1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
○恩赦法案
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昭和二十二年三月六日(木曜日)午前十時十五分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=0
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001・稻葉正凱
○委員長(子爵稻葉正凱君) 是から會議を開きます、今日は司法大臣が御都合が惡くて御出席ございませぬのですが、政府委員が御見えになつて居りますから、御質疑がございましたらどうぞ……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=1
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002・中村徹雄
○男爵中村徹雄君 昨日大臣の御説明の中に恩赦法の目的と云ふやうなことに付て、何か刑の妥當を圖ると云ふやうな御説明があつたと思ふのですが、其のことは能く分りませぬでしたが、もう少し詳しく御説明して戴きたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=2
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003・佐藤藤佐
○政府委員(佐藤藤佐君) 恩赦の目的が刑の妥當を圖ると云ふことも一つの目的にはなつて居りますけれども、御承知のやうに恩赦が行はれる場合は、大抵國家の御芽出度いことか、或は不幸なことに際會して、事實上恩赦が行はれるのでありまして、其の目的とするところは、其の當時の社會の情勢の變化に照らして、嘗て裁判所で言渡された刑罰其のもの、或は刑の執行其のものに付て、妥當を圖ると云ふのが目的になつて居るのでありまして、御尋の刑の妥當を圖ると云ふことは、確かに其の一つの目的になつて居りますが、例へば其の當時の社會情勢に於ては適切妥當な刑罰が裁判所に於て言渡されたことも、時勢の變化に依つて其の刑罰が最早重過ぎる刑罰であると云ふ風に思はれる場合もないでもないのであります、例へば裁判をした當時に有效に存在して居つた法律に從つて有罪の言渡をしたのであるが、其の後法律が廢止になつて其の後の社會情勢に於ては、左樣な行爲はもう科罰性がなくなつたと云ふやうな、過去の罪に於て刑を執行すると云ふことが妥當を缺くやうな場合も考へられるのでありまして、左樣な場合には特別な申出に依つて、特赦、或は減刑と云ふやうなことも行はれるのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=3
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004・中村徹雄
○男爵中村徹雄君 過去に於て恩赦が行はれた場合が皇室の慶弔と云ふやうな場合のみでありましたのは、それが天皇の大權事項であつた爲に、國民は通念としては皇室の恩惠に浴すると云ふ、さう云ふ風に考へて居たと思ふのでありますけれども、今後恩赦を行ふ場合は、昨日大臣が適當な時期に行ふと仰しやられたけれども、さうしますと、今後に於ては情勢の變化に依つて刑の妥當を圖ると云ふ、さう云ふ目的の方が、それの方が主たる恩赦法の目的のやうに變化する、そして恩赦令が恩赦法になつたと云ふことに依つて、恩赦と云ふことに對する國民の觀念が少し變つて行くやうに思はれるのでありますが、さう云ふ風に理解して宜しいのでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=4
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005・佐藤藤佐
○政府委員(佐藤藤佐君) 恩赦の目的とするところは、現行法に於きましても亦將來に於ても變りがないことと存ずるのであります、唯從來恩赦の行はれた其の時期は、皇室の御慶事、或は御凶事の際に行はれた場合が多いのでありまするが、今後は左樣な場合のみならず、國家的に御芽出度いこと、或は不幸なことと云ふやうな場合に際會して行はれることと思ふのであります、最近に於きましても、一昨年は終戰に際會して行はれました、又昨年は新憲法の發布に伴つて行はれたのでありました、今後も從來と違ひまして、皇室のお芽出度いこと、或は不幸なことに限らず、國家的な或記念すべき時期に際會したならば、恐らく恩赦が行はれることを豫想されるのでありまして、恩赦の目的は今後と雖も變りはないだらうと左樣に思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=5
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006・中村徹雄
○男爵中村徹雄君 もう一つ御尋ねしたいと思ひますことは、今度新憲法が發布でなく實施せられますに付て、犯罪と云ふものに對する法律上の觀念も變ると思ひますし、時間のずれもあると思ひますが、國民の罪と云ふものに對する道徳的な觀念も徐々に變化すると思ひます、さう云ふことは矢張り情勢の變化であると思ひますが、現行の憲法の下に有罪の言渡を受けた者が、引續き新しい憲法の下に刑を執行されて居る者が非常に多いと思ひますが、それがさう云ふ情勢の變化を生じた場合には、是は矢張りさう云ふ觀念が變化した場合に、刑の妥當と云ふことを考へられて恩赦を行ふ時期が豫想せられるのぢやないかと思ひますが、其のことはどうでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=6
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007・佐藤藤佐
○政府委員(佐藤藤佐君) 終戰前に於きましては、軍の刑罰法規に依つて處罰された者が可成り多くありましたが、終戰後軍事關係の犯罪等に付ては、一昨年と昨年と兩度に亙つて、大體恩赦の恩典に浴して居るのであります、新憲法の實施に伴ひまして、確かに刑罰法規の或部分が變更されることも豫想されるのでありますが、左樣に現在の刑罰法規と將來の改正せらるべき刑罰法規の間に於て、以前は處罰されて居つたが今後は處罰されないと云ふやうなものが出來ると致しますれば、其の改正法自體に於て、恐らく從前の犯罪行爲に付て刑を免除するとか、或はそれはもう訴追することが出來ないやうにする、豫想されて居る範圍に於ては、其の改正法自體に於て經過法で解決することと思ふのでありますが、今の處、新憲法の實施に伴つて恩赦が行はれると云ふやうなことは考へては居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=7
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008・中村徹雄
○男爵中村徹雄君 是で私は終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=8
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009・稻葉正凱
○委員長(子爵稻葉正凱君) どなたか御質疑がございませぬか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=9
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010・奧田剛郎
○男爵奧田剛郎君 ちよつと御尋ね申上げます、「政令で罪の種類を定めてこれを行う。」とありますが、其の罪の種類は、現行法と大して變りないと思ひますが、如何でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=10
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011・佐藤藤佐
○政府委員(佐藤藤佐君) 罪の種類は、現行刑法を今の處、改正すると云ふ考は持つて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=11
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012・奧田剛郎
○男爵奧田剛郎君 次に復權のことでちよつと御尋を致したいのですが、幾分意見のやうなことに亙りますが、是迄選擧違反と云ふことに付ては、どうも外の罪の場合と持つ觀念が違ふやうに思はれて居ります、それは成る程選擧違反の場合に或期間選擧權の停止をされると云ふことはありますけれども、それが多くの場合には、其の期間を經過しない内に何か恩赦のことがあつて復權され勝ちである爲に、從來は選擧違反と云ふものは何か他の場合と違つて輕んぜられる、選擧の違反は罪でないやうな風に迄も思はれるやうな傾向があつたやうに思はれます、將來日本が民主國家として再建すると云ふことが言はれて居り、さうなければならぬと云ふ場合に當つては、此の選擧と云ふことが非常に重要なる立場にある譯であります、然るに從來のやうな觀念を以て復權と云ふことが如何にも容易く行はれるやうな風になつたのでは、到底民主國家の再建と云ふことは遠い夢になるやうに思はれるのであります、そこで此の選擧の違反と云ふことに對して復權をさせるに付ては、餘程愼重でなければならぬと思ひますが、何か其處に一定の期間復權をさせないと云ふやうなことにでもして、もう少し現在より選擧違反者の復權と云ふことに付て考へなければならぬのぢやないであらうか、或は今後は國民一般の批判に俟つのであるから、選擧の違反をしたやうな者に付ては、それを選擧しないやうにすれば宜いと云ふことも考へられますけれども、それは到底望むことの出來ないことなんで、選擧違反に付て尚多くの罰則を設けてあると同じやうな意味で、復權と云ふことに付てももつと考へる必要があるのぢやないかと云ふことを思ひますが、如何樣なものでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=12
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013・佐藤藤佐
○政府委員(佐藤藤佐君) 御意見のやうに、確かに從來選擧違反に付きましては、國民一般が普通の犯罪よりも輕く見て居ると云ふことは確かでありまして、殊に選擧違反の犯罪は所謂政治犯の一つとして、度々の恩赦に依つて總て復權致して居るのであります、殊に昨年の四月總選擧が行はれて、十一月の大赦令に依つて其の違反者が總て大赦の恩惠に浴したと云ふ、非常に新しい事實もありますので、實は昨年の大赦の場合に、選擧違反も政治犯として全部大赦することは總選擧後餘りに時日の經過が短いので如何なるものであらうかと云ふやうな意見もあつたのでありますが、結局全部恩赦に浴したと云ふやうな事實もありまするので、左樣な關係で、今後の選擧違反に付きましても從來と同じやう、一般の犯罪よりも輕く取扱はれると云ふ虞れが多分にありますので、其の點に付きましては、國民一般のみならず私共と致しましても、選擧違反であるからと云つて輕く取扱ふやうなことのないやうに、十分戒めなければならぬと考へて居るのでありまするが、御承知のやうに選擧違反の犯罪に付て、現在の衆議院議員選擧法に於ては、刑の言渡しと同時に、五年間或はそれ以内の期間選擧權、被選擧權の停止と云ふ附加刑を言渡すことになつて居るのでありますが、此の規定も將來の選擧法の改正に當つては、或は削除せられるのではないかと云ふやうな空氣もありますので、只今御質問のやうな點に付てはどうしても刑罰自體に於て選擧法違反を他の犯罪よりも重く見る、或は復權に付て他の犯罪と同じやうにたやすく復權しないやうに取扱ふと云ふやうな措置は出來て居らないのでありまして、御心配の點は今後に於いて十分適切な方法を研究致したいと考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=13
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014・奧田剛郎
○男爵奧田剛郎君 質問と云ふ譯ではございませぬが、今御答になりました通りで、私は最近の選擧で違反を犯して、まだそれが確定もしない中に恩赦に浴すると云ふことに付ては、誠にどうも遺憾に思つたのであります、將來は政黨政治と云ふものになりますだけに、必ず從來通り、若しくは從來以上に選擧違反と云ふものに付て考へなければならぬ時期になつて居ると思ふのでありますからして、今御答の中にあります通りに、到底選擧法自體に於て其の點を考慮することの見込がない以上は、せめて復權と云ふことに付てでもそれを抑制すると云ふやうな方法を、私は是非考慮して戴きたいと云ふことを希望して置いて、私の質問を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=14
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015・稻葉正凱
○委員長(子爵稻葉正凱君) 他に御質疑はございませぬか、別に御質疑もないやうでありますから是から直ちに討論に入りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=15
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016・霜山精一
○霜山精一君 從來の恩赦と云ふものは、天皇の大權に屬し、天皇の恩惠に基いてなされるものであると云うことになつて居りまして、從つて恩赦令に於きましても、恩赦の御沙汰に付ては總理大臣から天皇に上奏し、天皇の裁可に依つて恩赦が行はれる、斯う云ふことになつて居ります、新憲法に於きましては、恩赦を内閣の國務と致しまして、要するに國の恩惠と云ふことに改められたのでありまするから、其の點に於きまして、どうしても此の新憲法の施行と同時に、從前の恩赦令を改めて、何か恩赦に關する特別な立法を必要と致す譯であります、さうして恩赦は國の恩惠であると同時に、司法裁判の結果を動かすと云ふやうな重大な關係のある事柄でありまするから、法律の形を以て、即ち恩赦法と云ふ法律に依つて其の規定をしなければならぬと云ふことも亦當然なことであらうと思ふのでありますけれども恩赦と云ふものは、大體に於て舊憲法自體も、新憲法自體も殆ど同じことでありまするから、此の恩赦法を作りまする上に於きましても、前の恩赦令と殆ど内容上に於きましては大した變りはない、唯新憲法に基きまして、刑の執行免除と云ふやうな特別なものが出來ましたから、さう云ふものを恩赦法の中に新に規定する、或は又多少の其の他の必要な改正をすると云ふことになりまして、内容的にも大體前の恩赦令と大した變りを持たない、殊に恩赦法と云ふものが出來て居るのでありまして、其の内容から見ましても大體相當な法案であらうと考へるのであります、唯私の考へます所は、恩赦令にありました復權に對する本人の出願權の規定が削られて居ります、是は多少問題ではないかと思ひまするけれども、昨日の御説明に依りまして、本人の出願を別に許さない譯ではないのだと云ふ御話でありまして、施行令に矢張りさう云ふことを書くと云ふ御話でありまするから、強いて本人の出願權に關する規定を設ける必要があると云ふことも必要がなからうかと思ふのであります、施行令に本人の出願の出來ることを規定し、又恩赦の申立をするに付ては本人の出願の書面を付けて申立てをすると云ふやうな規定を恩赦法の施行令の方に規定されまするならば、自ら出願することが出來ると云ふこともはつきり致しまするからして、施行令に於て十分に其の點を規定して戴きたいと思ふのであります、それから昨日吉田委員から御話になりました恩赦のあつた場合に檢察官が判決の原本に恩赦のあつたことを附記しなければならぬと云ふ規定の適用でありまするが、此の問題に付きましては、吉田委員の言はれた通り、裁判所と檢察廳と云ふものが分離すると云ふことになりますると、判決原本を裁判所の方で保存すると云ふことになつて居る場合には非常な面倒な關係になるのではないかと思ふのでありまして、判決原本に書くと云ふことは極めて簡單なことのやうでありまするが、之を判決原本に書いて置かないと、非常な間違が起きる虞が度々あるのであります、現に或所で、判決原本に恩赦のあつたことを記載することを忘れて居つて、記載漏れがありまして、恩赦になつたことが判決原本で分らぬものでありますから、又其の者に對して恩赦を行つたと云ふやうな事例がありまして、一遍恩赦になつた人を又恩赦をしたと云ふやうな事例もありまするからして、此の判決原本に書くと云ふことは極めて大切なことなのです、此の點に付きましてどう云ふ風になるかはつきり分りませぬが、何れ裁判所と能く連絡を取つて、此の判決原本に書くと云ふことに付て違漏のないやうに一つ運用して戴きたい、斯う云ふ風に考へるのであります、要するに多少のさう云ふ風な希望がございますけれども、原案に付きましては私は贊成を致す者であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=16
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017・稻葉正凱
○委員長(子爵稻葉正凱君) 外に御發言ございませぬですか、御發言も外にないやうでございますから、是から恩赦法案の採決を致したいと思ひます、本案を原案通り可決することに御異議がございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=17
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018・稻葉正凱
○委員長(子爵稻葉正凱君) 御異議ないものと認めます、本案は全會一致可決されました、之を以ちまして此の委員會を終ります
午前十時四十四分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=18
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019・会議録情報2
出席者左の如し
委員長 子爵 稻葉正凱君
副委員長 男爵 奧田剛郎君
委員
侯爵 淺野長武君
伯爵 南部利英君
子爵 大久保教尚君
子爵 京極高光君
吉田久君
霜山精一君
男爵 尚琳君
男爵 中村徹雄君
藍澤彌八君
中島徳太郎君
政府委員
司法事務官 佐藤藤佐君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200169X00219470306&spkNum=19
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