1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年十二月十九日(木曜日)午前十時十二分開議
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議事日程 第七號
昭和二十一年十二月十九日
午前十時開議
一 内閣法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
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001・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 去る十六日黒澤富次郎君、貴族院令第一條第六號に依り貴族院議員に任ぜられました、就きましては、部屬を第八部に定めました
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=1
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002・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 其の他諸般の報告は御異議がなければ朗讀を省略致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=2
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003・会議録情報2
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〔參照〕
去ル十六日議決ニ係ル議員青木周三君ニ對スル弔辭ハ即日之ヲ贈レリ
同日本院ニ於テ修正議決シタル左ノ政府提出案ハ即日之ヲ衆議院ニ送付セリ
参議院議員選挙法案
同日委員長ヨリ左ノ通分科擔當委員及兼務委員ヲ選定シタル旨ノ報告書ヲ提出セリ
豫算委員 竹下豐次君
第三分科擔當委員
豫算委員 河端作兵衞君
第三分科擔當委員及第一分科兼務委員
請願委員 丹羽彪吉君
第一分科擔當委員及第三分科兼務委員
請願委員 名古屋三吉君
第四分科擔當委員
同日皇室典範案特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
委員長 伯爵 二荒芳徳君
副委員長 男爵 今園國貞君
昨十八日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
内閣法案
同日内閣總理大臣ヨリ左ノ通第九十一囘帝國議會政府委員仰付ラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
政府委員
復員事務官 山本丑之助君
本日第一部ニ於テ豫算委員出淵勝次君ノ補闕選擧ヲ行ヒシニ坂田幹太君當選セリ
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=3
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004・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より本日の會議を開きます、去る十五日正三位勳一等桑木嚴翼君薨去せられました、誠に哀悼の至りに堪へませぬ、就きましては弔辭を贈りたいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=4
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005・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、尚桑木君の薨去に依り資格審査委員に闕員を生じました、仍て第九部に於て其の補闕選擧を行はれむことを望みます
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006・板谷順助
○板谷順助君 私は此の際甚だ僭越とは存じまするが、諸君の御贊成を得まして、我が國の復興に付て重大の關係のありまする賠償問題、追放令の問題に付て、政府の所見を質したいと思ひます、何卒議長に於て然るべく御取計らひあらむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=6
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007・長島銀藏
○長島銀藏君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=7
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008・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 板谷君の緊急質疑の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=8
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009・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、板谷君
〔板谷順助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=9
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010・板谷順助
○板谷順助君 私が此の度緊急質問を致しまする所以は、現在の我が國の輿論に鑑みまして、賠償問題、又追放令問題が重大問題と考へまするが故に、政府の所見を質したいと思ふのであります、從つて之に對する答辯は、民意を代表して居る所の吉田總理大臣、幣原国務大臣、即ち一黨の総裁でゐらつしやる方に質問する考であつたのでありまするが、吉田總理は御病氣の爲に御缺席になつて居ります、幣原國務大臣竝に内務大臣、商工大臣が關聯して居ることでありまするから、御出席を要求したのでありまするけれども、御差支へがあつてお出でがありませぬ、其處で私の質問に對しては、國務大臣として幣原國務大臣竝に齋藤國務大臣、植原國務大臣からそれぞれ御答辯を願ひたいと存じます、尚議長に御願ひ致して置きまするが、私の發言中、若し不穩當の點があると致しましたならば、御注意を願ひたい、私はそれに付ては善處したいと存ずる次第であります、此の點を豫め御願ひ申上げて置きます、申す迄もなく我が國は敗戰國でありまして、獨立國ではありませぬ、現在占領軍の統治下に置かれて居るのでありまして、國家國民共貧乏世帶となつて力のない状態であります、而して私は率直に申しまするが、占領軍の目的を達するに付きましても、其の費用すら思ふやうに賄ひ得ない財政状態であります、そこで我々國民は戰爭の恐るべき慘禍を體驗して居りまして、敗戰を自覺してポツダム宣言に對しては誠實に實行して居る、又占領軍の命令に對しましては絶對に服從をして居る現状であります、勿論敗戰國として是は當然の義務でありまするが、此の行詰つたる窮状に對し、又破壞されたる日本の復興に對して聯合國が多大の援助を與へられて居りますることに付ては、誠に感謝に堪へない次第であります、更に又春以來我が國の食糧危機に對しましてはアメリカより多大の援助を受け、又最近に於て肥料、鹽、油、罐詰、無煙炭、トラツク等の輸入を見ることになりまして、殊にマツカーサー元帥の寛大なる慈愛心に依つて我が國の民主的國家建設も其の緒に就きまして、救ひの神として國民一同尊敬の念に滿ち、誠に感謝感激の至りに堪へない次第であります、而して此のポツダム宣言に依りますれば、我が國の最低生活の水準を維持さして、決して奴隷視するものではない、又アメリカ本國よりの報道に依りましても、日本經濟は民生安定の爲に自給自足の出來る國家になるやうに援助すると云ふことは、占領軍政策の重要の面だと云ふことを言明されて居るのであります、誠に感謝の至りに堪へない次第であります、而して此の見地から今囘發表されましたる賠償問題に對するポーレー案を検討して見ますると云ふと、私は一々此處に數字を擧げませぬけれども、若し此の案が其の儘實行されました曉には、我が國の産業は殆ど全滅に瀕する状態に置かれまして、國民一同不安の思ひに驅られて何事も手に著かざる現在の實情であります、勿論敗戰國の義務と致しまして、賠償の責任のあると云ふことは當然であります、ありまするが、未だ確定案は出來て居らぬと云ふことでもあり、又政府に於きましても、之が緩和に付ては出來るだけの努力は爲されて居ることとは信じて居りまするが、此の賠償案は最後の決定に依つて、政府は我が國の將來に於て自給自足に依つて、年々歳々人口は増加をする、此の國民の生活の水準を維持して、産業經濟の基礎を確立することに付て如何なる見透しを持つて居られるか、先づ第一に此の點を御伺ひする、如何に敗戰國でありましても、虚脱状態から脱却致しまして、國民等しく自主的、民主的に、事業家も、勤勞大衆も大局に目覺めて、擧國一致奮ひ起つて復興に努力してこそ初めて聯合國の援助も仰がれることと思ふのでありまするが、之に對する所の政府の決意と方策を御伺ひしたい、是が第二點であります、若し將來我が國が自給自足の方途を立てるに付て、又更に見返り物資を製造するに付て、何程の機械、其の他の物資を要するか、若し此の難局を切り拔けると云ふことが不可能であると致しましたならば、聯合國に對して極力懇請せねばならぬと思ふ、思ふが、其の交渉の經過を御報告を願ひたい、次に御伺ひ致したいことは、經濟界の追放令の問題であります、我が國が軍閥、官僚に誤られて、無暴なる戰爭を起し、國民は非常なる憂目を見て居る、又聯合各國に對し多大の損害を與へたることに對しましては、國民は恐縮、反省して陳謝せねばならぬことは當然であります、斯かる企てを爲したる首謀者は目下戰犯に付せられ、財閥は解體をされ、軍國主義者及び極端なる所の國家主義者は、政府は進んで自主的に追放せねばならぬことは當然であります、そこで私は甚だ僭越の申分でありまするが、輿論に鑑みまして、聯合國初め政府に對して御考慮を煩はしたい點があるのであります、凡そ世界何れの國に於きましても、自國が戰爭に卷き込まれた場合に於きまして、其の戰爭の可否は別問題として、既に開戰となつた以上は、國家の存立に關し、危急存亡に關する重大な出來事に對しましては、國民が擧つて其の難に赴くと云ふことは、愛國心の發露であつて、自然の勢ひの赴く處已むを得ざることと言はねばならぬのであります、又恐らくは何人と雖も敗戰を希望する者なぞが絶對にあらう譯はないのであります、從つて其の當時の我が國情は軍閥、官僚に強要せられ、大勢に支配され、好むと好まざるに拘らず、強制的に徴用されたのであります、又一方戰爭反對者は手も足も出ず、是亦已むを得ず傍觀的態度を取つて居つたのであります、故に若し其の戰爭の責任が誰にあるかと申すならば、首謀者は勿論のことでありまするが、直接間接を問はず國民全部が其の責任を負はねばならぬと私は思ふ者であります、(「ノー」と呼ぶ者あり)此の見地から第一に首謀者竝に直接關係者が責任を取ると云ふことは當然でありまするが、末端の協力者に對しては寛大なる所の御處置あらむことを私は政府を通じて聯合各國に懇請をする者であります、即ち是等の人々は軍事には共鳴せずとも、平和愛好を念願として、一日も早く戰爭が終結するやう、已むを得ず指導を受け、行動したる者が大多數あるのであります、然るに指導したる所の立場にありし者が其の罪を逃れ、指導を受けたる者が其の罪を問はれむとする傾向のあることを、私は非常に遺憾に存ずる者であります、此の點に付て當時の實状を申上げまするならば、各會社、軍需工場、金融機關等の責任者と云ひ、又之に從事して居る所の職員、從業者等の使用人側と云ひ、責任の廣狹又仕事の大小あつて、立場は異つて居りましても、大勢に支配されて已むを得ず軍事に協力したる精神に於ては何等變りはないと信ずる者であります、然るに政府は單に枠の一線を引いて、一律一體に當嵌めることは甚だ不合理である、軍國主義を絶滅し、民主的平和國家を作らむとするのは、先づ第一に個人の性格と、從來の經歴に付て十分に再審査する必要ありと思ふが、政府は之に對して積極的に如何なる手段方法を執つて居るか伺ひたい、從來私をして言はしめるならば、政府の調査は杜撰不徹底に思はれる、從つて是が爲に人心を不安に陷れる虞があると思ふのでありますが、一體之に關する所の勅令は何時發布なさる御考であるか、それを伺ひたい、現に學者其の他の方面に於て、再審査の結果除外されて居る者があるではないか、尚又地方公職者又公共事業寄附者等も同樣でありますが、政府は是等の個人の資格に付て、嚴密に審査をして居るのか伺ひたい、聞く所に依れば、政府は翼贊會支部長、翼壯團長、郷軍長等約六萬人、第二種の町村長、助役、町内會長、部落長約七十萬人追放せむとして居ると云ふが、是等の人々の中には、民主的平和愛好者であつても、上部の命令に依つて、自分の今日の失業を恐れ、唯名目だけの肩書を附せられたる人物も相當にあることと思ふのでありますが、若し是等が一時に退職をしても、地方自治行政の運用に付て支障なき確信を持つて居られるかどうかと云ふことを御伺ひをしたい、私は終戰後に於ける世相を見ますると云ふと、道義は頽れ、思想は惡化し、私をして極言せしめるならば、我が國の現状は亂世同樣である、混亂を極めて居る、是等の一部の人々の中には、或は戰爭に反對であつた、或は又戰爭には關係しなかつたとか、自己本位に責任を轉嫁し、其の結果先輩を排撃し、同僚相反目し、醜態を演じつつある情勢は實に卑怯千萬のやり方であつて、聯合國に對しても誠に恥かしく、我が國の淳風美俗を害するものと言はねばならぬのであります、現に追放令の好機に乘じ、民主的の美名の下に、從來の役員の總退陣を迫り、其の實權を握らむとする策動が到る處に起りつつある情勢であります、若し此の儘放任して置いたならば、經濟界の混亂を來し、産業は澁滯をして、果して是等の未經驗者が此の難關を切拔け得るや否や、更に又目前には賠償問題を解決せねばならぬと云ふ重大な役目が横たはつて居るのであります、此の際に於て、此の使命を全うして、更に再建の方途を樹て得るや否や、私は産業界の前途に對して非常に不安の念に堪へない次第でありまするが、政府の之に對する所の所見を伺ひたい、勿論將來民主的に後進の道を開くと云ふことは當然であります、又是等の責任の立場にある人々も、早晩進退を決すべき時期も來ることと思ふのでありまするが、先決問題として、先づ第一に此の賠償問題を支障なく完了せねばならぬ、又内部の整理が出來、平和國家建設の見透しの付きたる以後に於て圓滿に解決することが、何れの方面から見ても有利であると私は確信するものでありまするが、政府の所見は如何であるか、更に又御伺ひしたいことは、此の賠償案に付きましては、現に對日理事會に於てそれぞれ論議をされて居るのであります、又アメリカ本國に於て、或はイギリス本國に於て、中華民國に於て、種々なる報道が今日傳つて居るのであります、又更に此の賠償は、明春匆々撤去する旨新聞に報道されて居るのでありまするが、政府は是等の處理に對して短時日の間に荷造り等の資材其の他に付ての準備が出來て居るのか、若し如何に努力をしても不可能であると致しましたならば、豫め聯合國に懇請をして、相手國の受入れ整備の出來たものより徐々に除去して、其の間我が國の復興の爲に使用の許可を請ひ、賠償物件の有效適切に利用さるるやう希望するが、政府は其の手段を盡して居るかどうか、此の點を御伺ひしたい、以上私が今述べましたることは、輿論に鑑みて申上げて居るのでありまするが、若し政府が、私が只今申上げましたる所の意見に對して同意であると言ふのならば、先づ自主的に具體案を作つて、聯合國に懇請して、緩和の方法を取るやう政府を通じて要望する次第であります、以上私の只今申上げましたる點に對しまして、明確なる御答辯あらむことを希望致します
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=10
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011・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 只今の御質問の第一點は、賠償問題に關する問題であります、賠償問題に關係致しましては、まだ何等確定的の案はないのであります、色々外國の新聞では論議されて居ります、日本の新聞にも論議されております、併しながら此の際、此の程度の段階に於て斯う云ふことを論議するのは、私は公共の利益にまだ合致しないものと考へまするから、此の點の御答辯は差控へます、それから其の次は經濟問題竝に此の地方行政の問題に關する追放問題であります、如何にも今の御話の如く、自分個人としては軍國主義でもなければ、戰爭に積極的に協力したと云ふ、さう云ふ意思でやられた方でもない者が多いと私は存じて居ります、併しながら此の問題に關しましては、まだ實は勅令案と云ふものは決まつて居らないのであります、いつ頃それが發布されるかと云ふ御質問でありますけれども、之には色々複雜せる問題がありまして、まだ政府部内に議が纏つて居ないのでありまするから、いつ頃發布されるか、今日は申上げることは出來ませぬ、急にはまだ發布の日には至らぬものと、斯う御承知を願ひたいのであります
〔國務大臣植原悦二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=11
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012・植原悦二郎
○國務大臣(植原悦二郎君) 板谷君の名を指しての御質問でありまするからして、私の御答を簡單に申上げることを御許を願ひたいのであります、板谷君の大體の御質問は斯樣に了承致しました、現在の日本の状態は尋常一樣ならざる有樣である、經濟と言ひ、産業と言ひ、社會の状態と言ひ、面も經濟の状態に於ては、自力にして本當に再建をも容易でならないやうに考へられる、從つて米國から食糧の問題も其の好意に依つて漸く解決を致したやうな状態である、原料、資材の點に於ては、米國の好意に依つて重油や無煙炭や、トラツクの最近輸入を見るに至つたやうな有樣だ、之に對しては國民は唯感謝の念を披瀝するばかりでなく、此の現實に鑑みて勞資協調して有ゆる方面の者が一致團結して此の再建に當らなければならない、其の時に非常な追放の問題に依つて財界と言ひ、政界と言ひ、或一種の混亂状態を呈して居るが如くに考へられる、現在の世間に傳つて居るが如き追放の状態が實施されるならば、産業の再建も容易ぢやない、又政界に於ける追放の噂されて居るが如き末端迄に行はれる場合に於ては、地方自治團體も混亂に陷る虞がある、之に對して致府は追放の問題に付ては愼重に考慮致して取扱ふと共に、若し是が聯合國の意思であるならば、之に對して緩和する方策をも必要があるのではなからうか、斯樣な質問の御要旨と承知致します、で板谷君の御説に依りますれば、一國が戰爭をして居る場合には、好むと好まざるとに拘らず、全部之に追從することは當然だと云ふ御意見でありましたが、ナチ式の國家に於て、又日本の大政翼贊會に依つて支配されて居つたが如き状態の下に於ては、御説も御尤でありませう、けれども民主主義國家に於ては自己の各各の見解に依つて國家に最善なりとする所に依つて行動するのが當然のことであります、従つて如何なる戰爭状態に於ても其の戰爭が國家の爲に不利だと思ひまする時には敢然と立つて之に反對するやうでなければ、民主政治は行はれないのであります、此の點を能く御理解爲さらない所に御質問の要點があるではなからうかと思ひます、我が國はポツダム宣言の受諾に依つて民主的平和國家を建設しなければならない義務を負はされて居ります、それ故に此の場合に國民は本當に民主主義の政治を行ふには如何に致さなければならないかと云ふことを掘下げて深刻に考へる場合に於ては、唯政府の戰爭目的に無意味に附和雷同するやうな國民性を根本的に治療する必要があるではありますまいか、此の立場から申しますれば、戰爭に協力した大政翼贊會、或は翼政會の人が追放されると云ふことも、原則としては致し方のないと云ふことを先づ御了解爲さらなければならないと思ひます、左樣に考へることが本當にポツダム宣言を忠實に履行する所以ではありますまいか、本當に日本の國民がポツダム宣言を忠實に履行するならば、自ら進んで戰爭に協力した者は有らゆる方面に於て遠慮するだけの覺悟と用意がなければ、本當にポツダム宣言の忠實なる覆行者と云ふことは出來ないではありますまいか、日本の國情はまだ過去の教育に囚はれて其の状態迄進んで居りませぬ、故に追放の問題が行はれる、其の追放の問題を行ふ場合に於きましては、或一定の枠を作ると云ふことも已むを得ないことであらうと思ひます、從つて一定の枠を作ります時には、時に公平妥當でないと思はれることもありませう、又運不運の場合も生ずると思ひます、出來ますことならば、本當に戰爭に心の中から協力した人だけが遠慮をして、左樣でない人がはつきりと民主國家建設に向ふやうな途が拓かれれば結構でありますが、それも亦容易でないことのやうに思はれます、從つて一定の枠を作つて之に準じて戰爭に協力した者を追放すると云ふやうな形になることは已むを得ないことでありませう、さうして是が手嚴しいと云ふ立場から言ひまして、隨分今迄の産業經濟の指導者に御氣の毒のやうな方が出來る虞もあると思ひますが、それならばどうしたらば是だけの人は戰爭に協力した人だ、是だけの人は戰爭に協力しない人だと云ふはつきりとした線を引くことが出來ませうか、是は恐らく言ふべくして行はれないこと、從つて一定の枠を作つて、之に依つて物を處理して行くと云ふ風になるより致し方がないと思ひます、又是が相當強く作られて居ります、故に地方自治團體などに付ては可なり影響する所もあらうと思ひますけれども、是は御同樣に能く考へて、さうして出來るだけ眞に民主主義の政治に協力する人でありまするならば、其の人々が成るべく居殘りまして、國家の再建に當るやうになれば結構でありますが、是は言ふべくして非常にむづかしいことだ、でありますから、此の追放の問題は先刻幣原さんが申された如くに、未だ確定は致して居りませぬ、軈て勅令發布の手續が完了致すことと思ひます、其の場合に於て何とかして出來得るならば、國家の再建に必要の人を、而もそれが戰爭中に自ら進んで協力した人でない人、又地方自治團體に於ては其の人がなければ地方の自治が思ふやうに行かないと云ふやうな人を、どうかして再審査の途が拓かれまして救はれるやうになりますれば結構だと思ひまして、それ等の途も考慮致して居りまするけれども、是もなかなか容易なことでないことだけは御了承を願ひたいと思ふのであります、何處かに線を引かなければなりませぬ、線を引くとしますと、理想的に此の人は心の底から翼贊會に協力した人だ、此の人はさうでない人だ、斯うはつきりすることは非常にむづかしからうと思ひます、それ等の點を憂慮致さないことはないのでありまするけれども、どつちしても日本の國民が過去に於けるが如く獨自の見解の下に國家に對して各各身を挺して貢獻すると云ふ立場にならずして、附和雷同性に依つて國家の權力に從ふことが忠實であると云ふやうな考では、民主政治は何と致しても出來ないのであります、是ではポツダム宣言を忠實に履行する所の立場になれないのでありますから、孰れかに依つて戰爭に協力した人の御遠慮を願ふ、退却を願ふと云ふことは、自ら日本人が致さなければならないこと、之を聯合國の意見でやると云ふやうなことでは、ポツダム宣言の忠實なる履行者にはなれないやうにも考へられます、と言つて國家に有用なる材を適材適所に使ふやうに致さなければ、此の内外に亙つて困難なる難局を切り拔けることも亦容易ならざる状態であります、政府と致しても是等のことは非常に心配して、何とかして最善の途を拓いて國家に有力な人は成るべく國家再建の爲に働いて戴きたい、と言つて戰爭責任を蔽ふ、今迄右翼で一生懸命軍に協力した人が、看板を塗り替へて左翼の陣營に起つて戰爭の責任がないやうな顔附きをされて居ることも困つたことだし、又右翼から左翼に早替りして、追放の事實を利用致して、自己の勢力を張らうとするやうな企てのあることも亦國家の爲に困つたことでありまするが故に、是等には官と言はず民と言はず道義的に左樣な者があつたならば、之を自覺せしめて、社會の活動面から退却するやうに致して貰はなければならない、此の問題は獨り政府の力のみに於て致し得ることではないのであります、板谷君方も有力な方でありますから、心を添へてさう云ふものは若し存在すると致したならば、共に遠慮して貰ふやうに、本當に堅實なる人、眞に民主主義を理解する人に依つて、民主的平和國家を建設致して、一日も早く日本が眞に平和國家として、世界に御附合ひ出來るやうに致さなければならないと思ひます、それが爲に色々のジツグザツグもありませうし、困難のこともありませうし、又政府として最善を盡しても、皆樣方の御滿足を得られないことがありまするけれども、國民全體が附和雷同することが已むを得ないことであり、それが國家に忠實であり、左樣に致すことも民主主義であると云ふやうな考は一掃致しまして、如何なる場合に於ても、國家の爲には獨自なる判斷を以て、身を挺して國家に當ると云ふやうな人を、此の場合に作り出すやうに致さなければならないやうに考へて、色々の面倒な處置を執らなければならないこと、板谷君の御説のことも、政府は十分に考慮して、出來るだけの途を盡したいと考へて居ります(「拍手」する者あり)
〔板谷順助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=12
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013・板谷順助
○板谷順助君 私は只今質問致しましたる要點は、賠償問題に付て、只今幣原國務大臣はまだ決つて居らぬ、之に對する所の答辯は差控へると云ふ意味の御話でありまするが、現在の我が國を再建をするに付きましては、即ち自主的に日本を立ち行かすと云ふことに付ては、賠償案を出來得るだけ緩和をして、日本の行き立つやうに、政府を通じて聯合國に懇請をして貰ひたい、斯う云ふ意味に於て私は質問して居るのであります、勿論現在決つて居らぬ、決つて居らぬので、出來るだけ之を緩和をすると云ふ、政府が努力をする、私は責任があると思ふ、此の點を申上げて居るのであります、又追放令の問題に付きましても、只今の植原國務大臣から御答辯がありました、成る程軍國主義、或は極端なる國家主義者は、追放せねばならぬことは當然、當然でありまするが、其の當時の國情は、好むと好まざるに拘らず、所謂國家の難局に際しまして、其の難に赴くと云ふことは、已むを得ざる國情である、必ずしもそれ等の人々が、極端である所の軍國主義者ぢやない、從つて今後に於ては、民主的に平和國家を建設すると云ふことは、當然是は言ふ迄もないことであります、併しながら現在のやうな追放令の範圍に於て、果して日本の再建が出來るか、又是等の人人は悔悟して謹愼をして居る、今植原君の御話になつたことは、今後の問題であります、從來の事情と云ふやうな斟酌をして、出來るだけ其の緩和の方法を執つて貰ひたい、必ずしもそれ等の人々が從來關係して居つたからと云つて、今日再び立つて軍國主義者、或はフアツシスト的の思想を持つてやると云ふ意味ぢやないのであります、此の點を出來るだけ、聯合國に對して能く事情を述べて、我が國が再建をするやうに努力をして貰ひたい、私の質問の趣旨は大體其の點であります、どうか此の意味に於て政府に於ても、出來るだけ今後に於ても、所謂日本再建の爲に、最善の努力あらむことを希望致しまして、私の質疑は打切ります
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=13
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014・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より日程に移ります、内閣法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、幣原國務大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=14
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015・会議録情報3
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内閣法案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十一年十二月十八日
衆議員議長 山崎 猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
…………………………………
内閣法案
内閣法
第一條 内閣は、日本國憲法第七十三條その他日本國憲法に定める職権を行う。
第二條 内閣は、首長たる内閣総理大臣及び國務大臣十六人以内を以て、これを組織する。
内閣は、行政権の行使について、國会に対し連帶して責任を負う。
第三條 各大臣は、別に法律の定めるところにより、主任の大臣として、行政事務を分担管理する。
前項の規定は、行政事務を分担管理しない大臣の存することを妨げるものではない。
第四條 内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。
閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。
各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めることができる。
第五條 内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を國会に提出し、一般國務及び外交関係について國会に報告する。
第六條 内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。
第七條 主任の大臣の間における権限についての疑義は、内閣総理大臣が、閣議にかけて、これを裁定する。
第八條 内閣総理大臣は、行政各部の処分又は命令を中止せしめ、内閣の処置を待つことができる。
第九條 内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、その予め指定する國務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う。
第十條 主任の國務大臣に事故のあるとき、又は主任の國務大臣が欠けたときは、内閣総理大臣又はその指定する國務大臣が、臨時に、その主任の國務大臣の職務を行う。
第十一條 政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない。
第十二條 内閣に、内閣官房及び法制局を置く。
内閣官房は、閣議事項の整理その他内閣の庶務を掌る。
法制局は、内閣提出の法律案及び政令案の審議立案並びに條約案の審議その他法制一般に関することを掌る。
前二項の外、内閣官房及び法制局は、政令の定めるところにより、内閣の事務を助ける。
内閣官房及び法制局の組織は、別に法律の定めるところによる。
内閣官房及び法制局の外、内閣に、別に法律の定めるところにより、必要な機関を置き、内閣の事務を助けしめることができる。
附 則
この法律は、日本國憲法施行の日から、これを施行する。
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〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=15
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016・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 只今上程に相成りました内閣法案に付きまして、提案の理由を私から御説明申上げます、御承知の通り新憲法では、日本國の行政權と云ふものは、内閣に屬するものと定めてあります、且内閣の組織、運營等に關する根本の條規を定めてあるのでありまして、其の詳細は法律の定むる所に讓つて居るのであります、從つて此の内閣法案は、新憲法の趣旨とする所を受けまして、内閣の組織、運營等に關しまして、必要なる事項を定めむとするものであります、此の法律案の内容と致しましては、先づ内閣は日本國憲法第七十三條、其の他日本國憲法に定めたる職權を行ふこととなつて居ります、次に内閣は、首長たる内閣總理大臣と、國務大臣十六人以内を以て、之を組織すると云ふことになつて居ります、更に内閣が其の職務を行ふのは、閣議に依るものである、又閣議は内閣總理大臣が之を主宰する、斯くの如く内閣の職權、組織、運營等に關する根本的の規定を定めまする外に、行政各部との關係、内閣總理大臣の職權、政令の規律範圍、補佐部局に關する事項等を規定して居るのであります、以上本案の内容は、概ね臨時法制調査會の答申の趣旨に則つて立案致したものであります、何卒宜しく御審議の上御協贊の程を御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=16
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017・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 質疑の通告があります、淺井清君
〔淺井清君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=17
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018・淺井清
○淺井清君 二つの問題に關しまして、政府の所信を御伺ひ致します、第一に御伺ひ致したきは、此の内閣法立案の根本的なる御考に付てでございます、それは一體内閣と言ひ、内閣總理大臣と言ひ、最も高き政治性を有する機關でありまするが故に、一片の法規を以て之を規律し得るものではなく、政治的運用に俟つことが甚だ多いのであるが、斯かる考慮が本法立案の際になされて居るかどうかと云ふことでございます、御承知の如く、イギリスの内閣及び内閣總理大臣の制度は、極めて偶然なる事件より起つたのでございます、即ち内閣は、國王が、數多き樞密顧問官中より特に信任せらるる少數の者を、小さき部屋に誘ひ、國事を語らひたるより起りました、故に小さき部屋を意味するキヤビネツトと云ふ小語を以て今尚内閣の呼稱と致して居るのでございます、又内閣總理大臣はドイツのハノーヴアー家より入りて、イギリスの國王となられましたジヨーヂ一世が、英語を解せられない爲に閣議を主宰することを好まれず、已むなく大臣の一人が代つて閣議を主宰したに始まるものでございます、故にイギリスに於きましては、内閣も、内閣總理大臣も今日に至る迄不文の存在であり、全く政治的の運營に委せられて居るのでございます、我が國に於きましては、固より事情を異に致して居りまするが、此のことは内閣制度の上に大きな教訓を與へるものでございます、即ち最初に申しましたる如く、内閣と言ひ、内閣總理大臣と言ひ、如何程精密なる規定を以て之を組織致し、如何程強大なる權限を賦與致しましても、要は人の問題であり、政治的運用の巧拙に歸すると云ふことでございます、今若し内閣總理大臣が、内閣法の規定を援用して閣僚に臨み、國務大臣が内閣法の規定を擁して、總理大臣に對するに至りましたならば、其の内閣は既に崩壞に直面せるものでございます、イギリスの内閣は、之を規定する一片の法文なくして、其の動靜は能く世界の視聽を集むるに足り、總理大臣は不文の存在にして、其の言動は能く世界の耳目を聳てしむるに足るは全く政黨政治と、其の人物の實力閲歴の然らしむる所でございまして、決して内閣法の規定に依るものではございませぬ、又斯かる政治的運用の妙所なくして内閣制度は運營致し難いのでございます、そこで御伺を致します、本法立案に當り此の點を考慮せられたりや否や、若し之を御考慮相成つたと致しまするならば、本法案第八條の規定を如何に御考になるかと云ふことでございます、即ち第八條は、「内閣總理大臣は、行政各部の處分又は命令を中止せしめ、内閣の處置を待つこと」を得る旨を規定致して居りまするが、是は從來の内閣官制第三條が、總理大臣が行政各部の處分又は命令を中止せしめ勅裁を待つことを得る旨を規定致して居りましたものを其の儘承け繼いだものでございます、然るに内閣官制制定以來、本條を發動したる總理大臣があつたでございませうか、私は殆ど其の實例がなかつたのではないかと存じます、其の理由は極めて明白でございます、即ち斯かる規定を發動するに至るは、總理大臣の實力足らずして閣内の統一を保持する能はざることであり、之を發動する前に既に内閣は瓦解致して居るからでございます、斯かる規定を内閣法に採り入れますることは、即ち曩に申述べましたる政治的運用の考慮がなされて居らぬからではございませぬか、或は之を以て總理大臣に威嚴の名を與へむとする爲であるか、總理大臣の威嚴は決して法文の力に依つて築き上げられるものではございませぬ、或は之を以て閣内の不統一に備へむとするものであるか、是れ議院内閣制及び政黨内閣制の見透しに徹せざるものでございます、曾て原敬氏を首班と致しまする政友會内閣の如き、首相の閣僚を動かすことさながら手足を動かす如きでありましたのは、決して内閣官制に依るものではなくして、政黨の黨首としての實力に因るものでございます、貴族院議員に對し言辭の愼しむべきことを教へられました政府たるもの、宜しく此の一事を想起せらるベきでございます、又先般植原國務大臣は、本議場に於きまして政黨の重んずべきことを御示しになりました、御論旨誠に御同感の至りでございます、然るに現内閣の顔觸れを拜見致しまするに、尚政黨員に非ざる多くの閣僚を見るのは何故であるか、想ふに政黨未だ力足らずして器を官僚に假るものであるか、苟も政黨一度内閣に立つに於きましては、閣僚悉く之を政黨員より採るだけの人材と用意とがあつて然るべきものであり、斯くしてこそ國民は初めて政黨を仰いで、其の重んずべきことを知るものであると存じます、仍て植原國務大臣の御論旨は聊か長鞭馬腹に及ばざる嫌ひありと申さなければなりませぬ、若し眞に政黨内閣の妙諦に徹しましたならば、此の第八條の如きは決して發動の餘地なきものでございます、或は又是れ一黨の力足らずして數黨の聯立内閣を豫想して内閣の危機に備へむとするものであるか、苟も天下の公黨たるものは衆議院に多數を占め、自黨の獨力を以て内閣を組織するの抱負がなければならないと存じます、然るに巷間流言をなすものがありまして、自由黨の左、社會黨の右なぞと云ふことを聞くのは何故であるか、何を苦んで自黨の左に走り、他黨の右に偏するのであるか、政黨が自信を保持して、初めて共に内閣法を談るに足るものと存じます、仍て再び御伺ひ致します、本法の立案に當り果して政黨政治と云ふものを見透して居られるのであるか、政黨内閣の確立を目指して居るのであるか、此の點に關しましては特に幣原國務大臣の御答辯を求むるものでございます、第二に御伺ひ申します、此の内閣法に於きまして國務大臣の天皇に對する助言と承認の責任は何處に行つたのであるか、明治憲法に於きましては、國務大臣は入りて天皇を輔弼し、出て行政各部を擔當し、其の責任又此の二つの方面に存したのでございます、此の二つの責任は何れを重しとし、何れを輕しとなし得るものではございませぬ、新憲法に於きましては天皇の御地位に著しき變化はございましたが、尚第三條は助言と承認に關する内閣の責任を規定致し、第六十六條は行政權行使に關する責任を規定して居ります、天皇は既に國政に關する權能を有せられずと雖も、國事に關する大權も亦國家重大事たることを失はないのであります、然らば之に對する内閣の助言と承認の責任も亦重大でございます、然るに本法案第一條を見まするに、憲法第七十三條の行政權行使に關するものを掲げ、天皇に對する助言と承認は之を「その他」の一句を以て蔽つて居りまするのは、之を輕しと考へられるのではないか、更に第二條第二項は、内閣が行政權の行使に付て、國會に對し連帶して責任を負ふ旨を規定して居りまする、是は憲法第六十六條第三項の規定を其の儘移したものでございまするが、既に憲法に明文のあるものを更に茲に規定致しまするの立法技術上の可否は姑く之を措きまして、(拍手)此の行政權の中には天皇に對する助言と承認の作用を含むのであるかどうか、若し之を含まざるものとするならば、此の助言と承認に關する内閣の責任は本法案に關する限り明らかでないと申さなければなりませぬ、此の憲法第六十六條の行政權の意義に關しましては、去る九月二十一日貴族院の憲法改正案特別委員會の席上に於きまして、政府は質疑に答へて申されまするのに、此の行政權と云ふものは一般の國務の中から立法と司法とを除いた稍稍廣い意味の行政だと云ふことが自然の御答として現れて來るものと思ひますと申され、又併し固より天皇の御所管になつて居る事務の如きは、或場合に於きましては特例をなして來ることは是は固より解釋上當然の結果でありますと申されて居りまして、天皇の國事に關する行爲は此の行政權に對し特例をなすものと認めて居られるが如くでございます、然らば此の天皇の御行爲に對する助言と承認に關する内閣の責任は六十六條の行政權の行使の責任と竝び存するものと考へなければなりませぬ、然らば内閣法が一を規定し他を規定致さざるは何故であるか、政府の所信を聽かむとする者でございます、以上私の御伺ひ申したきことは、第一には本法案に於ける政治的運營の問題、第二には天皇に對する助言と承認に關する内閣の責任の問題でございます
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=18
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019・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 只今の淺井さんの御質問の第一點は内閣の如きは極めて政治性の高いものであるから權力よりも寧ろ人に依つて其の運用の完きを期し得られるのである、然らば第八條に、或場合に内閣總理大臣が他の大臣の發しましたる行政各部の處分又は命令を中止せしめ、内閣の處置を待つと云ふことになつて居る、斯う云つた場合は寧ろ是は總辭職すべきものではないか、斯う云つた御趣旨であつたやうに伺ひました、新憲法は御承知の如く議院内閣制を採用致して居るのであります、從つて將來内閣と云ふものはどうしても事實上政黨を中心として組織せられることになるものである、是が通常であらうと考へます、從つて大臣は出でて各省大臣等となり行政事務を分擔處理致しまする場合に於ても、行政各部の命令處分が調和を缺いて内閣の行政方針と喰ひ違ふと云ふやうなことは事實問題としては殆どあり得ないと考へます、併し萬一不適當で處分命令のなされたやうな場合には、内閣の首長たる内閣總理大臣は、其の不適當な處分命令を中止せしめ、内閣の處置を待つて統一ある行政の運營に支障なからしむる、是で以て内閣の行政運營の圓滑を期せむとするのが第八條の趣旨であります、内閣總辭職と云ふやうなのは、是は政治的な最終の處置でありまして、斯う云つたやうな政治問題でなくつて、其の處置命令と云ふものに付て問題を生ずると云ふやうなことがあり得るのでありますから、總辭職と云ふやうな政治的の最終處置と云ふのとは場合を異にして居るのであります、第二には又天皇に對する助言と承認に對する内閣の責任は何處に對して負ふかと云ふことであります、議院内閣制の本質に顧みまして、全國民を代表する議員で組織せられる國會に對して責任を負ふのであります、是が即ち新憲法の趣旨でもありまして、此の内閣法も此の趣旨に依つて立案せられたのであります
〔國務大臣植原悦二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=19
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020・植原悦二郎
○國務大臣(植原悦二郎君) 淺井君の御質問に御答へ致します、此の内閣法は新憲法の精神を十分に汲み取つて立案したものであるか、もう一つは内閣の運用は主として人に依るものであるが、其の根本の原則を十分に汲み取つて立案したものであるかと云ふのが第一の御質問のやうでありました、大體幣原國務大臣が御答へ致したことで盡きて居ると思ひますが、尚念の爲に補足することを御許しを願ひたいのであります、淺井君は英國の内閣のことを詳細に御述になりまして、御論議を御進めになりましたが、英國の内閣は御説の通りであります、又英國には國務大臣の任命と云ふものはありませぬ、是は淺井君も御承知のことと思ひますが、英國では樞密顧問官の任命があつて、其の樞密顧問官の議會に直接責任を持つ者が内閣の大臣として國政燮理の任に當るのであります、而も英國の内閣は閣議の場合に於ても殆ど鉛筆も紙も持つことを許されない程祕密であります、英國の内閣に於ての閣議は如何に進行されたか、如何なる論議があつたかと云ふことは絶對に發表されないことでありますが故に、從つて連帶責任が完全に執れるのであります、此の日本の内閣法も新憲法の主義に依りまして立案されたものでありますから、此の内閣法を以て現内閣に對する御批判のやうな御言葉がありましたが、それは當らないと思ひます、此の内閣法は、新しい憲法が運用される時に用意の爲に作られた内閣法であります、從つて此の内閣法は、國會が國家の最高の權力を有する、其の國會に承認を經たものにあらざれば内閣總理大臣にはなり得ないのだ、而も其の内閣の總理大臣の下に附きまする所の國務大臣は、總て國會の承認を經なければ其の任に當り得ないのであります、從つて内閣總理大臣たる者は、此の内閣法に於ては國會の絶對的信任を得る人、斯樣なことを前提として考へて宜しいと思ひます、さうして各國務大臣は、内閣總理大臣に依つて任免黜陟の權を握られて居りますが故に、内閣總理大臣が他の閣僚を其の意の如くに國政燮理の爲に當らしめ得ないと云ふやうなことは豫想されないことではなからうかと思ふのであります、此の内閣法に依りましても、内閣總理大臣を初め各國務大臣は、連帶責任を持たなければならない規定をはつきり定めて居ります故に、人間如何が内閣を能く統括すると云ふことも御説の通りでありますが、新憲法の規定に基いて此の内閣法が運用される場合に於きましては、内閣總理大臣は各國務大臣を指揮監督する上に於て十分なる權能を有するのみならず、必ず左樣なことを爲し得る人にあらざれば内閣總理大臣になれないものと御了解になつて然るべく、左樣な考に依つて此の内閣法が定められて居ると御了解を願ひたいのであります、次の御質問は、天皇に對する助言と承認に付て内閣は如何なる責任を執るかと云ふ御質問でありました、而も之に對して内閣法の八條と現行内閣官制の三條とを同一のものの如くに御斷定になつて御質問なされて居りますが、内閣官制の第三條の規定と新内閣法の第八條の規定とは、可なり兩規定の間に相違があります、内閣官制の第三條に於ては「内閣總理大臣ハ須要ト認ムルトキハ行政各部ノ處分又ハ命今ヲ中止セシメ勅裁ヲ待ツコトヲ得」とあります、然るに新内閣法の八條に於きましては「内閣總理大臣は、行政各部の處分又は命令を中止せしめ、内閣の處置を待つことができる。」と云ふことになつて居ります、現行内閣官制に於ては、須要と認むる場合に於ては、行政各部の處分をしたり、命令を中止せしむることが出來る、尚其の場合に於ては勅裁を待つことを得る、と云ふ規定がありますが、新内閣法に於ては「行政各部の處分又は命令を中止せしめ、内閣の處置を待つことができる。」とあります、御承知の如く、内閣は連帶責任を持つと共に、内閣と云ふものは全會一致の決議に依らなければ國政の燮理に當ることが出來ないのであります、と申しましても、他の國務大臣は、各各其の分擔すべき行政官廳の任務に當つて居りますのでありますからして、時には内閣の閣議に依らずして適當の處置をすることもあると考へなければなりませぬ、其の場合に行政各部の命令が議會を中心とする國政燮理の方向と違ふと云ふ場合に於ては、之を中止せしめたり、又必要でありました時には、内閣の閣議に依つて之を處置しなければならないので、第八條の規定が設けられてあるのであります、此の場合と雖も内閣は新憲法の下に於きましては、議會の政黨を中心と致した所の一種の行政委員の如きものでありまするが故に、國政の中心はいつでも議會、寧ろ國會に於ける所の多數の意思に依つて左右されるものであると考へなければならないのでありますからして、若しそれと違つたやうな行政處分や命令があつた場合に於ては、内閣總理大臣はこれを中止せしむ、若しそれだけでもまだ處置の出來ない場合に於ては、閣議を開いて、閣議の決定に依つて之を處置すると云ふことになるのが當然で、其の場合に於て、若し一部の閣僚の意見が閣議に反する場合に於ては、總理大臣は内閣不統一の爲に國政が燮理出來なんで辭職することはあり得るものと想定は出來ます、併し實際として左樣なことは政黨を中心とし、國會を中心とする議會に於てはあり得ないことだと考へて宜しいのではありますまいか、又次に天皇陛下に對する助言と承認のことでありますが、勿論天皇陛下も國事を御執りになるのでありますから、國政に對しては直接御關係がないに致しましても、國事に對する助言と承認を内閣が出す場合に於ては、それは行政權の範圍内に於て爲すものと御了解なさるべきであると思ひます、それのみならず、内閣は御承知の通り、國會、國家の最高權力を有するものを代表して國政燮理の任に當るのでありますから、其の範圍内に於て内閣は天皇陛下に對して助言と承認をする、從つてそれは國政の一部であり、行政權の範圍内に屬するもの、此の場合の責任は内閣は國會に負ふべきものと云ふのが新憲法の精神であると了解すべきであると思ひます、之を以て御答と致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=20
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021・淺井清
○淺井清君 質疑を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=21
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022・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 澤田牛麿君
〔澤田牛麿君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=22
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023・澤田牛麿
○澤田牛麿君 私は簡單に短い時間で質問を致したいと思ひます、第一には内閣法に關聯しての問題であります、即ち今期臨時議會は新憲法施行に必要なる法律を制定する爲が主たる目的であると云ふ話でありまするが、
〔議長退席、副議長著席〕然るに國會法は衆議院に出て居る、内閣法は貴族院に出て居るのでありまするが、裁判に關する事柄に付てはどちらにもまだ姿を見せて居らぬやうに思はれる、尚日數が數日ありまするから、或は晝夜兼行で行けば今後裁判に關する法規が出ても、此の會期中にやれないことはないでありませうけれども、先づ常識から言へば、此の會期には裁判に關する法律は出ないものと想像して宜からうと思ひます、さうすると政府の態度に付て御伺ひしたいことは、裁判に關する法律は次の通常議會に御出しになると云ふことに政府の肚が決つて居るのではなからうか、さうすると疑問の起るのは、裁判に關する事柄が次の通常議會で宜しいのならば、内閣に關する法規も次の通常議會で宜しくはないか、若し此の臨時議會に於て内閣法が是非議了しなければならぬと云ふことになれば、裁判に關することも同じではないか、兩者の間に區別を設ける理由が分らぬのであります、其の點に付て御伺ひ致したい、第二は先程淺井君も述べられましたが、此の頃の立法技術は誠に御粗末であります、極めて御粗末な立法が多い、此の内閣法にも淺井君の指摘されたやうに、頗る拙い所があるやうに思はれる、私は先づ一二の點に付て御伺ひしたいのでありまするが、第三條に主任の大臣と云ふことが出て居ります、一體此の主任の大臣とは何の主任の大臣と云ふ意味であるか、ちよつと讀んで見ても分らない、普通の是迄の法律に、主務大臣とか、主任大臣とか云ふことは或事項を指して、例へば經濟なら經濟の問題、警察ならば警察の問題其の問題を指して居るから、主任の大臣とか、主務大臣と云ふことが出て來る、何にもないのに主任の大臣とは何を指すのであるか、是は第七條にもありますが、どうも主任の大臣と云ふことは何の主任の大臣であるかと云ふことが一つも分らない、斯う云ふ書き方はちよつと了解に苦しむ書き方である、それから第八條のことに付ては植原君からも御答辯がありましたが、私は却て御答辯のあつたことが、淺井君の疑問を増大させるものではないかと思ふ、即ち現行の官制であれば、内閣總理大臣は、天皇の御處置を仰ぐと云ふ意味の爲に、各大臣の行爲を止めて置くと云ふことが出來る、それは官制が内閣を支配して居る、現行法規に於ては、内閣は官制に依つて支配されて居るから、即ち最終の所は天皇の所へ持つて行くことが出來るのであるから、さう云ふ規定があるのである、それに類似の規定が茲に八條にあると云ふことは、是はどう云ふ意味か、意味を成さぬことと思ふのであります、今後は詰り官制と云ふものはなくなるのであるから、内閣總理大臣が内閣各大臣を任免するのであるから、即ち現行の憲法に於ては、總理大臣は大臣の任免權はないのであります、先づ對等のもので、唯席が上と云ふだけの話である、今度は、新憲法に依れば、内閣總理大臣が内閣大臣を任免するのであるから、即ち上下の關係、主從の關係になる譯であります、さうすれば、内閣總理大臣が内閣大臣の處置を止めると云ふことは、何も法律の規定がなくても、當然の話である、上官、下官の區別から當然起るべき話である、此の八條は、元の内閣官制のやうな考が殘つて居つて、さうして法律にそれを書いたから、斯う云ふ頓珍漢なことになつたのである、何も内閣の處置を待つと、内閣總理大臣が内閣以外の人であるならば、此の八條の書き樣の、内閣の處置を待つことが出來ると云ふことも、書き樣の理由があるかも知れませぬ、内閣は内閣總理大臣の役所である、自分が各大臣の處置を止めて置いて、自分の役所の其の處置を待つと云ふことは、何だか意味を成さぬ、斯う云ふ非常に觀念の混淆した、此の立法技術の拙い所が隨分あるやうでありますが、斯う云ふことに付ては、政府はどう云ふ御考を持つて居るのであるか、是は官吏法と云ふやうなものが若し出るとすれば、其の時に論ずべきことでありますから、是は金森國務大臣に伺ひたいのであるが、官吏法と云ふものが出ることになつて、それが任免のこと迄加はるならば、私は質問を其の際に致したいと思ふのであります、さうでないとすれば、第十二條に内閣に、内閣官房と、法制局と云ふものが出來る、是等の職員は誰が任命するのであるか、どう云ふ形に於て任命されるのであるか、さう云ふ點に付ても御伺ひをしたいのであります、官吏法になりますると、一般官吏に關する任免のことが規定されることと想像するのでありますが、若しさうであるとすれば、大なる疑問が茲に生ずるのであります、先づ以て斯う云ふ點に付ては、金森國務大臣の御考を伺つた上で、私の疑問を又更に提出することがあるかも知れないと云ふことを申上げて置きます
〔國務大臣木村篤太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=23
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024・木村篤太郎
○國務大臣(木村篤太郎君) 只今澤田議員から、裁判所法に關する御質疑がありましたから、私から御答へ致します、御承知の通り裁判所は非常に技術的にむづかしい問題が含まれて居るのであります、司法省と致しましては、此の法案に付て臨時法制調査會の要案に基きまして、晝夜兼行して之が整備に當つて居つたのであります、さうして本議會に提案すべく努力致して居りました、幸に其の成案も得たのでありまするが、御承知の通り、關係方面の了解を得なくてはならぬのであります、そこで其の方面と色々打合せ致しまして、最近に既にそれも完了致して、提案の運びに參つたのでありまするが、何分にも今申上げます通り、此の法案は技術的に非常なむづかしい法案で、條文も厖大に亙つて居ります、從ひまして今日此の場合、本議會に提案致しましても、御審議上或は御迷惑、到底審議は完了する運びに至らないと豫想致しましたので、提案致さなかつた理由であります、追つて通常議會に成るべく早く之を提案致しまして、御審議を願ふ運びに至ることと存じます、又内閣法は、是は只今提案致して居るのでありまするが、裁判所法案と比較致しまして、非常に條文も簡單であります、幸ひ此の議會に間に合うことと我々は確信致して提案した次第であります、左樣御了承願ひます
〔國務大臣植原悦二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=24
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025・植原悦二郎
○國務大臣(植原悦二郎君) 澤田君に御答へ致します、申す迄もなく此の内閣法は、新憲法が行はれる下に於て運用される所の内閣法として立案されたものであります、新憲法に依りまして、國會が國家の最高機關となり、政黨政治が行はれるやうになりますれば、現在の行政機構に付ても根本的の改革や刷新編成替の必要が起ることと思ひます、さうして新憲法の下に於て行政官廳の組織、さうして事務の分擔、管理等が自ら其の必要に依つて改正されるやうになることも考へて居らなければなりませぬ、さうして行政事務の分擔や管理が定まる法律が出來まして、其の下に於て各省大臣が定まる、其の各省大臣が法律の定める所に依つて、主任大臣としての行政事務を管理すると云ふことになることと思ひます、と言つて、過渡的の場合に於て總てがさう根本的に變る譯にも參りませぬので、現在の先づ大體の行政事務の状態を考へまして、さうして將來に處する爲に此の内閣法が定められるのだと御了解下さりますれば是等の疑問も自ら御了解になることと思ひます、さうして第八條の總理大臣が各大臣を任免黜陟することが出來れば、此の規定は要らないのぢやないかと云ふやうな御議論がありましたが、國家の國政運用に對する重要なることは内閣會議に於て決まる、さうして各省の大臣は各各其の行政事務を分擔する、其の場合に當然内閣總理大臣が閣議の處分や命令を中止せしめ得ることもありませう、又場合に依つては、全般に亙ることでありまするが故に、閣議の決定を待つてそれを處置した方が宜しいと云ふ場合も起らうと思ひます、其の爲に此の規定が設けられて居るものと御了解を願ひたいのであります、尚十二條に付きましては金森國務大臣に御問ひになりましたから、金森國務大臣から御答へなさることと思ひます
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=25
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026・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 官吏の任免に關する事柄に付て御尋になりましたが、憲法の中の内閣に關しまする規定の中に豫想して居りまするやうに、官吏法に依つて、官吏に關する多くの問題が基準を得て行くのでありまするし、且又各行政官廳の基本法と致しましては、行政官廳法と言ふべきものを別に考慮致して居ります、從つて官吏法と行政官廳法と云ふ二つのものの組合せに依りまして、多くの官吏の任免に關しまする道順は明かになつて來る次第と存じて居ります、さうして今述べました所の二つの法律案は現に案を練つて居りまするが、來るべき通常議會に於て御協贊を得たい希望を持つて居ります
〔澤田牛麿君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=26
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027・澤田牛麿
○澤田牛麿君 只今の御答に依つて、官吏に關することは、別に法規が出るさうでありまするから、私は今日質問したいと思ひましたが、其の點に付ての質問は後日に致しまして、今日は致しませぬ、先程尚ちよつと申し殘したことがございますから、序に御尋ねしたいのでありまするが、現在の法規では各省官制通則と云ふものがあつて、其の外に各省の官制があると思ふのでありまするが、今後の法律に於ても、各省官制通則と云ふやうなものが出來るのでありませうか、或は此の内閣法と云ふものが其の各省官制通則に當るものになるのでありませうか、さう云ふ點に付ての御答を願ひたいのであります、それから植原君から八條に付て、此の規定が必要であると云ふ御話でありましたが、是はもう議論になりまするけれども、私はどうも此の規定は必要ないと思ふ、若し内閣總理大臣の權能が、此の法に於て認めて居るやうな權能でないものならば、自分が勝手に處置が出來ないものならば、法律の規定で以て勝手に處置が出來ると云ふ規定が要るのであるけれども、内閣總理大臣の權能が強くて、内閣大臣を任免することが出來る、それだけの者が、中止せしめて處置を待つと云ふ規定を置く必要は當然ないのであつて、任免さへ出來るのであるから、其の以下のことは何も法規は要らないと思ふ、是は併し議論になりますから、其の點に付ての御答は望みませぬ、今の各省官制通則に付てはどう云ふことになりませうか、さう云ふ點をもう一度伺ひます
〔國務大臣植原悦二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=27
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028・植原悦二郎
○國務大臣(植原悦二郎君) 御答へ致します、行政官廳法と云ふものを定める積りでありまして、それに依つて今の御尋のことは明かになると思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=28
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029・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました内閣法案は、其の特別委員の數を二十七名とし、其の委員の指名を議長に一任することの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=29
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030・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=30
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031・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=31
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032・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔長谷川書記官朗讀〕
内閣法案特別委員
公爵 岩倉具榮君 侯爵 鍋島直泰君
伯爵 柳澤保承君 子爵 岩下家一君
子爵 森俊成君 子爵 植村家治君
子爵 大久保教尚君 子爵 稻垣長賢君
林春雄君 牧野英一君
佐々木惣一君 白根竹介君
村上義一君 男爵 伊藤一郎君
男爵 渡邊修二君 男爵 岩村一木君
男爵 山根健男君 男爵 明石元長君
野村嘉六君 澤田牛麿君
田島道治君 鏑木忠正君
原泰一君 小山完吾君
小野耕一君 岩淵辰雄君
淺井清君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=32
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033・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 次會の議事日程は決定次第彙報を以て御通知に及びます、本日は是にて散會致します
午前十一時五十二分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009103242X00719461219&spkNum=33
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