1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
教育基本法案(政府提出)(第一八號)
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本委員は昭和二十二年三月十三日(木曜日)議長の指名で次の通り選定された。
井田友平君 小川原政信君
上林山榮吉君 川西清君
庄司一郎君 辻寛一君
池村平太郎君 江川爲信君
武藤嘉一君 森山ヨネ君
山口光一郎君 及川規君
永井勝次郎君 山下ツね君
米山久君 伊藤恭一君
中田榮太郎君 平川篤雄君
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三月十四日(金曜日)午前十時四十四分委員長理事互選のための委員が參集した。
小川原政信君 上林山榮吉君
庄司一郎君 江川爲信君
及川規君 永井勝次郎君
山下ツね君 伊藤恭一君
中田榮太郎君 平川篤雄君
〔年長者小川原政信君投票管理者となる〕
(以下速記)
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昭和二十二年三月十四日(金曜日)午前十時四十八分開議
出席委員
委員長 江川爲信君
理事 小川原政信君 理事 及川規君
上林山榮吉君 庄司一郎君
永井勝次郎君 山下ツね君
伊藤恭一君 中田榮太郎君
平川篤雄君
三月十四日委員川西清君辭任につき、次の補闕として滝澤脩作君を議長に於て選定した。
出席國務大臣
文部大臣 高橋誠一郎君
出席政府委員
文部政務次官 青木孝義君
文部事務官 日高第四郎君
文部事務官 剣木亨弘君
文部事務官 柴沼直君
文部事務官 清水勤二君
文部事務官 稻田清助君
文部事務官 辻田力君
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本日の會議に付した議案
教育基本法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=0
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001・小川原政信
○小川原投票管理者 先例によりまして私が年長のゆえをもつて投票管理者となり、これより委員長の互選を行います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=1
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002・庄司一郎
○庄司委員 この際投票を用いず、江川爲信君を委員長に推薦申し上げます。お諮りを願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=2
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003・小川原政信
○小川原投票管理者 庄司君の意見に御異議はありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=3
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004・小川原政信
○小川原投票管理者 御異議なしと認めます。よつて江川爲信君が委員長に御當選に相なりました。委員長江川爲信君に本席を讓ります。
〔江川爲信君委員席に着く〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=4
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005・江川爲信
○江川委員長 ただいま御推薦によりまして委員長の重責を汚すことに相なりました。まことに不慣れな者でありますが、何とぞよろしくお願いいたします。一言御挨拶を申し上げます。
これから理事の互選を行いたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=5
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006・庄司一郎
○庄司委員 理事はその數を三名とし委員長におかれて御指名あらんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=6
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007・江川爲信
○江川委員長 庄司君の御意見に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=7
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008・江川爲信
○江川委員長 御異議なしと認めまして、それでは私から御指名申し上げます。
小川原政信君 山口光一郎君
及川規君
を煩わしたいと存じます。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=8
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009・江川爲信
○江川委員長 それではこれより政府提出の教育基本法案の提案理由の説明を聽取いたすことにいたします。文部大臣。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=9
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010・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 教育基本法案の提案理由を一應御説明申し上げます。昨日本會議におきまして最後に一言いたしましたところを、少し附け加えて申し上げますると、この法案は、昨年の九月内閣に設置されました教育刷新委員會の建議に基いて作成せられたものであります。この教育刷新委員會は、もと米國教育使節團に協力いたしまするために、連合軍覺書に基いて組織せられました日本教育家委員會と稱せられましたものが、解消して發展いたしたものであります。そうして米國教育使節團の報告書が作成せられるにあたりましては、日本教育家委育會がいろいろな問題を研究される上に、米國教育使節團報國書に、きはめて重要な示唆を與えたものと思われるのであります。刷新委員會の建議は、使節團報告書とその方向を一にしておるのであります。教育の理想につきましても、同じことが言い得ると考えられるのであります。教育刷新委員會におきましては、その第一特別委員會におきまして、この問題を審議いたしまして、その報告に基きまして、本會議において決定いたしましたところのものを、内閣に答申いたしたのであります。それをもとにいたしまして、今囘のものが起草せられることになりまして、閣議におきまして、かなりに激しい議論が鬪わされました後、これが樞密院に御諮詢になりまして、樞密院の小委員會の席上におきまして、また種々なる論議が鬪わされ、その幾分が訂正せられまして、今囘の議案ができ、これが上程せられることとなつたのであります。
昨日も申し上げましたように、民主的で平和的な國家再建の基礎を確立いたしますために、さきに憲法の畫期的な改正が行われ、これによつて、ひとまず民主主義、平和主義の政治的、法律的な基礎、いわばわくとなるべきものがつくられたのであります。しかしこの基礎の上に立つて、眞に民主的で文化的な國家の建設を完成するとともに、世界の平和に寄與すること、すなはちこのわくの中に立派な内容を充實させることは、國民の今後の不斷の努力にまたなければなりません。そしてこのことは一にかかつて教育の力にあると申しても、あえて過言ではないと存ずるのであります。かかる目的達成のためには、この際教育の根本的刷新を斷行するとともに、その普及徹底を期することが、何よりも肝要でございます。かかる教育刷新の第一前提といたしまして、新しい教育の根本理念を確立明示する必要があると存ずるのであります。それは新しい時代に即應する教育の目的、方針を明示し、教育者並びに國民一般の指針たらしめなければならないと信ずるからであります。
次に、それを定めるにあたりましては、從來のように、詔勅、勅令等の形式をとりまして、いわば上から與えられたものとしてでなく、國民の盛り上ります總意によりまして、いわば國民みずからのものとして定めるべきものでありまして、國民の代表者をもつて構成せられます議會におきまして討議確定するため、法律をもつていたすことが新憲法の精神に適うものといたしまして、必要かつ適當であると存じた次第であります。教育勅語とこの法案の關係等につきましても、これまでにいろいろ意見の交換が行われたのでありますが、教育勅語は、日本教育史上におきまして、きはめて重要なる意義を有しておつたのでありますが、何しろ明治二十三年に判定せられたものでありまして、その後時勢の變遷につれまして、あるいは曲解せられ、あるいは惡用せられるという結果を見ましたので、これをこれまでのように小學校において捧讀いたさないことにいたしたのであります。それがために、往々にして思想混迷の状態に陷つた向きもあるのでありまして、特にこの際教育の根本理念を明らかにしたところの法律を制定いたしますることが、目下の急となつたのでございます。
さらに新憲法に定められておりまする教育に關係ある諸條文の精神を、一層敷衍具體化いたしまして、教育上の諸原則を明示いたす必要を認めたのでございます。さて、これらの教育上の原則並びにさきに申し述べました教育の根本理念は、單に學校教育のみならず、廣く家庭を含めました社會教育にも通ずべきものでありまして、これらの根本理念並びに原則は、個々の教育法令に別々に掲げることなく、基本的な單一の法律に規定いたしまして、その他の教育法令は、すべてこの法律に掲げまする目的並びに原則に則つて制定せらるべきものとすることが適當であると考えまして、この法律の教育基本法と稱した次第でございます。
以上申し述べました理由に基きまして、この法案を作成したわけでございますが、この法案は教育の理念を宣言する意味で、教育宣言であるとも見られましようし、また今後制定せらるべき各種の教育上の諸法令の準則を規定するという意味におきまして、實質的には教育に關する根本法たる性格をもつものであるとも申し上げ得るかと存じます。從つて本法案には、普通の法律にはむしろ異例でありますところの前文を附した次第でございます。
次にこの法案の内容を御説明申し上げますると、まずこの法案制定の由來趣旨を明らかにいたしまするがために、只今申し上げましたところの前文を附してございます。次に本文にはいりましては、第一條に、新時代に即應すべき教育の理念を明らかにいたしまするがために、教育の目的を掲げました。次に第二條におきましては、このような教育の目的をいかに達成すべきか、その方針を明示いたしました。第三條、教育の機會均等のくだりにおきましては新憲法第十四條第一項、同じく第二十六條第一項の精神を具體化いたしました。第四條、義務教育では、新憲法第二十六條第二項の、義務教育に關する規定を、一層はつきりと規定いたしたのであります。さらに第五條男女共學におきましては、新憲法第十四條第一項の精神を敷衍いたしまして、男女共學を説いたのであります。第六條學校教育におきましては、學校の性格、教員の身分について規定いたしました。第七條では、社會教育の原則を説きました。第八條政治教育では、民主主義社會における政治的教養の重要性、並びに學校における政治教育の限界を示したのであります。第九條宗教教育では、新憲法第二十條の信教の自由の規定が、教育上いかに適用せらるべきかということを明らかにしたのであります。第十條教育行政の條下におきましては、教育行政の任務の本質とその限界を明らかにいたしました次第でございます。
これが本法案制定の理由、性格、並びに内容でございます。この法案は教育の根本的刷新について議すべく、先ほど申しましたように、内閣に設けられましたところの教育刷新委員會におきまして、約半歳にわたりまして愼重審議を重ねられた綱要をもととしたところのものであります。政府におきましては愼重に案を練りましたのでございまするが、なおいろいろまだ御意見もあることと思ひまするので、何とぞ愼重御審議を願いたいと存ずる次第でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=10
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011・江川爲信
○江川委員長 それでは暫時休憩いたしまして、午後二時から開會いたしたいと存じます。なお本案の審議について、あらかじめ御相談を申し上げたいと存ずるのでありますが、貴族院の關係もありますので、本日はなるべく總論の質問をすべて終るように、そうして明日は逐條その他、とにかく午前中に最後の決定をいたしまして、本會議に移すようにお運びを願いたいと思います。どうぞそのようなお考えで御審議を願いたいと存じます。暫時休憩いたします。
午前十一時十四分休憩
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午後二時九分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=11
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012・江川爲信
○江川委員長 休憩前に引續きまして會議を開きます。質疑は通告順に從いましてこれを許します。上林山榮吉君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=12
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013・上林山榮吉
○上林山委員 教育基本法に對する立法の理由、ないしはその沿革につきまして、大臣の説明を承つたので、大體了解したのでありまするが、本法の重大性に鑑みまして、以下數點について政府の意見を質しておきたいのであります。
まず第一に、教育基本法は、言うまでもなく一種の教育憲章であり、またそうあらしめねばならぬと思うのであります。しかし法律はあくまでも法律でありまして、私は本法の根底をなすものが、何となく足りないような感がするのであります。いわゆる教育基本法の根本をなす、根底をなすところの教育哲學ないしは形而上的な強い脈々とした要求というものが、本法を通覽いたしまして缺けておる憾みがするのであります。いわゆる教育哲學ないしは形而上的な脈々とした指導原理というものが、本法の根底をなさなければならぬと思つておるのでありますが、これに對して大臣はどういうお考えをもつておるのであるか。終戰までは御承知のように事の是非は別といたしまして、とにもかくにも、日本の歴史及び教育勅語によつて、一定の方向をもつておつたのでありますけれども、それに代る教育基本法という本法を見てみまして、比較檢討いたしますときに、そこに強いものを感じない。これが私の質問の要旨でありますが、これに對しまず大臣の所信を承つてみたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=13
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014・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 教育基本法におきましては、既に御承知のごとく、人格の完成をもつて教育本來の目的と定めておるのであります。わが國におきまして最も缺けておりますことは、個人の覺醒がなかつたというにあつたと考えるのであります。この點が國を誤らしめたところのものではなかつたかと考えておるのであります。これから先、文化的な平和國家を建設いたしますがためには、どうしてもこの個人の尊嚴を認め、個人の價値を認めていかなければならぬというのが、私どものもつております確信であります。これをまず教育上の根本理念として取上げたのであります。迫力がない、乏しいとかいうような御意見に伺いましたが、かつての教育勅語のごとき荘重な言葉をもつて表現はせられておらぬかも知れないのでありますが、この點を相當強く主張しておると考えるのであります。なほ道徳は時勢とともに變化するものでありますから、この基本法にうたわれておりますところのものも、永久の生命をもつものであるとは、われわれ考えないのでありますが、今日の思想混亂の際におきましては、しばらくの間は教育上の根本理念を表明したものといたしまして、その權威を維持することができると考えておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=14
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015・上林山榮吉
○上林山委員 われわれといたしましても、言うまでもなくまじめな自由主義的な立場から考えまして、教育の目的が個性の完成であり、人格の完成でなければならぬということは、よくわかつているし、主張してきておるのでありまするが、先ほどから申し上げますように、本法の前文のうちに、なるほどここに一應の教育哲學とも言うべきものがないではありませんが、先ほど申し上げましたごとく、いずれにしてもこれは法律である、私はあくまでも法律は法律であると考えるのでありまして、この法律の根底をなすいわゆる形而上的な強い要求というものを、單に今大臣が言われるごとく、個性の完成であるというような意味のみにとられることは、私は物足らなさを感ずるのでありまするが、それはそれといたしまして、しからば教育基本法によつて、あるいはこれに關連する一連の文部當局が考えておられる法案によつて、混亂せるところの教育界に一つの方向を與え得たものとして、大臣は安心しておられるかどうか。いわゆるこの法律を出したことによつて、あるいはこれに續いて出るところの法案そのものによつて、一應混亂せる日本の教育界に一つの方向を與えた。こういうように安心感をもつておられるか、その所信をお尋ねしてみたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=15
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016・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 むろんこれによりまして直ちに安心いたすことはできないのでありまするけれども、とにかく現在の教育界に一應の指針を與えることができるとは考えております。しかしながら實際におきましては、なおただいまお話のように、種々なる法案を出さなければならぬのでありまするし、また文部省といたしましても、これに伴いまして最大の努力をしなければならぬと考えておるのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=16
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017・上林山榮吉
○上林山委員 ここで一言申し上げたいのは、大臣の本法ないし次に來る法律、ないし教育方針というものに對する一應の所信を承つたのでありまするが、先ほどから申し上げますように、本法はあくまでも法律である。役人の缺點というものは、法律をつくつてそれを事務的に運營すれば、事の目的を達したかのごとき錯覺を起す習性をもつているのが今までの役人であり、現在それを行つておる人々の中にも、多數そういう人々を見受けるのであるが、教育本來の目的を考えれば考えるほど、一應こうしたような法律の整備によつて教育が完成したのではない。殊に混亂しておる今日の状態においては、その感を強く私どもはもつものであります。この點はいわゆる文教の府にある文部當局としては、特に私は戒心していただかなければならぬと考えるのであります。これに對する御答辯は要りません。
次に私お尋ねいたしたいのは、本法の施行をして有終の美を收めるためには、教育する者も、教育される者ももちろんのことでありますが、一般の國民あるいは今申し上げましたごとく政府も本法に一應の拘束をされる。あるいはまた今申し上げましたような心の用意によつてこれを活用して、有終の美をなさなければならぬのでありまするが、特に私はこの際教育する者の立場、いわゆる教育者に對しまして、はたして現在の状態において、本法の精神を十二分に活用し得る態勢にあるかどうか。あるいはそうせしめ得るいわゆる烈々たるところの指導方針というか、あるいは協調というか、そうしたような態度をば文部當局はもつておられるか、あるいはその自信があるかということを、今日の混亂せる教育者諸君の態度を眺めまして、私これを考えるのであります。具體的な例は後刻申し上げたいと思いまするが、この私の前提の考えに對する大臣の御答辯を要求したいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=17
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018・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 この法律をただ一片の死文たらしめませず、これを十分に活かしてまいりますためには、文部省當局といたしましては、でき得る限りの努力をいたすつもりでありますることは、先ほど申し上げたところであります。また一般の趨勢を見ますと、だんだんこういう方針に向つて進んでおると考えますので、われわれ最大の努力を拂いまするならば、必ずやこの精神を活かすことができると考えておる次第でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=18
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019・上林山榮吉
○上林山委員 私はよほどの決心をもち、よほどの指導力をもち、よほどの協力的態度をもつて、教育者諸君にいわゆる文教の府が力強く働きかけていかなければ、本法の施行によつて、あるいは本法の説明によつて、あるいは本法によらなければならぬということを單に指示するものだけでは、今日の混亂せる教育界の大部分の者を、一定の方向に向けていくことはむずかしかろうと考えるのでありまするが、まず第一に教育者も人間である、人間であるから生活權の確保も當然やらなければならない。これはわれわれもひとしく認むるところであり、ひとしく支持するものであります。しかるに往々にして待遇改善に名をかりて政治運動、はなはだしきは教育界の混亂、あるいは日本の混亂をも希望するかのごとき態度をもつ一部共産主義的ないしは極左翼的思想をもつた教員諸君が、今日國民學校あるいは中等學校、青年學校あるいは大學專門學校等にも非常に多いのであります。私はもちろん自由なる人格の尊重というものは、思想が違つても、主義主張が違つても、根底にこれを認めなければなりませんが、職場まで放擲していわゆる爭議あるいは鬪爭という方面のみに專念するという傾向は、教育擔當者としてその限度はどの邊になければならぬか。私は文部當局としては、その程度あるいは基準というものを、ここに明確にする必要があると考えておるのでありますが、これに對して文部大臣はどういうお考えをもつておられるでありましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=19
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020・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 教育者の生活改善のためには、文部省といたしましては、少からざる努力を拂つているのでごさいますが、今日の財政の状態からいたしまして、十分な額を豫算に計上することのできなかつたことは、はなはだ遺憾であります。しかしながら今日も大藏當局といろいろ打合せをしておるのでありますが、單に教職員の生活改善のみならず、これらの諸君の教養のために、幾分の支出をいたすことができるようになる徴候を得ましたことをはなはだ喜ばしく考えておる次第でございます。でき得る限り、これら諸君の生活を向上させまするのみならず、また教養の點におきましても向上せしめまして、十分効果ある教育を子弟に施さしめたいと考えているのであります。なおまた矯激な思想を抱いておる者が一部にあることも事實でありまして、否定しがたいところでございますが、ただいまここに上程せられました教育基本法が通過を見まするならば、法律に定める學校というものは、特定の政黨を支持し、あるいはこれに反對するところの政治教育、その他政治的活動をしてはならぬという規定が設けられておるのでありまして、むろん思想の自由は尊重いたすのでありますが職場を利用して、ある一定の政黨を支持する。たとえば共産主義のごときものを支持するというようなことがあるならば、斷じてこれを許可することはできないと考えておるのでありまして、この點は強硬なる態度をもつて臨みたいと考えておるのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=20
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021・上林山榮吉
○上林山委員 大臣の熱心なる方針を承つたのでありますが、お示しになつつた第八條の政治教育に關する部分の「特定の政黨を支持し、又はこれに反對するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。」こういう明文がある以上、もちろんそういう方向に今後取締りをやつていかれることは當然のことでありますが、しからば現在共産黨の諸君が學校ないし兒童ないし父兄を通じて細胞組織をつくれ、こういうような指令を先般出しておるのでありますが、この指令に對して文部大臣は本法の通過と同時に、あるいは通過しない前にいかなる態度、方針をおとりになるおつもりであるか。私はこの點は明確にしておく必要があると考えますので、具體的に質してみたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=21
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022・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 政府委員からこの點御説明申し上げさせたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=22
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023・辻田力
○辻田政府委員 教員が特殊の地位を利用いたしまして、學校の兒童、生徒等を利用して選擧運動その他政治活動をすることは、大體禁止されることになるだらうと思つておりますが、殊に現在議會に上程されております選擧法の改正によりまして、この點は、はつきりとしてくるだろうと思います。從つて一部の政黨のために、あるいは主義のために教員がその地位を利用いたしまして特別の選擧運動をするということになりますと、その規定に牴觸するというようなことになると思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=23
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024・上林山榮吉
○上林山委員 本法第八條の二項及び選擧法改正の立場からいうところの政府の見解はわかりましたが、今申し上げますごとく、單にそれが主義、主張の要求のために、學校や兒童の團體に政治グループをつくらせる、一つの組織をつくらせるというようなことは、どういうふうに文部當局としては考えているのであるか。あるいは最近共産黨の指令が出て、各教員組合ないしは各學校にそういう印刷物が配られておりますが、この印刷物について、文部當局は御檢討になつたことがあるかどうか、この點をお伺いいたしておきたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=24
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025・辻田力
○辻田政府委員 お答えいたしますが法律に定める學校におきまして、特に特定の政黨を支持し、またはこれに反對するための政治教育、政治活動をしてはいけないということでございますが、これは法律に定める學校におきまして、ただいま上林山委員からお話がありましたように、政治教育その他政治活動というふうなことにそれがなつてまいりました場合には、してはならない、禁止されるということになります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=25
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026・上林山榮吉
○上林山委員 現在出ております共産黨の指令を知つておられますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=26
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027・剣木亨弘
○剣木政府委員 お答えいたします。共産黨が指令を出したと稱しまする寫しにつきましては、もちろん存じているのでございますが、學校の方からこういつたものが學校に來ているという正式な報告は、まだ一囘も受けておりませんので、その點が確實に私の方で共産黨の方から學校に出したかどうか、そこのところまではまだ突止めておらぬのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=27
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028・上林山榮吉
○上林山委員 そういうようなことは、學校當局のいわゆる報告のみによつて、文部當局は仕事をやつていかれる方針であるのか。あるいは積極的にそういうことをはつきりと知つたならば、それぞれ組織、それぞれの方針によつて、これを取締られるお考えであるか。なぜかく申し上げるかというと、先ほど申し上げたように一片のこういう法律を出しても、あくまでもこれは單なる法律である。これを積極的に活用しなければ何にもならぬのだという點が、第一そこにあるのであり、先ほど申し上げましたごとき、職場を離れても、教育という職場を放擲しても——待遇改善は當然なことではありまするが、そのために教育を放擲するような状態にある。もつと明らかに言うならば、共産主義者があらゆる學校にもはいつている。そういう状態のときに、公平にして迅速なる解決をするためには、今の文部當局の御答辯では、われわれは非常な心細さを感ずるのであります。これに對して、もう少しはつきりとした御意見を伺つてみたい。現に活動を開始しておる。われわれの所にそういう印刷物を屆けに來ている。そういう状態にあるのであるからもう少し役人、あるいは事務的というような考えを清算されて、もう少し積極的な、しかも迅速なと言うと、これは無理かもしれませんが、そうして公平な方法によつて、何とか考えていただかなければならぬ。これは重大なことと考えまするので、もう一度これに對する御答辯を要求いたしたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=28
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029・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 思想の自由を侵さないことを第一に考えなければならぬのでありまするが、他方におきまして、ただいま申し上げましたように、職場を利用して自己の支持する政黨のために運動をするというようなものがありました場合には、殊にこの法律の施行せられました後においては、斷固たる態度をもつてこれに臨みたいと考えておるのであります。所信を申し述べたのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=29
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030・上林山榮吉
○上林山委員 その問題はその程度にいたしておきまするが、さらに私お尋ねいたしたいのは、國旗に對する教育的態度と申しまするか、國旗に對してどういうふうな考えをもち、どういうふうな取扱いを、今後文部當局としてはやつていく方針であるか。もちろんこれには連合國との關係のある點もありましよう。しかしいずれの國家といえども、いかなる民主的國家といえども、國旗を大事にし、國旗を尊敬せざる民族は世界中にないと私は考えております。しかるに最近においては、學校自體で掲揚していいような場合にも、これを掲揚せざる憾みが強い。私はこれでは平和的な、文化的な、しかも民族の上に立脚した、そういうような平和文化というものを考えますときに、私は心さびしさを感じておるものであります。國旗は赤旗でもなければ白旗でもありません。言うまでもなく赤色テロリストでもなければ、白色テロでもない。自然の姿における、調和をはかつた立派な國のしるしであり、われわれ國民の民族の尊敬するに足る立派な國旗であると私は考えておるのでありますが、これに對する文部當局の學校方面に對する態度というものが、私はあまりに遠慮がちであるのではないかというふうに考えるのであるが、これに對してどういうお考えをもつておられるか、この點をお伺いいたしたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=30
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031・剣木亨弘
○剣木政府委員 お答え申上げます。國旗に對しまするお尋ねは、まことにわれわれといたしましても御同感にたえない點でございます。しかし日本がポツダム宣言を受諾いたしまして、無條件降服いたしました現在におきましては、日本内地におきまして國旗を掲揚いたしますのは、わずかに連合軍最高司令部の許可があつた具體的な場合にのみ限るのでございます。それ以外のときにおいて國旗を掲揚いたしますことは、それ自體が占領目的に違反する現状でございます。事實におきましても、學校におきまして、許可なくして國旗を掲揚しておつた場合に、直接司令部の方から摘發された事實もございまして、はなはだわれわれとしては殘念でございます。講和條約が成立いたしまして、公然と國旗を掲揚すること、自主的に國旗を掲揚することのできるまでは、現在の状況におきましては、いかんともいたし方がない點だと思います。ただ國旗の掲揚を許されたにもかかわりませず、そういう日にあたりましても、學校におきまして國旗を掲揚いたさないというような事實があるとすれば、はなはだ遺憾な點でございまして、できるだけ今後とも十分注意いたしまして、そういうことのないようにいたしたいと考えます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=31
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032・上林山榮吉
○上林山委員 先ほども申し上げましたように、連合軍の制約を受けておることも、私よく承知しておりますが、掲揚していいような場合に掲揚していないばかりでなく、場合によつては、めんどうでも、もう少し掲揚できるような機會を與えるくらいの指導方針をおもちにならなければならぬ。もちろん平和的な建設に對しするところの責任と情熱を國民はもつておる。このことは連合軍といえども説明のいかんによつて、われわれの態度いかんによつて、これを諒承してくれるものと私共は考えるのでありますから、この點も私は注文をいたしておきますが、ただここに許しがたい點は、掲揚していい日に掲揚しないばかりでなく、ある國民學校の教員の中に、國民學校の生徒が、先生この國旗に墨を塗つていいのでありますか。こういうことを言つたときに、この共産主義的な女教員はこれに對しまして、塗つてもよろしい。こう言つて國旗に對する侮辱をしたということで、相當その地方の問題になつていましたが、これに對して縣當局あるいは文部當局は、知つておるのかどうかわかりませんが、これに對する處置が講ぜられないばかりでなく、その眞相の調査ですらも不十分である。私共文部當局の一般的方針はわかりますけれども、こういう事實があり、あるいはこういうことばかりではないが、往々にして國旗を輕視する傾向が教育界にあるのではないかということを心配するのでありますが、この邊に對する文教當局のお考えはどうであるか。あるいはこの問題に對して眞相を調査する熱意をもつておられるか。具體的には非公式に實例をお示ししてもいいのであるが、この點に對するお考えを承つておきたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=32
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033・剣木亨弘
○剣木政府委員 その事實についてはまことに遺憾な點でありますが、文部省としては、今私共初めて承つたのでございます。その眞相につきましてはできるだけ速やかに調査いたしたいと思いますが、ただ一言申し上げたいと思いますことは、今までの文部省のあり方と申しますのは、やはり相當統一的に、中央集權的に行つてきたのでございますけれども、この教育基本法を通じての基本的な精神といたしますところは、文部省が上から強制的に教育を統轄し、支配していくということは極力避けまして、教育は國民全般の教育であるという點から、地方に對するいろいろな干渉とか取締りとかいう文部省の態度は、できるだけ捨てていきたいという氣持でございまして、今申しましたような事件が起りましたときは、これはこの村の教育である、その村の住民全體の教育として、村の輿論がそういう不當なる行爲を認めないというような態度にまで、國民全體の考え方が進展してまいりますことが、教育基本法の一つのねらいであると存じます。また文部省のこれからの行き方でもあると考えるのであります。いろいろなことを調査いたしまして、非違行爲があれば、どんどん處罰したりやめさせていくというような、少くとも高壓的な態度は、できるだけ今後の文部省のあり方といたしましては、むしろ避けたいというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=33
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034・上林山榮吉
○上林山委員 文字通り官僚的な強壓的な態度によつて、そういうような違反者に對するところの摘發をやるというようなことは愼まなければならぬと、私も考えるのでありまするが、ただ輿論の起つて來ることをまつてのみかかる具體的な事件が起つても、文部當局としてこれを放擲しておくというような弱々しい考えをもたしめるということは、私は大局的な見地から考えて、自然な調和を急速に速度的にはからなければならぬという點などから考えてどうであらうか、こういうふうに思うのであります。あくまでも今言われたように、遺憾なことであるが、そういうことは村の輿論が起つてくるのをまつて解決するとか、あるいは村自體の解決に任すとかいう程度で、そういう具體的な行き過ぎた問題に對しても、今後もとられる方針であるか。何らかそこにもつと平和的な意味において、あるいは恩威並び行われるような立場から調和をはかる方法はないもであるか。またはからなければならぬとわれわれは考えるのであるが、一つこれは大事な問題でありますので、伺つておきたいのであります。この事件に關する限りでない、いわゆるこれは廣汎なすべての問題に關係してくるのである。どうもつじつまの合わないような考えがするので、質しておきたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=34
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035・剣木亨弘
○剣木政府委員 教育というものは、私が申すまでもございませんが、やはりあくまで教育的な見地から行つていくべき問題でございまして、取締りとか摘發とかいうような高壓的な手段でなく、心の中から從つてくるような方向にもつていく必要があると考えますので、やはりいろいろな非違行爲がありましても、できるだけ教育者自體が眞に基本法の精神に則つてそれを悟つて、みずからそれに從つていくというような態度になつてまいりますように努めていきたいと考えます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=35
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036・上林山榮吉
○上林山委員 答辯には滿足いたしませんけれども、この點はこれ以上追究をいたしません。次に質問を申し上げたいことは、本法をながめてみまして、私は精神的な面はある程度羅列してあるように考えます。また一面義務教育に非常に重點をおいた點も、よく考えられるのでありますが、よく檢討してみますと、第三條にありますように「すべて國民は、ひとしく、その能力に應ずる教育を受ける機會を與えられなければならないものであつて、」というような點、順序を混同いたしまするが第二條に「教育の目的は、あらゆる機會に、あらゆる場所において實現されなければならない。」こういうようなことが見られるのであります。いわゆる教育の方針と教育の機會均等ということがここにうたわれておるのでありまするが、今申し上げますごとく、精神的な面と義務教育に對する面は、相當これによつて盡されておるように思いますけれども、如何せん最も大事な教育でなければなりませんところの、日本が平和的に、殊に經濟的に起ち上らなければならぬ日本といたしまして、職業教育ないしは生産教育、あるいは科學教育というようなことが、ここに取上げられていないということは、私は遺憾に思うものであります。基本法であればあるほど、私はそれを考えるのである。法案を見てみますと、社會教育、政治教育、宗教教育、こういうような精神的な方面の面は取上げられておる。けれども、今申し上げますごとく職業教育、殊に生産科學、こういう方面の教育をなぜ基本法にこれをうたわなかつたか。往々にして私は文教の府に物足りなさを感ずるのは、この方面の教育が、過去においても日本においてはあまり充實していなかつた。殊に今後は先ほど申し上げますごとく、平和的に經濟的に日本が起ち上らなければならぬ。この際にこの一項が脱けておるということは、私は遺憾に考えるが、これはいかなる理由によるか、これをカバーする方策として、いかなるものをもつておられるか、この點を承つておきたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=36
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037・辻田力
○辻田政府委員 お答え申し上げます。ただいまの御意見は、まことに御もつともと存ずるのでありますが、この教育基本法におきましては、いろいろ重要な教育を全部網羅するということはできませんので、その骨子となるものを特に摘出いたしましたためと、もう一つは憲法に關係しておる事項につきましてきめますために、特に科學教育、生産教育、職業教育というものの項目を出さなかつたのであります。しかしこの第一條教育の目的の中の「眞理と正義を愛し」というようなことは、これはもちろん科學的な方面から見る眞理ということを包含されておるのでありまして、われわれといたしましては、この第一條の目的の中に、科學教育の必要であることも十分含まれておると存じておるのであります。それからなお生産教育、職業教育につきましては、これはやはり非常に重要な事柄であります。われわれといたしましては、第一條の「勤勞と責任を重んじ」と、教育の目的の重要な要素の中に「勤勞」ということを入れまして、ここから生産教育、あるいは職業教育というものを導き出していきたいというふうに考えておるのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=37
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038・上林山榮吉
○上林山委員 解釋としてはいろいろ解釋もつきましよう。しかしながら先ほども申し上げますごとく、これは日本の大問題であります。しかも教育憲章ともいうべき基本法に、そういう大きな問題を取扱わなかつたところに、私は文部當局のこの方面に關する過去の習慣が、今日なお殘存しておるんだ。こういうふうに考えるので、この點は遺憾でありますが、別途にこれらの方面に對する具體的な積極的な御方針を今後おとりになることを希望いたしまして、この問題はこれ以上追究申し上げませんが、この際特に私質しておきたいことは、勞働基準法を見てみましても保障をされていないのでありますが、職業教育と關連しますところの、殊に勤勞者青少年諸君の教育に對する機會均等が十分に與えられていない。勞働基準法をながめてみても、その面が保障されていないかのごとく私見うけるのである。この教育基本法によつて、勤勞青少年諸君にいわゆる教育の機會均等を與えられてるような何らかの處置を、文部當局としては考えておるかどうか。私どもは働きながら自己の人格の完成と技術の錬磨を期して、そうして日本の平和的建設に起ち上らんとしているこれらの青少年諸君に對する文部當局の考え方が、まだ徹底をしていない。もちろん、一方、英才教育というか、あるいは貧困にして學資のない諸君に對するいわゆる教育の助成というか、本年は相當こういう方面にも豫算を組んでいることは、私も諒とするのでありますけれども、この基本法の中に、勤勞青少年諸君に對する、働きながら勉強できる機會を與えてやるというような箇條が見當らないことを、これまた物さびしく私は考えるのであります。何によつてこれを補わんとせらるるのであるか、その方針をお尋ねいたしておきたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=38
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039・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 この點は基本法中においては特に條項を設けなかつたのでありまするが、やがて提出せらるべき他の法案におきましては、十分考慮いたしておるつもりでございます。働きながら學ぶ者のためには義務教育を了えました後において、高等學校に進む便宜を與えたいと考えまして、高等學校にはいわゆる定日制、パート・タイム、夜學を設けることにいたしておりますし、なお通信教授その他によりまして、向學の一念に燃える貧困な學生のために、でき得る限りの努力をいたしたいと考えておるのでございます。なお先ほどもお話のありましたように、育英會の事業を相當擴張をいたしまして、この方面において良好なる結果をあげたいと期しておるのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=39
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040・上林山榮吉
○上林山委員 私はこれで打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=40
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041・江川爲信
○江川委員長 永井勝次郎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=41
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042・永井勝次郎
○永井委員 本論にはいります前に、一應お尋ねいたしておきたいと思うのであります。本日ここに提案されておりますものは教育基本法だけでありますが、この教育基本法だけをもつてしては、今後における教育の方向というものを明確につかむことはできないのであります。それでこれとともに、あるいは學校教育法、あるいは教育行政法、そういつた諸般の問題が具體的にこの基本法に基いて出てくる。具體的な法案と並んで、そうしてその全貌を把握するのでなければ、教育全般に對する方向を明確につかむことはできないのでありますが、これに基く諸般の教育法案は、いつお出しになる考えであるか。またそれをどういう取扱いにおいてなされる考えであるか、これを承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=42
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043・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 ただいまお話の學校教育法は、既に樞密院に御諮詢に相なりまして、小委員會を一昨日通過いたしましたので、明日は樞密院の本會議にかけられることと思います。近く本會議に上程せられる運びに相なると存じます。なお第二にお話の地方教育行政法、これも文部省の案は既に成つておるのでございまするが、關係各方面との折衝などもございまして、未だこれを上程する運びに至つておらぬのでありまするが、文部省といたしましては、でき得る限り早くこれを上程いたしたいと考えておるのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=43
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044・永井勝次郎
○永井委員 そうしますと、これに基く教育諸法案は、今議會に全部お出しになる考えでありますか、伺います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=44
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045・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 全部とは參りませんのでありまするが、ただいま申し上げましたもののごときは、ぜひ出したいと考えておるのであります。殊に學校教育法はぜひとも法律の形でもつてこれを施行したいと考えておるのでありますが、御承知の六・三案のごときものは、ぜひともこの四月一日から實施いたしたいと考えておるのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=45
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046・永井勝次郎
○永井委員 これらの法案は教育審議會にかけまして、相當愼重審議せられた原案であることは、これを認めるのでありますが、また議會といたしましても、かくのごとき大きな、重大な教育の一つの轉換を規定する法案につきましては、十分に審議する機會をもちたい、もたなければ、怱忙の間にこういうものを決定することはできないと思うのであります。相當な時間があり、相當な研究の機會が與えられて、そうして今後日本の指向すべき民主革命の、民主主義國家の基盤となるべき、その根本となるべきこれらの問題の審議の機會を、われわれは十分に與えられなければならないのでありますが、この教育基本法にしましても、明日の午前中にこれをあげてしまわなければならないというように、時間的に差迫つた條件のもとに審議が要求されております。さらに今樞密院に審議され、またまだその運びにさえ運んでいないという法案が、これからこの短い議會に提案されて、そうしてわれわれにこれをうのみにするような條件のもとにおいて要求せられるということは、われわれ議會といたしましては、非常に重大な問題であると考えておるのでありますが、これらに對して文部當局はどのようにお考えになつておられるのであるか。そうしてこれらの法案に對する取扱いに對して、今後もしこの議會において十分な審議の機會がないといたしますならば、これは臨時的な措置として、さらに後刻新しい議會において十分にこれらの問題について檢討する機會をもたせようとするお考えでもあるのかどうか、その點を一應承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=46
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047・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 この短い議會にこれを提出いたしましたことは、まことに遺憾であります。實はかように短い議會とは、われわれ最初においては考えなかつたのであります。しかしながら、與えられた期日は短いのでありまするが、その間に十分愼重な御審議を願いまして、日本は新しき民主主義國家、平和國家の建設のために雄々しく起ち上つておる、最善の努力を拂つておるということを、世界に知らしめなければならぬと考えており、念願いたしておる次第でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=47
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048・永井勝次郎
○永井委員 念願とか希求するところと、實際とは、非常な食い違いでありまして、われわれ非常に怱忙の間にかくのごとき重要な問題を審議しなければならぬということを、はなはだ遺憾とするものであります。
第一にお尋ねいたしたいことは、第一條の教育の目的についてでありますが、ここには「教育は、人格の完成をめざし」とありまして、そうしてその人格の完成を充たすその内容はどういうものかということが「平和的な國家及び社會の形成者として、眞理と正義を愛し、個人の價値」云々とずつと書いてあるわけでありますが、人格の完成の内容としての説明に、「眞理と正義を愛し」ということをぽつんとここに一つ出してきておる。この文化理念の一部だけをここにつまみ出してきて、特に強調しておるということは、これは特殊な意味があるのか。また文化理念一般に對するその他の眞、善、美、正というようなものの内容は、どういうような取扱いにおいてこの中に含ましめていこうとするお考えであるのかその點をお伺いしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=48
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049・辻田力
○辻田政府委員 お答えいたします。第一條の教育の目的は、人格の完成をめざすということであります。人格の完成ということは、當然眞、善、美を兼ね具えた人格の完成ということを考えるのであります。しかし今日において特に強調し、從來の缺陷等からみまして、矯正すべき重要な點が多々あります。その中から最も重要と考えられます點をあとに引出してあるのでありまして「眞理と正義を愛し」ということは、從來ややともすると、こういう點について遺憾な點が多かつたのではないかということから、特にこれを強調しておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=49
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050・永井勝次郎
○永井委員 條文の體裁としても、また教育の目的というような大きな分野から考えましても、このような取扱いは、何となく兎の糞をぽつんぽつんと並べてあるような感じで、非常に内容が粗雜であるというような感じを受けるわけであります。さらに「勤勞と責任を重んじ」とありまして、非常に個人的な人格の完成という點に重點をおいてあるが、今後の日本は從來最も缺けておつた國際的な協調、國際的な廣さにおける人格の完成というような廣さをもつた人格の陶治が、最も重要な點ではないかとわれわれは考えるのであります。審議會においては、承るところによりますと、最初勤勞とか協和とかいうふうに答申してあつたのでありますが、その協和ということは、もちろん國際的な廣さにおいての基礎をもつのでありますから、大變結構なことだと思つていたのでありますが、その協和が責任という個人的な人格の方向に小さく切替えられたということは、そこにどういう意味があるのか、この勤勞と協和という廣い人格の完成の立場が責任というような小さな分野に狹められたということに對して、特殊な意味がありまするならば、この場合承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=50
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051・辻田力
○辻田政府委員 お答えいたします。今お話がありました通り、教育刷新委員會におきましては、勤勞と協和を重んずるということになつておりましたのを、勤勞と責任を重んずるというように直したのであります。これは協和ということについて、適當でないからというわけではありませんが、現在の情勢におきまして、勤勞を重んずるということと、また一方に責任を重んずる、この責任というのは、單なる責任ということではなくて、責任を重んじて仕事をやつていこうということとは非常に重要なることであります。また關連性も非常にありますので、勤勞と責任を重んずるというように直したのであります。しかしただいまお話のように協和、平和ということにつきましては、また非常に大切なことであります。そこで「平和的な國家及び社會の形成者として」という字句を特に存置しまして、この「平和的な」ということは、社會の方にもかかりまして、社會はこれは單なる小さな社會というのではありませんで、國際社會ももちろん包含するのであります。なお前文におきまして、非常に狹い國民を育てていくということではありませんで、第二項のところで「普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす」ためというふうにうたいまして、普遍的にして、世界的、一般的な、協和的に廣い視野のもとに文化を進め、創造していくということをうたつたのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=51
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052・永井勝次郎
○永井委員 御承知の通りに憲法の第二十七條には「すべて國民は、勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」こう明確に規定されておるのであります。この勤勞の權利と義務というものは、憲法において明確に規定されておるのであつて、ここに特につまみ出して協和を責任とすりかえるというほどに、この責任というものと協和というものとの字句の内容について、當局がこういうような取扱いをしたということについては、今の御答辯以外に大きな一つの社會情勢に對する考え方がこの中に潜んでおるのではないかということを、われわれは心配するわけであります。この責任というものに對して特に、たとえばストであるとか、勞働組合であるとか、あるいは自主的の組合の起ち上り、そういう行動というものに對して、何らか制約するような、これを排撃するような思想を潜在せしめたところの内容をもつものではないかということを、われわれは考えるのであります。これに對して明確な御答辯を煩わしたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=52
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053・辻田力
○辻田政府委員 協和という文字を除きましたのは、最初申し上げたような理由でありますが、これは平和的國家の形成者としての大目的があるのでありまして、そこに十分協和という精神が盛り込まれておると感じておるのであります。なお協和を責任と直したということにつきましては、これはただいまお話がありましたような、勞働組合の發達についてどうこうというような考えは、全然ございません。その點ははつきりいたしておきます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=53
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054・永井勝次郎
○永井委員 次は第二條に移ります。教育の方針の項でありますが、この教育の方針は「教育の目的は、あらゆる機會に、あらゆる場所において實現されなければならない。」これだけでこの條文というものは全部言い盡しておるのである。そのあとの「この目的を達成するためには、學問の自由を尊重し、實際生活に即し」云々とずつとあることは、これは教育の目的の所に入れるべきものであり、目的の項において十分盡されておるのであつて、これは蛇足であると思うのでありますが、これに對するお考えを承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=54
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055・辻田力
○辻田政府委員 お答えいたします。第二條は、第一條にあります教育の目的を完全に達するために、どういうふうな方針で教育が行われなけばならないかということについて述べた事項でございますが、最初に「教育の目的は、あらゆる機會に、あらゆる場所において實現されなければならない。」と申しますのは、これは言わば形式的の面からこれらの目的を達することについての方針でありまして、この目的を達するためには——この目的と申しますのはこれは教育の目的であります。教育の目的という意味でありまして、教育の目的を達成するためには、以下これは内容と申しますか、實質的の方面から教育の方針を述べたのであります。從つて實際兒童、生徒、學生を教育する場合に、それぞれの學校の程度等によりまして、學問の自由を尊重するという點に重點を置く場合にも、また實際生活に即するという點に重點をおく場合にもそれぞれあろうと思いまするが、また「自發的精神を養い」ということにつきましても、生徒、兒童、學生が、上から與えられる、上から授けられるということだけでなしに、生徒自身の自發的な精神から、教育を受ける、學問を學ぶというような態度を養成したいという意味で、内容的な實質的な方面から後段の方については述べたのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=55
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056・永井勝次郎
○永井委員 次は第三條の教育の機會均等についてであります。大變これは結構なことでありますが、教育の機會均等についてここに掲げたような條文を書くことが、これが重要なのではなくして、この教育の機會均等をいかに實行するか、この教育の機會均等に裏づけになるべき財政的基盤、あるいは經濟的な基礎、こういうものがここに掲げられた條文のような教育の機會均等を、ほんとうに實行できるかどうかということを分岐する重要な點であります。單に文章をここに書いただけでありますが、この教育の機會均等を眞に實現するための財政的な基盤について、當局はいかに考えておるか。これをいかに具體的に、眞にここに掲げた内容を實行する確信と用意があるのかどうか。用意があるとするならば、その内容に關しまして、具體的な御説明を煩わしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=56
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057・辻田力
○辻田政府委員 お答えいたします。この第三條は、第一項の前段におきましては、教育の機會均等の本質を述べ、次に人種、信條、性別以下は、これは教育を實施する上におきまして、こういふうな事項によつて差別をされてはならないということをうたつたものであります。入學の際、あるいは入學の後の教育實施にあたつての問題を、すべてここに包含しておるつもりであります。次に第二項におきまして、特に能力があるにもかかわらず、經濟的理由によつて修學困難な者に對しましては、奬學の方法を國及び地方公共團體において講じなければならないのであります。これにつきましては現在も行われておりますが、一層義務教育におきましては修學奬勵ということの方面に力を盡したい。また義務教育以外の教育におきましては、育英事業を擴充いたしまして、その徹底を期するようにいたしたいと存ずるのであります。また育英事業の擴充につきまして申しますると、既に昭和二十一年度におきまして前年度の約五倍に當る千七百五十一萬圓の事業費を出しておりましたが、ただいま議會に御審議を煩わしております昭和二十二年度におきましては、さらに本年度の五・四倍に當る九千六百萬圓の事業費を計上いたしております。またこれによりまして奬學を受ける者は昭和二十一年の十一月末現在におきましては一萬八千九十八名に上つたのでありますが、二十二年度におきましては現在の約六倍というふうになります。すなわち人數で申しますと十萬七千五百五名というような計算になつておりまして、この方法を擴充して第三條第二項の精神を貫いていきたいと存じている次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=57
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058・永井勝次郎
○永井委員 この倍數の計算からだけ考えますと、非常な財政的な膨脹、あるいはここにウエイトを非常に置いているというようにも考えられますが、從來わが國では、ほとんど教育の機會均等というようなことに重點をおいて、教育というものを考えなかつた。ただ、ほんとうに貧窮者で困つている者にだけ、救濟的な意味においてこれを扱つていたという實情であります。教育の機會均等を眞に國家なり地方公共團體が實行するということになれば、相當從來の考え方とは違つた立場において、積極的な助長政策をこれに傾けなければならないわけであります。殊に敗戰後におけるわが國内の經濟事情といふものは、非常に困窮な状態にありまして、失業者の計算だけでも一千萬を下らないであらうと豫想されているような状態であります。こういう、食つていくにさえ事缺くような人たちが、非常な數において、非常な早さにおいて擴大されているときに、眞にこれらの人たちの子弟を教育する機會の均等を與えるというためには、政府は思い切つた政策をとるのでなければ、これは必然に畫に描いた餅に終つてしまうのであります。教育に積極的に投資する金というものは、やがてあるいは救濟事業として、あるいは不良兒なり、あるいは感化院の方の豫算として、あるいは刑罰の面におけるいろいろな經費として拂う。そうした教育の機會を與えられないで轉落していく國民の將來のことを考えるならば、それを双葉のうちにつまみとつて、それらの人を國家の有用な材として活用するための投資としての豫算ならば、思い切つてやらなければなりませんが、國全體のパーセンテージから見ても、教育に對する考え方というものはほとんど考えられていない。殊に第九十議會の豫算總會における大藏大臣の教育に對する考え方というものは、今日の日本は教育のことなど考えている餘裕などないのだというようなことを答辯いたしまして、これは失言であるというので、いやいやながら取消しはいたしましたが、これは大藏大臣の本音を吐いたのでありまして、取消したのは單に對外的な、あるいはこの抗議に對する取消しであつて、本音はそこにあるのでありますから、國の豫算においても問題にならないほど教育というものは虐待されているのであります。この教育の機會均等ということを空文に終らしめないためには、政府、殊に文部當局はこれを主管する官廳といたしまして、特にこの點を重視しなければならぬ。それで文部當局の査定では、眞に能力をもちながら經濟的事情によつて就學の機會を與えられない者の大體の數字、あるいはこれに要する諸經費というものを、どのくらいの見當に見ているのか、承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=58
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059・辻田力
○辻田政府委員 ただいまお尋ねの計數につきましては、これは後刻お答えすることにいたします。ただいまお話のありましたように、教育の機會均等につきましては、文部省としても最も大切に考えておりまして、從つてこの教育の方針の次に第三條に特に掲示した次第でございます。これは今後とも十分にその線に沿うていきたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=59
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060・永井勝次郎
○永井委員 どうか單に教育の機會均等についてのサンプルがあるというだけではなしに、それが實際に運營されるところの機關であるように、十分に御努力を願いたいと存じます。
次は第四條でありますが、ここに「國民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。」とこう書いてあるのでありますが、この「國民」というのは、私は「國家」の間違いではないかと思う。國家はその保護する子女に九年の義務教育を受けしめる義務がある。「義務」ということで結ぶならば、「國家は」としなければならぬし、上の方を「國民」といたしますならば、下の方は「九年の普通教育を受ける權利がある」と、こうしなければならないのではないか。國民が義務を負うというようなことはおかしいのではないか。こう思うのであります。それが第一點であります。
それから第二項の「國又は地方公共團體の設置する學校における義務教育については、授業料は、これを徴收しない。」こう書いてありますが、御承知のように憲法の第二十六條には「ひとしく教育を受ける權利を有する。」そうして「義務教育は、これを無償とする。」こう明確に規定してあるのであります。無償で一切義務教育をやるのだということが、憲法に規定してあるにもかかわらず、ここには單に義務教育については、授業料は徴收しないのだという、非常に消極的な、内氣な、遠慮がちなことを書いてあるのでありますが、こんなことを書かないでもつと積極的に、義務教育は一切無償でやるのだということが書けないものか、伺いたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=60
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061・辻田力
○辻田政府委員 お答えをいたします。第一の點でございますが、これは御指摘の通り新憲法二十六條を受けて、憲法の内容を裏づけてそれぞれの國民の立場から書いたわけでありますが、國民の立場から權利があると同時に、また九年の普通教育を受ける義務教育を負うというふうにしたのであります。第二項におきまして、憲法第二十六條第二項に「義務教育は、これを無償とする。」とありまする「無償」を授業料に限つた理由でありまするが、これは各國の立法令等も十分研究いたしましたが、わが國の財政上の都合、その他を考慮いたしまして、今日においては授業料を徴收しないことを、憲法の「無償とする」という内容にいたしたいということにいたしまして、ここにそれらを明らかにした次第でございます。なお國によりましては、一部分教科書とか、あるいは學用品とかその他のものを給與するとか、支出するとかいうふうな所もありますが、それについてはわが國の現在の事情としては、授業料を徴收しないというところあたりにしておいて、將來また國力が囘復するに從つて適當なる方法を講ずればいいのではないか、かように考えております。なお國家が地方公共團體におきまして普通教育を受けさせる義務を國民に負わせまする以上、これに對しまして適當なる施設を設け、その義務を完全に果すことができますような措置をとることは、當然でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=61
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062・永井勝次郎
○永井委員 次は義務教育の普通教育の九年ということでありますが、今までの教育制度のもとにおきまして、國民學校を卒り、あるいは高等小學を卒つた者は、青年學校において十八歳までこれを義務制としていたのでありますが、今度の改正によると、普通教育九年だけが義務教育である。そうすると年齡の上から申しますと、義務教育年限というものは、新しい制度においてはかえつて低下である。逆轉である後退であるということが言えると思うのであります。それから醫學的、あるいは生理的ないろいろな實驗の報告に基きましても、あるいは學校教育における體育的あるいは心理的ないろいろな方面における實驗におきましても、少年期から青年期に體質の變換する年齡というものは大體十七歳である。從つて義務教育というものを押えていくならば、この心身の成長の少年期の期間である滿十六歳というところに線をおいて、そうして滿十六歳まではこれを義務教育の制度にするということが必要である。それ以上になりますると、まだ心身が少年期にある者が、青年期にある者と一緒に寄宿舍にはいるとか、いろいろな學業あるいは日常生活の行動を共にするというようなときに非常なギヤツプができてくるのではないかと思うのであります。それでさらにこれを九年という義務制度を一歩進めまして、義務教育を十年として、そうして心身ともに少年期である滿十六歳の期間を押えて義務教育にするというような、十六歳と十七歳の間に線を引くというお考えはないかどうか、これを伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=62
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063・剣木亨弘
○剣木政府委員 義務教育は何年を適當とするかということにつきましては、生理的、もしくは心理的な研究をもちまして、一定の年齡期を劃して、ある理想をもつということは、もちろん必要なことであると思いますが、一面義務教育の年限を定めます場合におきましては、わが國現在の國力の状態と併せて考えなければならないと考えられます。今般義務教育を九年に定めましたことは、刷新委員會におきまして、相當專門的な意見もお聽きになつて、隨分論議された上に一應決定されたことだと思いますが、これも醫學的もしくは生理的には、なおもちろん論議の餘地があることだと思います。しかし一應この程度までをもちまして、現在の國力の状態からして、義務教育を九年といたしますことを、適當であると判斷されたのであろうと考えます。それによつて今囘は義務教育の年限を九年に定めたのでございます。なお青年學校につきましては、御説の通り今までは男子は滿十八歳までが義務教育となつておつたのでありますが、女子はこの制度はなかつたのでありまして、今この義務の者をもし十八歳までいたすとすれば、男子と女子と兩方合わせてこの義務教育を實施しなければならないのでありますが、現在のわが國の財政の状態からして六三の九年の義務教育を實施することですら、非常に實は困難を感じておるのでありまして、これをこの際十八歳まで義務教育を家施するということは、きわめて實現が困難であると考えられますので、まず六・三の九年を實施いたしました上で、將來國力の許す範圍におきましてこれの延長をはかつていきたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=63
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064・永井勝次郎
○永井委員 六・三制に對する豫算の支出でありますが、これはいきなり六・三制全部を義務制にするのではなくして、その一年次からやつていくのでありますから、その豫算の支出は學年の完成をまつて増嵩していくので、第一年次はその一年次の豫算だけを支出すればよいように考えるのであります。でありますから、たとえば滿十六歳まで一年義務制を延長いたしたにしても、その完成期の將來をまつて支出するのでありますから、そのころまでには日本の財政も漸次立直つてまいるでありましようし、また立直らないにしましても、わが國が文化國家として立つていくには、教育をおいてはないのでありますから、その基盤となるべき教育に、國が豫算の大部分を支出しても、教育の完成を期していくという方向に努力すべきであると思いますが、これはその程度にいたしておきまして、次は第五條、男女共學でありますが、ここに男女共學と特に取上げて、こういうようなことを書くということは、これは少し變ではないか。憲法にも性別はないのだということを既に規定しており、さらに第三條においては教育の機會均等ということがうたわれておるのであります。男女共學ということは、從來の關係から言えば、教育の機會均等の中にはいるべきものであつて、ここに特に取上げて男女共學という一條を設ける必要はない。ここに男女共學という一條を認めて特に書いたという根本の思想の中には、男女の差別感に立つた一つの男女共學、こういうような思想が根本にあるのではないか、こう思うのであります。從つてここにおけるところの男女共學というものは、男女を共學にしなければならぬということに對する道徳的な理由を書こうとするので、基本的人權の確立という、そうした本質的なものに立つての男女共學ではない。道徳的な理由によつてここに男女共學を強調しよう、こういう思想の分裂がここにあるのではないかとわれわれは見るのでありますが、これに對して、特にここに男女共學を強調した一條を取上げた理由と、その根底における思想的な流れというものに對しての御見解を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=64
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065・辻田力
○辻田政府委員 お話の通り憲法第十四條の精神をここへもつてまいります場合に、基本法第三條の教育の機會均等に一應包含されるわけでありますが、從來、男女別學といいますか、分學と申しますか、男女共學というようなことについて、あまり考えられておらなかつたし、また非常に男女の間に差別的な取扱いが行われておりましたので、この際特にこの男女の平等という、差別をしないという立場からいつても、また一方には今後一層民主的な平和的な國家を建設していきます場合に、特に男女が互いに協調し協力し合わなければならぬ。これを教育に生かす場合に、共學というような方法で行われるのが最も適當であるというふうに考えられまして、ここに非常に大切なことだと認めまして、これを特筆したわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=65
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066・永井勝次郎
○永井委員 次は第六條でありますが、ここに「法律に定める學校は」としてありますが、この法律で定める學校というものはどういう學校であるか。どういうわくはめをここにするのであるか。その内容を具體的に一つお示しを願いたいと存じます。それからこの法律で定める以外の學校ですが、これは廣汎に認め、自由にこれをさせるということが必要であろうと思うのでありますが、これに對する見解を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=66
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067・剣木亨弘
○剣木政府委員 お答え申し上げます。基本法で申します「法律に定める學校」とございますのを承りまして、近く御審議を得る豫定でございます學校教育法に、この法律に定める學校とはと定めまして、はつきり法律で定める學校を限定いたしたのでございます。それは、小學校、中學校、高等學校、大學、盲學校、聾學校、養護學校及び幼稚園、これだけのものを法律で定める學校といたしまして、この學校教育法では大體今申し上げました學校に關する各種の事項を規定いたしたのでございますが、この教育法の中で、ただいま申されましたようなこの學校に定めていない學校のことにつきましても、雜則をもつて觸れているのでありまして、相當これは教育法によるような各種の制約を受けませず自由に設立することのできるように規定されているのでございますが、ただ教育事業でありますから、やはり最小限度の監督というようなものを地方長官に認めているのでございます。結局法律で定める學校とそうでない學校という二つの考え方でまいつているのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=67
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068・永井勝次郎
○永井委員 そういたしますと、たとえば勞働組合あたりで經營します勞働學校であるとか、あるいは各政黨において設けられるところの、それらの政黨の主義主張なり、あるいは政黨の發達のために必要なそういう教育を施すというような學校、こういうものは廣汎に自由にこれを認める方針であるかどうか。そうして、もしこれが認められるとすれば、一定の檢定なり何らかの制度を設けるとか、あるいは授業時數を計算するとか、そういうような方法によつて、法律で定められる學校への結びつき等も考えられるかどうか。そういうことに關する關係を承りたいと存じます。たとえば、地方において、農閑期にミシンの短期の學校をやる。そういうのがいろいろな女子教育の方の法律で定める學校の方へ結びつくことができるかどうか。そういう點について承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=68
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069・剣木亨弘
○剣木政府委員 もちろんただいま申されました勞働學校であるとか、政黨で建てますような學校というものは、この學校教育法に準ずるところの學校ではございませんが、自由に設立していい學校でございます。これと他の正規に認められた學校とのつながりの問題でございますが、これは大體今度の法律の建前といたしましては、六・三・三・四の學校教育制度というものは、はつきり原則的にしていきたい。この法律に定める學校といたしましては、できるだけこの原則は守つていきたいという氣持が強いのでありますけれども、ただ、上級學校の入學、たとえば高等學校であるとか大學への入學の資格につきましては、そういつたような、いわゆる各種學校を出ましたものも、一定の、この規定で申しますと、監督廳の定めるところによりこれと同等以上の學力ありと認められた場合というのがございまして、これにあてはまるような場合がございますれば、その上の學校への入學資格は各種學校でありましても認められるわけでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=69
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070・永井勝次郎
○永井委員 その點について、その場合、その資格あるということは、學校に對して資格を認定するのであるか、個人の實力に對して認定を與えるのであるか、その點をちよつと伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=70
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071・剣木亨弘
○剣木政府委員 現在のところでは、學校に對する認定という制度は考えておりません。大體そういう場合は本人に對する試驗の方法とか、そういつたような方法で同等以上と認めることになるかと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=71
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072・永井勝次郎
○永井委員 次にここにあります教員の身分の問題でありますが、教員の身分をどういうような取扱いにするか。官吏に優先するという考えであるかどうか。それからその場合、教員組合はどういう取扱いをするのであるか、これを承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=72
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073・辻田力
○辻田政府委員 はなはだ失禮でございますが、官吏に優先するという意味がちよつとわかりませんですが、この法律の定める學校の教員は公務員的な性格をもつております。それで新憲法の第十五條に「すべて公務員は、全體の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」という言葉がありますが、法律で定める學校の教員は、全體の奉仕者であつて、一部の人の奉仕者でないという意味を裏に含んであります。そうして教育者としての自己の使命を自覺してその職責の遂行に努めなければならない。これは前段におきましては教員の性格といいますか。本質を明らかにして、またその向うべきところを明示したわけであります。次にはこういう大事な仕事に携わつておられる方々であるから、この方々に對しては身分が尊重され、待遇の適正が期せられなければならないというふうに、これは國なり公共團體なり、その他の教育行政に當る者等の考うべき途を示したのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=73
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074・永井勝次郎
○永井委員 そうしますと、教員はほかの公務員と同樣な取扱いであるが、本質的に特に尊重せらるべき使命をもつているということは、特別な身分上の何か規定をされるのであるか。あるいは教員の身分法というようなものを用意されておるのであるかどうか伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=74
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075・辻田力
○辻田政府委員 教員刷新委員會の方におきましては、教員の身分を尊重され、待遇の適正を期せられなければならないという點から出發されまして、教員の身分たとえば今お話のありましたような教員の身分法についても、御研究中でございます。また文部省自身におきましても、身分が尊重され、待遇の適正が期せられるために、どうしたらいいかということについて、日夜心をくだいておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=75
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076・永井勝次郎
○永井委員 文部當局の考える身分の尊重というものの内容には、教員をある一つのわくにはめて、このわくの中にあるのが教員らしい、教員としてのあり方であるというような、一つの大きな制約をつけるのが常套手段でありまして、たとえばストをやることは教員の身分として不適當であるとか、あるいは罷業權というものが、勞働組合法においても、憲法においても認められているのであるが、教員の立場に對してはこれを制約するとか、尊重するという言葉は結構でありますが、尊重するという理由に隱れて教員の身分を制約して、そうして文部省が頭で考えておる一つのわら人形のようなもの、あやつり人形のようなもの、そういう教員の型をつくり出そうというような考え方が、考え方の内容として潜在しておるのではないかと思うのであります。もちろん教員は一般公務員と同樣な扱いにおいて特別な權利も與えられないが、特別な一つの制約も受けない。そうして教員は教員としての身分使命は自ら一般公務員とは違うのでありますが、それは教員の自覺と責任と、それから教員組合その他の團體的な一つの自助練磨によつて、運營においてそれを期していくということをすればよろしいのであつて、法的にこれを制約する必要はないと考えるのでありますが、これに對する文部大臣の所見を承りたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=76
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077・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 文部省の一定のわくに入れていくというような考えは、毛頭もつておりません。またかくのごとき方針をとつていこうとも考えておりません。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=77
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078・永井勝次郎
○永井委員 それならば別に教員の身分法というようなものを出す必要はなかろうと思います。教員の身分法に對するお考えを承ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=78
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079・辻田力
○辻田政府委員 お答えいたします。教員の身分法につきましては、ただいま申しますように、刷新委員會において教員の身分を尊重され、その待遇の適正が期せられるということを目標として、目下御研究中でありまして、文部省で身分法を必ずつくりますということを申し上げたことはないのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=79
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080・永井勝次郎
○永井委員 その身分に對して特別な立法をするかどうかということに對する所見を伺つている。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=80
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081・剣木亨弘
○剣木政府委員 現在教員の身分につきまして、放つておきますと、教員は私立學校を除きまして全部現在のところ官吏であります。從つて官吏法によつてたとえば一級とか、二級、三級の區別がありましたり、いろんな一般官吏と同樣の官吏法上の制約を受けるのであります。そこで教育者としての身分上一般官吏と異つた一つの根據が要るのじやないかというようなことが、考えられるのでございまして、いわゆる教員の身分というものは、現に官吏である限りにおきましては、官吏と同等の制約を受けていいのかどうか。やはり教育上何らか別個の教育者に該當すべき法規が要るのじやないかということにつきまして、現在文部省としては、いろいろ研究しておるのでございます。しかし別個の身分法を出すかどうかということは、まだ確定いたしておりませんので、目下まつたくいずれともつかない研究状態にございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=81
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082・永井勝次郎
○永井委員 給料をもつて生活するという立場において、教員も同樣に一つの勞働者であります。從つて一般勞働者と同樣な立場において、同樣な權利と義務の下にその身分が保障され、そうして教員としての特殊な使命というようなことが、本質的なものではなくして、教員自身の自主的な修養なりあるいは自制によつてこれが十分運營せらるべきものでありますから、これは自由に放任してそうして從來の教員にあつたような一つのわくにはまつてしまつて、十年教員をやれば、もうつぶしのきかぬ人間になつてしまう、世の中から遊離した架空な一つの教科書の解説者に過ぎないというような存在にならないように、なまなましいこの現實の社會に身をさらして、いろいろなことを體驗し、いろいろなことを取入れて、いろいろなものに觸れて、そうして教育者という人格を通して教壇から兒童にいろいろな生きた教育ができるように、實際的な教育のできるような、そういう自由な身分を教員に保障することが、私は必要であろうと思うのであります。そういう點について、十分に當局の一考を煩わしておきたいと思うのであります。
さらに教員の再教育の問題をどうするかということであります。教員は薄給の中に生活しているために、本も十分買うこともできない。學校の中における圖書館のごときものも、ほとんど見るべきものがない。單に自分が學生時代に學んだ知識に體驗が加わつて、惰性的にずつと一生教員をやるというような状況が、これが多くの場合の實情でありまして、五年も十年もやつておると、まつたく司法官のごとく化石してしまつて、血の通わないような、子供の童心に觸れ、少年、青年の血の氣の多い血潮に觸れて、感激的な教化の實をあげるというようなことができにくい状態になつておるのであつて、こういう教育基本法を設け、學校教育法を設ける教育の大きな革命的なこの時代において、今後の教育に、はたして的確な教育者であるかどうかということに對しては、非常にわれわれは心配しておるのでありますが、この教員の再教育については、思い切つた徹底した方法を當局においてとらなければなるまいと思うのであります。單に形式的な一週間か十日の講習會を開くというようなことで、事足りるということではいかぬと思うのであります。たとえば元の師範學校の卒業生に對して、師範學校が專門學校になつたからといつて、一週間か十日の講習會を開いて、その講習を終るとそれで專門學校を卒業した資格を與えるというような、形式的なことをどんどんやつておるようでありますが、あんな再教育のやり方ではいかぬと思う。そこで徹底したやり方をしなければいかぬし、國が小さくなり、生活が困窮してくれば、ますます物の考え方に雄大な思想をもち、毅然たる氣宇を養えといつたところで、なかなかこれはできないのでありますから、今後においては國際的な知識も教員としてもたなければなりませんので、平和が囘復したならば教員のごときも相當の旅費を與えて、大陸なり世界の各地に視察旅行させる。また國内はもちろん、いろいろな教育あるいは修養の機會を與えて、それの十分にできるような措置を講じなければならぬ。それには相當な豫算も要るわけでありますが、これらに對して、當局は教員の再教育についてどんなお考えをもち、どんな方針をもち、そうしてこの革命的な新しい教育の場において教員の資質の改善と向上を、どういうような方途によつてなさろうとしておるか、この點を承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=82
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083・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 再教育の問題につきましては、文部省といたしまして目下考究に努めておるところでありまして、これを徹底させるにつきましては、豫算も少からず必要とするところでありますので、今日もただいま二時間ほど前まで、大藏大臣と折衝をいたしておつたのでありまして、大藏大臣もこの點に非常に理解をもち、同情をせられまして、私の申すところに耳を傾けられておられたのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=83
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084・永井勝次郎
○永井委員 次は第七條の社會教育についてであります。ここにもありますように、家庭教育なり、職場教育なりあるいは社會教育、特にこの面に從來は缺けておるのでありまして、教育といえば學校教育だけのような實情にあつたのでありますが、働きつつ學ぶ、あるいは子供の時からのしつけというような、また一生を通じての研究的な、あるいは學問的な零圍氣の中において實務をとるというような、そういう状態をつくり出すことが、きわめて必要なので、その意味における社會教育というものは、非常に重要になつてくるわけでありますが、それにはここに書いてありますように、ただ何によつて奬勵されるというようなことだけではいけないのでありまして、これは裏づけとなるべきところのものはもちろん經濟的のものでありますが、一體當局は社會教育一般の振興の基礎となるべき經濟的な諸問題について、どういう具體的な方策をもつておられるかそれを伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=84
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085・柴沼直
○柴沼政府委員 ただいま社會教育關系の經費に關してお尋ねがございましたので、來年度豫算として御審議を煩わしておりまする部分について申し上げたいと存じます。社會教育關係の仕事は、御指摘の通り從來非常に經費が少のうございまして、たとえば職場教育等のことにつきましても、ほとんどゼロに近い状況であつたのでありますそれで來年度以降につきましては、この方面のことにつきまして、新たにわれわれの方といたしましては、第一に地方の自治生活に關連した公民館の育成の問題を一つあげる。これに對しまして約六百萬圓足らずの經費を要求しております。第二には學校を利用する、いわゆる講座類の教育でございまして、學校擴張と申しまするか、學校に本來の生徒を收容する以外に、一般社會に門戸を開放する事業でありますが、これにつきましても約百五十萬足らずを要求いたしております。そのほかに學校擴張の中に職場の部方も含めておりまして、産業講座等のことを、相當程度やつてもらうつもりであります。これは金額は來年度は二十三萬圓程度の要求に相なるのでありますが。これをでき得れば中央組織である組合の協力を得て實施してまいりたいというので、寄り寄りその向きの方々と御相談をいたしております。大體そういう状況に相なつております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=85
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086・永井勝次郎
○永井委員 お話を伺えば伺うほど心細くなつてきて、問題にならないと思うのでありまして、かけ聲だけでなしに、眞にこれらの事柄が現在の日本の實情に照らして、社會教育の振興は特に強調し急速にこれを實現していかなければならない状況にありますので、一段の御奮鬪、御奮發を願います。また豫算がなければないように、その豫算をいかに效果的に運營していくかという點についても、御一考を煩わしたいと存じます。ただ形式的だけの官制はいけないのでありまして、圖書館のごときも、圖書館の形をつくつてくだらない本を列べて、圖書館がいくつできたというような、數字的な統計だけで社會教育が振興したというように思つたらいけないのでありまして、建物はなくても、眞に青少年一般に讀書されるような、利用されるような圖書を用意することが必要でありましようから、豫算がないならばないように、その運營の面において十分に一つ御努力を願いたいと存ずるのであります。
次は第八條の政治教育でありますが、ここに「良識ある公民」こういう言葉があるのであります。良識ある公民とはどういう公民であるか、これをお示し願いたいのであります。次に「特定の政黨を支持し、又はこれに反對するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。」こうあるのであります。それは學校教育の活動として、こういうことをしてはならないということはわかるわけでありますが、たとえばここに教員が政黨を支持する、あるいは學校生徒が一つの研究機關をもつ、あるいは一つの自分の政治的信念に基いて、その主張を徹底するために政治活動をするというような事柄に對して、ここにある條文とそういう實際的な行動面との限界點を正確にどういうところにおいて、どういうようにこれを區分してお考えになつていられるのか。その分野をひとつ明確にお示しを願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=86
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087・辻田力
○辻田政府委員 お答えいたします。
まず第一に「良識ある公民」でありますが、これは教育基本法の前文では「人間」というふうな言葉を使つてございますし、第一條の目的のところでは「健康な國民」というような言葉を使つておりますが、この場合におきましては、特に政治教育に關する事項でありますので、政治的な觀點から國民をながめまして「公民」という言葉を使つたのでございます。「良識ある公民」と申しますのは、以上のようなことでございます。
それから第二の法律に定める學校におきます政治教育その他の問題でありますが、これはただいま御指摘を受けましたように、學校自體が特定の政黨を支持し、またはこれに反體するための政治教育その他政治活動をしてはならない。こういうのでございますが、學生、あるいは生徒につきましては、年齡によつて、ある一定の年齡に達しますならば、個々において政治的活動をすることはもちろん許されておることであらうと思います。また教育者側におきましても、その教育者が國民として一つの政治的活動をなさるということは、別に止めておるわけではございません。學校全體として、こういうふうな活動をしてはならないという意味でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=87
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088・永井勝次郎
○永井委員 そうしますと、學生、生徒なり、あるいは教職員というものが、公的な教育活動を通してしない限りにおいては、もちろん制約すべき性質ではないのでありますが、その區分というものは、そういう解釋において了解して差支えないのでありますか。これは重要なことでありますから、ひとつ明確にお願いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=88
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089・辻田力
○辻田政府委員 さようでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=89
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090・永井勝次郎
○永井委員 次は第九條の宗教でありますが、御承知のように憲法には信教の自由は何人に對しても保障する。そうして何ら宗教に對して特權を與えないということが規定しておるわけであります。しかるにここには「宗教に關する寛容の態度及び宗教の社會生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。」憲法には國家的な特權というものは與えないと言つてあるにかかわらず、ここでは教育上宗教を尊重するということを言つてあるのでありますが、これは憲法に違反する條項ではないか。この點をひとつ伺いたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=90
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091・辻田力
○辻田政府委員 第九條と憲法の第二十條との關係でございますが、これは第九條の内容をお説明申し上げますとよくおわかりくださると思いますが、宗教に關する寛容の態度」というのは、宗教を信じておる者相互における寛容の態度を包含することはもちろんでありますが、そのほかに反宗教者、無宗教者に對する寛容の態度ももちろん包含されております。宗教に對すると書かず、「宗教に關する寛容の態度」と書きましたのは、要するにそういう意味でありまして、憲法の第二十條信教の自由は何人に對しても保障するというのにも矛盾せずに、むしろ強調したものだと存じておる次第であります。
次に宗教の社會的地位ということでございますが、宗教が社會生活の上においてこういう地位をもつておるということを、知識的に説明するだけでありまして、これは憲法第二十條の信教の自由を保障されることについて矛盾しないものと存じておる次第でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=91
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092・永井勝次郎
○永井委員 宗教に反することを許さぬという條項が含まれて、そういうことをしてはいけないという思想が内容となつているのじやないかということを考えてみたのでありますが、御答辯によるとその通りであります。宗教でも、ある時代においては墮落し腐敗することもあり得るのでありまして、そういう墮落し腐敗した宗教に對しては、これを排撃し批判し、これを肅正するためにいろいろ運動なり、あるいはそういう批判をするということは自由であり、また最も健全な方法でなければならぬと思うのでありますが、この墮落していく宗教に對して、反對してはいかぬ。そうしてその社會上の優位を認めなければいけないということはおかしいじやないか。そういうことを規定するということは不當ではないかと私は思うのであります。惡ければ惡いように批評すればよろしい、反對すればよろしい。そうして宗教というものは國家的庇護のもとにおいて、あるいは社會上の優位を認められて、その上に立つて宗教活動をするということは、これは宗教そのものの本質から見ても妥當ではなし、そういう庇護のもとにおいてやるということ自體が、宗教の權威というものをかえつて失はせる。宗教は宗教として何ら國家的庇護や地位を保障されるものではなくて、信仰をそこに集中していくというところに宗教としての權威があると思うのであります。これを墮落した宗教でも社會上における地位は保障する、尊重するというような思想がこの内容にあるとすれば、この條項というものは相當重大なものであると思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=92
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093・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 お答えいたします。宗教に關する寛容の態度は、教育上これを尊重しなければならない。宗教の社會生活における地位は教育上これを尊重しなければならないというより、むしろ重點は寛容の態度に置かれておるのでありまして、宗教の社會生活における地位を尊重していかなければならぬ。その地位を特に重んずるというのでなくして、その地位がいかにあるかということを重要視していかなければならぬ、こういう意味に解釋すべきものと考えております。この法案成立の歴史を申しますると、最初はむしろ宗教的情操の涵養を説くということになつておつたのでありますが、かくのごときものは改めたらよいだろうという意見が強くなつてまいりまして、そうしてここには、特に宗教に關する寛容の態度を尊重しなければならぬ。かくのごとく改められた次第でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=93
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094・永井勝次郎
○永井委員 次に教育行政の問題でありますが、ここに「不當な支配」ということがありますが、「不當な支配」ということは、具體的にはどういうものを指すのであるか。それから國民全體に對して直接に責任を負ふということは、具體的にはどういうことであるか。そうしてこの教育行政については、もちろん地方教育行政法が出るようでありますが、文部省においては内務行政から離れた文部省の直轄行政を目途として計畫を立てておられるのであるか。もしそうだとするならば、その進捗状態はどうであるか、その具體的な實現の見透しはどうであるか、どういう構想であるか、その具體的な内容を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=94
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095・辻田力
○辻田政府委員 お答え申し上げます。第十條の「不當な支配に服することなく」というのは、これは教育が國民の公正な意思に應じて行はれなければならぬことは當然でありますが、從來官僚とか一部の政黨とか、その他不當な外部的な干渉と申しますか、容啄と申しますかによつて教育の内容が隨分ゆがめられたことのあることは、申し上げるまでもないことであります。そこでそういうふうな單なる官僚とかあるいは一部の政黨とかいうふうなことのみでなく、一般に不當な支配に教育が服してはならないのでありましてここでは教育權の獨立と申しますか、教權の獨立ということについて、その精神を表わしたのであります。
次の「國民全體に對し直接に責任を負つて行われるべきものである」と申しますのは、さればとて、教育者が單なる獨善に陷つて、勝手なことをしていいということではないのでありまして、教育者自身が國民全體に對して直接に責任を負つておるという自覺のもとに、教育は實施されなければならぬということを徹底いたしますために、まず教育行政上において教育自體のあるべき姿をうたつたわけであります。なお第二の點といたしまして、教育行政に關する法律についての御質問でありましたが、これは教育刷新の委員會におきまして御意見の御開陳がありまして、それによつてわれわれとしては研究しておりまするが、なおそれぞれ關係筋ともいろいろ打合せして研究をしておるわけでありますので、今ここではつきりとしたことを申し上げることは許されないないのでありますが、大體におきましては市町村とか都道府縣という所に教育委員會を設けて、その民主的な教育委員會において教育行政が運營されるというふうな考え方でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=95
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096・永井勝次郎
○永井委員 次は教育勅語の問題でありますが、前田中文部大臣は、教育勅語の取扱いについては、形式的にはこれは適當ではない。しかし内容的には別に惡い所はない。ただ解釋が間違つていたのであるから、内容は今の民主的な時代において民主的な解釋をすれば、この内容で十分である。從來のは曲解していたのである。こういう意見を持しておられたのでありますが、この教育勅語に對する文部省當局の御見解は、前田中文部大臣のお考え通りだとわれわれは了承してよろしいのであるかどうか。この點を文部大臣から承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=96
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097・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 私も教育勅語とこの教育基本法との間には、矛盾と稱すべきものはないのではないかと考えておるのであります。しかしながら徳教は時勢とともに變化するものでありまするので、既に先ほども一言いたしましたように、明治二十三年に發布せられましたところの勅語が、今日におきましてはなおこれに補足しなければならぬ點もはなはだ多いでありましようし、いろいろこれにつきまして國民の間に疑問の抱かれておる點もあるでございましようし、先ほどもお話のありましたように、惡用せられ曲解せられたというような點もあると考えますわけで、これはわが國の教育上における、きわめて重要な意義のあつたところの勅語といたしまして、これを留めるということにいたしまして、諸學校においては捧讀いたさないことにいたす。こういう考えでおるのでありますが、決してこれに盛られておる思想が全然誤つており、これに代るに新しいものをもつてするという考えはもつておりません次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=97
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098・永井勝次郎
○永井委員 大分時間も經過しましたので簡單にお尋ねしますが、ずつと今までいろいろ質疑をいたして伺つたのでありますが、わが國の民族再建の基盤は教育にあるわけでありまして、この教育がどのようなあり方と、どのような具體的な内容をもつて實際に運用されるかということが、今後の日本が再建されていく性格なり方向なり、その内容なりを規定すべき重要な問題であると私は思うのであります。從つてこの基本法の中には、最初文部大臣が言われたように、教育の憲章としてわれわれはこれを一讀するときに、人間としての、民族としての新しい勇氣というものが、血の沸くような、そういう一つの感激というものが、この中からとられなければならないと思うのでありますが、これをずつと通覽して、一應そういう民主的な方向へ到達するような條文が全文にあるかと思いますと、その後段には必ずしかしながらというようなことで、一定の制約が常に全文を通して置かれておる。この一定の制約というものは、その時その時の政治情勢なり、あるいは支配的な力の動きによつて、その解釋が、二、三になり、その限界が右に左に動くわけでありまして、これが常に保守的な一つの力のよりどころとなるわけであります。われわれはすつきりしたこの條文のもとにおいて、裏も表もないこの方向にまつすぐに進めばよいものだ、その他のことは高きヒユーマニズムによるところの人間としての高い教養によつて、そうして自主的にこれらの問題を解決していけばよろしいのである。私たちはそう思うのでありますが、この内容においては一定の制約が嚴として置かれて、常に保守的な力の一つのよりどころになろうとする危險性を多分に包藏しておるということを、われわれは非常に憂慮するものであります。要は條文の字句や内容がどうであるかという吟味も必要でありますが、問題はこれを運營していくことに重點が置かれるのでありまして、この教育基本法を萬全に運營していくためには、その基盤となるべき教育財政の問題が、一番大きな問題になつてくると思うのでありますが、現在の段階では繪に畫いたぼた餅に終りそうでありますので、この點については十分に文部當局も力をいたしていただかなければならぬと思うのであります。また制約に對しても、これを一つの保守的な力のよりどころとすることなく、十分に好意的に、善意的に解釋して、個々の自主的な知性にまつという、廣い自由な天地を與えるような運營にしていただきたいと考えるわけであります。なおいろいろ質問したい點もありまするが、時間が長くなりましたのでこの程度にして終りますが、教育の實があがる、あがらないは、教育者にあるのでありまして教育者が現在のような貧窮を實に陰慘な生活のうちにありましては明るい闊達な教育活動というものはどうしても至難であります。待遇が團體協約によつて一應まとまつたといえども官吏やその他一般のいろいろな勞働者の待遇關係から見ますと、比較にならないのでありまして、出張にしても、視察旅行にしても、滿足な旅費はほとんど貰つていないので、打切り旅費によつて、少い旅費のうちを、さらに少く貰つている。夏季休暇などに出張しても、あるいは講習會に行きましても、どんな木賃宿にも泊れないような旅費でありまして、友人なり親戚の家に轉がり込んで、肩身を狹くしてその講習の期間居候のような生活をしなければ、講習會にも出られないという待遇の状態に置いてあるということは、いかにこういう立派な文章をつくつてここで審議いたしましても、實行の上におきましては全部これが死んでしまうわけでありますので、教育財政教育施設に對する一層の熱意と、教員の待遇に對する一段の努力ということが、今後に課された文部省の仕事であると存ずるのでありますから、この點に對しては十分一つ御努力あらんことを希望する次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=98
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099・江川爲信
○江川委員長 中田榮太郎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=99
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100・中田榮太郎
○中田委員 簡單に三、四點お尋ねいたしたいと思います。先ほどから二名の方からそれぞれお話がありましたが、新憲法を眞に國民の間に活かすその力となるものは、何といつても教育であり、そのもとを示すものが教育基本法になつておるのであります。憲法の實施、公布については、いろいろ普及等の案があつて着々進行せられておるのでありまするが、同時にこの教育基本法についても、かような點について何か思いをいたされてしかるべきものと思うが如何。大體憲法は國で言えば、國民の方向を示す大きな骨組、大きなかじを示してくれたものであるが、これを實際に活かすようにするのは教育の力で、つまり帆にはらむ風の力、あるいはろかいの力というものが、一面から言つたならば、この教育基本法にあると思うのであります。これについてお考えを承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=100
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101・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 ただいまのところでは全國を八地區ほどに分ちまして、この趣旨を徹底させるように努めたいと考えておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=101
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102・中田榮太郎
○中田委員 これにつきましては前二人の御質問の通り、相當これに對してしつかりした根據のあるところをお示ししていただきたいと思います。
次に從來教育上の法令などは、昨日大臣のお話の通り勅令または省令という形で出ておる。これがために多くの教育者はただその勅令の解釋、吟味ということに沒頭いたしておりまして、進んでいかなる法律をつくればいいか、創造的な、自主的な態度をとることができなかつたのであります。これが今日一般教育者に自主性が乏しいとか、あるいは積極、創造性が十分でないというような原因の一つになつておると思つておるのであります。かような意味合いにおきまして、國民にわれらがつくつた法律であるという感じをもたせるために、この議會に勅令の形ではなくして、法案として上程されたということは、非常に結構なことであり、特に重要法案として樞密院の審議を經られたということも、まことに私は喜ぶべきことであると思つておるのであります。つきましては今出されました教育基本法のほかに、學校教育法、また學校の法人法とか、あるいは教育行政法、さらに教員身分法といつたものが、今後いずれも法案の形になつて上程されるものであるかどうか。あるいはこれを出すに時日がないから、とりあえず勅令の形にしておこう。刷新委員會の審議も經ておるのであるからして、勅令の形にして出さねば時日の關係上困るから、そうするのだというようなお考えであるかどうか。われわれといたしましては、すべて法案の形で上程していただきたいと思つておるのであります。この點についての御所見を承つておきたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=102
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103・辻田力
○辻田政府委員 お答えを申し上げます。先ほど大臣からもお話がありましたように、學校教育法案につきましては、近くこの議會に上程していただきまして、御審議を煩わしたいというふうに思つておりますが、そのほかの學校法人法とか、あるいは教員身分法その他の法案につきましては、それぞれ關係筋とも今いろいろ相談をしておりますし、またそれを法律でいくか、勅令でいくかということにつきましても、われわれといたしましては、できるだけ議會の御協賛を經、法律によつてやりたいと思つておりますが、種々の關係もございますので、目下考究中でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=103
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104・中田榮太郎
○中田委員 この點は特に要望申し上げておきます。次に教員身分法に關連した問題であります。ここに第六條「教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。」こうありまするが、昨今全教組關係が特に文部大臣と協約を結ばれまして、既に調印をせられた。その内容の詳細は知るに至りませんけれども、新聞等に現われておりますところによれば、はなはだ結構なところまで進んでおると思つておるのでありますが、しかしこれはややもすれば單に經濟上の問題ばかりでなしに、さらに進んでいろいろな方面にまで及ぶのでありまして、人事問題に關連いたします。從つて人みなおのおのの思想をもつているものでありますから、その間に單に經濟上の待遇以外に、何ものか、あるものがその協約の建前から現われてきはしないか、かような感じをもつのであります。なお端的に申し上げますれば、この教育の諸法案に關する問題までに及んでくる。協約の性質から言えばそういう工合になるような形になつておるのでないかということを、私は懸念をもちますから、お尋ねをする次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=104
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105・剣木亨弘
○剣木政府委員 全教協及び教全連の教員組合と文部大臣との間に先日勞働協約の調印をいたしましたことは、事實でございます。その内容につきましては、教員の給與その他の勞働條件の改善ということを主たる點といたしまして、その他教育上の全般にわたりましても、いろいろ文部大臣と今後協議を續けていく意味におきまして、協議會を設けるということにいたしまして、大體教員の考えておるところ、希望しておるところは、多少とも聽取し、お互いに話合つていくことができるようなふうに規定いたしております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=105
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106・中田榮太郎
○中田委員 あの協約は相當微に入つておるようでありますが、もしあの協約があの調印された通りずつと實行されていきますと、今そこに考えておられるところの教員身分法などというものは、ほとんど必要のないもののようにも考えられるが、この點いかがでありますか。つまりそれでいくのではないか。せつかくつくつても、その法案が必ずしも力をもつたものになりはしないだろうという感じをもたれるのでありますから、お尋ねする次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=106
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107・剣木亨弘
○剣木政府委員 今囘結びましたのは、現に教員身分法を文部省が考えておりますと同時に、最近、二月一日のゼネストにはいりかかつた、これのいわゆる教員組合の鬪爭態勢を速やかに解かれまして、一日も早く本務に歸るということを希望いたしましたので、早急にこの協約を締結して、これをひと片づけしたというのでありまして、從いましてその契約期間は六箇月の非常な短期間になつておりますし、また現在教員の身分に、よるべきいろいろな基礎的なものがございませんので、そういう法律がきまりますれば、もし契約が存續いたしておるとしましても當然それによつて修正さるべきものは修正されることになると思うのでございますし、身分法との關係は、全然身分法ができましても差支えないものと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=107
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108・中田榮太郎
○中田委員 次に、これも根本理念に關連してでありますが、教育勅語をあのように渙發遊ばされるにいたしましても、その當時のわが國の思想界の状態からいつて、あるいはキリスト教の教義によるべきか、また佛教の教えによるべきか、あるいはわが國古來の神道の示すところに何か得るものははないか、さらに儒教の教え云々というように、渙發をされるそのもとにおいて、こういうよりどころについてのいろいろ御軫念があつたことは、お互いによく承知いたしておるのでありますが、ともかく教育勅語としてわれわれは今日まで奉じてきておつたわけであります。ところがその後歐米の思想がいろいろな形になつてわが國に氾濫輸入されたのであります。あるいはアメリカの民主主義、實用主義というものがはいり、あるいは理想主義がはいつてくる。またさらにルソーあたりの自由主義というものがはいつてきた。いろいろと歐米の思想がはいりまして、その時にわが國の教育の根本理念について、それぞれみな檢討し、あるいは疑いをもち、あるいは動搖しかけたこともあつたのであります。その後、どうしても日本古來の精神によらなければならぬというので、いわゆる日本思想に根本をおくところの日本教育、こういう思想が強くなりまして、はなはだしきに至りましては、神ながらの道、あるいは國粹云々というようなところまできたのであります。さらに一方軍部からのいろいろな要望のためにまたそこに教育原理にまで影響を及ぼしてきたのであります。さらに終戰後アメリカの厚意ある教育使節團が參られまして、今日までいろいろの忠告があつたのであります。しかるところへ新憲法が出まして、しかもここに教育基本法というものが出てきたのでありますが、こういうような今日までの歴史をもつているのに對して、この教育基本法は實はこういうところに最も力強く根據を置いているのである。この前文の建前からいえば「憲法の精神に則り」とあるのでありますが、とにかくこういう點について、實はこういう點にこういう工合でよつてきているのであるとか、あるいわ、わが國の現状から總合してこう考えたのであるとかあるいは、單に憲法に示されたところによつてわれわれはこの基本法を制定したのであるとか、この點についての御見解を承つておきたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=108
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109・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 教育勅語の中には、多分にわが國の古來の道徳並びに支那傳來の道徳思想がはいりこんでいると考えます。しかしながら、むろんこれらのものは今日といえどもあえて排斥すべきものではないのでありますが、その後に至りましてはいつてまいりました泰西の教育並びに倫理の思想、これらのものを十分に取入れまして今囘の基本法が立案せられたのであります。あたかも米英流の憲法思想がこのたびわが國におきまして新しい憲法が制定せられる際におきまして、多分に取入れられたと同樣であると申すことができると考えます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=109
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110・中田榮太郎
○中田委員 これに關連いたしまして、最初に申し上げました教育基本法の精神普及ということと併せまして、どうか、學校の先生ばかりでなく、國民全體の納得のいくようなところを、ひとつ平易にお示しをお願い申したいと思つているのであります。次にお尋ね申し上げたいことは、勤勞者の教育の問題であります。これを具體的に言えば、十五歳以上の、いわゆる高等學校のパートタイムに相當する、在來の青年學校相當のものでありますが、これは、示されました勞働基準法には、こういうものが工場等に雇われておつて、勉強したいといつても、これを許さぬ、こう言われてもしかたのないような、勉強意欲の強い者に對して、これに一つの制約を加えるような、つまり雇傭者に制約を加えるようなものが勞働基準法にも現われていないのでありますが、これは今せつかく審議中でありますし、この基本法にも現われておらぬとすれば、せめて勞働基準法にでも表わして、學ばんとする者が話合いの上で、雇傭者が少くともこれを妨げないというような、勤勞青年に對する情のかかつた條項のようなものをお入れになる考えはないか、どうかこの點を伺うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=110
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111・剣木亨弘
○剣木政府委員 この點は御存じのように滿十五歳を過ぎました勤勞青年に對する教育という問題につきましては、刷新委員會におきましても、非常に御論議がございまして今申されましたように、この勞働基準法に、使用主の方におきまして十八歳までの使用者の勉強を妨げてはならないという規定の方法と、それから十八歳までの期間の一定の普通教育を施ししまして、これに對して義務とするという制度、この二つの點が論議されたと承つております。これを實際上この學校教育の方にいかにもつてまいるかという問題でございますが、今六、三の九年まで義務教育を實施いたしますということそれ自體が相當困難でありまして、これを十八歳まで年限を延長するということも、非常に困難でございます。それでさしあたりはまず九年を義務制にしまして將來におきまして大衆青年たるパートタイムの高等學校の義務制ということを考えていこうと、現在考えておるのであります。この雇傭主の方の勞働基準法の方におきましては、いろいろその點についても話もあつたのでございますけれども、實際上この現在の産業情勢特にこの産業の復興の情勢から申しまして、その時間を使用主の方に強制的に無制限に妨げてはいけないということを入れますには、やはりそのもとになつております教育それ自體が、義務制であるということが、どうしても必要のように考えられます。その點につきましてどうしてもこの勞働基準法の方に使用主だけを一方的に制限するという規定を入れることができなかつたのは遺憾でございます。しかし實際上の問題といたしましては、この今までの青年學校の教育が、義務制であるがゆえにやつてきたということでなしに、今後はほんとうに教育の内容から大衆青年を率いてような方向にもつていきたい。こういうので、この新設さるべき高等學校におきましては、その教育内容を相當向上していくように努力していきたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=111
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112・中田榮太郎
○中田委員 この問題につきましては過日公表されました學校教育法のあれの中を見ましても、特に高等學校教育等の高等學校のパート・タイムというものに對する心やりということは、十分に現れてもいない。國民の七割五分ないし、八割というものは非常に失望しておつたかと思つておるのでありますが、なお教育法も出ないわけでありますが、この點について、特に一言を申し上げておく次第であります。
最後に政治教育の點につきまして、先ほどからもお話がありましたが、これは重要な問題でありますから、一言申し上げたいのであります。「特定の政黨を支持し、又はこれに反對」云々とあります。これは結構なことと思つておりますが、實際においては教師がある一黨一派にかたよつた相當極端な思想をもつておる者があると見なければならぬのでありますが、それが一黨一派にかたよつた教育をやつていないで、きわめて公正なる教育をやつておるのだというつことは、どうしてわれわれは見わけるか。また偏した教育をやつておるかどうかということをどをしてこれを取締るか。これはなかなか私は重大な問題と思つておりまするが、一片の通牒とかいうものでは、これはできがたい問題であろうと思つておるのでありまするが、この點について私どもは具體的にこういう工合にこうしていけば大丈夫だという、文部當局としての自信のある案の一端なりとも伺いたいと思つておるのであります。わが國としては眞に重大な状況に目下向いつつあると思うから、これをお伺いする次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=112
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113・剣木亨弘
○剣木政府委員 教育基本法はやはりこの教育に關しまする憲章と申しますか、憲法と申しまするか、そういつたような教育の基本根本原則をここに明らかにいたしまして、教育者のよるべき目標を示したのでございますが、この規定から直ちにこの具體的ないろいろな取締りという問題は、たとえば憲法におけるがごとく同樣の關係があると考えておるのであります。從いまして今御指摘になりましたこの政治教育に對する具體的な意味のこの問題は、要するに各教育者に對しまして、この心構えをもつて教育者に自發的に自主的に、これを良識をもつて決定してもらうことが、第一の目標であると考えます。これに對していたずらに干渉し、あるいは警察的な取締りを及ぼすということは、それ自體が教育上望ましくないことと考えます。しかしなお法律上ここに明定されました、この法の精神に反してなおかつこの法律で禁止せられておりますようなことをやる者がある場合におきましては、やはり教育を分擔します官廳といたしまして、あるいは校長といたしまして、これは具體的にその教師の活動につきまして何らかの制約をするような方法も講じていかなければならぬと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=113
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114・中田榮太郎
○中田委員 この點は大いに激勵してしかるべきものもありましようし、また強く取締り制限をしなければならぬものも事實ありまするが、從來の状況からいえば、一片の通牒くらいでは、なかなかその目的を達成できないものがあると思つておりまするから、この點特にわれわれの懸念を申し上げまして御善處を希望いたしまして私の質問を終ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=114
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115・江川爲信
○江川委員長 伊藤恭一君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=115
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116・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 いろいろお伺いしたり、またわれわれの意見を申し上げたいこともたくさんありますけれども、重複を避けまして、簡單に二、三申し上げたいと思います。平和國家、文化國家建設のために、この教育基本法が提案されましたことは、大變結構なことで、またこれを逐條審議いたしますると、大變よくできておつて、結構と思いますが、ただ私の最もあきたらないと思いますのは、現在の日本の大衆青年というものはことごとく虚脱状態にある。その虚脱状態にあるところの大衆青年というものを、この第三條の教育の機會均等によつて、もつと徹底的に拾い上げていくような方法を講じなければならないということを、痛切に感ずるものであります。實務に從事するところの男女大衆青少年に對しては、普く教育の機會均等を與えまして、これに高等普通教育を施して、その生活の充實豐富をはかり、正しい人生觀を確立させて、その天分の最善を發揮させなければならない°このためには會社だとか、商店だとか、工場だとか、そういうような雇傭主に就勞青年に對する教育の義務を負わせるようにするということが、大切であると思います。これは文部當局のいつもお考えの通りでありますが、どうしても民主主義日本再建のあらゆる施策は、すべて今後は國會あるいは地方議會、あるいはあらゆる機會を通じまして、國民全體が立派な公民としての教養を積まなければならないことは申すまでもありません。從つて今度できまする新制中學のみの教育では、これは十分でない。從つて既に就業しておるところの十八歳未滿の青年に對しても、完成教育としての公民教育を確實に施して、民主國家の公民として恥かしくない素養を受けさせるようにしなければならないことは、これまた申すまでもないことであります。また同時に最近の世情を見ておりますと、堅實なる勞働組合の育成というものは、産業の振興上きわめて切實なる問題でありまして、從つて正しい組合運動の根基をなすものは、これまた大衆青少年の動向いかんにあることは申すまでもありません。實にこれが國家の盛衰興亡にかかるものでありますから、最近におけるわが國の勞働運動の實情、なかんずく青年隊の行動などを考察してみますと、これらの青年の、啓蒙指導ということが、一日もゆるがせにすべからざるところのものであることを痛感します。ゆえにこの勤勞青少年に對する教育の萬全を期するために、雇傭主に對しても、これが教育の義務を負わして、明確に法文化させることが必要であるということを、痛切に感ずるものであります。すなわち勤勞青年の教育の機會均等のため、さきに教育刷新委員會において、これは義務制にするということが、決定せられたにもかかわらず、そういうことにならないということは、われわれいかにも殘念だと思います。でありますから、この教育刷新委員會の決議に基いて、新制高等學校のパート・タイム式のものは、これは義務制になるように法文化することが必要ではないか。そしてこれは同時に勞働基準法の中にもぜひとも公民權獲得以前の年少勞働者に對しては、その就學に便宜を與えるような一條を、挿入することが必要ではないか。こういうことを申すと、先刻も政府のお方が申されたように、やはり財政難ということが一番の根本になりますけれども、しかしながらパート・タイム式のもののみを義務制にするということならば、これまた窮通の途があるということをわれわれ信じます。同時にまた教育の内容によつて青少年に興味をもたせるようにすることが、かえつていいじやないかという、今お話もありましたけれども、これももちろんでありますけれども、現在の實情といたしましては、國民學校の教科書さえも、なかなかない時であつて、國民學校においてもわずかに國語教科書ができるかどうかというようなことであつたならば、これはやはり頭の非常にすぐれた人格のすぐれた教師ならよろしいけれども、教師も子供もやはり一種のサボ氣分のようなことになつてしまうのではないかということが考えられます。そこでこの際はどうしても教科書というようなものに對しては、紙を確保するということが必要である。そういうためには、私は樺太やなんかのパルプ材などがはいらない今日においては、連合國にお願いをして、紙の材料パルプなどをどんどん輸入するように懇請することが必要ではないか。これは結局教科書というものがやはり學校の主食と同じことで、學校の主食に相當するものがすなわち教科書であるということを考えたならば、こういう點についても、教育を確立する上において、大いに努力していただかなければならない。こういうような點について、私は文部當局としてどういうような御準備をなさつておるかということをお伺いしたい。まずさしあたりこれだけを質問いたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=116
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117・辻田力
○辻田政府委員 ただいまお話がございましたように、大衆青年の教育は非常に重要なことでありますので、教育刷新委員會におきましても、この義務制については、非常に論議がありました結果、可決になつたのでございます。しかし實際これを實施するにあたりましては、萬全を期して諸種の準備をいたさなければなりませんが、いろいろな角度からこれを研究いたしました結果、これは非常に結構なことでありますし、また將來しなければならぬのでありますが、現在の段階においては、先ほど他の政府委員から申し上げましたように、財政その他の理由によりまして、非常に殘念であるけれども、多少後年度にこれを繰延べざるを得ないのではないかということになりました結果、ここにありますように、この四條に義務教育として九年の普通教育をいたさせるということで、義務をもたせることにいたしたのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=117
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118・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 やはり經費の問題でありますが、私は昨年の九十議會における本會議におきましても、文化國家建設のための經費というものは、終戰處理費以上のものであるということを、強く總理大臣にも大藏大臣にも申し上げましたが、實に平和國家、文化國家建設のための費用というものは、終戰處理費以上ではないかということを考えまして、それからも絶えず文部大臣、次官の方ともいろいろ交渉しておるわけであります。そういう點について文化國家建設のためには、文部當局としてはもつともつとがんばつてもらいたい。われわれといたしましても、極力努力をいたしております。
そういう點を申し上げたいと思いますると同時に、この第六條にあります教職員の身分尊重、待遇の適正といふことでありますが、この身分尊重、待遇適正ということは、ただ單なる物質上の問題だけでないということを私は痛切に感ずる。精神的の問題を非常に強く考えていただきませんと、これは一方的であるということを考えます。たとえて申しますると、この六・三制の問題につきまして、今度の實施に伴う教員の身分待遇に關する問題でありますが、義務教育として小學校六年新制中學校三箇年の教育を擔當する教職員には差別をつけないで、相互の人事交流をきわめて圓滑にするということが原則である。換言するならば、小學校教員の資格とその初任給を中學校の教職員の資格とその初任給より區別して、前者を後者の下位におくというような、措置をとつたならば、これは百害あつて一利のないものである。教員の養成については、小學校教員を選ぶものは一般教養を主として、選擇科目としての特徴をもたせるようにして、中學校教員を志望するものには、專門教養に重點をおいて、しかも一般教養ももたせるようにしなければ、新制中學校のねらうところの趣旨に反するものであると私は思う。從つてそういうことにしなければ、その教職員の間に非常な不愉快な點が殘つて來る。從つてその教育の效果を期し得ないということを感じます。で、新制中學校實施に伴う臨時措置といたしまして、われわれの傳え聞くところによりますと、今申しましたような理念に背反するような教員養成方法を、文部省は考えておられるということであります。たとえて申しますると、國民學校の本科教員免許状を保有するものに、新制中學校の教員の假免状を與えて任用して、そして後に檢定によつて本免状を與える。なお檢定によつて本免状を取得した者と、しない者との待遇を差別區分するというようなことを聞いておりますが、聞くところのような取扱いがはたして眞であるとしたならば、これは小學校教員、中學校教員というものは、そこに非常な區別ができて、小學校教員はきわめて低級無能のものであるというように、世間からも認められ、小學校に奉職する人たちは非常な卑屈な觀念をもち、そしてその人事交流というものが圓滑を缺き、兩者の教育に緊密な連關を失うということは當然であると思います。でありますからわれわれはこの兩者間の關係上、いろいろ好ましからざる事態を生じないように、やはり精神的に迫力を持つて、大いに自分から自發的に、もうアメリカのごとくに、國民學校であらうが、大學であらうがそれは交流する。こういうような建前のもとに、その資格に差別をつけて精神的に打撃を與えるようなことは、これはよろしくないと感じます。でありますから教職員の正しい適正な待遇というのは、ただ單に物質的なものでなくして、精神的な方面が多分にあることを、大いに考えていただきたいと私思いますが、この點どうでありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=118
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119・稻田清助
○稻田政府委員 ただいま御質問になりました小學校及び中學校の教員資格の問題につきましては、教育刷新委員會におきまして、新たに第八特別委員會が設けられまして、これから審議を進めるわけであります。その結果に基きまして、文部省におきましては、各般の制度その他の問題を考える。こういうような順序に相なつておるわけであります。さしあたり新しく發足いたしまする中學校の義務教育部面を擔任いたしまする教員の資格につきましては、ただいまお話もございましたが、大體中學校教員の免許状を持つておる者、實業學校教員の免許状を持つておる者及び國民學校高等科を擔任し得る方、それから青年學校の教員、非常に廣くその範圍をきめまして、各地方においてそれに必要な人材を集めるというようにいたしておるわけでありまして、今お話がありましたように、その間非常に窮屈なことを文部省の方針として通牒したというようなことは、私どもなかつたと考えております。お話のごとく小學校の先生、中學校の先生、これは本質上決して差異があるべきはずのものではないと考えております。待遇の點につきましても、先般來だんだんと改善してまいりまして、兩者の間に今までの經歴上の差異はございましても、本質上の差異がなくなつて來ておるわけではあります。今後におきましては、この擔任いたしまする學科の性質上、專科擔任教員、あるいはまた、ごく特定科目の擔任というふうに、多少の實質上の相違はありましようけれども、その價値と申しますか本質上の上下の區別はなくなるものかと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=119
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120・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 もう一つお伺いします。師範學校を卒業した者と、青年師範學校を卒業した者との資格でございますが、たとえば青年師範を卒業した者は、全部中學校の教職員の免許状を與える。師範學校を卒業したものは一應與えぬということは、これまた私遺憾と思います。從來からの師範、青年師範という立場を、當局では十分御承知でございましようから、そういう生徒の資質から言いましても、すべての點から言いましてもこの邊などにも差別をつけてはいけないということを私は感じます。これも一つ御參考までに申し上げます。なお先刻社會教育局の方から、承つておりますと、公民館の經費がごく少いように感ぜられましたが、實はわれわれ昨年來いろいろ研究しておりまして、前の政務次官、大臣から承つておつたのでありますが、その當時は九十議會の本豫算はわずかですけれども、それからうんと殖えて、いろいろ寄附などもあつて結局公民館の費用というものは數億圓に達するということを聞いておりましたが、さつきの説明を聽きますと、まことに微々たるものでありますが、その邊は一體どれが眞相でございますか、ちよつとお伺いしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=120
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121・柴沼直
○柴沼政府委員 公民館の補助金として先ほど御説明申し上げた金額は、公民館においていろいろ講座を開きましたり、あるいは協議會を開きましたり、そういう事業に對する政府の補助金なんであります。それから前議會に非常に多額な金額に上るような話があつたというお話でありますが事實公民館はもつぱら町村の人々の自發的な活動をまつて成り立つていきますように政府が上からひつぱるというようなことは一切避けるという方針でやつております從つて實際公民館のために地方の方々が出しておられる經費、あるいは地方の自治體が計上しておる經費は、相當額に上つておるかと思います。現在約一千數百、公民館ができておるのでありますが、それらの經費を合わせましたら、相當な額になるものと思います。もう一つ公民館はただ講義や協議會だけでなく、公民生活の中心の施設でありますので、たとえば農事關係の事業とか、あるいは救濟、厚生の施設でありますとか、そういうものも併せて同じ所に施設することができるようにいたしてございます。そういたしますと、たとえば生活保護法によるいろいろな救濟の施設も、公民館のために使うのではなくて、公民館を通じて使われるという場面が出てまいります。たとえば託兒所をいたすとか、あるいはまた最低の文化生活をさせますためのいろいろの施設をするということが公民館において實施されますと、その經費は合わせて公民館の經費のような觀を呈するので、數億になるという前の政務次官のお話は、そういうことによつて使われる金が數億になるということを申し上げたのかと思います。文部省直接に出します金は至つて少いのでありまして、そういうふうに農村行政、あるいは厚生行政を通じます金額の方が非常に多額になるというのが實情なんであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=121
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122・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 これで質問を打切りますが、この教育基本法、今度の教育行政改革については、一般社會は非常に期待いたしておりますから、これについて文部當局といたしましては、最も適正なる具體策をとつていただきたいと、われわれは切望して質問を打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=122
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123・江川爲信
○江川委員長 本日はこの程度に止めまして、明日は午前十時より開會し午前中に殘餘の質疑を打切りますとともに、討論採決を行いたいと存じます。なお明日は委員室の都合によりまして、第八委員室で開會いたしますから、御諒承をいただきたいと存じます。これにて散會いたします。
午後五時二十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00119470314&spkNum=123
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