1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十二年二月十五日(土曜日)午前十時九分開議
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議事日程 第三號
昭和二十二年二月十五日
午前十時開議
第一 國務大臣ノ演説ニ關スル件(第二日)
第二 請願法案(政府提出) 第一讀會
第三 右議案ノ審査ヲ付託スヘキ特別委員ノ選擧
第四 華族世襲財産法ヲ廃止スル法律案(政府提出) 第一讀會
第五 右議案ノ審査ヲ付託スヘキ特別委員ノ選擧
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001・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 報告を致
させます
〔小野寺書記官朗讀〕
昨十四日委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
豫算委員會
委員長 伯爵 林博太郎君
副委員長 男爵 久保田敬一君
懲罰委員會
委員長 男爵 高木喜寛君
副委員長 子爵 今城定政君
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
會計法第七條第一項の規定の特例に關する法律案
同日政府ヨリ左ノ法律案ハ議院法第二十七條但書及第二十八條但書ニ依り議定相成タキ旨ノ要求書ヲ受領セリ
會計法第七條第一項の規定の特例に關する法律案
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=1
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002・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 是より本日の會議を開きます、議事日程に入るに先立ち御諮り致すことがございます、徳川議長は目下病氣引籠り中でございまして、副議長のみにては、何時議事に支障を來すやも測られませぬから、此の際假議長の選擧を行つて置く方が便宜かと存じます、以上議長の發議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=2
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003・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=3
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004・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました假議長の選擧に付きましては、先例に依り、本院規則第十四條第二項に依りまして、本會期を通じ議長に於て其の指名あられむことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=4
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005・島津忠彦
○男爵島津忠彦君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=5
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006・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=6
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007・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=7
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008・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 決算委員片倉兼太郎君死去せられましたに付、決算委員に闕員を生じて居ります、第二部に於て其の補闕選擧を行はれむことを望みます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=8
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009・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 是より議事日程に移ります、日程第一を後に廻し、日程第二以下を順次議題と爲すことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=9
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010・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=10
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011・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 日程第二、請願法案、政府提出、第一讀會、金森國務大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=11
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012・会議録情報2
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{左の提出文及案は朗讀を經ざるも參照のため茲に載録す以下之に傚ふ}
請願法案
右
勅旨を奉じて帝國議会に提出する。
昭和二十二年二月七日
内閣總理大臣兼外務大臣農林大臣 吉田茂
國務大臣 男爵 幣原喜重郎
司法大臣 木村篤太郎
國務大臣 齋藤隆夫
遞信大臣 一松定吉
國務大臣 星島二郎
厚生大臣 河合良成
内務大臣 植原悦二郎
大藏大臣 石橋湛山
國務大臣 金森徳次郎
運輸大臣 増田甲子七
商工大臣 石井光次郎
文部大臣 高橋誠一郎
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請願法案
請願法
第一條 請願については、別に法律の定める場合を除いては、この法律の定めるところによる。
第二條 請願は、請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載し、文書でこれをしなければならない。
第三條 請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならない。天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない。
請願の事項を所管する官公署が明らかでないときは、請願書は、これを内閣に提出することができる。
第四條 請願書が誤つて前條に規定する官公署以外の官公署に提出されたときは、その官公署は、請願者に正当な官公署を指示し、又は正当な官公署にその請願書を送付 第五條 この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。
第六條 何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
附 則
この法律は、日本國憲法施行の日から、これを施行する。
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〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=12
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013・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 只今上程に相成りました請願法案に付きまして、提案の理由を御説明致したいと存じます、日本國憲法第十六條に於きましては、何人も、損害の救濟、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廢止又は改正その他の事項に關しまして、平穏に請願する權利を有し、即ち國民の基本的權利として請願權が憲法の中に保障されてある譯であります、此の規定に基きまして、今囘提出の法律案は、請願の提出、請願を受ける官公署等に關しまして必要なる事項を定めたのでございます、又請願は文書で之を致さなければならない、請願の事項を所管する官公署に之を提出しなければならないと云ふやうな風に、請願の手續を定めますると同時に、請願を致しました結果として、適法な請願を受けました官公署は必ず之を受理を致しまして、誠實に處理しなければならない旨を規定し、尚國民は斯樣な請願を致しましたが爲に、如何なる差別待遇をも受けないことを明かにすると云ふ規定を設けて居る譯でございます、以上が此の法律の内容でございまするが、何卒宜しく御審議の上御協贊あらむことを御願ひ致します
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=13
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014・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 別に御質疑もなければ日程第三、特別委員の選擧に移ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=14
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015・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました特別委員の選擧は、本會期を通じ特別の場合を除き、其の特別委員の數を九名とし、其の指名を議長に一任するの動議を提出し、而して只今議題となりました請願法案は、其の特別委員の數を十五名とし、其の指名を議長に一任するの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=15
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016・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=16
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017・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=17
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018・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔小野寺書記官朗讀〕
請願法案特別委員
侯爵 佐竹義榮君 伯爵 南部利英君
子爵 北小路三郎君 子爵 松平銑之助君
子爵 井上勝英君 佐々木惣一君
村上恭一君 渡部信君
男爵 高崎弓彦君 男爵 沖貞男君
男爵 斯波正夫君 飯沼一省君
松尾國松君 名古屋三吉君
長島銀藏君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=18
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019・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 日程第四、華族世襲財産法を廃止する法律案、政府提出、第一讀會、入江法制局長官発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=19
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020・会議録情報3
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華族世襲財産法を廃止する法律案
右
勅旨を奉じて帝國議会に提出する。
昭和二十二年二月七日
内閣總理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
大藏大臣 石橋湛山
…………………………………
華族世襲財産法を廃止する法律案
華族世襲財産法は、これを廃止する。
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
登録税法の一部を次のように改正する。
第二條第一項第八号を次のように改める。
八 削除
不動産登記法の一部を次のように改正する。
第百四條 削除
第百四十三條 削除
從前の不動産登記法第百四條の規定によつてなされた華族世襲財産の設定又は管理財産である旨の登記については、登記官吏は、その登記のある不動産についてこの法律施行後最初に登記をする場合に、職権でこれを抹消しなければならない。
前項の規定を除いて、この法律の施行に関し必要な事項は、宮内大臣がこれを定める。
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〔政府委員入江俊郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=20
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021・入江俊郎
○政府委員(入江俊郎君) 只今議題となりました、華族世襲財産法を廢止する法律案に付きまして、提案の理由を御説明申上げます、華族世襲財産法は華族制度に依る華族の身分上の特典として、有爵者が其の家格を維持するに必要な範圍に於きまして、世襲財産を設定し得る目的を以て制定せられた法律であります、然るに今囘新憲法に依り、華族制度は廢止されることとなつて居り、最早此の法律も必要がなくなりました爲、之を廢止しようとするのであります、何卒御審議の上御協贊を御願ひ申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=21
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022・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今日程に上りました華族世襲財産法を廢止する法律案は、其の特別委員の數を十二名とし、議長に於て其の指名あられむことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=22
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023・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=23
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024・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=24
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025・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます、特別委員の氏名を朗讀致させます
〔小野寺書記官朗讀〕
華族世襲財産法を廃止する法律案特別委員
侯爵 久我通顯君 侯爵 鍋島直泰君
伯爵 清閑寺良貞君 大谷正男君
子爵 秋元春朝君 子爵 松平乘統君
荒川文六君 男爵 伊江朝助君
男爵 坂本大造君 藍澤彌八君
作間耕逸君 渡邊甚吉君
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=25
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026・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 先程書記官をして朗讀致させました、會計法第七條第一項の規定の特例に關する法律案、に付ては、政府より議院法第二十七條但書及び第二十八條但書に依る緊急議決の要求に接して居りますから、此の際議事日程に追加し、第一讀會を開くことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=26
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027・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます、石橋大藏大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=27
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028・会議録情報4
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会計法第七條第一項の規定の特例に関する法律案
右の政府提出案は本院において可決した因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十二年二月十四日
衆議院議長 山崎 猛
貴族院議長公爵徳川家正殿
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会計法第七條第一項の規定の特例に関する法律案
今期の帝國議会に提出すべき昭和二十二年度歳入歳出総予算及び同年度特別会計歳入歳出予算については、会計法第七條第一項の規定は、これを適用しない。
附 則
この法律は、今期の帝國議会の集会の始めから、これを適用する。
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〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=28
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029・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今議題となりました、會計法第七條第一項の特例に關する法律案提出の理由を御説明申し上げます、會計法第七條の規定に依りまして、歳入歳出總豫算及び特別會計歳入歳出豫算は、前年の帝國議會の始めに提出することに相成つて居るのでありまして、政府は從來慣例と致しまして、休會明けの集會の始めに提出致して參つたのでありますが、然るに昭和二十二年度歳入歳出總豫算及び同年度特別會計歳入歳出豫算は、昭和二十一年度豫算の遲延、又昨年十一月の臨時議會に於ける追加豫算の編成に相當の時日を費しました等の關係に依りまして、その編成が例年に比し相當遲れました爲、所定の時期に於て、帝國議會に提出することが不可能の状況に相成りました、從つて之に關する法律案を茲に提出致しました次第であります、何卒事情御了察の上、速かに御協贊を賜らむことを切に御願ひ致します次第であります
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=29
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030・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 三讀會の順序を省略することに同意の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=30
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031・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 三分の二以上と認めます、次に委員の審査は、政府の要求に依り之を行はざることに致します
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=31
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032・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 別に御發言もなければ是より採決を致します、本案全部を問題に供します、原案通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=32
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033・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=33
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034・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 日程第一、國務大臣ノ演説ニ關スル件、第二日、是より質疑を許します、畠山一清君
〔畠山一清君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=34
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035・畠山一清
○畠山一清君 産業再建に付て御伺ひ致します、先づ第一は石炭問題でありますが、前議會に於きまして石炭増産決議案が上程可決せられ、政府からは増産に對する對策と決意の程が闡明せられたのであります、即ち政府に於きまして、石炭が總ての産業の根源であり基礎であると云ふ見地から、暫く他の産業を抑へまして、炭鑛へ優先的に資材を供給し、又炭鑛勞務者を優遇する案が立てられたのであります、一體出炭高は昨年の十一月初めて二百萬トンに達し、十二月には二百十七萬トンで、計畫の九十九パーセントの成績を收めたのでありますが、此の一月は又二百萬トンに落ちまして、九十二、三パーセントとなつたのでありまして、兎に角勞務者一人當りの月産高が五、六トンと云ふ程度で、最高時の三分の一にも低下して居る現状から推して、此の四月から月平均二百五十萬トンを出すと云ふ計畫は餘程の決意と施策とを要するのであります、從ひまして石炭増産の國家的重要さを認められ、政府の責任に於て完遂しやうとせられるならば、政府の全機關を擧げて政府の總力を集中する位に致さぬければならぬのではなからうかと存ずるのであります、斯うした用意と熱意を以て當りますならば、資金、資材、勞務、輸送の諸對策の如きは自ら其の趣を異にして、増産の目的も亦達成出來るものと信ずるのであります、尤も最近聞く所に依りますと、現在商工省の外局であります石炭廳が内閣に移管せられて、其の行政力を強化すると云ふことに申されて居りますが、果して然らば、愈愈本軌道に乘つて來た次第でありまして、其の成果は一に今後の運營に係ることでありますから、以上申し上げました趣旨を十分御含み置きを願ひまして、此の際異論を挾むことなく、速かに遂行して戴きたいと思ふのであります、それに付きまして、増産對策の先決問題として、石炭事業に對する國家の根本方針が先づ以て明かにせられぬければならぬと思ふのであります、即ち炭鑛經營の形態が將來とも現在の儘で行くのか、それともイギリスが今囘行つたやうに國營になるのか、或は國家管理が強化せられるのか、此の問題をはつきり致しませぬでは、經營者側と致しまして、腰を据ゑて積極的に設備の改良も擴張も出來ませぬし、又新たに資本を投下して、新しい炭鑛を開く等と云ふことは到底期待致し兼ねるのであります、先般の内閣改造直後の記者團との會談で、石井新商工大臣は炭鑛經理面から見て必要があれば、國家管理強化も行はねばならぬと云ふやうに言つて居られますし、又石橋新安定本部長官も、將來國營が宜いと云ふ結論になれば反對はしないが、當面の問題としては國家管理が宜いと思ふと云ふやうに語つて居られますが、一口に國家管理と申しましても、其の内容、程度に付ては色々考へられますし、又國營を將來の問題として殘すと云ふことは色々問題を混亂せしめる虞があるのでありますから、此の際確かな所をはつきりとせられる必要があらうかと思ふのであります、政府にして是等根本方針をはつきりと確立、實行せられますならば、兎に角現在此處迄進んで居るのでありますからして、今一息經營者も從業員も腰を入れることに依つて、石炭問題は大體目途が付くのではないかと思ふのでありますが、此の根本方針に付て關係大臣からはつきりした御所見を伺ひたいと存ずるのであります、次に第二點と致しまして、先般の對策に依りますと、炭鑛方面に對して色々と物質的優遇が行はれて居りまして、物資の乏しい現在と致しましては、當局苦心の程を十分御察しするのでありますが、此の程度の施策では、有能な勞務の確保はなかなかむづかしいのではなからうかと思ふのでありますが、同時に此の考へ方では、よしんば勞務が集りましても、生産には、さのみならぬのではないかと心配するのであります、ソヴイエツトでは今から十年ばかり前でありましたか、どうしても石炭の劃期的増産を圖らぬければ、全生産が上らぬと云ふので、國民總掛りの努力の際に當りまして、偶偶スタハーノフと云ふ炭坑夫が、非常な苦心をして莫大な成績を擧げたので、同國の政府は早速賃金を一擧に數倍に引上げた上に、國民の英雄と云ふ國家最高のタイトルを授けて、全國的にスタハーノフ運動と云ふ一大増産運動が展開せられたことがありました、其の意氣込と言ひ、規模と言ひ今のやり方とは大分差があるやうに思はれるのであります、我が國に於きましては、終戰後インフレの進行に伴うて、生活の保障と云ふことが強調せられまして、給與の形も生活給與が中心となり、必ずしも各人の能率や生産にリンクして居りませぬし、今囘の炭坑夫に對する優遇も全般的な施策でありまして、各人の働き振りに應ずるものではないのであります、のみならず物質面だけで生産欲の昂揚を圖ると云ふことは、一時的の效果はありましても、どんな名藥でも、馴れましては效き目はありませぬもので、其の上優遇が各人の働き振りから離れた既得權利になつては、却て面白からぬ結果を招く虞もあります、從ひまして是は特に炭鑛と限らず、産業全般に付て言へることでありますが、斯うした物質的の優遇と竝んで、精神的な別の手が考へられぬければならぬと思ふのであります、それに付きまして、近頃民間に於て自主的に經濟を復興しようと云う機運が昂まつて參つたのであります、即ち終戰後勞働運動が急速に發展致しまして、爭議や騷動が到る處に頻發して、生産を阻碍して來たのでありますが、何時迄も此のやうな状態を繰返して居つたのでは、却てインフレを昂進せしめて、國民生活を破滅を導くと云ふ所から、勞資各々其の經營權と勞働權とを確認し合ひまして、合理的な結び付をなし、雙方協力して産業の復興運動に起ち上つたのであります、斯うして去る本月六日には經營團體及び勞働團體の代表者が集つて、經濟復興會議の結成大會が行はれまして、愈愈具體的活動に入ることになつたのであります、斯樣な譯でありますから、政府に於かれましても、此の物質的の優遇措置を補ふ精神的な裏付けと致しまして、折角斯うした民間の自主的な運動が盛り上つて來た機運に乘じて、勞働政策上更に之を推進するやうな構想を御持ちでなければならぬと思ひますので、商工大臣と厚生大臣に御伺ひ致したいのであります、第三に、石炭問題に關聯致しまして、重點主義生産に付て一言申し上げますが、今日の我が國は謂はば大病を患つた後の衰弱しきつた病人でありまして、全身的に消耗し盡して居りますので、一部の機能だけを特別に囘復させようと致しますことは、所詮無理でありまして、それどころか逆に全身的衰弱が昂じて一命を落す虞さへあるのであります、然るに我が經濟力を、石炭と鐵鋼とを起動力とする雪達磨式増産法で再建しようとする案は、一見巧妙なやうではありますけれども、是はもう既に戰時中造船に付て失敗した經驗濟のものであります、當時造船査察に於きまして、新たに造られた船の一部を割つて鐵鋼石の運搬専用に充て、それで出來た鐵鋼材を以て又船を造り、順次此のプロセスを繰返して増産する案を立てまして、之を雪達磨式と名附けたのであります、處が遂に其の目的は達することが出來なかつたのであります、同じく戰時中石炭、鐵鋼、アルミニウム、航空機などに付きまして、超重點的生産が企てられたのでありますけれども、何れも不成績に終つたことは、今尚我々の記憶に新たなる所であります、其の理由と致しまして、細かなことは色々申されますが、要するに産業經濟界は人間の身體と同じく、全體として綜合的に一箇の有機體を構成して居りますので、關聯産業を無視して或特定の部門だけを強化しようとする所に大きな無理があるのであります、細かいことを申し上げますならば、昨年來重工業生産の一番の隘路はコークスであつたのであります、處が最近では他の小さいもの迄皆隘路になつて來て居りまして、一例を擧げますと、圖面を引く紙、青寫眞を寫す紙と云ふものの爲に行詰つて居ると云ふやうな状態であります、昨日總理大臣は、施政演説に於きまして、明年度三千萬トンの石炭を出すやうにして、我が國經濟を擴大再生産に向けようとし、此の計畫は比較的急速に效果を示す豫定で、概ね本年四月以降、先づ鐵鋼、肥料等の基本物資から逐次生産量の擴大を示すと云ふやうに、樂觀的見透しを述べられたのでありますが、昨年末以來、實施状況を見ますに、細かい數字は一々申しませぬけれども、石炭部門と鐵鋼部門とをリンクする再生産の過程は豫定通り進んで居らないのでありまして、現状から推定致しますと、それが急速に効果を示して、此の四月から一擧に軌道に乘ると云ふやうなことは如何なものであらうかと思ふのであります、又總理大臣は此の重點主義を強行する間、他の産業又は國民生活に對し、犧牲と耐乏生活を要望せられて居りますが、戰前の三分の一の低い生産水準で均衡を保つて居る産業を擴大再生産に向けようと致します爲には、特定の部門に重點を置くことは或は已むを得ない窮餘の策でありませうけれども、問題は綜合計畫から見て、重點の置き加減、バランスを破る傾斜の度合にあるのでありまして、其の爲抑へられる他の一般部門が蒙る打撃の深刻さ、延いては産業全般に及す影響、言ひ換へますれば、重點主業生産の遂行が必然的に伴ふマイナスの面に付て如何なる御見込を御持ちでありませうか、殊に生産資材の生産が引き續き振はず、從來それを補つて來たストックも漸く枯渇して、産業は唯さへ縮小再生産を辿つて、正に生産停止の危機に瀕して居るのでありまして、此の時に當つて重點主義生産を強行致しますことは、勢ひ容易ならぬ犧牲を餘儀なくし、又廣く國民の經濟生活に對しても甚大な壓迫を加へることは明かでありますが、之に對して唯、耐乏生活を強ひるのみでは戰時中と同樣、徒に民心の離反を招くのみと心配するのであります、尚此の重點主義生産は、假に當面する石炭問題が解決致しましても、次には鐵銅、或は電氣、或は鐵道、船舶と、今後次から次に續出する可能性のある重大問題でありますので、茲に安定本部長官と商工大臣の御所見を伺ふ次第であります、以上を要約し、煎じ詰めますると、經濟力の囘復は産業全般の建て直しを圖るオーソドツクスな方策以外には途がないと思ふのであります、それには物質的に缺乏して居る今日と致しましては、或程度海外から物資の援助を受けると云ふことは、輸血と云ふ意味に於きましても、どうしても緊急に必要已むを得ないことと思ふのでありますが、同時に國民全體の士気を昂揚すると云ふことが、何より以て急務であると思ふのであります、廻り遠いやうでありますけれども、結局是が我が國再建の唯一の根本方策であり、是が對策の全部であると申しても敢て過言でなからうかと存ずるのであります、此の意味に於きまして、昨日總理大臣の施政方針演説を拜聽致しますと、産業再建、インフレ對策を初め、各種の問題に付て諄諄として時局突破の方針を御説明になつたのでありますが、苟も國政を燮理せられる總理大臣と致しましては、單なる行政上の施策に止らず、是等一聯の諸問題が由つて生ずる所の原因を衝く底の、もつと調子の高い、高度の經綸と氣魄と意氣込と云つたやうなものは當然御持ちでなければならぬことであり、又率直に御抱負を披瀝して戴けると期待して居つたのでありますから、茲に第四點として以下御所見を伺ひたいと存ずるのであります、元來我が國民性は長い間の封建的因襲から其の時其の時の權力に屈從して、自主獨立の精神に乏しく、加ふるに敗戰と云ふ精神的打撃から國民は今日益益卑屈になりまして、建設的な正義感も、力の前には影を潜めると云ふやうな有樣になつて居ります、是が政治の面に於きましては、封建的尊大主義と相侯つて、上に立つ者は下の者を使ふばかりで自分自身何も致さないと云ふ、所謂屬僚政治なるものを釀成して居るのであります、此のことは獨り國内政治に限らず、對外折衝、海外の我が國に對する認識を深める爲の努力に付きましても重大關係のありますことで、無論例外の方々はおありになることでありますから、誠に恐縮でありますけれども、此の際先づ政府、官界、上層部の人達は總掛りで自ら體當りするやうに致されたならば、政治は迅速に格段の進歩を見ることと信ずるのであります、又議會に於ても此の意氣込が欲しいと存ずるのであります、抑抑議事は議場に於て正當に論議せらるべきものと信ずるのでありますが、往々にして何かと斟酌があつたり、遠慮が先になつたり致しまして、議員の意向が十分に表明せられなかつたり、又國民の輿論が反映し切らないやうでは、政治の民主化を以て任ずる議員の職責上甚だ相濟まぬことと存ずるのでありますから、貴族院として最後の此の議會は渾身の意氣を以て有終の美を濟さむことと念ずる者であります、上の風下之を習ふと申しますが、現下の世相は如何でありませうか、昨夜來の隆雪で今朝は珍しく一面皚々たる白衣の姿を呈して居ります、「ああ、降つたる雪かな、それ雪は鵞毛に似て飛んで散亂し、人は鶴しょうを著て立つて徘徊す」と云ふ述懷の一節が謡曲鉢木にありますが、今や我が國上下を擧げて先の見透しを失ひ、只管生きむが爲に右往左往して、殆ど虚脱状態に陷つて居ります、昨今詰らぬデマが眞面目に信じられて居ることを見ましても、如何に人心が不安に驅られ、動搖して居るかが分るのであります、爲政者の深く心すべきことと誠に憂慮に堪へないのであります、此の精神的虚脱感は物資の缺乏と相俟つて益益生産の低下と國の經濟の破綻を早めて居る有樣でありまして、遂には全官公吏のゼネストと云ふ世界に未だ曾て例のない不祥事を惹き起すに至り、更に最後の局面に及んで、遂に聯合國総司令官を煩したことは誠に遺憾であります、事此處に至つた原因として、一つには昨年九月の國鐵爭議此の方、當局の因循姑息な態度と勞働政策の貧困さが指摘せられるのでありませうけれども、更に深く考察致しますと、根本的には政府國民を通じて何れも祖國再建の氣魄と熱意との缺如に依るものと切言せざるを得ないのであります、以上縷縷申し述べました所を畢竟するに、是等一切の由つて來る所は、一に國民士氣の沈滯にありと申さねばなりませず、從ひまして生産の再開、産業の復興も此の禍根を衝かずしては到底達成致し兼ねるのであります、昨日總理大臣は我が國民が敗戰の結果志氣を落し、道義頽廢、相剋摩擦日に加はると慨嘆せられたのでありますが、斯うした風潮が生じたのも、一つには目下の困難なる生活條件に基くと共に、今一つには國家再建の具體的な見透し、其の爲に努力すべき目標がはつきり示されて居らぬからであると信ずるのであります、政府の施策は擧げて當面の應急對策に集中して居るのでありまして、後の國民を打つて一丸とする目標、旗印に付ては更に見るベきものはないのであります、曾ての日露戰爭の後、戦後の經營に當つて戊申詔書が發布せられ、關東大震災の後にも復興事業の發足に際しまして、國民精神作興の詔書が渙發せられたのであります、今日は其の時分と事情を異にし、必ずしも其の揆を一にする譯には參らぬのでありませうけれども、只今申しましたやうな、現下の世相に徴しまして、何かの形を以て國民精神を振興することが、明治、大正の當時よりも一層緊要であらうと存ずるのであります、其の上、此の精神運動を裏付けるものと致しまして、日本國民を破滅から救はむとする宏大な氣宇と、科學的合理性とに基いた國家再建の計畫を立てまして、其の目標を示し、進むべき道を明かに致しますならば、國民は生氣を取戻し、奮つて之に協力することと信じて疑はないのであります、アメリカでは戰時中、早くも産業再轉換の計畫を練りまして、戰爭終了後の事態に備へ、ソヴイエトも亦戰後逸早く第四次五箇年計畫を發表致しましたし、其の他ヨーロツパに於きましても、ベルギーを初めと致しまして、國民經濟の再建計畫を強力に實施して居る國國は、何れも著々として復興の實を擧げて居るのであります、我が國はまだ賠償案も確定致しませず、講和會議も開らかれませぬので、對外關係から致しましても、斯うした計畫を作ることは困難なやうに思ひますけれども、一應我が國獨自の立場から、政府が其の責任に於て自主的に考究立案致されまして、それが遂行の爲に死力を盡し、お氣の毒ではありますけれども、其の計畫の一線を本當に死守せられますならば、其のことが即ち政府の政治的迫力となると同時に、民心を安定して國家の再建を促進することとなり、又延いては世界の同情を得る所以であると信ずるのであります、此の際人心を一新して其の向ふ所を知らしめ、國家再建に感奮興起せしめることが何よりの急務であると痛感致しまして、敢て内閣總理大臣の御抱負を御伺ひ致す次第であります、終りに申しますが、從來議會の御答辯は動もすると其の場限りのものになり終る傾がありますが、本質問に對しましては、必ず具體的な實行の伴ふ御答を期待して降壇致します(拍手)
〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=35
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036・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 御答を致します、石炭の増産に付て政府の具體案をと云ふ御話でありましたが、政府は私の施政方針其の他に於て屡屡此の處に於ても申述べました通り、インフレ、社會不安、生活不安、其の他の總ての問題は御意見の通り或聯關性を持つて居つて、此の社會、國家と云ふ有機體に於ては、一環が崩れれば、一環が又崩れる、又一環が更生と云いますか、完成するならば、自然其の他にも及ぶ、是は其の通りのことであつて、政府と致しましては、先づ第一に石炭三千萬トン増産をし、肥料二百萬トンを作ると云ふことからインフレ問題、或は經濟再建が此處から出發し、又此の出發に依つて社會不安、生活不安、其の他が除かるる第一歩としては石炭の増産である、肥料の増産である、肥料の増産に依つて食糧を確保する、石炭の増産に依つて産業の復活を圖る、此の點に先づ政府は力を集中致さむとして居るのであります、又今日迄石炭の増産の見るべきものがないではないかと云ふお尋ねでありまするが、併しながら是が爲には嘗つて議場に於て公表致しました通り、アメリカから重油其の他の輸入を圖つて、先づ之に依つて鋼鐵其の他の増産を圖る、建直しを圖る、是が第一歩である、石炭の増産に致しましても、今日先づ第一に考へらるることは物資の缺乏であります、鋼鐵其の他の物資の缺乏であります、先づ此の物資の増産なり、輸入なりすることに依つて、石炭の増産、或は其の他の肥料の増産に致しましても、先づ是等の物資を得ることに依つて出發すべきものとして計畫を樹て、此の物資は外國から輸入さるるものとして四月以降は石炭増産に向ひ得ると云ふ見透であります、唯不幸にして今日迄石油、重油其の他の輸入が豫定通り入つて來てないと云ふことは、事實であり、此の爲に製鐵、其の他の事業が進みませぬが、是は既に確約されて居ることでありまするから、必ず輸入し得ることと考へられます、又生産の増強、若しくは經濟の再建に依つて其の他の各種の社會不安等の問題が自然に解決されて行く、先づ其の初歩は石炭の増産其の他にありとして政府は施策を樹てて居るのであります、又現在の世相に付て色々御心配のことがありましたが、是は政府と致しましても感を同じうして極力其の憂ふべき事態を救濟することに付ては、全力を擧げて致す積りで居ることは、昨日私の施政方針に於て御覽下さるならば、又之を御了解下さるならば、私は御會得が行くと思ふのでありますが、私と致しましては、其の施政の演説なるものは、此處に單なる空文、作文を讀上げた考へでなく、之を實行致す覺悟を以て此處に演説致したものであります、此の施政の方針が實行せらるるや否や、又是が徒らに空文に終るや否やと云ふことは、今後の事態に付て御了承を願ひたいと思ひます
〔國務大臣石井光次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=36
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037・石井光次郎
○國務大臣(石井光次郎君) 只今の御質問に對しまして私の所管に關する二三の點に付て御答辯申上げます、石炭増産に政府が總力を集中してやつて行けと云ふ御言葉に對する答は、只今總理からも申した通りでありまするが、誠に此の石炭三千萬トン増産と云ふことは、言葉には易しいことでありまするが、今日の日本の情勢から致しますると、なかなか一石炭廳、或は一商工省の力では及ぶ所ではないのであります、全國民擧つての之に協力がなかつたならばどうすることも出來ないと思ふのであります、幸にして國民の間に色々な運動が起り、勞務者の間にも、どうしても此の石炭問題は政府が發表致しました三千萬トンに協力しなければならぬと云ふ氣魄が各方面に現はれて居ることは誠に愉快なことでありまして、政府と致しましては、先頃石炭廳を中央に移す方針を決めたのでありまするが、唯中央に石炭‥‥内閣に石炭廳を移したと云ふだけで、是だけでは石炭三千萬トンの増産の行政の施設の方法としては甚だ物足りないのであります、もつと今迄の色々な例を見ますると、内閣に組織を移す、さうすると如何にも恰好宜く見え、國を擧げての力のやうに見えまするが、兎もすれば大地に足を踏みしめてないと云ふ嫌ひがあるのであります、さう云ふ風なことのないやうに、どうしたら是が本當に内閣に移したと云ふ趣旨が徹底し、さうして國民運動的な此の石炭増産の中樞機關となり得るかと云ふ點に付きまして、目下急ぎ立案中でありまして、最近に於て何等かの方法が採られると思つて居ります、扨、御話のありました第一の點の炭鑛の經營形態をどうするかと云ふ御話でありましたが、私は先頃の新聞にも書いてあつたのと同じやうなことを矢張り思つて居るのでありまするが、今日は廣い意味に於ての國家管理が既に行はれつつあるのであります、之を何處迄擴げて行くかと云ふことなのでありまするが、斯う云ふ面に付きましては、實際に應じて色々な施設をして行くより外は方法がないと思うて居ります、國營にするかと云ふ御話でありましたが、私は國營と云ふ形を直ちに行つて、さうして石炭が必ずしも増産するとは思つて居ないのであります、色々な研究をした結果、どうしてもさうした方が宜いと云ふことであれば、其處に行つても宜い、併し私は其處に行つて果して増産するかと云ふことに付ては多少の疑念を持つて居るのでありまして、目下此の形態に付いては利害得失を篤と研究を致しまして、如何やうにするかと云ふことも決めなければならぬと思つて居りまするが、私は今日の一番の大きな問題は、如何にして石炭を増産するかと云ふにあるのでありまするから、經營形態に依つて増産を圖ると云ふことも勿論必要でありまするが、増産を眼目にして色々な經營形態が自然に移つて行く儘に致したいと思つて居ります、第二の炭鑛勞務の對策に付ての御話がありました、根本は精神的に勞務者諸君が立上らなければならぬと云ふ御趣旨のやうに承つて居ります、昨年の夏、石炭増産救國運動と云ふものが勞務者を中心にして全國に起りまして、非常な増産を致したと云ふことは御互ひ非常に嬉しい報告として聽いて居つたのでありまするが、精神の面も勿論必要でありまするが、私共と致しまして、特に商工省の立場と致しまして、先づ考へますることは、勞務者諸君に十分に働くだけの、働いて行く意欲の起るだけの衣食住を滿足さしてやりたいと云ふことなんであります、色々な資材、食ひ物、食糧、色々な物を提供することを政府は色々と計畫をし、約束を致しましたが、實際に於てともすれば遲れ勝になつて居ります、主食六合の配給と云ふものを決めましたが、是も米麥を中心にしてやりたいと云ふことを約束しながら、なかなか色々な關係上、努力しながら米麥は送れない、麥粉を送る、或はそれもどうかすると遲れ勝にならうとする状態であつたのであります、何と致しましても、斯う云ふものを先づ十分に提供し得るやうにする、約束したものだけは守ると云ふやうな方面に、私と致しましては有らゆる努力を致して行きたいと云ふことを念じて居るのであります、住宅の問題が能く論議されますが、是も幸に致しまして、新設一千五百戸、修繕するもの三千九百戸と云ふ案が出來て居ります、併し是も木材の入手等の問題に付きまして、今日の状態では思はしく進行して居ないやうであります、斯う云ふものも出來る限り力を致しまして、例へば木材の點に於て今の儘では出來ないならば、如何にして之を入手するかと云ふ點に付きまして、農林當局とも能く打合せを致しまして、急速に斯う云ふものを實現するやうに努力致したいと思つて居ります、尚賃銀問題に付きましては、地下勞働の特殊性に鑑みまして、私は是は出來るだけの待遇を致さなければならない、實物もやるが、又其の外に足りない部分に付ての費用としても考へてやらなくちやならぬと云ふことを考へて居ります、此の炭鑛勞働者に對する適正なる賃銀基準を作る爲には、給與審議會に近く諮問をする積りで居ります、第三の重點主義生産が外の産業に及す影響に付ての御質問があつたのでありまするが、先程總理から御答へ致しましたやうに、石炭を中心に致しまして、石炭と鐵鋼との循環と申しまするか、増産に依りまして、此の縮小再生産の現状を打破して行くと云ふことを我々の方針と致して居りまするが、誠にさつき御注意のありましたやうに、此の重點主義と云ふものは或一點に集中する爲に、其の他の面に非常な出血を要求することになるのであります、私共は日本の産業のどの面も、どれ一つとして是は放つたらかして宜いと云ふものはない筈であります、併しそれを承知しながら此の重點的に石炭の配給をし、或一部分には暫く待つて貰はなくちやならない、此の石炭には鐵材を十分にしてやるが、其の外の或は自動車工業と云ふやうな、鐵の欲しいやうな面にも十分にやることが出來ないと云ふやうなことは誠に殘念なことでありまするが、それならば自然の流に從つて、どれにでも同じやうにやつて行く、どれも可愛い、此の子も可愛いと云ふことでやつて居りましたならば一體どうなるかと云ふことを考へますると、結局總てのものが共倒れになつて、じり貧の結果、日本の産業の復興と云ふものは永久に期待出來ない、それならばどうするか、第一番には御承知のやうに外國から資財、原料等を十分仰ぐことが出來まするならば、之に依つて立直ると云ふことが一番だと思ひます、どんなに努力しても日本の資材、原料では足りないのでありまするから、何れは此の方面に於て十分なる理解と援助を聯合國に御願しなければならぬ、又現に援助を受けつつあるのでありまするが、それだけではどうにも出來ないと云ふ今日の状態でありまするから、我々は何處かに國内の生産面に一つ辛抱して貰はなくちやならぬ部面が出來て來る、是が重點主義を採つた所以でありまして、唯御注意のありましたやうに、重點の順位を能く考へ、さうして石炭の増産が始まりましたならば、鐵鋼の持つて行く石炭、それが第一としまして肥料の増産と順位を段々と決めまして、多少とも餘剩の出來る物は或は三千萬トン増産と云ふ線に沿うて色々な計畫を立てますが、それ以上の餘裕の出來て來ます物は、順次重點的に外の産業に廻して行く、さうしてどの産業も順次復活して來るやうにと云ふ注意は、十分致す積りであります、御言葉の御注意に從ひまして、私共は重點産業とは申しますが、唯一本何時迄も石炭と鐵と云ふだけではなく、その外の面に材料を順次供給し得ることの出來まするやうに、努力致す積りであります、之を以て御答と致します
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=37
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038・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今の畠山さんからの御質問に對しましては、總理、殊に只今具體的には石井商工大臣から詳細に御答へ致しましたので、最早私から申上げる必要はないやうにも考へますが、先程畠山さんの御言葉の中に、國家管理を炭鑛に對して行ふ、と云ふ意味のことを申したやうに御話があつたかと思ひますが、國家管理を行ふと云ふことは、申したことはない積りであります、只今石井商工大臣から申述べました如く、若し石炭の増産、殊に是は遠い將來の増産ではないのであります、差詰めの増産であります、で炭鑛の國營其の他のことをやるならば、或は遠い將來に於ては宜いとしましても、差詰め其の爲に何等か經營上に混亂を起す、茲數箇月の間石炭の増産は却て減ると云ふやうなことでありましては、是はいけないのでありまして、差詰め直ちに増産をする、斯う云ふ目標から、若しも炭鑛の中に國家管理を致せば、其の目的は達し得ると云ふ者があるならば、是は敢てそれを辭するものではない、斯樣に考へて居る次第でありまして、從つて常に申して居ることも左樣な線に沿うて話して居る積りで居ります、全く石井商工大臣の意見と同一でありますから、御了承を御願ひ致します、又産業の重點主義、所謂重點主義で資材を特に炭鑛に流す、或は又差詰め出來る所の石炭は多く鐵鋼業に廻して、さうして其の出來る鐵鋼を炭鑛に流す、斯樣な所謂重點主義を先般來取ることに致して施策して居るのでありますから、是亦石井商工大臣から申上げました通り、其の影響は、他の産業に及す影響は重大でありますが、併し是は所謂體當りだと思ひます、それ自身が體當りの政策であると考へるのでありまして、之に依つて出來るだけ短期間に石炭の増産の目的を達し、從つて一時は他の産業に非常な困難を生じますが、是も極く短い期間に止めて行きたい、斯樣に考へるのであります、尚種々なる物資のストツクが段々減つて居る、是は事實でありますが、此の點に付ても只今政府は十分の考慮を拂つて居る次第でありまして、經濟安定本部に於て特に全國の物資の動員に付て、強力な施策を致したいと、只今其の準備を急いで居る次第であります、斯樣な點、只今乏しいながらもまだ殘つて居ります所の、全國の物資の動員に依り、此の危機を凌ぎ、其の間に石炭の増産を進めて行きたい、殊に四月からの石炭の増産に付きましては、今迄よりももつと進んだ、思ひ切つた方法に依りまして、十分炭鑛の勞務者が活動の出來るやうなことに致したいと、只今商工省の方と打合せて、施策を急いで居る次第であります、御了承を御願ひ致したい
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=38
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039・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今畠山議員から私へ御質問でありましたが、大體各大臣の答辯で盡して居ると思ひまするが、此の石炭の増産は、是は國家再建なり、或は失業對策の萬能藥であると云ふことは、私昨年來此の議場でも申上げて居る所であります、二百萬トンと申しましても、鐵道、船舶、或は肥料、鐵鋼、亙斯と云ふやうなものには、もう一定量は入りますので、一般民需、特に國民生活に直接觸れて來るやうな品物の方面などには、實は餘り數字ははつきり憶えませぬが、五十萬トン見當しか行かぬと思つて居ります、そこでそれを二百五十萬トンと云ふことに致しますと、其の五十萬トンが倍位になる、さう云ふ點に、只今石橋君の御話になつたと關聯しました、非常に國民生活面に於て、有利な展開を見せるぢやないかといふ風に考へて居りまして、是は商工大臣の御話の通り、物質的には全力を盡してやつて居る、又精神的方面に付てどうだと云ふ御話でございまするが、此の精神的方面と申すものも、矢張り根柢の大部分は、物質的の方面にあるのでありまして、或は報償制なり、或は能率給なり、或は米が出來たら新米を先づ炭鑛へ積出すと云ふやうな、矢張り物を背景にしました、精神的なそこに推進力を起させると云ふことが、矢張り重大な點であります、もう一つは先程御指摘の復興會議、或は經營基本體と云ふ面に於きまして、是は段々勞働問題などが非常に進展を見せますると、それに對して又一つのペンドラムのやうな働きで、是は是ではいかぬのだ、何とかしなくちやと云ふ自覺が、矢張り個人の胸に湧いて來て、個人の自覺と國民の自覺と云ふものが湧いて來まして、矢張り是は御互ひに分配をする物を増加しなければならぬ、古いイギリスで申しまするウエージ・フアンド・セオリー、さういふやうな氣持が矢張り國民的に起きて來て、それが只今産業復興會議の、基調的觀念をなして居る、と云ふ風に私共は感じて居ります、此の運動は餘り‥‥ですから直接指導すると云ふよりも、盛り上がる力を土臺にしまして、どうかうまく發展さしたいものだと云ふことを念願して居る次第であります、又勞働對策の問題に付て、如何にも貧困ぢやないかと云ふやうな、御叱りも受けて居りまして、此の點は微力甚だ遺憾な次第でありまするが、是は御承知の通りに、戰後の經濟の崩壞と申しますか、生産力の減退と申しますか、昨年來の食糧の不足と申しますか、之に伴つてインフレの昂進と國民の生活難、富の分配が餘程樣子が變つて來た、斯う云ふことはもう御存じの通りの状態であります、そこに一方國民の進歩と申しますか、民主主義への轉換と申しますか、さう云ふ所へ又行けるには、民主主義の誤解があります、それから少数指導者の餘り好ましくない活躍もあります、さう云ふものが色々混りまして、それが聯合國の管理下に置かれて居る日本と云ふことを御考へ下さいまして、斯う云ふ病氣の病人に對しまして、どう云ふ方法を取つて行くかと云ふことなんであります、それで是は無理は出來ませぬ、やりたいことはやりたいが、はつきりしたことはなかなかやれないと云ふのが現状の状態であります、押寄せて來る上げ潮のやうな勢ひと云ふことを見逃がすことは出來ないのであります、斯う云ふ點に處しまして、此の勞働問題は、實は端的に申しますと、なかなかむづかしいと云ふことを何卒一應御了承を願ひたい、と申しましても、私共は決して消極的に考へて居る譯でありませぬ、此の思想は矢張り一つの見透しを持つてそれを指導して行かなくちやならぬ、一つの見解を持つてそれに行くやうに政府はベストを盡さなくちやならぬと云ふことは深く考へて居りまして、それは此の國民的解放と云ふものをどう云ふ風に導いて行くのが最も適當であらうか、又個性の自覺と云ふものをどう云ふ風に内心的にそれを發達させて行くのが適當であらうかと云ふ、さう云ふ一つの見透しの下に、政府は勞働問題の根本的考を持つて居るのでありますが、さう云ふ現實に處しまする場合に色々困難な事情があつて意の如く行かぬと云ふことに付ては何卒御了承を願ひたい、併し出來るだけの最善を盡して、此の國家危急の際に處したいと云ふ考で居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=39
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040・畠山一清
○畠山一清君 簡單でありますから此の席から御許しを願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=40
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041・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=41
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042・畠山一清
○畠山一清君 只今各大臣から何れも比較的懇切な御説明、御答辯を得たのでありまして、大體は了承致しました、中にはまだ了承し切らぬ點もありまするが、總理大臣は殊に御差支がありますやうで御退席になりましたし、又私の申しましたのは、國民が蹤いて行く目標旗幟を御示しを願ひ、何等かの計畫を樹てて、見透しを付けるやうにして貰ひたいと申上げたのでありまするが、只今厚生大臣の御話の中にも、厚生大臣御自身でも見透しの付かない點があると云ふやうな御話がありました、なかなかむづかしいのであらうと思ひまするが、總理大臣は幸に作文に止まらず、今後の實行に見よと云ふ御話でありまするから、其の御實行に期待を懸けまして、私の質問は是で打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=42
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043・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 佐々木惣一君
〔佐々木惣一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=43
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044・佐々木惣一
○佐々木惣一君 我が國は今や再建の途上にありますが、此の再建の大業は國家が長く繼續して從事すべきものでありまして、唯時々の段階に於きましては再建の線に沿つて、其の時の事情に相應した適當の措置をなさなくてはなりませぬ、此の見地よりして私は茲に次の四つのことを質問致し、内閣總理大臣及び他の關係諸大臣に御答辯を御願ひするのでありますが、但し先刻事務當局より承りまする所に依りますれば、總理大臣は本日他の公務の爲御缺席になつたのでありまするから、他の御列席の國務大臣より私の答辯の趣旨を總理大臣に御傳へ下さいまして、さうして總理大臣の御答辯を他日に得たいと思ふのであります、尚他の國務大臣の方にも御尋ね致すのでありまするが、本日は時間の關係上、或は御答辯に差支あるやうなことがあるかも知れませぬのですからして、是も御都合に依りましては、他日に御讓り下さつても宜しいのであります、但し答辯を御願ひすることだけは保留して置きます、第一、政府は憲法改正に際し、我が國憲政の健全なる進展を期する、さう云ふ意味で日本國憲法の施行に先立ちまして總辭職し、又衆議院の解散を奏請すべきものであると思ふのであります、此の點に關する政府の御所見は如何でありませうか、政府の總辭職と衆議院の解散と云ふのは二つのことでありまするけれども、私が今茲にそれを必要としまする理由は結局同一に歸するのでありますから、茲に一つの質問點として御尋するのであります、右の如く政府の總辭職及び衆議院の解散の奏請をなすべきであるとする理由は、之に依りまして現帝國憲法の下に於ける憲政の終りを全うせしめ、同時に將に施行せられむとする新日本憲法の下に於ける憲政の始めを清くすることが出來ると云ふのであります、現帝國憲法の憲政より申しますれば、即ち有終の美を濟す所以でありますし、新憲法下の憲政に付て申しますれば、始業の美を濟す所以であります、何を以て斯く申すと申しまするならば、先づ政府の方に於て申しますれば、政府は現帝國憲法の定むる所に依りまして、天皇の統治を輔弼するものとして設定されて居るものでありまするが、日本國憲法施行の後に於きましては、日本國憲法の定むる所に依りまして、國民の統治行動を實現するものとして設定されるのであります、即ち現帝國憲法下の政府は、新日本國憲法下の政府とは其の存立の意味より申しまして、全く性格を異にするものであります、故に政府は其の存立の意味と云ふ點より申しますれば、新憲法施行後に於ては最早本來政治を擔當すべき機關であると云ふ性格を持つて居ないのであります、固より日本國憲法の法制の條項より申しますれば、其の儘引續いて政府として局に當らるることは新憲法第百三條の認むる所でありまするけれども、併しながら茲に申しまするのは、さう云ふ法制論を言ふのではないのでありまして、政治論を申すのであります、政治論より致しますれば、即ち現政府が本來存立して居る其の意味よりして性格如何と云ふことを考へなくてはならないと思ふのであります、是が即ち此の現政府が新憲法施行に先立ち總辭職すべきものであると云ふことの事由であります、而して是が又現帝國憲法下に於ける憲政の終りを全うせしめ、有終の美を濟す所以であらうと思ふのであります、又同時に、是が新日本憲法下の憲政の始めを清くして、其の始業の美を濟す所以であると思ふのであります、斯う云ふ意味に於きまして、私は政府の總辭職を必要と考へるのでありますが、如何でありませうか、固より此の總辭職と云ふやうなことは色々の意味からも考へられるのでありますけれども、私は茲に即ち帝國憲法有終の美を濟し、日本國憲法始業の美を濟すと云ふ、さう云ふ見地から、さう云ふ意味で行動すべきものであると、斯う云ふ風に思ふのであります、次に帝國議會のことに付きましても同樣のことを考ふべきであります、帝國議會も現帝國憲法の定むる所に依り、天皇の統治行動を協贊するものとして設定せられて居るのでありまするが、新日本國憲法の下に於きましては、國民の統治行動を決定するものとして設定さるべきものであります、故に其の存立の意義より申しますれば、全く此の帝國議會と、それから新憲法下に於ける所の國會と云ふものとは性格を異にして居るものであります、でありまするから、帝國議會と云ふものは、固より新憲法施行に入る前に其の存立を失はしめらるべきものでありますが、併し是も全く政治論より申すのでありまして、法制論より申すのではありませぬ、法制論より申しますれば、衆議院は矢張り依然として存續し得るのである、唯貴族院は言ふ迄もなく、當然に法制上存在を失ふものであります、併し私の先刻申しました立場より申しますれば、衆議院も存在を失はしめらるべきものであると思ふのであります、併しながら是は貴族院と違ひまして、當然に存在を失ふものではありませぬから、其の存在を失はしむるの行爲がなくてはなりませぬが、それは先づ第一に考へられるのは、衆議院議員諸氏の辭職と云ふことが考へられるのでありまするけれども、併しながらさう云ふことの實現が出來るかどうかは固より私の知り得ない所であります、仍て私共が茲に考へられることとしては、衆議院を解散すると云ふ方法より外ないと思ふのであります、それ故に政府は新憲法施行に先立つて、衆議院の解散を奏請すべきものであると思ふのであります、是が又現帝國憲法下の憲政の終りを全うせしめて有終の美を濟す所以であり、又同時に新日本國憲法下の憲政の始めを清くし、始業の美を濟す所以であると思ふのであります、斯くて現帝國憲法下の憲政に有終の美が濟され、又同時に新憲法下の憲政に始業の美が濟さるるに於て、始めて我が國の憲政と云ふことが、全體として健全なる進展を遂げて居ると言ふことが出來ると思ふのでありますが、此の點に付きまして政府の御所見は如何であらうかと云ふことを御尋ね致したいと思ふのであります、私は、以上は我が國の憲政全體をして健全なる進展を期すると云ふ意味から總辭職及び解散を申したのでありまして、別の意味からも亦總辭職又は解散を考へられることがあるかも知れませぬが、唯私が茲に第一點に申しましたのは、即ち我が國の帝國憲法有終の美を濟し、又日本國憲法始業の美を濟さしむる、以て我が國の憲政全體をして健全に發達せしむると云ふ、さう云ふ意味に於て此の事を御尋ねするのであります、此の事は總理大臣に御尋ねするのでありまするけれども、同時に金森國務大臣の御意見をも伺ふことが出來れば幸ひであります、第二に當面緊要のことである政局安定の爲にも國民の意思を問ふと云ふ必要があり、政府は此の意味に於て衆議院の解散を奏請すべきものであると思ふのでありまするが、如何でありませうか、是は同じく衆議院の解散に關することでありまするけれども、解散を奏請するの意味が第一に述べましたものとは、全然違つて居るのであります、政局の安定の必要であると云ふことは、今日痛切に感ぜられて居る所であります、而も政局が安定を缺くこと、今日の如き状態に於て爲されることは從來餘り例を見ませぬ、或は内閣の改造と言ひ、或は聯立の内閣と言ひ、或は内閣の總辭職と言ひ、或は衆議院の解散と言ひ、或は政黨の合同と言ひ、或は政黨の提携と言ひ、或は新政黨の設立と言ひ、實に政局に暗雲低迷して、國民は其の如何なることに落著くかと云ふことに惑ふことは、實に甚だしいものと感ずるのでありまするが、其の具體的の事實は此處で申上げる必要はありますまい、概觀して此の事には皆樣が御同意であると思ふのでありますが、唯國民が今日政局の不安定に依つて、國民自身が不安の感を懷いて居ると云ふことは見逃すことは出來ませぬ、是は政局の安定を缺くと云ふ、さう云ふ状態其のものが從來に見ざる所の一種特異のものであるから、國民が不安を感ずるのでありますけれども、又それよりも斯かる状態で我が國家再建が出來るのであるか、國家再建の途上斯かることで宜いのであるか、斯う云ふ點に國民が非常に憂慮して居るのでありまして、是で非常に不安の念を懷いて居るのであります、でありまするから、政局を安定せしむると云ふことは、實は政府及び政黨をこめての、所謂政治家諸君だけの關心事ではないのである、實に國民全般の關心事であるのであります、然らば今日如何にして此の政局を安定せしむるかと云ふことに付きましては、少くとも其の根本義に於ては、國民の意思に依つて之を決することが適當であると思ふのであります、でありまするから、茲に衆議院を解散し、政局安定の方法を知ると云ふ爲に國民の意思を問ふのが適當である、其の意味に於て衆議院を解散し、更に選擧を行ふべきものであると思ふのでありまするが、政府の所見は如何でありませうか、尤も先般マツカーサー司令官より吉田首相に對しまして、昨年の選擧以來我が日本の諸般の事情は變遷して居るのであつて、最早今日は更に國民の意思を問ふと云ふ爲に解散をすべき時期に達して居ると云ふやうな意思を告げられたと云ふことでありまして、是が新聞に報道せられたのであります、爾來衆議院は解散されるであらうと云ふ、さう云ふ前提の下に新聞報道が色々に爲されて居るのでありますからして、此の衆議院の解散と云ふことは、或は既定の事實であるかの如く思ひまするけれども、併しそれにも拘らず、私が茲に質問致しまするのは、別に理由があるのであります、それは私が只今申して居ります衆議院の解散の必要は、政局の安定の爲に國民の意思を問ふと云ふ、さう云ふ意味に於ての解散の必要を言ふのでありまして、此の一年間諸般の事情が變つたからして、それに依つて國民の意思を知る爲に解散をすると云ふやうな、さう云ふ意味も固より重要でありますが、私は其の意味の外に特に今日の政局の安定を附ける方法を知る爲に國民の意思を問ふ、さう云ふ意味に於て解散が必要ぢやないかと云ふ風に考へるのであります、且私は此の質問は、マツカーサー司令官のあの書翰が發表される前に、既に電報を以て通告をして置いたのでありますから、或は政府の解散の意味が決定して居て、私の質問が不適當であるかも知れませぬけれども、私はマツカーサー司令部とは又別の見地に於て之を御尋ねして居るのであります、そこで御尋ね致すのでありますが、政府は果して新聞記事に依つて國民が想像して居るかの如き、衆議院を解散すると云ふ、斯う云ふ意思を御決定になつて居るのでありませうかどうか、之を御尋ねするのであります、之に付きましては、昨日總理大臣の御演説の中にも、マツカーサー司令官の解散に關する書翰のあつたことは御話になつたのでありますけれども、併しながら果して解散するや否やと云ふことに關しての政府の御意思は判明して居らなかつたのでありますから、茲に之を御尋ねするのであります、更に政局の安定と云ふことに關して、私は國民と政黨との關係と云ふことを無視してはいけないと云ふことを申して置きたいのであります、固より政黨政治家は直接に政治を擔當して居る者でありますけれども、併しながら其の政治擔當の方法に付きましては、少くとも選擧の時及び其の後色色な機會に於て國民に對して告げ、或は更に進んで約束して居るものがあるのであります、でありますからして、政黨政治家の行動は常に、此の嘗て國民に對して告げ、又約束したものとの關係と云ふことを忘れてはなりませぬ、政局安定の方法に付ても同樣であります、でありますから、政黨政治家が政局の安定に付て色々の行動を爲す場合に當つても、それは決して國民の納得する方法如何と云ふことを眼中に入るることなく、唯勝手我が儘のうちに、即ち國民との關係に於ては我が儘に其の行動を定めると云ふことは、是はどうも政黨政治の本義に反するものであると私は思ふのでありまするが、悲しい哉、從來我が國に於きましては、斯かる弊風が當り前のことのやうに平氣で行はれて居るのであります、是は固より斯かることを許して居りまする所の國民の側にも反省すべき點がありまするけれども、併しながら國民を指導すると云ふやうなことを以て任じて居る所の政黨政治家自らが非常に反省しなくてはならぬと私は思つて居るのであります、でありまするから、此の點から申しましても、今日政黨内閣と稱せられ、又は少くとも政黨中心の内閣と稱せらるる此の内閣に於きましては、此の政局安定と云ふことに付ては、何を措いても先づ眞先に國民の納得する方法を知ると云ふことに著眼しなくてはならぬと思ふのであります、此の意味に於きまして、私は政局安定の方法に付て國民の意思を知ると云ふことの爲に衆議院を解散すべき十分の理由があると思ふのであります、此の第二の解散の理由と、第一の根本の憲政健全進展の理由と、此の二つのことが理由となりまして、私の見る所に依れば、今日は最早衆議院の解散と云ふことに付ては、もう斷乎として之を決定すべき時期に達して居ると思ふのであります、假に斯くの如く決定せらるるとしましても、固より其の手續等に付ては別に考へなくてはなりませぬ、其の解散の結果、又新政府の設立等に付きましては、是は言ふ迄もなく、來るべき日本國憲法の規定、又は其の規定の精神と云ふものを十分酌んで、さうして此の處置をせなければならぬと云ふことは言ふ迄もないことでありまするからして、此處で從來とは違ひまして、新内閣の設定と云ふことに付きましても、此の新選擧の結果と云ふことに付て、非常に考慮をせなくてはならぬと云ふことは、從來の憲法下に於ける所の選擧とは又自ら差異がなくてはならないのであります、第三に私は國家再建の國民精神作興の爲に政府は特に努力するの必要があるのではないでありませうかと云ふことに付て御尋ね致したいのであります、今日我が國の活動は、言ふ迄もなく國家の再建と云ふ、さう云ふ目的を遂げると云ふことに集中すべきものであるのであります、國家再建と云ふことは、唯國家が從來の針路に於て爲した所の活動を持續すると云ふことではないのでありまして、既に一度倒壞して倒れました所の國家を引起し、新たなる針路に向けて活動を開始すると云ふことでなくてはなりませぬ、即ち從來の誤れる國家的態度を再び繰返すことなく、國家の内外に於きまして、平和的、道義的共同生活の樹立を目的として、之に達するやうに適當なる道を歩むと云ふことの外はないのでありまするが、我々國民の方より申しますれば、國家の活動の從來の針路に於きましても、我々は公共の爲に奉仕する、或は奉仕しなければならぬと云ふやうなことは、當然考へて居たのでありまするけれども、此の再建の場合に於きましては、單に普通の意味に於ける公共の爲に奉仕すると云ふやうなのと同じ精神であつてはいけないのであります、特に國家の再建の爲にする所の、公共の爲に奉仕すると云ふ特別の精神を以て之に當らなくてはなりませぬ、即ち是は國家再建の國民精神となすべきものであります、唯國家心とか、單に愛國心とか云ふやうなものではない、其の國家は既に倒れて居る、此の國家を再建をすると云ふ、さう云ふことの爲に特に公共に奉仕するのであると云ふ、此の精神を私は國家再建の國民精神と申すのでありまするが、斯かる意味に於きまして、國家再建の國民精神と云ふものが、果して今日我が國に十分に存在して居るでありませうか、殘念ながら大いに疑はれるのであります、是は事々しく箇々の事實を申上げる迄もなく、今日我が國の世相を概括的に觀察致しますれば、斯く言はざるを得ないのであります、此の國家再建の國民精神を作興するのでなくては、到底國家の再建は不可能であることは申す迄もありませぬ、從つて即ち政府に於ても、國家再建の精神の作興と云ふことの爲に、特に努力すると云ふ必要があると思ふのであります、唯所謂愛國の精神を作興すると云ふやうなことだけではいけないのであつて、國家再建の爲にする所の精神を作興すると云ふことが必要であると思ふのでありまするが、政府の所見如何でありませうか、併しながら國家再建の精神の作興に努力すると申しましても、固より色色のことが考へられるのでありますが、先づ其の一つと致しましては、何と申しましても國家再建の國民精神の作興の爲には、國家は國民に生活安定の感を與へなくてはならないのであります、國民が生活安定の感を持つと云ふことは、國家再建の國民精神の起る爲の前提であります、此の生活安定の感なく、即ち生活不安の感を國民に懷かしめて置いて、而も之に國家再建の精神の溌剌たることを求むると云ふが如きは、到底是は不可能事と思ふのであります、固より我々は其の生活が如何樣であらうとも、國家の爲、或は今日に於ては國家再建の爲に、大いに活動すべきものであると云ふことは考へて居りまするけれども、併しながら之を説くは實は個人修養の論でありまして、政治の論ではないのであります、所謂道義學者、道徳家等がさう云ふことを言ふのは差支ありませぬけれども、政治の方針としてさう云ふことを言つたり、それを以て國民に求むると云ふやうなことは、抑抑政治の何たるかを解せざるものであると思ふのであります、但し此處に生活の安定と申しましたのは、是は我が國に於て、我々が我が國に於ける人間として與へらるべきものであると客觀的に認めらるべき生活を得ると云ふことに外ならないのでありまして、それは飽く迄も我が國に於て生活する人間と云ふことが前提となつて居るのであります、從つて我が國に於ける澤山の人間の間の生活状態の比較と云ふやうなことも考へなくてはならないのである、又我が國以外の國家に於て生活して居る人間の生活状態と云ふことを要求すると云ふことも亦誤りでありまして、要するに我々人間が、我が國家に於て生活する者として、受くべき所の生活でありますからして、此の意味に於て生活の安定感と云ふことを、我々が與へられなくてはならぬと思ふのでありますが、それから、其の二つと致しましては、國家再建の爲には國民が皆此の大業を分つて任ずると云ふさう云ふ觀念がなくてはなりませぬ、國家再建の爲に必要と考へられまする所の事柄は種々ある、又國民がそれぞれの立場で之に當るのでありまするが、併しながら是は決して政府だけとか、或は又國民だけとか、或は又國民中の或特定の者とか云ふやうな者が、此の再建の業に任ずるべき筈のものではありませぬ、皆が此の國家再建の大業を分つて任ずるの觀念がなくてはなりませぬからして、之を國家の再建を皆が分つて任ずる國家再建分任の意識と私は言ひたいと思ふのでありまするが、即ち前に申しました國家再建の國民精神と云ふ所の一般的の精神に基いて、更に我々は國家再建のことに皆銘々が分つて任ずるのであると云ふ國家再建の分任の意識と云ふものが必要であると思ふのであります、詳しく申しますれば、それぞれの各人各々の人より申しますれば、國家再建の爲に努力すると云ふ職分を持つて居るのである、又國民全體より致しますれば、自分だけが國家再建の職分を持つて居るのぢやない、皆が國家再建の職分を持つて居るのである、從つて其の皆の持つて居りまする所の職分と云ふものがお互に依存して、さうして始めて國家の再建と云ふものが出來るのである、若し或者が國家再建の職分を盡さないならば、それは其の者が責めらるべきものであることは言ふ迄もありませぬけれども、それが他の國家再建の職分を盡すことを不可能にすると云ふことを我々は考へなくてはならぬのであります、斯う云ふ意味に於きまして、國家再建の職分を我我が各人に觀念し、又他の人間の國家再建の職分とも相互に依存して居る、茲に於て始めて全體としての國家再建が出來るのである、斯う云ふ意味の國家再建の職分觀と云ふものが大いに必要であると思ふのでありまするが、此の點から致しまして、現状の我が國に於きましては、聊か‥‥聊かと申しまするよりも、非常に憂ふべき點があると私は思つて居るのであります、でありまするから、固より先刻一として申しましたやうに、我々は生活安定の要求と云ふものを持つ、それは國家再建の必要なる今日に於きましても、此の生活要求觀を持つて少しも差支ないのであるが、併しながら是が特に今日一般の國家觀でなしに、特に國家再建を必要とする今日に於て、他の職分に如何に影響を與へるかと云ふことは、又常に忘れてはならないと思ふのであります、自己の生活要求觀が正當であると云ふことの爲に、自己の職分を忘れることの不可能であることは言ふ迄もなく、之が又他の職分に如何に影響をするかと云ふ職分依存のことを忘れて居りまするならば、到底是は國家再建の大業に我々國民が當ることは出來ないと思ふのであります、で我が國に於きましては、昨年以來、非常に生活上の要求に基く色々な運動が行はれて居る、私は世人の一部の人が言ふが如く、我々が自己の生活を要求し、又進んでは其の要求の爲に爭議を起すと云ふやうなことは不都合であると云ふやうな議論には贊成致しませぬ、それは固より此の生活要求の爲に爭議を爲さずして濟むと云ふやうなことがあるならば、一番好いのでありませうけれども、併しながら其の時の事情に依りまして、爭議を爲さざるを得ざるに至つたならば爭議をすることは少しも差支ないと思つて居るのでありますが、唯併しながら、茲に注意しなければならないことは、自己が何時でも職分を持つて居る、國家共同生活全般への職分を持つて居ると云ふことを忘れてはならぬと云ふことであります、でありまするから、茲に非常なる問題は、我々の生活要求の觀を懷くと云ふことが正當であると云ふ、さう云ふ理論と、併しながら又同時に、我々は國家の爲に奉仕する所の職分を持つて居ると云ふことと、此の二つの、それ自身には各々許さるべき所の原則が、どう云ふ風に實際に於て結び付くかといふことが非常な問題であると思ふのであります、之に付きましては、固より色々な方面の努力が必要でありまするけれども、何と申しましても、それは氣の毒でありまするけれども、其の時々の政府と云ふものが此の兩者の關係を調和せしむると云ふことの任を持つて居ると思ふのであります、それ自身が一つの政治である、でありまするから、私は此の點に付きまして徒に政府を責める氣持はありませぬけれども、併しさう云ふ點に於て政府は如何なる努力をすると云ふ決心を持つて居られるかと云ふことを御尋ねして見たいと思ふのであります、と云ひますのは先般のゼネスト、ゼネストに於きまして、ゼネストと云ふものを將に行はむとするに至りました根本の生活要求、此の生活要求の正當であるか否かと云ふことと、ゼネストの正當であるか否かと云ふことが混同されて居る、ゼネストが善いか惡いかと云ふことは、それ自身に、即ち國家再建を要求する所の今日の我が國に於て適當であるか否かと云ふ別の觀點から之を決すべきものである、即ち生活要求者の要求の内容が正當であるかどうかと云ふやうな、其の點から決すべきものではないと思ふのでありまするが、政府は、併しながら實際の解決方法と致しましては、固より其の要求其のものの正當性を非常に論じて居られたのでありまするし、又其の他の、勞働者諸君に於きましても、其の要求其のものの正當性を論じて居られたのでありまするが、是は固よりそれで宜いのでありまするけれども、併しながらゼネスト其のものの正當性は少しも解決されて居ない、でありまするから、今日に至りましても、ゼネストは行はれないと云ふ意味に於て解決致しましたけれども、併しゼネスト其のものが果して正當であるかどうかと云ふ其の問題は依然として殘つて居るのであります、是は即ち生活要求の正當性と云ふ問題と、之が爲にするゼネストと云ふ行動の正當性、正當なりや否やと云ふ問題が混同されて居る、斯う云う風に私は思ふのであります、尤も前大村内務大臣の御説明に依りまして、ゼネストが不當であると云ふことを私は放送で聽いたのでありますが、併しながらそれはゼネストに依つて違法である、法律違反であると云ふやうなことが起るかも知れぬと云ふことを強調されて居つたのであります、違法の行爲はそれはゼネストと雖も出來ないことは疑ないが、併しもつと根本的に、違法とか違法でないとかと云ふやうなことを離れまして、もつと根本的の標準からゼネストが正當であるか否かと云ふことは考へられなくちやならぬ、而して今日に於きましては、我が國が普通の國家行動と云ふやうなことでなしに、國家再建と云ふ、さう云ふ行動を爲す今日である、さうして我々國民は自己の生活要求を爲すことが許されると同時に、又國家再建と云ふ、不斷の國家にはない所の特別の公共への奉仕と云ふ、さう云ふ責任を持つて居ると云ふ其の點から、即ちゼネスト其のものの問題を解決し、正當性を判斷すべきである、斯う云ふ風に考へるのであります、固より私はゼネストの正當性其のものを此處で論じて居るのではありませぬ、此の場合のゼネストの正當性其のものを論ずる所の標準に付て、私の見る所を申上げたのでありますが、政府は其の點に付ては如何に御考であるのでありませうか、此の點を御尋ねするのであります、而して更に狹く、即ち教育の問題と云ふことに是が關係致しまして、昨日も總理大臣の御説明の中にもありました通りに、教育は非常に重大なことでありまして、政府でも色々御考になつて居るのでありまするが、併しそれは多くは學校制度の問題であります、學校制度は固より重大でありますが、併しながら今日私の見る所に依りますれば、國家再建と云ふ立場よりして最も重要なる所の教育の問題は、我々をして國家再建への、さう云ふ爲にする公共への奉仕と云ふ、さう云ふ點から我我の行動を律すると云ふ、我々が自分で何が此の場合に爲すべきものであるか、此の問題として申しますれば、國家再建の爲には我々は如何なる行動を爲すべきものであるか、進んで要求すべきこともあり、又或は忍んで耐ゆべきこともありませうが、何れに致しましても、如何なる行動を爲すべきかと云ふことに付て自ら判斷して、自己の判斷の實現に大いに勇気を持つて突進すると云ふやうな、さう云ふ正しく強い所の性格と云ふものを養はしむると云ふことが今日の教育上の根本の問題であると思ふのであります、總ての制度は、如何に學校が六・三・三でも何でも宜し、總ての制度は、此の教育上の根本の方針を實現するに適當であるから、之に從はなくちやならぬ、さう云ふ風になくちやならぬのでありまするから、もう少し其處の根本の點に付きまして、政府が御研究を願ひたいと思ふのであります、此の點に付きましては、私は總理大臣は勿論でありまするが、特に文部大臣の御意見を御伺ひしたいと思ふのであります、さう云ふ風な點から申しますると云ふと、併し、更に是はどうも言ひにくいことでありまするけれども、政府自身が、何が國家の爲に、或は再建の爲に行ふべきことであるかと云ふことに付ての判斷を自らし、又其の判斷に勇氣を以て邁進をすると云ふ態度が、政府其のものに必要であると思ふのであります、例へば彼のゼネストに對する所の、即ち司令部の聲明の如き、或は其の司令部の處置の如き、それに依つて我が國が即ちゼネストが行はれなかつた、で或一部の意見に依りまして、而して私も之に屬するのでありまするが、之に依つて我が國の國家再建に對する所の障碍が兎に角其の時は除かれたと思ふのでありまするが、併しながらそれは政府自身の判斷に依り、或は又其の判斷の實行に依つて行はれたのぢやないと云ふことは、是は總理大臣の昨日の御演説の中にもあつたのである、是が若し、早く政府が斯く判斷し、又其の判斷に邁進せられたならば、是は單にゼネストから生じたであらう所の弊害と云ふものを除いたのみならず、國家再建の國民精神の作興にどれだけ役立つたかと思ふのであります、又今囘の解散の如きに至りましても、政府が衆議院の解散と云ふことを是とするのであるか、非とするのであるか、是とするならば即其ちの意味を明かに示すと云ふやうなことも、是は又政府、即ち自らの判斷力及び其の判斷に對する實行力を國民に示すものでありまして、之に依つて國家再興の國民精神と云ふものを奮起せしむることに非常に役立つと思ふのでありまするが、但し斯う云ふことは、固より其の時々の情勢に依り、又關係の方面から見ますれば、曰く言い難いやうな事情があると思いまするからして、政府の人は誤解してはいけませぬが、私は決して責めて居るのでも何でもありませぬ、唯私はさう云ふ風に考へると云ふことを申上げまして、それで兎に角さう云ふ風な、政府自らが、此の問題に限りませぬ、自ら何を爲すべきかと云ふことを、自ら政府が判斷し、又其の判斷に向つて邁進をするのであると云ふ風に、國民に其の信頼を得なくちやならぬ、此の信頼を得ると云ふことは、それに依つて政治其のものが行はれると云ふやうなことを此處で言ふのぢやありませぬ、それに依つて私は、國民に國家再建の精神と云ふものが起るのである、斯う云ふことを申上げて居るのであります、斯う云ふ點に付きまして、政府の御方は如何なる、何等かの御感じがあるのでありませうか、あるならば伺ひたいと思ふのであります、それでは時間も過ぎましたのですからして、是で私の質問は今日は終りますけれども、只今議長の方が御認め下さいましたやうに、他の一點が殘つて居ります、其の一點は、私はどうも御尋ねして見たいことがある、それは問題だけを申上げて置きます、第四點と致しまして、講和會議に臨む用意として、政府は如何なる基本的指導觀念を有するか、斯う云ふ一點が、今日質問の最後に殘りましたけれども、時間が大變過ぎて居りまするから、是で私の質問は終つて置きます、大變失禮致しました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=44
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045・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 本日は此の程度に於て延會致したいと存じますが、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=45
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046・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます、明後十七日は午前十時より開會致します、議事日程は彙報を以て御通知に及びます、本日は是にて散會致します
午後零時二十六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00319470215&spkNum=46
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