院の素質に於て参議院の構成分子の於て異る以上は、私は現在の此の法を以て、國民が愼重に選擧致したならば、參議院に關する方々が、政黨に所屬されて、眞に民主政治が行はれることになると確信するものであります、此の點に於て秋田君の御意見と甚だしく政黨に對する見解、参議院に對する見解を異にする點を遺憾とするのであります、私の所感を述べて御参考に供したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=16
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017・秋田三一
○秋田三一君 只今植原國務相から縷縷御教示を戴きまして諒承致しました。唯其の前提と致しまして、私は政黨を何か惡いものであると云ふ風に前提して趣旨を述べたと云ふ風に御説明があつたと思ひますが、私は只今も、先程の質問の際も、特に斷つて置いたのでございますが、必ずしも政黨が總て惡いと云ふ意味ではない、萬一さう云ふことがあつたならば、是は併し、事實過去に於て相當政黨の横暴は、常に國民一般の攻撃を蒙つたと私は信じて居ります、萬一さう云ふことがあつたならばと云ふことを前提と致しまして、唯機構を論ずるに當つては、最惡の場合を考へて論ずるのが至當ではないかと云ふ風に申上げた積りでありますが、或は此の私の申上げ方が惡くて、私が常に政黨が惡いものであると云ふ風に取られたと思ふのであります、其の點は此の席で、私は必ずしも常に政黨が惡いものではない、平素に於て政黨は大いに健全なる發達をして、活動をして行くべきものである、斯う云ふことを十分承知をし、又希つて居ると云ふことを御承知置きを願ひたいと思ひます、一言植原國務相に對して、若し誤解がありましたらと思ひまして‥‥発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=17
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018・松尾嘉右ヱ門
○松尾嘉右ヱ門君 議事進行に關して質問を致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=18
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019・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 宜しうございます
〔松尾嘉右ヱ門君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=19
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020・松尾嘉右ヱ門
○松尾嘉右ヱ門君 去る三十日の本會議に於きまして、餘りにもあのだれた此の議場の有樣に、私も聊か氣持を惡く致しまして、政府に對して一言ではありますけれども申上げて置いたのであります、然るに今日迄其の言葉を聞きませぬので、私は茲に改めてあの日の有樣を申上げたい、あの合圖の鈴に私此所へ參りました、大臣は一人も出て居りませぬ、もう見えるのかと鶴の首を伸ばして(笑聲起る)待つて居りましたが、一人も大臣が見えませぬ、定刻に遲れること、二十分に致しまして大藏大臣の出席を見たのであります、板倉君は不足げな顔附で此の演壇に登られ質問をされました、約十分して文部大臣の出席を見たのであります、板谷君の質問が終る頃にやつと四名の大臣の出席を見たのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=20
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021・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 松尾君‥‥発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=21
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022・松尾嘉右ヱ門
○松尾嘉右ヱ門君 もうちよつとで終りますから‥‥ それは私はあのやうなる議會の有樣は、今迄はああ云ふ恰好でありましたでせうが、今日の此の時代はさう云ふことは許しませぬ、我が國が立つか滅びるかの其の秋に當つて、あのやうなる議會の風景は私は實に心外に堪へませぬ、此の議場には議員の皆樣も集り、又各大臣も之に集り重要なる議案を審議し、其の一言々々を國民に知らしめる所の責任があると思ふのであります、あのやうなることは私は此の貴族院を輕く見て居るのではないか、此の頃の風説の如く衆議院は大事にして置かなければならぬが、貴族院はもう宜いのだ、又政府の振割られる所の委員の如きも貴族院には衆議院に對する數と比較して問題にならぬと云ふことを聞くのであります、此のやうな態度は私は絶對に許すことは出來ぬと思ふのであります、どうか此の點に對しまして、總理大臣の責任ある御答辯を願ひます、又各大臣に對して私は申上げて置きたい、次に私は議員の皆樣にも一言申上げて置きたい、それは此處に集られる各議員の皆樣は高位の人でもあり、學者でもあり、智者でもあり、權威者でもあり、どの角度から見ても皆立派な議員樣であることは是は世人も能く認めて居ります、而して其の質問される一言一句は私共の肺臓を貫き、時には涙を流して聽いて居ることもあるのであります、處が中には二時間から三時間、あの長い質問をされる人がありまするが、例へば上野の驛から西郷さんの銅像の所へ行けば宜いものを、態と山手線を廻つて來て西郷さんの銅像の所へ行く、終は必ず其所へ來るので、私はどんな美味しい物でも澤山に戴けば飽いて來る、十七文字に於ても相當世の中の人を感動させることが出來るのでありまするから、最低今日位の質問程度で置いて貰ひたい、是は斯う云ふ言論の自由な時に斯う云ふ勝手なことを私は申上げまするけれども、さう長いこと、百のことを千にも萬にも引伸ばして貰はなくても、私は何とか研究して詰めて國民に其のことを簡單明瞭に分らしめることが議員の職責なりと思ひます、斯う云ふ生意氣なことを申しまして、私に對して皆さんが御叱りあれば、私はもう此の貴族院には參りませぬ、終り(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=22
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023・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました参議院議員選挙法案は其の特別委員の數を三十六名とし、其の委員の指名を議長に一任するの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=23
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024・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=24
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025・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=25
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026・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔根本書記官朗讀〕
参議院議員選挙法案特別委員
公爵 桂廣太郎君 侯爵 細川護立君
侯爵 中山輔親君 伯爵 林博太郎君
伯爵 橋本實斐君 子爵 大河内輝耕君
子爵 秋元春朝君 子爵 織田信恒君
子爵 三島通陽君 子爵 水野勝邦君
子爵 松平親義君 山田三良君
桑木嚴翼君 平塚廣義君
永井松三君 吉田久君
下條康麿君 川村竹治君
男爵 高木喜寛君 男爵 伊江朝助君
男爵 松田正之君 男爵 肝付兼英君
男爵 松平齊光君 男爵 小原謙太郎君
大木操君 田所美治君
松本學君 結城安次君
三橋四郎次君 磯貝浩君
小山完吾君 山地土佐太郎君
作間耕逸君 松岡潤吉君
秋田三一君 淺井清君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=26
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027・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 此の際一言申上げて置きますが、松尾君には議題となつて居ります法案に關聯して議事進行に關する御發言と存じましたので法案の審議途中でありましたけれども、發言を許したのでありますが、本案に關係なきことでありました、之を以て先例とは認めませぬから、其の點だけ御承知置きを願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=27
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028・小山完吾
○小山完吾君 只今の議長の御宣言は私は了承致しましたが、議員として議長に申上げたいことは、左樣なことを御發言を御許しになつて、全然許すべからざる發言であると思つて居りながら、それをしまひ迄御止めにもならず爲さつたと云ふことに付きましては私は遺憾の意を表して置きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=28
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029・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御答を致します、小山君は此の議長席と演壇との間の状況を多分御覽になつて居られたことと存じます、それだけ申上げて置きます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=29
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030・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 此の際總理大臣より過日の川上君の質疑に對し御答辯があります、吉田内閣總理大臣
〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=30
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031・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 川上君の質問に對して御答を致します、御質問の趣旨はインフレ對策に對する政府の決意と信念如何と云ふ御意見のやうに承知致しますが、インフレ對策に關しましては過日私の施政方針の演説の中にも、亦曩頃内閣から發表致しました經濟六大對策の中にも述べて置きました方針を以て政府は進む考であるのであります、要するにインフレ對策は何を致しましても生産の増強に依つて裏附ける以外に之を防止する方法はないのであり、又經濟再建、或は經濟組織の再建等の政策に依る以外にインフレ對策はないものと考へて、政府と致しましては彼の六大政策の實行に信念を持ち、決意を持つて此の實施に當る考で居るのであります、此の政策なるものが單に空文であり、作文でありと致しますならば兎に角、政府と致しまして此の線に沿うてインフレ對策に對して十分の施策を行ふ考で邁進致す考で居ります、固より今日の經濟危機なるものは、甚だ心配致すべき状態でありまして、川上君に於かれて御心配になるのは政府と致しましても御同感であります、努めて之に對して對策を急速に實施致したい考でありますが、何に致しましても今日此處で以て斯うするああすると申した所で、是は徒に議論になりまするが、要は政府の對策なるものが實施せられ、實施された結果如何に依るより外仕方がないのでありますが、此の政府の對策に對する實施に付ては各位に於て十分御監督も爲され、又御注意も爲されむことを希望致します、尚此の際、過日私が佐々木博士に對して申したことが、博士に對して敬意を失したやうな御感じがあつたやうに承知致しましたが、私は勿論老博士に對して敬意を失する考ではないのでありますから、私の申したことが敬意を失しまたとするならば、喜んで前言を取消しします、御了承置きを願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=31
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032・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第二、昭和二十一年勅令第三百五十一号貴族院令第一條第三号、第五号及び第六号の議員の任期延長に関する勅令の一部を改正する勅令案、日程第三、議院法の特例に関する法律案、政府提出、第一讀會ノ續、委員長報告、是等の兩案を一括して議題と爲すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=32
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033・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、委員長宗伯爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=33
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034・会議録情報4
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{左の委員長報告書は朗讀を經さるも參照のため茲に載録す以下之に傚ふ}
昭和二十一年勅令第三百五十一号貴族院令第一條第三号、第五号及び第六号の議員の任期延長に関する勅令の一部を改正する勅令案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十一年十一月二十九日
委員長 伯爵宗 武志
貴族院議長公爵徳川家正殿
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議院法の特例に関する法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十一年十一月二十九日
委員長 伯爵宗 武志
貴族院議長公爵徳川家正殿
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〔伯爵宗武志君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=34
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035・宗武志
○伯爵宗武志君 只今議題となりました兩案に關する委員會の經過竝に結果を報告します、委員會は十一月二十九日開會し、審議を完了して、即日散會しました、委員會は先づ政府の提案理由の説明を聽取、次いで質疑を行ひ、討論の發言なく、採決の結果、異議なく兩案共、それぞれ原案通り可決すべきものと議決しました、詳細は速記録に讓りますが、次に質疑應答の要領を述べます、先づ勅令案に付て申します、前の勅令には二月十日と日が明記されてあるのに、此の度は五月二日と日を明示せずに、日本國憲法施行の日の前日としたのは、施行の日に疑念がある爲ででもあるのかと云ふ意味の質疑に對しまして、別に深い仔細はない、唯日附では趣旨の徹底しない嫌があるから、日本國憲法施行の前日として理由を明瞭にしたに過ぎないと云ふ應答がありました、參議院の選擧の時期は如何、其の時期に依つては貴族院議員と參議院議員とが重複することにはならないかと云ふ意味の質疑に對しましては、選擧の時期は不明で責任ある言明は出來ないが、精神としては日本國憲法施行の際に、既に參議院議員の顔觸れが決定して居るやうにありたい、其の積りで選擧法と其の運營を考へて居る、假に全國一選擧區の場合を考へて見ると、少くとも二十日間位の餘裕が必要であるから、一箇月位前に選擧を行ふことが宜いと思ふ、併し何れにせよ、參議院が成立するのは日本國憲法施行の後であるから、參議院の議員が貴族院議員と重複することはあり得ないと云ふ意味の應答がありました、又延長された期間中に闕員を生じた場合には、從來通り補闕選擧が行はれると云ふこと、華族の戸主は現に衆議院には選擧權も被選擧も有して居らないが、此の問題は日本國憲法施行後は自然に解決するけれども、政府としてそれ迄の間に特別の措置を講ずる考はないが、但し衆議院の選擧法其のものが變るのではないかと見て居ると云ふことが質疑應答の結果確かめられました、次に法律案に付て申します、第三十二條の規定を適用しないことにして置いて、之に代るべき規定を設けないのは何故であるかと云ふ意味の質疑に對して、元來此の規定は行政上公布が餘り遲れぬやうにとの趣旨に出たものと解されるが、現行憲法に依つて行はれた手續は來年の五月三日以後に於ては裁可や公布が出來なくなると思はれる、從つて五月二日迄に公布されなければならなくなると思ふ、それに今囘は何日經つたら公布出來るのか分らぬやうな場合もあり得ると思はれるので、此の際何日以内とはつきり決めないで、五月二日迄に公布されれば宜いやうに暫定的に決めようと云ふ譯で、特別の規定を設けないのであると云ふ意味の應答がありました、又或委員は、議院法第三十二條の規定は次の議會の新たなる意思が決定されない内に公布が行はれるやうにと云ふ趣旨でないのか、此の規定に關して今囘のやうな特例を設けるには、何か正當な理由がなければならない、單に事實上公布の期間がないと云ふだけでは十分な理由にはならない、法律案提出の原因となつた事態其のものが正當附けられねばならない、詰り此のやうな會期の議會を開くやうにしたことが正當であるかどうかと云ふことが問題である、今囘の議會は客観的な必要に迫られたのではなくして、政府自身の政治上の要求に基いたものではないかと思はれる旨を述べまして、説明を求めました處、金森國務大臣は、自分も第三十二條が會期不繼續の原則を表したものかと思つて、色々研究したけれども、伊東巳代治伯の本にもそんなことは曖にも出て居ない、寧ろ此の規定を文字通りに取つて宜いものと思はれる、併し假令右のやうな意味があるとしても、特殊な場合には例外が許されるのではないか、彼の震災後の議會に於ては、特例を設けずに直ちに公布が出來たのであるけれども、會期は丁度今度のやうになつたのである、併しそれは震災の結果已むを得ずに生じた事態であつた、此の度も此の際に臨時議會を開くと云ふことが是非必要となつたのであつて、其の理由は十分説明が出來る、例へば三箇月の準備期間を要する參議院の選擧の問題は其の著しい理由の一つであり、皇室關係の法律も豫算の關係などから、一日も早く出來上ることが望ましいのであると云ふやうに應答をしました、更に議院法の特例を設けずとも、例へば第三十二條に、特別の場合に應ずる爲の一項を設けると云ふやうな法中改正で宜いのではないかと云ふ質疑に對しては、議院法の改正は此の際としては大袈裟であつて、特例で行く方が寧ろ普通の形であると思ふと云ふ意味の應答がありました、簡單ながら報告を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=35
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036・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 別に御發言もなければ、本案の採決を致します、兩案の第二讀會を開くことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=36
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037・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=37
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038・秋田重季
○子爵秋田重季君 直ちに両案の第二讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=38
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039・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=39
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040・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 秋田子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=40
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041・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=41
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042・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 両案の第二讀會を開きます、御異議がなければ、全部を問題に供します、両案全部、委員長の報告通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=42
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043・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=43
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044・秋田重季
○子爵秋田重季君 直ちに両案の第三讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=44
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045・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=45
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046・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 秋田子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=46
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047・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=47
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048・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 兩案の第三讀會を開きます、兩案全部、第二讀會の決議通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=48
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049・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=49
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050・副島千八
○副島千八君 私は電産爭議に關聯致しまして政府に緊急質疑を致したいと存じます、此の際發言を御許し下さいますやうに希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=50
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051・松村眞一郎
○松村眞一郎君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=51
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052・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 副島君の緊急質疑を許すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=52
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053・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、副島千八君
〔副島千八君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=53
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054・副島千八
○副島千八君 私は電産爭議が一應無事解決致しましたことの新聞報道を見まして、一先づ安心致しました、曩には國鐵ゼネストの協定が成立、今又近く電産爭議の調印を見るに至らむとすることは、國家産業の一時的進展を阻碍するが如き結果を除去し得たものとして、兎も角も喜ぶべきことであります、併しながら是では決して産業復興の前途に何等の光明をも齎すものではありませぬ、抑抑是等の爭議は澎湃として止まる所を知らない物價騰貴及びインフレを主たる原因として起つたものであります、從つて物價騰貴及びインフレを一掃するか、又は之を緩和するに非らざれば、根本的に解決せられたものではないのでありまして、爭議の餘燻は依然として燻つて居ります、而して此の餘燻は益益物價騰貴及びインフレを助長する導火線でもあるのであります、政府は國鐵ゼネストの及したる影響を十分經驗されて居るのでありますから、今囘の此の電産爭議の妥結の影響に付きましては、種々の觀點から愼重の上にも愼重に考察せられたことと信じます、それで私は先づ三四の點に付て御尋ね致したいのであります、其の第一は、若し政府に於きまして何等の善後策を講ぜらるることなく經濟原理の赴く所に放任せらるるものと致しますならば、電産爭議妥協の結果は、電力料金の値上りを必然的の歸結と見なければなりませぬ、電力料金の値上りはガス料金の値上りを伴はずには居らないのであります、電力及びガス料金の値上りは、一般燃料の値上りを招來し、延いては國民の直接生活費を増加せしむることになりませう、更に又是等の値上りが一般産業經濟に及す影響に至りましては、誠に廣汎且深刻なるものがあるのでありまして、其の一例を肥料中の硫安に取りましても、大變なことになるのであります、硫安の製造は非常な電力を要することは御承知の通りであります、現在既に一トン二千六百圓であります、硫安の騰貴は直ちに農産物の騰貴を誘發致します、故に電産爭議妥結の結果と致しまして、電力料金の値上りを生ぜしめないやうにするとか、或は又値上りの影響を或程度迄阻止するが如きことに付きまして、特別の御配慮が出來て居るのでありませうか、此の點に付膳安定本部長官の御答辯を煩はしたいと存じます、此の際附加へて政府に御願ひ申上げて置きますが、今後は主要食糧品の消費者價格を再び引上げることのないやうに格別の御配慮を煩はされたいのであります、露骨に申上げますと、現下の爭議は政治的若しくは思想的の原因もありませうが、其の主たる原因は米の消費者價格をば、一石二百五十圓より四百五十圓に引上げたことに胚胎するものと考へられるのでありまして、政府は寧ろ此の差額を國庫の負擔と致された方が國民經濟上適當ではなかつたかと存じます、政府が厖大なる支出の増加に鑑みられまして、之を消費者の負擔に歸せしめられた事情は固より御察し致すのでありますが、其の影響が物價騰貴及びインフレの面にシーソー・ゲームとなつて底止する所なき結果を齎すものであると云ふことを篤と御考へ置き下さらむことを切望して止まないのであります、第二に御尋ね致しますことは、電産爭議が他の爭議に及す影響であります、電産爭議の要求する所は、今日迄各方面に於きまして主張せられて居りました收入よりも、より以上の收入の増加を求むるもののやうに承知致して居ります、さすれば、既に折角一應納まつて居りました方面に於きましても、更に第二、第三の要求を招來する虞があるのではないでせうか、教育家の爭議はまだ續いて居るやうでありますが、其の要求は現在の物價面から見ますと同情を禁じ得ないものがあるのにも拘りませず、政府は歳出豫算の膨張を來す故を以ちまして、之を滿足せしむること能はざる實情にあるのではないでせうか、其の他此の爭議の歸著を見守つて居ります官民各方面に於きまして、熾烈なる爭議を勃發することも亦想像せられるのであります、故に是等の爭議を未然に防ぐやうな特別の御配慮が十分に拂はれて居るでありませうか、此の點に付て河合厚生大臣の御示しを願ひたいと存じます、尤も私は、若し爭議が起つたらばどうするかと云つたやうな爭議の處理方針を御尋ねして居るのではありませぬ、又今後爭議が起らないやうにする方法はありませぬかと云つたやうな、非常識なことを御尋ねして居るのでもありませぬ、私が御尋ね致して居りますことは、電産爭議の妥結を契機として起ることの虞あるべき爭議を未然に防ぐべき特別の御配慮を御願ひ致す意味に於きまして御尋ね申上げて居るのであります、第三の點は、爭議の主たる原因たる物價騰貴及びインフレに付て石橋大藏大臣に御願ひ致したいのであります、此の問題は、本議場に於きましても既に屡屡論議せらるる所がありました、大藏大臣は、常に一面に於きましては日本銀行の物價調査が本年の二月を最高として漸次下落の傾向にあることを援用せられ、又他面に於きましては、物資増産の裏附を理由として、之に應答せられて居るやうであります、併しながら日本銀行の物價指數は、果して能く現下の闇物價の實相を間違ひなく捕捉し得て居るものでありませうか、凡そ物資は其の供給が季節的の物に於きましては、其の季節を限界として其の價格に相當の増減があるものであります、又今日の如く物資不足の時代に於きましては、物資の供給が物資の種類と其の不足の程度とに依りまして、其の價格に異常の騰落を生ずるものでありませう、故に調査物資の種類も今日のやうな特別經濟事情の下に於きましては、時々變更すべきものでありますが、それでは勿論連續したる調査資料の價値が無いことになります、故に現在の日本銀行の物價指數の上下のみに依つて此の異變時の、而も闇相場の實相を捕捉することは到底出來ないもののやうに存ずるのであります、謂はばこんな調査もあると云つた程度のものでありまして、之を以て立證の基礎資料とするのには足らないものと考へます、本議場に於きましても、一箇の林檎の値段を例示せられたことがあります、林檎は例示的物件としては確かに比較的適當なるものの一つであります、私は茲に一箇の卵を取りませう、本年初頭より漸騰を續けて居るのであります、肉類及び魚類も亦一時的現象を除いては大體に於て多く同樣であります、御覽の通り世間では日に月に、生活費の向上を嘆いて居ります、ゼネストの主たる理由も此處にあるのではありませぬか、私は日本銀行の物價調査よりは一般國民の認識を是なりと信じたいと思ひます、若し大藏大臣が尚此の日銀調査を金科玉條として私に御答になりまするならば、私は其の前に其の物價指數中より少くとも甘藷の一品目だけ控除して御示し下さらむことを要求致します、恐らくはさう致しましたならば、十一月の平均指數は二月の平均指數より遙かに上廻るものと確信致します、大體甘藷は先程も申上げました通り、季節的のものでありますから、之を平均指數に取入るる場合に付、種々の條件が必要であります、少くとも季節的のウエートを考慮せねばならぬものであります、況や本年は豐作で、各家庭に於てすら其の腐つて行くのを嘆いて居ります、特別の事情に依りまして、此の値下りの甚だしき甘藷を加へた統計が平均指數を下廻らしむることは當然ではありませぬか、そこで他方物資増産の裏附の方は如何でありませうか、私は其の實現に付ては多大の疑問を有する者であります、過般ラジオで伺つた所に依りますと、大藏大臣は關西旅行の車中談として、復興建築の遲々たる理由を我が國木材の不足に依ることを指示せられまして、之が急速なる實現を期する爲には、鐵筋コンクリート建造の必要なることを話されたやうであります、誠に御尤もなことであります、併しながら此の鐵筋コンクリート建造は如何にして急速に之を實現することが出來ませうか、ラジオの聽誤りでございますならば、謹んで取消します、何れにしても仰せの通り物資の裏附があるかないかがインフレになるか否かの決定の鍵でありませう、過般來本議場の之に關する質問應答を拜聽致して居りますと、專門家の立場から質問せらるる聲には、金石相搏つやうな眞劍な響がありますが、大藏大臣の答へらるる所は、徒に反響を聽くやうな虚な響を耳にするのであります、故に私は茲に具體的の例を鐵と石炭とに取つて御尋ね致します、鐵鋼の増産が有らゆる工業生産の上に重大なる關係のあることは申す迄もありませぬ、從つて物價の昂騰を抑止する上に於きましても、又積極的に之を引下ぐる爲にも、極めて必要なものであります、是が果して之を期待し得るやうな情勢に進んで居るのでありませうか、吉田總理は本議會の劈頭、數字を擧げて鐵鋼生産の哀れな現状を示されました、私が今御尋ね致して居りますことは、近き將來に於て増産を期待し得るが如き情勢に進んで居るかと云ふことであります、よく戰災燒跡の鐵屑に幻惑せられまして、非常に夥しき數量があるかのやうに御覽になる人もありますが、恐らくは一年の需要にも足らぬものであります、又よく各地に散在して居る所の褐鐵鑛や、東北、北海道方面の砂鐵を重視する人もありますが、之を處理するには多量の動力及び燃料を必要とするのみならず、今日迄の研究の範圍に於きましては、本流の原料となすには大體に於て悲觀的のものになつて居ります、唯僅かに年産數十萬トンの硫化鐵鑛と極めて貧弱なる原鑛埋藏量が現存して居るに過ぎませぬ、從つて御承知の通り、從來主として中國、南洋、朝鮮等に之を仰いで居たのでありますが、果して今後速かに之を獲得することが出來ませうか、若し幸に獲得し得る見込でありましたならば、何か既に具體的の話が進んで居るのでありませうか、又若し不幸にして斯かる希望を繋ぎ得ないと致しまするならば、或は製品としての鐵鋼なり銑鐵なりの輸入に付きまして、何か承るべき良いニユースがあるのでございませうか、又石炭の増産は如何でせうか、私は政府が其の増産に付大いに努力せられて居りますことはよく承知致して居ります、併しながら何時になつたら大藏大臣が考へて居らるるやうな裏附が十分出來るのでありませうか、大正の末期頃に於きましても、我が國に於ては輸入炭の外に二千五百萬トン前後の出炭があつたのであります、其の後一時大いに増産せられましたが、殘念なことには、其の爲に坑内の建設的作業が極めて不十分の状態に抛棄せられまして炭質も漸次低下したのであります、御承知の通り石炭の品位は、從來一トン六千カロリーの熱量を普通のものとしたのでありますが、今日假に之を平均熱量四千カロリーと想定致しますならば、當時に比して五割の増産がなけらねばならぬのであります、而して勞銀は非常に高くなつて居ります、一體炭價の値上のみに依りまして、出炭の増加を圖らむとすることは根本的に間違つて居ると思ひます、現在の如き補償制度の下に於きましては、良質の石炭は成るべく之を留保して、品位の惡い物を出炭する傾向があります、又勞銀の引上のみに依りまして出炭の増加を圖らむとすることも大體に於て間違つて居るのではないかと思ひます、今日のやうに貯蓄心を滅却せしむるやうな經濟事情の下に於きましては、生活物資の購入に必要なる賃金以上に、專心坑内作業に精根を盡すやうな氣分にはなり得ないやうに見受けられるのであります、私は石炭の増産を期せむとせば、鑛業權分布の現状と、其の權利の本質及び行使の面に付檢討を要すると共に、勞働工程に應じて物資の配給を按排するが如き點に於て考ふべきものがあるやうに思ひます、石橋大藏大臣は、物價問題、延いてはインフレ問題解決の基礎たるべき是等重要資源の増産に付て的確なる御自信を御持ちでありませうか、よく第一次歐洲戰後のドイツのインフレーシヨンに比較致しまして、日本の現状を樂觀する人があるのでありますが、是は非常に危險なる見方であります、ドイツの復興には復興するだけの産業上の理由があります、殊にドイツの賠償は巨額なりとは云へ、金錢債務でありました、今日の日本は、原料、資材が乏しき上に、物的賠償であることを注意せねばならぬのであります、物價問題に關聯致しまして、膳國務大臣に御尋ね申上げたいことがあります、膳國務大臣は、嘗て賃金の效率給制を採用することも、生産増強の一方策たるべきやうな御話があつたのであります、先づ之に付きまして、茲に寸時恐縮ながら、甚だ恐縮でございますが、私の乏しき経驗談を御話することの御許しを得たいと思ひます、私は嘗て、今日の日本製鐵がまだ官營の頃、其の次長を致して居りましたが、私は赴任後一箇月餘の長きに亙りまして、毎日午後工場を視察致しました、而して同じ勞務者の中に、非常に働いて居る部門と、目立つて懶けて居る部門とを發見致したのであります、それで、どうしたのかと尋ねて見ますと、一方は請負だが、一方は日の丸だからと云ふ答でありました、日の丸とは即ち官役の意味であります、此の結果給與の支拂方法を研究することになりましたが、當時ドイツより雇傭中のルヲースキーと云ふ技師は、熱心に能率給を主張して已みませぬでした、此の人は後にクルツプの技師長となつた人でありますが、愈愈全面的に能率給を採用することになりまして、大體三割の増産を基準として、勞務者代表との間に基本給料の決定を見たのであります、此の結果は一箇月六十圓前後の給與額が一躍平均七十餘圓程度に跳上りまして、工場に依りましては二倍以上の増産を見るに至つたのであります、能率給の效果著しかりしことは、之に依りましても極めて明瞭でありますが、其の後幾許もなくしてルヲースキーが申すには、日本の勞働者は體力以上に働く結果、病氣に罹る者が殖えて缺勤者が非常に多くなつたと嘆いて居ります、此の能率給制度は製鐵所が民營となるに及びまして遂に廢止せられたのでありますが、増産の奧には斯かる難問題の多いことも計算に入れなければなりませぬ、其の内に増産が出來るものと考へ、通貨の膨脹を容易く先行せしむる如きは、禍根を將來に胎すものでありまして、膨脹したる通貨は數箇月の後には購買力となつて、物價を昂騰せしめる危險があるのであります、故に物價の昂騰を抑止し、インフレ防止の徹底を期する爲には、何としても國民全體が此の上とも窮乏の生活に甘んずる覺悟を以ちまして、一層消費の節約と生産の増強に精勵することが最も肝要のことと考へます、一體政府は現在の日本に於ける總生産なり、總所得なりを如何程に計算されて居られるのでありませうか、此の總生産なり總所得なりが、政府の歳入の基準となり、又同時に物價の基準となり、勞銀の基準ともならねばならぬものと考へます、私は今日の状態に於きましては、政府の歳出は飽く迄之を切り詰めて、國民の負擔を輕減することが肝要であると考へます、成る程聯合軍の爲支出の已むを得ざるものも多いものがありませう、又官吏の増給に依る支出の已むを得ざるものも少くはありますまい、併しながら一方出づる所が大きければ大きい程、他方には節約する所も亦益益大なるものがあらねばなりませぬ、政府は行政財政の整理に付て何か御考のことはないのでありませうか、世の中には能く積極政策と云ふことを口に致します、國を賭して戰ふと言つたやうなことも、所謂積極論であつたでありませう、無謀の計を爲す者は積極論者と言はむよりは寧ろ破壞論者と言はねばならぬ場合が少くないのであります、膳國務相に於かれましては、段々御調査中のこととは存じまするが、物價の安定に關し何か他に御研究の結果を御示し下さることを得ましたならば幸の至りに存じます、以上は私が是より吉田内閣總理大臣に對して緊急質疑を致したいと存ずる問題の前提に過ぎませぬ、それで簡單に其の趣旨を申述べますと、電産爭議等の經過に鑑みまして、吉田内閣が國家再建の施策を實行せられむが爲には、私は衆議院を解散して、信を國民に問はるることを適當なりと認むる者でありますが、之に對しまして、吉田總理はどう御考になりますかと云ふことであります、只今吉田總理は此の席に居られませぬから、何卒他の閣僚より此の點を御傳へ下さいますやうに希望致します、元來私は新憲法の精神に照らし、衆議院は之を解散すべきものと信ずる者でありますが、事苟くも衆議院に關する問題でありまして、解散の結果は各政黨政派の勢力の消長に重大なる關係があるばかりでなく、衆議院議員の各立場にも直接關係することでありますから、貴族院の議場に於きまして、之を論議することの可否に付考ふる所もありましたし、又過般野村嘉六君の御質問に對して吉田總理の御答辯もありましたので、暫く之を差控へることに致して居つたのでありますが、今回電産爭議の妥協的解決を見るに付きまして、政治上の見地より私の所信を明かにすると共に、之に對する吉田總理の御所見を伺ひたいと存ずるのであります、吉田内閣は自由、進歩兩黨の聯立内閣とも言ふべき多數黨の内閣であります、然るに拘らず、私の忌憚なき批判を御許し下さいますならば、局外から冷靜に觀察致して居りますと、どうも十分に落ち著いて居る内閣とは見えないやうであります、最近日に次いで各方面に起りつつあるゼネストが之を證するものとも言ひ得るでありませう、新聞の傳ふる所に依りますと、社會黨では吉田内閣を反動内閣とか、反動政府とか云ふことになつたやうであります、絶對多數の場合には往々にして横暴專斷に流れ易く、自然世の非難を買ふことがあります、吉田内閣は寧ろ極めて遠慮勝ちな内閣と私は見て居ります、斯かる遠慮勝ちな内閣に對し、反動内閣とか反動政府とか云ふ呼稱を敢てする所以を掘り下げて吟味致しましたならば、そこには吉田内閣の強き政治力を是認せざる雰圍氣が國民大衆の中に潛んで居るのではないでせうか、若し此の雰圍氣が漸次瀰漫することがありましたならば、假令今回のゼネストが如何なる妥結を見ませうとも、到底今後相次いで起ることあるべき爭議を打開することは容易ではないと存じます、今日は強き政治を行ふことが極めて大切な秋でありませう、私が強き政治と言ふのは、少數者の利益の爲に多數を不利に陷らしむるが如きことは、斷じて之を排撃せねばならぬやうな政治を意味するのであります、遠慮勝ちな政治は却て眞の民主主義を徹底する所以ではないと存じます、ゼネストの妥結は妥結として祝福することを躊躇する者ではありませぬが、前に述べましたやうな根本的原因を一掃するに付きまして、内閣の基礎を新憲法施行後の國會の上に鞏固に築き上げて、強き政治を行ふことが必要ではないでせうか、私は解散斷行の時期は新憲法施行に關する準備の完了を俟つて、然る後にすることを寧ろ主張するものでありまして、此の時期を劃して強き政治を行ひ得る内閣の確立を希望するものであります、斯くして其の後に確立せらるべき内閣は豫め之を想定する必要を認めないのであります、若し吉田總理が解散を斷行せらるることなく此の儘遷延推移致されましたならば、政府の施策は次第に昏迷遲滯を來し、遂に彌縫收拾すること能はざる事態を生ずることあるべきを恐るるものであります、吉田總理は此の四月の總選擧を以て現在の我が國民の選擧權者の意向を遺憾なく表明し得たものと御考になつて居られますか、私の見る所を以てすれば、過般の選擧は、現在の選擧權者に明春二三月頃迄に歸還する人々を加へましたならば、總選擧當時の有權者總數の一割に近い投票が行使されて居らないことになるのではないでせうか、而も是等の表明せられざりし、權利者の中には、過去に於て我が政界に重要な役割を務めた華族の戸主があります、又選擧人名簿に漏れたる多數の戰災者があります、復員軍人があります、更に又海外の政治、經濟、思想、文化等に親しく接觸して我が國の現状に相當の變革と改善の必要を體得せる歸還同胞も多いのでありまして、權利者として實質から見まするならば、概して尊重すべき分子であります、而して各方面の企業勞務者の中には、歸還同胞や復員軍人も相當に居るのでありまして、政治の現状に滿足しない空氣があるのではないでせうか、石炭の産出が思ふやうに參らぬ中にも、斯かる空氣が混入して居るのではないでせうか、政治家の明察と決斷とを要する秋と考へます、私は吉田總理は周圍の勸奬に押されて、内閣を引受けられ、此の難局を乘り切つて居らるる方でありまして、決して政權に戀々たる人ではないことを承知して居ります、過日新たに政綱を發表せられ、愈愈本腰を据えて今後の政局を擔當する御決心を示されたことに付きましては、大いに其の意氣を壯とするものではありますが、果して適當の機會に於て信を國民に問はるることが立憲的態度と云ふべきではないでせうか、若し解散の結果吉田内閣の退陣を餘儀なくせらるるやうなことがあつては、國家再建の前途を暗くするものとして、解散を囘避するやうな説がありましたならば、私は是は非常に間違つて居るものと考へます、又若し新憲法施行の準備中に解散の意圖を明かにしては、衆議院の協力態勢を惡化する虞があるとか云つたやうな説を爲す者がありましたならば、私は遠からず廢止の運命にある我が貴族院が孜々として最後の御奉公に邁進しつつある現状を以て、毫も真の憂なきことを斷言致したいと思ひます、私は昔學童の頃、現行憲法施行後第一囘目の解散當時、全國に起りました憲政運動展開の光景を囘顧致しまして、新憲法の精神を國民に普及宣傳する上より見ましても、解散を行ふことが最も捷徑であり、又效果的であると信ずる者であります、吉田總理の御答辯を期待して一應私の質疑を終る次第であります
〔松尾嘉右ヱ門君「先程の私の質問は、あれはどうなつたのでありませうか、伺ひます」と述ぶ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=54
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055・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 只今の緊急質疑に對して答辯を許可致します、松尾君に對しては後に御答を致します、河合厚生大臣
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=55
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056・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今副島議員から電産ストライキの、他に及す影響と云ふ點に付て先づ御尋がありました、是は成るベく他に波及せざることを政府も心から希望して居る次第でありまするが、矢張り社會現象としまして、惡くしますると、幾分か山彦のやうな響を持つて來ぬとも限りませぬ、非常に心配して居る點であります、是は只今副島君の御指摘のやうに此の爭議の起きまするのは、單純な問題でありませぬで、色々複雜な原因がありまする上に、特に生活難と云ふ問題が中心になつて居りまして、此の生活難と云ふことは、御承知の通りに、敗戰後の物資が不足致して居りまする時に、どうしても一人當り百の物が六十とか七十とかしかありませぬ、それで段々と此の闇相場も出て來、又生活難も出て來ると云ふやうな根本的原因が潛んで居るのであります、之を徒に彈壓しましても、其の效果の擧るものでは決してありませぬ、殊に大體此の爭議と云ふものは、當事者間に於て經營者と勞働者との爭でありまするから、當事者間に於て自主的に大體決定すると云ふことになり、又大體それが民主的政治の線に沿うたやり方でありまするので、深くは之に立入るのは、政府としても差控へて居る譯であります、唯非常に是が公益上もう顯著な影響を持つて來る、例へば此の間の如く、私の方から調停委員會に頼んだのでありまするけれども、其の調停委員會の調停案が、平均賃金が月收二千百五十圓、勿論此の中三百圓ばかりの基準外、即ち宿直とか居殘りとかと云ふ實收賃金は入つて居りまするが、二千百五十圓と云ふやうな大きな數字になりますると、是はもう明かにインフレーシヨンにも影響あり、又電氣料金値上にも直ちに重大な影響があると見ましたので、是は好ましくないと云ふ表明を致したなどのことはありまするが、此の間解決しましたのは、先づ平均賃金二百圓餘りの増加になつて居りまして、二割強の増加と見當を付けて居ります、それ位の點に於きましては、政府としては極積的に、勿論公益には幾らかの影響はあります、ありますけれども、そこ迄は深く立入るべきものでなからうと云ふ建前を取つて居る譯であります、併しさう云ふ社會事實としまして、是が又他にも波及する虞のあることは十分認めて居りまして、其の點は十分警戒もし、又さういふ影響の成るべく少からむことを希望して居る次第であります、それから第二の點に付て、之を未前に防止する方法と云ふ意味に於て色々根本的の意味を持つた御尋がありました、是も非常に實はむづかしい問題でありまして、其の場、其の場に起きて來たものに對する措置は、是は自から別としまして、矢張り根本的の問題としましては、どうしても此の國家の現状に對する自覺と云ふことが一番問題の重點になつて居りまして、是で、御互に斯う云ふことをして居つたのでは國家の再建が遲れる、大變なことになる、もつと惡い事態になる、まあ我慢出來ることは出來るだけ我慢しようぢやないかと云ふやうな氣持が先づ第一でありまするが、積極的には、勞資の間で出來るだけ協調を保ちまして、さうして最近一つの空氣が起きて居ります、例へば復興會議のやうな空氣、是ぢやどうもいかぬから、矢張りマネージメントとレーバラーとの、間に、一つ手を繋いで國家の爲めやらうぢやないかと云ふ空氣などが起きて居りまして、斯う云ふ點に付ては政府としても出來るだけさう云ふ風に行きたい、殊にマーネジメントの方面に於て、それに對する相當飛躍的な反省を加へて居ると云ふやうな事實なども大分見えて來ました、さう云ふ點に付ては其の線に於てうまく進みたいものだと云ふ考で居ります、それから尚根本の問題としましては、先程副島議員から色々御尋ね、或は御意見のあつた、強力なる生産對策、資材の獲得、石炭の増産、其の他社會政策方面としまして、生活の安定と云ふ面に全力を注いで行くと云ふ方面をやつて行くより外に特別な方法はないと私は考へるのであります、尚一言米價の問題に付て今日は和田農林大臣も御見えになつて居りませぬから、ちよつと此の點に付て私から御説明申上げますが米價を、消費者價格を上げたことがインフレと非常に重大な關係があるやの御議論であります、是は勿論上げたことでありますから、生活の上に影響のあることは、其の儘認めなくちやなりませぬが、唯あれは二合一勺と云ふやうな場合には、二合一勺では迚も食へぬのだから、何とか彼とか各自が苦心滲憺をして食糧を餘計持つて來なくちやならぬ、それを假に二合三勺との間を較べますれば、五人家族で一月に約六升違ひます、此の六升を高い値段で買つて居つたのを、今度は二合五勺にして、それは上げたには上げたが、配給價格だから安いのだ、其の算盤を取つて見ますると、此の二合五勺に殖やした爲に、消費者の方は決して餘計金が出ないと云ふことに算盤がなつて居りまするので、其の點に於て配給を増加しましたから其の米の問題がストライキを誘發したものなりとは、多少は影響はあるかも知れませぬが、私共の方では大きな原因とは考へて居りませぬ、其のことを私からちよつと御説明致して置きます
〔國務大臣膳桂之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=56
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057・膳桂之助
○國務大臣(膳桂之助君) 私に御尋のありました點に付て御答へ致します、電産爭議の妥結の結果賃金の引上があつて、是が直ちに雷氣料金に影響を及すではないか、又是が或はガス其の他の料金にも影響が來るではないか、又電氣料金が上れば、肥料の價格が上る、又米の價格が上るやうなことがあるまいか、と云ふやうな點に付て、根本の御意見及び御質問があつたのでありますが、此の電産爭議の解決及びそれの經過の間に於きまする政府の態度に付きましては、只今厚生大臣から御答がありましたから、私から繰返して申上げませぬ、勿論假に二割強の値上に致しましても、電氣從業員の給料に値上がありますれば、是が會社の經費に影響を及ぼし、電氣料金に影響のあると云ふことは勿論であります、併しながら直ちに此の値上げのものが其の儘電氣料金に映ずるとも考へられませぬ、會社に於きましては、相當業務の刷新等に依りまする經費の節約も考へて居るやうでありまするし、又其の前提の下に會社側では從業員側に二割強の値上をば認めた事實もあるのであります、私物價廳の當局と致しまして、料金の値上を考へまする際には、諸般の事情を考へまして決定致しますので、直ちに此の賃金の値上其のものが料金に映るとは考へられませぬ、併し多少の影響があることは事實であります、併し是は、此の物價の關係、又此の電氣の從業員、それと會社との關係に於きまして妥結されましたものは、相當尊重されなければならぬことは勿論であります、唯此の肥料の價格に影響があるではあるまいかと云ふ點でありますが、勿論今日に於きましても、相當肥料が高價になつて居ります、是は米價の値上りと肥料の値上りとの間に均衡を失する點もありますので、政府は本年度及び來年に引續きまして、どう云ふ風に私の肥料の價格に余裕を持たせるか、端的に申しますると、米價の引上率と肥料の値上率との間に相當の開きもありまするので、其の間相當の補助金に依りまして、米の生産に惡影響のないやうな調節を致したい、斯う云ふ補給金に付て考へて居ります、さう云ふやうなことで、直ちに電氣料金の値上りが肥料、肥料が又米價と云ふものに惡循環的に影響を及すことを防ぐやうに考へて居る次第でありますので、御了承願ひます、又米價の問題に付きましては、厚生大臣から只今申上げましたので、私から繰返して申上げませぬ、次に能率給に關係しまして、物價と賃金政策の關係に付ての御尋がございましたが、此の能率給に付ての副島議員の御經驗は、なかなか貴重な御經驗で、非常に貴重な示唆を得まして、有難うございましたが、幸に、最近産業の再建に從來のやうな能率に關係のない給與制度のいけないと云ふことに付きましては、まあ輿論になつて參つたと申上げても宜いと思ひます、各方面で此の點を中心に研究する向も段々多くなつて參りました。是は政府は直ちに各般の産業に付きまして、能率給の直接の形態等を指示する必要もございませぬが、其の空氣をば出來るだけ、なんと申しますか、適當に指導して參りたいと存じます、必ずや是は産業の再建に効果のあるものと存じて居ります、又此の賃金の將來の方策をどうするか、一方に物價騰貴と云ふ事實もあります、さうかと言つて之に伴ふ賃金を増すと、お互に惡循環をして參ると云ふことも申上げる迄もないことであります、此の問題に付きましては、要するに物價、生活費、それから産業の負擔それと賃金、此の關係を如何に律するかと云ふことに付きまして、近く政府では給與審議會なるものを設けまして、事業家側の代表者、勞働組合の代表者、又公益を代表する者、それに政府も加はりまして、此の審議會に於て將來賃金政策を如何にするや、勿論其の場合には一方には生計費の調査、是も重要なる資料となります、又一方に於ては先程の副島議員の御意見の中にも現れました通り、現在のやうな日本の物資の不足の際、國富の減少しました際に、國民一人當りにどれだけの國富が果して分け得られるや此の國の富、生産力、是と國民の間の所得との關係、是等を科學的に研究致しました數字、又それに加へまして現在の各産業に於きまする賃金の水準、斯ふ云ふやうなものを見合ひまして、此の審議會に於て、斯ふ云ふ際にはどう云ふ標準の賃金を適當とするやと云ふことの研究を進めて參りたい、勿論分けべき物資の少い時に、分けべき人間が殖えて居るのでありますから、一人當りの所得の少いことは當然であります、即ち生産の増強しない間は、お互に所謂耐乏生活をしなければならぬことは當然でありますが、是をば數字の上で何人も納得するが如き研究を致しまして、忍ぶべきものは忍び、又忍んだ上で増産を圖つて、更に將來の分配をば増すと云ふことを期待する、斯ふ云ふやうな研究は政府だけではいけませぬので、産業に直接關係のある勞資及び公益を代表する方面の人々が一緒に此の問題を研究しまして、經濟再建をやり切る、又此の經濟危機を乘切る爲には、如何なる程度迄産業は負擔すべきか、又如何なる程度迄勤勞階級も耐乏生活をば、我慢すべきかと云ふやうなことをば研究を致し、御互に協力の上に、此の賃金及び産業と云ふ關係に誤らない指針を御互の間に會得するやうに指導して參りたい、斯樣に考へて居る譯であります、御答辯申上げます
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=57
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058・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今副島議員から、私が日本銀行の指數を金科玉條として云々と云ふ御批評でありましたが、私は必ずしも金科玉條とする譯ぢやありませぬ、併しながら是は單なる感じよりは、兎に角物價指數なるものは一つの科學的のものであらうと私は思ひます、且又、御承知のやうに世の中に世界中の物價指數の中で完全無缺な物價指數と云ふものはないのであります、況んや今日の如き日本の現状でありますから非常に不完全なものであることは言ふ迄もありませぬが、併し是は日本銀行でやつて居るばかりでなく、物價廳其の他でもやつて居りますが、何れの調査を見ましても、物價は大體今春から横這ひと云ふ傾向を示して居ることは事實だと思ひます、其の中から甘藷だけ拔いて見せると云ふ御言葉でありましたが、實は只今其の數字を此處に持つて居りませぬから、何れ機會を見まして甘藷だけ拔いたものを御覽に入れようと存じます、斯樣な譯で、私は兎に角日本銀行其の他の最近の物價の調査と云ふものを、基礎にして考ふべきものと確信して居ります、一體物が騰つたり、それから紙幣が増加しますと、何でもかんでもインフレと簡單に申すのでありますが、私はインフレとデフレと云ふものには一定の意味があり、又政策上さう考へなきやいかぬと思つて、實ははつきりと考を付けて居るのでありますが、詰り何故に我々が或現象をインフレと言ふかと云ふと、それには通常インフレと言ふ場合には、即ちインフレに對する對策があり、デフレと言ふ場合にはデフレとしての對策があるから、此の現象をインフレと認めデフレと申すのだと思ひます、今日の現象が若し所謂インフレであるならば、此の對策は非常に簡單でありまして、通貨を縮少して物價を下げれば宜いのでありますけれども、さう云ふ對策で處理の出來る現象ではないと私は考へて居りますから、そこで私は此の今日を單なるインフレと見ない、然らば何かと云ふと、副島議員と同論でありまして、結局物の生産、増産である、だから私は今日の物價は此の春迄の非常な騰貴、非常な水準に達した騰貴に對しては、戰時中及び終戰直後のインフレが影響して居るのが一つ、もう一つは物資全體の飢饉、其の全體物資の飢饉は、今日も續いて居る、此の春以來物價は横這ひ、通貨は増加して居るが、横這ひと云ふのが、一應インフレと云ふ面は頭を打つた、併しながら飢饉の面は現實存續して居りますから、從つて物價の下落は起りませぬ、若し今後生産が殖えない、從つて世間で心配して居る、又事實心配でもありますが、生産が減ると云ふことならば、飢饉は益益ひどくなると云ふことは覺悟しなければならぬのでありまして、それにはそれの對策を樹てるのであります、是はインフレ對策ではありませぬ、物價を下げると云ふことだけでは飢饉は直らぬと考へて居ります、物の裏附け、私が何處か旅行の時に、木造建築よりは、鐵筋コンクリート云ふことを申したと云ふので、左樣な物の増産の確信があるかと云ふ御話でありますが、是は鐵筋コンクリートの話は前からさう云ふ考を持つて居るのでありまして、木造では建築費の下がる見込は乏しいが、鐵筋ならば其の見込はあります、是は石炭さへあれば可能なことであると云ふ話をしたのでありますが、然らば石炭、其の他の増産が出來るかと云ふと、是は前途のことでありますが、出來る出來ないではない、どうしても現在の政府はやらなければならぬと云ふ覺悟でやつて居る次第であります、結局副島議員の御説でも詰り生産増加、それから消費節約、就中政府の財政の切詰めと云ふ御結論のやうでありますが、其の點に付ては全然同感でありまして、固より大藏大臣として、又政府全體も増産第一、同時に當面の處理としては、出來るだけ政府財政の切詰も致す積りであります、唯併しながら御話の中にもありますやうに、直ぐに米も、是は國家が負擔しろ、今膳國務大臣が言はれたやうに、肥料の負擔も政府の財政でやれ、斯う云ふのでありますから、一方に於ては此の財政の負擔は益益増すやうな要求が大いに出て居ることも御了承を願ひたい、併し是は赤字で唯やる譯に行かないから、出來るだけ増税でやる、斯う云ふ覺悟で居ります、行政整理の問題は無論考へて居る譯でありまして、出來るだけの切詰を致すやうにして居りますが、併し是も現状に於ては色々聯合軍との關係などで事務は日々殖えるばかりでありまして、實際に於ては隨分切詰められて居る、行政面の此の上の切詰が、非常な困難な状況にあると云ふことも御了承を願ひたい、斯樣な色々の矛盾した要求が現在の日本にはあります、其の矛盾した要求、一方に於てはどうしても支出を殖やさなければならぬ、殖やせと云ふ要求、同時に殖やせばインフレになるから減せと云ふ要求、税も上げてはいかぬと云ふ、斯う云ふ少くとも三つの矛盾した要求が同じ人の口から同じ時に出る、斯う云ふのが日本の現状でありまして、此の矛盾した要求は何れも御尤のやうでありますが、其の矛盾した要求を、どうして調節して行くかと云ふことに付て、政府は目下苦心をして居る次第であります、何卒御了承願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=58
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059・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 先刻の松尾君の發言に對し政府より發言がございませぬが、松尾君の御趣旨は政府に於ても聽いて居られたものと議長は認めますから、松尾君も此の邊で御了承下さるやうに希望致します、次會の議事日程は決定次第彙報を以て御通知に及びます、本日は是にて散會致します
午後一時三十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00519461204&spkNum=59
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