1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案(審査修了のものを除く)
檢察廳法案(政府提出)(第三六號)
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昭和二十二年三月十九日(水曜日)午前十時五十分開議
出席委員
委員長 小島徹三君
理事 三浦寅之助君 理事 荊木一久君
理事 細野三千雄君
小澤佐重喜君 木村チヨ君
小林かなえ君 中村又一君
井伊誠一君 黒田寿男君
森三樹二君 酒井俊雄君
三月十八日委員菊地養之輔君及び田万廣文君辭任につき、その補闕として黒田壽雄君及び森三樹二君を議長において選定した。
三月十八日檢察廳法案(政府提出)の審査を本委員に付託された。
出席國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
出席政府委員
司法政務次官 北浦圭太郎君
司法事務官 佐藤藤佐君
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本日の會議に付した議案
檢察廳法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=0
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001・小島徹三
○小島委員長 會議を開きます。昨日本委員會に付託せられました檢察廳法案を議題といたします。まず政府の説明を求めます。北浦政府委員。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=1
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002・北浦圭太郎
○北浦政府委員 本案の説明を簡單にいたします。從來裁判所構成法によりまして、檢事は裁判所に附置された檢事局の職員として、廣義の意味の司法の分野に屬する檢察事務を行つてきたのでありまするが、實際お互いに長らく在野法曹としてやつておりまして、一般の世人の考えは、まるで檢事もしくは檢事局というものは、裁判所に附屬しておるような考えをもつておつたことは事實であります。ところが從來でもその通りでありまして、檢察事務は狹義の意味の司法、すなわち裁判では決してなかつた。今改正して初めてそういうふうにきまるのでなくして、從來からその通りであります。裁判ではない、從つて新憲法が司法權獨立の思想を、現行憲法以上に明瞭にいたしておることに鑑みまして、今度は御承知の通りに憲法ではまつたく獨立しておる。われわれの考えから申しますると、司法大臣というよりも檢察大臣。私はさような考えでおります。新憲法によりますると、司法ではない。檢察大臣であると私は思つておりますが、それほど明瞭にいたしておりますから、裁判を行いまする裁判官及び裁判所と、公訴權を行う檢事及び檢事局とは、これを別個獨立のものとすることが、一層新憲法の精神に適するものと思いますので、今囘新憲法の施行に伴いまして裁判所構成法の改正をいたしまするが、檢事局を裁判所から分離する。そうして獨立せしむる方針を、從來よりも一層明確にしたわけであります。その結果前に本院に提案いたしましたところの裁判所法案のほかに、檢事及び檢事局に關する規定を設ける必要が生じたのであります。檢事及び檢事局に關しまする事項は、廣義の司法制度の重要な一部をなすものであることはこれはもちろんであります。檢事は從來申しまするところの起訴、それから刑の執行、こういうことをやるのでありますから、裁判とは性質は別個でございまするけれども、一面相連なるところの國家の司法權の一部に相違はない。法律をもつてこれを規定するのを相當と信ぜられまするので、本案を提案いたした次第でございます。
要領を簡單に申しますると、新憲法では檢察官と申しておりまするから、從來の檢事を檢察官と改めるし、檢事局を檢察廳と名前をかえたわけでございます。それから檢察廳は各裁判所に對應してこれを置くこととする。今囘のこの檢察廳法を讀んでみますと、對應という文字が盛んに使われておりますが、今までは附置するという文字を使つておつたように思います。その種類は、最高裁判所に對應する最高檢察廳、それから高等裁判所に對應する高等檢察廳、地方裁判所に對應する地方檢察廳、簡易裁判所に對應する區檢察廳の四種類となつたわけであります。
第三點は、新憲法のもとにおきましては裁判所の地位が向上するのに伴い、これに對應する檢察廳の地位もまたこれを向上せしむる必要を感じましたので、最高檢察廳及び高等檢察廳の長官たる檢事總長及び檢事長は特別の官といたしまして、その任免については天皇の認證を經ることといたしたのであります。なおこれは私が今ここで思いついたことでありますが、憲法には御承知の通り天皇の認證ということは箇條書きに書いてございます。その中に確かにその他の官吏という文字がはいつておつたと思うのであります。それから考えてみますと、これは憲法に適法だ。その他の官という文字は多少違うかもわかりませんが、そういう趣旨の言葉が新憲法に使われております。なお最高檢察廳において檢事總長を補佐する檢察官として、新たに次長檢事の制度を設け、これまた特別の官といたしまして、その任免については天皇の認證を經ることといたしました。地方檢察廳の長を檢事正と稱し、特別の官とせず、檢事をもつてこれに充てることは從來の通りでありますが、新たに區檢察廳に二人以上の檢事または檢事及び副檢事がおります場合には、監督官として上席檢察官を置き、檢事をもつてこれに充てることといたしたのであります。また新たに副檢事の制度を設けて、もつぱら區檢察廳において檢察官の職務を行わせることとしました。副檢事の制度を設ける理由は、裁判所法施行に伴いまして違警罪即決例が廢止され、從來警察署長によつて即決されておつた違警罪、すなわち拘留または科料に該る罪が、すべて簡易裁判所において處理されることとなりますため、檢察官の取扱う事件は急に激増するわけでございますが今にわかに從前の檢事と同樣の資格を有する多數の檢察官を得ますることは、人的にも豫算的にも困難であるばかりでなく、これらの事件は必ずしもすべて從來の檢事と同樣の資格を有する者をして處理せしめる必要はございませんので、從來の嚴格な檢事の任用資格を緩和いたしまして、所要の檢察官を得ようとする點に存するのであります。
第四點、檢察官の職務は、從來の檢事の職務と同じでありまして、刑事については公訴を行い、裁判所に法の正當な適用を請求し、裁判の執行を監督し、また裁判所の權限に屬するその他の事項についても、必要と認めるときは裁判所に通知を求め、または意見を述べ、また公益の代表者として法令の定めるその他の事務を行うのであります。なお檢察官が犯罪搜査の職權を有することはもちろんであります。
第五點、檢察官の任命は裁判所法による司法修習生の修習を終えた者、裁判官の職に在つた者または三年以上一定の大學において法律學の教授、助教授の職にあつた者についてこれを行うのが通常の場合であります。辯護士は今後すべて司法修習生の過程を經ることと相なりまするので、司法修習生の修習を終えた者として檢事に任ぜられる資格を有するのであります。副檢事は前に申し述べた樣な理由から、右の資格を有する者ほか、高等試驗に合格した者、または三年以上政令で定める二級官吏その他の公務員の職にあつた者で、副檢事選考委員會の選考を經たものの中からもこれを任命することとしております。しこうして三年以上副檢事の職にあつて、別に定める考試を經た者は檢事に任命することができることとし、特別任用の檢事を認めることと致しました。この副檢事及び特別任用の檢事の制度は、從來の裁判所書記、警察官等に對し、新たに昇進の途を開くものであつて、意義のある改革と考えて居ります。これはまことに結構な新たに設けられた制度でございまして、從來のように何年書記をやつても、何年警察に勤めても、いわゆる從來の高等官として途が開けないというのと大いにこの趣を異にいたしまして長年在野法曹としてやつておつたわれわれが、非常に喜んでおる改正の要點でございます。
第六點、檢察官の職務遂行の公正を擔保するために、裁判官に準じ、その身分を保障する必要のありますことは贅言を要しないところでございます。本法律案におきましても、その點遺憾なきよう考慮して居ります。ただ、檢察官の身分保障が強固に過ぎ、心身の故障その他の事由により檢察官の職務を行うに堪えない場合にも、なおかつこれを罷免することができないというようなことは、決して當を得たものでありませんから、さような場合には、檢察官、裁判官及び辯護士の中から選任された委員で組織されます檢察官適格審査委員會の議決を經まして、その官を免ずることができるよう致して居るのであります。
第七點、檢察官は、從來と同樣司法大臣の指揮監督のもとにあるのでありますが、檢察權行使の獨立性を尊重するため、個々の事件の取調または處分に關しましては、司法大臣は、檢事總長のみを指揮することができることになつて居ります。
第八點、檢事局にはこれまで檢事のほかに、檢事の取調又は處分に立會い、書類記録を作成し、その他庶務に從事する裁判所書記と、檢事の指揮を受け、その補佐として犯罪搜査に從事する檢察補佐官が居りまするが、檢察廳には檢察官の外に檢察事務官と檢察技官とを置くこととしました。檢察事務官は從來の裁判所書記と檢察補佐官との兩者の行ふ事務を併せ行う權限を有するのであります。これによりまして人の經濟をはかるとともに、檢事直屬の搜査機關を設けまして、いわゆる人權蹂躙事件の根絶を期すべしとの一般の要望にもこたえんとするものであります。檢察技官は、今後における犯罪搜査に關しましては、科學的知識を一層活用するの必要があると思いますので、その技術を擔當せしめるためにこれを設けることとしたのであります。
以上が檢察廳法案の要領でありまして、裁判所構成法による檢事局の組織及び檢事の制度と、根本においては大差ないものと申してさしつかえないと思います。何とぞ愼重御審議の上、速やかに可決せられんことをお願いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=2
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003・小島徹三
○小島委員長 續いて質疑にはいります。中村又一君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=3
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004・中村又一
○中村(又)委員 檢察廳法案に對しまして、ごく簡單に三、四點のことにつきましてお尋ねいたしたいと存じます。質問の第一は、檢察官と他の法令により搜査の職權を有するものとの關係は、檢察廳法中に明確に規定すべきものであろうと考えまするが、この點に對する所見を伺いたいと存じます。すなわち檢事と司法警察官との關係は、現在裁判所構成法第八十四條、第百三十五條、第百三十七條、刑事訴訟法第二百四十八條、第二百四十九條等によりまして規定されておりまするが、裁判所構成法中の右諸規定が、兩者の基本的關係を律するものでありまして、刑事訴訟法の規定はその基本的關係の上に立つた規定であります。檢察官は申すまでもなく公訴權を行使する機關でありまして、犯罪搜査の最終段階を擔當し、他の搜査機關の行う搜査の總括をする立場にあるのでありまして、檢察官と他の法令により搜査の職權を有するものとがいかなる關係に立つかということは、組織法でありまするところの檢察廳法の中に、當然明確にすべきであろうと存じます。然るに本法案はその第六條第二項によつて檢察官と他の法令により搜査の職權を有するものとの關係を、手續法である刑事訴訟法に讓つておりまするが、これは本末轉倒の感なき能わずと思うのであります。この點に對するまず御當局の所見を伺いたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=4
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005・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 まことにごもつともな御議論であります。しかし問題は警察制度の改革に關する根本的の事柄でありまして、その警察制度の改革の點につきましては、目下政府においては愼重研究中であります。近くその點がはつきりきまることだと思います。ただいまのところでは、とりあえず檢察官と司法警察官との關係は、刑事訴訟法の規定によることとしておるのであります。警察制度改革が根本的にきまりますと、その點に關することは、はつきり規定されることと存ずる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=5
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006・中村又一
○中村(又)委員 質問の第二點は、犯罪搜査を行いまする司法警察官については、臨時法制調査會の答申の中に左のごとき附帶決議がなされておりますが、政府のこれに對するお考えいかんという質問であります。すなわち附帶決議には「司法警察官はこれを檢察廳の所屬に移すべきものなるも、その適當な時期にいたるまで檢察廳は司法警察官に對する指揮監督及びその教養訓練を嚴にし、搜査の適正と迅速を期すべきものとす」とあるのであります。すなわち現在犯罪搜査の主體は檢事でありまして、司法警察官は檢事の指揮を受けての、補佐として犯罪の搜査を行うことになつております。しかし檢事は司法警察官に對し十分な身分上の監督權を有していなかつたために、犯罪搜査に關する檢事の指揮命令が司法警察官に徹底せず、從來司法警察官の犯罪搜査におきましては、しばしば人權の尊重を缺くるがごとき行動がありまして、世間の指彈と論議を釀したことは、われわれの常識に殘つておる事實であります。そのためにも臨時法制調査會が、先に申しまするがごとき附帶決議を付しておりまするが、この點に對しまして根本的の御考慮の方針いかんということを大臣に尋ねてみたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=6
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007・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。司法警察官と行政警察官との分離問題、すなわち司法警察官を檢事直屬のもとに置く、これは多年われわれも要望し、また一般國民の輿論でもあるのであります。しかしこの點についていよいよ實施するということになりますと、よほどの研究を要するのでありまして、政府におきましても早くからその點については研究しておるのであります。これも前の警察制度の根本的な問題と絡み合つておる問題でありまして、ただいまのところまだ成案を得て實施するという運びにはなつていないのであります。しかしながら政府といたしましては、法制調査會の附帶決議の趣旨を尊重いたしまして、御承知の通り昨年十一月に檢事局の職員として檢察補佐官というものを設けまして相當數の檢察補佐官を設けて、十分にこの制度を活躍させたいと考えております。ただいまこの檢察補佐官の任用についてわれわれはせつかく努力中であるのであります。また檢事の指揮のもとに犯罪搜査を行わせることといたしまして、檢察廳においては御承知の通り檢察事務官というものをおきまして、檢事の指揮のもとに犯罪搜査を行わせることになつておるのであります。この法案が御審議をされて實施の域にいたりますると、この檢察事務官は檢事のもとに搜査するということになりますと、これまでのような人權蹂躙というようなことは、全面的にこれを抹殺し得るというようなことはできませんが、しかしその方向に徐々に導いていくということは信じて疑わないところであります。分離問題につきましては、警察制度の改革を根本的ににらみ合わせて、政府は十分努力いたしたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=7
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008・中村又一
○中村(又)委員 質問の要點をいま少しく具體的に延長いたしまして第三の質問を試みたいと存じます。
警察制度の改革という方針がいかなるものでありましても、司法警察事務と行政警察事務とは明瞭に區別せらるべきものと考えまするが、これに對する政府の御所見を伺いたいのであります。すなわちその理由は、現在司法警察事務と行政警察事務とは同一の警察官吏によつて遂行せられておるのであります。第一に、職務の内容が異つておるにもかかわらず同じ警察官吏によつて、その職務が行われておるのであります。明治八年太政官達の第二九號、行政警察規則第一條、あるいは第三條、及び第四條等によつて見ますると、行政警察官の趣旨は、人民の凶害を豫防し安寧を保全するものとありまして、その職務は、人民の凶害を豫防すること、健康を看護すること、放蕩淫逸を制止すること、及び國法を犯さんとする者を隱密のうちに探索、警防すること等に大別せられておるのであります。警察行政の力及ばずして法律に背く者があるときは、その犯人を探索逮捕するは司法警察官の職務になつております。第二に、その權限を規定する根據が異つております。行政警察に關する權能は明治三十三年法律第八四號、行政執行法によつて規定せられ、司法警察に關する權限は刑事訴訟法によつて規定せられておるのであります。第三に、所管官廳を異にいたしております。行政警察事務は、内務大臣の所管でありまするが、司法警察事務は司法大臣の所管するところとなつております。かように行政警察事務と司法警察事務とを明瞭に區別するのは、十分なる理由があるからであります。しかるに行政警察事務は直接裁判所との關連がないのでございます。司法警察事務は裁判と密接不可分の關係がありまして、その權限の行使は廣い意味における司法權の發動と考えなければなりません。從つてこの考えを徹底いたしますれば、司法警察官と行政警察官とを分離いたしまして司法警察官を檢察廳または司法大臣のもとに置かなければならんという議論は當然出てくるのでございます。これまで警察官が行政警察に關する權限である行政檢束權を、司法警察事務である犯罪搜索に濫用するというようなことがしばしばあつたために、先にも申しまするように、人權蹂躪問題等をひき起したところの實際に考えまするときにおいて、司法警察官と行政警察官とを、一日も早く明瞭に區別をいたし、いやしくも行政警察上の權限を、司法警察上の權限の行使に濫用するがごとき餘地を存してはならぬと思うのでございます。すなわち人權蹂躪問題を根絶する方法といたしましても、その效果のあるところを考えるときにおいて、人員の關係あるいは豫算の關係などを考えることを一歩越えまして、新憲法の實施せらるる今日におきましては、人權の基本の尊重の效力を事實に見る場合を考えるときにおきましては、直ちに實行すべきものと考えます。この根本理念に基きまして、ただいま質問いたしまするところの、警察制度の根本の改革であるところの司法警察の事務と、行政警察の事務とを、明確に區別せらるる方針はないかということをお尋ねいたしたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=8
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009・北浦圭太郎
○北浦政府委員 中村君の御質問まことに私は同感であります。しかも私は多年そういう氣持をもつております。警察では御承知の通り司法警察と行政警察と今日までも區別いたしております。すなわち司法警察はその下に刑事をもち、そうしてもつぱら司法のことをやつておるのでありまするが、しかしその上に署長というものがおつて、その司法警察を左右する。ひどいのになりますると、地方の勢力に署長がまず抑えられて、そうして司法を左右する。これは從來あつたことで、實にけしからぬことである。それで中村君の御所論のごとくに、これはどうしても司法警察官は檢察廳に、任免から、あるいはまた指圖から、ことごとく檢察廳に附屬せしめないというと、その目的を達することができないのであります。從來御承知の通り、これは區別すべしという議論は、特に在野法曹でやかましかつたのでありまするが、これが實際に行われなかつた。こうして新憲法ができまして、お互い民主主義國家につくりかえるということになりますると、どうしてもただいま中村君のお説のようにいたさなければならぬ。今後大いにこれを考えまして、一日も速やかにその實現に邁進したいと思つております。中村君もこの根本思想においてわれわれと同一でございますから、その實現に御盡力下さらんことをお願いいたしておきます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=9
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010・中村又一
○中村(又)委員 最後の質問としまして、第四點に檢察官の待遇問題をお尋ねしてみたいと存じます。檢察廳法案の中にはないのでありまするが、檢察官の待遇という問題は判事の問題と相關連しまして、一應檢察廳法を審議するにあたりまして、關連的にお尋ねいたしておくことが必要かと思うので、簡單に述べてみたいと思います。
質問の要點は、まず第一に最高檢察廳にあるところの檢事總長の待遇問題であります。この檢事總長の待遇が、別の法律から見てみますと、檢事總長の受ける俸給の額は、當分の間國務大臣の受ける俸給に次ぐものとし、内閣でこれを定めるとありますが、この點に對しまして、最高裁判所の十四人の判事の待遇などと思い比べまして、いささか差別があるような感じがいたします。私ども二十五六年も在野法曹の立場にあつた人間の觀念では、判檢事というものは、一體不可分のような觀念に今日まで置かれておつたのであります。そういう考え方から見まして、この質問を強く主張いたしてみたいという氣持になつておるのでございますが、この檢察官の職務というものは、すでに檢察廳法案において定めておりまするがごとく、一般に犯罪を搜査しその起訴を決定し、公訴を遂行し、かつ刑の執行を監督するきわめて重要なるところの職責にあるものでございます。この起訴を決定すること自體は、その性質上裁判に準ずるとも劣らざるところの、重大なる職務にあるものでございまして、もしその職務が適正妥當でないといたしますならば、とうてい刑事裁判の公正も期待ができなくなつてまいるのでございます。また犯罪の搜査及び公訴の遂行、刑の執行等、いずれも社會の治安維持のために、重大なる役割を果すものであることは言うまでもございません。このゆえにこそ、從來わが國の司法制度におきましては、先にも申しました通り、判事と檢事との資格及びその待遇におきましては、いささかも徑庭を設けなかつたのでございます。先般、新憲法の施行に伴いまして、司法制度を改革するために設けられました司法法制審議會におきましても、檢事の待遇は判事に準ずべきものと決議をいたしたのでございます。しこうして、すでに政府より提出された裁判所法案及び檢察廳法案を見まするに、檢察官の職務權限において從來と全然同一であり、またその資格において裁判官と同一であると規定いたしておりますが、わが國の檢察制度は、英米の制度とはその趣を異にしておるのでありますから、檢察官はその特殊性に鑑みまして、これを一般行政官に比べまして、特別なる待遇をせねばならぬと存じておるのであります。檢察廳法案の第二十一條におきまして、檢察官の受ける俸給は別に法律でこれを定めると規定をいたしておるゆえんもここにあろうと存ずるのでございます。しかるにこの檢事總長の受ける報酬額は、この別の草案から見ますると、最高裁判所の十四人の判事よりも低いように規定されんとしておるように見受けられるのでございまするが、檢察廳の檢事總長に對するところの俸給額に關する待遇問題に對して、少くも最高裁判所の十四名の、いわゆる平判事と同額くらいにこれを待遇せらるる御所見があるかどうかということをお尋ねいたしてみたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=10
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011・北浦圭太郎
○北浦政府委員 司法官に對する待遇の惡いということ。これは私は多年さように考えておりまして、東條内閣の初めに當つて、その當時は實に司法官の待遇が他の行政官より非常に劣つておつた。そこで同僚に檄を飛ばして、私は増額を要求したことがありましたが今日におきましても、檢察官だけではありません。判事も惡い。實際の状況を私はこの間大審院長から聽いたのでありますが、大審院の判事、それから控訴院の判事など、實に十數名の者が榮養失調で缺席しておるということを聞いた。實際五百圓で生活する。そんなことは無理だ。それで中村君のおつしやるように、しからば檢事總長が最高裁判所の長よりも下である。これはどうか。まことにごもつともである。今英米の檢察制度に觸れられましたが私の記憶いたしておるところによりますと、フランスのナポレオンからこちらへの檢察制度は、あれは實際判事を監督したものであるから、地位がはるかに上である。實際それほど仕事が複雜であり、かつ困難であります。そこで中村君のおつしやるように、これは最高裁判所の長よりも待遇が下だということは、私もどうも感心しかねる。その點は中村君の御意見のように、われわれはその實現に努力したいと思つております。殊に十四人の判事、これは仕事の上から考えまして、いかにも判事もその仕事は複雜であります。重いのであります。調書を讀むだけでもなかなか大變である。そうしてあの人たちは外界とのいろいろな交通がまるで遮斷されておりまするから、實際において、外からの收入というものは絶對にありません。最も神聖である。十四人の判事も大切であり、檢事總長以下檢事も大切である。よい待遇をして、そうして甲乙のないように、私も努力したいと考えております。さように御諒承を願いたいのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=11
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012・小島徹三
○小島委員長 中村君にお尋ねいたしまするが、あなたの今の質問は、最高裁判所の長と同じにとおつしやつたのですか。それとも最高裁判所の裁判官と同じくらいとおつしやつたのですか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=12
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013・中村又一
○中村(又)委員 ただいま委員長よりのお尋ねもありまするから、第五點としていま一つただいまの親切なる御答辯に對しまして具體的に申し上げてみたいと思います。ここへまいつておりまする裁判官の報酬に關する法律案と檢察官の俸給に關する法律案とを比較檢討いたしてみますると、すなわち最高裁判所の長官が總理大臣と同額でありまして、十四人の裁判官が悉く國務大臣と同額になつております。ただいま私が檢事總長の待遇問題を申し上げましたのは、十四人の判事の國務大臣と同額になつておりまするこの額と、檢事總長を同一には取扱わなければなるまいと申したのであります。すなわちこのことは、全國の檢察廳を指揮監督する最高檢察廳の、ただ一人の長官でありまするところの檢事總長の待遇問題であるというこのこと自體は、以上のごとき事實によりまして權衡がとれない場合におきましては、廣く全國檢察官全體の待遇問題、及びひいては待遇上において受ける精神の問題にも關連をいたしまして、奮勵志氣に關する影響なども、一つの重大なる事柄として見逃してはならないことかと存じております。以上述べました通りに、檢事總長は十四人の判事と同額なる待遇にということでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=13
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014・北浦圭太郎
○北浦政府委員 私はむしろ、最高裁判所の長が總理大臣と同じであるというのならば、檢事總長もそれと同じようにしたらいいではないか。そう考えております。いわんや中村君のお説のように十四人の判事と同一にするということは、もちろん解釋によつては私は大賛成であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=14
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015・中村又一
○中村(又)委員 ただいま政府委員の積極的なる御答辯でまことにありがとう存じました。しかし總理大臣、あるいは衆議院議員、あるいは最高裁判所の長官と同一とまでは私は要求いたしませんが、少くとも國務大臣並、最高裁判所の十四人の判事並には實現を願いたいと希望いたしておきます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=15
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016・北浦圭太郎
○北浦政府委員 よく中村君のお説を記憶いたしておきまして、大いに努力するつもりでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=16
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017・小島徹三
○小島委員長 荊木一久君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=17
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018・荊木一久
○荊木委員 先ほど中村委員から、司法警察官吏の身分上の上官を檢事にしたらよいではないかという御意見、それに對して司法警察制度全般の改正をまつという大臣の御答辯でございましたが、この點につきまして、さらに一點大臣の御意見を伺います。裁判所と檢察廳が今度はまつたく別になりましたし、舊來裁判所に附置された檢事局が今後は別に設置されることになつた。先般同僚からも申されました通り、裁別所と檢察廳というものはオフイスを全然別にするということは、だれも異論のないところだと思います。しかし戰災裁判所を復興するとかいうような便宜のある場合を除きましては、現在の日本の豫算、資材、勞力とにらみ合わせてみますと、問題はなかなかそう簡單じやないと思います。殊に新設の簡易裁判所の場合を考えますと、さていつの日に一體完全に分離ができるか前途はなはだ心細いものを覺えるのであります。私はこの際思い切つて檢察廳のオフイスを、警察の中にもちこむということにしたらどうか。このことは檢察廳が裁判所と同じ建物の中に存在するということが、あらゆる觀點から感服しないという、この消極的な面だけではなく、積極的な必要があるではないか。私は司法警察官吏の過去の陋習が、新憲法のもとにおきましても必ずしもそのままいつまでも直らないと即斷はいたしませんが、少くとも現在においては警察官吏というものは、まず身分上の上官である所轄署長の意向に從うということになつております。檢事局に事件をまわすかまわさぬかということを、一應は警察自體が決定する。從つて檢事局の側から見ますと、警察からあてがわれた事件を丹念に審理するという結果になつている。これは現行の刑事訴訟法のもとにおいても、明らかに本末顛倒であります。しかもだれもこれを不思議に思う者はない。この制度上の慣習というものは私は現在においては病膏盲にはいつているのではないかという氣持がするのであります。このために警察の事件の取扱い件數というものと、檢事局の受理いたします件數との間には、非常な開きが出てきている。あたかも司法警察官吏自體が、完全な獨立官廳として自立的に事件の取捨選擇を當然なし得るような状態を示している。そのために、まず警察に事件のもらい下げにいくという奇怪な現象が現われてくる。私は未だかつて檢事局の——今度は檢察事務官になりますが、檢事局の書記に對して、事件のもらい下げにいつたという話を聽いたことがない。同じ檢事の補助員として、どうしてこういう不思議な差違を生ずるか。それよりこの差違をそのまま認めてよいかどうかということを私は考えるのであります。司法警察官吏は獨立官廳然としてその權限を揮つていくので、被疑者もしくはその關係者との間に、いまわしいなれ合い行爲というものを、往々われわれ耳にするのであります。檢事もしくは書記が被疑者の贈賄によつて、あるいは饗應によつてその請託を受けたという事例はきわめてまれであります。國民一般もそれは容易にできがたいことを理解しておりますから、たまたま現職檢事の收賄事件などが出てまいると、天下の一大事のように騷ぎ立てるのであります。これに比べて防犯警察その他一般司法警察官吏のこの種の行爲はどうであるか。これは私がここで申すまでもなく、永年この道で苦勞していらつしやる司法大臣はよく御承知の通りであります。彼等も司法の尊嚴の一翼を擔はなければならぬので、この現状のまま見逃しては、司法の威嚴などというものは成り立たない。これを是正する途は、先ほど中村委員の言われたように、身ぐるみ彼らを司法警察官のもとに入れてしまうか。それが諸般の状況上できないということなら、思い切つて檢察廳のオフイスを警察の方の中にもち込む。そうすれば警察の取扱う事件は、細大漏らさず檢察官の眼に觸れ耳に觸れる。そうすれば現在のような顰蹙すべき陋習は、ある程度肅正されるのじやないかと思う。また現在警察には永年の陋習として任意出頭というような癖が殘つていて、被疑者が警察の任意で留められていても檢事はこれを知らぬ。被告の大部分が口をそろえて言うには、警察から檢察の方に移されてから地獄から極樂に行つたような氣がすると言うところが檢事はその地獄の半分については一向ご存じがないという實情である。從つてこれに對して檢事は理解も同情ももたぬ。刑事訴訟法に規定すれば、足ることを、特に新憲法は、第三十四號に憲法の體裁を傷めてまでこの規定を設けている。全體を通讀して、實に調子の高い、一篇の詩のような感じがする新憲法は、これらの見苦しいものを挿入したことによつていかに不體裁になつているか。これは司法大臣よく御承知の通りであります。この全體の調子を破つてまでこれらの規定を挿入しなければならぬというところに、既往の警察制度の大きな欠陷があつたということは、この際反省する必要があろうと思うのであります。この憲法の規定を自信をもつて國民に保障するためにも、檢察官がそのオフイスを警察署内にもち込んで、公訴提起の前の裁判事務一切に對しては、その責任を負うということが、最も適當ではないかと考える。もしこれが實現できるということになつたら、全國のだらけた警察官に對しては、非常なセンセーシヨンを卷き起すであろうし、官紀はおそらく肅正されるであらうと思います。それには道府縣の豫算と紛淆を來すとかいうような小乘的な、セクシヨナル的なところもあろうと思いますが、それらは超越しても、新憲法實施と同時にこれを實現いたしたいと考えるのであります。これは不可能なことではないと考えるのでありますが、大臣の御所見はいかがでございますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=18
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019・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 確かに傾聽に値すべき御議論と私は考えます。警察官と檢事と密切に連絡を保つ、殊に身分權を檢察廳にとつて十分な指揮監督をするということは、現在においてはもつとも望ましいことと考えておりますその一段階としてただいま御議論のように、簡易裁判所と檢察廳との間におきまして、檢察廳の一部を警察署へもつていつたらどうかということは、正しく私は現在の事情に即した御議論と考えております。しかし御承知の通りこれは内務省との關係が非常に密接なものがあり、また地方廳との關係その他複雜なる關係におきまして、急速にさようなことは私はできかねると思うと、ここでお答え申し上げるよりいたし方ないと思いますが、將來におきましてはおそらく警察制度全般の改革を見ますと、ただいまのような方向にあるいは進んでいくのじやないかと考えております。ただ簡易裁判所の關係におきまして、今度は檢事が被疑者を逮捕する場合、令状を判事から發せられることを必要とするものでありますが、その關係におきまして、やはり簡易裁判所に接續した心組で、檢察廳を分廳として設けるというような方向に進んで行くのじやなかろうかと考えております。理想論としてはまことにごもつともであります。警察制度全般の改革とにらみ合わせまして、そういうことについては十分に考慮したい、こう考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=19
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020・小島徹三
○小島委員長 本日はこの程度において散會いたします。次會は明二十日午前十時から開會いたします。
午前十一時五十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211135X00519470319&spkNum=20
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