1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和二十二年二月十九日(水曜日)午前十時二十三分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第六號
昭和二十二年二月十九日
午前十時開議
第一 國務大臣ノ演説ニ関スル件(第五日)
第二 昭和二十一年度一般会計終戰処理費の財源に充てるための借入金に関する法律案(政府堤出、衆議院送付) 第一讀會
第三 華族世襲財産法を廃止する法律案(政府提出) 第一讀會ノ續(委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=0
-
001・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 報告を致させます
〔寺光書記官朗讀〕
昨十八日決算委員分科會ニ於テ當選シタル正副主査ノ氏名左ノ如シ
第二分科
主査 子爵 松平銑之助君
副主査 男爵 鶴殿家勝君
第三分科
主査 男爵 團伊能君
副主査 伯爵 壬生基泰君
第四分科
主査 子爵 土屋尹直君
副主査 男爵 平山洋三郎君
同日委員長ヨリ決算委員大谷正男君ヲ第一分科擔當委員ニ選定シタル旨ノ報告書ヲ提出セリ
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ華族世襲財産法を廢止する法律案可決報告書
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
昭和二十一年度改定歳入歳出總豫算追加案(改第一號)
昭和二十一年度一般會計終戰處理費の財源に充てるための借入金に關する法律案
同日政府ヨリ左ノ法律案ハ議院法第二十七條但書及第二十八條但書ニ依リ議定相成タキ旨ノ要求書ヲ受領セリ
昭和二十一年度一般會計終戰處理費の財源に充てるための借入金に關する法律案
同日内閣總理大臣ヨリ左ノ通第九十二囘帝國議會政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
大藏省所管事務政府委員
大藏事務官 前尾繁三郎君
同 森永貞一郎君
文部省所管事務政府委員
文部事務官 剣木亨弘君
商工省所管事務政府委員
石炭廳長官 菅禮之助君
商工事務官 岡村武君
同 渡邊誠君
本日第三部ニ於テ懲罰委員男爵高木喜寛君ノ補闕選擧ヲ行ヒシニ男爵高崎弓彦君當選セリ
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=1
-
002・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 是より本日の會議を開きます、日程第一、國務大臣ノ演説ニ關スル件、第五日、荒川文六君
〔荒川文六君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=2
-
003・荒川文六
○荒川文六君 新しい平和的日本、民主的日本の國家を建設するに付きましては、教育に據らなければならないと云ふことは勿論でありまして、是は過日の總理大臣の施政方針の御演説中にも一言觸れて居られましたが、其の後同僚議員の質疑に對しての御答辯にも其の事が現はれて居りますし、又文部大臣の御答辯の中にも文化國家の建設の基礎は教育にあると云ふことを御述になりましたから、政府に於ても是は同じ意見を持つて居られることと信ずるのでございます、只今我が國の國民の中には、口には民主主義と云ふやうなことを唱へて居りまして、其の言動が之と相反するやうなことを爲して居る者が可なり澤山あるやうに思はれるのでありますが、是は唯新たに憲法が變つたと云ふことだけで以て此の日本の有樣が變る譯でなく、其の原因は、過去に於ける教育の結果が此處に現れたものではないかと考へるのでありまして、此の點から申しましても、將來の日本の建設を致します爲に、只今の青少年に對する教育が如何に重要なものであるかと云ふことを示すものであらうかと思はれるのであります、教育の效果は、善惡共其の時に現れないで、十年、二十年の後に現れるものであることを思ひますれば、將來の日本を擔つて呉れる青少年の教育に對しては、只今から心を入れて十分の事を爲さなければならない筈であると考へるのでございます、私は此の點に於て色々の事を考へなければならないと思ふのでありますが、今日差當つて二つの點に付て政府の御考を伺ひたいと思ふのでございます、其の第一は、今度新たに義務教育に加へられますと傳へられて居ります中等學校のことでございます、政府は新しい教育制度を定めて、其の義務教育の年限を延長しようとして居られますことは、誠に結構なことでありまして、將來の民主的日本を建設する爲には、どうしても斯くあらなければならないと思ふのでございます、併し教育の實際は、唯制度を改めたからと云つて、それで其の結果が現れるものではない筈でございます、是が如何に運用せられ、如何に實行せられるかと云ふ所に其の成功するか否かと云ふことが懸つて參るのであると考へるのでございます、新しい教育制度は所謂六・三・三・四と云ふ風になつて居りまして、其の初めの六・三、即ち六年の小學校と三年の新しい制度の中學校が、是が義務教育となり、國民は其の義務として此の教育を受けなければならないこととなると承知して居ります、最初の六年の小學校は只今の所謂國民學校でございまして、是は古今でも、又從來からでも大部分公立學校で行はれて居ります、今後に於ても多分さうであらうかと思ふのでございます、次の三年、即ち今新たに義務教育となります所のもの、新制の中學の中學校は、從來公立學校ばかりでなく、多數の私立學校に於て行はれて居りまして、殊に大都會に於てはさうであつたやうに承知して居ります、是が從來は義務教育ではなかつたのでありますが、義務教育となることであると思ふのでこざいますが、此の義務教育は新しい憲法に依ります建前から致しますと、無償で受けることが出來ることになつて居ります、是等の中學校はそれでありますから、義務教育となれば授業料を徴收しないのが本則となる筈と思ふのでありますが、公立學校の中學校でありますれば、是は國民が納める税金で經營せられる譯になる譯でありますから、授業料を取らないでも濟むかと思ひますが、併し私立學校では授業料なしでは、其の學校を經營して行くことは出來ない風になるかと思はれるのであります、政府當局の談として新聞紙上に傳へられて居る所に依りますと、現在の私立中學校の採るべき途は四つあると云ふことが傳へられて居ります、其の四つと申しますのは、第一は新しい制度の私立學校として自主的に經營を續けると云ふこと、第二は新しい制度の高等學校、即ち六・三・三の其の第二の三に相當します學校に轉校する爲に、來年度、即ち昭和二十二年度に於ては、一學年の生徒を募集することを中止すること、第三は市町村等の公共團體から義務教育の委託を受けて、公費に依る補助を得て經營すること、第四は公立中學校に轉換することである、此の四つの途に大體私立中學校の採るべき途があると云ふことを新聞紙上で承知したのでございますが、此の中第二の高等學校へ轉換する爲に、一時生徒の募集を中止すると云ふことは、是は只今私の論じようとする所の問題外でございますから、之を除きますと、後三つになります、此の中補助を受けて經營すると云ふこと、及び公立中學校に轉換すると云ふことは、事實上私立學校の特色を失ふことになると思ふのであります、私立中學校が其の獨自の立場でやつて行く爲には、自主的の經營を續ける、是は其の收入を他に求めなければならないのでございますから、自然授業料を取ること、或は他のそれを維持する團體の補助を受けなければならないと思ふのであります、併し國民の側、即ち父兄の側から申しますと、父兄は日本國民として其の子弟をして義務教育を受けしめる爲には、公立學校に依ると私立學校に依るとを問はず、無償で行ひ得る權利を持つて居るのではないかと思ふのであります、又學校側と致しましても、授業料を取ればどうしても入學者が他の學校に比して減少することになることと思ひます、殊に日本の現在の状態に於きまして、又東京のやうな大都會に於てはさうでないかも知れませぬが、地方の小さな、比較的小さな都會に於きましては、どうしてもさう云ふ風になると思ひます、從つて其の經營維持がむづかしくなつて參る次第でございます、殊に私が今日主として考へたいと思ひますことは、宗教主義の下に設けられました學校に關してでありますが、是等の學校關係としましては、是は實に大きな問題と言はなければならないと思ふのでございます、新しい憲法が日本に施行せられまして、是が完全に行はれる爲には、國民が博愛、犧牲、献身、奉仕と云ふやうな、此の精神を持つやうにならなければならない筈でございます、是はどうしても正しい宗教的の信仰の基礎の下に行はれなければならない筈であると考へるのであります、即ち此の點に於きまして、殊に教育は豫て文部大臣が申されました如く、人格の完成、道義の昂揚を目的とすると云ふ點から申しましても、どうしても此の教育に宗教の裏附がなければならない筈であると思ふのでありまして、斯くの如く教育を行ふ爲には宗教主義の下に立てられた學校に於て始めて都合好く行はれる筈のものであると思ふのであります、斯う云ふ點から申しますと、將來の日本を建設致しますに付て、宗教教育を行ひ得る私立學校の重要性が考へられるのではないかと思ふのであります、殊に中等學校、中學時代の青年は、其の宗教心を健全に育て、其の信仰を養ふに最も大切な時期でこざいますから、茲に宗教教育を行ひ得る私立學校の重要性が更にあることと言はなければならない筈と思ふのであります、公立學校に於ては其の學校の性質上宗教教育を行ふことは出來ませぬ、私が茲に宗教教育と申しますのは、單に宗教の教理、教義を教へる教育と云ふ意味ではないのでございまして、宗教教育と申すのは、宗教的の信仰を養ふ教育である筈と思ふのであります、さう云ふやうな教育は公立學校では之を行つてはならない筈であります、そこで文部省に於かれましても、公立學校、官立學校に於ては宗教情操教育をしろ、宗教的情操を涵養することが寧ろ望ましいことで、之を奬勵して居られるのでありますが、公立學校の立場と致しましては、どうしても其處迄で止まらなければならぬ筈で、宗教的の信仰を養ふと云ふ所迄は立ち至ることが出來ない筈であると考へるのであります、併し宗教的情操を涵養すると云ふことは、言ふべくして行ひ難きことと私は考へるのであります、或人は之を批評致しまして、恰も庭が殺風景であるから、木を植えろと言ふのと同じである、併し木を植えろと言ふけれども、特定の松の木を植えてはいかぬ、櫻の木を植えてはいかぬと言ふのと同じことであると批評して居りますが、さう云ふ風な嫌ひが幾らかありはしないかと考へるのであります、宗教に理解を持つ、宗教的情操教育と云ふのは、宗教に理解を持たせると云ふことであるかも知れませぬが、併し唯宗教に理解を持つと云ふだけでは其の力がないのでありまして、其の國民の道義の基と宗教がなることは出來ないと考へるのであります、私は宗教は或人の言ふ如く、一部の人の言ふ如く、人を眠らせるものであるとは考へませぬ、却て人間の生活に力を與へるものであると思ふのでございます、此のやうに申して參りますと云ふと、人格の完成を目指すならば、公立學校よりは寧ろ宗教主義に依る所の私立中學校の方が之を行ひ易いと云ふことになるのであります、然るに其のやうな學校に子弟を入れるには金が掛かると云ふことになりますと、自然資力の無い者はさう云ふ學校に希望しても、其の子弟を入れることが出來ないと云ふことになりますし、學校と致しましても、先きに申しました如く、其の經營に少なからざる困難を感ずるやうになりはしないかと憂ふるのでありまして、是は我が國の教育に取りまして、決して喜ぶべきことではないと考へるのであります、先きに申しました文部當局の方の新聞に發表せられました談話の、私立中學校の行き方と云ふ御話を見ますと、中學校の義務教育は公立學校で行ふことが本則であると云ふ風に考へられるのでありまして、其の談話としての中にも、宗教教育を行ふ學校は特殊の學校と見て、さうして其の學校で行はれる教育は義務教育と看做すことが出來ると云ふやうなことを申されて居るのでありますが、私は是が何となしにどうも官尊民卑の臭ひがするやうに思ふのでありまして、是は將來の日本に取つて決して喜ぶべきことではないと思ふのでありますが、斯う云ふ風な私立中學校に對して政府はどう云ふ風な考で居られますか、はつきりと之を伺ひたいと思ひます、さうして其の上に是等の學校を守り立てて行く爲に、是は斯う云ふことが出來るかどうか分りませぬが、例へば授業料を父兄から取る代りに其の辨償として公費から授業料を納めてやるとか、或は父兄にそれを返してやるとか云ふやうなことをして、それ等の學校が經營を續けて行かれるやうにすることが將來の日本建設に重要なことではなからうかと考へるのでありまして、是は新しい憲法の第八十九條の關係もこざいませうし、色々の問題があるかと思ひますが、是等に付ての御考を一つ伺ひたいと思ふのであります、又更に男女共學の問題でございます、是も私は要するに今迄の女子教育の程度が低かつたのを、之を男子と同等の程度の教育を行ふやうにし、又其の教育を受ける機會も女子も同樣に受けられる、其の機會を受くることが出來るやうにすると云ふことが趣旨でありまして、必ずしも同じ學校で男女を一緒に教育し、或は同じ教室で男女を一緒に教へると云ふことが趣旨ではないと思ひます、學校の種類や、或は生徒の年齡、環境等に依りまして、男女の生徒を同じ教室で教へることが良いか惡いかと云ふことは是は愼重に考へなければならない問題であらうかと思ふのでありますが、政府は私立學校に於ても男女共學は必ずしなければならないと云ふ風な考で居られますか、さう云ふ點も併せて伺ひたいと思ふのでございます、御尋ねしたい第二の問題は、青少年の健康の問題でございます、將來の日本を擔ふ青少年が、其の知識や道義の上に於て現在の國民より立優つたものにならなければならないと云ふことは申す迄もないことでありますが、併し何事を爲すにも體の丈夫であると云ふことが必要なことでございます、そこで私共は、現在の青少年の健康を維持し之を増進すると云ふことを圖らなければならないと思ふのであります、之に付て色々な問題を考へることが出來ますけれども、其の一つと致しまして、私は所謂國民病の豫防撲滅と云ふことを考へなければならないと思ふのであります、國民病として將來の國家の盛衰に關係のある重要なものとして、第一に結核、第二に性病、第三に癩病を取上げることが出來ると思ふのであります、此の内癩病に關しましては、既に之に對する對策が立てられて居りまして、着々實行をして、將來必ず是は撲滅せらるべきものと私は信じて居りますので、先づ大した心配はなからうかと思ふのであります、他の二つの結核と性病に付きましては、私は日本が大きな轉換をなす際に、一つ大きな手を打つて之を撲滅する方針を立てなければならないと思ふのでございます、性病に付きましては、基は重要な問題でありますけれども、今は之に觸れる遑がございませぬから、之を差控へて置きます、唯現在行はれて居りますやうな賣笑婦を檢擧して之を病院に收容すると云ふやうな、こんなことでは私は之を撲滅することは出來ないと思ふのでありまして、是はもつと根本的な手段を決めなければならないと考へるのであります、今日私が考へたいと思ひますことは、主として結核でございます、將來の國民の保健上重要な問題であると言はなければならないのであります、私は多年の間若い學生を取扱つて居りました關係上、此の青年が如何に結核に依つて悲慘な運命になつたかと云ふことを屡屡見て居りまして、一刻も早く、一日も早く此の結核を日本から撲滅し去らなければならないことを熟々感じて居るのでございます、最近の統計は未だ手にすることは出來ませぬが、昭和十八年の結核死亡率を報告された所に依りますと、一萬人に對して二十二人半と云ふ結核死亡者があると云ふことになつて居ります、さうして其の半分は二十歳乃至二十五歳前後の青年であると云ふことでございますから、即ち是等の青年は人口一萬人に對して十一二人死亡者があり、患者の數はそれの約十倍になつて居る勘定と見て差支ないと思ふのでございます、昨年第九十議會に於きまして厚生大臣にも此のことを御尋しました時に、大臣から只今此のことに付て三十歳以下のツベルクリン反應の陰性者に對してはB・C・Gの注射を行つて居る、是が豫防撲滅の近道であると信じて居ると云ふ御話でございました、私は唯此のB・C・Gの注射だけでは十分ではないと考へるのであります、結核の蔓延は教育、文化、産業有らゆる方面に影響が多いのでございまして、日本の再建の爲には一日も早く是が豫防策を立てまして、之を國策として行はなければならない、萬難を排して之を實行しなければならないと考へるのでありまして、青年の死亡率をどうか今のやうな大きな割合よりは下げるやうにしなければならない、其の爲には結核豫防に對して考へるべきことは色々ございませう、例へば生活の改良、榮養上から見た食糧の問題、住宅の改善、又豫防教育普及、療養所や豫防相談所の擴充でありますとか、又それに對する衣料、食糧の供給でありますとか、或は豫防生活の指導、之を實現助成する方法、又患者や其の家族の生活を保障する爲に國民健康保險制度の強化と云ふこと、色色なことをやらなければならないと思ふのでありますが、是等に對する我が國の現在の状態は何れも不備でございます、斯う云ふ風な状態に於て唯B・C・Gの注射にのみ頼ると云ふことは甚だ心細い感じがするのであります、昨年も東京市其の他の大都會に於きまして、街頭の檢診を致しまして患者を見付けたり致しますし、又學校其の他に於きまして、體力管理法に依る檢診を致しまして、病氣に罹つて居る者、感染して居る者を檢出することを致して居ります、併し是等のことが單に統計の材料を作るだけのことになつては甚だ心外のことでありまして、之に對する設備を矢張り十分にして行かなければならないと思ふのであります、以上のやうな不備を補ふのに、どうしても先づ現在の結核豫防法を改正致しまして、それ等の色々の事柄が都合好く行はれるやうに此の法律を改正しなければならない筈ではないかと思ふのであります、結核豫防法は大正八年に制定せられて居りまして、既に三十年に近い年月を經て居りますが、それ以來結核の患者數は決して減らないのであります、此のやうなことでは甚だ十分でないと思ひます、殊に傳播性の患者はどう云ふ風になつて居るかと云ふことを嚴重に見守り、又之を指導する機關を充實し、之を療養する機關を充實して參ると云ふことは、此の際我が國が一刻も早くやらなければならないことだと考へるのであります、勿論之には非常な大きな財源が必要だと思ふのであります、併し私は今迄此の結核の豫防撲滅に對しては、實は我々國民が本氣になつてやらなかつたと云ふ所に、大きな缺陷があると思ふのであります、若し本氣になつてやれば、其の財源を見付けることも出來るのではなからうか、例へば富籤のやうなことを致しまして、富籤のやうなものに依りまして、其の財源を見付けることも出來るのではなからうかと思ふのであります、それで私は此の際政府に於かれましては、結核豫防及び撲滅に付ての具體的の國策を御立てになつて、さうして少くとも或年間を切つて、例へば十年なら十年と云ふ年間を切つて、此の結核死亡率を、從つて其の患者數を減らす、殊に青年層の患者數を減らすと云ふしつかりした國策を御立てになつて、之を實行せられては如何かと思つて居るのでありますが、之に對しての政府の御考を伺ひたいと思ふのであります、此のことに關聯致しましては、最も多くの青年を收容して居ります學校に於ても、衞生上の點から申しまして考へなければならないことだと思ふのであります、昨年私は此の學校に衞生のことを掌る者をもつと充實致しまして、學生の保健のことを考へ、指導するやうにしたらどうであるかと云ふことを申した處が、時の文部大臣は、昭和二十三年度に於ては劃期的に之を増額することに努力したいと云ふ御話でございましたが、其のことが果して實行せられることでありませうかどうでございませうか、之に付ても一言御答辯を煩すことが出來れば幸ひと思ふのであります、只今我々の國は財政、經濟等の重要な問題が山積して居ります時に、茲に私が掲げましたやうな問題のやうなものは、或は急を要しないと云ふ風に考へられるかも知れませぬけれども、新しい日本國家の建設には心身共に健全な國民を養成することが缺くべからざる事柄であり、且其の事柄は二三年の短時日では到底其の效果を擧げることは出來ないのでありますから、此の轉換期に於ける我が日本の此の時期に於て、此のことを考へ、又之に對する適當な處置を執ることが大切なことであると思ひますので、敢て茲に此のことに付ての政府の御所見を伺ふ所以でございます
〔國務大臣高橋誠一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=3
-
004・高橋誠一郎
○國務大臣(高橋誠一郎君) 荒川議員の御質問に御答へ致します、本年の四月から所謂六・三制を實施致すと致しますれば、義務教育を行ひまする小學校及び中學校に對しましても、私立學校を認めることと致して居りますることは、只今御話の通りであります、併しながら是等のものは授業料を徴收しなければ、到底經營せらるることが出來ないのでありまする、それが爲に、他に較べまして著しく經營困難に陷ることがありはしないかと云ふことが心配せられるのでありまするが、此の點に於きましては、文部省其の外の機關に於きまして色々考究を致して居るのであります、御承知の、内閣に設けられました所の教育刷新委員會も、昨年半ば以來第四特別委員會と致しまして、私學に關しまする問題を討議致して居るのであります、私學の前途甚だ困難でありまするが、併しながら獨自の立場に於て經營し、尊敬すべき學風を持つて居りまするものでありまするならば、必ず此の難局を乘切ることが出來るものではないかと考へられて居るのでありまするが、併しながら一方に於ては授業料を免ぜられて居る所の學校があると致しまするならば、どうしても之に近い待遇を學生に與へなければならぬのであります、それには第一に考へられますることは、私立學校は寄附金に依つて經營せられることを第一としなければならぬのでありまするが、今日の處では此の寄附金に對しまする課税其の外の點に於きまして、色々な困難があるのでありまするが、是等のものを出來得べくんば除き去りまして、私立學校が寄附金其の他の財源に依りまして立派に經營せられ、成長致しますることを希望して止まない者であります、其の爲に文部省と致しましても、各方面と交渉を續けて居るのであります、現在東京都に於きましては、二百九十三の私立學校があるのでありまするが、其の内約五十校前後の學校が、有償で經營する意思を申出て居る模樣であります、是は恐らく將來立派に經營して行く所の見透しが付いて居るのではないかと考へられるのであります、御心配になつて居りまするのは、特に地方のやうでありまするが、地方の私立學校はどう云ふ状況になつて居りまするか、遺憾ながら只今の處、まだ何等の報告に接して居りませぬ、此の點も取調べまして軈て御答へ申上げたいと考へて居るのであります、尚宗教教育を行ひまするものでありまするが、是は御承知の通り、國及び地方公共團體が設立致しまする所の學校は、特定の宗派の宗教教育を施すと云ふことが出來ないことになつて居るのであります、無論宗教的情操の涵養と云ふことは認められるのでありまするが、又奬勵せられるのでありまするが、先程も御話のやうに、特定の宗派の宗教教育を行ふと云ふことは出來ないことになつて居るのでありまするが、此の公立學校では禁ぜられて居ります所の宗教教育を、私立學校は行ひ得ることになつて居るのであります、是等のものもどう致しましても、寄附金其の外のものに依つて經營せられなければならぬと考へるのであります、先程申上げました數字、即ち二百九十三の私立學校の中で約五十前後のものが、有價で經營せられる意思を申出たと云ふことを申上げたのでありまするが、其の中宗教的な理由に基きますものが、凡そ十七校となつて居るのであります、次は男女共學の點でありまするが、是は無論男女の共學を奬勵は致しまするが、之を認めは致しまするが、併しながら決して強制すると云ふことは致さない方針であります、斯くの如き私立學校に於きましては、男女共學に付きましても學校の全く自由に委す積りで居るのであります、此の點御承知願ひたいと考へるのであります、尚國民病、殊に結核の豫防に關しまして御質問がございましたのでありますが、學校衞生の指導に當つて居る者の陣容が極めて貧弱でありますることは、御説の通り、我々としても認めなければならぬ所でありまして、特に此の學校衞生事務を掌ります職員を増員したいと云ふ考は持つて居るのでありまするが、御承知の通り、財政上の問題と關聯致しまして是は考へなければならぬ所のものでありまして、只今の處十分な、殊に劃期的な増員計畫と云ふものを實行し得ない状態にあることを誠に遺憾として居るのでありまするが、只今の處、本省に二級事務官一人、三級事務官一人、囑託二人、雇三人を増員致しまして、又各都道府縣には補助金を交付致しまして、一人づつの職員を増置致したのであります、誠に不十分ではございまするが、先づ斯樣なことを致して居るのであります、差當り本年度に於きましては、本省竝に地方に只今申上げましたやうに、少數の増員を行ひ、又地方に對しましては學校衞生に從事する職員の充實を圖つて居るのでありまするが、更に尚此の點に十分な注意を拂ひまして、劃期的な施設を設けたいと念願致して居る次第であります、甚だ不十分ではございまするが、只今の處、御答へ申上げることの出來まするのは、是だけの點でございます
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=4
-
005・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今荒川議員から結核に付ての御質問がありましたが、是はもう御尤ものことでありまして、死亡率に於きましても昭和十八年には、一萬人に對しまして二二・九、十九年には二四・二に増加して居ります、それから二十年はまだ推定でありますが、死亡者約二十萬人と云ふ見當でありまして、二八・二位に増加して居ると思ひます、是は勿論戰爭の影響、榮養及び勞働の關係などが非常に重大な點だと思ひます、それでドイツなどに於きましても、第一次ヨーロツパ戰爭後一四・二と云ふ戰前の死亡率が二三・六位に矢張り増加して居りまして、併しそれは三年間の非常な努力の結果一三・六位に減つて居ります、日本でも石川縣あたりで結核豫防を非常に推進致しました結果は、非常に良い成績が擧つて居りまするので、是は努力次第に依りましては、死亡率を遙かに下げることが出來るものだと云ふことに付ては、確信を持つて居る次第であります、唯御承知の通りに昨年度は、コレラ、發疹チフス等の非常に緊急な面に非常な勞力を費しまして、又一般の衞生問題に付きまして非常に重大な關心を持ちましたので、まだ其處迄十分伸びませぬが、是から結核及び性病の問題、重點は特に結核の問題だと云ふ考で、只今關係筋とも具體的の方法を練つて居る次第であります、もう大抵見當は付きました、併しながら御承知の通りに、是は財政と非常に重大な關係を持ちますので、どうしても矢張り十億位の金は要ります、是は必ずしも一年度と限つた譯ではありませぬが、今日の國情でありまするので、斯う云ふ點に付て非常な難問を持つて居ると云ふことを率直に申上げなくちやならぬと思ひます、それでどう云ふ風にやるかと云ふことは、是は前議會にも私大體申上げたと思ひますが、今B・C・Gの問題がありました、是は十歳から二十歳迄の者は今年度にも豫算を組んで居りまして、現に實行して居りまして、是は大體片附きますが、尚二十歳から三十歳迄の者に付ても之を及したい、此の效果は勿論相當見るべきものはあります、併しながら是は唯一つの方法に過ぎませぬので、是で結核問題を解決しようと云ふやうな考は毛頭持ちませぬ、其の他一般の問題に付きましては、先づ矢張り中央地方の行政機構の問題、それから諮問委員會、或は結核世話委員會と云ふやうなくだけた所へ行きまして、さうして斯う云ふ體制を整へる、それから一番大きな問題は開放性結核に對する療養機關の問題でありまするが、是は只今從來の結核療養所の外に、陸海軍から讓受けました療養所、國立病院等大分療養設備があります、それから日本醫療團の設備も相當ありますが、是等を大體國營の基本方針の下に之を綜合しつつある次第であります、只今病床は四萬五千ばかりありまするが、此の四萬五千の病床が昨年食糧不足の爲に、實はどうも病人もやりきれぬので、半分位空いて居ると云ふやうな始末であります、是は非常に殘念なことでありまするので、只今農林省と掛合ひまして食糧の増給を貰ひ、又ララの救濟物資などは大體見込が付きました、此の四萬五千では勿論足りませぬ、大體二十萬の死亡に對しましては死亡者百に對して六十五位の病床が要るのが大體の學説上の定論になつて居りますので、さうしますると十三萬床ばかりが要ると云ふのが理想的でありますが、是は色々な事情で、なかなか今日新しい病床は出來ませぬ、色々な所を活用しますると八萬病床位出來るのであります、せめて八萬病床を三年間位の目標にして之を完成させたいと云ふ考へで居ります、尚此の開放性結核に對する問題以外に保健所の擴充、レントゲンを中心にしまして保健所と云ふものは御承知の通り最近相當豫防の上に於て役立つて居りまするが、之を更に強化しまして、是は先づ五萬人の人口に對しまして結核の專門醫が一人、保健婦が二人、全國で結局專門醫が千六百人、保健婦が三千二百人と云ふやうなことを目標にしてやつて居ります、此の保健所の強化、擴充と云ふことが結核豫防の上に於て非常に重大な問題であります、其の他尚技術的色々指導講習、指導班のやうなもの、或は豫防思想普及の爲、學校教育等の面に廣く一つの結核豫防網と云ふやうなものを作りまして、それで進んで行きたいと云ふやうな態勢を略略關係筋とも協議しまして立てて、それに勿論今現に入りつつあり、又今後もそれに向ふ積りでありますが、唯重ねて申上げますのは、國家財政等の關係に於て此の重大問題を何處迄急速に取扱へるかと云ふ點が一番重大なポイントになつて居ると云ふことを申上げる次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=5
-
006・荒川文六
○荒川文六君 此の席から發言を御許し願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=6
-
007・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=7
-
008・荒川文六
○荒川文六君 只今文部、厚生兩大臣の御答辯有難うございました、之に付きまして尚進んで伺ひたいこともあり、又意見も申述べたいこともございますけれども、他に機會もあることと存じますから、私の質問は是で終ることに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=8
-
009・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 尚質疑通告者は多數でございますが、後に讓り、此の際日程第二以下を順次議題に供したいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=9
-
010・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=10
-
011・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 日程第二、昭和二十一年度一般會計終戰処理費の財源に充てるための借入金に關する法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、石橋大藏大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=11
-
012・会議録情報2
━━━━━━━━━━━━━
昭和二十一年度一般会計終戰処理費の財源に充てるための借入金に関する法律案
右の政府提出案は本院において可決した、因つて議院法第五十四條により送付する
昭和二十二年二月十八日
衆議院議長 山崎 猛
貴族院議長 公爵徳川家正殿
━━━━━━━━━━━━━
昭和二十一年度一般会計終戰処理費の財源に充てるための借入金に関する法律案
政府は、今期の帝國議会に提出すべき昭和二十一年度歳入歳出総予算追加に計上する終戰処理費の追加分の財源に充てるため、他の法律により起債することができる金額の外、百億円を限り、借入金をなすことができる。
政府は前項に規定する経費中翌年度への繰越額の財源に充てるため、他の法律により起債することができる金額の外、昭和二十二年度において借入金をなすことができる。但し、前項の規定による借入金と通じて前項の制限額を超えてはならない。
前二項の規定による借入金の償還期限は、三年以内とする。
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
━━━━━━━━━━━━━
〔國務大臣石橋湛山君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=12
-
013・石橋湛山
○國務大臣(石橋湛山君) 只今議題となりました昭和二十一年度一般會計終戰處理費の財源に充てるための借入金に關する法律案提出の理由を御説明申上げます、別途本院に提出致しました昭和二十一年度歳入歳出總豫算追加案に計上致しました終戰處理費百億圓の財源は、一般會計歳計の状況に鑑みまして、之を借入金に依る必要がありますが、是が爲には新たに起債の權能を得る必要があります、又此の百億圓の内若干の金額は翌年度に繰越す場合もあるかと思はれますが、其の繰越額の財源に充てる借入金は必ずしも昭和二十一年度に於て借入れる必要はありませぬ、從つて是は翌二十二年度に於て借入れることとするのを適當と認めますので、之に付ても其の權能を得る必要があります、以上の理由に依りまして、此の法律案を提出致した次第であります、事情御了承の上、何卒速かに御協贊を賜らむことを御願ひする次第であります
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=13
-
014・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 本案に付きましては、先程報告を致させました通り、政府より議院法第二十七條但書及び第二十八條但書に依る緊急議決の要求に接して居ります、三讀會の順序を省略することに同意の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=14
-
015・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 三分の二以上と認めます、委員の審査は政府の要求に依り、之を行はざることに致します
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=15
-
016・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 別に御發言もなければ、是より採決を致します、本案全部を問題に供します、原案通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=16
-
017・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=17
-
018・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 日程第三、華族世襲財産法を廢止する法律案、政府提出、第一讀會ノ續、委員長報告、委員長秋元子爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=18
-
019・会議録情報3
━━━━━━━━━━━━━
{左の委員長報告書は朗讀を經さるも參照のため茲に載録す以下之に倣ふ}
華族世襲財産法を廢止する法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十二年二月十八日
委員長 子爵秋元 春朝
貴族院議長公爵徳川家正殿
━━━━━━━━━━━━━
〔子爵秋元春朝君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=19
-
020・秋元春朝
○子爵秋元春朝君 華族世襲財産法を廢止する法律案の委員會の經過に付て御報告を申上げます、本法は明治十九年に華族世襲制度の創設に伴ひまして、有爵者が其の家格を維持するのに必要なる範圍で、世襲財産を設定し得ると云ふ目的を以ちまして、創定致されたのでありますが、併し大正十五年に一囘改正をされまして、尚今日に續いて居つたのであります、今囘の新憲法に依りまして、華族制度は將來認められないやうなことになりますので、本法も亦當然廢止されることに相成るのでありますが、新憲法の實施迄本法を存續さして置きます十分な理由もございませぬし、且財産税や農地調整の關係と、最近の經濟上の激變に依りまして、世襲財産なるが故に、其の所持者が此の處分の自由を拘束されると云ふことは、却て適宜の措置を執る妨げとも相成りますし、又不便等が多々ありますので、此の際本法を廢止致すことを適當と認めて提出せられたのでございます、從つて本法の委員會を二囘開催致しまして、提案の理由を伺ひ、續いて質疑應答を致したのでございますが、法案其のものは簡單でございますので、僅か二三の質疑がありましたのみで、別に御發言もありませぬので、討論を省略致しまして、直ちに採決を致したのでありますが、廢止すべしと、全會一致を以て可決相成りました次第であります、此の段御報告を申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=20
-
021・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 別に御發言もなければ本案の採決を致します、本案の採決を致します、本案の第二讀會を開くことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=21
-
022・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=22
-
023・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第二讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=23
-
024・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=24
-
025・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=25
-
026・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=26
-
027・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 本案の第二讀會を開きます、御異議がなければ、全部を問題に供します、本案全部、委員長の報告通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=27
-
028・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=28
-
029・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第三讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=29
-
030・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=30
-
031・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=31
-
032・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=32
-
033・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 本案の第三讀會を開きます、本案全部、第二讀會の決議通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=33
-
034・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=34
-
035・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 報告を致させます
〔寺光書記官朗讀〕
本日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
昭和二十一年度改定歳入歳出總豫算追加案(改第一號)可決報告書
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=35
-
036・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 只今報告致しました昭和二十一年度改定歳入歳出總豫算追加案改第一號は此の際、議事日程に追加して會議を開きたいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=36
-
037・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます、豫算委員長林伯爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=37
-
038・会議録情報4
━━━━━━━━━━━━━
一 昭和二十一年度改定歳入歳出総予算追加案(改第一号)
右衆議院ヨリ受領シタル案ヲ審査シ衆議院議決案ノ通可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十二年二月十九日
委員長 伯爵 林 博太郎
貴族院議長公爵徳川家正殿
━━━━━━━━━━━━━
〔伯爵林博太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=38
-
039・林博太郎
○伯爵林博太郎君 只今上程されました昭和二十一年度改定歳入歳出總豫算追加案、改第一號に付きまして、豫算委員會の經過竝に結果を御報告致します、本豫算追加案は、本日午前十時より豫算委員會を開會致しまして、審査の後、全會一致を以て可決致したものであります、先づ分科審査を省略する決議を致しまして後、直ちに議案の審査に移りました、大藏大臣より其の説明を承りました、即ち今囘改定豫算の追加として計上されました金額は歳入歳出共百億圓であります、前囘議會迄に通過成立致しました改定本豫算竝に追加豫算を加へますと、其の總額は歳入歳出共各各九百三十億二千九百餘萬圓となる次第であります、本追加豫算案に計上されましたのは終戰處理費の追加でありまして、改定本豫算に百九十億圓、第九十囘議會の追加豫算に九十三億圓を計上、通過成立致しましたが、各種の設營費、賠償引當豫定の工廠工場等の管理保全に必要な經費等の増加に伴ひまして生じました所の見込不足額であります、尚國民負擔の現状から見まして、政府では本追加豫算の財源を普通歳入に依ることは困難であると認めたので、借入金で支辨することとなつて居ります、其の爲必要なる法律案は別途今議會に提出すると言つて居ります、之を前議會迄に成立致しました一般會計豫算に於て豫定したものと合計致しますと、公債に於て百三十五億圓、借入金百億圓、合計二百三十五億圓となる次第であります、それより質問に移りましたる處、質問も餘りございませぬで、直ちに討論に入りました、討論に於て一委員より、次の如き所感を述べられて贊成をされたのであります、此の終戰處理費は誠に已むを得ないものでありますから贊成をする、質問致したい點は財政の問題に付て種々ありますけれども、是は追て提出される總豫算の機會に讓る、我々は敗戰日本國民として、十分に全力を盡しまして此の處理費を負擔する義務があり、平和日本確立に對し、總司令部の多大なる盡力に付きましては、十分に協力をしなければならない、米國と日本とは貧富の縣隔が實に甚だしい、生活程度の相違と云ふものも、非常に大きなものがある、總司令部に於ては、此の點を漸次に了解するやうになつて、近時は其の經費等に於て節約をすることに努力されて居ると云ふ點を見まして、實に感謝に堪へない次第である、約四百億の此の處理費と云ふものは、政府の總支出に對してどれだけのパーセンテージにあるかと云ふことも大いに考慮して行かなければならない、又是と同樣の事情にあるドイツ國の此の方面に於けるパーセンテージも研究してみたいと思ふ、實に此の多大なる負擔と、インフレーシヨン抑制との間の權衡を得るやうにしなければならないが、此の點に付ては今後政府の十分なる努力を期待するものである、本案に付きましては、是は經費が増加をした爲に自然と百億圓が計上されたのであるから、實に已むを得ないものであるからして、贊成は表する次第である、斯う云ふ意味に於きましての贊成演説が述べられました、次いで採決を致しました處、全會一致を以て可決致した次第であります、以上を以ちまして報告を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=39
-
040・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 別に御發言もなければ、是より採決を致します、本案全部を問題に供します、豫算委員長の報告通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=40
-
041・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=41
-
042・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 日程第一に戻りまして、質疑を繼續致します、田中館愛橘君
〔田中館愛橘君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=42
-
043・田中館愛橘
○田中館愛橘君 ローマ字教育の方針に付て文部大臣に伺ひます、先頃文部省發表のローマ字教育の方針は、大體に於て穩當なるものと存じます、一學年實行の上修正を豫期し、今現に行はれて居りますのを備考に加へられた其の深切振りは、蓋し何人も頷かれようと思ひます、然るに世間の或一部の者は、之を超國家的軍國主義の綴り方と非難し、之が實行を阻害せむとする論説が屡屡現はれますことは遺憾であります、而もそれが事實に背き、徒に獨斷の推論を弄ぶに至つては、之を等閑にすべきではないと存じます、所謂衆口金を鑠かす如く、嘘が眞になることを憂へまして、之に對しまする政府の御所見を伺ひます、次に言語の整理改善は教育の能率を昂め、國の文化を進むる上に最も重大な役目を持つて居ることは申す迄もありませぬ、而して言語は世の開けると共に、日々變化して居ります、其の變化は一般民衆の意識に依ると共に、又專門識者の考慮研究に俟つ所少くありませぬ、從つて其の進むべき道を指導する爲、獨立の常置機關を設ける意思なきや、以上二件を伺ひます、第一に付きまして先づ明かなる間違ひは、駐屯軍司令部が鐵道其の他の道標べにヘボン式で地名を書くやうに命令したのを、總ての國語ローマ字書にヘボン式を用ひよと云ふ命令の如く言ひ觸らすのであります、道標べは成るべく多くの通行者に早分りするやうにするのが目的でありますから、ヨーロツパの主要な停車場には三四箇の國語で驛名を書いてあることは珍しくありませぬ、驛名書き方と國語書き方とは全く別問題であります、一昨年の十二月、此の演壇から私は當時の文部大臣前田多門君に向つて、此のことを明かにするやう司令部に交渉されむことを要求致しました、前田君は其の後素人が行つても分りにくいだらうから、私に直接交渉しろと申されましたから、其のことを申入れました處、其の係のホール君が態態私の住ひにおいで下され、約一時間ばかり御話の間に、司令部は國語の綴り方には全然干渉しないことを明かにされました、此のことは昨年の六月此の議場でも申上げました、是でヘボン式論者一部の誤解も解けた筈でありますが、それにも拘らず、尚近頃此の誤りを繰返す記事を見るのは呆れるの外ありませぬ、次に近頃屡屡現はれます文部省案反對の論説に殆ど私の名前の出ないものはない有樣で、甚だしきは田中館式などと云ふ名前を作つてあるのを見受けますから、確かなる事實を擧げて是等の誤りを正したいと思ひます、事、私一個人に係りますので誠に申しにくいことでもあり、又嘸皆樣の御耳障りと存じ、甚だ恐縮でございますが、事實を示す上已むを得ませぬから、暫く御勘辨を願ひます、此處にあります此の本は明治三十八年四月、東京帝國大學紀要第十四卷として出版された日本全國磁力測量の報告であります、測點三百二十の地名は序文に斷り書きを示し、全部今日の日本式に書いてあります、當時未だ日本式と云ふ名前はありませぬが、併し國語の綴り方は熱心な西周君を始めとして論ぜられ、明治十八年ローマ字會の書き方取調委員の原案委員でありました寺尾壽君の提出されたものは全く今日の日本式其の儘であります、故に若し發案者の名前をとるならば、日本式は寺尾式と言ふべきであります、田中館式などと言ふは全く事實に副はないものであります、偖、超國家とは何を根據に言ふか、之を吟味して見ませう、此の報告には地球物理學上、多少の理論が載せてありますので、之を歐米諸國の關係者に質し、且、聊か學界に貢獻せむと思ひまして、それ等に送り出した數約三百でありました、ロシアとは當時戰爭中でありましたから、中立國オランダの手を經て送りました、若し此のことが軍部に傳りましたならば、多分差止められたかと思ひます、と申すのは、露國と事を構へる初め、我が海軍は此の報告の原稿を利用した位でありましたから、敵の利用を懸念したらうと考へられるからであります、送り先の受取りは多く大學の事務へ參りましたが、中に直接私に宛てたのが數通あり、是等はまだ持つて居ります、其の中の二つだけ申して見ますれば、英國のロード・ケルビンは「此の事業の成功を日本及び世界の爲に祝ふ」コングラチユレートすると書いて寄越しました、又皆さんエツクス光線で御承知のレントゲンは此の戰爭の困難中、斯くの如き研究を續けることを稱へ、「此の戰爭は知力に對する暴力の戰爭だから、速かに日本の勝つことを祈る」と言つて寄越しました、此の後三年目、千九百七年にロシアの觀測所に參りました處、所長は早速此の本を取り出して、「戰爭中之を贈られたことは有難い」と禮を述べました、以上で御分りと思ひますが、若し超國家主義と云ふことを國境を超越して廣く世界人類の爲に眞理の探明に努めると云ふ意味ならば、全く其の通りであります、併し之と反對に唯自分の一國の爲のみを圖り、他を顧みないとするならば、全く見當違ひの批評であります、又私を軍部の手先になつて日本式を廣めたなどと云ふのも大間違ひであります、是は大正七年海軍水路部發行の日本及び近海の磁力測量報告であります、此の測量の指導を言ひ附かりまして、測量士官の教育、測點の選び方等を相談致しました、然るに此處にある測點の地名は海軍はヘボン式を使ふと云ふので、全部ヘボン式に書き、前に逆戻りしたので私は甚だ不滿で、失望致しました、軍部が日本式を使ひ始めたのは、中央氣象臺が大正二年、全國測候所長の全會一致の決議で、氣象報告には總て日本式で地名を書くことに決めてから數年の後であります、之を見ましても、私が軍部の手先になつて日本式を廣めたなどと云ふことは全くの間違ひなることは御分りであらうと思ひます、一體國字の如き廣く關係ある問題は、獨り國内のみならず廣く世界の輿論に鑑みるべきものと信じます、國内のことは昭和五年全國の小學校管理者が長岡市に會しました時、小學校に日本式のローマ字の書き方を教ふべきことを全會一致で決議して居ります、又東京の二大新聞、朝日、毎日の「子供の讀みもの」のローマ字欄は日本式で書かれてあります、更に近日文化運動團體三十九が文部省發表の案を支持すると宣言し、之を發表致しました、扨、世界の輿論と言ひましても、他國の國字論を自國の輿論に問ふ所はありますまい、先づ世界的專門家の輿論に問ふのが最も適當でありませう、之に付ても自分のことを申して濟みませぬが、重ねて御許しを願ひます、私が初めてヨーロツパ語でローマ字論を書きましたのは千九百二十年、ロンドンのジヤパン・ソサイエチーの需めに應じて提出した一つの粗末な英文であります、此の時は既に田丸博士の英文の日本國語文法書が出來て居りましたから、一部之に依つて書きました、此の論文に對し、定めし多くの反對があらうと心待ち致しましたが、案に相違して、新しい專門家數名が之に贊成されたことは意外の悦びでありました後になつて音素學の專門家ダニエル・ジヨンヌ教授は、私に對し、「あなたは歴史方面からの研究だが、私は音聲一本筋の方面から見て、日本式の正しいことに達したことは面白いことです、即ちどの方面から見ても同じ結果に達することは、愈愈其の正しさを證明するのである」と申されました、其の後私は萬國音馨學會、言語學會等で、屡屡諸國の專門家の前で日本式に對する批判を請ひました、是等の議事録に見える通り、嘗て反對意見を聽いたことはないのみならず、第二囘萬國言語學會に於ては、音素式綴り方の模範的實例として日本式を擧げて報告されました、又國際聯盟の知的協力委員會に支那の林語堂君と兩名で、各國の未だローマ字を用ひざる國々にローマ字書きの研究を勸め、速かに、世界一般にローマ字の行はれる有樣を調査されたいと云ふことを要求致しました處、十九箇國から、其の國々の状況を報告されて、一册の本となつて居ります、此の終りに於きましては、エスペルゼン教授は日本式とヘボン式の比較をしまして、ヘボン式は音を眞似たものである、日本式は音の内容、言葉の働きを表はすことに於ては正しいと云ふことを書いて居ります、尚序に、私の青年時代に超國家的論者と見られた其の初めの動機は何處にあつたかを一言して置きたいと思います、國學者の本居宣長は御承知の如く熱心な國家主義者でありましたが、往々本筋を外れた超國家的のことを申しました、併し彼の音聲に關する意見には、今日と雖も尚見るべきものがあります、其の一つを言つて見ますれば、母音の圖表、圖に表はした表であります、一般の音聲學者は、母音相互の關係を圖表に表はすに二つの直線をVの字形に右、左に書きまして其の交叉點の所にアを置き、右の線に沿うてエ、イを置き、イは線の上端の所の一番口の詰つた所になり、左の線に沿うてはオウを置き、ウも亦口の狹まつた所にあります、然るに此の竝べ方で不自然なことは、イ、ウの密接に關係した親類筋の音が右、左に分れて居て、エイの近接した關係を表はすものと違ひ、特別の説明を要することであります、エ、イの入れ替るのも、イ、ウの入れ替るのも同格の關係にあるのに、一方は隣合つて竝び、他方は左右に遠く離れて居つて、特別の説明を要するのであります、本居の圖を敷衍して申しますれば、之と全く別に三日月形の圖を作り、其の兩端を引寄せて重ね合せ、恰も眞中の廣い廊下のやうな圖を作り、其の廣い所にアを置き、狹い所に隣合せて、イ、ウを置き、イ、エ、アと口を開き、オ、ウとつぼめて、隣りのイに續く樣にしたのであります、即ちサイクルになつて切れ目なく、「イ、エ、ア、オ、ウ、」「イ、エ、」「ア、オ、ウ」と、何遍でも連絡して續けられ、相互の變化運用が手際よく現されて、言語の變化説明に、一種の妙味を與へました、右の關係は、東北辯の「ス、シ」の混同でも古典の「つき夜」「つく夜」等幾らもあります、英語のULは其の隣のIを引き附けて、イ、ウ即ちユ、ウになり、「ユニツト」、「ユニオン」等が、自然の動きから起ることが能く分ります、私が「發音考」を書きました時に、此の本居の論にいたく感服したのが、私を本居の崇拜者、超國家主義者と看做され、當時居留外人の一部から、「ヤング・パトリオツト」と冷かされました、併し私は本居の母音論は賞讚しましたが、撥ねる音ンに對しては、大いに反對し、遠慮なく露骨に、本居をこき下して、此の「發音考」に書いて置きました。けれども、一且私を本居崇拜者と感じた感覺は、理窟では直りませぬ、今日迄禍して居ります、併し先日司令部の專門家、ハルパーアン博士が私を訪ねました時、此の話をしましたら大層悦んで、此の六十二年前の原著の復寫を見て、欲しいと言つて持つて行かれました、私自身に對する世の批評は、どうでも宜いと致しましても、之を切つかけに大事な國字論を阻害するに至つては、老いたりと雖も、默視するに忍びませぬ、昨年の教育使節團の團長とのローマ字に關する話は、昨年此の席で申述べましたが、此の使節團の政府に對する勸告は、明かにローマ字を將來の國字と豫定し、今日の機會を外さず、之を國民學校に入れることを熱心に勸め、「若し此の機會を逃がしたならば、數代、セヴエラル・ゼネレーシヨンスを待たなければ、又と來ないだらう」と申して居ります、若しも今日一部の反對論にこだはつて、是が實行をためらふやうなことがありましては、心盡しの勸告に對し、誠に面目なき次第と存じます、政府の御所見如何でありませうが、伺ひたうございます、第二の國語の改善に付ては、申述べたいことも多々ありまするけれども、既に之に付ては世上でも可なり立入つて論じられて居りますから、唯、一つ主なことだけに止めます、誰でもローマ字文を眞面目に人に分るやうに書く者の、突當ります所は、聞いて分る言葉を撰み出す、其の撰み方であります、私共ローマ字仲間は六十餘年來、言文一致を目途とし、殊に科學に身を委ねる者は、ローマ字論を熱心に唱へ、之に基いて居ります、明治十六、七年項より研究に著手し二十一年に出版された物理學辭書は、ローマ字書きで、和、英、佛、獨の四箇國語をそれぞれ、和對英佛獨、英對日佛獨、佛對日英獨、獨對日英佛と四通りに出しましたが、今日は殆ど見當らなくなりました、之の編纂には出來るだけ口語で分るやうに、隨分苦心しました、處が其の後、何時の間にか漢語がはやり出しまして、學術語も口語と段々縁遠いものになりました、一例としまして、此の間ジヤワのジヤカルタの醫科大學長を三年して、インドネシヤ學生に日本語で醫學を教へた苦心話を書いた手紙を貰ひました、其の中に、日本語教室でユビサキとローマ字で教へられて、醫科の教室へ來ればシトウとなり、ミミタブと語學で教へられたのは、醫科の教室ではジダとなり、チと習つたのが、ケツエキとなる、まるで違つた二つの國語を習ふやうな譯で、是では日本語で國際の理解を求めらることはまだまだと嘆じて居ります、若し此の人が、もう少し文獻を探したならば、言葉直しの辭書もあり、又醫科の方にも早くから多少手を著けた者もあります、田丸博士の屡屡言はれました通り、國語改良はローマ字でなければ到底出來ず、又ローマ字の使用は國語を改良しなければ行はれず、兩々相俟つて進まなければ到底成功しないのであります、之に眼を著けて、大正年間から、日本ローマ字會で福永恭助氏が、主として話言葉を研究し、昭和十四年に至り、岩倉具實氏と共著で出來ました話言葉を引く字引で一萬六千餘語を含んで居り、既に放送局でも之を利用して居ります、之を科學各方面に擴げるのは一大事業でありますが、之に先立つて、先づ中學程度の言葉を此の流儀で編成することは、目下の急務と信じます、是等に付きましても、有力な指導機關は必要であります、御承知の如くフランスはアカデミー・フランセーズで毎年變る國語の整理を擔當し、語法文法迄も、改まるものは適當に改めて、之を實行に移して居ります、フランス語の外交界に重きをなす所は、之に負ふ所大なりと思ひます、勿論我が國は我が國で、獨自の事情もありますが、大綱に於て他の政界の事情等で動くことのない有力な常置機關を作り、會員はそれ自身の選擧で他より全く干渉を受けないものを設けることは如何でありませうか、之を伺ひたうございます(拍手)
〔國務大臣高橋誠一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=43
-
044・高橋誠一郎
○國務大臣(高橋誠一郎君) 御答へ致します、文部省發表のローマ字教育方針に付きまして、超國家主義的であるとか、或は軍國主義的であるとか云ふやうな非難のありますることは私も耳に致して居る所でありまして、誠に遺憾至極であります、併しながら尚又之に對しまして、別樣な流言も行はれて居るやうでありまして、先日私の手に入りました手紙に依りますると、文部省發表のローマ字教育方針は左翼的である、共産主義的であると云ふやうなことが記されて居るのであります、是はどう云ふ所から來て居るのでありまするか、其の手紙に現はれました處、頗る簡單でありましてはつきり致しませぬが、多分是は先程御話のありました所のローマ字教育を普及させたいと云ふ所からして色々な計畫が行はれて居るのでありまするが、それに參加して居りまする人達の顏觸、殊にローマ字教育協議會の諸君の思想傾向などを誤解致した所から來て居るのではないかと考へられるのであります、昨日も外字新聞記者が私の所へ參りまして、此のことを彼此申して居つたのでありまするが、私之に對しまして聊か辯明努めて置きましたのであります、軈て斯くの如き誤解は解けるとは考へまするが、併しながら先程御話のありましたやうに、所謂嘘から出た誠と云ふやうなこともあるのでありまするからして、唯巷間一片の浮説として之を退けることを致しませぬで、十分斯くの如き根據のない非難に對しましては、之を排撃することに努めたいと考へて居る次第であります、之が爲に又此の實施が妨げられますることは誠に遺憾とする所であります、唯併しながら御承知の如く、必ずしも此の文部省のローマ字教育方針と云ふものは、所謂日本式に限ると云ふ譯ではないのでありまして、日本式、訓令式、ヘボン式、是等のものを併せ教へることを認めて居るのでありまして、決して一本建で行くと云ふ譯ではないのでありまして、他のものをも併せ教へることが出來るやうに致して居るのでありまするからして、此の點に於きまして、決して超國家主義などと云ふことは申されないことと考へるのでありまするが、尚ローマ字教育に於きまして色々研究致さなければならぬ所がありまするので、今囘の案は唯暫定的のものでありまするが、今後に於きまして實施に伴ひまして、此の調査研究を進めまするが爲に、更に委員會を設けまするなど、適切なる處置を講ずるやうに致したいと考へて居る次第であります、尚第二の點、即ち政府は國語改良の爲獨立の常置機關を設ける意思があるかどうかと云ふ御質問でありまするが、國語國字を簡易化致しまして、醇化致しますることは、國家再建の爲にも極めて大切なことであることは申す迄もない所であります、此の爲には先程國語審議會に於きまして建議せられましたやうに、基礎的の調査機關を設ける必要があると存じます、明年度から御趣旨の如く權威ある研究機關を設定致します準備を進めて居る次第でございます、殊に學問上の用語の如きものに關しましては、十分な研究を遂げて行きたいと考へて居るのでありまするが、明年度に於きましては、差當り其の母體となるべき調査機關を文部省内に設けることを計畫致しまして、其の準備を進めて居る次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=44
-
045・田中館愛橘
○田中館愛橘君 此の席からで宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=45
-
046・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 田中館君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=46
-
047・田中館愛橘
○田中館愛橘君 此の問題は隨分長い問題で、色々當局の御苦心もありませうが、併し其の必要なことは既に一般世間でも分つて居りますから、出來るだけの力を盡されまして、兎も角速かに此の實行に移ることを希望致しまして、私の質問を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=47
-
048・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 本日は是にて延會致したいと存じますが、御異議ございませぬか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=48
-
049・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 御異議ないと認めます、明日は午前十時より開會致します、議事日程は決定次第彙報を以て御通知に及びます、本日は是にて散會致します
午後零時八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X00619470219&spkNum=49
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。