1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
○檢察廳法案
○下級裁判所の設立及び管轄區域に関する法律案
○裁判所職員の定員に関する法律案
○裁判官の報酬等の應急的措置に関する法律案
○檢察官の俸給等の應急的措置に関する法律案
○日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に関する法律案
○日本國憲法の施行に伴う民事訴訟法の應急的措置に関する法律案
○日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律案
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昭和二十二年三月二十九日(土曜日)
午前十時十五分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=0
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001・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 昨日に引續いて「檢察廳法案」外四件の委員會を開きます、「檢察廳法案」に付て御質問がありましたならば、御繼續を願ひます、御質問はございませぬでせうか……御質問がないやうでありますから一應是で打切りまして、直ちに討論に入りたいと存じます、御發言がございませぬか……御發言もないやうでありますから、採決に入ります、「檢察廳法案」に付て原案通り、可決致すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=1
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002・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、仍て「檢察廳法案」は可決決定を致しました、次に「下級裁判所の設立及び管轄區域に関する法律案」を議題と致します、御質問を願ひます、御質問はございませぬでせうか……御質問はないやうでありまするから、討論、採決に入りまするが、先づ討論に於て御發言はございますまいか……ございませぬやうですから採決を致します、「下級裁判所の設立及び管轄區域の法律案」を原案通り可決することに御異議はございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=2
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003・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、仍て本案は可決致したものと決定致します、次に「裁判所職員の定員に関する法律案」を議題と致します、御質問を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=3
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004・村上恭一
○村上恭一君 「裁判所職員の定員に関する法律案」を私一見しまして、甚だ驚きましたことは、總ての裁判所の職員の定員が法律案で決めてあります、從前の高等官、即ち今申しまする一級官、二級官、其の定員が法律で定められるのは姑く措きまして、從前の判任官、今言ひまする三級官、これは今日では裁判所事務官と稱することになつて居りまして、本案にも其の名稱が用ひてありますが、多年使ひ馴れて居りまする名稱に依りますれば、即ち裁判所書記だらうと思ひます、從ひまして其の人數は二千七百六十四人と云ふ厖大な數に上つて居ります、斯樣な下級の官吏の定員をも、法律を以て規定しなければならぬのでありませうか法律を以て、直接に規定しなければならぬのでありませうか、此の點に私は或不審を感ずるのであります、同じ問題が裁判所の技官の三級官の分に付ても起りまするが、是は人數が少くなつて居ります、執れにしましても、此の下級の官吏、從前の判任官、今日の三級官、其の定員迄悉く法律を以て、直接に規定しなければならぬのでありませうか、改正憲法の趣旨に依りますれば、官吏に關する制度は總て法律を以て規定する、少くとも其の基準を法律で以て規定すると云ふことが憲法の精神又は規定であるやうに考へて居るのであります、それにしましても斯樣な下級の官吏に關する身分は、法律から命令政令に委任すると云ふ處置が執られて然るべきではないでありませうか其のやうな委任立法をも改正憲法は其の精神に於て、又は規定に於て許されるのでありませうか、是は今後實際の運用上甚だしく不便を釀しはしないか從來の名稱に從ひまする裁判所書記之を一人増減する……極端な場合を申しますれば、之を僅かに一人増加し又は減少すると云ふにも、一々法律の改正を必要とすると云ふことは、實際に於て殆ど其の煩に堪へない、而も無用の手數であらうと私は考へまする、此の點に付きまして、當局の御見解を伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=4
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005・横田正俊
○政府委員(横田正俊君) 只今の仰せは誠に御尤もでございます、私共と致しまして「裁判所法」に於て是等の職員の定員を法律に依つて定めると云ふことに致しました理由は、是等のものは法律に依りませぬ場合には、政令の如きものに依りまするか、或は最高裁判所の規則制定權に基く規則に依つて決めまするか、其の二つになると思ふのでございまするが、其の最高裁判所の規則に讓りますことも聊か妥當を缺きますし、今度裁判所が完全に獨立を致すと云ふ觀點から考へますと、政令で規定すると云ふことに付ても聊か妥當ではないのではないかと云ふことが考へられましたので、結局其の形式として重過ぎまして、下級の職員の場合に付きましては、誠に仰せの如く甚だ不便を伴ふとは存じましたが、一應法律で以て規定を致すことに致した次第でございます、尚其の點に付きましては、將來の運用の上に於きまして、甚だ不便でございますやうな場合に付きましては、更に十分に考慮致すことにならうかと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=5
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006・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 外に御質問はございませぬでせうか……御質問がないやうでありますから、討論、採決を致します、討論に於て御發言はございませぬか……御發言がないやうでありまするから、採決を致します、本案は原案通り、可決することに御異議はございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=6
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007・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、仍て本案は原案通り、可決決定を致しました、次に「裁判官の報酬等の應急的措置に関する法律案」を議題と致します、御質議を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=7
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008・我妻榮
○我妻榮君 私は此の法律案に付て、二つの點に付て若し出來れば修正致したいと思ふのでありますが、若しそれが色々な事情で不可能だと云ふ場合には、せめて希望決議或は附帶決議と云ふやうな形で其の意思を表明したいと思ふ點があるのであります、其の第一點は本法案の第一條の末尾に「國務大臣の受ける俸給の額と同額とする。」とありますのを、「國務大臣の受ける俸給の額以上とする」と云ふ風に改めたいと云ふ點であります、第二點は本法案の第三條第四項に「當分の間、一般の二級の官吏の受ける俸給の額の範圍内とする。」とありますのを「當分の間、一般の一級及び二級の官吏の受ける俸給の額の範圍内とする」と云ふことに改めたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=8
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009・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) ちよつと我妻君に申上げますが、只今のは修正の御意見として御出しになるのでございませうか、それならば討論の時に御願を致したいのですが発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=9
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010・我妻榮
○我妻榮君 其の點に付て私の意見を述べて、當局の御考を伺ひたいと思ふのです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=10
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011・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 今、修正意見を御出しになる譯ではございませぬね発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=11
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012・我妻榮
○我妻榮君 さうぢやありませぬ、修正したいと云ふ希望を以て、當局に伺ひたいと思ひます、第一の點は最高裁判所の判事の俸給を、原案では「國務大臣の受ける俸給の額と同額とする」と云ふ風に釘附けになつて居りますが、之を私の考では同額又はそれ以上にすることが必要だと思ふのであります、其の點に付て政府の御考を伺ひたいのでありますが、政府の御考を承るに付て、私の考を多少述べさして戴きたいと思ふのであります、日本國憲法が立法、司法、行政の三權分立と云ふ立場から、國會と内閣と最高裁判所を以て國家組織の三大支柱として居ることは申す迄もないことであります、其の結果、最高裁判所と云ふものは、從來の大審院に比較して一層其の地位が、高められ、其の權限を擴大されたのであります、私は其の擴大された權限の中でも、法律、命令が憲法に違反するかどうかと云ふことを審査する權限、所謂違憲立法の審査權と云ふものは、最も重大なものと理解して居ります、國會の議決した法律や、内閣の制定した政令を憲法違反だと云ふ理由で無效とすると云ふことは、是は實に容易ならぬ權限でありまして、之を最高法院が敢てする爲には、其の判事は、單に憲法と當該法律とを形式論理的に檢討しただけでは足りないのでありまして宜しく憲法に付ては深く其の精神を理解すると共に、當該法律の有する政治的經濟的竝に社會的の意義を十分檢討しなければならないのであります、アメリカの最高法院は十九世紀の末から二十世紀の初にかけて、聯邦議會の制定した勞働立法に對して、幾度も憲法違反だと云ふ判決を下したのでありますが、千九百十年代になつて、アメリカの經濟的、社會的情勢を研究した結果、遂に其の態度を改めて之を憲法違反に非ずと判定することになりましたのは顯著な事實であります、さうして斯うした事實は、啻にアメリカの勞働法制史の上に一時期を劃したと言はれるだけでなく、アメリカの社會、經濟に重大な影響を及したと言はれて居るのであります、又彼の千九百三十三年の世界的恐慌に際して、大統領ルーズヴエルトの行なつた産業復興政策の二大支柱となつたエヌ・アール・エー、エー・エー・エーの二つの法律に對して、アメリカの最高法院が違憲の判決を下しましたことは、アメリカの産業復興政策の上に深刻な影響を與へたと言はれて居るのであります、私は此處で此の二つの事件に於て、アメリカの最高法院の執つた態度の當否を批判しようとするのではありませぬ、唯最高法院の違憲立法審査權と云ふものが、一國の實際上の政治、經濟に執つて、如何に重大な意義を有するものであるかと云ふことを指摘して、最高法院の判事が、斯かる重大な權限を誤りなく行使する爲には、單に從來の意味に於ける法律の研究に沒頭しただけでは足りない、宜しく其の觀點を廣くして、國の内外に亙る政治、經濟の實際に付て、不斷の研究を怠らないやうにしなければならないと云ふことに、皆樣の御注意を喚起したいと思ふのであります、勿論、或法律が憲法に違反するかどうかが爭はれると云ふ事件は、さう始終あるものではありますまい、併し稀に生ずる事件だとしても、それが問題となつた時に、泥繩式に勉強しても追附かない事柄であります、斯樣に考へますと、日本國憲法が最高裁判所の判事に托した職責を十分に果す爲には大學に於て專攻する一科目だけを研究講義する大學教授などとは、比較にならない廣い視野と、不斷の研究が必要だと申しても、決して過言ではないと思ふのであります、元來裁判官は、從來とても始終裁判に沒頭して法律の定める報酬以外の收入を圖るべきものでないことは勿論であります、然るに大審院の判事諸公は、私立大學の講義をなさる例が非常に多い、時には學部長や總長の地位を御引受になつて居ることもあります、勿論適度の講義をなさることは、却て研究に必要であります、併し從來大審院判事は、研究の必要な範圍に於てだけ講義をしたのだと果して言ひ得るだけの疑がないでもないと思ひます、承りますと、一週間に何時間以上の講義をしないと云ふやうな申合せをして自肅して居られると云ふことであります、這般の消息を物語るものと考へられないものでもないのであります、從來の大審院判事諸公がそれにも拘らず、立派に其の研究をされ、其の職責を完ふされたと云ふことに付ては、私は必ずしも疑を持つて居る者ではありませぬ、併し是からの最高裁判所の判事としては、事情が異なつて來なければならないと思ひます、どなたが最高裁判所の判事に御なりになるにしても、此の點に付て頭の切り替へ、或は態度の根本的な一新を必要とすると信じて疑はないのであります最高裁判所の判事に對して、右に申しましたやうな困難なことを要求を致します以上は、少くとも後顧の憂なく其の困難な職責に盡瘁し得るだけの俸給を支給しなければならないのは寧ろ當然、自明のごとだと思ふ、要するに私は、從來の大審院判事の俸給が少かつたから、此の際之を引上げることを言つて居るのでは絶對にありませぬ、此の度の最高裁判所の判事は、從來の大審院判事とは全く別な心構へで掛つて戴かなければならない、だから其の心構へを要求する前提として俸給を考へなければならないと、斯う申して居るのでありまして、此の點は特に政府當局の御留意を願ひたいと思ふ點であります、尚我が國では兎角俸給の上の者が直ちに社會的地位が上であると考へる弊がありますので、最高裁判所の判事の俸給を國務大臣の俸給以上にしては、最高裁判所の判事が國務大臣以上の地位を持つことになつてをかしいと云ふ反對論が出るかも知れませぬ、併しさう云ふ考は全く理由のないことでありまして、俸給は其の地位に伴ふ諸種の經濟的事情を考慮して然るべく決定さるべきものでありまして、其の人の社會的地位は又是とは別な事情に依つて自ら決せられると云ふことは申す迄もないと存じます、其のことは近頃我が國でも次第に實現されて參りました、最近の官吏の俸給の決定標準と云ふやうなものが、將に左樣な趣旨を表して居るものだと考へるのであります要するに判事の俸給は、判事の特殊な地位に應じて其の額を定めらるべきであつて、國務大臣との社會的地位の上下などは一切考へる必要はないと信ずるのであります、最後に御參考迄にアメリカの例を一言致しますと、アメリカの最高法院の首席判事の俸給は年額二萬五百ドル、其の他の判事のは二萬ドルとなつて居ります、それに對して我が國の國務大臣に相當する各省長官の俸給は、年額一萬五千ドルでありまして、五千ドルも少いのであります、以上が第一の私の修正したいと云ふ希望を基礎とした所の、當局の御考を承らうとする點であります、第二點は簡易裁判所の判事の報酬が、原案では二級官吏の俸給額の範圍内に限られて居りますが、是はどう云ふ御趣旨であるか、私は事情に依つては、一級官吏の俸給額の範圍迄上げることも出來るとする必要が絶對にあるのではないかと思ふのであります、御承知の通り簡易裁判所は此の度の「裁判所法」に依つて新たに設けられた制度でありまして民事、刑事兩方に於ける輕易な事件を取扱ひまして、一人の裁判官で迅速輕易に事を處理して行かうとするものであります、之に依つて刑事に付ては、從來の違警罪即決などに、屡屡あつた裁判の不明朗を拂拭し、又民事に付ては、小さな爭ひにも時間と費用とを要した從來の弊を除かむとするのであります、從つて簡易裁判所は總ての裁判所の中で、最も民衆に接近したものでありまして、此の制度がうまく運用され、民衆の親しみと信頼とを贏ち得ることが出來ますれば、直ちに司法權其のものに對する國民一般の親しみと信頼とを贏ち得ることが出來ると云ひ得るものだと存じます、さうだと致しますと簡易裁判所の判事に其の人を得るかどうかと云ふことは、極めて重大なことであります、政府當局も簡易裁判所の判事には、裁判官其の他一般官吏の職を退いた者や、人格徳望の優れた人をも迎へる積りだと説明して居られます、誠に御尤もな御考だと存じます、併し其の御趣旨は、原案のやうに二級官吏の俸給の範圍内に限つた報酬で、果して實現し得るものかどうか、私は非常に疑問に思ふのであります、簡易裁判所の判事の右のやうな職責を考へますと、此の判事には比較的長く其の地位に留まつて、獨得の才能と徳望とを備へて、謂はば簡易裁判所の判事としての優れたるエキスパートになると云ふ程の覺悟を必要とするのであります、然るに我が國の官界では、一つ職務に留まると俸給が上らない、要領好く職務を迭つて行くと、其の度に地位も上り、俸給も増すと云ふので、一つの職務に付ての優れたエキスパートが出來ないと云ふ弊があつたのであります、此の弊害は官界一般に付て速かに是正しなければならないことでありますが、別けても簡易裁判所の判事に付て、特に考慮されなければならないことと存じます、斯樣に考へますと簡易裁判所の判事の報酬を二級官吏の俸給額の範圍内に止めると云ふ原案のやうに致しますると、其の地位は上の裁判所判事に出世する者が一時の腰掛に塞ぐ場所となつたり、或は出世の見込のないものの隱居所になつてしまふ虞があると考へられるのであります、又退官した裁判官や、官吏の優秀な者を迎えると言はれましたけれども、恩給受領者が小遣ひ稼ぎとして輕く取扱ふ所となる虞があるのであります、人格徳望の優れた民間人を迎へると言はれましても、極めて特殊な奇特家なら迎へ得るが、其の他は駄目だと云ふやうになつてしまひはしないかと思ふのであります、若しさう云ふ結果になりましては、簡易裁判所の制度を創設された目的が達せられないばかりではありませぬ、一番民衆に接近して謂はば司法權の最前線に於て、民衆の信頼を失ひ、延いては司法權そのものの威信さへ失墜する虞さへ生じないとも限らないと思ふのであります、事は小さいやうでも影響する所は甚だ大なりと謂はなければならないと存じます、私は此の二點に付て斯樣に考へるのでありますが、修正の希望を述べます前に、當局が原案を作成なさるのに、どう云ふ御考であつたのかを承つて置きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=12
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013・横田正俊
○政府委員(横田正俊君) 只今我妻委員から、新しい憲法の下に於きまする我が國司法部に對する誠に御理解のある御言葉を賜りまして、司法部の者と致しまして非常に感謝に堪へない次第でございます、只今仰せになりました第一點の最高裁判所の判事の報酬の點は、誠に御説の通りでございまして、新憲法の下に於きまする司法機關たる最高裁判所の裁判官の報酬は、仰せの如く國務大臣以上と致しても毫も差支ないと云ふ、さう云ふ考へ方が致されると思ふのでございます、尚第二點の簡易裁判所の判事の報酬に付きましても、誠に御説の通りでございまして、我々も全く其の通りに實は考へて居るのでございまするが、大藏當局との折衝の際に我々の力の足りない爲に大藏當局をして十分に簡易裁判所の判事の職責と云ふものを納得させることが出來なかつた爲に、甚だ不滿足なる結果になつて居ります、一級の程度の報酬を與へることが出來ますれば、どれだけ此の簡易裁判所の制度をうまく運用出來るかと云ふことは、我々も皆御意見の通りの考へ方で實は居るのでございます、唯此の二點に付て修正をしたいと云ふ御意向で、只今御質疑がございましたが、實は此の報酬に關する法律は、此の條文の上でも明かでございまするやうに、誠に應急的な措置でございまして、何れ近い機會に法律を以て正確なる額を定めましたものを規定致さうと存じて居りまするので、只今直ちに御修正に御賛成申上げることは諸般の事情から甚だ困難でございまするが、其の改正の機會に、今仰せられました二點を十分に加味致しまして、御滿足の行きまするやうな法案を提出致したいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=13
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014・村上恭一
○村上恭一君 私は本案の極めて形式上の表現に付きまして、御尋ねしたいと思ひます、それは見る通り「裁判官の報酬等」とあります「報酬等」とありますのは報酬以外の給與、即ち當時の社會情勢に依る臨時の手當と云ふやうなものを包含することと思ひます、そこで「報酬等」となさることは理解致しますが、其の「報酬」と云ふのは裁判官に對する財産的給付の本格なる即ち一般の官吏に付きましては俸給と稱するそれであらうと解します、現に次に現はれまする檢察官に關する法律案には、「檢察官の俸給等」とあります一般の官吏に付ては「俸給」と言ひ、裁判官に付ては「報酬」と言ふ、是れ何故かと云ふことが私の質問の要點でありまする、察しまするに改正憲法に裁判官は「相當額の報酬を受ける」と言つたやうな表現の規定があつたと思ひまするが、恐らくは其の憲法の規定に直結して、直接に結附いて、此の法律に於ても「裁判官の報酬」と云ふ文字を使用せられたのであらうかと思ひまする、併し憲法の其の文字は、それ程窮屈に嚴格に解しなければならぬものでありませうか、もう少し廣く、即ち裁判官に對する財産上の給付と云ふ位な意味に解して宜しいのではありませぬか、さうしますると、其の憲法に謂ふ報酬の中に本格の俸給とか、其の他の臨時手當の如きものも含むと云ふことになりまして、憲法の解釋に於て又其の運用に於て、一向差支はないのではないか、それから今御尋ねして居りますることに關聯致しまするが、官吏の俸給と云ふものの性質と云ふことを、從來行政法學に於きまして、可なりやかましく論議して居ります、それは官吏の生活を保障する費用である、又は官吏の勤勞に對する報酬であるとか、將又其の兩者を合せたものなりと云ふやうなことが從來、要するに行政法學上のやかましい題目となつて居りまする、今囘裁判官に付きましては「俸給」と言はずに「報酬」と言ふ、其の性質は如何でありませうか、此の報酬は俸給とは違ふ性質を有するもの、此のやうに理解すべきでありませうか、是も私の不審とする所であります、更に續きまして、裁判官の恩給關係に關して私、疑問を感じまする、恩給法は可なり嚴格に規定して居ります、又嚴格に解釋されて居りまする、其の恩給法の規定に依りますれば、恩給金額の基準となるものは官吏の俸給である、斯う明かに規定してありはせぬかと思ひまする、若しさうとしますると此の「裁判官の報酬」、性質は兎も角も、文字は「俸給」となつて居ないが、「裁判官の報酬」が、裁判官退官の後の恩給の支給と云ふことに何等支障を來さないのでありませうか、私が今考へて居りまするやうに、恩給法では官吏の俸給を基準として恩給金額を定む、さうして恩給を支給する、斯樣な規定であるとしますと、それが嚴格に解釋されますれば、裁判官は「報酬」は受けるが、「俸給」は受けて居らぬ、だから是は恩給を受くべき限りではないと云ふやうな解釋が出て來はしないでありませうか、其處に私は一沫の不安を感ずる次第でございます、以上、之を要するに本案に於て、「裁判官の報酬」と云ふ文字を用ひられました其の所以を明快に御教示を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=14
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015・横田正俊
○政府委員(横田正俊君) 此の法律に於きまして、「報酬」と云ふ言葉を用ひましたのは、仰せの如く憲法七十九條八十條に「報酬」と云ふ言葉が出て居りまして、それを受けまして、「裁判所法」の五十一條で、「裁判官の受ける報酬については、別に法律でこれを定める。」と云ふことに致して居りますのでこれを受けて「報酬」と云ふ言葉を用ひたのでございます、此の憲法の「報酬」と云ふ言葉の意義は仰せのやうに所謂一般官吏の俸給のみならず其の他財産上の收入總てを含んだものと解釋することも或は出來るかと存じまするが、我々は其の點に付きまして、一般官吏の「俸給」に當るものと云ふ風に考へまして、實は其の考の線に從つて規定を設けて參つた次第でございます、尚此の「報酬」と「俸給」との性質上の差異に付きましては、尚十分研究の餘地がございまするが、大體同じ性質を持つたものと考へるのでございます唯一般行政官に對しまする、其の勞務に對する反對給付と云ふのと異なりました表現を憲法が用ひましたのは、其の裁判官の仕事の性質に鑑みまして、其處に多少の差異を設けたのではないかと云ふことも考へられるのでございます、尚其の點に付きましては、十分研究致したいと存ずるのでございます恩給關係に付きましては、誠に仰せの如く、裁判官と云ふものが、一般行政官と大分違つた性質を持つて參りましたので、恩給法に付きまして、更に裁判官に關する特例を規定する必要があらうかと考へて居ります、尚此の點も十分に研究致しまして、仰せのやうな疑のないやうに規定致したいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=15
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016・村上恭一
○村上恭一君 只今私が御尋ね致しました諸點の内、恩給關係に付きましては更に考慮すると云ふ御答辯でございます、結構でございます、但し是は事、急を要するのではないかと思ひます改正憲法が施行されます、「裁判所法」其の他一聯の新しい法律が施行されます、即日、裁判官は「俸給」ではない「報酬」を受けるものになります、其の人々が即日退官しました場合、恩給關係はどうなるかと云ふことが、即時即刻問題となります、今御話のやうに裁判官には「俸給」ではない、「報酬」を與へると云ふことになつたが爲に、恩給法に若干の改正を加へる必要があるかも知れぬと云ふことでありますれば、それは今日迄に其の研究を了せられ、此の裁判官の「俸給」を「報酬」と改めると云ふ改正と同時に、帝國議會に御提案になるべきものであつたのではないかと思ひます、もう既に過ぎ去つたことを彼此申しても仕方がございませぬが、今後迅速に其の措置を御執りになることを希望致します、尚一つ、私の質問に追加して置きたいことは、裁判官の所謂「報酬」と云ふものは、一般官吏の「俸給」に該當するものである、それが憲法に謂ふ所の裁判官の「報酬」である、又「裁判所法」に依る所の「報酬」である、斯う云ふ御解釋、一應了承致しました、さうしますと云ふと、一般官吏の「俸給」に該當する其の「報酬」に關する規定は法律を以て定めなければならぬ、是は憲法に於て保障せられ、又「裁判所法」も繰り返して保障して居る譯であります、然らば所謂裁判官の報酬以外の給與……、法案第七條に「報酬以外の給與については、」云々とありますが、此の報酬以外の給與、是は一時手當の如きものでありませうが、それは裁判官に對するものと雖も、憲法に保障する所ではない、「裁判所法」の保障する所ではない、然らば之を法律を以て規定せられると云ふことは、果して其の必要がありますか、又果して妥當でありますのか、此の一點を私は先刻の質問に追加して御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=16
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017・横田正俊
○政府委員(横田正俊君) 只今の點に付きまして、御答へ申上げます、報酬の意義は、先程申しましたやうに私共は解釋致して居るのでございまするが其の他の給與に付きましても、法律を以て規定致しまする理由は、矢張り裁判官のさう云ふ財産的給與に付きましては、成るたけ國民の意思をそれに反映させた方が適當ではないかと、根本的にはさう考へた次第でございまして其の他の政令、或は最高裁判所の規則と云ふやうなものに讓りますことは、此の問題に付きましても、聊か妥當を缺くのではないかと存じまして、法律で規定致すことに致した次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=17
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018・村上恭一
○村上恭一君 諄いやうでございますが、今の點に付きまして、尚もう少し質問を發展さしたいのであります、問題は、報酬以外の給與の點であります此の法律案に依りますると、第七條に「當分の間、一般官吏の例による」とあります、即ち裁判官の手當と申しませうか、裁判官の手當は、一般官吏の手當と足並みを揃へると云ふことでありまして、是も結構であります、只今政府委員より御答辯になりました趣旨に依りまして、將來裁判官の手當が、法律を以て直接に規定せられると云ふことがないとは申せますまい、其の場合、一般官吏の手當はどう云ふ形式で定められまするか、是は恐らく法律ではない、政令だらうと思ひます、そこで其の官吏、まあ裁判官も官吏に違ひない官吏全般の手當を増額するとか、減額するとか云ふことの考へられまする場合、一般官吏の分は、それが政令の改正に依つて行はれる、裁判官に關する限りは、法律の改正に依るに非ざれば之を實現することが出來ない、そこで裁判官と一般の官吏との間に差額を生ずると云ふことが、差支ないと言へばそれ迄でありまするが、是は又官吏全般の權利から考へまして、寧ろ妥當ではない、少くとも原則としては否認すべきであらうと思ひますが、其のやうに困つた事態に落ち込むことはないでありませうか、是は事、詳細に亘りまするので、只今どう斯う申上げるのも詮のないやうでありまするが、併し我々立法に當りましては、眼の屆く限りの將來に對する見透しも必要であらうと考へますので、此の點に付きまして、此處に御列席の司法省當局の方々は、どう云ふ考へを御持ちでございまするか、伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=18
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019・横田正俊
○政府委員(横田正俊君) 實は裁判官の報酬其の他を法律で規定致しますことに付て、仰せのやうな、非常な不便が伴ひますことは、先程定員に關する法律の場合に申上げましたのと、全く同じやうな問題があると存じます、打明けて申上げますると、今囘此の臨時的な法律を出しましたのも、仰せのやうな、極めて經濟事情の不安定な時に法律を以て報酬の額等を定めますことは、極めて困難でございまして、此の點に鑑みまして、今囘は暫定的な法律を出した次第でございまして、今仰せになりましたやうな不便が將來も恐らくありはしないかと存じますが、併し飜つて考へて見ますと、先程申しましたやうに、裁判官の報酬等に付きましては、法律を以て決める、國民の意思に之を問ふと云ふ點が非常に必要な點だと存じまするので、それ等の不便が伴ひますことも覺悟致しまして、法律に讓つて居るのでございます、其の結果行政官の方は或は時勢の變遷に應じまして、直ちに俸給の額が引上げられる、裁判官は後に取殘されると云ふやうな好ましからぬ状態も出ることは固より覺悟致して居ります、其の場合には現在よりは法律の改正と云ふことが今後の新憲法の下に於きましては容易く出來るのではないかと存じまするので、法律改正の手續に依りまして、出來るだけ早く行政官との間の不釣合を是正するやうに致す積りでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=19
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020・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 外に御質問はございませぬか……御質問もないやうでありますから、ちよつとここで懇談會を開きたいと思ひます、速記を中止して下さい
午前十一時五分懇談會に移る
――――◇―――――
午前十一時十二分懇談會を終る発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=20
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021・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 速記を始めて……懇談會を終りまして討論に入ります、御意見がございましたならば御述を願ひます、我妻委員に申上げますが、先程の御質問の趣旨は、修正意見を御出しになるやうでありましたが修正意見を御出しになりますか、それともどう云ふ風な御意見でありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=21
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022・我妻榮
○我妻榮君 先程出來れば修正致したいと云ふ考で質問致しましたが、政府當局の御答辯に依りまして、色々事情も御ありかと了承致しましたので、修正をする考は捨てまして、若し幸にして皆樣の御同意を得ることが出來れば希望決議と云ふことに致したいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=22
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023・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 如何でございませうか
〔「賛成」「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=23
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024・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御賛成のやうでありますから、それでは我妻委員から、希望決議の趣旨の御説明を願ひたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=24
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025・我妻榮
○我妻榮君 此の趣旨は、先程質問に託して申上げたことで十分御分りだらうと思ひますから、それは省略さして戴きまして、希望決議の案を申述べたいと思ひます
裁判官の報酬等の應急的措置に關する法律案の希望決議
一、新憲法は、司法官の職責の極め重大なる事を規定する、この趣旨に則り、裁判官の地位を高くしてその人を得るため、その待遇についても、特に一般の官吏のそれとは別途にこれを考慮しなければならない
二、右の趣旨に鑑みれば、本案に定める最高裁判所判事の報酬及び簡易裁判所判事の報酬の額は特にその當を得たるものと云ふを得ない政府に於て速にこれが是正の方途を講ずべきことを要望する
右決議す発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=25
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026・有馬忠三郎
○有馬忠三郎君 極めて適當なる決議案と思ひます、私は賛成致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=26
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027・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 希望決議に關する我妻君の御提案に付て、御異議ございませぬでせうか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、それでは他に御發言はございますまいか、御發言がなければ採決を致します、本院に送付されました「裁判官の報酬等の應急的措置に関する法律案」に付て、衆議院に於て修正されました原案に付て採決を致します、原案通り、採決することに御異議はございますまいか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=27
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028・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、仍て原案通り、可決決定致しました、次に希望決議案に付てでありますが、此の決議案に對しては司法大臣から一應の答辯を得た方が宜かろうかと思ひますのですが、今本會議開會中でちよつと見え兼ねまするやうでありまするから、此の程度で一應休憩を致しまして、午後一時から開會することに致したいと思ひます、如何でございませうか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=28
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029・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 左樣なことに致します、休憩致します
午前十一時二十一分休憩
――――◇―――――
午後二時五十五分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=29
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030・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 午前に引續きまして、「檢察廳法案」外四件の委員會を開きます、午前中我妻委員より「裁判官の報酬等の應急的措置に関する法律案」に對して希望決議案の御提案がありました、此の際其の決議案に對して、司法大臣よりの御意見を承りたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=30
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031・木村篤太郎
○國務大臣(木村篤太郎君) 裁判官の報酬問題に付きまして御趣旨の程は十分之を認めまして、考慮の上、將來措置を取りたいと考へて居ります、本法案は應急的措置でありまするので、何れ來るべき新たな國會に法律案として提出されることと相成るのでございますが、其の際には十分御趣旨のある所を酌み取りまして、其の達成に努力致したいと考へて居ります、尚此の際一言申上げたいのは、檢察官の待遇の問題であります、御承知の通り新憲法に依りまして、我が國は全く武力を放棄するのであります、軍隊もなくなるのであります、治安の確保の重責を負ひまする檢察官、之の士氣が沮喪されると云ふことは全く國家的に見て重大なことであります、此の檢察官の待遇を十分に致して、專心力を此の治安に注がせて行くと云ふことは、政府と致しましても關心を持つて居る所であります、私と致しましては、此の檢察官の待遇に付きましても、裁判官の待遇に準ずるやうに致したいと、斯う考へて居りますので、どうか各位の御了解を得たいと思ふ次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=31
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032・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) それでは希望決議案に對する採決を致します、希望決議案に付ては、御提案の通り、可決すべきものと決定致すことに御異議はございますまいか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=32
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033・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、仍て希望決議案は原案通り、可決決定を致します、次に「檢察官の俸給等の應急的措置に関する法律案」を議題として御質問を願ひます、別に御質問もございませぬでせうか……御質問もないやうでありますから、討論に入ります、御發言はございませぬか、御發言がなければ、「檢察官の俸給等の應急的措置に関する法律案」は、原案通り、可決することに付て御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=33
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034・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないと認めます、仍て本法案は可決すべきものと決定致しました、尚本日此の委員會に併託されました「日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に関する法律案」、「日本國憲法の施行に伴う民事訴訟法の應急的措置に関する法律案」及び「日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律案」、此の三法律案に付て、本日は一應司法大臣の御説明を伺ひました上で、御質問の御準備の御都合もあらうと存じますので、本日は質問を致しませぬで、明日に致したいと存じますが、御異議ございますまいか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=34
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035・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、司法大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=35
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036・木村篤太郎
○國務大臣(木村篤太郎君) 只今議題となりました「日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に関する法律案」外二件の提案理由を御説明申上げます日本國憲法は其の第十三條及び第十四條で、總て國民は、個人として尊重せられ、法の下に平等であつて、性別其の他に依り經濟的又は社會的關係に於て差別されないことを明かに致して居ります、其の第二十四條では、「婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の權利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」こと、及び「配偶者の選擇、財産權、相續、住居の選定離婚竝びに婚姻及び家族に關するその他の事項に關しては、法律は、個人の尊嚴と兩性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」ことを宣言して居るのであります、然るに現行民法、特に其の親族編、相續編には、此の新憲法の基本原則に牴觸する幾多の規定がありますので、之を右の原則に適合させるやう改正する必要がありますが、種々の事情から今議會には其の改正案を提出することが出來なかつたのであります、それで其敢ず新憲法の基本原則を實現させる爲に、特に必要な諸點に付きまして、民法の規定の適用に關する應急的措置を講じ、以て新憲法の施行と民法の改正とが、時期を異にする爲に生ずべき種々の混亂を出來るだけ防止しようとするのが、此の法律案の目的であります、固より斯樣な應急立法だけでは、新憲法の基本原則を實現するのに不十分なことは明かでありますので、政府と致しましては今後も引續き各方面の御援助の下に、民法典の改正事業を繼續して、出來るだけ早い時期に民法を改正し、同時に此の法律を廢止したいと存ずるのであります、次に此の法律案の内容の要點を申上げます、第一點は、戸主、家族其の他家に關する規定及び家督相續に關する規定を適用しないものとしたことであります、其の理由に付きましては、既に本會議に於て述べました通りでありまして、第三條及び第七條は其のことを規定したのであります、之に依りまして、現行民法上、戸主が戸主たる資格に基いて家族の上に有する各種の權利は、全部認められなくなるのであります、尚家の存在を前提とする各種の規定、例へば入夫婚姻、分家、廢家、廢絶家再興、一家創立、隱居、法定推定家督相續人等に關する諸規定は、總て其の適用がなくなるのであります、尚茲に一言御留意を御願ひしたいことは、右のやうに民法上の家の規定は、此の法律に依りまして、今後總て適用されなくなるのでありますが、是は我が國に於て現實に營まれて居ります家庭を中心とする親族共同生活を否定する趣旨ではないことであります私共は現に父母や夫婦を中心とする家庭生活を營んで居り、事ある時は其の他の親族も之を援けるのでありまして、此の美風は、民法の制定以前から存在し、民法が變更になつても變ることがないのでありまして、此の法律案も亦此の點には何等の變更をも試みむとするものではないことであります、第二點は、成年者の婚姻、離婚、養子縁組及び離縁に付て、父母の同意を要しないものとしたことであります、是は婚姻が兩性の合意のみに基いて成立すべきものとした憲法の規定、其の他個人の尊嚴を規定する新憲法の趣旨に從つたものでありますが、未成年者に付きましては、其の保護の必要上、尚父母の同意を要することは從前の通りであります、第三點は、夫婦及び親權に關する規定に付きまして、兩性の本質的平等を徹底させる爲の措置を講じたことであります、即ち夫婦が同居すべき場所は、是迄は、夫の意思のみで定められたものを、今後は夫婦の協議で定めることと致しまして又夫婦の財産關係に付きましても、兩性の本質的平等に反する規定は其の適用がないものとした結果、從來の夫が妻の財産を使用收益し又は之を管理する等の權利は認められなくなりますし、夫婦の何れに屬するか分明でない財産を夫の財産と推定する規定も、亦今後は適用されないこととなるのであります、其の他裁判上の離婚の原因に付きましても現行法上の夫婦間の不平等を一掃して夫婦の孰れか一方に著しい不貞の行爲があつた時は、他の一方は離婚の訴を提起することが出來るやうに定めたのであります、親權に付きましては、從來は父が先づ親權者となる定めでありましたが、今後は父母が共同して親權を行ふものとし、父母が離婚し又は子を認知した時は、其の父母が協議に依つて親權を行ふ者を定めることと致したのであります、第四點は、相續制度に付きまして、種々の改革を行つたことであります、即ち前述のやうに、家督相續の制度は之を廢止するのでありまするが、之と共に相續に付ては、一子相續制度を廢止して、從來の遺産相續に準ずる分割相續制度を採りまして相續に關する配偶者の地位を考慮して配偶者は常に相續人となるものとし、配偶者の相續分に付ても特別の措置を講じ、遺留分に付ても若干の變更を試みたのであります、尚兄弟姉妹は、從來遺産相續人とならなかつたのでありますが、此の法律では之を相續人の中に加へたのであります、民法に對する應急的措置は、以上を以て盡きるのでありますが、他の法律に此の法律の規定に反する規定がある時は、是亦其の適用がないものと致した次第であります、以上が此の法律案の大體の要旨であります、次に「日本國憲法の施行に伴う民事訴訟法の應急的措置に関する法律案」の提案理由を御説明申上げます、本案の提案理由は、既に本會議に於て申述べた通りでありまして、日本國憲法及び裁判所法の制定に依り、裁判機構に著しい改革が齎されることとなりますので、之に即應して、現行民事訴訟法に所要の改正を加へることが必要となつたのであります、併しながら日本國憲法實施の上は、同法第七十七條に於きまして、訴訟に關する手續に付ては、最高裁判所が規則を定める權限を有することとなりますので、民事訴訟に關する手續中、法律に依るものと、最高裁判所の規則に依るものとの調整を圖ることが肝要であり、之が爲には最高裁判所發足後、最高裁判所と愼重協議することが望ましく、其の他諸般の事情に鑑みまして、此の度は民事訴訟法自體の全面的改正を差控へ日本國憲法及び裁判所法の施行上、必要な已むを得ない部分に限りまして、同法に對する應急的措置を講ずることと致したのであります、之が本案を提出する趣旨であります、尚此の趣旨に照し、本案に付ては其の有效期間を限りまして、應急的措置であることを明かにすると共に、其の期間内に新しい國會に於て民事訴訟法の全面的改正の審議を煩はすことと致す所在であります、以下本案の要點を御説明致しますと、先づ第一に民事訴訟法の適用に付て、日本國憲法及び裁判所法の制定の趣旨に適合するやうに之を解釋すべき旨の規定を設けましたことであります、此のことは明文を待つ迄もないこととも考へられますが民事訴訟法の全面的改正をする迄の間、同法に日本國憲法及び裁判所法の制定の趣旨に適合する解釋を施し、以て新しい裁判機構に於ける訴訟手續の適正且迅速な進行に聊かの支障もなからしめようとする趣旨に出たものであります、第二に判事補の民事訴訟に於ける權限に關する規定を設けたことであります、判事補は司法修習生の修習を了へた者の中から直ちに任命されるものであることに鑑み裁判所法第二十七條に於きまして判事補は他の法律に特別の定のある場合を除いて、一人で裁判をすることが出來ないと定められたのでありますが本案に於ては之に即應して、判決以外の裁判即ち決定及び命令のみを一人ですることが出來ることと致しました、第三上訴の制度に付て、新しい裁判機構に即應する規定を設けたことであります、裁判所法の制定に依りまして、從來の制度と比べ、特に大きい變革を見るに至つたのは、法令等の違憲を決定する權限を有する終審裁判所としての機能を持つ最高裁判所の機構でありますことは、既に御承知の通りであります、此の大きい變革に即應する爲に裁判所法に於きまして、簡易裁判所の事件に對する上告は、高等裁判所の權限に屬するものと定められましたが、最高裁判所を違憲の判斷に關する終審裁判所とする日本國憲法、第八十一條の精神に鑑み、苟も法律、命令、規則又は處分の立憲性が爭はれる場合には假令それが簡易裁判所の事件でありましても、又不服申立の方法のない決定命令でありましても、常に其の點に付最高裁判所の判斷を受け得ることと致しました、第四、行政廳の違法な處分の取消又は變更を求める訴の出訴期間を定めたことであります、此種の訴に付ては、今後は出訴事項の制限がなくなる關係上、出訴の對象となる行政處分が長く未確定の状態に在ることを避けるため、原則として此の期間を六箇月と定めたのであります、最後に第五上訴に關する規定の新設に伴ひ必要な經過規定を設けたことであります、以上が本法案を提出する理由の概要であります、次に「日本國憲法の施行に伴ふ刑事訴訟法の應急的措置に関する法律案」に付て御説明を申上げます、新憲法第三章は、基本的人權の保障に關し、諸種の新しい規定を設け、特に第三十一條以下に於ては、刑事手續に關し、舊憲法とは著しく異なる極めて詳細な規定を設けて居りますので、此の規定を實施する爲には、現行刑事訴訟法に相當な修正を加へなければならないばかりでなく、裁判所法及び檢察廳法の制定に依つて從來の裁判所及び檢事局の組織、權限に付幾多の根本的な變更が加へられますので、此の點からも改正を要する部分が少くないのであります、從つて政府に於きましては、過般來臨時法制調査會の答申に基き、現行刑事訴訟法を全面的に改正すべく、之が立案に鋭意努力致して參つたのでありますが、刑事訴訟法は其の性質上、組織法たる裁判所法及び檢察廳法とも密接なる關聯があるばかりでなく、警察組織とも不可分の關係にありますので、是等組織法の確定を待つて立案することを要すると共に、憲法の保障する基本的人權に極めて重要な關係を持つ關係から、其の準備に尚日時を要しますので、今議會の會期の終了も間近い今日、現行刑事訴訟法を全面的に改正する法律案に付て御審議を煩すことが不可能となりましたので、是迄の方針を改めまして、茲に新憲法の施行上最小限度に必要な規定を選びまして而も其の大綱のみを規定し、以て近く刑事訴訟法の全面的の改正が行はれる迄の應急的措置と致す爲に本案を立案致した次第であります、次に本案の内容に付きまして重要な點を概略御説明申上げます、第一は辯護權の擴充強化であります、新憲法第三十四條で、何人も抑留又は拘禁される時は辯護人を依頼する權利を與へられることになつて居りますので、從來は被告人のみに付て認められて居た辯護人を、被疑者が身體の拘束を受けた時にも之を認めることと致しました又新憲法第三十七條第三項に於て、被告人が資格のある辯護人を依頼することが出來ない時は、國で附するとあるますのを承けて、貧困其の他の事由に依り、辯護人を選任することが出來ない被告人の爲、其の請求に依り國で辯護人を附することに致したのであります、第二は、搜査機關の強制權に付て所要の改正を加へた點であります、新憲法第三十三條及び第三十五條に規定する「司法官憲」の意味に付ては、種々の論議がありますが、此の點は憲法の保障する基本的人權に極めて重要な關係がありますので、特に愼重を期し、搜査機關たる檢察官及び司法警察官吏が搜査の爲強制力を用ひるには、原則として裁判官の發する令状に依らなければならないことに致しました、第三は、豫審を行はないことにした點であります、是は現在の豫審が非公開の手續であり、實際上審理に長期間を要すること等の爲、新憲法第三十七條に於て被告人に迅速な公開裁判を保障する趣旨に則りまして、豫審は之を行はないことに致しました、之に依り現に豫審に繋屬して居る事件は、本法施行と同時に當然地方裁判所の公判に繋屬することになるのであります、第四は被告人に證人を直接訊問する權利を認めると共に、證人訊問調書等の證據能力に相當の制限を加へた點であります、現在の規定では、被告人は必要とする事項に付て裁判長に訊問を請求し裁判長が其の請求に依つて訊問をすることになつて居るのでありますが、新憲法第三十七條第二項は、被告人に對し證人を審問する十分な機會を與へなければならないことを規定して居りますので、其の趣旨に從ひ、被告人に直接證人を訊問する權利を認ると共に、證人等の供述に代るべき證人訊問調書等に付ては、被告人の請求がある時は公判廷に其の證人を喚問し、被告人に之を訊問する機會を與へなければ、證據として採用出來ないことに致しました、斯くすることに依つて、被告人の不知の間に作成された證人訊問調書等が其の儘證據とせられることがなくなり之に依つて公判中心主義が徹底されるものと考へるのであります、第五は、事實の誤認、量刑の不當等の理由に依る上告を廢止し、且上告審では、事實の審理を行はないことにした點であります、是は憲法及び裁判所法に定める最高裁判所の性格と關聯するのでありますが、若し從來の如く廣範圍な上告理由を認め、而も上告審に於て事實審理を行ふことにすれば、最高裁判所の負擔を著しく加重し、新憲法の期待する最高裁判所の性格に副はないことになる虞がありますので、法律審としての上告審の性格を明かにせむとするものであります、第六は、特別上告及び特別抗告の制度を設けたことであります、是は新憲法第八十一條に依りまして最高裁判所が終審として憲法の解釋に付決定權を有することとなりまするので、下級裁判所が憲法の解釋に付判斷を下した場合には、通常の方法では不服を申し立てることが出來ない時でも、特に最高裁判所に其の當否の判斷を仰ぐ途を開く必要があるからであります、以上、御説明申し上げましたやうに、本法案は極めて簡單であり、手續法としては誠に不完全の譏りを免れないのであります、現行刑事訴訟法と稍稍性質を異にする規定もありますので其の適用に付解釋上相當困難な問題も生ずると思はれますが、目下の情勢上眞に已むを得ないと存ずるのであります、併しながら重要な點は略略規定してありますので、新憲法裁判所法及び檢察廳法の制定の趣旨に從ひまして、裁判官竝に搜査官の健全な常識に依りまして、之が圓滑に運用されることを期待致して居るのであります、何卒御審議の上御協賛を賜らむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=36
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037・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) それでは本日は此の程度に致しまして、明日、午前十時から開會致します、本日は是にて散會致します
午後三時二十二分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=37
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038・会議録情報2
出席者左の如し
委員長 男爵 奧田剛郎君
副委員長 子爵 高木正得君
委 員
公爵 九條道秀君
侯爵 淺野長武君
伯爵 橋本實斐君
子爵 秋月種英君
大谷正男君
子爵 清岡長言君
村上恭一君
渡部信君
吉田久君
霜山精一君
副島千八君
男爵 内海勝二君
男爵 村田保定君
我妻榮君
山隈康君
有馬忠三郎君
國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
政府委員
司法參與官 吉田安君
司法事務官 佐藤藤佐君
同 奧野健一君
同 横田正俊君
同 内藤頼博君
同 野木新一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00219470329&spkNum=38
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