1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
裁判所法案(政府提出)(第一九號)
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昭和二十二年三月十五日(土曜日)午前十一時三十七分開議
出席委員
委員長 小島徹三君
理事 三浦寅之助君 理事 青木泰助君
木村チヨ君 荊木一久君
中村又一君 井伊誠一君
菊地養之輔君 田万廣文君
磯田正則君 酒井俊雄君
出席國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
出席政府委員
司法事務官 奧野健一君
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本日の會議に付した議案
裁判所法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=0
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001・小島徹三
○小島委員長 會議を開きます。これより裁判所法案を議題として質疑にはいります。中村又一君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=1
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002・中村又一
○中村(又)委員 裁判所法案に對する質問を、簡單に一般的事項より試みてみたいと存じます。司法制度は國家の基本をなすものでありまして、裁判所法はすなわち憲法附屬の基本法であります。從つて改正憲法の制定により、當然豫想される司法制度改革に伴う裁判所制度に關する法案につきましては、國民のひとしく關心を寄せておるところの事柄でございます。この意味で、本法案の内容がいかなる性格を有し、改正憲法實施にあたりまして、重要なる意義を有するかという見地に立ちまして、次の數點につきまして、順次司法大臣の見解をお尋ねしてみたいと存じます。
第一、裁判所はいかに威嚴があり、かつ機構が完備充實されましても、國民から近寄りがたいものであつては價値がないのであります。私はよろしく裁判所をして民主化し、その手續等につきましても、簡易迅速にいたし、もつと的確に權利の保護を求め、人權の防禦を求め得られるような制度が望ましく考えております。この意味で、少くとも輕微なる民事、刑事の事件のごときにおきましては、温かく親切に取扱う裁判所を、全國各所に多數設ける必要があると存じております。この點に對しまして、大臣の所見を伺つておきたいのでございます。
第二に、從來裁判所による裁判權は民事、刑事に限られまして、しかも行政機關の處分に對する不服の申立は、非常に限定された事項についてのみ、行政裁判所に出訴が許されておつたのでございます。しかるに改正憲法におきましては、廣く何人も裁判所の裁判を受ける權利のあることを規定いたし行政機關は終審として裁判することができないことなどを規定いたしておるのでありますが、裁判所は今後すべての行政處分につきまして不服の訴えを認め、これを公平なる立場から裁判して、不當なる行政權限の行使を防止するようにせねばならぬと存じます。なおこの點に關連をいたしまして、人權蹂躙に惡用されたかの違警罪即決例のごときも、この際これを廢止いたしまして、輕微なる刑事事件といえども、警察官において處分するがごときことはこれを認めず、すべて公正なる裁判所においてのみ裁判をするという制度に改むべきものであろうと存じます。この點に對しましての大臣の御所見を伺つておきます。
第三に、從來司法の法規は歐州大陸系の影響を受けまして、はなはだ複雜煩瑣なものであつたのでございます。改正憲法におきましては訴訟手續、司法事務處理等についての規則制定權を廣く最高裁判所に認めておるのでございます。自分はこの際英米法におけるように、司法法規については廣く裁判所の規則制定權に委ねまして、最高裁判所に規則制定委員會とでもいうようなものを設けて、國民の代表である議會人などもこの委員會に參加せしむる等いたしましてこの運用を正しくいたしまして、簡單率直にすることが必要ではないかと考えております。この點につきましても大臣の御所見を承つておきたいのでございます。一應以上のことを質疑いたしまして、次の點に續きたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=2
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003・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 ただいまの御質問に對してお答えいたします。新憲法實施とともに、裁判所の制度は面目を一新するのであります。この際にぜひとも裁判の民主化ということを取入れなくてはならぬと確信しております。しかして本法案におきましては、御説の通り裁判の簡易化ということについて特に考慮を拂つたのでありまして、簡易裁判所の制度を取入れたのであります。この簡易裁判所は本法に示してあります通り、罰金、科料、拘留以下の刑については全部これを取扱うということになつております。民事事件については五千圓以下の事件を取扱うことになつておるのであります。しかしてこの裁判所は全國に約五、六百を設けられることになつております。そこで裁判すべき人は特に新たな制度といたしまして、地方の徳望ある人をこの中に選考をしてやつていただくことになつております。これを活用いたしますと、裁判が非常に民主化されるものと考えておる次第であります。今後の實績に待たなければその成果は判明いたしませんが、少くとも制度上から申しますと、非常な民主化であろうと考えております。當局といたしましてはこの制度の運用について一段の努力をいたしまして、裁判の民主化ということに極力努力いたしたいと考えておる次第であります。
次に行政の違法處分につきましてはもちろんこの新裁判制度におきまして十分取入れることに相なつておりまして、いわゆる行政廳の違法處分については、すべて裁判所に對してその取消變更等を求め得ることになつております。この裁判所法案が施行される曉に至りましては、これらの點も十分國民の期待に副い得ると考えております。
次に國民の一番關心をもつておりました違警罪即決例の問題であります。これはむろんこの新裁判所法施行と同時に廢止される運命になつております。この點から申しましても、國民の權利義務が非常に保護されることとなると確信して疑わないのであります。
次に最高裁判所で制定されまするいわゆるルールでありまするが、これは御承知の通り、新憲法でも認められておるのであります。なるたけ訴訟手續の煩瑣を一掃いたしたいと考えております。むろん國民の權利義務に直接關係する手續規定は、法律で制定すべきは論をまたないのでありますが、その以外の實際の裁判手續に關しましてはすべて最高裁判所でこれを定めることになつておるのであります。おそらくこの裁判所法實施の曉におきましては最高裁判所においてこれらの實際上の手續は制定されることと考えております。しかしてその準備といたしましてわれわれ司法當局におきましては、ただいま臨時企畫部を設けまして、ここで將來最高裁判所でつくるべきいわゆる實際の手續問題について研究中であります。この成果を得られますれば、今後成立すべき新最高裁判所にこれを移しまして、よく研究をしていただいて、これを實際に運用していくことに相なると考えておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=3
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004・中村又一
○中村(又)委員 さらに質問をいたしたいと存じまするが、民主國家におきまして司法の重要性その獨立の權能にあるものと考えます。司法權の獨立が全きを得なければ、もちろんその司法權の運用の威嚴は保たれないのであります。しかしながらこれが過ぎますれば、フアッショ的官僚支配の手段となるおそれなども加わつてまいりまするので、この點につきましては十分なる警戒を要する點だと存じます。しかして今後の司法權が國民總意の上に立脚をしなければならぬことは當然でありまするし、またこれあつてこの民主主義裁判の根本觀念としまして、その獨立の權能の主張が明らかになつてまいるものと存じます。ゆえにかつての軍閥フアッショの轍を踏むことがないように今後の裁判權の獨立の精神を指導していただかなければならぬと考えております。この關係につきまして、大臣の御方針が伺われたら結構だと存じております。さらに司法權の獨立は、まず裁判官の身分の保障を前提といたしまして、この點は現行憲法五十八條におきましても規定を設けておるのであります。改正憲法はさらにこれを明確にいたしまして、第七十六條第三項第七十八條等においてその規定をいたしておるのでございまするが、この改正憲法によりますれば、下級裁判所の裁判官については、一般の官公吏とはなはだしく趣きを異にいたし、十年の任期が定められておるのであります。この憲法の規定は一面においてその運用によつてははなはだ妙味のあるものと思われまするけれども、他面において裁判官の身分の保障に關連し、いかに運用されるかは重大なる問題として殘ると存じます。この運用はもとより最高裁判所の權限に屬する事項でありまするが、その運用に資するためには司法省として今日において十分なる用意がなければならぬと考えております。この重大なる點につきまして大臣の御用意はいかがなものであろうかという點を伺つてみたいのでございます。この具體的お伺いの内容といたしまして、第一、裁判官の在任中の地位待遇を大いに向上せなければならぬ。またこの任期滿了の際は在任中特に過失などがない場合におきましては、原則的に在任ができるような方法を考慮せなければならぬという點、また任期滿了後において退官する場合におきましては、他の官吏と違つた特殊の、裁判官という性質の建前から考えましても、生活の保障などにいたしましても、特段なる配慮が行われなければならないという點などを考慮いたしております。しかしながらこの場合におきまして、なるほど裁判官をして後顧の憂なく正義に鬪い、正義に邁進せしめ得るところの途を開かなければならぬと思いますると同時に、不良の裁判官の整理などは容易に行われ、國民の納得が及ぶような方法も、何か考え得られるのではなからうかという點もあるのでありまするが、何か大臣の御所見としてあれば承つておきたいと存じます。さらに司法權の獨立は、人事權の獨立と關係をいたします。裁判官の人事に對する内閣の干與はいかなる程度にあるべきものであるか。これまた重要なる問題であるのでございます。私は最高裁判所の裁判官の任命に關しましては、まず主管大臣により、國民代表たる議會人などもなるべく加えるといたしまして、委員會のごときものを内閣につくり、内閣はこれを諮問してこれを決定するというような方法などもあろうかと存じます。この點などに對しまする御所見はいかがなものでございましようか。公正なる裁判官の任命も、もちろん妥當を期すべきことは當然であるのでありまするが下級裁判所の裁判官につきましては、改正憲法は、まず最高裁判所がその任命すべき者の名簿を作成することを規定いたしておるのでありまするが、この名簿の作成は、全く最高裁判所の自由に任せることにより、その人事權を尊重いたし、その名簿による任命につきましては、内閣は場合によりこれを拒否することもできるようにすることによりまして、最高裁判所の人事權の不當なる行使を制限するというようなことが、最も適切でなかろうかと確信いたしております。こういう點につきまして司法大臣の御見解をお尋ねいたしておきたいのであります。まずこの程度でお答えを願いまして、最後の御質問をいたしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=4
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005・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。裁判官の獨善ということは最も避けなければならぬのであります。世のいわゆる裁判フアッショ、これは實に私としてはさような言葉の出ることが遺憾に考えるのであります。從來の裁判所でさような事實のあるやなしやということについては、國民の判斷に任すほかないのでありますが、かりそめにもさような言葉の出ないように、將來は十分に警戒していかなければならぬと考えております。それは根本はやはり人の問題であります。裁判は國民の信頼を得なければならぬのであります。裁判官たる者の職責任務というものは實に重大であります。いかに判決をいたしましても、國民の信頼を得なければそれは効をなさないのであります。裁判官の人としての修養はもちろんのこと、學問的においても今後はますます研究していかなくちやならぬと存じております。しかしてこの裁判官のいわゆる獨善を避けるためには、私は人事の交流ということが非常に必要であろうと考えます。互いに啓發し合う、ただ裁判官として終始して來た者ばかりでもなく、いわゆる在野の法曹からも、今後裁判官になつていただいて、そうしてお互いに切磋琢磨して、より良き裁判所をつくるということにならなければ相ならぬと考えております。御承知の通りアメリカでは裁判官は必ずロイヤーから選拔されるのであります。このロイヤーというのは、要するに民間におつて實際の法律事務に從事してきて、そうして世の中の信用を得てきた人なんであります。それでアメリカの裁判事務というものは實にうまく活用されておるのであります。イギリスにおいてもまたしかりであります。日本におきましてももちろん、初めから裁判官で終始してきた人に實に立派な人があります。敬服に値する人はたくさんおるのでありますが、これをよりよきものにするのには、やはり民間からも多數の立派な法曹が裁判官として任命され、そうして互いに助け合つて一段と國民の信頼を得るところに、眞の意味の裁判の民主化があろうと私は考えております。この意味におきまして、本法案において最高裁判所の裁判官の任命につきましても、十五名のうち五名は、別段の資格がなくとも、學識經驗、その他徳望、あらゆる觀點から見て、最高裁判所の裁判官たり得ると、國民がひとしくこれを認定し得る人であれば、はいつていただけることになつておるのであります。これは私は畫期的の制度だろうと考えております。また先刻申しました簡易裁判所におきましても、資格の問題を離れて、一般國民の中からその地方の徳望の高い人をはいつていただくということになりますれば、裁判の獨善司法フアッショというような、われわれ聞くも不愉快なさような言葉は、將來取去られ得るものと考えておる次第であります。
次に裁判官の身分保障の點であります。申すまでもなく日本國憲法におきましては、裁判官の地位というものを非常に重く見ております。またこれは當然のことであります。國家の法を掌るもつとも重要な役目でありまするから、この裁判官の地位の保障というものは、憲法に保障されておることは當然のことでありまするが、この人たちに對する報酬の點につきましても、これは特別に法律をもつてきめ得ることに今度の制度ではなつております。生活に何ら顧慮なく、專心裁判事務に從事されれば、將來立派な裁判制度が實施され得ることと確信して疑いません。申すまでもなく裁判官は日本國憲法によりますると、任期が十年になつております。十年經てば一應は——これは再び選ばれない限りは退官するのでありまするが、お話のように何ら不都合なく十年勤めてきた人は再選され得るように取計らうということは、これは私は當然のことであろうと思います。十年經つてすべての人が退官するというようなことがあつてはならぬ。無事に勤めた方は、おそらく將來といえども十年、さらにその選にあたることと私は確信して疑いません。
次にこの裁判官の任命の問題でありまするが、御承知の通り日本國憲法におきますると、裁判官は原則として内閣が任命することになつておるのであります。内閣はこの任命について國會に責任を負うておるのであります。要するに日本國國民に對して、内閣は裁判官の任命については法律上の責任を負うておるのであります。これは重大な責任であります。そこで裁判官のこの名簿については、もちろん最高裁判所は適任者なりとしてこれを内閣に提出するでありませうが、内閣においてそのまま名簿に基いて任命するのではありません。ここが私は非常な妙味のある點であろうと思います。最高裁判所において名簿をつくつて、そのまま内閣で任命するということでありますれば、これは意味をなさぬのであります。これでは最高裁判所というものがこれを任命することになるのであります。最高裁判所でつくつた名簿に基いて、そのうち不都合なものがあれば、内閣においてそれを拒否することができるのであります。拒否されればその名簿をまたつくりかえて新たに提出する。ここに妙味があるのであります。いわゆる内閣において拒否權を有するのであります。そこに最高裁判所と内閣との間の妙味が發揮されることと存じております。
次に俸給の點について一言觸れておきたいのでありますが、俸給はむろん今申しました法律できめまするが、かりに十年經つてやめる人があります。行政官になれば、その後勤めれば恩給がつくのでありますが、十年として裁判官をやめて、恩給もつかぬというようなことに相なりますれば、將來裁判官の任用についても非常な支障を來しはしないかと私は思います。これらの點につきましては十分の考慮を拂つて、最善の處置を講じたいと私は思います。そしてあまねく立派な裁判官をして裁判所を構成せしめるというような方針でまいりたいと考える次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=5
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006・中村又一
○中村(又)委員 本案につきましてもかなり重要な點でありまするが、すなわち豫算の問題であります。豫算の編成と執行もまたこの司法權の獨立には、重大なる關係を有するものと思います。この會計をもたざる獨立は、結局無力無意味なもののごとくなつてしまうおそれがあります。しかしながら國庫の支出は内閣の責任と國民の負擔においてなされるものでありまするから、豫算の編成については、内閣がまつたく査定の機會も權限も與えられないということは不當と言わなければなりません。この點につきまして自分は一應裁判所をして豫算の編成權を認めこれに基いて内閣の責任において豫算案を作成し、その裁判所の十分なる意見を尊重して、この作成したるところの豫算案を國會に提出するということが考えられるのでございます。この場合裁判所の豫算の編成には、なるべく事前に議會側、すなわち司法委員とでもいうようなものを加えまして、あるいは財政當局もこれに參加せしめまして委員會のごときものを組織いたし、これに審議せしめて、内閣案と裁判所案との間に不要な對立や摩擦的意見などがないようにいたして、この制度を試みるというような御方針などはないのであるかどうか。この點につきまして大臣の御所見を承つておきたいと存じます。元來本委員のごときにおきましては、裁判所は純粹なる裁判事務をなすべきものであつて、豫算のごとき行政行爲的性質をもつたものは、裁判所にはもたないようにすることが適當であるというような考え方ももつておつたというような關係から、この點につきましては、特に御親切なる説明を求めてみたいと思います。
それから監督の關係につきまして一言お尋ねいたすのでありまするが、裁判所は純粹なる裁判所のほかに、たとへば諸種の訴訟事件その他多くの行政的事務をも行つておるのであります。また改正憲法により、廣く規則の制定その他の司法行政上の權限が裁判所に與えられるようになつております。裁判所がこれらの權限を行使する場合において、なお獨立の職權を行使して、これに對し行政府たる内閣は監督權を行い得ないのであるか。あるいは行い得るといたしますならば、その監督權行使の方法はどんなものであるか。行い得ないとすれば、裁判所の當該職權行使の當否を問責する方法はいかんというような點につきまして、簡單に御所見を伺つてみたいと思います。
それからこの裁判權の範圍はきわめて廣くありまして、一切の訴訟を裁判することになつております。この廣汎なるところの權限を行使する場合に生じまする行政機關に與える影響は、ほとんど豫想できないほどに大きなものがあると思われます。かかる裁判所の人的、物的陣容を充實することは容易ならぬことでありまするが、このためにまずいかなる行政訴訟事件、その他重要なる政治的事件が裁判所に係屬いたしましても、國民が安心して信頼できるような、人格識見ともに優秀なる人物を吸收採用できるか、裁判官の地位等につきまして特段なる考慮が拂われなければ、この問題の解決はできないと存じます。この場合において私は突込んだる考え方をお尋ねいたしてみたいと思いまするが、この人的陣容の配置等につきましては、たとへば天皇の裁判官より國民の裁判官に裁判制度が切替えられるという新憲法實施の五月三日を前に控えまして、國民の安心するほどの機構ができ上り、これに相平均をいたしまして、人的配置が行われなければならないといたしますならば、一應たとへば判事の身分保障の如きを撤去し、自由にこの限りの法律を制定する等の手段に出まして、適正なる任免を斷行するというような準備などが行われなければならぬのではなかろうかと存ずるのでありますが、この重大なる考え方に對する大臣の御所見はいかがなものでございましようか
それからこれは少しく一、二點細部の點につきましてお尋ねをいたしておきますが、最高裁判所の裁判官は、長官を含めて合計十五人となつております。現在の大審院判事はその員數ははつきりいたしませんが、三十五人以上四十人前後ではなかつたかと記憶いたしております。今後人權は尊重せられまた權利はますます尊重擴大されるという場合におきまして、わづか十五人の裁判官が、三審制度の精神を完全に生かしてこの裁判制度の利益を受け得ることができるかというこの點であるのでございます。思うに最高裁判所の權威を高め、判例を統一するというためには、裁判官の員數をなるべく少くするということも必要でありましようけれども、ただいま申しますように、國民の權利義務を厚く保護するという立場からいたしますならば、なるべく多くの事件を最高裁判所に持ち込みまして、そうして十分國民の納得のいく裁判を受け得るというこのためには、裁判官の數は多少多いのが適正であると考えるのでありますが、これらの調節などにつきましてはいかなるお考えであるか。承つてみたいと存じます。
それからいま一つは、最高裁判所を初めといたしまして、地方裁判所に至るまで裁判所の司法行政事務についてはすべて裁判官會議の議によつて運用せられるような規定の如く見らるるのでございます。これはなるほど裁判官が由來互いに獨立であつて、上命下服の關係にある行政官と異りまして、司法行政の面においても、同一官廳内で長官と下僚との關係に立つようなことのないよう工夫された、まことに民主的なる機構とも思われまして、その趣旨においては賛成さるる點もありますが、ときにより融通性を要しまして敏速秘密を必要とする行政事務に關し、その實行上多くの困難不便が伴うことなどを思い合わせまして、事の性質によりましては裁判官會議によることなく、裁判所の長に權限が一任せられてこの司法行政の運用を闊達にせられるということが適正ではなかろうかと考えます。すなはち、裁判所に純粹なる裁判の會議ということは、今日といえども考えらるることであつたのでございますが、司法の行政は會議に付してやるということになりますと、ややもいたしますと裁判はそつちのけになつてしまつて、わずかの員數によつて行政事務の裁判官會議にばかり墮するというような關係が生れてこないかということを深く憂慮をいたしておるのでございます。この點につきまして會議裁判所のこの規定によつてみますると二人以上の判事がおる場合も、最高裁判所は一人の判事にその司法行政を委任するという規定であるのでありますが、これを移して地方裁判所などにも適用さるるという用意はないか。この點をお尋ねいたしておきたいのであります。
それからこれも小さい問題でありまするが今囘新たに各裁判所には行政事務などが附着しました關係上、各裁判所に事務局というものが設けられております。この事務局につきましては、その構想等について特に參考になる御意見がありますれば、この際その内容などを伺つておきたいと存じます。
さらにこれに關連をいたして、未だ提出にはなつておりませんが、新聞紙その他における草案などから見てみますると、裁判所には事務局があつて、今囘さらに獨立いたしますところの檢察廳には事務局がないという手落ちになつております。ひとしく廣き意味における司法行政を擔當する事務局の建前から考えますならば、この點なども用意せらるる必要があるのではないか。これは關連としての質問でありまするが、お答えを願われたならばさらに結構な次第と存じます。
それから今日の民主主義裁判制度並びにその運用時代に當面いたしまして一言言葉を費しておきたいのは、五年も十年も三十年も裁判の書記となり、あるいは書記長となつて、ほとんど裁判所の生字引となつておるような人たちが、いつまででも、今日までの言葉で言えば裁判所の書記としておるのであります。もう法律運用上、裁判上の學識としては相當値打ちもあり、活用する價値もある人たちであるのでありまするが、今囘天皇の裁判所が國民の裁判所に切りかえらるるというこの際においてこそ、かかる寶である十年あるいは三十年というような經驗をもつておるところのこの書記のごときを、それ相應なる立場に活かして、これを登用するという途を開くの必要があらうかと存ずるのでありますが、この點に對しましても大臣の御所見を承つておきたいと存じます。
最後に私はこの法案とは全然關係がないのでございまするが、裁判所と重大なる關連性がありますから、一言お願いをいたしておきますることは、今日恩赦法も他の委員會に提案されておるように存じております。來る五月三日はいよいよ新憲法の實施であります。この際天皇の恩赦に代るいわば國民の規定が實施せらるることになるのであります。この場合において人權を尊重し、しかしてこの劃期的なるところの憲法の實施とともに、その線に沿う法律が實施せらるるというその日にあたつて、新憲法公布の以前に行われたる犯罪のごとき一年あるいは二年以下の輕い刑罪のごときは、今囘こそ罪種を設けられずに、憲法發布を機會に一應國民恩赦の規定を發動いたし、ひとしく國民人權の尊重の事實に立つて、その罪を解放してはいかがなものであろうかということを考えておるのでございまするが、この大きなる問題に對しまして、何らか大臣にも所見があらるればありがたく拜聽いたしてみたいと存じております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=6
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007・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。まず裁判所の豫算の點でありますが、御承知の通り日本國憲法第七十三條によりますると、内閣は豫算を作成して國會に提出する義務がある、言いかえますれば、豫算はまず内閣が作成しなければならぬのであります。そこで裁判所の經費の問題にいたしましても、これは裁判所で一應豫算を組んでそれを内閣へ提出することに相なります。そうして内閣では國家の全部の財政とにらみ合わして、最高裁判所から提出された豫算について、いろいろ議論をして決定することになつております。そうして内閣で作成した豫算はこれを國會に提出されて國會の承認を得なければならぬ。これは當然であります。そこで一面において裁判所の經費の獨立性を裁判所法が認めておるのであります。實際の取扱いといたしましては、その最高裁判所で作成して内閣へ提出した豫算そのままを、一應國會に内閣のつくつた豫算につけて提出して、そうして國會でそれを檢討していただくということになると思います。要するに最高裁判所で内閣へ提出したその豫算が、そのまま内閣でこれを認めて豫算を編成すれば、それはそのままでよいのでありまするが、かりにそれを削減したといふ場合を假定いたしましようか。その場合には最高裁判所の作成した豫算を國會に、參考のために添付して提出するのでありますが、それで國會においてはこの内閣の削減が不當であるかどうであるか。あるいはまたもつと増せというような場合も出てくるかもわからない、要するに參考案として出てきますから、それに基いて國會で承認を求めるということに相なろうかと存ぜられます。
それから最高裁判所の判事の數でありますが、お説の通りただいま大審院の判事の數は三十一名おります。これでやつておるのであります。しかし新たに出發いたしまする最高裁判所では、從來の大審院とよほど性格が變るものと考えております。事件の性質またおのずから變つてくることは當然であります。新裁判所法によりますると、最高裁判所取扱事件の數も割合制限されるのじやないかと考えております。そういう點から見て、この十五人ということは、ただいまのところ不都合は生じないと考えております。殊に最高裁判所の性格から考えて、これを非常な權威をもつものですから、これに多數の裁判官が設置されることは權威の上からもいかがかと存じます。現にアメリカにおいては、日本の最高裁判所に相當すべき裁判所は九人でやつている。日本の今度の裁判所法案の十五人より六人も少いが、それで立派にやつております。將來のことはわかりませんが、まず最高裁判所の判事は十五名でやり得るものとわれわれは考えております。法制審議會の議もまた十五人ということで落ちついたのであります。さよう御承知願いたい。
それから裁判官をこの際一應整理してきれいなものにしたらどうかというような御質疑のように考えられました。これは申すまでもなく、五月三日を期して新たな裁判官ができあがると現在おる裁判官はそれと同時に退官するのであります。もちろんこの大多數の現在の人は新たなる裁判官として出發するのでありましよう。しかしその線に漏れた人は當然やめることになるので、この際新たに法律を制定して整理する必要はなかろうと思います。
書記の問題についてはお説ごもつともであります。多年裁判所に勤めて、實際の事務に堪能な書記を優遇することは當然と考えております。現に書記の優秀な人は今でも二級官に採用しており、將來は司法事務官として多くの人が採用されることと考えております。殊に簡易裁判所の判事にこれらの人は採用されることができ得るのであります。多年書記として働いて來た人たちに、この簡易裁判所の判事になつていただいて、裁判の民主化に十分努力していただきたいと考えております。次に事務局の問題であります。これは檢察廳にはありませんが、檢察官の性質上今のところ必要なかろう。裁判所とよほど機構が違いますから、これは實際問題として、さようなものが必要であれば、法律に規定されなくてもやつていけるのであります。裁判所の方は、事務局の設置が必要で、法律に規定した次第であります。次に、裁判官會議の件でありますが、これは必ずしも裁判官會議限りで何もかもきめていかなくてはならぬというわけではありません。これは一にその運用は裁判官會議自體に任せてある。裁判官會議によつて、長官にある事項を委囑するということはできますから、裁判官會議をやるために、事務が澁滯することはなかろうかと考えております。大きな事項は裁判官會議できめていくのが妥當であろうとわれわれは考へております。裁判官會議の結果、ある事項についてどこえ任せるということになれば、任されたものが、その委任によつて、自分の任意に事務を取扱つていくことになりますから、これは運用の問題でありまして、別に支障はなかろうと考えております。最後に恩赦の問題であります。五月三日に恩赦が實施されるかどうかということは言明のかぎりでありません。しかしながら申すまでもなく恩赦というものは國の恩惠であります。この恩惠を施す際にはこれを遍く行き渡らせることが、その精神がそこにあるだろうと考えております。從來はいわゆるある種の犯罪に限り、ごく狹くやつた時代もありますがだんだんこれは廣まつていつております。現に最近行われた恩赦においては相當廣範圍に亙つております。將來においてはお説の通り、國家の恩惠を廣く浴せしむるという精神をもつて、御希望のような線に沿つてやれるものと私は考えております。これは一に内閣のその時の方針いかんによつてきまるわけでありますが、私はさように考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=7
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008・小島徹三
○小島委員長 これにて午後一時半まで休憩いたします。
午後零時三十七分休憩
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午後一時四十九分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=8
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009・小島徹三
○小島委員長 休憩前に引續きまして會議を開きます。菊地養之輔君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=9
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010・菊地養之輔
○菊地(養)委員 私は逐條的に御質疑を申し上げる前に、ただ一つ總論的な質問を申し上げたいと思います。それは裁判民主化の構想について、事務當局はどういうふうに考えて、おらるるかという點であります。今日わが國におきましてはすべての政治、經濟、文化各方、面において民主化の一途をたどらなければならぬことは言うまでもないのであります。これは司法の問題もこれに漏れてならないことは言うまでもないのであります。先ほど中村君の質問に對して、民衆の便宜のために簡易裁判所をたくさん設けるとか、あるいは訴訟を簡易化して迅速に解決を得る方法をとるというような點について御説明を承つたのであります。これは國民の便宜の方法を考える。國民の利益のためを考える一つの民主化の方法でありましよう。また一方殘された方面において、裁判が國民と協力のもとに行われる。いわゆる民意を裁判の上に反映させるという方向については、まだ御説明がなかつたのであります。私の聽かんとするところは、國民の協力のもとに、いわゆる國民の民意を反映する裁判の方法について、どういうお考えをもつておるか。それに對する構想を承りたいのであります。具體的に申しますならば、陪審裁判に對して、あるいは三審制度に對して、その他の民意を反映させる方法について、當局はどういうお考えをもつておるか。その構想のあらましをまずお聽きしたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=10
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011・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。御意見ごもつともと存じます。そこで民意を裁判の上に反映せしむる方法としてはこれはイギリス、アメリカで行われておりまする陪審制度これがもつとも妥當な方法だと考えておるのであります。しかし御承知の通り民事事件につきましては多くは事件の内容が複雜多岐にわたると同時に、法律問題が終始絡み合つておるのであります。そこで民事事件について陪審制度を取入れるということは、これはただいまのところ、その時期ではないと考えます。イギリスでもアメリカでも、民事事件について陪審制度を取り入れられていないのであります。しかしながら民事事件についても、理想としては民意を取入れ、民意を反映せしめるということはもちろんのことであります。その手段といたしましては、要するに裁判官をしてよく民意を把握せしめる。いわゆる世間の事情に通ぜしめる。これが私は最も肝要であらうかと考えております。將來この方面について司法警察の制度を活用いたしまして、十分に裁判官自體が民意を取上げで、民意に副う裁判をし得るような制度にもいたしたいと考えておる次第であります。なお私は特に申し上げたいのは、菊地君も御承知でありましようが、民事事件についての調停制度であります。これはただいまのところ私の知る範圍においては、相當に効果をもたらしておると考えております。これも私は裁判の民主化の一大事項であると信じておるのでありまして、この調停制度を將來とも十分に活用していきたいと考えております。
それから三審制度につきましては、ただいま當局といたしまして十分に考究中であります。それから刑事事件についての陪審制度はこれはごもつともな御意見でありますが、これを實施する當面の一番の隘路といたしましては御承知の通り全國にわたつて裁判所が五十いくつも燒けておるのであります。今直ちに陪審制度を施行するということになると、なかなか經費その他の關係上容易ならぬことであります。さらばといつて、將來陪審制度を施行しないかということの御質問であれば、これはそうではない、當局においては陪審制度を時期を見て實施いたしたい、こう考えております。御諒承願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=11
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012・菊地養之輔
○菊地(養)委員 裁判民主化にあたつて司法當局が熱意をもつておられることを承つて、私どもとして喜びにたえないのでありますが、ただ裁判所が燒けておるので、直ちにこれを施行することが困難であるというその状況は、これを認めるのでありますけれども、裁判の民主化は一日も缺くべからざる問題でありまして、あらゆる障害を打破つてそれを行わなければならぬと考えておるのであります。この點は一つ一段の御努力を願いたいと思うのであります。刑事事件につきましては、陪審制度を設けるという御意見はよくわかつておるのでありますが、その刑事事件の中で、一體公判陪審のみを考えるから建物のことをお考えになると思うのであります。私は從來日本のとつた公判陪審はもつと根本的な意味において起訴陪審から始めなければならぬ。起訴陪審がはつきりしておらなければ公判陪審もうまくいかぬと考えておるのであります。そこで建物は公判陪審にはぜひともなくちやならぬのでありましようけれども、起訴陪審についてはそれほど重要でないと思うのであります。第三條には「この法律の規定は刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。」と、きわめて消極的の規定をおいたのでありますが、それが公判陪審なりや、起訴陪審なりやの何らの規定はございません。この點に對して當局の考えておる陪審は、公判陪審であるか起訴陪審であるか、双方行うものであるか、この點をまずお聞きしたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=12
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013・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。御承知の通り起訴陪審の制度が、これは實は英米においても相當問題があるのであります。しかしわが國といたしましては、さいわいに裁判所法が今度新たに實施されることになつておるのでありまして、根本的に陪審制度について今研究を進めておるのであります。それらの研究をまちまして、そうしてこれこそ私は民意に問うて、いかなる方法で實施すべきかをきめていきたい、こう考えておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=13
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014・菊地養之輔
○菊地(養)委員 先ほど司法大臣の御意見がありまして、民事についても陪審制度に關することを考えておられるということでありましたが、この第三條には刑事についてと特別に書いてあるのであります。今御研究中だというお話でありますが、御研究中ならば、刑事だけに止めないで、民事についてもこれはお考えを願いたい。裁判民主化は、殊にわれわれの日常生活に關係の深い民事問題についても、十分の考慮を要すると思うのであります。從つて私はここでお答えを願うわけではありませんけれども、ここに「この法律の規定は、刑事について」と刑事だけの陪審制度を考えているに止まつてはならぬと思うのであります。できるならばこの「刑事について」という狹い意味のことを省いて「この規定は、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。」として、後で差障りないように大きくしておいた方がいいのではないかと考えているのであります。特に司法大臣にお願い申し上げたいのは、今日こそ日本は民主主義の觀點に立つて、あらゆるものが革正される時期でありまた國民も大きな關心をもつて民主化に臨んでいるのであります。從來官僚として自分の特權を主張してまいりました人たちも、飜然と國民とともに民主化を斷行する勇氣が燃えているのであります。時恰も在野法曹出身の木村司法大臣がおられるのであります。きわめて適切な時期に、適切な人を得ているのであります。希わくはこの時において民主化を實現するために、刑事民事を併せて日本の陪審制度のために一段の御努力を願いたいということの希望を申し上げたいと思うのであります。
次は第十六條についてお聞きしたいのであります。これは高等裁判所の裁判權を規定したもので、その第四號に「刑法第七十七條乃至第七十九條の罪に係る訴訟の第一審」とありまして、内亂罪のみを高等裁判所で第一審として裁判する規定でありますが、内亂罪と同樣な外患罪竝びに國交に關する罪、これらの罪もまたこの十六條の高等裁判所の裁判權として規定した方がいいのではないか、こういうことを考えるのであります。實は外患罪の方は戰爭を放棄した日本においては、あまり必要ないような感がするのでありますがしかしながら各種の條文を檢討しますと、きわめて重要な部分があると思うのであります。特に國交に關する罪、日本に滯在する外國の君主、大統領、日本に派遣せられたる外國の使節、あるいは外國に對しひそかに戰鬪をなす目的をもつて豫備陰謀をなした者、こういうような今日の日本にとつて最も適切なるものが包含されているのであります。こういう種類の犯罪をも、内亂罪と併せて十六條の裁判權の中に包含することが、きわめて適切ではないかと思うのであります。戰爭を完全に放棄するためにはこれらの國交に關する罪、及び外患罪に對する罪をも、重要問題として審議するということは、戰爭放棄に關する前提要件となるものではないかと考えるのでありますが、當局のお考えはいかがですか、この點をお答え願いたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=14
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015・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。御承知の通りすべての犯罪についての裁判は、國民に直接の影響を及ぼすものでありますから、なるべくは三審制度を採用したいのでありますが、内亂罪は御承知の通り特に治安維持の關係からして、早急にこれを處理すべき必要があると考えます。それで特にこの高等裁判所を第一審として事件を取扱うという建前をとつたのであります。この點は十分御諒承を願いたい。ほかの外患罪國交に關する罪につきましては、現行の制度でも同樣になつているのであります。内亂罪については特に治安維持の必要上早急にやる必要ありと考えて、この規定を設けた次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=15
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016・菊地養之輔
○菊地(養)委員 次に三十一條について御質問申し上げたいと存じます。三十一條に(支部、出張所)というのがあります。支部というのはわれわれは從來の地方裁判所の關係から見て了解できるのでありますが、この出張所というものの組織權限は、どういうものであるか、この點を伺いたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=16
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017・奧野健一
○奧野政府委員 その點私から申し上げます。支部と申しますのは、既に御承知のごとく支部におきましては特定の裁判官が常時勤務しておりまして、審理にあたつては法廷を開いて事件を取扱うのであります。しこうして現在の地方裁判所の支部及び現在ある區裁判所の所在地全部に對して、新しく地方裁判所の支部というふうにいたす考えであります。出張所につきましてはこれは裁判官が出張して執務するものでありまして、法廷も開かないで、非訟事件手續でありますとか、あるいは調停手續を取扱うという違いが、支部と出張所にあるわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=17
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018・菊地養之輔
○菊地(養)委員 次に三十九條について伺いたい。三十九條には最高裁判所の裁判官の任免を規定してありますが憲法第六條の第二項と同じことを規定して、同じ言葉を使つておりましてちよつとも違つておらない。第三十九條の方は「最高裁判所長官は、」といつて主格を最高裁判所長官に置き憲法第六條の第二項は「天皇は」としてあつて、天皇の方面からしてこの規定をしているのでありますが、文字はちよつとも違つておらぬのであります。それからその次の第二項の「最高裁判所判事は、内閣でこれを任命する。」これも少しも違つておりません。同じ言葉であります。ただ主格が違うだけである。こういう同じ規定を、憲法と裁判所法で二重に規定する理由はどういうわけでありますか。それを伺いたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=18
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019・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。一應ごもつともな御疑問と思います。かように憲法に規定されたものを、さらに裁判所法の方に規定するということになりましたのは、これは事、司法の根本に觸れておりまする重大事項でありまするから、特にこの規定を挿入した次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=19
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020・菊地養之輔
○菊地(養)委員 それならばお伺いいたしますが、最高裁判所長官任命の法理的根據は憲法なりや、あるいは裁判所法なりや、いずれを根據として最高裁判所長官は任命されるのでありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=20
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021・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 もちろん、憲法が根本になつて、その憲法に規定せられたものをここにもつてきたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=21
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022・菊地養之輔
○菊地(養)委員 そうすると憲法が根據になつて、最高裁判所長官が任命になるというならば、この規定は無意味に歸するのではないか。何のためにここに同じものを規定されるか。法理的根據にならない規定を、裁判所法が何のためにここに規定するか。法律は少くともその任命の根據になるならばこの規定は必要である。根據にならないものをここへ規定することは、ナンセンスではないかという感じを、この條文を見た時に感ずるのでありますが、この點どうなるのでしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=22
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023・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 これは先刻申し上げましたように、司法の根本に關する重大事項でありますから、特別にこの規定を挿入したのであります。ちよつと速記をやめて。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=23
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024・小島徹三
○小島委員長 速記をやめてください。
〔速記中止〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=24
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025・小島徹三
○小島委員長 速記を始めて。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=25
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026・菊地養之輔
○菊地(養)委員 一項、二項はこれでいい。三項に「最高裁判所判事の任免は、天皇がこれを認證する。」とこうありますが、この認證の規定は憲法にははつきりしておるのであります。私がこういうことを申さなければならぬのは、あらゆる官吏の任免は天皇が認證することになる。そうすると「最高裁判所判事の任免は、天皇がこれを認證する。」と書いてありますが、すべての官吏の任免の場合に、この規定が全部の法規に出てきて煩瑣にたえぬのではないかと思うのであります。憲法では官吏の任免は、天皇が認證するとはつきりあるのでありますから、あらゆる官吏の任免に關する規定を、こういうふうに全部書くということになると、法規上の體裁から見ましても煩瑣になるのではないかと思うのでありますが、前の方はしかたないとしても、この點はどうでしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=26
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027・奧野健一
○奧野政府委員 その點私からお答えいたします。これは憲法第七條の第五號で、國務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免については、天皇が認證するということになつておりましてここに「最高裁判所判事の任免は、天皇がこれを認證する。」と書きましたのは、最高裁判所の判事が、いわゆる法律の定める認證官であるということを表わしたわけで、この裁判所法では、最高裁判所判事とそれから高等裁判所長官だけが、天皇の認證官になるという點を明らかにいたした次第であります。
なお先ほどの問題でありますが、すなわち三十九條では憲法とほとんど同じことを重複的に制定しておつて、不必要ではないかという御議論については、ただいま司法大臣が答えられた通りでありますが、なおこの點多少補足をいたしておきたいと思いますことは、憲法におきましては、最高裁判所の長たる裁判官、あるいは最高裁判所の裁判官というふうに「裁判官」ということになつておりますが、この三十九條では、最高裁判所長官は云々、あるいは最高裁判所判事は内閣でこれを任命するというふうに、廣く裁判官の種類の點につきまして、五條に明らかになつておりますように、最高裁判所の裁判官は、その長たる裁判官を最高裁判所の長として、その他の裁判官を最高裁判所の判事とするということになつております。その最高裁判所の判事と最高裁判所長官という、そういう特定の裁判官のことについて三十九條は規定したわけで、この點やはり憲法とは、實質は同じことになりますが、表現等についてはそういうふうで違つてまいります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=27
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028・菊地養之輔
○菊地(養)委員 その點は司法大臣のお話でよくわかりましたが、民事局長のお話のような言葉が違うとか、何が違うというのでは、私は承認しがたいのです。しかしその點はこの程度で觸れません。
次に第三十九條第一項に「裁判官任命諮問委員會に關する規程は、政令でこれを定める。」とありますが、この裁判官任命諮問委員會の構成についてお伺いしたいのであります。どういう人人がこれを構成するのであるか。きわめて重要な事項でありますから、お聽きいたしておきます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=28
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029・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。この諮問委員會の規程は政令で定めることになつております。政令がいかに定められるかということはまだ確定いたしておりません。しかし私司法大臣としての個人の構想だけは、ここで一應述べておきますことが、時宜を得たことではないかと考えます。まず私の構想といたしましては、貴衆兩院議長、帝國大學の總長、司法大臣、檢事總長、大審院長、民間側といたしましては、辯護士會の會長、そういう方面から委員になつていただいて、そうして諮問に應ずるということにすればいかがかと考えております。しかしこれはまだいかに機構をするかということは問題になつていないのでありまして、いずれ政令でこれを定めるということになつております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=29
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030・菊地養之輔
○菊地(養)委員 裁判官任命諮問委員會の構成はきわめて重要だと思うのであります。この構成メンバーによつて、日本の裁判がほんとうの意味において民主化される。從來の官僚的なものを一掃して、立派な裁判が行われるか否かにかかわる問題でありますから、十分なる御努力を願いたいと思うのであります。特にこの際お尋ねいたしたいのは、政令をもつてこの構成をきめられるという點でありますが、政令はその内閣の迭るたびに變つてくることになると思うのであります。そうすると内閣の迭るたびに政令が變つて、いわゆる諮問委員會の構成が變り、内容が變るとなりますと、私は重大なる影響を及ぼすのではないかと思うのであります。この點は法律をもつてこの裁判官任命諮問委員會をきめなくてはならぬ。それが一番正しいことではないかこういうふうに考えておるのですが、いかがでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=30
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031・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 理論としてはまことにごもつともです。しかしこの政令で定めることになりましても、實際の運用といたしましては私はさほど弊害は起らないと考えております。殊にこの第一囘の諮問委員會の構成さえうまくまいりますれば、これが先例となりまして十分、活用ができ得ることと考えております。かたがたこの裁判所法の施行は非常に急いでおりますので政令に讓ることが適當かと考える次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=31
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032・菊地養之輔
○菊地(養)委員 ただいまの點は事情としては諒承いたしますが、今日の日本が三權分立の線に沿うているという事實を考える場合に、一内閣の政令によつて、裁判所の重大な問題を決定する判事を任命する諮問委員會が、一内閣によつて左右されるようなことがあつては飛んでもないことだと思うのであります。これは一時の便宜主義で解決する問題でなくて、根底に横たわる深いものがあることを感ずるのであります。この點はなお司法當局が、じかにお考えを下さることが正しいと思うのであります。この點はこの程度に止めます。
次は四十一條の點でありますが、これは最高裁判所の裁判官の任命の資格でございますが、これに對して識見の高い、法律の素養のある年齡四十歳以上の人から任命するという、一つの條件を掲げてあるのであります。もちろんこの條件には異議はございません。知識の高い、法律の素養のある人を、相當數必要なことは言うまでもないのであります。ただここに私は官僚出身でない在野法曹出身の木村司法大臣の心構えをお伺いし、また希望を述べたいのであります。從來の日本の裁判というものはあまりに法律にこだわり過ぎた。法律だけを知つておつて、ほかの人間的な、人間味を多分にもつた方面が閑却されておつた。たとえば科學的な知識を缺如しておる。あるいは宗教的情操をもつておらない。文藝的な素養をもつておらない。人間として完成していない人たちが、法律を知つておるということだけで裁判官になつておつたということが、幾多の缺陷をもつておつたと思うのであります。單に知識があるとか、法律の素養があるというだけでは私は遺憾にたえません。少くとも裁判官は、裁判官になる前に人間として完成されなければならぬ。人間として正しく完成されて、その上に法律的素養があつて、初めて正しい裁判官となり得ると私は思うのであります。私はここに書いてあるものになお一層いろいろなことを附け加えるのでありません。けれども日本の最高裁判を掌る裁判官には、この人間的素養、人間味、こういうものに對して、深い理解と薀蓄をもつておる方になつてもらいたいという希望をもつておるのであります。この列擧された一から六までの人のどれを見ましても、すべて法理的經驗だけに重きをおいておる。深い人生に對する理解と同情をもつたとこういう人方を、最高裁判所に迎えたいという熱烈たる希望を私はもつておるのであります。私はこの點に對する木村司法大臣の御所見を承りたいのです。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=32
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033・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 まことにごもつともな御意見であります。私は全面的に御同意申し上げたいと思います。この新制度のもとにおける最高裁判所の構成員たる裁判官は、ただ單に法律の素養があり、識見が高いばかりでなく、人として經驗の豐かな、また文化的の教養の深い人がこの地位につくべきものと考えております。いわゆるいかなる方面から見てもまつたく裁判官たり得ると、國民の信頼を得る人でなくちやならぬと考えております。アメリカの最高裁判所の裁判官の慣例的資格といたしまして三つをあげておるということであります。一つはパーレント、評判のよい人、これは國民の信頼をかち得た人、二つはタレント、才能豐かな人、三つにはウエルス、このウエルスは必ずしも物質的富ではないと解すべきもので、經驗にも豐かな人、文化的素養の豐かな人、人間味の豐かな人、あらゆる方面において人としての豐かな資格をもつた人、こういうことに聞いておるのであります。日本の最高裁判所の判事も、まさにかくあるべきと私は考えております。しかしてかような人によつて構成される最高裁判所が、初めて國民の信頼を得るものと思つております。その點につきましては、私はただいまの菊地君の御意見には、全幅の同意を表する次第でありまして、今後とも選ばるべき人が、いかような人かわかりませんが、さような資格のある人が、當然選ばれなければならぬと考える次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=33
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034・菊地養之輔
○菊地(養)委員 四十一條の第二項の點でありますが、この草案から見れば十七頁の第二行目、「司法研修所教官、司法次官、司法事務官又は少年審判官の職に在つたときは、その在職は、同項の規定の適用については、これを同項第三號乃至第六號に掲げる職の在職とみなす。」こういうのでありますが、この中に私は司法大臣を入れべきじやないかと考えるのであります。司法次官は入れておるが、司法大臣はない。私は最高裁判所の長官は、内閣總理大臣と同一に立つ人と考えるのであります。そういう方になつていただきたい。人格識見の高い、人間味の豐かな正しい人生を理解した人になつていただきたいと思うのでありますが、そういう最高の地位に立つ方の中に、司法大臣をやられたということを除外することは、その解釋に苦しむのであります。この點はいかがでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=34
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035・奧野健一
○奧野政府委員 立案の當時の考えといたしましては、司法大臣となられる方は、辯護士あるいは判檢事等におきまして、もう既に十年なりあるいは二十年なりの經歴を經た人が多かろう、ただこの二項は一號から六號まで掲げておりまする資格の人が、さらに兼任した場合の在職年限の通算だけの問題でありますので、特に司法大臣はこれに入れなくても、他の一號から六號の初めの方の一項の方の要件に、最高裁判所の裁判官に任命せられる資格があり、なお既に先ほど話がありましたように、最高裁判所の裁判官のうち、五名はいわゆる法律の素養のある、識見の高い人からも任命し得るのでありますから、おそらくはこの要件等によつて、當然任命資格もあるというふうに考えましたので、通算の點につきましてはこれを除外したのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=35
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036・菊地養之輔
○菊地(養)委員 四十四條で、裁判所事務官と司法事務官と書いてあります。司法事務官というのはこの規定のほかにないようでございます。これは司法事務官と裁判所事務官とをわけて書いたものではないかと思いますが、これをはつきりしておきたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=36
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037・奧野健一
○奧野政府委員 仰せのごとく、司法事務官と申しますのは司法省の官吏であります。裁判所事務官と申しますのは、今度裁判所法によつて新たに設けられました裁判所の職員でありまして、裁判所の事務局に勤務する者、あるいは場合によりましては、裁判所書記もこの裁判所事務官の中から補職されることがあると思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=37
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038・菊地養之輔
○菊地(養)委員 その點はよくわかりました。そうすると裁判所事務官の中に裁判所書記が包含されると思いますが、そうでありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=38
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039・奧野健一
○奧野政府委員 裁判所書記は裁判所事務官から補せられますから、そういうことになります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=39
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040・菊地養之輔
○菊地(養)委員 そうしますと、裁判所には今後簡易裁判所判事の任命資格が出ることになるのでありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=40
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041・奧野健一
○奧野政府委員 これは四十四條で三年以上一號から五號までのものからということになつておりまして、その四號に御指摘のように、裁判所事務官というものが入つております。しかしこれはこの二項によりまして、前項の規定の適用については、同項第二號ないし第四號に掲げる職にあつた年數、いわゆる三年以上という計算は、司法修習生の修習を終えた後の年數に限つて在職年數とするということになつておりますから、司法科試驗を合格した者、現在司法官試補にあたります司法修習生を經た裁判所事務官は、その三年の期間を經て簡易裁判所の裁判官に任命される資格があることになるわけであります。そういうふうに司法修習生を經ない者につきましては、四十四條の末項に、六十六條の試驗に合格するいわゆる司法科試驗に合格した場合に限つてこの四十四條の資格、簡易裁判所の判事に任ぜられる資格が出て來るということになりますので、現在の司法修習生を終えない者、あるいは司法科試驗を通らない裁判所書記という人人は、當然ここに言う資格者にはなり得ないのであります。ただしかし四十五條におきまして、多年そういうふうに司法事務に携つておりまして、學識經驗が豐富で、簡易裁判所の判事とするに適當であると思われる人々は、いわゆる簡易裁判所判事選考委員會の選考を經て、簡易裁判所の判事に任ぜられる途を考えておるわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=41
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042・菊地養之輔
○菊地(養)委員 よくわかりました。先ほど中村君の質問に對して、司法大臣が簡易裁判所に任用でき得る制度になつたと言うことは、ただいまの次の四十五條をさしておると思いますが、私はこの四十五條を相當程度廣く活用していただきたいという希望を長年もつて來たのであります。今日の裁判所の書記というものは、もう十數年、二十年もつと多い年月裁判所に携つておりまして、相當錬達堪能の士が多いのであります。しかしながらいくら長年勤めても、法律の知識において、實際の裁判事務について、若い判事諸公よりももつと有能の人達が下積みになつて、うだつがあがつておらないことが多いのであります。こういうものを引立てて、この四十五條を活用して裁判官に任用するということは、裁判自體の向上進歩になるばかりでなく、長い間下積みになつている書記の人達を奮起せしめまして、書記自身の仕事に對する精勵はもちろん、向上を目ざして進むことが自然だと思うのであります。この際司法大臣は、單に簡易裁判所判事に書記を任用できる規定が出たというだけではなく、進んで有能なる書記を、この四十五條によつて登用していく御方針をもつておらぬものかどうか。そうすることが、日本の裁判をしていろいろな立場から、實際に適合した立派な裁判をなし得ると私は固く信ずるのでありますが、この點を司法大臣はいかがお考えになりますか。一言御意見を發表願いたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=42
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043・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お説ごもつともであります。多年裁判所書記として事務に堪能な人は、でき得る限り選考委員會の議を經まして採用いたしたいと思つております。これが書記に希望を與えるゆえんであり、よき書記を裁判所に入れ得る一つのよすがにもなろうかと考えておりまして、その點について十分考慮いたしまして萬全の措置をとりたいと考えます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=43
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044・菊地養之輔
○菊地(養)委員 最後にお聽きしたいことは、この裁判所法以外に檢察廳法というような法律が施行されると思うのであります。昨日の司法大臣のお話の中にございましたが、檢察廳というものが裁判所から獨立することはよくわかつておるのでありますが、これは建物なんかまで別にする御用意があるのでありますか。長年私どもが法律事務を扱つた經驗から見て、裁判所と同一建物に雜居するということは非常に弊害がある。これは何も判事と檢事が妥協するという意味ではございません。一般國民から見て、判事と檢事とはいわゆる同じものである。同じ關係に立つのだと、立場を誤解されることが多いのであります。今度檢察廳が裁判所から獨立してでき上る場合には、すべて外觀、内容ともに分離していただきたい。こういう希望を私はもつておるのであります。この點に對する司法大臣の御所見を承りたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=44
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045・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 司法當局といたしましては、お説の通りの方向に進んで萬般計畫中であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=45
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046・菊地養之輔
○菊地(養)委員 私の質問を終ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=46
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047・小島徹三
○小島委員長 磯田正則君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=47
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048・磯田正則
○磯田委員 審議期間の關係上、ごく大ざつぱの質疑をいたしたいと思います。
〔委員長退席、三浦委員長代理着席〕
尾崎翁の言葉をもつてすれば、舊憲法もまことに立派なものであつたが、これが運用を誤つたがために遂に亡國となつたと言われましたが、新憲法も實に立派にできておりまして、これが附屬法規の一部でありまするところの本法案も、實にこれまたよくできておると思います。しかし要はこれが運用のいかんによると思うのでありますが、まず本法案運營に對しまして、立案の責任者であられますところの木村司法大臣は、いかなる決意と御所見をもたれておるかということを、最初にお聽きしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=48
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049・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 よき裁判所をつくりますのには、制度と人と相まつていかなくちやならないと考えております。この裁判所法は、施行になりますると、制度としてはほとんど完璧といつてよかろうと考えております。今のところ世界各國に例をとりましても、決して遜色はないものだと考えております。しかしこれを運營していくのは人であります。この人によろしきを得なければ、いかに制度が立派であつても、全きを期することはできません。その人を得ることについて私らは最善の努力を拂いたいと考えております。先刻來菊地君の御意見にありましたように、特に最高裁判所の判事の構成の問題、これなんかが代表的なものだと考えております。また簡易裁判所、これは直接民衆に接觸する第一線に立つていく裁判所であります。本法の實施後には五、六百の簡易裁判所ができるのですが、裁判の民主化がほんとうに實現できるかできないかということは、この運用いかんによつておると思うのであります。これらの判事になる人によろしきを得まして、そうしてこの制度の完璧を期したいと考えておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=49
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050・磯田正則
○磯田委員 法の運用には人を得ることがまことに重要であるというお考えこれは私の特に承りたかつた點であります。本法施行にあたりましても、努めて最良の人を選んでいただくことを希望として申し上げておきます。なおまた本法は、いわゆる新憲法に基いて人權を尊重したところの、民主裁判の實を上げる基本とならなければならぬと思いまするが、さような見地から現在の裁判所なるものが、はなはだしく民意に副わない點のあることを、まず根本的にこの際改める必要があると思います。たとえばその一、二の例を上げてみますれば、彼の裁判所の建物の構造、あるいは法廷の構造といつたものでありまして、御承知のようにあの建物や法廷の構造は、見るからに封建制そのままでありまして、諸外國の建物や法廷のごとく、どこにも明るさというようなものがなく、はなはだしく陰慘なものであるのであります。このことは目下開廷中の國際軍事裁判所等と對比いたしまして、あまりにもその懸隔がはなはだしいように思えるのであります。そうしてみずから四等國人を裁くに相應しい裁判所だというような、いやな感じを起させるのでありますが、大臣は本法施行に先だつて、まづ裁判所の建物や構造について、思いきつて改造をする決意をもつておられるか、またこれが豫算を思いきつてとられるお考えがあるかどうか、さような點についてお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=50
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051・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 裁判所の構造の民主化、ごもつともであります。そこで司法省といたしましては御承知の通り、いろいろ燒けた裁判所の復興にこれかな力を注がなければならぬのでありますが、その復興建築の際に十分にこれらの點を考慮して實施いたしたいと思いまして、今いかに構造すべきかということについて、實は行政講座などを開きまして研究中であります。必ずこの構造についての改良はさるべきものと確信しておる次第であります。また東京裁判所のお話が出ましたが、まことにごもつともであります。でき得る限り彼らの長所を取入れて、十分考えていきたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=51
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052・磯田正則
○磯田委員 細かいこととお聽きになるかも知れませんが、なかなか大きな問題でありまして、再建日本の建設はあらゆる部面において時間の尊重をしなければならない。これが再建日本の絶對條件だと思いますが、從來わが國におきます裁判所は、よく裁判所時間というようなことを言われますが、まことに時間がでたらめであります。何月何日何時に出頭しろというような通知書を出しまして、しかも取調べも受けない、一日經つたけれどもついに取調べがなかつた。その翌日も翌日もそうだというようなことがたびたびあつたのでありますが、新憲法の上に財産權や人權を認められた國民に對しましてはこんなことではならないと思います。將來裁判所におきまする時間の嚴守というようなことにつきましては、確固たる方針をもつて臨まれたいと思います。これに對しまする具體的のお考えを承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=52
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053・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 まことにごもつともなことでありまして、私も裁判所の時間の不正確ということについて非常に感じておる一人であります。いろいろな原因もありましようが、要はもう少し時代に目ざめてものを處理していくという心構えが必要であろうかと考えております。今後かような立派な裁判所法ができ上つた以上は、そういうような點につきまして、ほんとうに皆が力を入れて時間の嚴守ということをやらなければならぬと考えております。いずれ裁判所法發足の曉におきましては、裁判官に對して十分それらのことが實行できるような考え方をもつてもらうように努力していきたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=53
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054・磯田正則
○磯田委員 次に裁判所はあくまでも人權民意を尊重するとともに、また一面裁判所の權威ということもこれは絶對に保持しなければならないと思います。そのためには本法案の第七十一、二、三條に關連してこの點が特にうたわれてありまするが、いわゆる「法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、又は不當な行状をする者に對し、退廷を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、又は處置を執ることができる。」云々ということがしるされてありますが、この條文をほんとうに活かし、またこれを實際に活用いたしますためには、場合によりましては法廷内に——廷丁はもちろんおりまするけれども、警官等の配置の必要なことがあると思うので、これにつきましては先般埼玉縣の上尾町、東洋時計會社の爭議問題に關連いたしまして、過ぐる刑事事件におきまして警官を法廷に入れたということが不都合であるというので、判事側と辯護人側とにおきまして、非常な論爭を鬪わした事實があるのであります。しかもこの裁判は審理を中止しなければならないというようなことになつたということでありましたけれども、この事件の眞相をこの際承りたいと思います。なおその事件に關しまして、檢察官が家宅搜索の際に、事件と何の關係のない工員の財布や雜誌、またラブレターまで押收して引き揚げたということが、新聞ででかでかと報道されたのであります。この報道によりまして一般縣民はあまりにも官吏が亂暴なことをするというように思つておりまするが、この際一般民の誤解を解くためにも、その眞相を明らにしていただくと同時に、法廷内にも場合によつては警官を配置する必要がある場合には、それを配置することのできる處置をとることは、何ら人權を傷つけるものではなくむしろ人權を尊重することになると思いまするが、これに對する司法大臣の見解と、今後の御方針を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=54
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055・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。上尾の裁判の模樣についてはまだ報告を受けておりませんが、しかしながら一體法廷は神聖侵すべからざるものと考えてよかろうと思います。さらばといつてこれは嚴格に過ぐべきものではない。ここに和氣が漲つておつて、その間に秩序が保たれるということが本來なのであります。本來の性質でそうなくてはならぬのであります。外國の法廷なんかを見ますると、まつたくわれわれが見てうらやましいような状態であります。何らのいかめしさもなく、その中に立派に秩序が保たれておるのであります。しかるに日本におきましてはすべて抗爭的になつて、一方から言えばいかめし過ぎる。一方から言えばこれに對する反抗の氣分が滿ちて尖鋭化して、實におもしろからぬ状態を呈示することをまま見受ける。私はまことに遺憾だと思う。裁判の民主化ということを口で言つても、國民がもう少し自覺しなければいかぬと考えております。今お話のごとく法廷における傍聽者の態度なんかも、やはり外國を見習つてよいものじやないかと思います。なにもしかつめらしくする必要はありませんが、しかしながら法廷は十分に秩序を保つていかなければ、ほんとうの審理はできないのであります。その意味において裁判所も一般民衆も、もう少し裁判ということについて理解があつてもらいたいと考えておるのであります。これは將來國民運動としても、裁判民主化について徹底してわからせるようにせなくちやならぬと考えております。法廷内に巡査を配置したらどうかという御意見でありまするが、私は理想論としてはそんなものは入れたくないのです。もう廷丁も要らぬというような状態にならなければいかぬと私は思う。國民も裁判所も一緒になつて、ほんとうにこの事件の審理にあたるのだというような態度が私は願わしいのであります。できることなら廷丁も要らないというところまでもつていきたいと考えております。しかしなかなかただいまのところではそういうことは夢のようなことで實現はできませんが、理想としてそこまでもつていかなければならぬと考えております。やむを得ず——上尾のはどういう模樣であつたか存じませんが、はなはだ秩序が紊れたというような場合には、これは警官が出動してその秩序維持の任にあたらせることも一つの方法であつたかと考えておる次第であります。
それからこの上尾の事件について、豫審判事が家宅搜索について、いろいろな程度を越えた行爲があつたのじやないか、縣民はそれについて疑惑の念を懷いておるというお話でありますが、それについての報告を私は受けております。新聞紙上で報道されたこととは全然事實は違つております。この點につきましては當時の——現在でもそうでありまするが、直接の搜査に關與いたしました浦和の大高檢事正がラジオで放送して、委細その當時の模樣を述べておるのであります。全然世間に傳わつておるような事實とは相違いたしておるのでございます。もちろん警官も配置したようでありまするが、何ぶんにもあの搜査すべき場所は、非常に廣範圍にわたつておるのであります。しかも搜査に從事すべき人はきわめてわずかでありまして、搜査に當つた者の報告によりますと、特に時間もあまり人のいない時を見はからつて當つております。そうして押收物件を引上げるについても、一々組合の代表者を呼んで處置をしておるのであります。物はたくさんでありまするが、その中から證據物件を拾い出すのでありますから、なかなか容易ではありません。一應それを所在場所から持ち歸る時にも、そのことを告げてそのうちから證據物件を搜し出して、不要なものは返すからというようなことを告げまして、實際翌日もしくはその翌々日にも返しておるようであります。殊に一部の人の言によりますと、女工の枕元まで行つて物を探したというようなことを言われておるのでありますが、全然そういう事實はないのであります。もちろんあの部屋には女工は寢ておつたようでありますけれども、搜査したのは枕元ではありません。その部屋にありました机の引出しか何かを探しただけのことでありまして、世間に傳えられておるような亂暴なことは寸毫もないということであります。私もさよう信じております。まつたくそれは世間の誤解であります。ある時期に至りまして世間の誤解を解くような手段に出たいと考えておる次第でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=55
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056・磯田正則
○磯田委員 あの事件に關しまして、司法大臣がただいまお答になりましたところによりますと、新聞記事等は全部間違つているというお話でありますが、しかしながらあの當時の新聞記事等によりまして、縣民に與えたところの思想的動搖というものは、まことに大きなものである。ただ司法大臣が報告に基いて、ただいま事實と違つているということをおつしやいましても、縣民はこれを知らないのであります。從つてもし、ああしたことが事實と違つておるといたしましたならば、それに對しまして新聞記事の訂正なり、取消なり、あるいは責任ある判事なりが何らかの處置によつて、これは事實と違つておるということを一般に周知せしめる必要があると思いますが、なおこの點についてのお考えを承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=56
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057・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 その點につきましてはただいま申し上げましたように、早速大高檢事正がラジオで放送しておるのです。それは相當世間に周知されておることと考えますが、なお周知の方法についてはよく係の者とも研究いたしたいと思います。
〔三浦委員長代理退席委員長着席〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=57
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058・磯田正則
○磯田委員 法廷内に警官等の配置はもちろん、廷丁すらもない方がいいという司法大臣の御理想はまことに御立派でありまして、私らも同感でありますが、ただ問題は現實にあるのでありまして、現實の状態、社會、經濟、あらゆる方面の混亂状態におきましては、そうした必要も起る場合があるのではないか。かような場合におきましても少くとも人權の蹂躙というような疑い等の起らないように、最善の御注意とお願いを申し上げておきたいと思います。それから檢察廳法案、これも先ほど來の中村君の御質問、大臣の御答辯で大體わかりました。今期議會に法案の提出をせられるということでありますが、間違いなくお出しになりますかどうか。それからこまかい點でありますから續いてお尋ねいたします。最近刑事事件は非常に殖えておるようであります。しかも惡質の刑事事件が非常に殖えておるようでありますが、これに對する司法當局の對策、これについても大體の御方針で結構でありますから承りたいと思います。それから現在の状態におきましてまことにやむを得ないことでありますが、經濟事犯がこれまた非常に殖えております。この經濟事犯のよつて起るゆえんは、要するに現在ますます高進しつつあるところのインフレに起因するものでありまして、まずもつてこのインフレを根本的になくさなければ、この經濟事犯の絶滅を期することは到底でき得ないことと思います。そこでいわゆるインフレ對策なるものにつきまして、たとえば現内閣における石橋大藏大臣は、これを非常に樂觀的に取扱つておるというような状態でありますが、この犯罪とインフレ對策というものの關連性につきまして、特に司法大臣の御意見を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=58
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059・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答え申し上げます。檢察廳法はもう數日中に提出する運びに相なることと存じます。それから刑事事件の激増に對する對策であります。一言にして申しますれば、まことに困つたことでありますが、どしどし事件が殖えてくるのであります。裁判所としても檢事局としてもなかなか容易ならぬことであります。これに處する對策といたしましては、まず何よりも私は今のような建物ではいかぬ。早急に復舊しなければいかぬと考えております。御承知のように裁判所の法廷も思うように使えないのであります。この面から一つやらなければならない。次には人の面であります。これは裁判所も檢事も手不足であります。しかし新憲法が實施の運びになると、簡易裁判所が全國に五、六百でき輕微な犯罪事件はそこですべて處理されるので、その面からこの對策としてこれは餘程活用ができるのぢやないかと考えております。いろいろの隘路がありますが、要するに今申しました二點が一番の隘路であります。その方を打開して一日も早く事件の處理の迅速化をはかりたいと考えております。
それから經濟犯罪とインフレ對策の問題であります。これは大きな問題であります。一體石橋藏相も決してインフレを樂觀しておるわけではないと考えておりますが、私もそうも思つております。しかしこのインフレという意味のとり方が、人によつて餘程違うのだろうと考えております。現在の段階において一番問題となるのは、いわゆる物價の面だと考えております。物價が高い、從つて生活がしにくい。これなんだと思います。物價をいかに安定せしむるかということが、根本の問題であろうと考えております。その方面から申しますると、できる限り迅速に物をこしらえるということであります。物さえこしらえれば、從つて物價が安定するのはこれは當然であります。しかしながら今の日本の状態におきましては、資材が不足しておるのでありますから、必需品が、さように急速に生産されるということはできないのであります。どうしても物の數量の面から考えますると、物價は安定しないということになつて來るのであります。アメリカあたりにおきましても、御承知でありましようが、物の面において不足しておるものがある。それは最近は物ができたから統制を解いたようでありますが、例にとりますと牛肉など非常に不足して統制をした。そうするとやみをやる、アメリカだつてやみがあつたのであります。今だつて物價を統制しておるものについてはあると思います。ところが、そこが日本人とアメリカ人とよほど違うところだと思います。アメリカ人は肉が四〇%高くなつたという聲を聞いて消費者はどうかというと、これは買わないのです。いわゆるボイコツトをやつちやう。そこでたちまちにして牛の値段は元へ戻つたというようなことを向うの雜誌に書いてあります。これは國民性にもよりませうが、日本はそうじやないのです。ないものとわかつておつて欲しがるのです。ないところを見て大勢押しかけて行くから物價がだんだん高くなる。これは私は國民がよほど自覺しなければならぬと思います。たとえば野菜類でも、一定の數量より配給できないのです。自由販賣はきわめてわずかです。その自由販賣ができるというとそこへわんさわんさと押しかけて行く。そこで高くなる。一週間もがまんすればああいうものは腐るのですから、必ず下つて來るのです。生産者でも、ああいうものは長く貯藏できませんから、どうしても賣さばかなければならぬのであります。賣りさばかなくちやならぬやつを、消費者の方ではこれをある時期待つておれば、自然に下つて來ることになるのであります。そこは私は日本人がもう少し自覺して、欲しい物でもがまんして買わないというような態度に出ることが必要であろうかと考えております。何を申しませ、ただいまのところでは生産資材が窮屈でありまするから、物價はなかなか低落しないのであります。いわゆる世間に言うインフレというものが出て來ておるのであります。われわれ消費者としてはどこまでも消費の節減、生産者としてはどこまでも生産していく。そこで初めて物價が安定して來ることと考えております。國民が一致協力して耐乏生活に慣れる。一面において生産意欲を出してどんどん物資を生産する。ここに初めて日本の再建が曙光を見ると私はこう考えておるのであります。
經濟事犯につきましても、いろいろ氣の毒な者はあります。遲配のためにやむを得ず買出しに行くというような一例でありますが、司法當局といたしましては、さような萬やむを得ない輕微な犯罪については相當考慮しておるつもりであります。ただし物價の面において、非常に不都合な惡性のやみ行爲、あるいは横流し行爲というようなものにつきましては、これは斷固として取締つていきたいと思つております。やみを封ずることができますればこれは直ちに物價の面にも響いてくるのでありますから、われわれといたしましては惡質なやみ行爲についてはどこまでもこれを押えていく。一面において物價對策に應ずる。そうしてまた隱退藏物資なんかの方面、これは相當多いようであります。今著々調べにかかつております。これらの物資を正規のルートに流してきますと、おのずから國民の生活も樂になつてくる。犯罪が減少する。こういう循環でありますから、追々さような點から日本再建の曙光を見出し得るのではないか。こう考えておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=59
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060・磯田正則
○磯田委員 刑餘者に對する人權尊重のために、具體的表現として一定の期間を經過した者は、戸籍面から前科を抹消するという、前科抹消法案とでも申すべきものについて、これは去る九十議會におきまして、古島次官は、近く實現したいと思うということを述べておりますが、本件は人權尊重を基本とする新憲法實施という——先ほどもお話がありましたが、この際受刑者に對しまする恩赦とともに、この前科抹消法というようなものをつくることが最も必要ではないか。しかも最高無二の機會ではないかと思いますが、司法大臣はこの際そうしたものを即急におつくりになる考えがあるか、どうかという點につきましてお尋ねいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=60
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061・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 ただいま考究中でありまして、實はこの議會にもそういう特殊の法案を提出する豫定でおつたのでありますが、いろいろ事情がありまして、提案の運びに至りませんでした。ごく最近の時期にそういうことを實現いたしたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=61
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062・磯田正則
○磯田委員 人權尊重はどこまでも罪を憎んで人を憎まずという方針で臨むべきでありますが、現在の刑務所や警察の留置場等におきまする設備、給與等の待遇がはなはだ惡いというようなふうに聞いておりまするが、これが待遇改善につきまして司法大臣はいかなる方針と、またこれに對しまする豫算的の處置を講じておられまするか。この點についてお尋ねいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=62
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063・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 ごもつともであります。われわれといたしましては、全力をあげて改善いたしたいと考えておるのでありますが、何分にも今のような状態では、ほんとうの意味の人權についての問題が起るのはやむを得ないと考えております。また刑務所の方もずいぶん更改をいたしまして、これの建築については容易なことではありませんが、相當豫算面においても、これらの被服費、あるいは建築費をとつておりますから、その面から見まして多少面目は一新されるかと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=63
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064・磯田正則
○磯田委員 大いにひとつ豫算をおとりになつて、少しも早く待遇改善の實をあげていただきたいと希望いたします。
それから次に行政裁判のことについてお伺いいたしたいと思います。實は先ほど行政裁判所長官に御説明を願うようにお願いしたのでありますが、政府委員になつておらぬというようなお話でありますので、奧野民事局長にお尋ねしたいと思います。いただきました裁判所法案の參考資料の六によつて現在の行政裁判はどの程度の件數があるかというようなことについては大體了解できますが、本法案の附則にもありまするように、この行政裁判は本法施行と同時に廢止されるということになつております。そういたしますと、現在のこの資料にありまするたくさんの未濟の事件は、この際一擧に處理しなければならないと思うのであります。たとえば審理期間にいたしましても、三十八箇月もかかつているような事件があり、相當長い事件があるようでありますが、こうした事件はよほどむずかしいこみ入つた事件でありますがために、かように長年月を要していることと思いまするが、しかしながらどんな事件でも、このたくさんの事件を一擧にこの際結審をしなければならないということになると思いまするが、この結審にあたりましてはよほど愼重にやつていただかなければならない、かように考えられるのであります。大體未濟の行政裁判の事件についての結審は、いつ頃いたされる御豫定であるか。また一番長期の事件はどういう事件であるかというようなことにつきまして、あとで文書でも結構でありまするが、そこでおわかりでしたらお知らせを願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=64
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065・奧野健一
○奧野政府委員 ただいま御質疑の、現に行政裁判所にかかつております行政訴訟事件を、どういうふうにこの際行政裁判所廢止とともに處理するかというお尋ねでありますが、この點につきましては最近の機會に、この裁判所法の施行法というのを御審議を願うことになつておりますが、その第二條で裁判所法の施行の際に現に行政裁判所に係屬している行政訴訟事件については、これを東京高等裁判所に係屬しているものとして、東京高等裁判所で今後處理いたすことになつております。それから古い事件と申しますのは、聞くところによりますと家祿の事件と申しますのに非常に古い事件があるようでありまして、これらの事件は進行していないようで、三年以上も訴訟行爲が行われていない。ほとんど休止状態になつている事件が家祿の事件に相當あるようでありますが、それらの事件の處理につきましても、特別の措置をこの裁判所法施行法の施行に關する政令等によつてきめたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=65
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066・磯田正則
○磯田委員 そこのところをもう一度伺いたいが……。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=66
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067・奧野健一
○奧野政府委員 東京控訴院にあたるのが今度は東京高等裁判所ということになりますので、現在行政裁判所にかかつている行政訴訟事件は、東京高等裁判所に引繼がれることになりましてそこで判決をするということになるつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=67
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068・磯田正則
○磯田委員 そうすると結審を急いでする必要もないわけになりますね。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=68
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069・奧野健一
○奧野政府委員 ないわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=69
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070・磯田正則
○磯田委員 以下條文のいくつかについて簡單にお尋ねいたします。三十三條の簡易裁判所の權限でありますが、罰金以下の刑にあたる罪、または五千圓以下の請求では權限が狹過ぎはしないかというふうに考えられまするが、こういうことになりますと、たとえ簡易裁判所を便宜上全國にたくさんつくつていただくといたしましても、やはり地方裁判所でなければ用が足りないような場合が非常に起つてくるのではないか。もう少し簡易裁判所の判事に對する權限を大きく與えたらどうか。かように考えまするが、御見解を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=70
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071・奧野健一
○奧野政府委員 現在の區裁判所におきましては、民事事件につきましては二千圓以下の事件しか取扱つておりません。貨幣價値の關係もありますことを考慮いたしまして、簡易裁判所では民事事件については五千圓を超えない請求を取扱うことにいたしましたので民事事件につきましては今の區裁判所よりも權限が相當廣いように考えております。刑事事件につきましては、むしろ現在警察署が違警罪即決等で取扱つている拘留、科料以下の事件だけを處理せしめてはどうかという議論もいろいろありましたが、これはさらに擴張いたしまして、罰金以下の刑にあたる罪、または罰金と禁錮等以下の選擇刑になつているものについては、やはり罰金だけで處罰する場合においては簡易裁判所に處理せしめる。罰金と申しましても何萬圓という罰金もありますので、その權限が相當廣い範圍において刑事事件も取扱われるというふうに考えられるのでありまして、一應御質疑の點もごもつともと考えられまするが、何分にも新しい簡易裁判所という制度でありますので、一應この範圍に止めたわけでありまして、今後の實績に鑑みまして漸次これを擴張していきたいというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=71
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072・磯田正則
○磯田委員 三十七條、三十九條にもお伺いしたい點がありますが、先ほど中村先生、菊地先生からも御質問がありましたので、省略いたします。四十一條、四十二條も省略いたします。それから四十六條においては「(任命の缺格事由)他の法律の定めるところにより一般の官吏に任命されることができない者の外、左の各號の一に該當する者は、これを裁判官に任命することができない。一禁錮以上の刑に處せられた者二彈劾裁判の罷免の裁判を受けれ者」こういうことになつておりますがこれになお公職追放者を入れるということはどういうものでありますか。その點について……。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=72
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073・奧野健一
○奧野政府委員 公職追放者は、當然缺格事由になると考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=73
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074・磯田正則
○磯田委員 ここへ明記しておくことはどういうものでしようか。明記することの方がよいのじやないかと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=74
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075・奧野健一
○奧野政府委員 これは「他の法律の定めるところにより一般の官吏に任命されることができない者」、他の法令によつての當然適用を受ける關係上、この一號、二號から特に省いたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=75
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076・磯田正則
○磯田委員 次は五十條、最高裁判所の裁判官の年齡でありますが、七十年となつており、下級裁判所の裁判官は六十五年としてあります。これはあえて下級裁判所の裁判官は六十五年でなくともよいのじやないか。最高裁判所の裁判官が七十まで勤まるならば、下級裁判所の裁判官も七十まで勤まる。あえてここに年齡の差別をつける必要はない。かように考えるのでありますが、この點についてのお考えを伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=76
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077・奧野健一
○奧野政府委員 最高裁判所の裁判官は、一流の人物を廣くとり得る範圍を擴める必要がありまする關係上、なるべく年齡の制限を置かない方が適當であろうと考えまして、年齡七十以下の人の、廣く人材を求め得る途を特に加えたわけであります。なおそのほかにも、下級裁判所におきましては最高裁判所の機能と違いまして、事實審理をやることをいたしますので、やはり何と言いましても單に法律自身のみをやる最高裁判所よりも、肉體的等におきまして勞力が劇職と考えられますのでやはり年齡も最高裁判所の裁判官よりは若いところの、肉體的に働き得る年齡ということで、現行よりは——現行法におきましては、普通の裁判官は六十三歳、大審院長のみが六十五歳でありますのを、大審院長並みに六十五歳に引上げたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=77
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078・磯田正則
○磯田委員 五十一條の報酬でありますが、これは私らの見解をもつてしますと、おそらく現在の日本の役人中、裁判官ぐらいいわゆる役得による收入というような面がない。つまりそういうようなことは裁判官が一番少いのじやないか。もちろん他の一般官吏もやつてはいけないことであるけれども、どうもわれわれの見解では相當やつておるが、裁判官のみはどうもそういう點はないように見受けられます。しかもその裁判官は、最も公正神のごとき心境と生活環境において、仕事をしていかなければならないということになりますと、どうしてもこれに對する生活の保障、安定を與えてやらなければならぬ。參考資料によりまする豫算的の關係も相當殖やすおつもりのようでありますけれども、この裁判官に限つて、特に相當の待遇をしなければならぬ。しかもでき得るだけ下に厚くこれをやらなければならぬ。かように考えられまするが、この點につきましては特に大臣のお考えを承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=78
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079・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。裁判官の俸給問題でありますが、裁判官をして公正にその事務をとらしめ、司法の威信を保たしめるには、どうしても生活面においてこれに十分な保障を與えなければならぬと考えております。かるがゆえに新裁判所法第五十一條でこれをきめることになつております。これはもちろん憲法にもさようになつておるのであります。われわれの考えといたしましては、お説の通り、裁判官ほど役得のないものはないのであります。下級の職員に至つてもその通りであります。ぜひともこれは十分な生活の保障をいたしまして、公正に裁判事務に專心當らしめるようにしていきたいと考えております。豫算面におきましてもこの點については十分考慮を拂いまして、萬全の措置をとりたい。さように考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=79
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080・磯田正則
○磯田委員 もう一つ、五十二條の一でありますが、「國會若しくは地方公共團體の議會の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。」これが裁判官の在任中やつてはいけないという行爲の一つであります。積極的に政治運動をすることはよろしくないが、消極的にはいいのかということが考えられます。これは結局どの範圍を線とするのか。まことにむずかしいと思いますがこの點につきまして、なお大臣の考えを承つておきたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=80
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081・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 裁判官は要するに實際的の政治活動をしちやいかぬ。この意味をここに現わしておるのであります。申すまでもなく、裁判官は國家の秩序を維持し、正義を保つていく重要な職責でありまして、その面に專心するならば、政治活動というものはおのずからできないはずであります。その意味から申しましてもかような規定を設けることが非常に必要でありまして、現行の裁判所構成法においても、かような趣旨の規定は設けられておるのであります。ここに掲げておりまする積極的に政治活動をすること、これを禁止しておるということは、要するに自分が主體となつて政治的の活動をしてはいけないという意味であります。しからば消極的にやつていいのかという御議論でありまするが、主體的にならなければ、これは一向差支えないかと考えております。御承知の通り裁判官といえども結社の自由を認められておるのであります。政黨にはいるのは自由なのであります。受動的にされるということは一向差支えないことで、自ら進んで自動的に政治活動をしてはいかぬという意味であります。さよう御諒承を願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=81
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082・磯田正則
○磯田委員 なお數項質疑をいたしたいのでありまするが、先ほど申しますように審議の期間の關係もありますので、なお他の委員の方がお濟みになつて時間があつたらお許しいただいて質疑をいたしたいと思います。本日の私の質疑はこれをもつて終りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=82
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083・小島徹三
○小島委員長 田万廣文君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=83
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084・田万廣文
○田万委員 まず第一にお尋ねいたしたいのは、菊地委員が第一番に尋ねたのでありますが、日本國憲法におきまして、「ここに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の嚴肅な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、」云々という規定がありますが、これはすなわち言いかえれば、封建的なる憲法から民主的な憲法に變つたことを明文にしたものであるのであります。私はその意味合いにおきまして、從來過去の憲法におきましては、司法權は天皇の名において行われておつた、それをいわゆる新らしき意味におけるところのものに切りかえるためには、國民の名においてこれがなされなければならない時代がまいつたと信じておるのでございます。すなわち私は司法大臣に對しまして、裁判は國民の嚴肅なる信託に基いて、國民の名において良心に從つてなさるべきことを、はつきりと本法案におきまして明文化するの必要があるのではないか。かように考えるのでございます。本法案の三十九條に關し菊地委員の質問に對する司法大臣の御答辯の中に、特に重要なるがゆえに、憲法と二重にこういうような規定をいたしたのだ、また司法の根本に關するからこういう規定をとつたのだということを、先ほど答辯によつて私に承つたのでございますが、さような意味からいたしましても、國民の名において、國民の嚴肅なる信託に基いて、裁判が良心的になされなければならないということは、いわゆる司法の根本に關する問題である。また特に重大なる所以であろうと思うのでありまして、この點を本法案におきまして明記される御意思が司法大臣におありになるかどうかという點を、第一にお尋ねいたしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=84
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085・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。御説の通り、日本國憲法制定と同時に、すべて國政は國民の名のもとに、國民の意思に基いてやるということははつきりされたのであります。從いまして裁判所の運營につきましても、これは國民の總意をもつてこれをやるべきものであることは疑いのない事實であります。裁判所のみならず、國會もまた内閣も、すべて國民の意思に基いてやるのであります。これはいわゆる民主化された憲法のもとにおいては當然であろうと思います。しからばこの裁判所法案において、さような文句を入れてはどうかという御議論でありますが、しかし入れるとすれば他の法律にもことごとく入れるべきであるのであります。殊に裁判所法においてさような文句をいれなくても、日本國憲法に、そのべての國政は國民の名において、國民の意思に基いて行わるべきものであることがはつきりされておりますから、ことさらに條文に入れなくても、私は差支えなかろうかと考えておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=85
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086・田万廣文
○田万委員 これは見解の相違であろうと思いますので、この程度に止めます。
次にお尋ねいたしたいのは、裁判の權威ということについてであります。權威というものは、言いかえれば、私は信頼というように考えておるのであります。信頼のないところに法の威信はない。法の威信、いわゆる裁判の威信を得るためにはどうすればいいかということは、われわれの最も重大な關心をもたなければならない點と思うのであります。そのためには、私は法律の適用にあたりましては、彈力性をもたしていかなければならぬ。かように考えております。ひからびた法律というような感じを大衆にもたしめることなく、ひからびた法律の中から、かめばかむほど味の出るするめの味のような感じを國民にもたせる。これがすなわち大衆の信頼を得るゆえんではないかと思います。そのためにはどうすればいいか。いろいろ委員から申されましたが、その彈力性というものは、要するに人間味を加味する。また言いかえれば、裁判をする人がみずからの生活行動を反省してやらなくてはならない。謙虚な氣持をもつた裁判官が、血あり涙あるところの行動によつて、その裁判をなすということによつて、初めて裁判の信頼、裁判の權威というものがわき出てくるのではないかと思うのであります。あの封建的な時代におきまして、大岡越前守がやつたあの裁判、それが民主化されたといはれる今日におきまして、なお大衆から謳歐され、名裁判だと言われておるゆえんのものは、實にその人間味ある裁判に大きなゆえんがあろうと思うのであります。私は現在の司法界を見まするのに、ある一部におきましては、未だに民主化されていないところの裁判官があるやに思うのであります。これを私はきわめて遺憾に思う。その意味合いにおきまして、この人間味ある、信頼ある裁判をすることに關し、司法大臣におかれましては自己の所屬する裁判官に對してどういう御指示をなさつているか、それを一應承りたい。
なお私は裁判は一つの政治の實踐的形體の現われであると思うのであります。法律自身が政治の結果生れたものである。その法律を取扱う場合におきまして、裁判というものは政治の實踐的形體であるということは過言でないと思うのであります。政治は常に行われ、經濟状態と並行していつておりますが、法律というものは、とにかくできた時分においては、既に後れておるような實情が多いのであります。その後れた法律を現在適用するときにおいて、法律を活かしていくためには、どうしても政治をもととしなければならぬ。かように考えております。いわゆる裁判の政治性について、司法大臣の御意見を一應伺つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=86
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087・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたしますまことにごもつともな御意見であります。裁判の要諦は、國民の信頼を得ることにあるのであります。國民の信頼を得るについては、裁判官はみずから反省し、あらゆる機會において社會の理想をとらえて、豐富な性格を持つことが、一番大事だらうと考えております。從いまして私は裁判官の修養につきまして、第一に言つておることは、諸君は裁判官たると同時に、一個の市民として、文化ゆたかな人になつてもらいたいと言つておる。私の申すこの文化ゆたかなということは、いわゆる社會の理想を十分に把握いたしまして、今申されましたような人情のあふれ出るような精神の持主であつてもらいたいということを、常に念願しておるのであります。現在裁判所におきましては、司法研修所を設けまして、新たに司補となつてこられた者、及び數年間既に裁判に携わつておる者が、ここに會しまして、一般の法律問題についての研究のみならず、すべて文化的のことについても、ここでいろいろ修養されておる次第であります。裁判官の行き方といたしましては、今仰せになりましたように、あらゆる理想をとらえて、よくこれを自分のものとし、これを裁判の實際に現わすということでなければならぬと思います。殊に政治性の問題に觸れられましたが、まことにごもつともな御意見だと思います。殊に是高裁判所におきましては、將來違憲問題が隨分取扱われることと思います。この違憲問題は、私は主として政治問題だろうと思います。これはしつかりしないと、日本の將來の國政の一般運用につきましても、重大な影響を及ぼすことと確信しております。ゆえに少くともこの最高裁判所の裁判官たるべき人は、十分法律上の知識をもつと同時に、經濟事情に通曉し、政治的識見ある者でなくてはならぬと思つております。一般的事犯につきましても、この政治經濟を離れて法律というものはないのであります。その點につきましての重要な教養を積むように、今後仕向けていきたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=87
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088・田万廣文
○田万委員 ただいま司法大臣の御答辯、私は滿足の意を表する次第であります。
次に私は本法の五十條の定年の制度についにお尋ねいたします。本法によりますと最高裁判所の裁判官の定年は七十歳、下級裁判所の裁判官は六十五歳となつておる。前委員も質問されましたが、この規定は過日司法大臣のお話によりますと、身分保障的意味があるというように承つたが、私はそれよりもさらに飛躍いたしまして、その裁判官の身分的保障という意味だけではなく、むしろ國民人權の保障という意味が含まれなければならぬと思うのであります。言いかえれば、裁判官の裁判によつて拘束せられるところの國民大衆の人權を保障する意味合いにおいて、この年齡というものは考えられねばならぬと、かように考えております。その意味から申しまして、過日調査資料としていただいたものの中をよく研究してみますると、一國の政治を統轄しておるところの總理大臣の平均年齡は六十三歳、閣僚が大體六十歳ということがわかる。この點から申しまして、何ゆえに最高裁判所の裁判官は七十歳、下級裁判所の裁判官は六十五歳という定年をきめなければならぬかということに大きな疑惑をもつのであります。私は昔から言う通り、七十歳というのは古來稀だ、もう大體老いぼれたという年であります。その七十歳の年齡を裁判官の定年とするより、最高裁判所の裁判官においては、六十五歳、下級裁判所の裁判官は六十歳くらいが適當じやないか、かように考えるのでありますが、さような方法に變更せられる司法大臣の御意思があるかないか。私はこれは當然さようにならなければいかぬと思うのでありますが、御意見を聽かしていただきとうございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=88
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089・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 最高裁判所の長官の定年を七十歳としたことにつきましては、いろいろの角度から考えまして、私は適當なりと信じておるのであります。と申しますのは、人間の活動能力は一定していないのであります。日本人としては大體六十歳から六十五歳がマキシマムに達したと言つてもよかろうかと考えております。しかしながら最高裁判所の長官及び判事というものは、今御議論がありましたように、政治性のゆたかな、また社會の經濟事情にも通曉し、法律にも通曉した天下第一流の人材を求めなければならぬのであります。從いましてそういう人材を求める場合に當つて、若い人があれば結構であります。四十歳でも五十歳でも適當な人があれば結構であります。しかしながら七十歳になれば定年になるのでありますから、六十五歳でも六十歳でも適當な人があれば、その人になつてもろうのが適當でないかと考えております。例をとつてみますると、昨年亡くなられたと思いますが、アメリカの有名な最高裁判所の長官ストーンは七十五歳で亡くなられました。また國務長官から最高裁判所の長官になられた。ヒユーズは八十歳であります。アメリカは定年制がないから、それでもかくしやくとしてアメリカの最高裁判所長官として活躍されたのであります。われわれも若い人で立派な人があれば、できる限りそういう人にその地位についてもろうことは希望するところであります。さらばといつて七十歳近くの人で立派な適當な人であるにかかわらず、定年が低いがためにその地位につけないということは、はなはだ遺憾でありますから、とにかく定年を七十歳ときめたのであります。しかしわれわれの希望といたしましては、若い有能な人がこの地位につかれて、ほんとうの裁判をして、日本の司法の威信をいやが上にも高からしめることは希望にたえない次第であります。定年といたしましては、まず七十歳はいいところだと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=89
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090・小島徹三
○小島委員長 田万君に御相談申し上げます。實は本會議に豫算が緊急上程されたそうでありますから、質疑を次會に續行していただけないでしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=90
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091・田万廣文
○田万委員 承知いたしました。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=91
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092・小島徹三
○小島委員長 それでは本日はこれにて散會いたします。次會は明後十七日午前十時より開會いたします。
午後四時散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00219470315&spkNum=92
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