1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
付託議案(審査終了のものを除く)
學校教育法案(政府提出)(第三五號)
—————————————————————
昭和二十二年三月十九日(水曜日)午前十時十三分開議
出席委員
委員長 椎熊三郎君
理事 小川原政信君 理事 及川規君
左藤義詮君 上林山榮吉君
庄司一郎君 森山ヨネ君
永井勝次郎君 山下ツね君
伊藤恭一君 松原一彦君
松本瀧藏君
三月十九日委員平川篤雄君辭任につきその補闕として松本瀧藏君を議長に於て選定した。
出席國務大臣
文部大臣 高橋誠一郎君
出席政府委員
文部政務次官 青木孝義君
文部參與官 川崎秀二君
文部事務官 日高第四郎君
文部事務官 剣木亨弘君
委員長の許可を得た出席者
議員 丹野實君
文部事務官 坂元彦太郎君
━━━━━━━━━━━━━
本日の會議に付した議案
學校教育法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=0
-
001・椎熊三郎
○椎熊委員長 これより會議を開きます。この際委員諸君に一言申し上げておきますが、前會本案に對する審査方針並びに日割を決定いたした通り、質疑は本日をもつて終了し、明日は討論採決を行う豫定でありますから、十分お含みの上、御精勵のほどを願つておきます。それではこれより前會に引續き質疑を繼續いたします。伊藤恭一君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=1
-
002・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 第一にお伺いいたしたいのは、新制中學校の設立についてでありますが、新制中學校の設立につきましては、第四十條の規定により、第二十九條の條文に基いて、各市町村に新制中學校を設立するということを原則としておることは、もちろんでありますが、しかし施設費あるいは學級數並びに學科擔任制によるところの教員數の關係等によりまして、小さな村などでは困難を生ずる場合もある。從つて第三十條の規定によつて組合立になる場合があるということはこれは當然でありますが、しかしいかに小さな村といえども、その施設その他にきわめて熱心で、全村民の盛り上る熱意によつて、あくまでも自分の村に新制中學校の獨立したものを建てたいという念願に燃えるところの村にあつては、たとえ小さな村でも、當然これを許容してよろしいと思うのでありますが、その點は文部當局の御見解はどうでございましよう。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=2
-
003・日高第四郎
○日高政府委員 まことに御同感でありまして、むろんつくることが建前なのでありますから、何ら異存はございません。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=3
-
004・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 そういうことでいきますと、かりに文部省の案では、大體一學級に教職員を一・八人とか二人とかいう案のようでありますが、學科擔任制にしますと、小さな學校などでありますというと、學科擔任制ができないというような場合もあつて、學力が低下するというような懸念もあるというようなことから、地方行政官などは多少こだわるような點があるらしい傾向がちよつと見受けられます。そういうことはやはり本省としての見解をはつきりしていただきまして、たとえて申しますと、そういうような村には大學專門學校出身者が相當數ある。であるからして、講師であろうが囑託であろうが、そういうことで學科擔任制のことについては少しも懸念がない、また學力低下するというような懸念もないという確信をもつてやるということであつたならば、これは今、日高政府委員のお話のような工合に、もちろんこれは許容していいと思いますから、その邊はひとつお含み願つて、その點は地方教育行政當局に、誤解のないようにしていただいた方がいいかと思いますから、申し上げます。
それから第二番に、われわれは昨年の本會議以來、教育權の確立、教育行政の獨立ということをたえず主張しておりますが、それにつきまして、從來地方の教育行政の首腦者が、内務行政の内務官吏であつたために、どうもそれが自由にいかないというような意味から言いまして、この際内務行政と切り離して、文部省一本で行かなければならぬ。同時にまた何と申しましてもやはり財政ということに拘束せられますからして、この際大藏省との關係を圓滑にするとともに、また一方におきましては、教育權獨立の立場から言いまして、教育税を設定するという方がわれわれはいいということを絶えず考えておりますが、これについて文部當局の御見解、なお政府としての將來の方針——われわれといたしましては、ぜひともそれを實現したいということを極力努力するつもりでありますが、その邊について内務關係の方もいろいろ複雜な關係もあるようで、多少の摩擦もあるようでありますけれども、しかしこれはぜひともそういうふうに實現するような工合に、議會を通じても、あらゆる方面に努力いたしたいとわれわれは考えますが、その邊はどうお考えでありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=4
-
005・剣木亨弘
○剣木政府委員 お答えいたします。まことにその點は文部省としてはまつたく御同樣に考えておるのでございまして、教育の財源を確立する意味におきましは、何らかの確定した財源を欲しい。その意味におきまして、教育税といつたようなものを考えまして、その實現に努力いたしたいと考えております。しかしわが國の税制の全般から申しまして、ある目的税を創設するかどうかということは、わが國租税制度の根本に關する問題でございまして、この點はやはり大藏省その他におきましても、相當反對はあるものと考えておりますけれども、何らかそういつたような財源を確保する意味におきまして、今その研究を進めておるのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=5
-
006・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 これにつきましてはいろいろの關係がございましようけれども、どうしても文化國家建設ということになりましたならば、教育權の確立と、教育行政の確たる獨立ということを要することは當然でありますからその點につきましては、將來とも十分にひとつ實現をはかるように御努力を願いたいということをお願いいたしたいと思います。
第三番目には、新制中學校の實現につきまして、現在各府縣にありますところの中等學校は、多數は新制中學の方になつて、そのうちの若干が高等學校に昇格するということも想像せられますが、なお大學設置というようなことにつきましても、これまた十分にはきまつておらぬようでありますが、各府縣に大體どのくらいの高等學校を設置するというようなお見込みでありますか。大學もどの程度かということをお答え願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=6
-
007・日高第四郎
○日高政府委員 初めに高等學校のことを申し上げておきますが、高等學校は現在の高等學校と名稱は同じでございますが、性格は相當違つたものになります。簡單に申し上げますと、高等の普通教育を授けるのと同時に職業教育をも加味したような學校でなければならない。そういう點で、從來の高等學校がまつたく大學の豫科といつたような性格をもつておりまして、たくさんのうちの、ごくすぐれた者だけが拔擢されてはいつているというような性格でありましたが、今度はもつと範圍の廣い、もし財政や經濟の状態が許すならば、一般に義務教育としてもいいくらいな程度に廣い收容力のある學校でなければならないというふうに考えております。從つて高等學校の數も相當殖えなければならないのではないかというふうに考えております。現在の中等學校がみんな高等學校になるとは限りませんけれども、現在の中等學校の充實したいいものは、高等學校になり得るように措置いたしたいと考えております。もつとも高等學校の設置に、つきましては、最近に高等學校の設立準備委員會というものをつくりまして大體の規格を定めて、その物さしによつて現在の中等學校の中の適當なものを、高等學校に轉換し得るようにしようと考えております。數の上から言いますと、現在の中等學校よりは少いかと思いますが、相當多數の高等學校ができる豫想でございます。それから大學につきましては、既に昨年の秋から大學設立基準設定委員會というものができておりまして、一般的の基準はきまつております。それをさらに小委員會を三つつくりまして、一つは文科的の大學の基準、一つは理科的の大學の基準一つは女子の大學の基準というふうにきめまして、それを今小委員會で檢討中でありますので、おそらく今年の六月ごろには大體結論が出るかと思います。その結論が出ましたならば、それをできるだけ公表しまして、そして國土計畫、地方の産業文化の状態その他とにらみ合わせまして、これもできるだけ公平妥當を期するため、信用のある委員會をつくり、その委員會の知慧を借りて、現在の專門學校及び高等學校の中の適當なものを配分して、大學に昇格させる方針であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=7
-
008・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 府縣における高等學校の程度は、もちろん教育刷新委員會の案もありますし、ただいまお話になりましたような意味でありまして、現在の中等學校の昇格するものが大多數でありましようけれども、なお地區的に考えまして、やはり從來の專門學校たとえば高等工業に當るようなものとか、商業にあたるようなものをぜひ建てたいというような希望もずいぶんありますが、それなども財源の關係もありましようが、そういう場合には政府としてできるだけその地域の熱望に應えるようなふうにしていただきたいというようなことから、希望でありますけれども、お願いいたしたいと思います。
それからその次にお伺いしたいのは今度の教育基本法並びに教育法案には出ておりませんけれども、教育刷新委員會の案によりますと市町村には教育委員會、府縣にも中央にもそれを置く。それにつきまして昨日の御説明によりまして、結局その學務委員會というようなものを強化して、教育の民主化をできるだけはかつていくということは、當然であります。なお刷新委員會などの案によりますと、結局これに教職員の任命權までもある程度附與するというような案であるようでありますが、これは教育の民主化をはかる、特に今までの官僚獨善式の人事異動ということでなしに、大變結構なことであると思いますが、同時にまたその半面におきましては、そこにまたいろいろな情實というようなものが織りこまれてくるというような弊害も考えられるのであります。從いまして人事異動などにつきまして必ずしもたれしも考えていい方へばかりいかないのは當然であります。惡いのが半分、よいのが半分というのが當然でありますからそれで大變よく待遇せられた方の者はよろしいけれども、そうでない者はそこに非常な情實ができてきます。そういうことになりますと、この教育委員會に全面的に人事異動權を附與するということは、これは一方から言つたならば、歪曲せられるような弊害も考えられる。そういうことを考えますときに、當局といたしましては、この教育委員會に人事異動權を附與するという場合には、よほど愼重に考えていただかないと、教育の民主化をはかることは大變結構なことでありますけれどもかえつてそのために混亂するような場面が出てくるのではないかということを考えますが、その邊政府としてはどういうふうにお考えになつておりますか、お伺いいたしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=8
-
009・日高第四郎
○日高政府委員 今の御注意はもつともと存じますが、實は教育委員會のようなものの案を文部省ももつておりますし、關係方面でもそういうことを非常に推奬いたしているのであります。決議機關というものと執行機關というものとの考え方が、われわれとは多少違つておりますので、そういうところに十分な了解を必要と感じております。從來の日本の考え方でいきますと教育委員會というものは議決機關であつて、執行機關ではないように考えるのであります。執行するものの專横を掣肘し、また執行の内容を公正妥當ならしめるための機關のようにわれわれは考えているのでありますけれども、歐米ではあるいはそうでないかと思われるような話があります。教育委員會そのものが執行機關であるような考え方も、相當あるようであります。しかしこれは日本の行政機關及び議決機關の全體との連關において、なるべく現在のものから遊離しないようにして、しかも民主的な機關にしたいということを、私どもは考えておるのであります。これについては、なお先ほどもお話のありましたように、内務省の一般的行政機構というものと、教育行政機構というものとが全然離れてしまつても、また弊害がありますし、そうかといつてくつつき過ぎてしまつて、從來のように下積みになつてしまうのも困りますので、その邊のところは相當交渉研究の餘地があると思いますが、御注意の點は十分考慮いたしてやりたいと思つております。
それからなお念のために申し上げますが、新學校制度實施準備案内というのに、これは官制できめられておりませんけれども、教育についての協議會といつたようなものをつくつて民主的にやつたらどうかということを推奬してございますけれども、これは一つの標準的の案として推奬しただけでありまして、命令したわけではございません。なるべく現在の制度でもできるだけデモクラテイックにやつて欲しい。そういう氣持でありますけれども、むろんそれは相談相手でありまして、任免權は、現在のところでは本來任免權人事の權能をもつておるところに、はつきり所屬さしておるつもりであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=9
-
010・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 次にはこの第十二條に、「適當な衞生養護の施設を設けなければならない。」これはもう既に從來とても相當な設備ができております。また學校醫もあれば、學校齒科醫もあれば、學校藥劑士もあれば、養護婦とか從來の養護教官もあれば、いろいろ相當にやつておりますが、これをますます完成せしめるためには、やはりこの養護に關する施設を法令化する必要が相當にあると私は考えます。これは既に相當法令化せられておりまするけれども、なおこれについて多少、あき足らないと思いますのは、學校藥劑士というようなもの、これはもう既に都市などにおきましては十數年以前から置かれておりまして、相當に實効をあげておりますが、しかしながら一面におきましては、ただ單なる空名に過ぎないところもあります。これを法制化して、そうしてその機能を十分に發揮せしめるような工合にすることが、必要であると思います。この學校藥劑士などにおきましては、養護室におけるところのすべての藥品の分析であるとか、あるいは夏季、冬季におけるところの温度の調節であるとか、あるいは夏季におけるプールの水の分析であるとかいうようなことまで、ずいぶん微細な點まで非常に努力をしておるところがありまして、現にわれわれといたしましては、そういうことは多分にやらしておつたわけでありますが、そういう點から言いましても、この際學校、藥劑師というようなものも、やはり學校齒科醫、學校醫というようなものと對等にこれを法制化する必要があるのではないかということを考えます。もちろんこれには財源ということも關係がありますけれども、しかしこれはその市町村に、おける施設としてやつたならば、國費としては多大な負擔を受けることはなかろうということも考えます。そういうような意味から言いまして、こういう點などにつきましても、これを法制化する必要があるのではないかということを考えますが、この點は當局としての御見解はどうでございますか。これも一つお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=10
-
011・日高第四郎
○日高政府委員 今の御注意も、まことにごもつともなことと存じます。今御指摘のありましたように、財政問題とも連關をいたしておりますので、御趣旨の點を十分尊重して研究をいたしまして、何らかの處置をとりたいと考えます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=11
-
012・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 次には一學級の定員でありますが、從來中等學校は大體五十人とか小學校は戰時中などには、はなはだしきに至つては八十名、九十名の所がずいぶんあつたのであります。これではただ單なるいわゆる子供のお守り役というような意味であつて、ほんとうの教育というものは徹底しない。特に今度の學校教育法によりますると、自主的自律的に十分に洗錬させるという意味から申しますると、從前の、つまり畫一的に陷りやすかつた教育法とは、全然異つているのでありまするから、この際なるべくその學級の定員を少數にするということは當然であります。もちろん政府としてもこれは十分にお考えになつていることであろうと思いますが、これまた財源の關係もありまするから、今即時にこれを實施するということは困難でありましようけれども、やはりこの教育法といたしましては、この際學級の定員はかりに四十名にするというような標準を示していただくことが必要じやないかということを考えますが、この點はどうでございますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=12
-
013・日高第四郎
○日高政府委員 御注意ごもつともでございまして、文部省でも、もしできるならば、小學校の定員は四十名ぐらいにしたい方向でおりますけれども、現在のところでは財政その他の關係で急には實現できませんので、標準を五十名といたして、なるべくそれに近いように、それからはみ出ないようにいたすつもりでおります。もつとも學校の實情によつて、かりに五十五名を二つに分けなければならないというようなことは、教室及び教員その他の事情でもできないような場合には、そういう點は幾分默認しなければならないかと思いますけれども、現在の状況では、五十名を單位にして、なるべくそれから越えないようにしたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=13
-
014・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 從前の視學官とか——現在では全部視學官でありますが、視學というものは、今までとは大變違つてまいりまして、今後は指導的な立場に立ち、いわゆる教職員の相談相手になる、こういうような意味で、過去幾年弊害の伴つてきたところの官僚獨善的な立場でなくなることは當然でありまして、教育の民主化をはかるためにも、これはもちろんそうしなければならない。しかしながら、そういうような工合になりますると、非常な重要な、ますます重要な位置であるということは申すまでもない。ところが現在の地位におきましては、まことに菲薄な待遇のもとに、また從前のような位置とは違いまして、民主的な立場に立つて相談相手になるというようなことになりますと、そのためにいよいよ人材を集中しなければならない。その人材を集めるためには、どうしても現在のような待遇でなくて、少くともこれは全部二級官にして、そうして優秀な者はみずから進んでこれにつくというような工合にすることが必要ではないかと考えますが、これについて當局としてはいかなるお考えでありますか。伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=14
-
015・日高第四郎
○日高政府委員 視學官の今後の任務というものは、お話のように上から監督をして抑えつけるというようなふうではなくて、教員たちの先頭に立つてそれのよい相談相手になる。もしできるならば、よい指導者になるような、そういう方向へいかなければならないということを考えております。そういう視學に該當する人は、率直に申しますならば、一般の教師たちよりも一段と資格の上の人でなければならないというふうに考えますので、現在の視學官がすべてそうだとは考えませんけれども、本來の任務から言いますと、一般の教師よりも何か長所のあるような人でなければならない。そういう人を待遇するためには、やはりそれ相當の待遇もしなければならないということは、ごもつともだと思つております。實は昨年學校の先生たちの待遇をよくしましたときに、視學官が取殘されたような形になつた。それは初めからわかつておりましたが、しかし一應學校の先生方の待遇をよくしてそれに後から引續いて視學官の待遇をよくする方針でありまして追つかけて内務省と話をしまして待遇の改善をいたしたいと思つております。お話のように全部が二級官となれば一層よいと思いますけれども、それも急にはできませんので増員の際に二級官の割當を多くして徐徐にその目的を到達したいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=15
-
016・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 こういう時世になりまして、文部當局の立場というものは非常に苦しい立場にあられ、困難な事情に立ち到られることも隨分多いと思います。同時にまた教職員は教職員としての、つまり指導者としての十分な自覺と信念とをもつて學校教育、社會教育、あらゆる教育に當らなければならないのが當然であります。こういう觀點に立ちまして、當局との連關がきわめて圓滑にいかなければならないことは、當然でありますが、そこで現在の傾向といたしましては、何事も團體の力ですべてを押し切るというような傾向が相當強くなつてきております。これは勞働基準法からいいましても、當然でありますけれども、教職員は教職員としての相當なる信念と自覺とをもつて當らなければならないということにつきましては、やはりすべてのことが議會を通じて正しく民主化するということが當然のことであろうと私は思います。そういうような意味から申しまして、いろいろ團體協約の締結とかというやうなことが相當に行われておるようでありますが、こういう點については、最も適正妥當なる方法によつてすべて行われるということが、當然であると思います。これらの點について、當局としてはどういう御見解をおもちになつておられるか、伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=16
-
017・日高第四郎
○日高政府委員 お話を承ると、私は教員組合と文部省との關係というようなふうになるかと思ひますけれども、私どもは教員組合が合法的に活動することに對しては、何ら異存を唱えるわけではございません。しかし教員は單なる産業勞働者とは違いますし、また營利會社の使用人とも違いまして、人間の精神的の成長發達というところに寄與しなければならないという特殊の任務があります。私どもとしては勞働組合法によつて制限されると同時に、その品位をどこまでも維持してもらいたいという希望をもつておりますし、またそれは決して捨てないつもりでおります。從つて教員組合がさき頃のように、あるいは罷業をするかもしれないというようなことは、私どもとしては非常に憂うべきことであつて、これは産業における使用者と被使用者との關係と違つて、間に學生生徒、殊に幼少の兒童をさしはさんで、裏には父兄をもつておるような場合に、そうして相手が文部大臣というものであつて、必ずしも使用者でないものに對して罷業をするということは、多少的はずれでないかというふうにも考えられますしその點については、私どもとしては法律上それが違法であるという點で責めるわけではありませんけれどもなるべくそういうことをしないで濟むようにということを、實は強く念願いたしておる。ところがせんだつてのストライキの禁止のあとで、教員組合の方では態度を非常に改めまして、新文部大臣に對しては、まつたく紳士的な態度で鬪爭というよりも、話合いというような態度で交渉をしてまいつたのでありまして、その點先方の態度の非常に變つて立派になつたことを認める意味も加えまして、文部省と教員組合とがいつまでも戰鬪的な鬪爭態形にあることはよろしくない。この意味においてかりに短期間の團體協約というものを結ぶことによつて十分意思の疏通をはかり、また自重もしてもらいたいという意味において、せんだつて團體協約を結んだわけであります。これは急速にしなければならぬ事情もありまして、私どもとしては相當不備の點もあることも自覺いたしております。今後はそういう點は徐々に改め、そうして鬪爭委員というようなことが、私は一體何を相手に鬪爭するのかわからないような氣がいたしておるのでありまして、文部省は決して教員を敵にまわして鬪うという意思はないのであります。むしろ教員の先頭に立つか、あるいは教員のうしろ盾になつて、教育の内容の充實向上をはかるつもりでおるのでありまして、決して彼らを敵對視するつもりはないのであります。ごく少數の人は、あるいは文部省なんかを相手にしないで、あれは鬪爭の相手以外の何ものでもないというような考えをもつている者もあるかもしれませんけれども、しかし全國の大多數の教員たちは心ある者は、今日平和國家を建設するのに、内部の鬪爭で平和國家が建設できるとは思つておらないと確信いたしておりますので、それらの多くの日本の國家の建設を精神的に擔つている人たちと一緒になつて、鬪爭ではなしに、十分なる協議によつて、教育界の改善をはかつていきたい心組でおります。そういう協議のような意味においては私どもはできるだけ彼らの言い分をも十分に聽くし、また文部省の意圖するところも傳えるし、日本の國情のきわめて困難な事情もよく打明けて認識させた上で、一緒になつて日本の再建に邁進いたしたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=17
-
018・伊藤恭一
○伊藤(恭)委員 前文部大臣はやはり教職員はおそらくそういうような最惡の場合に立ち到つて、ゼネストをするようなことはないということを、非常に強く信頼しておられまして、やはり教職員に對する信頼感というものは相當に強かつたようにわれわれは思つております。同樣にわれわれといたしましては、ただいまお話のありましたような工合に、ごく一部の少數の者はそういうような尖鋭的な者があつたかもわかりませんけれども、全國の大多數の教職員は、決してそういう國民の信頼を裏切るようなものでないということを信じておつたわけであります。でありますから、やはりその點は政府といたしましても、教職員當事者といたしましても、その邊の意思の疏通が十分にできるようにして、またそういう機會をつくり、同時にまた何と言いましてもその身分の安定ということが根本でありますから、この待遇を十分に改善し、その待遇を前にも申したような工合に、物質的の待遇、精神的の待遇この兩方面より教職員を正しく待遇することによつてこれがほんとうの正しい文化國家建設の基盤になるように御努力願いたいということを、希望として申し上げまして、私の質問を打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=18
-
019・椎熊三郎
○椎熊委員長 松本君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=19
-
020・松本瀧藏
○松本(瀧)委員 私は體育、スポーツ問題に關連いたしまして、若干の質問を行いたいと思います。教育の本質は知育、徳育、體育であることは、文部省におかれましても、しかと定めらておるところでありまするが、今日までの教育の傾向を見ますると、それは知育偏重の教育であり、徳育、特に體育の面は、上級學校に進めば進むほど、これが忘れられていたかの感があるのであります。六・三・三・四の制度を古くから實施しておりますところの米國においては、上級學校、特に大學あたり卒業いたしますときに、體育の課程を完全に卒えていない者は、卒業證書すら與えられないというほど、重點をおいておるのであります。いよいよわが國におきましても、六・三・三・四の制度を採用せられることになりましたが、この制度のいわゆるコース・オブ・スタデイーにおきまして、この體育の面をどう取扱つていくかということを、まず伺いたいと思うのであります。さらに新憲法は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を國民に與えているのでありますが、これらの問題に關しまして、政府はいかなる對策をおもちであるかということを承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=20
-
021・川崎秀二
○川崎政府委員 國家再建の上に體育の果す役割の重要なことは、ただいま松本委員が御指摘になつた通りでありまして、文部省としても、從來厚生省と二元的に取扱つておりました體育を昨年二月に一本にまとめまして、一元的にこれを指導するという形になりまして以來は、この經濟困難の状況にもかかわらず、各般の施策を進めておる状態であります。そこで御質問の點でありますが、體育の發展につきまして從來日本ではいささか學徒偏重の體育というものが行われておりましたのを今後は大きく一般の市民層、さらには勤勞者の體育というような問題にまで文部省の方針を擴げたいと思うのであります。しかしながら御指摘の通り、その重點というものは學生スポーツの復興、あるいは學校教育の中におけるところの體育の普及ということをまず第一に考えて、そうしてその外廓におけるところの勤勞者、あるいは一般市民というものの體育も併せ向上させたい、こういう考え方を強く堅持をいたしております。從いまして、今囘の教育基本法の教育の目的の中に、人格の完成ということを言わずして、人間の育成ということを表現しましたし、また心身ともに健康な國民の育成を期すという文句も加えまして、教育の中におけるところの體育の重要性の比重というものを從來よりも一層に深めたいこういう考え方をもつております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=21
-
022・松本瀧藏
○松本(瀧)委員 敗戰後の再建日本は限られたものをいかにして最大限にこれを活用するかということにあると思うのであります。しかして物のきわめて少くなつておる今日、日本の再建はやはり人によつてこれを行うということが、最も大きな要素になつておると考えるのであります。しかるに今日のこの道義の頽廢、特に青年層の昏迷は決して日本の再建のために有利であるとは考えられないのであります。健全なる精神は健全なる肉體に宿るということは、古くから言われてきておることでありますが、今日ほどこれが必要に迫つておる時期はないと思うのであります。スポーツ文化は、きわめて明朗であります。兩親の前でも、子供の前でも、あるいは夫婦の間でも、オープンリーに語られるのがいわるスポーツであります。殊に道義の問題を、明朗なるスポーツによつてこれを高揚せしめるということは、先進諸國においては既に試驗濟みのことであります。關係方面におきましても、コックス氏あるいは、最近また南カルフオルニヤ大學の女子體育部長エリナー・ノセニー博士、あるいはリクエーシヨンの權威であるところのタム・デアーリング氏あたりを派遣いたしまして、きわめてこの問題には關心を寄せておるのであります。しかるに政府のこれらの問題を擔當しておりますところの、諸團體に對するところの國庫の補助金を見ますと、昭和十九年度においては、六十萬圓でありましたが、二十年度においては五十五萬圓、しかもこれは後に一割削減されまして、四十九萬五千圓になつております。さらに二十一年度におきましては、わずか二十七萬五千圓という、これは私日本體育會の例をとつておるのでありますが、全體の總豫算百九十二萬五千五百圓に比べれば、一割五分にも達せざる少額のものであります。しかもこれがさらに各種のスポーツ指導團體に分配されますならば、これらスポーツ團體の總豫算の一%にしかならないというほど、きわめて貧弱なものであります。政府は一體これらのスポーツ團體に對するところの國庫補助金の問題に關しまして、今後どういう工合にお考えになつておるか、御意見を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=22
-
023・川崎秀二
○川崎政府委員 ただいま御質問になりました前段の、非常に青壯年層のスポーツの振興ということが、國家再建の人的の原動力であるというお説は私まことに同感でありまして、日本再建にあたつて現實的な大きな要素となるものに、一方に産業復興運動あり、一方に精神部面における健康な生活運動というものが提唱されなければならぬ。その健康な生活運動というものの中に、大きな役割を遂げるものがスポーツである。かように私は考えをいたしておるのでありまして、その點については、まことにお説と相一致する見解をもつているのであります。從來のスポーツの占めておつた役割というものをさらに擴充して、今アメリカの例で言われましたように、國民のリクリエーション運動、人生を厚くする、厚生運動にまで繰擴げていくべきではないか、こういう點もことごとく同感でありまして、文部省では、かつての大日本厚生協會の民主的な肩替りといたしまして、リクリエーション協會というようなものを民間でつくつてはどうかという勸奬をいたしたことがあります。最近各種の新聞の論説の中にも、強くそういうことが叫ばれまして、民間團體の方でリクリエーション運動を強力に展開してまいつております。おそらく本年の秋に行われます第二囘の國民體育大會と並行して、リクリエーション大會を催すことに相なるのではないか、その際におけるスポーツの役割というものは、非常に重要なものになつてくると思うのであります。これと關連しまして、ただいま後段の御質問の、大日本體育會、あるいはスポーツの民間團體に對する補助が少い、これもまつたくお説の通りでありましてもつと積極的に政府が補助助長するということの方針に副わなければならぬと私は思うのであります。二十年度豫算が四十九萬五千圓、それから二十一年度——これは大日本體育會に對する補助でありますが、二十七萬五千圓、第一囘國民大會、昨年京都で行われました分に四十萬圓を補助いたしましたのみで、これではとうてい大きな國民體育大會というようなものも、實質的な意味で華やかな、また盛大な大會が開催できないのではないかとさえ、私は感じておるのであります。しかしながら、御承知のごとくこれは大藏方面の關係になりますが、政府の外廓團體に對する補助というものは、國家財政の上からほとんど打切られておるにかかわらず、この乏しい國家財政の中で、とにかくスポーツの役割を重要に認めまして、雀の涙ほどではありますが、補助を出しているという誠意だけでは、お認めを願いたい。かように考えております。しかしながらこれはもつと飛躍的な豫算をとらなければならぬ。そういう意味で、議員各位の十分の御協力をいただいて、逐年豫算を殖やしていきたい、こういうふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=23
-
024・松本瀧藏
○松本(瀧)委員 スポーツ文化の重要性から考えまして、できる限り今後一つ努力されまして、そうしてこれらの諸團體に對するところの國庫補助金を復活いたしまして、十分に活躍のできるように善處されんことを殊に切望いたします。國民が青年という一つの年齡的エポックに達したときに、自分の肉體的成長の度を自分で計測できるのは、スポーツであります。自分の力を外部的標準で檢査できるのも、これまたスポーツであります。しかるに今日これらの機會を與えるところの設備というものが、きわめて貧弱であることは殘念であります。不健全なるところの娯樂場はどんどんとできて來ました。しかるにこれらの建設的の面におけるところの設備、先ほど政府委員からもリクリエーションの問題に關しましても縷々説明がありましたが、これらのこのリクリエーションを十分施すところの設備、こういつたものに對するところの努力が少し足りないのではないかと思うのでありまするが、この設備の問題を今後どういう工合に考えておられるか。さらに用具の問題でありまするが、隨分近來むだな道具はどんどん出ておりましても、運動用具の製作はきわめて貧困なのでありますが、これらをもつと助長する方法はないものかどうか。これらに關しまして御意見を一つ伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=24
-
025・川崎秀二
○川崎政府委員 スポーツを復興するといたしましても、掛聲ばかりではだめだ。そこで競技場施設を擴充しなければならぬではないか。あるいは競技用品をもつと競技者、あるいはスポーツマンに手廣く行き渡らせる方法をとるべきではなかろうかという御意見のように承りました。競技場施設の復舊並びに増設ということが、スポーツの復興に一番手取り早い方法であることは勿論でありまして、文部省としても民間體育團體並びに各都市、町村というような團體と連絡いたしまして急速に各都市、農村におけるところの競技場施設を復舊したいと、かように考えております。しかしながらこの點につきまして特に——これは私個人の意見になりますが、競技場施設の復舊というような問題については、政府はもとよりでありますが、一番これについて現實的に解決をはかるといたしますれば、やはりアメリカや先進國のように各都市當局、市の當局というものが、もう少し力を入れていただくように指導しなければならぬと思うのであります。しかしながらこの傾向も、スポーツ復興に協力する各都市町村の當局の熱意というものも漸次盛り上つてまいりまして、殊に戰災を受けました都市あたりでは、復興計畫と並行いたしまして緑地・計畫、あるいは競技場施設の計畫を漸次進めておる状況も多く見られまして、非常に心強く私は考えておるのであります。運動用具の方の問題は、運動用具に對する六割の課税は、昨年十一月に、中等學校以下の生徒の使用の分につきましては學用品と同樣免税になつております。この範圍を漸次擴げまして、中等學校あるいは大學の方にも及ぼすということが、當面の問題ではなかろうかと私考えておりますが、運動用品の免税ということは、中には國民の必需物資に關連する面もありますので、相當愼重に取扱わなければならぬこともあると思うのであります。たとえば運動用品に籍口して相當競技者に渡らない前にやみに物資が流れておるというような傾向もありますので、この點を嚴重に警戒をいたしますとともに、運動用品の免税を一般的に行き渡るようにしますために、努力をいたしたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=25
-
026・松本瀧藏
○松本(瀧)委員 ただいまの御説明で施設その他に關しては、市あたりの協力を得なければいかぬというようなお話でありましたが、どうか今後とも積極的にこれらを指導されて、速やかに一應修理に對して善處されんことを切に希望いたします。日本人の道義觀念が國際的にきわめて廢頽しておるものと言われておることは、われわれとしてはきわめて殘念なことであります。しかしながら現實の問題はまつたく無視できないようなところまで行つております。しかし確信をもつて私はここに申し上げたいのでありますが、國際競技におけるところの日本選手の殘した道義觀念の印象というものは、これは簡單には消え去つていないと思うのであります。殊に國際競技におけるところの日本選手のあのスポーツマン・シツプというものは、きわめて高く評價されてきております。國際的に再度日本が起ち上り、また國際水準において強く認められるところの面は、私は國際スポーツが一番早いのではないかと思うのであります。その意味におきまして、特に私ども今日關心をもつておりますのは、國際オリンピツク競技大會であるのであります。この競技大會を目標といたしまして、今後いろいろな形において國際競技というものが行われるであろうと思うのでありまするが、この國際競技に關しまして、政府當局においてはいかなる見解をもちまたオリンピツク參加に關していかなる御努力を拂つておられるかということを承りたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=26
-
027・川崎秀二
○川崎政府委員 國際競技に復歸をする、オリンピツク大會に參加をしたいという希望は、ひとりスポーツ關係者だけではなく、一般國民の中に漸次熾烈に盛り上つて來ておる現象ではないかと、私は考えるのであります。しかしながら既にオリンピツク大會の參加國に對する招請は、二月の中旬でありますか、主催者團體であるところのイギリスのオリンピツク・コミテイー、それから國際オリンピツク委員會が、日本とドイツは今囘は招請しないというような方針を決定したということを聞いております。しかしこのオリンピツク參加という問題につきましては、何としてもこれに復歸をいたします前提條件を備えなければならないと、私は考えるのでありまして、一九四四年でありますか、日本の水上競技連盟と陸上競技連盟、すなわちオリンピツクに參加する中心の團體が國際陸上連盟並びに水上連盟から除名をされておりますので、これをまず復歸させることを考えなければならない。また同時に國内におけるN・O・C——ナショナルオリンピツク・コンミテイーの復舊ということが、取上げられる問題ではないかと思うのであります。この點に關しましては松本委員も非常に、個人的ではありますが、御努力になつておるように私承つておりますが、やはり政府當局も力を入れますとともに、何としても民間のオリンピツク委員會が、早く國際オリンピツク委員會によつて正式に承認をされまた、水上陸上のような有力な團體が國際陸上連盟並びに水上連盟から承認をされるということを早く行わなければならぬと思いますので、そういうような問題につきましてこれらの團體と政府が密接な連繋のもとに復歸運動を推進すべきではなかろうか。こういうことのきつかけをつくりますために、私どもまことに微力ではありますが、今後大いに努力をいたしてみたいと考えております。國際社會への日本の復歸ということは、政治的に復歸いたしますことと前後いたしまして、文化の交流が行われなければならぬ。その文化の交流のおそらく最尖端に立つものは、オリンピツク大會への復歸というものを中心にしたスポーツの復歸である、かように考えております。何分ともに努力をいたしてみたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=27
-
028・松本瀧藏
○松本(瀧)委員 次に伺いたいことは野球の問題でございまするが、終戰後きわめて急ピツチをもちまして野球というものが再び廣く行われるようになりました。しかも日本における野球は本場のアメリカよりも、もつと徹底した普及状態にあるのであります。このときにあたりまして、かねて文部省において決定されておりましたところの野球統制令なるものは、一體どういうことになつておりますか。この問題に關しまして、簡單でもよろしうございますが、ちよつと成り行きを承つてみたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=28
-
029・川崎秀二
○川崎政府委員 野球競技に對する、文部省が昭和七年に、野球の統制並びに實施に關する訓令というものを出して、學生野球、ひいては一般アマチユア・スポーツの健全な發達を、當時の情勢に基いて企圖いたしておつたのでありますが、これが文部省の意圖いたしましたところと實情において、はなはだ遺憾な點をもたらしたということは、率直に今日認めなければならぬことではないかと思うのであります。そこで終戰後のスポーツの民主的なあり方というものは、どうしてもこの官僚統制を打破いたしましてスポーツを民衆の手に復す。從いまして他の競技團體がすべて全國的な組織をもつておりますのにかかわらず、野球競技のみは種々の關係から、今日まで學生野球協會というような組織をもたないでまいりました。そこで文部省としても、野球の民主的な發達、自主的な發達のために、そういうものをつくるべきではないかということを側面からお奬めいたしました結果、最近學生野球協會というものが結成されまして、野球を自主的に、かつ民主的に全國に普及するような組織ができ得ましたので、これらの團體を通じて野球競技の發展をはかるということに、政府も助長、支援をいたしたい。こういうふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=29
-
030・松本瀧藏
○松本(瀧)委員 先ほどから御説明もありましたごとく、外郭團體に對するところの補助金も打切られ、また今後スポーツ團體に對するところの國庫の補助というものも、どうなるかはつきりしないような状態であります。また施設の問題も、見透しもあまりついていないような状態であります。また用具も、きわめて貧弱ではありますが、戰後明朗なるスポーツが再興せんとしてきておるところの事實は、絶對否めない事實なんであります。これらを技術的に、精神的に最も健全に普及發達せしめ、しかも刺激する機會は、大競技大會においてであります。しかるにこれらの競技會が一般興行同樣に課税されておるということは、至極遺憾にたえない次第であります。また同時にアマチユア精神からしても、きわめて私は不合理なことではないかと考えるのであります。一般入場料も、とることなくしてスポーツ團體が運營されていくということは、最も理想的なことであります。しかしながら先ほどからもいろいろと御説明がありましたごとく補助金もほとんど將來見込みがつかぬ。また現金特に私立學校の財政状態からいたしましてもこれが不可能である以上、せめてアマチユア・スポーツに對するところの入場料の課税を撤發して、健全なるアマチユア・スポーツの發達に資すべきではないかと思うのであります。對抗試合におきまして、母校の勝利を念願して熱心に應援に出かけておるところの學生までが、課税の對象とされておるということは、教育の精神からしても、きわめて殘念なことであります。プロフエツショナルの競技會と、また他の興行物は、興行自體によつてこれを商賣にして生活しておるのでありますが、政府當局においても多分御承知であろうと思いますがアマチユア・スポーツの競技會は、それ自體單に人に見せるための興行とは根本的に違うのであります。參加者が自分の努力の結果を他と比較するための競技會であり、日本の技術的並びに精神的の水準を、世界のそれと對比する唯一の機會であると同時に、方法なのであります。もしこの事實が缺けておつたならば、しかも課税を決定したその責任者が、ほんとうにアマチユア・スポーツの理念を解し得る機會をもし與えられておつたとしたならば、アマチユア・スポーツの課税問題は、再檢討されるのではないかと考えるのであります。アマチユア・スポーツ確立のためにも、健全なる體育普及のためにもこの際課税を除くべきだと私は考えるのであります。もし諸般の事情でどうしても課税がやむを得ないものであるとしたならば、その課税によつてスポーツ施設、あるいはその他健全なるリクリエーション等の普及發達に貢献し得る方面に、それをあてがうべきではないかと考えるのでありますが、政府におかれましては、本問題に關していかなる御所見をもつておられるか、承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=30
-
031・川崎秀二
○川崎政府委員 アマチユア・イズムの昂揚ということに對しまして、非常に高い理想のお話を、先ほど來感銘をして伺いました。ことごとくお話のごとくでありまして、文部省としてもその線に沿つて解決をいたしてまいりたいと思うのでございますが、この問題に對しましては、かかつて文部省の政治力ということであろうと私考えておるのでありまして、文部省の政治力を政府の内部において増強をいたさなければ、この問題の解決點に到達するのは、非常に遠いのではないか。かように考えますので、政治力の増強という部面に力を入れたいと考えます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=31
-
032・松本瀧藏
○松本(瀧)委員 まだたくさん質問したいこともありますし、またもう少し詳しく承りたいこともあるのでありますが、他にまだ質問者が控えておられるそうでありますので、ここで打切ることにいたします。どうか文部當局におかれましては、先ほどから縷縷説かれたその理想と經驗に基いて、もつと勇氣を奮つて、積極的に日本スポーツ文化の高揚のために、努力されんことを切に希望いたしまして、私の質問を打切ることにいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=32
-
033・椎熊三郎
○椎熊委員長 午前中はこの程度にいたしまして、午後一時まで休憩いたします。
午前十一時四十七分休憩
————◇—————
午後一時十四分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=33
-
034・椎熊三郎
○椎熊委員長 これより會議を開きます。休憩前に引續き質疑を繼續いたします。永井勝次郎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=34
-
035・永井勝次郎
○永井委員 昨日來の質疑の折、席をはずしておりましたので、前質問者の質問箇所に對しましては、重複を避けてまいりたいと存じておるのでありますが、あるいは重複にわたる點があるかもしれませんが、その場合は一つ御注意をいただきますならば、それを省きまして、次にお尋ねを進めてまいりたい、かように存じております。この學校教育法といい、先般議決いたしました教育基本法といい、教育の大きな革命をもたらすものとして、われわれは期待をしておるのであります。その意味におきまして、この學校教育法も學制改革の設計としましては、大いに見るべきものがあると、われわれは思うのであります。ただそれは設計だけでありまして、この設計されたものをどういう地盤に立てようとしておるかということにつきましては、われわれ大いに疑議もあり、また論議を集中しなければならない點があると思うのであります。でこぼこな地盤の上に、ただ紙に書いた設計がいいからといつてそのまま立てようとしておるのではないかという疑いを私はもつのであります。そういうような點で、私は具體的にこれからお尋ねをいたしてまいりたいと思うのであります。
第一にこの六・三・三・四制の實施をいたします場合に問題になるのは、學校の校舍の問題であります。小學校についてみますと、學年が六年となりますので、從來高等科を併置していた學校においては、餘力を生ずるのでありますが、地域的に適正かつ十分なる状態に校舍が配置されておるかどうかということになりますと、大いに疑問があるのであります。また中學校についてみましても、これを義務制に移すということになりますると、第一校舍が非常に不足である上に、地域的に偏在しておりますので、その地域的な不足の状態というものは、一層ひどい状態になるわけであります。殊に戰災學校を見ますると、小學校におきましては全國で一千三百九十六校が被害を受けております。中學校でみますると全燒したのが五百八十一校で、はなはだしい損害を受けたのが七百五十三校になつておるわけであります。少い上にこれほどの戰災を受けておる。そこへさらに人口は増加してまいつておるのでありまして、海外からの引揚げ、あるいは引揚げた人たちの地方への分布というようなことで、國内的に見ましても、非常に人口の移動があるわけでありますが、具體的にこの六・三の義務制を布く場合に、これに充當すべき校舍の配置、そういうものがどういう状態になつて、どういう形のものが本年度の第一年次において具體的にできるのか。第二年次、第三年次においてはどういうものになるのかということを、具體的にひとつお示しを願いたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=35
-
036・日高第四郎
○日高政府委員 六・三の實施につきましての第一年度の具體的案でございますが、それは全國の平均をもつて計りますと、大體六・三の第一年の生徒を收容する教室はできる見込みでありまして、それで一應出發しようという決意をいたしたのでありますけれどもこれは平均でありますから、お話のような配置その他につきましては、ある場所では十分にありながら、他の場所では教室が足りないというようなことも、免れない状態であります。昨日もちよつと申し上げましたように、もしも十分かしてもらう時間がありますれば、それらの實情も十分調査の上で出發いたすのが、責任あるものの態度であることは承知いたしておるのでありますけれども、昨日も申し上げましたような特殊の状態におきまして、日本の信用囘復のためには、多少無理であつても出發しなければならないような状況におかれておりますので、全體の平均値をもつて何とか賄える見込みが立ちましたので、出發することになつたのであります。三月一日に學務關係の當局者に集まつてもらいまして、打合せをいたしましたし、明日には學務課長を集めまして、いろいろ具體案について檢討いたす豫定になつておるのでありますが、その際にも、今御指摘に與かりましたような、相當困難な事情も判明することと存じますので、私どもといたしましては、足りない教室につきましては、一時は小學校のものも多少は無理をしてでも借りるとか、あるいは中等學校の者に、少し不便であつても遠くから通つてもらうとか、臨機の處置をとりまして、もし必要ならば地方債を起す餘地のあるように、内務關係にも大藏關係にも交渉いたしまして、便宜に取計らつていきたいと思つております。實は戰災後のこまかい調査というものが、混亂の後でもありますし、人口の移動等も激しい時代でありますし、十分正確に報告を得ることがむずかしいのでありまして、大體の報告をもとにしまして、推定で計算をいたしておるところも少からずございますので、事實上は相當困難が豫想されておりますけれども、その困難を何とか克服して出發いたしたいと思つております。具體的な實證的な事實を基礎にして出發しないという點についてはなはだ無責任のそしりは免れないと存じておりますけれども、この際一年延ばすということは、ほとんど不可能な状態でありますので、その邊は御諒承いただきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=36
-
037・椎熊三郎
○椎熊委員長 永井君にちよつとお諮りいたしますが、委員外の丹野實君から發言を求められております。これは特にごく短時間に文部大臣から直接答辯をしていただきたいということです。文部大臣は一時半に貴族院へ參らなければならない豫定になつておりますので、發言中はなはだ失禮でございますけれども、この際丹野君に發言を許可することに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=37
-
038・椎熊三郎
○椎熊委員長 御異議がないようでありますから、特に同君の發言を許します。簡單に願います。丹野實君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=38
-
039・丹野實
○丹野實君 私は學校教育、それに關連する體育、なかんずく一九四八年ロンドンにおいて開催せられますところのオリンピツク大會參加要請について文部大臣に御質問したいのであります。敗戰後のわが國の青少年は、非常に混亂と昏迷のうちにさまよつて、いわゆる自暴自棄の状態にあることは、ひとしく世人の認むるところであります。この青少年に對して、また日本民族に對して士氣と希望を與え、そしてそれを通して民族の興隆をはかり、さらに世界の友好と親善を深めるためには、私はロンドンの一九四八年におけるオリンピツク大會に、ぜひ日本が參加したいと思うのであります。スポーツと學問には國境がないのでありまして、オリンピツク大會の精神からしますならば、どうしてもこれは今度のオリンピツク大會の主體であるイギリス側も、賛成すべきであると思うのでございますけれども、第一囘の招待状というものはこの三月中に發せられたのでありますが、遺憾ながら日本とドイツには來ないのであります。それは日本が占領されている國であるということ、非獨立國であるということが理由になつているように言われているのでありますけれども、前例といたしましては、第一次世界大戰の後の第一囘のベルギーにおける大會、第二囘のパリーにおける大會に、ドイツは出場しなかつたのであります。というのは、あの大戰のためにベルギーフランスも相當國土を荒らされて、極端な憎しみをもつておつたために、いわゆる主催國であるところのフランスとベルギーがドイツの參加を拒否したがためであります。しかしながら、第三囘には主催國のオランダからドイツに對して參加を要請して、第三囘のアムステルダムには、ドイツは參加しているのであります。こういう前例があるのでありますけれども、しかしながら、これは一つの慣例となつているものであつて、獨立國でないものは參加できないといふ規則はないのであります。でありますから、このオリンピツクの慣例というものもしばしば無視せられ、そうして常識的に解決せられた場合が相當あるのであります。殊にこのオリンピツク委員會の中でも、最も發言權をもつておりますのは、アメリカの國内オリンピツク委員會でありまして、アメリカの國内オリンピツク委員は全部日本の參加を希望しているのであります。そうしてさらにこのアメリカの國内委員會を支配し、これを牛耳つているところのブランデージ委員長、フイリツプス體育協會書記長などは、日本が參加することを非常に期待しておつて、しかも日本とドイツのスポーツマンには戰爭の責任はないのであるから、これを參加せしむべきである、こう申しているのであります。それで最近のA・P通信の報道によりますと、ブランデージ委員長並びにフイリツプス書記長の語るところによりますれば、日本がオリンピツク大會に參加できるかできないかということは、今の占領軍の最高司令官であるマツカーサー元帥の厚意ある考え方一つにかかつていると申されているのであります。それはこの前の第三囘のアムステルダムにおけるオリンピツク大會の時に、マツカーサー元帥は當時大佐としてアメリカ國内におられましたが、國内の選手團長としてマムステルダムに渡つた。しかもアメリカ國内からいろいろの寄附を集め、多大の關心をもつて選手團長として活躍されたばかりでなく、國内のオリンピツク委員でもあられたのであります。だから國際オリンピツク委員會でありますし、しかもこれを牛耳つているのは今申しましたブランデージさんとフリプスさんでありますが、このような方々が、マツカーサー元帥にこれに對して厚意ある態度をとつてもらうならば、オリンピツク大會に參加することは可能であると申されているのでありますから、私はどうしてもマツカーサー元帥にお願いして、オリンピツク大會に參加できるようにいたしたいと思つている次第なのであります。しからば日本には今オリンピツク大會に參加できるような仕組ができ上つているかと申しますと、日本には現在體育協會があることは御承知の通りであります。そうして陸上、水上各競技團體もございます、そしてまた現に水上競技、陸上競技等も行われておるのであります。またまたオリンピツク委員もおります。國内オリンピツク委員會もあります。但しこれは國際的に認められているか認められていないかという點については疑義がありますけれども少くともこの體育協會あり、競技團體あり、その他國内オリンピツク委員會が存在しているということは疑いない事實なのであります。古代オリンピツク大會から近代オリンピツクに切りかえてそうしてこの近代オリンピツクをこのように盛大になさしめたところのあのクーベルタン男爵はオリンピクの精神というものは出場することであつて勝つことではないということを申されておるのであります。このオリンピツク精神から申しまするならばあらゆる國々の——少くとも戰勝國であろうとも、戰敗國であらうともあらゆる國々のスポーツマンというものは少くともこのオリンピツク大會に參加する、いわゆる出場する權利を持つておるものである。また從つて義務も持つておるものである。これこそがオリンピツクの精神でなければならないと考へるのであります。大體オリンピツク大會に參加するためには、六箇月以前に招請状が發せられることが最後のいわゆる參加、あるいは不參加を決定するということになるのでありますがさいわい最近の新聞あるいはラジオの報道によりますれば、對日講和會議は、マツカーサー元帥の厚意ある態度によつて、この秋に開始されるであらうと言われておるのであります。そうすれば、日本は獨立國になり、またこの國際オリンピツク大會への參加の可能性も從つて大になるのであります。しかしながらこのオリンピツク大會に參加するためにはも少くとも二、三年の練習と準備とが必要であります。來年のオリンピツク大會に出場するためには、既に今から準備あるいは練習が始められておらなければならないのでありまするが、このような疲弊のどん底にあえいでおりまする希望のない國家でありまするからこのオリンピツク大會に參加することについても日本の青少年は捨てておるような態度であり、國民もまたこれに對してはいわゆるあきらめをもつておるのでありますが、われわれは前に申しましたように、民族意識の高揚、それから民族の興隆、青少年に對する希望というようなことから考えまして、どうしてもオリンピツク大會に參加できることが大體見透しがつき、そうして今から準備と練習が始められるようにしてもらいたいと思うのであります。そのためには、この體育の總元締めである文部大臣がマツカーサー元帥にお會いになつて、直接オリンピツク大會に參加できるように懇請するか、あるいは連合軍の相當な有力者にお會いになられまして、政府としての意向をお傳えになり、並びに政府もこのことに對しては眞劍に乘り出して、オリンピツク大會參加をして、必ず實現できるようにしていただきたい。こう思うのであります。これは國際社會への復歸であり、しかも文化國家として起ち上つた日本としては、最も手近い世界への復歸であり、並びに世界の友好と親善を非常に深める動機になると考えまするのでどうぞ文部大臣のこれに對する積極的な動き、積極的な活動をお願いしてやまないのであります。私はこのお願いを申し上げるとともに、この質問が終りましたならば、山崎衆議院議長にお願いいたしまして、そうして山崎衆議院議長にも、國會を代表いたしましてマツカーサー元帥にお會いになりあるいは連合軍の有力な方にお會いになつていただいて、そしてこのオリンピツク大會への參加を早めたい。こういう工合に考えておるものでございまするから、どうぞ國會、政府ともに協力して、これにさらに民間の競技團體も參加して、一日も早く全國民の熱望してやまない國際オリンピツク大會への參加を實現したいと思うのでありましてどうぞ大臣の誠意ある御答辯をお願いしてやまないものであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=39
-
040・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 四八年を期してロンドンに開かれますオリンピツク大會にもしわが國が參加いたしますることが許されまするならば、國内的に、また國際的に非常に效果大きいことと考えておるのでございまして、ただいまお話の御趣旨は、まつたく同感でございます。文部省といたしましてはこの際積極的に努力いたしまして、衆議院並びに民間の諸團體とも協力いたし、マツカーサー元帥がもし會つてくれまするならば、むろん會いもいたしましようし、他の有力者に面會を求むべきであるならば、これらの者にも面會を求めまして、ぜひこの目的を達成いたしまするがために、最大の努力を拂いたいと考えておるのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=40
-
041・椎熊三郎
○椎熊委員長 よろしゆうございますか。——永井勝次郎君の質疑を經續していただきます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=41
-
042・永井勝次郎
○永井委員 ただいま、こういう困難な場合であるので、全然基礎的な調査はしておらないということであります。それは一應ごもつとものことと思うのでありますが、何と申しましても四月一日からこれが義務制になりまして發足するのでありまして、もう目の先に來ておるのであります。しかも教育が國家再建、民族復興の基盤となるべき重要問題であるという觀點に立つての學制改革でありまするから、正確なことはわからないにしても、おおよその見透しというものは、從來の實情から考えましても、その後における變化から考えましても、つけらるべきはずであります。そこでさらに重ねてお伺いいたしたいのでありますが、小學校の方の校舍の關係はどうなるか。中學校の方の校舍の關係はどうなるかという、およその見透しでよろしゆうございますが、文部省において知り得たる範圍において、また現在もつておられる計畫の範圍において、もう少し具體的の見透しを承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=42
-
043・椎熊三郎
○椎熊委員長 坂元説明員。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=43
-
044・坂元彦太郎
○坂元説明員 現在の國民學校におきまして、二部授業、三部授業を行つておるものが、若干ございます。その數は大體二十一年の五月にいたしますと二部授業の方が千三百五十六、三部授業の方が十三という學校數をやつております。これはむろん教室が足りないがために、こういうことをやつておるので、こういう數字が出てまいつております。新制中學校の方の教室の不足數は、いろいろ計算いたしておりますが、大體において五十人を一學級とした中學校ができるものといたしまして、その五十人と現在ある教室數との比をとつてみますと、教室數が一・〇七に對して學級數が一という數字がでてまいります。一學級について一・〇七の教室があるということになつております。從つて全國の平均といたしましては、大體とんとんにいくということになつておりますけれども、これは數字上の問題でございまして、實際には教室が偏在しておるということは免れないことでありまして、現在その方面の調査を各府縣に頼んで、どれだけ足りないか、どれだけ設置しなければならないか、どれだけの、たとえば工場とか軍の建物を利用しなければならないかというようなことを聽取中でありますが、明日はその學務課長會議をいたしまして、幾分の報告が集まることと思つております。さらに督促しまして十分に調べまして、そうしてもしもこれだけの建設をしなければならぬということでありましたら、その費用に對して何とかの措置をしなければならぬというように考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=44
-
045・永井勝次郎
○永井委員 あまりにも調査が粗漏であることに驚くわけです。學校の校舍というものは固定したものである。兒童、生徒の數もわかつておるのである。そうしてこれが四月一日から發足するということであれば、そのきまつておる兒重なり生徒を、どういうふうな教室にこれを收容するのか。もし現在ある學校が足りないとするならば、學校に轉用すべきものはどういうふうにしなければならないか。あるいは二部教授なり、三部教授なりによつてこれをするとか、あるいは學級編成において、現在與えられた條件のもとにおいて、教育效果を最大限度に發揮できるような、そういう一つの臨機的な措置によつてかういう編成をしてその急場を乘り切つていこうというような一應の具體的な案があつてそうして今言つたような全國の教室、學校數で生徒を割るというような單なる數字の遊戯ではなしに、地域的な實情に即して、この問題の一應の見透しを立ててはいるのでなければ、これは問題にならないと思うわけであります。そこで先ほど日高局長から、無理をするということは免れないと抽象的に言われたのですが、その無理をするということは、具體的に申しますならば、二部教授によるとか、三部教授によるとか、あるいは學級編成においてこれを考慮するとか、あるいは保健上、あるいは採光上學校の規模として不十分であつても、こういう建物を轉用するとかいうような、具體的な案が一應なければならないと思うのですが、今建物の關係の調査が十分できていないとするならば、今言つたように、二部教授なり三部教授なり、あるいは學級編成において、一體どういう運營上の具體的な考案をもつておられるのであるか、その點をひとつ伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=45
-
046・日高第四郎
○日高政府委員 御指摘のように準備不足であることは、私どもも認めざるを得ないのでありまして、その點はまことに相濟まないのでありますが、昨日も申し上げましたように、新學制制度の實施については刷新委員會の方でも二十二年度から曲りなりにも出發せよというので、建議案が總理大臣にいたされておりますし、また司令部の方でも、それに對して非常な期待をもつておりますので、私どもとしては、相當不安を押し切つてやらなければならないような立場にあります。しかも途中では大臣の更迭等もありまして、正式に本年度から出發することがきまりましたのは、三月二十六日に閣議決定を見たわけでありまして、その邊のところは私どもの力の足りないところ政治的にこれをうまく處理し得なかつたということは、重々お詫びいたさなければならないと思うのでありますが實情を申し上げて御諒承をいただきたいと思うのであります。先ほどどなたからか御指摘のありましたように、現在の小學校の管轄は内務省にありますので、文部省といたしましては、内務省を通じて報告等を求めなければなりません。教員の待遇問題等については同樣でありますけれども、今日の通信運輸状態が惡いために、必要な報告等がなかなか集まりません。これらの點で私どもといたしましては、最近の具體的な數字によつて計畫を立てることがむずかしいのでありまして、先ほど係りの方から申し上げましたように、昨年の秋あたりに大體調査いたしました數字に基いて、不可能か可能かを考えたのであります。その調査によりますと、先ほど申し上げましたように、一クラスについて一・〇七の教室はどうにか間に合ひそうである。むろんそれは平均でありますから、偏在しておる場所においては、非常な無理があることは考えられますけれども、しかし足りないのではなくて、何んとかとんとんにいけそうだという考えから、若干の増築費等も考え、實は出發しようといたしたのでありますけれども、財政上それは不可能であるので、それもあきらめなければならないような情勢として、相當な無理を覺悟の上で、出發いたそうとするのであります。そういう點から、今申し上げましたような机の上の數字で實行できるかというお問合せに對しては、恐縮のほかないのでありますけれども、しかし私どもとしては、これをやるのに、もし教室が足りなければ、二部教授でやつても、そうして各地の實情に應じた處理を講じてまいろうというような話で、實は三月一日に教育民生部長の會議のときには諒承を求めまして、實行不可能な所があるならば報告をしてくれということも申しておるのであります。相當困難ではあるけれども、何とかできる見込みであるというような、報告も得ております。明日はそれについての具體的な報告についても聽取できると思います。二月二十六日になつて閣議決定したものを、四月から始めるのでありますから、もともと無理は覺悟の上であります。皆樣のおしかりをこうむることは覺悟しておるのでありますけれども、その邊の事情を御諒承いただければ幸いだと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=46
-
047・永井勝次郎
○永井委員 早々の場合でありますしこういう場合でありますから、このことについては多く申し上げたくありません。一層努力されまして、この與えられた條件のもとに、最善の善處を希望するものであります。何と申しましても義務年限が延長され、義務制となりましたので、その方面における無理が加重されて來ることは必然であります。義務制は新制中學一年だけではありますけれども、そういう一つの教育風潮のもとに、二年、三年の任意進學の方面においても、生徒數の激増してきますことは當然豫期せられるところであります。その場合小學校と中學校殊に新制中學校のごときはない所が非常に多いのでありますから、そういうところを無理して新設しますために、それがかえつて小學校教育の方に惡影響を及ぼす。その中へ食いこんできて小學校の教育だけならば、十分に教育をやつていく餘力があるのであるが、中學校を新設するために、二部教授もやらなければならぬ、あるいははみ出されて、どこかよそで授業をやらなければなぬということが起つてきて、ここ當分の間は、どつちつかずな、兩方とも共倒れというような教育の結果になるのではないかということを、非常に心配されるわけであります。そういうやうな場合、文部當局としては、一體教育のウエイトをどこに置くのか、六年の小學校教育の方に重點を置いてここは無理してもやつていこう。そうしてその無理を多く新制中學の方にかけようとするのであるか、あるいは新制中學の方と、小學校と五分々々にやつていこうとするのであるか。そのやり方にもいろいろ無理をしていくのでありますが、その無理のかけ方は一體どういうふうな措置によつて、どういう考慮によつてこれをなさるお考えであるか、その實情をひとつ伺わせていただきたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=47
-
048・日高第四郎
○日高政府委員 非常に御同情のあるお話でありまして、私どもまつたく無理を覺悟で出發いたしましたものの身としては、非常にありがたいお話であります。私どもとしては、お話のような小學校に對して新制の中學校を布くために、無理をかけるおそれのあることは、同樣に心配いたしております。私どもとしては、小學校の教育はできるだけ今まで通り、あるいはむしろそれを充實してやつていくように、その方に先へ重みを置いて考えております。しかしまたそうかといつて、全然小學校の方には無理をしてならないとも申せない場合もあるかと思いますのでその邊のところは、現地で采配をふるう人たちに對して十分に徹底するように、小學校の教育を犧牲にしても、片方を充實しなければならないというようなことはいたさないように、小學校の教育はできるだけ從來通り、むしろそれを充實していくような方向に進めるように、そうして本質的な、あるいは決定的な影響を與えない限りにおいて、新制中學校のために餘力を割いてもらうように頼むつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=48
-
049・永井勝次郎
○永井委員 次にお尋ねいたしますことは、學校教育法が實際的にどういう形において實施されるかということについて、教師はもちろん學生、生徒の間でもいろいろ不安をもち、父兄の間にもこれの見透しがはつきりしないので、現在混亂をしておるわけでありますが、東京都内におきましても、中學への入學志願者が、聞くところによりますと、都立の中學よりは私立の中學の方に非常に集中している。それは私立の中學においては從來の中學教育の課程において、學校の授業を繼續していくということのために、そちらの方に集中している。都立の方は義務制が實施されますために、全體として教育課程が低下するというような心配からいたしまして、都立の方面の志願者が少くなつているという實情にあるということを聞いております。また都立の中學の教師側の希望といたしましては一年生は義務制として新制中學の課程においてこれを教育するが、二年、三年は從來の課程においてこれを教育していく、こういう方針を希望しているということであります。一つの學校の中で、一人の教師のもとに二つの性格の學年が一緒に學校經營の中にあるというようなことは教育自體としても非常な混亂の過程をたどるのではないか。こう考えるのでありますが、この私立と公立との間における學校差、それから一つの學校の中における學年の經營に對する方針、そういうものに對して、文部省はどういうふうにお考えになつておられるか、具體的にお示しを願いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=49
-
050・日高第四郎
○日高政府委員 新制中學校の場合の私立と公立との關係でございますが、新制中學校の制度を布く場合に、一番困難だと豫測されますのは、御指摘のように東京都でございます。御承知のように新制の中學校は原則は公立でありまして義務教育をする意味において無月謝制である。こういう建前で進むのでありますが、東京都における中等學校は、大體三分の二が私立學校でありまして、三分の一が公立であるというような状況にありますので、公立學校を得ることは、急速には非常にむずかしい。もしこれが東京都で實施できるならば、他の地方では何とか間に合うであろうということを、初めから論議されておりました。東京都の教育局長等とも、いろいろ打合せもいたしましたし、話もいたしましたが、御指摘のように私立學校に對しては、いわばわくがゆるいのでありまして、公立の方では授業料をとつていけないとか、あるいは地域制によらなければならない、男女共學を原則としなければならないというのに對しまして、私立の方は授業料をとる代りに、地域制をはずすこともできれば、男女共學も必ずしもしないで、學校の自由に任されている。こういうような點から言いまして今日の財政經濟の状態では、私立學校が獨自で經營していくという點においては、私立學校が非常に苦しい立場にあるかと思いますが、その他の點においては、私立學校は比較的自由になつております。制限が少いのでありまして、その點で私立學校に對しては應募者も相當あるかということを、初めから豫想いたしておりました。このごろの状況を聞きますと、やはり私立學校も比較的多くの希望者があるように聞いております。もう一つ問題になりますのは、從來の中學校とか、あるいは高等女學校とかいうようなものが、新制の中學校になつてしまうか、あるいは新しい高等學校になるかの決定をしなければならない。ところが新しい高等學校の規格基準というものを明示するまでにまだ至つておりませんので、おそらく私立學校については、非常に迷惑だと思います。その去就に迷つておるような所も相當あるかと思います。その意味でもつて混亂をひき起しておるようなことは聞いておりますので、私どもとしては非常に心苦しく感じておるのですが、一擧に新制の中學校と新制の高等學校とを同時に出發することがむずかしいものでありますから、その規格基準は同時に明示することができませんので、混亂をよけいにしている點を憂えておりますが、これは極く近いうちに規格基準の設定の委員會をつくりまして、相當大幅に高等學校になれるような處置を講じたいと思つております。お話のありましたように東京都の都立の中學校の中には、一年生は新制でいくけれども、二年三年はわくにははまるけれども、もとの中學校の校長の指揮下にあるというようなことや、あるいは新制の中學校の校長のもとに二年、三年も入れてしまうというようなことにつきましては、いろいろ希望や論議があることも聞いております。その邊は相當むりを押し切らなければできませんので、机の上で原則をきめて押しつけるわけにいきません。その地方々々の實情に應じてなるべくむり少く經過の措置を切り拔けることができるように、裁量の餘地を各府縣に任せてございますので、一律には申しませんけれども、できるだけむりを少く處置をいたすように相談いたしております。それから私立學校も、公立學校もこれは申すまでもないことでありますけれども、教科課程は同一で出發いたしますので、教育内容は、義務教育たるに變りはないことになつております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=50
-
051・永井勝次郎
○永井委員 善處をお願いいたしておきます。師範學校の教育については、前質問者が觸れられたそうでありますから、この點は省略いたしますが、先ほど來申しました通りに、學制改革の過程において非常に混亂をしておりますために、師範學校の將來というものがどうなるかという不安のもとに、新聞にも出ております通りに志願者が非常に激減して、募集人員の半分にも達しないというところがほとんどであるようでありますが、これらに對しても早く明確にして、學校當局あるいはこれに志願する生徒たちの方途を昏迷せしめないように善處方を希望いたしたいと思うのであります。
次にお尋ねいたしたいのは、小學校における單級複式學校の問題であります。統計によつて見ましても、單級複式學校が非常に多いのは、廣汎な地域をもち、人口の少い北海道でありまして、これに該當するものが三百九十二校あります。本州方面でも五百七十二校ほどあるようでありますが、これらの學校が一人の教師によつて一年生から六年生までを受持たれるというようなことでは、十分な教育をすることができないのでありまして、殊にこういう地域に在住する兒童というものは一生涯の間、教育を受けるという機會は義務教育の期間だけでありまして、そのほか文化的ないろいろな惠澤には、まつたく浴することがないのでありますから、せめてこの義務教育においてだけでも、全國的な水準における教育を施すことにならなければならないと思うのであります。今度の學制改革においては特にこういう方面の考慮が必要であろう。殊にこういう學校と新制中學との結びつきといふものが地域的な條件から非常に困難性が伴つてくると思うのであります。どこかへ通わせようとするならば、どうしても遠距離を通わせなければならぬ。どこかの學校に集中するならば、まず寄宿舍を用意しなければならぬということになりましよう。これがもし經濟的な實力が許されるならばアメリカのように通學バスを出して、そうして何十キロという遠距離を兒童を運ぶということもできるわけでありますが、日本の現状においては、これができないのでありまして、こういう關係を、文部省當局においては、どういうふうな教育的な考慮を拂われているのか、それをひとつ承りたいと思います。
もう一つは盲唖學校でありますが、盲唖學校は官公立が現在四十八校で、私立が二十九校、併せて百十三校である。殊にこの學校の中の三分の一は戰災を受けており、ほとんど從來でも志願者を收容しきれないという状態であり、今日學校が少いのでありますから就學の希望を捨てている該當者というものは、非常に多い數であろうと思うのであります。教育の機會均等という上からいきましても、これらの問題は今後特に配慮しなければならぬであろうと思うのでありますが、これらに對するお考えを承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=51
-
052・日高第四郎
○日高政府委員 今の單級複式の學校等が、相當たくさんあるような御指摘がありましたが、まことにそういう點においては困難が豫想されます。複式の學校は二十萬學級のうち約一萬六千百二十六あるそうであります。こういうことは文明國としては、はなはだ殘念ながらはずかしい次第でありますけれども、しかし今日の事情は御指摘のありましたように、遠くから通學することも不可能でありますし、また學級の程度の違つたものを別の先生が教えるというようなことも、實情において不可能な状態にありますので、これらの點については、できるだけ今後とも改善の方法をとりますように、そうしてこれらの學級を教える者に相當の負擔がかかることも考えまして、できるだけそれらの教える教師たちを優遇もいたしますし、援助もいたす方向に努力いたしたいと思います。
それから盲唖學校のことでございますが、これはたとえ學校がございましても、義務教育を施行するためには、非常な困難が豫想されるのであります。大體府縣が設立の義務を負うようにいたしてございますが、これを義務教育として實行するためには、教師が必要でありまして、普通の學校のように、高等教育を受ければ、曲りなりにも小學校の先生になれるというふうにいきませんので、特別の教育を特別にいたさなければ、盲唖學校の教師たるにふさわしくありませんので教師の養成から充實していかないと、義務制を布くことができないような状態にもありますし、また盲聾唖の學校のように心身の不自由な者を遠くから通學させることもできませんので、これが實施のためには、御指摘のような意味において、寄宿舍のようなものを備えなければできないというような點から言いましても、相當費用もかかりますし、教師の養成にも相當時間が要りますので、これは特例に考えまして、勅令をもつて義務教育の施行期日を規定するようにいたしてございます。十分研究いたしまして、少しでも粗漏の少ないように實施いたしたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=52
-
053・永井勝次郎
○永井委員 次は學校内容の施設についてであります。一應校舍の問題は、こういうように非常に困難な、無理な状態において出發するのでありますがこれらの状態を補つていく、この學校の内容の施設であります、從來でさえ校舍があつて教員があれば、學校教育は十分であるというような考え、あるいは經濟的な餘力がこれをなさしめるというような現状のもとにおいて、がらんとした空家のような校舍の中で教育が實施されておるということについては、われわれ實に慨嘆にたえないのでありますが、たとえば化學教育、物象關係の授業にいたしましても、酸素プラス水素イコール水というようなことを黒板に書いて、そしてそれを暗記させるというような教育よりできない。水を電氣分解するようなそして實驗させるというようなこともできなければ、フラスコも試驗管もないという學校が實に多いのでありますが、義務教育、今度の學制改革というのは、單に六・三・三制の制度を布いたから、それで完全だというのではなくして、その質的な内容の向上ということを期さなければならぬと思うのであります。そういうような意味において、特に今後は學校の内容の施設について特段な考慮が拂われなければならないと思うのであります。教鞭物、器具であるとか、學習用具、そういうものの製造の現在の状態、それからそれらの配給の状態、あるいは學校施設に對しても、文部省が考えておる方針というようなものをひとつ伺いたいと思います。また校舍にしましても、學校の内容の施設にしましても、文部省は單にこれこれという指令を出すだけ。たとえば今度の學制改革のごときものも、この法文をつくれば足るというようなことで、これを實際實行するのは、貧弱な財政の市町村の義務において、これを實行しておるというような状態でありますが、校舍も内容の施設も、地方のこういうような負據力の少い市町村の負擔に、今後とも放任していくお考えであるか。放任しいくとするならば、せめてこういうふうな、いろいろな藥品であるとか、そういつたいろいろなものについての製造を十分にして、配給も十分に行き屆くような努力がされなければならぬ。こう思うのでありますが、これらについての現状、將來の方針、そういうものをお伺いいたしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=53
-
054・日高第四郎
○日高政府委員 化學教育等に對して相當な施設が必要であることは、私どもも全くその通りに存じておりますので、試驗管もフラスコも、あるいは電氣もガスもない所でもつて、いい化學教育ができるとは考えられません。これらの點において、非常に現在の日本の教育内容というものが貧弱であるということは、殘念ながら認めなければならない次第でありますが、そういう化學的施設というものの一歩前の、たとえば机であるとか、黒板であるとかチョークというようなものまでも、殘念なことでありますけれども、不自由をしておるような状態でありまして、紙も、極端に申しますれば教科書も十分配給できるかどうかわからないような状態にありますので私どもといたしましては、配給その他の機構につきましても、できるだけ教育に向けるものについては、政府もあるいは民間のものも、一般にそれに尊重の念をもつて優先的に配給してもらうように努力いたしたいと思つております。敗戰の結果ではありますけれども、今日の日本を復興させるものは、現在戰爭にも責任のある私どもの力というよりは、何も知らなかつたこれから來る若い人たちの力によつて、日本は再びこの情ない状態を——失禮いたしました——盛り返さなければならないと思つております。これについては、私どもとしては教育に唯一の望みをかけておりますので、萬難を排して、私どものあとから來る者のために、喜んで踏み臺になつていきたいと思つております。その邊實に情ない状態であることは、私どもも十分承知いたしておりますが、少しでもあとから來る者が勢よく伸び上つて、そうして日本を昔の、あるいはそれ以上のいい國家に仕立て上げるようにいたしたいと思つておりますが、どうぞ今後とも、私どももむろんいたしますけれども、議員の皆さんも、御鞭撻いただきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=54
-
055・永井勝次郎
○永井委員 われわれはやはり眞劍になつて、教育のあるべき地位を確立しなければならぬと考えておるのであります。從來のいろいろなやり方を考えてみますと、どうも教育というもののあり方も、大人中心のあり方であつたのではないかと思うのであります。たとえば町に出て見ても、子供の遊び場所一つ考慮しないような都市計畫であり、そうして自動車が走り、危險な電車が走るような街頭でなければ、子供は遊び場所も與えられていないというような、大人の勝手氣ままな計畫のもとに子供が放任されておる。あるいは化學の實驗の用具にしましても、あるいは子供のいろいろの衣料、はき物のようなものにしましても、營利的な立場から、子供のものが、ほとんどつくられていない。殊に北海道のような寒地帶におきましては、雪が降りますとほとんど學校が休校になるのであります。そういう學校が農村地帶には多いのであります。理由はなぜであるかというと、はき物がないのであります。ゴムぐつなり、そういうはき物がありませんために、通學することができないというような實情におかれております。あるいは冬季間になりますと小さい方の下級學年の兒童は、席にいて小便を漏らす。夜になると寢小便を非常にするというような状態。これはなぜであるかというと、洋服だけ外に着ているが、下着がないから、下着を着ていない。零下二十何度というほどに下る寒地帶において、下着を着ないで子供たちが學校に來ている。それが健康上にも非常な影響を與えている。冬季間がそういうような状態でありますから、學習方面においても、十分果すことができないというような實情にあるのでありまして、われわれは單に學校内の施設ばかりでなく、これを取卷く兒童のそういう生活環境の整備というようなことまでも、教育に携わる者といたしましては、一層の努力をしまして、そして乏しい中にも子供たちが希望をもつて、自分たちの生活環境の中から將來に伸びる一つの力を自分の生活の中に融かしこんでいくような、そういう生活を、われわれは護つていかなければならないと考えているわけであります。一層の努力を期待したいと存じます。
次に教科書でありますが、教科書は現在どうなつているか。これはどなたかがお聽きになつたかも存じませんがこれが去年のようなことでなしに、間に合う状態にあるのか。一年から六年まで、あるいは新制中學の一年、義務制になる範圍の學生にこれらが行き渡るような用意がなされているのであるか。あるいはそういう教科書の編纂はできているけれども、紙がなくて印刷ができないという状態にあるのか。そういう教科書に關しての大體の御説明を伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=55
-
056・剣木亨弘
○剣木政府委員 教科書につきましては、實は六・三・三制を實施することを豫定いたしまして、大體六・三・三の部分まで研究いたしまして、その編纂の方は準備が進んでまいつているのでございます。しかしお言葉にもありましたように、一番難點は紙の問題でございまして、この期に教科書用紙といたしまして割當になつておりますのは、約三百萬ポンドくらいでございます。それではこの全部の印刷をいたしますのに、十分の一にも足りないというような状況でございまして、この紙の問題には文部省といたしましても非常に困つているのでございます。それでこの教科書用の紙のために、既に御承知と思いますが、新聞社の方にも御協力いただきまして、新聞紙にまわす紙を教科書の方にまわすというような次第で、約六百五十萬ポンドぐらいは確保できるような状態でございます。それでも全部の印刷ということには、とうてい間に合いませんので、全部の教科書を一時にそろえるということができませんから、重點的な科目につきまして、できるだけ早く整えていこう。そして初めは新學期の始まりと同時に全部そろえたいと思つておりましたが、とうてい現在の状況ではできませんので、漸を逐つてできるだけ早く全部の教科書を印刷して屆けていきたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=56
-
057・永井勝次郎
○永井委員 學校教育について、もう一つ附け加えてお尋ねいたしたいと思います。今の段階におきましては、經費その他の點からなかなか困難だと思いますが、行く行くはなるべく早い機會においてハイスクール、あるいは大學等の進級を一年制にしないで、半箇年制にしてはどうか。半箇年制は、世界各國がもうやつていることであつて校舍その他の關係からいつても、若干の施設をすれば、相當收容力なり何なりを多く殖やしていけるのでありますし、いろいろな事情によつて就學の機會が遲れた者が、一年待たなければこれに就學できないというような、非常にスローな状態に置かないで、六箇月ごとにしたならば、日本においてもその可能性があると思います。これらについてと、それから大學、高校の二部教授制を採用してはどうか。この二點についてお考えを承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=57
-
058・日高第四郎
○日高政府委員 進級の半箇年制度ということについては、實は正直に私申し上げますが、考えたことはありません。これらの點については關係者ともよく研究いたしまして、もしそれが非常に長所があり、また實行可能であれば、そういう方向に向つて努力いたしたいと思います。それから大學及び高等學校等の二部教授制ということにつきましては、多少考えたことがございますが、大學はできれば今後の日本では夜間の大學というようなものも必要ではないかと私は考えております。同僚たちもそういう意見をもつておりまして、現在のように、非常に生活の困難な場合には、働きながら學ぶような途の開かれることが望ましいと考えております。ある大學では夜間の學部を今度つくりたいというようなことでありまして、それは大いに骨を折つております。まだ確實に出發できるまでに至つておりませんが、徐々に夜間の大學でも、また今後は高等學校等においてもパート・タイムはもちろんのこと夜間の高等學校でもできるようにいたしまして、教育上の機會均等を極力はかりたいと存じております。先ほど御質問の際に取亂しましてまことに相濟みませんでしたが、私どもとしては御質疑のあつた點をよく心にとめておきまして、できるだけ御趣旨に副うように、あらゆる努力をいたしたいと考えます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=58
-
059・永井勝次郎
○永井委員 次は教員の問題であります。これは待遇その他については御質疑があつたことと思いますので、その點は省略いたしまして、教師の養成機關の問題、これも先ほど質疑があつたそうでありますが、この豫算には臨時教員の養成をやつているようでありますが、この臨時教員の養成というのはもちろん暫定的なものであろうとは存じますが、どのくらいの教員の數を豫定しておられるのであるか。そしてこれらの臨時教員養成についての學力補充については、その後どういう再教育方法を講ぜられるお考えであるか、これらについて御伺いしたいと思います。それから小學校における教員の再教育、また教員全體に對しての再教育が、相當重大な問題だと思うのであります。それには働きつつそういう再教育が最大限度に効果をもつような方法を講ずることが、大切だろうと存ずるのであります。そのためには、從來のように單に講習會を開く、あるいは研究會を開いて特設授業をやるとかその批評會をやるというような、千遍一律な方法ではなしに、もつと職場に立つた、身につくような研究の方法の改善が必要であろうと考えるのであります。從つて地域的に研究學校を指定して、あるいは從來の師範學校の附屬校のような性格をもたして、その地域における中心となる研究をして、そうしてそこへ教師が行つて何週間か何箇月か研究をやつて、それを學校へもち歸つて、それをさらに傳達していくというようなことも、必要であろうと思うのでありますが、そういうようなお考えがあるかどうか。
それから、何と申しましても見聞を擴めなければならぬのでありますが、教師に對する旅費の計上というようなものは、從來ほとんど見るべきものがない。旅行なんかいたしましても、必ず特別旅費で、定額の旅費すら與えられないというような状態であります。殊に中等教員のごときは、私は北海道でありますが、北海道なんかに東京の方からぽつんとやつて來て、そのままその學校に留まつて、私費でなければその附近も旅行できないというようなまつたく郷土の實情もわからないで教壇に立つておるというような状態であります。これは今後義務教育の範圍におきましても、待遇改善というのは、棒給だけというのではなしに、こうした方面の旅費費額なんかも相當額見積つて計上することが必要ではないかと思うのであります。そうしてさらに教育の研究會なんかへ行つてみますと同じような觀念的なことを、ぐるぐる囘りをやつておるのでありますが、そういうことのないようにしますためには相當大規模な教育研究所を設置するとか、その他一つ一つを積み上げていくような研究が、教育界全般として行われるような方法を講ずる必要があるのではないかと思うのでありますが、そういうようなこと、それから研究の發表機關が必要でありますので、學會のようなものであるとか、あるいは研究雜誌のようなものをか、そういうものを發行されるお考えがないかどうか。
それからもう一つは、教育基本法の場合においても少しく觸れたのでありますが、教員の政治運動の問題であります。研究と實際運動の分野というものは、そう明確には線を引くことはできないことであろうと思うのでありますが、何と申しましても、從來の教育というものは、單に教科書の受賣りだけであつて、實際的な政治のことすら口にすることが從來できなかつたのであります。今日はこの教育というものを、ほんとうに眞劍にやつていきますならば、教育というものが、その底には政治につながつておるということが、これはもうやつていけばはつきり把握できるわけなんであります。たとえば教育が重大である、こう言いながらも、教育費というものは、いずれの階級の學校の場合におきましても後囘しになつて、掛聲だけであつて、實際的な教育活動ができないような豫算の編成にしかなつていない。あるいは兒童が學校の中においていろいろ教えられることが、家庭において、あるいは社會において、これが育てられるのでなくて、壞されていくような社會の生活の實情であるというようなことを考えてまいります場合には、どうしても教育をほんとうにやつていくのには、政治をよくやらなかつたならば、教育がよくなつてこないということを知るのであります。そういうような觀點に立つて、教師自身がどうしても教育と結びついた政治研究、あるいは政治活動というものとは、これは切り離すことのできないものだと思うのでありますが、これに對して文部省においては相當手嚴しい限界をおいてあるようでありますが、この體驗を通さない一つの觀念的な教育なんてものは、これは力のないものでありますので、どうしても從來われわれの教育の面において缺けておつた政治教育の問題を、今後一層強化しなければならぬ場合、まず教師自身の政治の體驗を豐富にもたせるということが必要であろう。その過程においては若干の行き過ぎがあり、若干の過ちがあるかもしれませんが、これは教養のある教師のみずからの時間的な經過と、その後方からそれを指導し、善意をもつて監督するというようなことによつて、これらの事柄が是正されていくのではないかと思うのでありまして、これらの教員關係の問題について一括して一つ御答辯を願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=59
-
060・日高第四郎
○日高政府委員 最後の問題から先にお答えいたしたいと思います。教育基本法の第八條にございますように、教育において公民たるにふさわしい政治的教養が尊重されなければならない。これは被教育者においても、また教育する者においても必要であると感じております。それから法律に定めてあります「特定の政黨を支持し、又は反對するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」と申しますのは、大體において學校という組織體がそういう特定の政黨を支持したり、反對するための政治教育をしたりすることがいけないというのでありまして、教員あるいは學生が、個人として自分のもつている政治的自由を行使することは差支えないと感じております。お説のように、政治とか教育とか、一應は教育の内容が政治から獨立していて欲しいし、また教育の内容に政治的鬪爭というものが持ちこまれることは願わしくないことでありますけれども、昔のように政治と教育とがあまりに截然と區別されてしまいますと、兩方が遊離してしまつて、政治には教育的の考慮が拂われないし、教育者は政治について無關心になるようでは、やはりいい教育も、いい政治もできないと思いますので、お説のように昨年あたりも、政治における教育の優先ということが議會で滿場一致で決議されて、また政府もそれに非常な喜びをもつて答えていながら、現實においては教育に對する豫算というものが、はなはだ私どもとしては理解しにくいほどの、わずかなものきり組まれていない。そうして私どもとしては非常に大切であると思う學制改革の出發點においてもほとんど經濟的の理由のみでそれが阻まれそうな情勢にあつたということは、率直に申しますれば、私どもが政治において教育がほんとうに尊重されているかどうかを疑いたいような氣持がいたすくらいであります。しかしむろん今日の特別非常の例外的な状態でありますから、國民が飢ゑかかつているときに立派な教育をしようという事柄が非常にむずかしいのであつて、現實にそれが兩立できないので理論的に必ずしも兩立できないわけではないのでありましようけれども、たとえ苦しくても、今日の日本を再び立派な國家に育て上げるためには、何といつても教育が必要なのでありまして、この點において私どもとしては教育に對して政治方面の方で、一層の助力と鞭撻とをいただきたいというふうに考えている次第であります。從つて教育者が一定の政治的見解をもつて、自分の本分と矛盾しない限りにおいて政治的自由を行使することは、私どもとしては決して阻む心持を持つておりません。
それから先ほどお話のありました教員の養成の問題でありますが、臨時教員養成所と申しますのは、從來と同じ機構をそのまま續けていく考えでありまして、特に六・三制の實施のために擴張をしたりしてやる心持ではないのであります。不足を補うための臨時教員養成という意味であります。それから教員の再教育の問題でありますがお話があつたように、ただ講習會だけを開いて形式的にそれを卒えれば、新しい教育がわかつたというような誠實性のない教育は、極力避けるようにして、ほんとうに實のある再教育をいたしたいというふうに考えております。それから先ほども學生、生徒に下着もはき物もなくて、それで學校生活をうまくやれというようなことは、いわゆる精神主義であつて、人間の人情や實際上の困難を無視したような、いわゆる精神主義では、日本の教育を復興させることはできないということは、私ども確信いたしてをりますので、それについては、十分な物質的條件は重んじて考えなければならないと思つております。教師の再教育の問題については、從來のようにひまを與えるけれども、何らの經濟的の援助もしないということでは、ほんとうの再教育を受けることもできないというので、これについては目下大藏省とかけ合い、相當多額の費用を豫備金から支出してもらうように交渉中であります。ある程度見込みがあらうかと思つております。もしそれが實現されますならば、むろん現職のまま、ある者は三箇月、ある者は六箇月くらい特別な教育を受けられるような方途を講じ、むろん短い講習會みたいなものもしますけれども、それに止まらないで、少し落ちついて教育を研究し、また反省するような方途も講じたいと思つております。教育研修所のことについてのお話もありましたけれども、これは私どもごもつともだと思います。アメリカの人たちと接觸して、私が常に感ずることは、アメリカの人たちは教育の科學と教育の枝術に、相當重きをおいているように印象を受けます。私どもはある程度の知識や經驗があれば、親切と一種の直感があれば、それで濟むもののように考えやすいのでありますけれども、アメリカの人たちの話を聽いてみると、やはり科學的な統計的な、實證的な研究を十分積んで主觀的な判斷を是正するやうな、いわゆる教育の科學というものが、教育をほんとうに育てるためには必要だということを力説しているようであつて、その邊、私どもも十分反省もしなければならないし、用意もしなければならないと考えておりますので、御指摘のような教育研修所というものも、財政が許せばできるだけ早い機會に立派なものをつくつていきたいと考えております。教員にとつての意見の發表機關等についても、これは必要だと考えておりますが、むしろこれは教育者の連盟とか、もし健全に育つならば、教員組合などの機關誌がお互いの研究、修養、識見等の發表の機關として役立つことが願わしいのではないかと考えております。それらの關係者と連絡のあるときには、できるだけそれを話して、お互いの諒解の下に、援助し、またでき得る限りの助長をしていきたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=60
-
061・永井勝次郎
○永井委員 我が國で一番缺けているのは、社會教育だと思います。社會教育の對象となるのは、いうまでもなく現在は青少年、成人、婦人などであるが、これらに對する施設、その實際的な教育が非常に遲れてゐるのであるがこれらに對し、特に力を入れなければならないし、戰時中不完全な教育をして放り出された男女青年たちの將來のことを考えると、特に今日の場合、この社會教育によつて、それらの補正を必要とする段階にあると考える。圖書館などにしても全國に公私立合わせて四千内外しかないし、博物館のごときは、わずかに二百五十六である。その圖書館なり博物館なりがどんな状況にあるかというと、教育的に利用されているものは言うに足りないと思う。これらのことを考えると、われわれは特にこういう方面を具體的な形において直ちに展開していかなければならないと思う。手取り早くできるものは、大學の擴張あるいは通信、巡囘による公開等によつて職業教育を、働く者のために行うことである。あるいはラジオによる社會教育の内容をうんと擴げることによつてもできる。また映畫もあるから、これを社會教育に最も有效に活用する。これらラジオについて、映畫について、あるいは大學の擴張について、從來ほとんどこれらのことが顧みられていなかつたが、今後はどういうふうになさるお考えか、お伺いしたい。
次に青少年團のことは、大きい施設はGHQから抑えられているという話もあるが、何としても團體的な訓練をする。お互いに切磋琢磨し合う年齡期にあるから、軍隊的な組織という從來のあり方のものではなく、修養あるいはスポーツ等に結びつくことによつてこの組織と活動とを促進する、何らかの方法が講じられねばならないと思ひますが、これら青少年團に對するGHQの方の意向、あるいは文部省の考えそういうものをひとつ伺いたいと存じます。また幼兒その他に對する教育はもちろん家庭の教育でありますが、文部省としても特に繪本であるとか、玩具であるとか、運動用具であるとか、引續いてはお菓子というようなものまでも、教育的に幼兒教育に關連した分野において、なすべき事柄は非常にたくさんあると思うのでありますが、それらに對するお考えを承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=61
-
062・日高第四郎
○日高政府委員 社會教育のことでございますが、お話のように、戰時中の學校は非常に内容がおそまつでありまして、そのまま上級學校に進んでおる者の學力が低下して、經驗や識見の乏しいことは爭われない事實なのであります。それらのものを補うためにもたとえば通信教授というようなものの途を開いて、できるだけ從來の缺陷を補うと同時に、特殊な境遇にいる者に、進學の途を開こうというような企畫をいたしておりまして、それで今度の學校法の中にも、通信教授のことを正式に法律の上できめてあるようなわけであります。それから學校のエキステンション等につきましても、この法律の大學のところに、「大學においては、公開講座の施設を設けることができる。」とか、「公開講座に關し必要な事項は、監督廳が、これを定める。」とかいうような項目を設けまして、積極的に大學を社會一般の大衆に對しても開放いたしたい所存でございます。それから圖書館等についても、できるだけ内容を充實すると同時に、圖書館を掌つておる人たちの待遇もよくしまして、できるだけ立派な、社會的な關心ももち、見識もあるような人を圖書館長にすえ得るように、將來取計らいたいと思つて努力中でございます。それで圖書館や公民館というようなものを中心といたしまして、地方の文化の促進にあてたいと思つております。むろん博物館等についても同じ趣意でございますがこれはなかなか實現は困難だと思いますが、御説のように博物館等もただごく少數の者だけに利用されるのではなくて、もつと公共性の富んだ經營のしかたに向けたいと思つております。それからラジオ等につきましては、放送局とも關係を現實につけておりましてできるだけ教育場面を擴げて、教育の機會を多くいたしたいと思つております。映畫等も、むろん學校教育において映畫が使えるようになれば、最も願わしいのでありますが、學校教育のみならず、一般の映畫館においても、教育的にして、しかも興味のあるようなフイルムが作製されて、上映されるように計らいたいつもりでおります。青少年團についての御質問でありますけれども、實は青少年團というものが、過去におきましては自治的な、自發的な修養團體として、下からもくもくと盛り上つたと申しますよりは、ある種の指導者が中にはいつて青少年を糾合して、ある方向にそれを導いたというような傾向もないとは申されませんので、そういう點がおそらく司令部としては、一種の警戒の念をもつて見ているように思われますけれども、今後はそういうような意味でなくて、ほんとうに自主的な、自發的な修養機關としての青少年團であるならば、相當の諒解は得られる見込みでございますのでそういう心持をもつて誤解のないように、しかも十分なる諒解のもとに青少年團等も發達させていきたいというような心組で、現在のところ對處いたしております。これは相當呼吸がありますので、今のところ情勢を靜觀しているような状態であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=62
-
063・永井勝次郎
○永井委員 文部省の豫算にば育英費として一億圓計上してあるようでありますが、從來の育英費の運用を見ますと、相當豫算を餘しているようであります。餘る原因はどこにあるのかわかりませんが、おそらく使うほどには、十分に教育に必要なだけの費用は出ないで、中途半端な費用より出さないので、結局利用者がないのではないかと私は思うのであります。教育の機會均等と能力ある者にその教育が與えられるようにならなければならないという立場から申しますと、現在の社會情勢から見て、この育英費のごときは、もつともつと増額して、これの利用が激増されるという状態になつてこなければいけないと思うのでありますが、この育英費の運營について、ひとつ伺つておきたいと思います。それと並んで、孤兒の教育は、今の文化國家になる日本の發足としては、特にない財政の中からでも、努力していかなければならない問題ではないかと思うのでありまして、これを單に一般の社會事業家その他に任せておくべきものではなかろうと思うのであります。この二つについて伺います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=63
-
064・日高第四郎
○日高政府委員 育英會費の運營のことでございますが、これはたしか法律で定めておりまして育英ということの目的がはつきりいたしておるのであります。いわゆる英才の教育といつたような概念で目的がきめられているものですから、これを無制限に學資が困難である者に貸してやるというようなことも、むずかしかつたあんばいでありますが、しかし現在のところでは、大日本育英會の理事長並びに理事たちと十分話合いをいたしまして、あまり劣等な者に國家の費用を貸すということも、法律の建前上いきませんので、劣等な者はいたしませんが、大體においてクラスの席次でいいますと半ば以上の者に對しては十分考慮して、大幅にそれを適用するように方針をかえまして、それから御指摘のように、物價が騰貴いたしておりますのに、育英會費というようなものがあまり僅少であるときには、借りただけで、惡く言へば不面目な借り方をして、しかもそれが役に立たないといつたような印象をもつのではないかという憂えがありますので、そういうことをできるだけ防ぎますように、はつきり記憶いたしませんが、月にたしか二百七十圓程度のものは貸し得ることにする、それからあを特殊のものには、それ以上も貸し得るように規定をかえました。それから本部でもつてすべての選考をするわけにいきませんので、中等學校以下のものについては、各府縣の支部に任せまして、そこから推薦をしてもらうようにいたします。その割當については相當科學的な綿密な割當をいたしまして各府縣の應募者を募るようにいたしております。今後は相當社會政策的な意味においての教育奬勵というようなことが期待されると思つております。
孤兒の教育でございますが、戰災その他外地引揚げ等の事情でもつて、義務教育を受けることの困難なような事情のあります者につきましては、國庫が補助をいたして修學の徹底を期するようにいたしております。二十二年度の豫算のうちで戰災孤兒は大體二千五百人ぐらい、外地引揚げ等の困つておる兒童が約一萬人ぐらいあるかと思いますが、これらの者に對しては、親のいないようなものは集團的に合宿させまして、生活の安定をはかると同時に義務教育も施していきたいという考えであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=64
-
065・永井勝次郎
○永井委員 委員長から御注意もありますので、男女共學の問題、給食の問題、學校教育の問題、あるいは教育行政の問題等いろいろお尋ねしたいことがあるのでありますが、省略しまして最後に教育財政の問題であります。教育に關心をもつ者のすべてが關心をもち、そうして國の教育の振興をはかるという熱意においては、變りはないのでありますが、それをいかにして具現するかという點について行き詰まるのは、財政の問題であります。財政といつても、これからこれまでは教育費に使つてよろしい、これ以上は使つてはいけないという區分があるのではなくして教育というものに國の一切の行動の上からどのくらい財源を割いたらよろしいかという、その人の價値判斷によつて、教育財源というものがふくれたり縮んだりするのでありまして、眞に國の政治が國の教育というものを眞劍に考え、民族の發展と國家の興隆の基盤は教育があるということを、眞に把握していきますならば、どういう苦しい中からでも、これ以上は誰がやつてもできないだろうと思われるだけの教育費を割くことは、可能であらうと思うのでありますが、現在の状態においては、これができておらない。殊に教育基本法を定め、あるいは學校教育法を定め、その他教育的な、革命的ないろいろな施策をなしたという呼びかけと、法文に現われたこれらの事柄というものは、まことに重大な内容をもつておるのでありますが、その重大な内容を具體的に、財政的にどれだけ國はこれを具體化したかという點にいきますと、われわれはまつたく憤慨にたえないないのであります。文部省當局としては、もちろんこれでは不滿でありましようが、もともと文部省が最初に提案された豫算というものは六十八億であつた。それが削り削られて、十億足らずの八億でありますか、それだけに縮減されてしまつたということでありますから、最初から文部當局が計畫された事柄の何十分の一ぐらいよりも實現しないということでありますから、この學制改革というものも、單に名目はよろしいが、その實效はまつたく問題にならないという結果に終つてしまつておることは——文部當局に對しては同情を寄せるのでありますが、また國の教育の將來ということを考えました場合に、われわれはこの點について教育の諸問題の締め括りとして、どうしても教育財政の問題は眞劍にお互いが考えていかなければならない問題だと考えておるわけであります。そこで從來小學校の教員の俸給というものも、分與税によつて半額を違つた形において出して、そうしてそれが財源にまわつていくという形にしておるのでありますが、これはそういうややこしいことをしないで、文部省は教員の給料金額を國庫から支辨するという形で、文部省の責任において、國の責任においてこれを經理するというお考えはないかどうか。分與税という形にして配付しますと、それが一般地方費の財源の中にはいつて、教育費として歸つてくるのではありません。たとえば教育の改善をするといたしましても、地方費においては、その半額を支出するために、財源があるとかないとかいう問題になつてきて、地方費と國費との間において、豫算の話合いをつけなければ動きがつかないというような状態になつておるのでありますが、まずこの教員の給與の問題を國費一本にするお考えはないか。これをひとつお伺いいたします。それから現在のところ校舍あるいは學校の内容施設というものを、市町村費に任せ放しでおりますが、これらに對しても——もちろん地方所在の公立學校というよりは、將來は私立學校の設立を慫慂し、その運營を期待するわけでありますが、日本の經濟的現状といたしましては、その餘力がないのでありますから、やはり國はこれらに對しても、校舍の新設あるいは内容の施設その他に對して、相當考えていかなければならぬと思うのでありますが、これらに對する考え方において、文部省はどう考えておるか。それから本年の豫算はこれでまた一應やむを得ないのでありますが二年次、三年次、新制中學が學年完成の時における學校教育の運營というものは一體どのくらいの豫算を必要とし、それの實現の可能性を、文部省はどういうふうににらんでおるのかということを伺いたいと思うのであります。小學校においても事務職員を置くことになつておりますが、これも事務職員を置くとすると、相當の増額であろうと思います。また女教師についての生理休暇というものも、勞働基準法その他團體協約等によつて規定されておるので、その休暇の日にちも相當多くなりますから、その點についても、さらに多くの増員を必要とすること、新制中學、小學校、これを含めたところの學校職員の數というものは、非常に増員になります。從來でも一人について一圓の給料を殖やすといつても、全體をまとめますと相當な額になるからというので教員の待遇改善と巡査の待遇改善は、これは量的になかなか財源が生み出せないということで、待遇が遲れていたのでありますが、さらに從來よりも非常に義務教育關係の職員の數が殖えてまいりましたならば、待遇の改善、學校施設、その他教育費關係における將來の見透しというものは、非常に困難になつてくる。量は殖えたが質は非常に低下するという方向をたどるのではないか。事實師範學校の入學志願者においてもその通りであります。あるいは經濟的力をもつているアメリカあたりにおきましても、教員の待遇は非常に低くて、そうして下の方の教員は女教師が中心であつて、常に異動が絶えないというような状態になつておるのでありますが、日本のような財政状態においては、一層そういう傾向がひどくなつて、義務教育は九年になつたが内容はまるで逆轉して低下した。そして教員の質も下り、教育全體として質的な低下を來すという結果になるのではないかということを、心配するのでありまして、こういう學校教育法が實施されるということには、その裏づけとして絶對にこの教育財政の確立ということが必要であり、この教育財政の確立なくしては、教權の確立も望めないということになると思うのでありまして、これらに對する文部當局のお考えを率直に示していただきたいと存じます。もし許されるならば豫算折衝の間におけるいろいろな論議の實情等についても、この場合ぶちまけていただくならば幸いに存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=65
-
066・日高第四郎
○日高政府委員 教育財政が獨立いたさなければ、ほんとうの意味の教育の自主性というものが確保されないという御意見は私どももまつたく同感であります。そういう意味において教育財政の獨立のためには、たとえば教育税というようなものが課し得るような制度が必要だと思いますが、その點になりますと財政や税制その他の全般的の問題とからんでまいりますので、文部省限りでそれを決定することもできませんのですが、それらの點については文部省といたしましては、御指摘のような方向に向つて、あらゆる努力をいたしたいと思つております。教育費のパーセンテージでございますが、これは大體昨年度が全體の豫算の二・二%で、今年が大體四・四%ぐらいだということを聞いております。かりに教育費と銘打つて出なくとも、それと性質の同じようなものを加えましたところで、大藏當局の話しますところでも、やはり六%以上にはならないらしいような話であります。實は私ども官吏の一人として、財政當局とかけ合つた經驗がございませんので、はなはだ無力でありまして十分な御期待に副うことができなかつたことを遺憾に思いますが、全體として教育というものが後囘しにしてもいいものだというような考えを、これはいわゆる官僚ばかりでなくて、大臣の皆さまもそういうふうに思つておられるのではないかという印象をもつのであります。それはむろん教育だけが大事なのではなくて、現在食糧の配給がうまくいかなかつたり戰災を受けた者が住めなかつたり、外地から歸つて來た者が職がなかつたりするというような、それら應急の措置が必要であつて、十分に手がまわらないという實情もございましようし、軍事費はなくなつても、終戰處理費というものは、負けた日本としては當然負わなければならない義務なんでありますが、こういうものも相當多額に上つており、しかも生産はあがらないし、收入の見込みがないというような状況でありますから、大藏當局としては、そう簡單に教育のためだからといつて金を出すことはできないのでありましようけれども、全體の日本の現在の政治における教育の重みというものが、非常に足りないのではないか。こういう點は私どもも、むろん責任がありますけれども國民全體としても教育をうまく育てることについて一層の努力が必要だということを痛感いたしております。分與税のことなどにつきましても、私もよく存じませんでしたが、分與税というものは本來教育のためにわけ與えられておるものだが、ほかに流用されて目的まで到達しないで横流れになつているというようなことも聞きました。はたしてそういう事實がどこにあるかは存じませんけれども、もしそういうことがあるとすれば、本來の目的とは違つたところの分與税が使われているということは、はなはだ遺憾でありますので、そういうことのないようにできるだけの處置をとりたいと思つております。國庫の負擔の問題でありますが、實は私ども今度の出發點においては、義務教育費は國庫負擔でもつて一本にして出發いたしたい所存でありまして、初めはその方針でかけ合つたのでありますが、行政機構等の改革や、あるいは税制の問題とか、そういうものとからみ合いまして、それを固守いたしますと、實行不能に陷るおそれがありますので、從來のような意味においての半額國庫負擔で、一應妥協をして出發したわけであります。御趣旨については、私どももできるだけ國庫負擔が實現いたしますように努力いたしたいと思います。もつとも國庫一本で負擔をするということについては公平なる意味において、多少の難點があるようなことを考えている向きもあります。それは地方の教育は、本來は地方で背負つて立つのが當然だ、それを國庫でもつて負擔するようになれば、地方の教育に對する熱意が、あるいは殺がれるかもしれない、また無責任になるかもしれない。そういうような點で、國庫負擔に對しても、公平な立場にいる人で、多少の異論を唱えている人もありますので、それらの點は、なおよく檢討を要すると思いますが、私どもの考えとしては、義務教育は國が國民を育て上げるという意味において、國庫負擔になつたならば一層有力でないかと思つておりますが、御趣旨の點も十分考慮いたしまして、今後のことを研究いたしたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=66
-
067・椎熊三郎
○椎熊委員長 森山ヨネ君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=67
-
068・森山ヨネ
○森山委員 私は重複を避けまして、ただ一點幼稚園のことについて伺いたいと存じます。幼兒教育の重要性は、今さらあらためて申すまでもないことでございます。それにもかかわりませず、現在は制度についても、設備についても、ほとんど放任されておるような状態で、ただいまの施設では、幼稚園とそれから託兒所と合わせまして適齡兒童の約一割五分くらいしか收容できるに過ぎないのであります。家庭からも、教育の當事者からも、常にその増強を切に要望されておるのでございますが、こういう點につきまして、文部省としてはどういうような御計畫をおもちでありますか、伺いたいのであります。
次に從來幼兒の教育は、文部省所管の幼稚園と、厚生省所管の託兒所と、この二本建になつておつたのでございますが、今後これはどういうふうになつてまいりますものですか。その兩者の間にはこれまで差別的の感情をもたせられておるような感じがしたのでありますが、これがもし一元的になりませんようでございましたら、年齡でもわけられまして、滿三歳以上を幼稚園それ以下の小兒を託兒所の方で扱うという工合になされてはいかがかと存じますが、どんなものでございますか。
それから次に、小學校に續きます一箇年だけは、義務制にしていただきたい、こう思うのでございますが、その點はいかがでございますか。また私立の幼稚園というのは、ただいま隨分たくさんあるのでございますが、これは殊に經營が困難のようでございますので、これに對する經費の補助というような點についてはどういうふうにお考えでございますか。
それから保姆の待遇でございますが殊に私立幼稚園の保姆の待遇は、まことに同情にたえないようなものでございます。そのために隨分ほかの方の職域に行き、小學校の方の先生に變つたりするようなことが多いようでございますが、何とか適正に國家で待遇を保障していただくようにできないものでしようか。なおそういう保姆と申しますか、今度は教員となつておるようでありますが、養成機關が、ただいままでは官立のがたつた二つだけで、あとは全部私立でございまして、幼兒を託しますに、その資格が十分あるということは考えられないのでございますがこういうような幼兒教育のために、もつとそういう養成機關を殖やされたいのですが、養成機關についてはどういう御計畫でございますかということを伺いたいのでございます。以上幼兒教育につきまして數點御意見を伺わせていただきとうございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=68
-
069・日高第四郎
○日高政府委員 幼稚園のことについてお答え申し上げますが、實は中には幼稚園は學校外に出しておいてもいいというような意見もありましたのですが、教育刷新委員會等においても、幼稚園をやはり學校の中にはつきり入れて、そうして將來の充實を期する方が正當であるというような意見によりまして、はなはだ不滿足ではありますけれども、一應幼稚園を小學校の下の學校というように法律で認めまして、徐徐にこれの充實と向上とに努めていきたいというふうに考えております。現在の實情につきましては、ちようど擔當の者が來ておりますので、お話のような幼稚園と託兒所との關係等の實情は、説明員から御説明申し上げます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=69
-
070・坂元彦太郎
○坂元説明員 ただいま申し上げましたように、幼稚園は學校教育の一環として重視されるようになつた。しかしながら幼稚園にいたしましても、託兒所にいたしましても、それぞれ該當年齡者の一割に滿たない者しか現在收容いたしておりません。それを就學前一年間を義務制にするということは、まことに理想であつて、私どもはそういう方向へいくように、現在の幼稚園にしても託兒所にしても、もつともつと充實していつて、ある程度それができ上つたときに、義務制というようなことを考えてみたい。今はまだそれまでの準備期間ではなかろうかというふうに考えて、これから一層努力していきたいと思つております。託兒所と幼稚園とを一元化したらどうかということはその方面の當事者たちの輿論でございまして、私どももちようど學校教育法なり、あるいは厚生省で兒童福祉法というものが計畫されておるようでございますが、それをつくるときに、兩者で十分に話合つたのであります。何とかして一元化できないかということを話合つてみたのでございますが、しかしいずれも大體似たような勢力でもありますし、まだいずれも一割以下といつた收容幼兒數でございますので、この際はまずお互いにどつちでもよいから、幼兒收容機關が殖える方がよいのでなかろうかというので、私どもとしては不本意でありましたが、兩方とも自分たちの機能を發揮して、幼兒教育のために盡そう。そうして保育内容につきましては、幼稚園の方でいろいろきめて、教育的のものを託兒所の方でも見てもらう。幼稚園の方におけるいろいろな幼兒の保護に對する施設については、厚生省の方でもできるだけの援助をしてもらうといつたようなところで、今折れ合つて、兩方とも並列していくという状態であります。將來の問題についてはお互いの力關係が強くなるにつれて、何とか善處解決していかなければならぬと思うのであります。こういう状態であります。國家財政の現在の情勢が六・三・三さえむずかしい状態でありまして、公立の幼稚園さえ補助その他ができない際でありますので、私立の幼稚園の補助等につきましては、國家として十分なことができないことを非常に殘念に思つておりますけれども、將來この點にも財政的の援助を得たいと思つております。
保姆の待遇の薄いことにつきましては御説の通りであります。まことに殘念に思つておりますが、一つは御指摘のように、保姆の養成機關と申しますか、その方の整備がないために、保姆というものが程度が低いということから、待遇が低いということもございます。從つて保姆を養成することが非常にこの際大切な問題であることはまことに同感でございまして、將來教員養成の機關についていろいろ文部省で計畫研究中でございますが、その中の一環として、保姆も入れてもらおうというように考えて、大體小學校、中學校の先生と同じ程度の學校を出た者が一番正式の保姆であるといつたふうにいきたいものだと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=70
-
071・森山ヨネ
○森山委員 せいぜい御助力をお願い申し上げます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=71
-
072・椎熊三郎
○椎熊委員長 松原君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=72
-
073・松原一彦
○松原委員 文相に率直にお尋ね申しますが、實はこの國歩艱難の間に、教育費を潤澤にとつて文教の基礎を新たにすえ直そうというようなことは、至難のことであることを、われわれは十分認めるのでありますけれども、しかし國防なき文化國家の建設には、どうしても文教を基本にすえなければならない。これは總理大臣の施政方針の演説にも、たびたび言われたのでありますが、それにもかかわらず、昨年度以來の實際面に現われたる豫算の文化方面への分配が、非常に貧弱なことは、先刻も日高學校教育局長からのお話のあつた通りで、われわれは實に殘念に思つてたまらないのでございます。しかしこれは單なる財政上の問題ではなくして一つの政府の性格の問題ではないかとすらも私は思います。と申しますことは、昨年も——これは一應取消された言葉でありますから、繰返すことは遠慮いたしたいのでございますけれども、大藏大臣は率直に言えば、今日は教育などする時じやないということを言つておられる。今は教育などしておられるような時でない、食うことが先だ。資材もなければ一切の物もない、學校も建たない、教員の待遇もできない、教育などしてはおれない時だということまで、放言しておられるのであります。これは一應取消されたとはいうものの、その後に現われまする實際を見ますと、どうも文教方面に對する熱意は非常に薄弱であるのであります。これは私は現内閣の性格ではないかと思う。そういう面が多量にある。これを何とかして性格を一變してでも、文教の振興に向つて積極的なる態度をとらせなければ、日本の今後の世界に對する新憲法の宣言の上から申しましても、相濟まぬことだと私は信ずる。そういう意味におきまして私は文相の政治力の今後の最も旺盛に發揮せらるることをば希望する一人であります。この意味から申しまして、前田中文相はまことに立派な方でございましたが、教育の中立性を説かれて、そして政黨に入ることをば拒否せられておつたと私は承知いたしております。私はこの態度に對しては、いろいろ意見もありましようが、よろしくないと思う。政黨が何で惡いか。今後の政治はどうしても大きな政黨をバツクにしなければ、實現の可能性がないのであります。そうして政黨の政策の中にこれがゆたかにふだんから織りこまれておらなければ、政黨に籍のない一大臣が突然閣議に六・三制を持ち出しても、結局輕く扱われてしまつて、孤立無援の姿に陷るのであります。いくら高い理想を描いておりましても、ふだんから黨議としてこれが確定し、政府の一つの性格としてこれをば抱懷しておらない限り、この實現の可能性は非常に薄いのであります。こういう意味におきまして、私は強力なる政黨を背景にもつ文部大臣でなければ、今後の文教の振興はできないということを思う。政黨は決して昔のような政黨であつてはならないし、あらせてはならない。政黨は正しいものであり、よいものでなくてはならないのであります。そういう意味におきまして、文化人、哲學者等の強い理解をもつ人が政黨の内部におつて、常に政黨の淨化、向上進展をはからなければならないのでありますが、この意味におきまして、現文相は文部大臣と政黨との關係をどうごらんになるか。また文相個人としても、政黨に黨籍をおもちになる御意思があるかないかを、私は率直にここでお聽きしておきたい。これは將來の文教の進展に、政治力いかんということが非常な大きな問題になることを私は痛感しましたので、實は眞先に伺いたいと思つておいでを願つたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=73
-
074・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 私に政治力のないこと、しばしば諸方面の方々から話を伺つているのであります。この學校教育法を實施いたしますにつきましても、まことにわずかな豫算しか計上せられなかつたということ、その大きな原因の一つは、私の力の乏しいということにあつたことは、むろん私も考えているのでありますが、しかしながら政黨に籍を置かない私といたしまして、やや滿足に思われますることはだんだん閣僚諸君におきましても、教育の重要性ということが認められることになりまして、最初はこの案の閣議を通過いたしますることすら、ずいぶん危ぶまれたのでありますが、いろいろ意見はありましたものの、とにかくこれが閣議を通過することに相なりました。初まりは文部省から出しましたところの六十八億の豫算というものが、全然削除せられてしまつたのでありますが、とにかく少いながらも八億なにがしというものが計上せられることになりまして、他の閣僚たちも、明年度においては二十億、それから第三年度におきましては六十億、あるいは多く見積りますると、百二十億というような數字があがつているのでありまして、だんだんこれらの點において理解が深まつていくべきではないかと考えられているのであります。全體の豫算に對しまする割合なども、昨年度におきましては二・二%でありましたところのものが、これは見積りようによつていろいろでありますが、本年は四・四%あるいは六%というところまでまいつているのであります。物價騰貴その他の點を考えますと、それはまことにわずかな増加率に過ぎないのでありますけれども、さらに今後におきまして諸君の御支援を得ますならば、さらに多くの豫算を計上せしめることができると考えているのであります。それからまた最近におきましても、昨日でありましたか、一昨日でありましたかも、この委員會において申し上げましたように、大藏大臣はこの六・三案の實施に伴いまする教員の再教育、研究費というような方面におきまして、よほど考慮をしてくれるように見えているのであります。おそらく、この點において相當あるいは御不滿があるかもしれないのでありまするが、今日の豫算の上におきましては、かなりの額がその方に割かれるのではないかと考えておりますしなおでき得べくんば文化施設の費用といたしまして、一面においては失業救濟の意味におきまして、種々なる設備を行いますがために、幾分のものが頂戴できるのではないかという希望をかけているのであります。政黨に籍を置かない大臣が文部大臣の職にあるということが、文部省の力を弱からしめているという御意見、まことにごもつともと考えるのでありますが、一面から見ますると、また黨に籍をもたない者が文部大臣であるということが、かえつていい結果を得るということもありはしないかなどと考えているのでありますが、私一個の問題につきましては冷靜に判斷いたしまして、私ごとき黨籍なき者が、文部大臣の地位にいつまでも留まつておりますることが、日本文教の發達の上に害があるものであるあるいはその進歩を妨げるものであるとかいうことが、はつきり自分にのみこめるようになりましたならば、潔く自分のこの地位を去る覺悟でおります。ただいまのところでは、特にある黨派に入黨しようというような考えは私もつておらないのでございます。以上お答えいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=74
-
075・松原一彦
○松原委員 よくわかりましたが、先般六十八億の六・三制實施に關する豫算がつぶれたということを聞きました時分に、われわれは非常に驚きまして急遽院内にありまする文教振興議員聯盟の幹部の召集をいたしまして、各黨から一名づつの幹部が大藏大臣に面談しまして、講和談判に臨む日本の態度としては、いかなる貧乏の中からでも積極的な平和文化に貢献する日本の精進ぶりをば、見せなければならない必須の要件になつておるのである。六・三制の問題は、アメリカの示唆でもあり、國民こぞつて期待しておるのであるから、たといいくらでもよろしいから、踏み出しの一歩をばこの際につけておかぬという法はない。資材がない人がない。いつまで待つたら資材ができるか、いつまで經つたら人が、整うか。それは百年河清をまつにひとしい。そういうことは待つておれないから、とにかくわれわれは乏しいながらも、どんな貧乏でも教育はやるという必死の意氣ごみをこの際に示したいというので、大藏大臣に迫りましたところが、その時分の大藏大臣の言葉の中に、こういう言葉があつたことを、私は聞き捨てならぬと思つております。文部省は將來嵩んでいくところの教育費に對する、まだ自信をもつておらぬといつたような言葉があつた。これは私は率直にその場で文相にもお傳えしたのでありますが、文部省の要求がまだ迫力をもつた要求でないという輕いあしらいが、常に大藏大臣の口のはしから上ることを、實に遺憾に思う。はなはだ言葉尻をとらえるようで相濟みませんけれども、ただいま文相が、將來は理解もついたから、何ぼかわけて貰えるのじやないかという期待をもつといつたようなお言葉に對しては、私は非常な遺憾をもつのであります。その態度はよろしくない。大藏省に行つて頭を下げて、主計局長にお百度踏んで豫算を貰つてくるというような態度は私はよろしくないと思う。これは大藏省に命じて出さすべきである。大藏省は一つの勘定奉行に過ぎない。政治はその局に當る者が全身の努力を傾けて必死の要求で實現を命ずべきものであつて、その費用は、大藏省はこれを數字的に計算すればよろしい。頭を下げて貰つてくるといつたような態度が續く限りにおいて、私は教育の振興はできぬと思う。日本の將來は、國民文化を高める以外に立つ瀬はないのであります。國民文化は、當然その中に生産を含めたる文化でありまするが、その意味におきまして、日本の國民の素質が今日非常に低下しつつあることは、もう御承知の通りと思うのであります。私どもはこの際日本の教育を、もつともつと積極的な迫力のある、自信のある、情熱のある理想の高いものに轉換しない限り、日本は滅びるという悲觀をもつものであります。現に今日、教育者はあらゆる方面に希望を失つてそうしてこの混亂期において一つの空白状態を出現しておる、そうして一介の勞働者であることをば、みずから高調しておる。私は決して勞働者をさげすむのではございません。勞働者は一つの技術者であります、勞務の提供者でありますが、教育の勞務というものは、單なる物の上に現われる勞務でなくして、その精神の中に無限の權威と價値とを含んだものでなくてはならないのであります。しかるにもかかわらず、一勞務者としての態度の上に、今日晏如としておる姿がありはしないか。現に私は先般偶然都下の知人の家で、國民學校から歸つた子供が言いますのにきよう先生は僕らに、お前らを一時間教えて五錢にしかならない、五十人だから二圓五十錢だ、五時間教えてこれこれだ、それがお前らを教える費用だ、俺の賃金だ、それで食えると思うかと子供に言つたということであります。實に私は悲慘な言葉だと思う。お前らを教えて一時間五錢にしかならない。そういうことで一體教育ができるものかどうか。それは勞務者として、教師がみずからそろばんはじいて考えるならばそれでもよろしいが、いやしくも子供に向つて教室でさような放言をして、みずからをさげすんでおる。その姿の上に私は亡國の徴があると思う。こういう教育をいくらされても、日本は救われません、斷じて救われない。私はこの際文相が身を挺して日本の教育の建直しの上に、必死の御努力をくださらんことをば、切望するものであります。それはただ文相だけではない政府全體がその意氣にならなければならないのであります。今の政府は、この點においてはびつこである。非常に文化的要素を欠いておる。私はそれを實に遺憾に思う。殊に政治力の上におきましても、率直に申せば、ぎりぎり切羽詰まるところまで押しこまれなければ、教育の待遇改善もできないというような姿であるのである。なぜ先手を打たないか。教育優先の原則は議會でとつくに決議しておる。その優先の原則に從つて出そうというところの研究費も、遂にお流れになつた形になつておつたのでありますが、どうやら最近に十二月分の研究費は片がついたやに聞きますが、この際一應その邊のことを伺いたい。私は研究費の名にかりて教員の月給の不足を補つてやるといつたような態度は、きわめて惡いと思う。そういう覇道を通つてはいかぬと思う。これは邪道であります。今日ほど教育者に研究を要する問題の多いことはないのであります。民主教育のあり方、農村生活のあり方、農村學校の建て方、その他青年教育等、いろいろ數限りもない問題が眼前に横たわつておるのでありますが、そういう方面はまつたく閑却されておつて、單なる待遇改善の要求に向つて、獅子奮迅の全勢力を傾けたる鬪爭をやつておるだけであります。もちろん食わなければなりません、食わせなければなりません。議會も教育優先の原則は、はつきり認めておるのでありますから、その優先の原則に從つて、官吏並以上の待遇はとつくの昔にとつてやらなければならないのでありますが、それができないために、今日かような邪道に陷つておることを、私は痛感いたすものであります。研究費のことが、今文相から大藏大臣の諒解を得たというお話がありましたので、やや心を強ういたしますが、私はこの點につきまして、ここに積極的なる轉換を切望するものであります。
〔委員長退席、小川原委員長代理着席〕
研究費を研究費として出してもらいたい。これは待遇不足のたし前になるような研究費であつてはならないと思う。優秀なる研究を行つておる訓導に對しては、どしどし研究費を個人的にも與えてよろしいし、一つの學校が一つの研究をもつ、一人のあるところ一研究あり、一學校のあるところ一研究あり、研究學校、研究の優秀なる教員これを見出しては、ここに研究費を與えて助成をする。あるいは府縣によつての大きな研究も行われましようし、ただいま申し上げましたようないろいろな條項に從つて、日本の教育には數限りもなく研究すべき題目が横たわつているのであります。特に教員をして大きい希望をもたせるためには、この際私は日本を見直さなければならぬと思ふ。日本を見直すということは、日本の中におつてはわからぬのであります。もう一遍日本を海の外に出て客觀しなければならぬのであります。外から日本を客觀的に見直すことによつて日本の獨りよがりの愚かさもはつきりわかりますし、世界の文化に對する遲れ方も明瞭になるのでありますから、明治維新當時のごとく、この際は新たなる一つの維新として、わが教員の中の優秀な者を、アメリカ、ロシヤ、デンマーク、スエーデンその他、日本が窮乏を耐え忍んでいくのに積極的に參考となる優秀なる國々への大量なる派遣を、この際研究費の中に盛りこんでいただきたいと思うのであります。アメリカへ行つてアメリカを見るのじやない。アメリカに立つて日本を見直すのである。デンマークに立つて、あの貧弱なるデンマークがどうしてこんなものになつたかを足場にして、日本をもう一遍再檢討させるのであります。日本を見にアメリカにやるのであります。こういう意味におきまして、私は先般文部省の吏僚の方から、講和談判が終り次第に派遣する用意をもつている、少からざる豫算をも構想としては既に用意しているということを聽きまして、非常に喜んでいるのでありますが、もしそういうような教育面の積極的なる研究の御想定があるならば、この際御發表願つて記録に殘し、廣く日本の教育者に傳えて、その希望に輝きを與えたいと思うのでございますが、そういう御計畫があるかないか、この際承りたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=75
-
076・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 最初にお話のございました六・三制實施に伴いまする六十八億の豫算が削除せられました當時、大藏大臣の言われました言葉は、何と申しましたかはつきり覺えませんが、文部省にはこれを實行する自信がないとか、誠意がないとかいうような點でございます。當時私は教育刷新委員會の一員として、文部省の意見、文部當局の意見をただ聽くことができたのみであります。これは文部次官を通じて刷新委員會の席上において聽いたのでありまするが、實際において、少くともこの案を二十二年度から實施に移すということにつきましては、文部當局においてはよほど難色があつた、こう申してよかろうと思うのであります。相當準備期間をおかなければ、とうていこの大きな改革を行うことはできないという意見をも、確かに私は聞いておつたのであります。しかしながらその後になりますと、文部當局は非常な熱意を示しまして、どうしても今年度からこれを實行しなければならぬという固い決意をもつて進んでまいつたのであります。私が就任いたしました當時におきまして、まず第一に決心を固めましたことは、どうしてもこの案を實行に移さなければならぬ。たとえ少いながらも、追加豫算の中に、これを實行するに要する費用を、幾分でも計上してもらいたいと考えまして、私はまだ親任式も行われない時であつたのでありますが、新聞記者團との會見におきまして、これを明らかにいたしたのであります。さいわいにして先ほども述べましたように、これが閣議を通過することに相なり、わずかながらも八億何がしを計上することができまして、本年度から實行に移すことができることに相なつたのでありまして、それにつけましても、この法案の通過を希望してやまない次第であります。
それから先ほどお話の、私の言葉が非常に弱過ぎる、大藏當局に對しましてあまりにも卑屈な言葉であるというお言葉であつたのでありますが、實際におきまして、もう既に豫算はでき上つておりまして、ただ追加豫算として幾分の要求をすることができるということであり、それからまたこれから先のものは豫備費と申しますか、この中から支出する、こういうようなことになつているのであります。そのために私の態度もよほど、何と申しますか、卑屈というほどのことも自分では考えないのでありますが、幾分下手に出るというようなことに相なつているのでありますが、もし私がこの任に留まつておりますならば、むろん教育立國の原則を掲げまして、堂々大藏當局にも迫つていかなければならぬと考えているのであります。
それからなお研究費のこと、十二月分の給與の點にもお觸れになつたのでありますが、教全連と稱します教員組合と、田中前文部大臣との間のいきさつは、よほど田中氏を惱ましておつたとみえまして、打明け話をすれば、事務引繼の際——これはごく短時間のうちに行われた事務引繼であつたのでありますが、ほかのことは何にも言われませんでしたが、ただこの十二月分の給與の問題について、特に話をされたのであります。しかしながらこれは新しい事情の變化によりまして、どうも十二月分の給與を今日支給することに努力いたすことが、はなはだ困難になつてきているのであります。ただいまもお話があつたのでありますが、それよりは、むしろ六・三制度の實施につれまして、教員の再教育を施さなければならぬ、研究費を出す必要がある。こう考えましたので、この點を力説いたしまして、大藏大臣とも交渉を進めたのであります。大藏大臣もこの點を諒とせられまして、教員自身の手にはいります金というものは、きわめてわずかなものになりはしないかと考えられるのでありますが、その代りにこれらの人々の研究に役立ちますところのものを多くいたしまして、新しい制度をより有效に實行させるに役立たせたい。こう考えておるのでありますが、近く實現せられることと思いまするしまた教員組合の代表たちもこの點を諒としてくれるだろうと思われるのであります。決して自分達の手にはいる金のみに重きを置いて、かれこれ言うことはあるまいと考えております。具體的な案をもつて、彼らとまだ交渉はいたしてはおらぬのでありますけれどもその點は十分誠意をもつて、教員らしい面目を出してくれることだろうと考えておるのであります。あるいはまだ申し足りない點があるかも知れぬのでありますが、一應の御答辯を申し上げた次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=76
-
077・松原一彦
○松原委員 積極的なる研究計畫の方はどうですか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=77
-
078・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 私もその後のことをよく存じなかつたのでありますが、今日高局長から伺うところによりますると、司令部との話がまだほんとうについておらぬのだそうでありまして、平和會議後のことになるのであるからというので、まだはつきりした囘答を得ておらぬということでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=78
-
079・松原一彦
○松原委員 先般豫算委員會の席上でわれわれの方の委員から、大藏大臣に質問しました時には、一人當り三百圓約一億圓に近い十二月の分の研究費だけは承認したということを、私は聽いたのであります。委員に確めました結果は、間違いがない、大藏大臣は席上ではつきり承認したというので、私は他にもこれを傳え、前文相にも手紙をもつて實は御安心を願いたい、ここまでまいつたということを報告したのでありますが、これはまだ確かではないのでございましようか。その邊の消息を御發表願いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=79
-
080・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 私と大藏大臣の話をいたしましたところでは十二月分の給與では出さぬ。こういうことになつておるのであります。先ほども申し上げましたように、事情がその後變化しておるのであるからして、十二月分の給與はあのままに打切つてしまう。こういうことで話は一致しておるのでありますが、ただいま申しました研究費、これにただいま申しました六・三制の實施に伴いまする教員の研究費、こういたしまして、大よそこれに相當する額を支出するということで大藏大臣と諒解ができておるのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=80
-
081・松原一彦
○松原委員 その額はまだはつきりわかりませんでしようか。大よそその席では三百圓と大藏大臣が言つたということを私は聽いたのでありますが、それは十二月分とは申さなくても、研究費として十二月に一箇月分だけあれは殘つておる。あとはこの暫定給與で一月からは一般的になりましたけれども、殘つておるのは十二月の研究費という名目のものが殘つておる。それが今囘三百圓程度において全教員に分配せられるように豫算委員會では聽いたといふことでありますが、その點わかりますならば、たとえ十二月と言わずとも、その程度のものが研究費の名をもつて出るのか出ないのか。御明答を願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=81
-
082・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 最初は一億何がしということに相なつておつたと思います。その後になりまして八千何百萬圓ということになつておつたと思います。一人當りおよそ三百圓、つまりそれだけのものを出すという諒解がほぼついておるのでありますが、ただいま申しましたように、何分今日は書籍なども高いことであるしいたしますので、金で與えるということがかえつて效果が少いことになりはしないか。それよりもむしろ文部省において教員の參考書として必要なものなどを印刷して、そうしてそれを配付する。そのほか研究會を催し、これに臨む旅費とかいうような名目でもつて支出をするというようなことで、大よそ諒解はついておるのでございますが、詳細の點は、まだはつきり計算をいたしておらぬのであります。どの費目にどれだけ割くかということは、まだ話がついておらぬのでござります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=82
-
083・松原一彦
○松原委員 重ねてでございますが、それは本年度内の支出と心得ますが、さように思つてよろしゆうございますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=83
-
084・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 二十二年の度の豫算費から支出されることになるのだと私は考えておるのでありますが、その點まだはつきり打合わせをしたわけではないのでございます。二十二年度の豫備費から出されて、この四月から講習そのほかのことが行われることになつております。こう思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=84
-
085・日高第四郎
○日高政府委員 補足的に申しますが大臣と大臣との間のお話合いがついたそうでありますので、事務の方に言いつけまして、そうして大體昨年度の十二月分に當るものを、全然新しい名義でもつて、新教育の研究費という名前で大藏省に要求することにしました。大體の基礎は一人三百圓ぐらいの見當で見積りまして、それを昨日大藏省と折衝いたしております。それはまだ返答を聽いておりませんですが、全體の額においては、大臣と大臣のお話合いもありまするし、名目は全然新しい名目でもつて出すという打合せになつておりますから、二十二年度の豫備金の中から出されるものと期待しております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=85
-
086・松原一彦
○松原委員 どうもはつきりいたしませんが、あの大藏大臣はなかなか食えないのでありますから、よほどしつかり、いい加減な御交渉でなく押えておかないと、また尻が拔けてしまうおそれがあると私は思うのであります。どうか十二分の御用心の上にこれが確實に現われることを期待してやみません。
次に伺いますが、この學校教育法は根本的な基本通則と思いますが、これを實施するためには、この下に勅令、省令に當たるところの施行規則、施行細則等が出なければならないものと思いますが、それはどの程度にまで監督官廳である文部省がこれをおつくりになり、また小學校の監督廳は「當分の間東京都長官、北海道廳長官又は府縣知事とする」とありますが、これはすぐ近くに公選による府縣知事の責任に移ると思いますが、どの程度にまで地方の實況に應じて運營し得るものを地方でつくり得るのか。その邊に今日の大綱の御心構えがありまするならば、今後どの程度のものをばおつくりになるかをお聽かせを願いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=86
-
087・剣木亨弘
○剣木政府委員 お答え申し上げます。その點につきましては學校教育法の第六條に「監督廳」と定めてありますのが、「當分の間、これを文部大臣とする」というふうに讀みかえてございます。第三條におきまする學校規準でございますとか、この第六條におきまする國立または公立の學校の授業料、そういうようなものにつきまして、さしあたり文部大臣が施行規則といたしましてきめる範圍のところを書いてございます。しかしこれは「當分の間」ということにいたしておるのでございまして前にも申し上げましたように、將來は各都道府縣及び市町村に教育委員會というようなものを豫想いたしまして、それが完成いたしました場合においては、相當の部分を都道府縣、市町村に移しまして、文部大臣の權限からはずしていいのじやないか。そういうようなことを考えまして、どの程度にそれをはずすかは、實際地方の分散の程度なり状況によつて違うと思いますので、そういう際に研究して移すようにいたしたい。こういうような考えでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=87
-
088・松原一彦
○松原委員 任免、賞罰あるいは服務規程といつたものも、この際一應文部大臣がお定めになるのでありますか。また將來そういうものは廣汎に自治の權能を與えられたる地方の府縣知事がこれを左右するだけの餘裕をおおきになるものであるかどうか、この邊のことをお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=88
-
089・剣木亨弘
○剣木政府委員 任免につきましては官立及び公立については、現在官吏でございますので、官吏としてのいわゆる官吏服務紀律、そういうものが一般に適用になるわけでございますし。
〔小川原委員長代理退席、委員長着席〕
私立學校その他の任免につきましては法規上だけの問題でございます。それ以上のこまかい點は、先の問題にございます免許状の問題以外にはいたさないつもりでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=89
-
090・松原一彦
○松原委員 しかし先般文部大臣が教員組合と團體協約を結ばれたことが新聞に傳わつております。これによると一日の授業時間數、一週間の勤務時間數、その他こまかな點まで勞働協約として御締結になつておるようでありますが、これは地方で監督に當る監督廳の權限を侵害するおそれはないか。文部大臣がかくのごとき協約をお認めになつた以上は、地方の監督廳はこの範圍においてのみ、この教員たちを指揮命令する權能しかもたれないことになる。かようなこまかな點までも文部大臣が協約をお結びになつて、はたして地方の自治は動きがとれるかどうか。私はこの點についての御意見を承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=90
-
091・剣木亨弘
○剣木政府委員 勞働協約を全教協及び教全連勞働組合と締結いたしましたのは、事實でございます。その中にお説のように、文部大臣が直接に協約の當事者となり得るかどうか、その點について相當の疑問がある内容があるのでございます。その點は實際上締結のその内容によりましては、地方長官の權限に屬することであつて、文部大臣がさしきめましてもそれは地方長官を拘束する意味でない。事實上の拘束はいたさない。ただ勞働協約者相互の間の約束というような意味合において締結いたしておるのでございます。具體的には執務時間の問題でございますが一週四十八時間制というのは、勞働基準法によつてきまりまして、やはり學校の教員にも適用になるわけでございます。それについて大體四十二時間というのは、日本の小學校の教育については——いわゆる國鐵の勞働協約等については、休みの時間を含むということになつておりますが、教育者については、給食の時間といえども、事實は休みでないのでございまして、兒童とともに食事をし、遊んでやるということも休憩時間と考えられませんので、大體ほんとうに學校においてやる時間を拘束四十二時間ぐらいに認めまして、なお事實問題といたしましては、學校から歸りまして夜間にも準備をしたりいろいろ實は特別の勤務に服するわけでありまして、そういつたような意味において、實際學校にいなければならぬ時間を四十二時間といたしたのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=91
-
092・松原一彦
○松原委員 この協約によりますと、今後教員の授業時間は一日四時限となつております。われわれは普通小學校の授業は五時限と今日まで思つてまいつております。こうなりますと四時限となつておりますが、これではたして學校の運營がきくのでありましようかどうか。またさらに團體協約の第九章以下には、本協約以外の都道府縣と加盟各都道府縣組合との協議の内容をも、文部大臣は協約しておいでになりますが、一體かような權利が文部大臣におありになるかどうか。大體文部大臣は行政の長官であると私は心得ておりますが、文部大臣は勞働法によるところの雇傭者であるかどうか。この點につきまして、私は文部大臣の見解を伺いたいのであります。なお附け加えて申しますが、一體學校の教員の雇傭者は誰であるか。文部大臣がはたして雇傭者であつて、會社や銀行等の事業團體が勞務者をば使用しておるところの責任者として、法の定めるところによつて勞務者との間に締結する勞働協約と同じ意味に、文部大臣と教員とが扱われるものであるかどうか。事業會社工場等は、その收入において社長等が經營の責任において支出することができますが、國家の教員と、文部大臣が雇傭者のごとき地位に立つて、かような協約をして、はたして眞の效力があるものかどうか。またこの拘束をさらに進めて都道府縣の知事と都道府縣の組合との協約の内容にまで立入つて、かような協約を結ばれることが、はたして越權でないのであるかどうか。この點につきましては既に現におやりになつておりますからして、よくよくの自信をおもちになつておることと思うのでありますが、その點につきまする明確なる御答辯を願いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=92
-
093・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 團體協約を締結いたしますにつきましては、私初め文部省におきましては、この陰鬱な教育界の空氣を一掃してしまいたい。この際にはある點まで讓歩いたしましても、教員を明朗な氣持に立ち還らせ、鬪爭態勢を解いて、教育者の面目を發揮して十分兒童の教育に邁進せしめたい、こういう考えで協議を進めてまいつたのであります。ただいまお話の點につきましては、もつぱら中勞委の解釋に從つたのであります。なお詳しいことは代表と直接折衝の任に當られました剣木次長が出席しておられますので、その方からお聽取り願いたいのであります。官公吏の雇傭者は、法律的に解釋いたしますれば國であり、國民を代表する議會ではないかと思いまするが、その交渉相手といたしましては、文部大臣がなつて差支えないとの解釋によつたのであります。この點において、中勞委とまつたく同一と申しますか、むしろ中勞委の解釋に從つたのであります。なお言葉の足りませんところはどうぞ政府委員からお聽取り願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=93
-
094・剣木亨弘
○剣木政府委員 勞働協約全體につきまして、團體交渉の結果生じました事柄につきましては、文部省といたしましても決して滿足なものであるとは考えておりません。ただしかし、御存じのように二・一ゼネストの中止命令に基きまして、大體スト態勢を解くという場合におきまして、特に私どもといたしましては、一日も早く教育者を鬪爭といつたような態勢からはずしまして、早くその職場に歸つてもらいたい。特に六・三制を控えております今日、いつまでもそういつた状態にあつては相ならないと考えまして、實は多少の無理のあることは承知の上で、できるだけ早くこの締結をいたしまして今後は鬪爭ということでなしに、十分勞働者と協議の上やつていこう。そうして新しい兩者が、ほんとうに文部省も教育者も一緒になつた氣持をもちまして、新しい六・三の新學制にぶつかつていかなければ、とうてい實質上の成果をあげられない。そういう氣持をもちまして、勞働協約を締結いたしたのでございます。從つて今御指摘になりました各種の御疑問、その他の點もあろうかと存ずるのであります。ただ地方長官に關しましての規定をいたしておるのでありますが、これは一應地方長官に對しまして、これを勸奬するという程度でありまして、決して強制したり、またその規定の内容について必ずこういうふうに規定せよというような意味合のものではございませんから、各府縣におきまする教員組合が、地方長官と勞働協約をいたします場合に、大體の參考になるようなことを、一應この勞働協約できめたのであります。決して地方長官の權限を侵すという意味合ではないのであります。その點御諒承を願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=94
-
095・松原一彦
○松原委員 私は官僚支配から思い切つて民主的方面への大轉換を要するのでありますからして、教員組合の意向をくみとつて、今後天降り的の人事等が行われないことに對しては、滿足するものであります。ただしかしこの際われわれが考えなければならないことは、こういう場合には、えてして行き過ぎの行爲があるのであります。今囘締結せられましたところの團體協約の中には、教員の罷免、轉勤、視學官の罷免、學校長の任用、罷免、轉勤、本人の意思にあらざる轉勤及び休職、退職、その他いろいろな問題が、今後地方における人事委員會の審議によつて決定する。もちろんこれには重視すると書いてありますが、決定が重視せられることになりまして、任免その他に非常な手數を煩わす。あるいは午前中伊藤委員から質問申しましたように、集團の力によつて一種の横暴も、偏つたる處置も行われないとも限らないおそれもないではないかと考えるのであります。しかもこの協約は、ただいま文部省においては一つの情實的な意味からも、この際緩和策としてというお答えでありまするが、どうも私はそれは意に滿ちません。合法的なものであるならば正々堂々と御締結になるがよいし、少くもさような情實的なものを入れないでおやりになるがよいと思います。しかし、よほど自信がないようなお話であります上に、この有效期間は、なぜ締結の日から六箇月としたのであるか。また六箇月の期間の滿了一箇月前に、いずれよりも改廢の意思表示がない場合はさらに六箇月間有效とする。なお改廢の意思表示がある場合でも、新協約が成立するまではこの協約は有效であるということになつている。何ゆえに六箇月間というような短期に限つて、これをおきめになつたのであるか。自信のあるものならば、別にこんな短期に限る必要はない。また短期と限つておつても、この二十五條によれば、これはいつまでもひつぱるものであります。こういう意味において、一體かような協約はどういうことを意味するものかということを、伺いたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=95
-
096・剣木亨弘
○剣木政府委員 この勞働協約を六箇月に限りましたのは、大體組合側の申出によりまして、それを承認したわけでありますが、その理由といたしますところは、大體短期間にいたしましたのは、經濟界の變動が相當急激でございますので、長期にわたる勞働協約というものは、相當内容的にも變化を來す場合があり得るので、一應六箇月という短期にいたしたのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=96
-
097・松原一彦
○松原委員 ただいまのところでは、教員組合は全教協と教全連の二つしかありませんが、これは今單一になろうとして、なかなかなりかねる状態にあるのであります。私は單一になることを希望するものでありますが、もしこれが分裂して、またいくつかの組合ができる、あるいはこれに類するようなものが出たとき、なおこれと同じようないくつかの協約をお結びになる御意思かどうか。現に今囘協約を結ばれているのでも、全教協と教全連の方とではその内容に若干相違があると思う。そういうように違つたものをお結びになるというと、行政上不統一を來す懸念があると思いますが、そういう懸念はないでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=97
-
098・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 ただいま私どもが交渉いたしております團體は、およそ三つございます。ただいま御指摘になりました二つのほかに、大學、高專の教員組合がございます。これもまた協約の締結を要求してまいつているのでございます。前の二つのものほど、まだまとまつたものにはなつていないのでありますが、打明話をいたしますれば昨日もこの議會が終りました後、遲くまで私に面會を求めまして、およそ七時半ごろまでいろいろ意見を交換いたしたのでございます。數項の點において約束をしてもらいたい。大體一致を見ました點においては、署名をしてもらいたい。こういうことであつたのでありますが、昨日は署名いたすことを拒みまして、そのまま別れたのでありますが、一致を見ますれば、やがてこれらのものとも協約を締結することになろうと考えます。もしこれらの三つのもの、あるいはこれから出てまいります他の數箇のものとの間に、締結せられました協約の相違があるといたしますならば、私の解釋といたしますれば、いわゆる最惠國條款式のものが適用せられるのではないかと考えているのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=98
-
099・松原一彦
○松原委員 私はこの問題に對しましては、なお研究しなければならぬ重大な問題を内包していると思いますからこのくらいで保留いたしますが、實は昨年田中前文相が教全連と約束せられました研究費のごとき、事は豫算に關係する。豫算の審議權は議會にある。議會を無視して、豫算にないものをもお約束になりますると、それは議會の審議權を侵害することになる。そうして行われないことになる。われわれは教育優先の原則に從つてという附帶條件をつけて、助け船まで出してやつてみたのでありますが、遂にこれは片がつかないで、次年度に持越してやるようになつたという今のお話もあるのでありまして、それでは私は文部省の權威は地に墜ちると思います。さような豫算等の、文部省だけではどうにもならない問題まで立ち入つて約束なさるような態度は、今後固く御遠慮願いたいと思います。それは非常に困る問題だと私は思います。これはこれだけに打切りますが、私はここで一つ特にお尋ね申し上げたいことは、定時制の高等學校の性格問題であります。今囘學校教育法をば、一元的に、系統的に、非常に簡素につくり上げられましたことにつきましては、私は滿足に思うものでありますが、高等學校が三種類にもなつておつて、定時制の高等學校というものが置かれているのであります。この定時制の高等學校の性格は一體何であるかを、私ははつきりお伺い申し上げたい。高等學校の性格については、第四十二條に「高等學校における教育については、前條の目的を實現するために、左の各號に掲げる目標の達成に努めなければならない。」として、一、二、三とあるのであります。どうも一は定時制高等學校の青年に對する教養の目標としては、當らぬと思います。「國家及び社會の有爲な形成者として必要な資質を養う」ということは、これは指導者級に當るものであると思います。二は「社會において果さなければならない使命の自覺に基き個性に應じて將來の進路を決定させ、一般的な教養を高め、專門的な技能に習熟させる」。この中には勤勞青年、働く青年、勞學一體の境地に置かれなければならない青年の教育の目的を含んでおりまするが、しかしこれは「專門的な技能に習熟させる」とありますから、これは專門學校に當ると私は思います。三の「社會について、廣く深い理解と健全な批判力を養い、個性の確立に努めること」、これは共通の條件であろうと思いまするけれども、これは私は定時制高等學校に當る廣い意味の目標ではないかと思うのであります。文部省で今囘お出しになりましたこの新學校制度實施準備の案内等によつてみましても、どうも文部省のお考えになつている高等學校の内容は、全日制の高等學校が基準であつて、その基準と同じ程度において定時制高等學校の内容をも、豫期せられておるように思われるのであります。私は一昨日來この高等學校の教科内容に對する御豫定を刷り物によつていただいたのでありますが、もちろんこれは結構でありましよう。專門高等學校としましては、この程度の内容を要求せられることは當然でありましようが、その要求がやがて青年學校にも、ある制限を置かれても、要求をせられているのではないか。たとえば定時制の設定とともに、現在の青年學校本科は廢止されることになる。定時制は教員の點においても教育の程度においても全日制と同一基準に置かれておるのであるから、生徒も原則的には全日制と同一基準で學習すべきである。從つて卒業資格も全日制のものと原則的には同一であるべきであるが、修業年限は全日制よりも長くなることもあらうと、かように思うのであります。一體高等學校である以上は、定時制であろうと全日制であろうと、大學に行き得る資格を與えるというような漠たる考え方は、私は否認いたしません。そうなつてよろしいものであつて、教育の機會を均等ならしむるべきものでありますが、量の上から申しましても、その定時制の學校に行きまする青年の質の上から申しましても、私はここに大きな問題があると思うのであります。と申しますのは、この十五歳から十八歳までの期間における青年の大學に行くべきコース、もしくは專門教育を受けるコースに立ちまするものは、一割五分以下の少數でありまして、その他のものは實は非常に多數に上るのであります。現に今日日本に存在しております青年學校のコースは、十九年の統計しか私もちませんけれども、一萬三千六百七十二校あります。一萬三百の町地と二百七の市にこれを割りますれば、一市町村一校以上の普遍的な施設を見ておるのであります。もちろんその内容はきわめて貧弱なものでありまするし、軍國主義的な過去のかすだと申せば、それきりでありますが、ここに修學しておるところの生徒數は實に二百五十七萬三百六十一人となつております。なおこのほかに中學校、女學校、實業學校等の夜間に授業を行つておるものの數は三百三十四校、夜間の中學校と實業學校と女學校の生徒を合わせまするとこれが十萬二千二百九十名あるのであります。このうちの十五歳から十八歳にわたる分及びその卒業生が、今度新しい定時制の青年學校に吸收せられねばならぬのでありますが、もしこの教科課程によほどの獨創的な、實情に適する——勞務に服しながら學校に學ぶ青年のために適切なるものを掲げて、高いところに置いた高等學校の標準から、これを幾分か緩和させるけれども、何科目かの授業はしなければならない。したものは大學へ機會均等に進學し得るというような高い標準の物さしの上にこの二百六十萬の青年たちを置くとしたならば、私はこの定時制の學校に來る青年は、非常に減少するであろうということを心配するのであります。今日までの青年學校の内容が空虚であり不備であることについては、だれも異存はございません。しかしながら、とにかくにも十八歳までは義務教育となつておるのであります。但し男に限つておるのでありますが、男子の青年は十八歳まで今日義務教育となつておりまして、とにかく十八歳までは青年學校につないでおるのであります。ほかに樂しみをもたない田舍の青年は、この貧弱な青年學校でも、よい教師のある所においては、その教師にひきつけられて、今日も現に學んでおります。しかしもしここに觀念的には非常に標準の高い高等學校を緩和した程度の、全日制の高等學校を緩和した程度の定時制高等學校ができたとしても、その教員においても非常に高いものを要求し、その學科内容においても非常に專門的なものを要求するとしましたならば、おそらくその施設において一萬三千のうちの幾分の一にも當らないような少いものになりはしないか。よい學校制度はできたが收容する生徒數は非常に減つてしまうというおそれはないか。この十五歳から十八歳までが一番精神的、肉體動搖期でありまして、これは世間一般に危險年齡と言われておるのでありますが、今日のごとき希望を失つた空虚の状態における日本の青年をどうしても救わなければならないのは、學校へひきつけることなのであります。できますならば、私どもは理想として多年、公民權を得る年齡、選擧權を得る年齡までは、學校につないでおくべきものであると信じておる。從つて條件のきわめて適當したる同時に義務教育年限は、私は十八歳または二十歳まで延ばさねばならないかと思つておるのでありますが、今日の實情からして急に三年も飛躍したる男女の義務制をさらに延ばすことにつきましては、私も考慮いたしまして、斷行を決して要求するものではございませんけれども、個々の手段においてもし適切を缺いたならば、私は制度はできたけれども、青年を學校から逐うたという結果になりはしないかという大きな懸念をもつのであります。實は私はこういうことを考えております。日本を救うものは十五歳から十八歳ないし二十歳までの勤勞青年である。こう考えておる。この素質を高め、この生産能率を高め、人格品性を高めることによつてのみ、民主主義文化日本が高められると私は信じておるのであります。その一番最多量をもつ二百六十萬のこの青少年のための教育こそ、實は高等學校に附隨したる附屬的な夜間學校ではなくして、日本の教育の中心、主流をなすものでなければならないと私は固く信じておる。この水準を高めることは、日本を高めることである。田圃もよくなつていく麥もでき、稻もでき、多角經營の農業もできていく。勤勞の上に光りのさすほんとうの仕事ができ、田園に、あるいは漁村に、あるいは町に、ここから初めて日本の文化的な實際の基礎が高まつていくのであるということを信ずるのであります。もちろん指導者層に屬するところの專門學校、大學等を完備しなければならぬことについては何ら異存はありませんけれどもが、それはきわめて少數な人間であります。また定時制高等學校の學生中、大學に行こうというような特殊な者のためには、私は今囘非常によい方法が見出されておると思うのであります、それは通信教授であります。昔から早稻田大學にも慶應にも、その他にもそれぞれ通信の講義録がありまして、田舍の青年はこの講義録によつて檢定試驗をとつて辯護士にもなり、高等文官にもなつたのであります。そういう奇篤なる千人に一人か二人の青年のために、一方には夜間の青年學校に一週三日あるいは二日通いつつ、一方にはその能力に應じてこの通信教授などによつて補つていけば、結構私は大學にも行けると思いますが、百人に一人か千人に三人ぐらいな特殊な青年を目標にしたる教科内容などを盛り上げられるということになりましては、私は大多數の勤勞青年を非常に苦しめるだけで、效果のないものになろうと思う。私が勝手なことを申し上げるのではありませんが、この案内などを讀んでみたときに、危惧にたえざるものを私は感ずるのであります。どうも學校教育式の學校でなければ、教科内容というようなものを非常に整備しなければ、學校でないように考えられることについては、私は異議をもつのであります。そうではないので、勞働そのものが教育なのであります。勞學一體なのであります。勞働をしないで學校教育ばかり受けている人間はほんとうの人間ではないのであります。勞働の價値そのものの中に教育があり、それが教育として大きなる人間をつくる要素となつておるのでありますから、晝間の勞働そのものを教育として、さらにそれに附け加えるものをもつたのが、この定時制の高等學校でなければならないと固く信じております。デンマークが興つたのも、スエーデンが興つたのも、實はこの國民の中の勤勞青年の自覺と向上とから興つておると私は思います。そういう意味におきまして、文部省は一體どういうふうな御腹案をもつて、この夜間の定時制の青年學校をさらに一歩進めたる、充實したる高等學校にお考えになつておるのであるか。そうして近き將來に一體どの程度にまでこれを全國に普及せらるる御計畫があるのか。現に一萬三千六百七十二校の青年學校があるのであります。この大部分は初級中學校になるのでありますが、しかしそうなつたきりで放り捨てられますと、今日まで義務として學んでいる男子の青年あるいは女子の青年たちは、ここに大きな空間を生じてとほうに迷うということになります。この意味において私は大きな疑問をもちますので、文部大臣の御構想を承りたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=99
-
100・日高第四郎
○日高政府委員 僣越でございますが、私から先に答辯させていただきたいと思います。新しい高等學校の性格は、名前は元の高等學校と同じでありますけれども、性格は元の高等學校とは、非常に違つているように私共は理解いたしております。これは法律の中にも規定してございますように、從來の高等學校のように、實質的に大學の豫科的な性格のものではなくて、高等普通教育を授けるとともに、職業的な教育をも授ける、いわば二つの目標をおいている學校でなければならない。從つてまたこれは御説のように、できるならば義務教育として十八歳まで一般の國民に課したい教育内容であると思つておるのであります。從つて高等學校も、新しいものについては、相當に澤山つくらなければならないように考えております。從來の青年學校は、相當の役割もいたしておりますと同時に、ずいぶん深刻な批判も加えられておりますので、現在義務制にはなつておりますけれども、所によつては開店休業のような状態なのでありまして、そのおもな理由というのは、學校の教育内容が魅力がなくて、戰爭中のある特殊の條件のもとに義務教育を課せれらた。名前は義務教育であるけれども、實質的には義務として行われていないというような實情も、報告を受けておりますので、これらの點については、もしできるならば、お話のように十八歳まで義務教育にしたいのでありますけれども、敗戰後の今日においては、とうていそういうことは望みがたいのであります。六・三の義務制すらも、思い切つてはできないような状態なのでありますので、これはあきらめたのであります。從つて全般としては高等普通教育をみつちりやつて、公民としての資質を向上させると同時に、社會に出て自分の個性に應じた職業につき得るような職業教育も同時に課したい。それと同時に從來の師範學校及び青年學校等に魅力のなかつた理由の一つとして、上級學校に進學する途が塞がれておつたという點が、非常に強く指摘いたされておりますので、私共といたしましては、高等學校はたとえ定時制の校學であつても、これはむろん全部ではございませんでしようけれども、多數の中に志があり能力がある者については、上の學校に行かれるような途をも是非とも開かなければならないという意味において高等學校のカリキユラムもでき得る限り全日制の學校に準ずるようにいたしたいという希望で大體の構想を立てたのであります。先ほど御指摘にあずかりました新學校制度實施準備の案内でございますがそれの十五ページのところにございますように、「定時制は教員の實においても教育の程度においても全日制と同一規準におかれるのである」とありますがこれは上の學校に行こうと思えば行けるのである、こういう意味であります。「生徒も原則的には全日制と同一規準で學習すべきである」。ここに原則的にと書きましたのは、理想的なことを言えばこうしてほしい、こうすべきであるというように、理想的な基準を立てたのであります。從つて定時制の學校が十分あらゆるカリキユラムを全日制の學校と同じように備えるということは、一つの理想でありますけれども、現實においてはそれは不可能であることを承知いたしておりますので、二十七ぺージのところに、「設置する學科及びその教科課程は全日制のものに準ずるとともに、その地方の實情に即した教育を行う」ということを規定いたしまして、これはあくまでも準據するのであつて、及ばなければそれは不可能である、もしくは無用であるという意味ではないのであります。從つて一つの標準を立ててそれに應ずる力が十分でなくとも、定時制の高等學校は許す方針でおります。それでおそらく現在のところ青年學校の教科課程に準じたような高等學校も若干はできると思うのでありますが、そこに行く學生、生徒も、ずいぶん多いと思います。御指摘のようにフル・タイムの高等學校の一年生は四十八萬ぐらい、それからパート・タイムの者が四十二萬ぐらい、そういう統計が出ておりますが、ほとんど同數、あるいは時によつて違うかもしれませんけれども、相當多くの者がパート・タイムの學校で教育されなければなりません。從つてこれは全日制の者が三年でやる課程を、三年で卒えてしまうということは、不可能でありましようけれども、もしも上の大學へでも行こうとする者については、これは四年かかつても、五年かかつても、ある一定のタイムをとるならば上に行けるような途を開いておく。同時に高等學校を卒えてすぐに社會に立つて働く者のためには、必ずしも大學へ行く資格を必要としないのでありますから、そういう者については、みずから選んだ課程を卒えれば、それでたとえば特殊の職業的な教育を受けてそれを修業した證書でも十分與えるように仕組むつもりであります。お話のありましたような通信教育その他によつて、たとえ定時制の學校を三年でやつておつても、心掛がよくて通信教育等によつて必要なタイムを補充するならば、それらの者は上の學校にも行けるように仕組むつもりでおります。なお高等學校の出發は來年度になつておりますので、その間御指摘のような點は十分研究いたしまして、多數の學生の教育のことに關係しますので、愼重に、なるべく遺漏のないような處置をとりたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=100
-
101・松原一彦
○松原委員 これから先は議論になりますが、私はそこを非常に違う見解をもつのであります。ここに大學に行く者を考えまして、きわめて理想的なコースをもつてつくつておいて、それに準ずる學校をここにつくる。すなわちこれが正道であつて、これが不完全なる高等學校である。一五%の者は正道である。落伍者は不完全なもので學ぶといつたような意識をまたもたせることになる。これは不完全ではない。これはこういう一つの正しいコースのある學校ができなければならぬ。勤勞生徒のためにそれは本コースなんです。大體國民の民主的な、生産に從事する萬民皆勞制度の國家、皆學び皆働く、國民皆學、萬民皆勞というのが理想であるならば、働く人間の大多數を包容するその學校が、一つの標準の正道であつて、こちらへ行く者がむしろ私はわき道であると思う。指導者になる者はこれから選拔したる一つの特別なコースであつて、この八五%を包容する青年學校の整備せられた高等學校こそこれが高等學校の本道でないか。あなた方のお考えはどうも間違つておる。こちらが本道でこちらがわき道で、しかも不安全なる學校である。だから年數を延ばしてもこれに追いつくようなものにしてやろうといつたようなことが、私は間違いだと思う。それはいけない。これは本道で、喜んで農業に從事し、漁業に從事する青年を、十八歳までの間に高い文化と科學的な技能、生産的な能力をもつように仕組んでやる。これが一番大事な本當の教育である。これがどうもいつもわき道扱いをして、いわゆる準ずる學校として落伍者が行く。われわれはこちらに行けぬから、落伍者だからここに行くといつたようなものになりがちになる。こういう過去の弊が非常にある。私はこれはどうしても根本的に直していただいて、これこそ國民全體、働きながら學び、學びながら働く。これが今後の日本國民すべての行くべき道なのですから、これを主體として一つ考え直していただいて、そうしておそろしく高い校長及び教員の要求が書いてありますが、私はそういう學者などといつたような者よりも、郷土の大先輩で非常な名譽のある立派な人格の高い人が校長となつて、そうして專任には物のわかつた民情もわかり郷土のことがわかつた專任者をおいて、あとは郷土におけるところの知能を總動員して、中には大學を出た數學の先生もあらうし、外國からもどつた英語の先生もあろうから、そういう者を總動員して專任でなくても、そこに來て勞學一體の家庭におる青年たちに適切な、郷土に即した指導をお與えくださるように仕組まなければならぬ。この仕組がうまくいつたときのみ、日本は救われる。それが日本の即今の一番大事な教育的施設のコースでなければならぬということを深く信ずるわけであります。これから先は議論になりますが、この點については文部省においてもどうぞ一つ眞劍にお考えを願いたい。どうも文部省は從來學校省であるということを言われておるのであります。文部省は學校省であつてはならぬ、教育省でなければならぬ。國民全體を教育する教育省でなければならぬ。それには學校形式の一つの過去の觀念から脱却して、國民というものをいかにして教育するか教育の高さを高め、幅を擴めて、皆學ぶという線の上に新しい教育をしなければ、民主的日本の建設というものはできない。ただ少數の指者さへあれば教育の高さが高まるということでは、今日の日本の進展は期せられないということを深く信じますので、どうかこの點については、文部省が國民を教育するという廣い幅の上に立つものが主流であつて、指導者を養成するというのは、むしろそれは特別の道であるというふうにお考えいただいた方がいい。これに準じてこれを行うのではない。これが本道であり、本體である。そうお考えになりまして、どうかお進みくださるように私は切望するものでありますが、これは私の動かざる信念であります。日本の教育はかくなければならぬと信じておりますから、これを申し上げて御參考に供するのであります。なおお尋ねしたいことがありますが、委員長とお約束した後でありますので、最後に校長の免許状の問題はこれはよくお考え願いたい。校長免許状の問題は、いろいろ議論があると思いますが、どうもこれは任用資格か、あるいは一つの檢定の上においての實力の資格が、たとえば前にも出ましたが、單級學校などがあるのでありますが、そこはみな校長になつていなければならぬのであります。校長の資格というものは試驗によつて、いろいろ何科目か通り、あるいはいろいろな條件によるところの教員の免許状というものと並びおかれた。同じようなものかどうか。先刻學校教育局長の方からいろいろお話がありまして、私もほぼ了解いたしておりますが、教員の免許状というものと校長の免許状というものは、同格にはおかれないものである。校長の免許状というものは、校長の資格認定というものであつていいのではないか。われわれが立候補するときの資格の確認であつて、それは免許状という性質のものでないのではないか。そうでなければ、私が落選したら學校を始めるというても、私はもう一遍免許状をもらわなければならぬということになる。私どもはそういうことであつてはならぬと思うし、まことに私は變なものであると感ずる。これは免許状ではない。資格の確認であるというような意味において、ひとつはつきり施行規則等にお示しを願いたい。大變長い間御無禮なことを申し上げましたが、私の質問はこれで打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=101
-
102・椎熊三郎
○椎熊委員長 小川原政信君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=102
-
103・小川原政信
○小川原委員 私は簡單に申し上げ、なるべく煩を省くことにいたします。第一これは大事なことで、常識でわかるようなことでありますが、特にお願いをいたしておかなければならぬ。基本法の第一條に「教育は、人格の完成をめざし」云々というところから、「自主的」云々というところまで見ますとまことに立派なものであるということが考えられるのであります。それから學校教育法をながめてみますと、第十七條には「小學校は、心身の發達に應じて、初等教育を施すことを目的とする」こうあります。中學校のところにいきましては、第三十五條に「中學校は、小學校における教育の基礎の上に心身の發達に應じて、中等普通教育を施すことを目的とする。」高等學校の第四十一條にいきましては、「高等學校は中學校における教育の基礎の上に、心身の發達に應じて、高等普通教育及び專門教育を施すことを目的とする。」とあります。大學のところの五十二條にいきまして、「大學は、學術の中心として、廣く知識を授けるとともに、深く專門の學藝を教授研究し、知的、道徳的及び應用的能力を展開させることを目的とする」。ここで大分違つてまいりまして、ここに特に「道徳的」という言葉をさしはさまれて、今まで普通教育のところは「心身の發達」ということでカムフラージユしてあるのであります。こういうようにおわけになりました法の精神はどこにあるかということを私はお尋ねしたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=103
-
104・日高第四郎
○日高政府委員 基本法の第一條に「人格の完成を目ざし」ということを指摘してございます。それから前文のところにも「人間の育成を期する」ということを出しておりますが「人格の完成」の中にも「人間の育成」ということの中にも、もちろん知的の方面も實踐的の方面も、肉體的の方面も含めて考えておるのであります。「人格の完成」の場合には、あとの方に「心身ともに健康な國民の育成」ということを與えまして、前の人間性の完成ということを、もう少し具體化して、立派な人格であつて、同時に心身ともに健康な國民というような、そういう意味を含めてございます。この基本法の根本精神に則つて——小學校、中學校、高等學校までは、實は基本法の精神に則るということを前提にいたしまして、心身の發達に應じて、初等普通教育を施す、こういうことを前提にいたしておるのでありまして、特にその場合には、知的、あるいは實踐的とか、そういうことを言わないでもいいかと思つて規定いたしてまいつたのでありますが、大學の條項におきましては、大學は從來の日本の實情から見ましても、最高の學府というふうに普通に言われておりましたように、大學に文化の中心をおくような心持を強く表面に出したいと思いまして、學術の中心として知識を授けるとともに、ただ知識だけではなく、專門の學藝のほかに知的な道徳的な、「應用的」というのは、むしろこれは實踐的と言いかえてもいいかと思いますが、道徳的、實踐的な能力をもつているものを外へだんだん展開させていくというところに、目標をおいたわけでありまして、特別にこまかい規定をいたすのは、大學教育というものにできるだけ自主的な、自治的な幅をもたせておきたいために、こまかい規定を省いたわけでありますが、この精神においては、基本法の第一條及びその前文に掲げてあることを前提といたしてみますと、統一的な共通點があると考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=104
-
105・小川原政信
○小川原委員 私もそういうふうにとつておるのであります。これは學校の教員や學校の校長はそうは考えますがところがこの法文からながめてみますると、大學のところだけで道徳的な發展を要求しておるので、あとの方は普通にやつておればいいのだ。こういうひらめきが誰しも起るのであります。それでこれを實際問題とあてはめてみますると、私は經驗ということを非常に重く考えておるのでありますが、近ごろの文章というものは非常に文章が美しい。作文は上手であるけれども、實際が行われておらないということなんです。これはあまり小理窟を言つて文章に書いて美しくつくるからである。昔の道徳というものはどうであるかというと、小さい時分からやかましくして道徳を發展さして來たから、あの立派な徳望の人ができてくるのであります。ところが今日の教育をながめてみますと、幼稚園から綿に包んだようにして、至れり盡せりのことをやつていますけれども、今度の終戰においてながめてみると、惡い事、惡たれなことをしておつたものは何であるかというと、全部教育を受けた人がやつていたのです。事實とこの教育の法文とがまつたく相反しておる。こういう點が私ども納得できない。たくさんの金をかけまして、至れり盡くせりの立派な學校に入れて、子供を眞綿に包んだりしてやるものだから、いい子供ができなければならぬはずのものが、反對に惡い子供がしきりにできておる。これはもう汽車に乘つたらすぐわかつてきます。街路を通るところを見てもすぐわかります。こういうようなことはよほど注意をして教育をしなければならぬと思うのであります。やはり小學校のところにも、中學校のところにも道徳という言葉を表わしておかなければいかぬのではないか。これは私の杞憂でございましよう。常識的に考えれば、今の教育を受けた人はわかりますけれども、そういう點が、これまでの文部省あたりの法文を作られる上において非常に缺陷があつた。それであるから、今度はどういう施行細則をおつくりになるかしりませんけれども、教員を引締めるのでも、規則的にぐつと引締めても何もうまみがない。乾燥無味でありまして、ちつともまとまりがない。こういう點が教育上大きな障りがあると私は考えるのであります。それはお互いの意見の相違だとおつしやればそれまででありますが、一體文部當局は道徳という面に對してはどういうお考えでありますか。簡單でもよろしゆうございますが一つ聽かしていただきたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=105
-
106・日高第四郎
○日高政府委員 そういう實踐的な、道徳的なことにつきましては、私どもも關心をもたないわけでございません。實は十八條の「前條の目的を實現するために、左の各號に掲げる目標の達成に努めなければならない。」この第一のところにも「學校内外の社會生活の經驗に基き、人間相互の關係について正しい理解と協同、自主及び自律の精神を養うこと。」この中に道徳的な訓練及び道徳的な修養ということの必要を、實は第一に指摘しているつもりなのであります。それからその第二のところにも「郷土及び國家の現状と傳統について、正しい理解に導き、進んで國際協調の精神を養う」。それ以下の日常生活のことにつきましても、道徳的な實踐的な、關心については、むしろくどいと思われるくらいに、道徳という言葉は避けましたけれども、そういう關心は示しているつもりなのであります。それから中等學校につきましても、「國家及び社會の形成者として必要な資質を養う」。これらのところの奧にも、また「勤勞を重んずる態度」というようなところにも、道徳という言葉は出ておりませんけれども、道徳的な、實踐的な關心というものは、實は含めてあるつもりなのであります。高等學校も大體同じ精神で規定したつもりなのであります。大學の方に特に實踐的な、あるいは道徳的なということを掲げましたのは、大學がややもすれば學術の研究面においてすぐれておれば、それでいいというような考えに陷りやすいので、物足りないので、その點を表面に出したのであります。お説の點は私どもまつたく同感で、道徳的な修養や人格の完成というものを拔きにしては、教育というものはほとんど心棒を失つたものであるというふうに考えるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=106
-
107・小川原政信
○小川原委員 これ以上言えば議論にわたりますから、その程度にいたしまして、時間もありませんから次に進みます。
もう一つお尋ねしておきたいことは勤勞學生であります。これは雇主にもつと責任を負わせられる必要はないでしようか。何かこまかい規定があるそうでありまして、私は存じませんが、八十五單位とかの最低標準がなければ上の方へ上せてはいけないとか何とかいうことがある。この一單位は三十五時間とか申すことでありますが、學生が教壇の上で學習を受けていきます場合に、教壇だけでは八十五單位の標準にはどうもいかないので、職場にあるところのことを考えていただいて、せめて職場の學習を四十單位にしていただくと、學校は非常に都合がいいがということを、これは當路者が言つている言葉でありますが、私も聞いてみて、なるほどそうだと考えたのであります。この職場の勤勞時數というものをこの單位の中に加えることができるものでありますか、できぬものでありますか、その點お聽かせを願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=107
-
108・日高第四郎
○日高政府委員 お話のような點は、先ほど松原議員からも御質問がありましたが、學校教育と勤勞との關係で、勤勞が教育的な意味をもつているということは、私どもも決して否定する心持はないのであります。しかし教育プロパーではなくて、やはり勤勞には勤勞の特質がありますし、教育には教育の特質がありまして、重なり合つているところもありますが、しかし勤勞即教育のようには實は考えがたいのであります。これは立場の相違であるかもしれませんが、たとえば戰時中に學徒を工場に動員いたしまして、學校の教育の代りに、動員している勤勞を學校教育のように考えたように、またそれの間に統一のあるように骨折りましたが、現實において、工場において働いていた者と、學校において教育を受けた者との間には、智能の點においても人格の點においても、必ずしも同一視することのできない差別が出ているのでありまして、そういう點から考えまして、私は遺憾ながら松原議員のおつしやることをうのみにすることはできません。むろんそれについて十分な敬意を表して、虚心坦懷に反省する必要はあると考えますけれども、それと同じように考えることは、現在の私にはむずかしい状應であります。しかし勤勞そのものに教育的な意味があることは、私どもも喜んで承認できることでありますので、定時制の高等學校の制度については、まだ十分に決定いたしてない點が多々ありますが、その邊のことは參考いたしまして、なるべく定時制の制度にも、勤勞に教育的な意味のある限りは、教育部面に考慮するように取計らいたいと存じます。但し先ほど申し上げましたように、青年學校やあるいは師範學校に魅力がなかつたというのは、中に優秀な者があり、また特別な志をもつ者があつても、上の學校に行かれない、いわば袋小路にはいつておつたというようなところに缺點があるのだということを、方々から指摘されておりまして、それもまことにもつともだと思いますが、それに途を開こうという一面に、いわば慾を感じますので、單位制なんかも相當窮屈になつているかと思いますが、その邊のところは、なお若干考慮の餘地があると思いますので、十分研究いたしまして、妥當な結論を見出したいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=108
-
109・小川原政信
○小川原委員 その問題はさつき松原さんがお話になつておりましたから、私つつこんでお聽きしたいと思いますが、それだけにしておきます。十分御研究を願いたいと思ひます。
それから一つお尋ねしたいことは、職員が足りないということになるのですが、その場合に、農事試驗場などに働いておられた人とか、あるいは何か特別の智能のある人とかいう人が、教員としての免許状はない、だが、經驗も富んでいるし、相當の力もあるという人を教員に採用するように、免許状を下附される御意思は文部省にあるでしようか、ないでしようか。免許状を下附する方法については、また別にお考えに相なるでしようけれども、無資格の人を使つては都合が惡いでしようか、この人たちを何かの方法で學校の職員に使うという方法であります。たとえば、一例をあげてみますれば、これまで樺太におつて醫者の業をやつておつた者が、醫師の免許状はなかつた。しかし學力試驗だけをやつてみてその學力試驗を通つた人には醫師として限地開業をさしたという例もあるのであります。またこの議會におきましても、朝鮮の辯護士に、あたりまえの辯護士試驗を受けなくても、辯護士にしてくれるというようなこともあるのですが、そういうふうに、何か任用の方法をお考えになつておりませんか、いかがですか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=109
-
110・日高第四郎
○日高政府委員 とりあえず私どもがきめましたのは、たとえば高等教育に必要な經驗と能力を有すべきものを原則といたしておりまして、その條件に合致する者を、まず第一にとるということにいたしております。必ずしも教員免許状がなければいけないというふうには考えていないのでありますけれども、とりあえずの方針といたしましては、高等學校及び中等學校の教員の免許状をもつておるようなものを優先的に考えまして、不足の分については、一應過去の經歴や能力等を考えまして、補充し得るように考えたいと思つておりますが、まだその現におる者については、一應任用した上で假の免許状を與えまして、さらに必要な再教育を施した上で、正式の免許状を與える方針でおります。御指摘のような多少例外的かと思いますけれども、いわゆる教員免許状はもつておらないけれども、教員免許状をもつておる者と同等あるいはそれ以上の能力のある人も相當あるかと思います。その邊のところはまだ餘裕がとつてございますので、十分研究いたしまして、すぐれた人には途を開くように考えたいと思つております。再教育の機會もありますので、そういう點にも十分途を開きたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=110
-
111・小川原政信
○小川原委員 戰爭中から今日にかけまして、教育の中に非常にいい人もおりますが、おもしろくない先生もおるのですが、これも今早急に何とかなさる御意思がありますか、いかがですか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=111
-
112・日高第四郎
○日高政府委員 實は組合運動等でもつて、隨分極端な行動に出たり、あるいはふだんの勤務状態のひどく惡い者等については、私どもはそれは當然整理さるべきものだと考えております。しかし具體的の問題といたしましては彼等を整理するというようなことを表面から申しまして、平地に波瀾を起す必要もないのでございますので、私どもとしては、むろん官吏には官吏の服務紀律がありますし、それらの紀律を亂つた者や、あるいは非常な缺格條件に適合するような者については、相當な整理をしなければならないと思つておりますが、非常にデリケートでありまして、いかなる者をどういうふうに處置するかということは、まだ具體的に申上げるまでに用意ができておりません。そういう不適當な者は自然淘汰に任せるにしても、あるいは監督官廳の方から考えましても、監督官廳に所屬する教育委員會等におきまして、そういう者については、待遇をよくすると同時に、自肅を促さなければならないと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=112
-
113・小川原政信
○小川原委員 ここでそういうお話を賜わつたのでありますが、ほんとうにおやりになる意思がありますか。これは他の方から牽制されてうやむやになるならば、お手つけにならぬ方がよろしい。他の方からどういうことがあろうと、斷固として惡いものは惡いとして、教育者としての態度でないというところから、御整理になられる御意思がありますか、それを伺つておきたい。こういうことをお尋ねするのは考えておる點があるからであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=113
-
114・日高第四郎
○日高政府委員 内容にもよりますけれども、教員としてほんとうに不適格な者については、私どもは職を賭してやらねばならないと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=114
-
115・椎熊三郎
○椎熊委員長 これにて質疑は終局いたしました。次會は明二十日午後一時より開會し、本案に對する討論並びに採決を行います。本日はこれにて散會いたします。
午後五時二十九分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009210549X00519470319&spkNum=115
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。