1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
統計法案(政府提出、貴族院送付)(第一一號)
恩赦法案(政府提出、貴族院送付)(第一三號)
罹災救助基金法の一部を改正する法律案(政府提出)(第一〇號)
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昭和二十二年三月十四日(金曜日)午前十一時一分開議
出席委員
委員長 庄司一郎君
理事 花村四郎君 理事 氏原一郎君
今井はつ君 小島徹三君
堀川恭平君 森山ヨネ君
松谷天光光君 安平鹿一君
丸山修一郎君 越原はる君
三月十三日罹災救助基金法の一部を改正する法律案(政府提出)の審査を本委員に付託された。
出席國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
國務大臣 金森徳次郎君
出席政府委員
内閣事務官 美濃部亮吉君
司法事務官 佐藤藤佐君
司法事務官 奧野健一君
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本日の會議に付した議案
統計法案(政府提出、貴族院送付)
恩赦法案(政府提出、貴族院送付)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=0
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001・庄司一郎
○庄司委員長 それではこれから會議を開きます。昨日の本會議において、罹災救助基金法の一部を改正する法律案が、本委員會に併託に相なりました。だがこの法案の審議は後日に讓りまして、本日は恩赦法案を議題として、その質疑を進行したいと存じます。通告順によつて發言をお許しいたします。今井君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=1
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002・今井はつ
○今井(は)委員 從來天皇陛下の御名によりまして行われてまいりました恩赦は、新憲法によりまして法令によつて行われることになりましたことは、感慨無量でございます。しかしながら私はこれに贊意を表するものでございますが、私の希望、私見の一端を述べまして質疑いたしたいと存じます。この法案には前科の抹消の條項のないのが、私には物足らない感じがいたすのであります。過つて罪を犯し、法の裁きにより刑を受け、贖罪いたしました者を冷眼視いたしまして、前科者として區別いたしますのは、民主主義の今日、いかがかと私は思われます。刑務所は罪人の苦役所ではなく、刑期期間中にこれらの人々を訓戒させて、再び罪を犯させないようにして、眞人間として社會に送り出すのが、その責務ではないかと私は思います。刑務所を出ました者が、再び罪を犯しますことは、刑務所がこの責任を完全に果せなかつたものとも言えると思います。また世間が前科者といたしまして冷眼視いたしますところから、就職も困難なために、せつかく眞人間になりながら、再び罪を犯す場合も多々あると思います。新憲法におきまして、國民の生活の保障されております建前から言いましても、生きんがための就職を妨げるのは、人權擁護の精神にも反すると思います。有罪の判決を受けました者さえ、恩赦に浴することができるのに、まして刑を完全に果しました者にこの恩赦を與えることのできないというのは、どうしたわけでございましようか。私はこの恩赦法の第三條に、既に體刑を了した者については、その前科が抹消されているという一項をさし入れていただくことを希望してやみませんのでございます。それにつきまして、政府はどういう御意見をもつておいでになりますか、お尋ねさせていただきたいと思ひます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=2
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003・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 恩赦法は、これまで御承知のように大權事項になつておつたのが、新憲法によりまして、内閣が國務としてこれを行うということに改められましたので、それに伴つて今囘恩赦法案を立案して、御協贊を仰いでおるのでありますが、その恩赦の種類として新憲法の第七條に、大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權の六種となつておるのでありまして、この規定に從つて、從來の恩赦令と大體同樣の法案を立案いたしたのでありますが、ただいまお尋ねの刑の執行を終えたものが、何年か經つてから後、その刑の言渡しが效力を失うような、いわゆる刑の消滅の規定が恩赦法に掲げられてないことを、非常に遺憾とするという御意見を拜承いたしたのであります。實は前から刑の言渡しを受ければ、その刑の執行を終えたものが、長い間前科の苦しみにもだえておつて、後々までも、自分のみならず、家族の者までもいろいろな不都合、不便を生じておることを非常に遺憾に存じまして、何とかこの刑の消滅の規定を刑法の中に規定したいという考えをもつておつたのでありますが、刑の消滅の規定は、從來の恩赦令の關係もありまするので、つい實現を見るに至らなかつたのであります。ところが議會の方面からもたびたびの要請もございましたので、今度、新憲法の實施に伴いまして刑法の一部を改正して、その中に刑の消滅の規定をいたすつもりで立案いたしたのであります。昨年の秋に設けられました法制審議會の答申にも、この刑の消滅の事項を刑法の改正案に載せるようにという要求もありましたので、その線に沿うて鋭意立案に努力いたしておつたのでありまするが、最近各方面との連絡の都合もありまして、どうもこの議會に刑法の改正案を提出することが、遺憾ながら間に合わなかつたのであります。最近の機會において刑法を改正する準備が整つておりますので、その際には、必ず刑の消滅の事項を刑法に規定いたしまして、御要望に副いたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=3
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004・今井はつ
○今井(は)委員 次にお伺いいたしたいのは、十一月三日に憲法發布記念式典により強盜、殺人を除く前科者に對して、前科抹消の恩典を與えられたと、私は記憶いたしておりますが、いかがになつておりますか、お伺いしたいと思ひます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=4
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005・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 昨年十一月三日に恩赦令が施行されましたが、そのときの大赦令の内容は、ここに詳しく記憶はいたしておりませんけれども、強盜、殺人、それから尊族殺、大逆罪、それから外國との貿易に關する犯罪その他除外された犯罪はかなりあると思います。大赦令に掲げておりまするのは、これこれの罪はその言渡しの效力を失い、または控訴權を消滅するということを規定しておりまするので、大赦令に掲げておらない犯罪は、すべて昨年の恩赦の恩典には與からなかつたのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=5
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006・今井はつ
○今井(は)委員 意味が違いますが、前科を抹消するということがあつたと思うのです。ぼちぼちと世間の方から質問されますのに、事實その前科の抹消されたかどうかということを、私は承りたいのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=6
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007・庄司一郎
○庄司委員長 念のために委員長より政府委員に御明答をいただくために、御參考までに申し上げておきます。昨年十一月三日の恩赦令により、當時恩赦の惠澤に浴した者、約三十八萬五千人あつたと承知しておりますが、その恩典が發表されましたる前の日の十一月二日までにおいて、既に釋放され、あるいは罰金刑等の義務を果し、滿十箇年經過した者については、司法次官通牒により市町村戸籍事務取扱者、市町村長に對してその前科抹消は無論のこと、刑名簿等より、その前科の記録をカツトせよというような意味における、強い通牒も發せられたように私は承知しております。今井委員のただいまお尋ねの趣旨は、大赦令によつて恩典を受けた者が、ことごとくいわゆる前科抹消の恩典を受けたのであるかどうかというような意味のお尋ねでございまするから、その點、はつきり御認識の上において、今井委員に御囘答を願いたいと思います。佐藤政府委員。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=7
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008・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 ただいまのお尋ねの點につきましては、委員長からのお言葉もございました通り、昨年の大赦令によつて、刑の言渡しの效力を失つた者につきましては、司法次官の通牒によつて、全國の市町村役場において、前科抹消の手續は全部實行いたしておるものと存じております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=8
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009・今井はつ
○今井(は)委員 各方面で聞くところによりますと、まだそれが行き渡つておりません所が、多々あるらしいのですから、これは特にもう一度通牒をお出し願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=9
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010・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 その點につきまして、もし抹消の手續が漏れておるところがありますれば、またこちらで本省の方から通牒を發して、極力實行を完成するように督勵いたしたいと存じております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=10
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011・今井はつ
○今井(は)委員 次にこれは恩赦法とは關係のないことでありますが、司法省の方がおいでになられましたので、ついでにちよつと私からお話申し上げておきたいと思います。過日私が上京いたしますときに、客車が非常に混んでおりましたので、やむなく郵便車に乘つてまいつたことがございます。そのとき途中で二名の囚人が、二名の看守に二名の警官に附添われて同乘いたしました。ところがそのときに看守の方なり警官の方がタバコをすぱすぱと吸つておいでになりました。囚人は大變欲しそうにしておりますので乘り合わした他の方が、まことにかわいそうだと思いまして、そうしてタバコを與えられた方がありました。そうするとそのときに看守の方が、物も言わずに、それをひつたくつてとりました。そうすると囚人は大變に憤慨してどうしてくれないのかと、今にも飛びつかんばかりの格好でありました。いかに罪人とは言いながら、やはり彼らも人の子であります。人が喫んでおればやはり欲しいに違いありません。それに自分たちが喫んで見せて、しかも人があてがつたものを、わけも言わないでいきなりひつたくつてとるというようなことをして、彼らに改心せしむるところの資格がありましようか。私はそのときに大變なさけなく思いまして、それらの警官、看守に向つて、あなたたちもお喫みになるのをお控えなさつたらいかがですかと御注意申しましたところ、周圍の人もみなお喫みになるのをやめられましたので、その囚人は初めて靜かな顔になりました。ちようど社會黨の先生方も二人ばかり乘つておいでになりましたが、そういう看守のやり方は、まことに人間味がないと思いますので、もう少し看守なり警察官に、人間味をもたしていただきたいことを私は希望します。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=11
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012・庄司一郎
○庄司委員長 ただいまのは政府からの御答辯を御要求になつていないようでございますが、御希望だけで宜しうございますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=12
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013・今井はつ
○今井(は)委員 何かそれに對して御答辯がございますれば、一應承ることが、できれば幸かと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=13
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014・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 ただいまお話のようなことが行われることは、まことに遺憾に存じておるのであります。御承知のように受刑者には喫煙を禁じておりますので、おそらく附添いの看守が、その喫煙をやめさせたものと思いますが、みずからが喫煙を禁ぜられておる受刑者の前で喫煙するというようなことは、これは極力愼まなければならぬことなのでありまして、そういうことが今後行われることのないように、十分注意いたしたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=14
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015・今井はつ
○今井(は)委員 先ほどから御懇篤なる御答辯によりまして、大體了承いたしましたので、これで私の質疑を打切りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=15
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016・庄司一郎
○庄司委員長 ほかに恩赦法に關する御質問はございませんか。別に御質問もないようでございまするから、それではお許しをいただきまして、委員長の席に着いたまま、はなはだ恐縮でございますが、一委員として二、三の恩赦法に關する質問を、便宜上この席からお許しを願いたいと思います。實はここに國務大臣としての司法大臣の御臨席を得たかつたのでありまするが、私のお尋ねのうち重要なものは、後刻で結構でございますが、お打合わせの上、大臣より御答辯願いたい。また刑事局長において政府委員として、責任を持つて御答辯の頂戴できるものは、御答辯を頂戴することにお願い申上げます。
質問の第一點は、恩赦法の根本的理念いかん。大變やかましくなりましたが、恩赦の眞の目的は何であるか。從來現行憲法によつて、天皇の大權によつての、ほんとうのお上の恩赦であつたのでありますが、新憲法によつては、國家が、換言するならば、國民全體が受刑者に、犯罪者に、あるいは刑餘者に人類同胞の、あるいは國家人民兄弟姉妹の觀念の上から、過去の罪を、あるいは失態を許してやるという、最も高尚なる道義精神の發露の結果、内閣が閣議を開き、内閣總理大臣の名によつて、天皇の御認證を受けて大赦恩赦を施行せられる。こういう段階でございましようが、從來の觀念は、天皇の大權により、天皇の無限なる御慈愛によつてお許しをいただいたのであります、御赦免をいただいたのであります。しかるに、新憲法においては、國家が、國民全體が過去の犯罪者受刑者を許して、この後、眞に再生の人に更生して欲しいという、そういう期待の上において恩赦を施行せられるものであるかどうか。新憲法に即應したるところの恩赦法の、立法の根本的精神いかんということを、第一點としてお伺い申上げます。
第二點は、この恩赦法によつて恩赦を頂戴した者、大赦なり特別特赦なり、あるいは普通特赦なり、あるいは減刑なり、とにかく本法によつて恩赦を受けた者が、市町村役場の刑名簿の中に何年何月制令第何號によつて大赦を受けて刑の效力を失わしめた、あるいは減刑した、あるいは復權させたというような檢事の通牒によつて、一生涯現行の刑名簿制度の下に、大赦を頂戴して許されても、裁決の效力が失われても、なおかつ、ただいまの状態のもとに、その人が墓場に行くまで、一生涯、恩赦を頂戴したということは一片の通牒によつて登録されてはいるけれども、過去の犯罪記録を永遠に一生涯、市町村役場の刑名簿に殘す政府の御方針であるかどうか。從來、恩赦を受けた者はたとえば勅令何號によつて恩赦を受けた、大赦を受けたという通牒はございますけれども、そのまま市町村役場の刑名簿に登録させておいた。司法省のやり口は、そういうやり口であつたのである。つまり檢事局の指導は、戸籍寄留事務の上においての指導方針は、さような状態であつたのであります。さような状態では、せつかく恩赦を賜わつて、裁判判決の效力まで失わしめるところの、ありがたい恩赦を受けたにかかわらず、過去の惡の記録が永遠に一生涯殘つている。ここに全國幾百萬のジヤンバルジヤンが現われている。こういうふうなことになつているのでございますが、新憲法に即應し、憲法附屬の一つの恩赦の大權によつて、この後その點はどういうふうに、政府、司法省は處理されて行くのであるか、まことに私は憂慮に堪えないのであります。私は過去十箇年の間、前科抹消に關する建議案をちようど五囘、請願その他で十有何囘の演説を、いわゆる前科抹消司法保護關係において述べている。私の過去の十箇年の議員の生活の言論の大半は、司法保護竝びに前科抹消の問題をもつておおわれております。非常な熱意をもつて自分はやつてまいつたのでありますが、先ほど今井委員の御質問に對して、刑法改正の前科抹消の件も、次の議會に延びたというような御答辯があつて、はなはだ遺憾でございますが、不幸中の幸い、恩赦法が上程されたことは、非常な滿足でございます。だが、この恩赦法によつて恩赦を受けても、ただいま申し上げたように、くどいようでありますけれども、市町村の刑名簿というものは將來とも存置して、過去において彼が恩赦を受けたといえども、前科者であつたという惡の記録を殘さしめるところの措置をとられんとするものであるか。願わくは、そういうことがあつてはならないと、本員は考えるのでありますが、その點、司法省の御意見はいかがでございますか。
第三は重大な問題でございます。ただいま佐藤政府委員がお述べになつておるように、特定の年限を經過せるものは、前科抹消の刑法の改正案までただいまもたれておる司法省でありますが、今囘の衆議院、參議院、あるいは都道府縣會議員その他の公選議員の資格申請の條項の中に、こういう一項がある。過去において逮捕監禁され、あるいは裁判の有罪の判決等を受けた事實があるならば、一切それを記載せよ。こういうのがいわゆる資格申請書の中にプリントされてあるのであります。これはきわめて單純な事件のようであるけれども、いやしくも前科抹消が提案されんとし、かつ大赦、特赦等によつて、過去の犯罪が御赦免を受けた者であつても、逮捕監禁され、あるいは刑の實刑を受けた者、あるいは罰金刑等に至るまで、その資格の申請書に記録しなければならない。記録まではよろしいのであります。けれども、御承知の通り今日の選擧法によつて、その資格を申請したる記録、その記録が一般の國民、人民の間に公開されるのであります。折角政府が親心を以て大赦あるいは特赦を與え、あるいは復權を與え、選擧界に立つて國家のため、あるいは地方のために貢獻せんとするその人の過去の經歴、勞働運動とか、農民運動とか、思想運動とか、あるいは新聞紙法違反出版法違反等と、輕度の犯罪によつて、刑罰を受けた人であるならば、あえてその誇りを失いません。けれども、普通刑法、その他特別刑法等によつて、過去において、あるいは十年前に、あるいは三十年前に刑を受けた。そういう人までが過去において逮捕監禁され、あるいは刑を受けたことを記録し、それを一般國民の間に公開させるところの、資格調査の公開制度をとられておることはどういうことであるか、目的はどこにあるのであるか。恩赦法竝びに前科抹消法とまことに矛盾撞着もはなはだしいところのやり方ではないか、こんなふうに本員は考えておるのであります。この點は特に司法大臣より直接御答辯を願いたい。折角の恩赦法を提案され、折角また次の議會にはいわゆる前科抹消を刑法の一部改正の中にうたわんとするところの司法省がどういう考えで、過去において刑罰を受け、あるいは大赦、恩赦を受けた者といえども過去の犯罪の事實の記録を事新しく國民同胞の前に公開をしなければならないのであるか。候補者たらんとする者の資格申請の上において、いかなる必要があるのであらうか。これは重大な問題であります。實は本會議の場合に、本員はこのことを天下の輿論に訴えるために述べたかつたのでありますが、その機會を得ませんでした。よつて本院の一角であるこのささやかなる委員會において、發言するよりほか餘儀ないのでございますが、重大な問題である。こういうような點において、司法大臣は特に國務大臣として責任ある御答辯を願いたいと思うのであります、既にもう中には何十年か前に過去の何らか刑法あるいは現在において廢止されたところの治安維持法であるとか、あるいは官吏侮辱罪であるとか、そういうお廢しになつた法律刑法等によつて處罰された者といえども、過去に逮捕監禁され、あるいは刑を受け、あるいは罰金刑を受けた事實をそのままありのままに申告しなければならない。それを天下に再び公開するということは、實に文明國として、文化國家のために私は殘念でたまらない。こういう意味において、司法省はどういう御見解をもつておられるか。これが第三點であります。
第四點は道徳上の宥恕というものは普遍的でなければならない。キリストはその弟子に問われて、過ちを七たびまで許すかという問いに對して、それを七十倍せよと言われております。これは宗教的解釋であるが、先ほど今井委員の御指摘になつたように、昨年の大赦において、強盜、殺人あるいは尊屬親殺しという一部の者が取殘されて恩典に浴し得なかつたのである。私は日本が根本的な民主的大革命の新憲法の公布に際し、また來るべき五月三日の新憲法の實施に際し、そこに差別があつてはならない。たとえどんな惡い者でありましても、宗教的に言うならば、罪の深きところに惠みまた大なり。かくのごとくパウロは述べておる。一部の者だけに恩赦の大赦あるいは特赦、減刑の恩典を與えないというところに、非常な錯誤があり、錯覺がある。私は司法保護事業に携わること二十八年であります。どの刑務所を訪問して受刑者と座談會をやつても、ああいうような差別待遇によつては永遠に救われないと、自分たちの境遇を彼らみずから自嘲的にのろうておる。これは司法省に對する怨嗟の聲であります。赦す場合においては、その赦されるところの宥恕の厚薄は別問題であります。しかしいやしくも新憲法實施の際において——特に戰時中において、長期刑のごときは食糧減ぜられ、普通の囚人の二倍も三倍も餘計に働いてきた者が多いのであります。そういう受刑者だけが何らの恩典に浴し能わなかつたということは、實に遺憾千萬なことである。現行憲法によつて天皇の大權は、たとえ兇惡非道の者であつても、無限の慈愛をもつて宥恕せられんとするところの天皇の御意思であると、私は考えるのであります。國民もまた、たとえ兇惡なりし過去の殺人強盜でも、その中には罪を悔いておる更生者がある。ただ罪名、罪質がいけないから、これだけは最初からいけないのであるというので、それをオミツトするというごときは、眞に恩赦の精神が普遍化されるゆえんではないと思うのであります。よつて私は新憲法實施の五月三日をもつて、さきに恩典に漏れておつた者を救濟するところの信念をもつて、司法大臣は蹶起されなければならない。今全國の刑務所にさような差別待遇を受けて冷たい、のろいの考えでもつて朝夕鐵窓裡に泣いておる同胞が數萬人おります。これは太陽の光のごとく、恩赦は普遍化されなければなりません。私はそういう信念である。しかるに一部の者だけがこれは絶對にいけないのだ。勅令の建前でございますか、あるいは内規でございますか、まつたくただいま長期刑の者等は、繰返して申上げるのは、實は時間的に恐縮いたしますけれども、長い戰爭中において人一倍、二倍も三倍も働いて、その食糧の六合の飯は四合に減ぜられた。ゆえに現下戰時中において刑務所の受刑者の死亡率というものは非常に殖えておるのである。それほど榮養の少い食糧をとり、過度な勞働を強要せられ、それも國家のためな赦として働いてきたのである。その連中にも限りなき天皇の、あるいは國家の愛が普遍化していかなければならない。私はそういう信念でもつて、第四の質問は來るべき五月三日に、新しい恩赦法によつて、普遍化されたるところの恩赦の施行の斷行を要望してやまないのであります。もしそれ、この恩赦法を直ちに適用すること能わない場合はいわゆる思い切つたところの假釋放の斷行をせられることが望ましいのである。「もの平ならざればすなわち鳴る」と申しております。すなわち一部の者にだけ恩赦の恩惠に浴さしめて、一部の者がその恩赦に浴し得ないところに「もの平ならざればすなわち鳴る」——不平不滿、いわゆる俗に言う思想の惡化が釀成されていくのである。よつて司法省は五月三日の新憲法實施日をぼくし、内閣總理大臣をして新日本の門出において、この恩赦法を活用されましても、決して國民の大多數は反對しません。天皇また欣然として喜んで恩赦を御認證くださることは言うまでもないのであります。取殘されたる一部の、鬼界ヶ島に取殘されたる僧都俊寛のような、氣の毒なる多數の受刑者のために、限りない大慈大悲の大愛が、この恩赦法の中にこめられて發露されんことを、私は要望してやまないのであります。これが第四點の質問であります。
以上の四點の質問のうち、佐藤局長において責任をもつて御答辯頂戴することができ得るものは、御答辯をいただきとうございます。大臣でなければ御答辯のできないものがあれば、後刻大臣御臨席の上、直接御答辯を煩わしたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=16
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017・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 ただいま委員長からのお尋ねに對しまして、私の考えをお答えいたしたいと存じます。
第一點の恩赦の目的でございまするが、これまで恩赦の目的として考えられておりますことは、大體二つになつておるのであります。その一つは法律の畫一性から生じてくる欠點を緩和して、これを補正しよう。さらに具體的な事件についての裁判の效果、すなわち刑の言渡しの效果をして、適當にこれを補正しようということが、恩赦のおもな目的であると考えておるのであります。その次は犯人の改悛の事情、また犯罪後の社會情勢の變化によりまして、前の刑の言渡しの效果をそのまま、存續せしめることが不適當になつた場合に、これを補正しようというのが、恩赦の目的であると考えておるのであります。しかしながら、これまでたびたび行われました恩赦の經驗によりますると、むしろ第二の目的として申し上げました犯人の改悛の状況、及び社會の情勢の變化によつて、既に言渡されたる刑の言渡しの效果を變更せしめようという、この目的が主として活用されておつたように記憶いたしておるのであります。
第二のお尋ねは市町村役場に備えてありまする前科者名簿を、今後も存續せしめておくかどうかという點のお尋ねだと思います。最近は前科者の名簿というものは、市町村役場に備えてはおきますけれども、絶對これは他に發表し、あるいは漏らすというようなことのないように、嚴重に警告いたしておるのであります。もちろん以前のように戸籍簿にこれを記載するというようなことは、いたしておらないのであります。なお恩赦の恩典に與かつた者、すなわち刑の言渡しの效力に變更を生じ、あるいは消滅した者に對しては、檢事局の方から市町村役場に通知して、前科者名簿を訂正させる、あるいは抹消せしめるという方法を講じておるのであります。しかしながら前科者名簿を存置するということは、犯罪の搜査檢擧に對して、一つのよりどころとなるのでありまして、檢事局方面また警察方面において、犯罪の搜査檢擧等に、この前科者名簿を利用いたしておるのであります。從つて今後刑の言渡しの效力について恩赦の恩典に與かつた者を、一樣に前科者名簿から永久にこれを抹殺してしまうということは、直ちに實行できるかどうか、十分研究してみなければならぬのでありまして、今のところは全部これをなくしてしまおうということは、將來の犯罪の搜査檢擧に際して、非常な不便を生ずるのではないかというふうに考えられまするので、恩赦の恩典に與かつた者の前科者名簿を、永久に消滅せしめてしまうということは、直ちに實行することは困難であろうというふうに、私は考えておるのであります。しかしながらこの點はせつかく恩赦の恩典に與かつた者を、たとえ公表はいたさないにしても、そういう者の記録を存在せしめておくということは、その恩典に與かつた者に對して、またその子孫に對しても相當迷惑なことと考えまするので、その點の記録を消滅せしめるか、あるいは存續せしめるか、あるいはいかにしてこれを保管するかというようなことについては、十分研究いたさなければならぬと存じておるのであります。
それから第三の議員候補者等の資格調査の申請書に、前科の有無を記載せしめるということは、これは不都合ではないかという御意見を承つたのでありまするが、實は私は資格調査申請書の記載事項を詳しく存じておりませんので、この點は篤と調査いたしましてお答えいたしたいと存じます。
それから第四の、來るべき新憲法實施の際に、さらに新しい恩赦法に基く恩赦が行われるようにという御希望を承つたのでありまするが、この點は御希望の點を司法大臣に申し傳えましてよくお考えおきを願うつもりであります。なお從來恩赦に漏れておる者に對して、假釋放をできるだけ活用するようにという御希望につきましては、この點は從來とも司法省におきましても、假釋放の制度を極力活用いたしておるのであります。この點につきましては、今後といえども十分努力して、假釋放の制度を活用いたしたいというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=17
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018・庄司一郎
○庄司委員長 議員候補者の資格申請書の中に、逮捕監禁あるいは刑罰を受けたことの事實等を記載せしめ、それを天上民衆の前に選擧管理委員會をして公開せしめる件に關しましては、國務大臣としての司法大臣に、後刻適當な時間に委員會に御答辯あられんことを、政府委員より御斡旋を願います。
ちようど正午近いようでございますから、これで一時休憩いたしまして、午後一時には恩赦法案に關し、殘餘の質問の御希望あれば、その際御繼續を願うことにいたします。なお一方統計法につきましては、各派で一つ政務調査會なり代議士會なりにお諮りを願います。氏原委員の方より統計法案に關しまして強い希望の、まことに適切妥當な附帶決議の御試案が出ております。それを後刻公に委員會の協議議題としたいと思いますが、その御趣旨は、統計法案を實施するにあたり、各都道府縣あるいは市町村等に至るまで、統計に關する制度の擴充強化を速やかに政府が善處されたき旨の大體の意味における御要望でございまして、まことに結構な附帶決議であると、委員長だけは考えている次第であります。もつともな次第の附帶決議の御創案のようでございまして、それらも、各派において政務調査會なり幹部會なりにお諮りをいただきまして、統計法案に關してはこういう意味の附帶決議のもとに、まだ討論終結になつておりませんけれども、大體の見透しから言えば、原案そのまま御承認のような空氣のように拜承しております。それは討論をやつてみなければわかりませんけれども、打診の上から言えば、そういう空氣になつておりますので、ただいま申し上げたような趣旨の附帶決議をつけて、本案を了承する、本委員會は可決するというような空氣に關する各派の御意向を、でき得る限り午後一時ごろまでにおまとめ下さいまして、また各派を代表して、原案に御贊成の場合は贊成の御演説をなさる、あるいはまた修正等の御意見がもし萬一あつた場合は、修正等の方面も擔當されて、各黨の上において責任をもつて各委員が、お臨みくださらんことをお願い申し上げたいと思うのでございます——ほかにどなたか御發言はございませんか。——それではこれをもつて休憩いたします。午後一時再開いたしたいと思います。
午前十一時四十九分休憩
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午後一時三十一分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=18
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019・庄司一郎
○庄司委員長 それでは午前に引續きまして本委員會を再開いたします。先ほどお聽きの通り、私が一委員として皆さんのお許しを得まして、政府にお尋ね申し上げた中の、政府の御答辯がまだ保留されておりまする一、二點がございまするが、その一點は既にお聽きの通り、今囘の各公選擧に際し、それぞれの立候補者の資格申請書の中に、過去において逮捕監禁され、あるいはまた刑罰を受け、罰金刑等もむろん含んでおると思いますが、それぞれの裁判の判決によつて處罰等を受けた者、しかしてそれらの人が大赦、恩赦等の恩典を受け、裁判判決の効力が失われましても、いわゆる法制上前科者でなくなりましても、なおかつ資格申請書に、一切の過去のことを書かねばなりません。まに恩赦、大赦を受けざりし者もむろんのこと、一切の過去の法的制裁を受けた事實を、ありのまま書かなければならないというような條項がございまして、その結果というものが、やがて選擧管理委員會等において、その資格の調査書が公表されるために、せつかく政府が、恩赦法をつくつて、大赦、特赦等を與えましても、それらの、今までは天皇の大權による恩惠、今後は國家國民の赦免を受けるところの恩赦を受けましても、過去あるいは何十年前の古きずでありましても、それが社會に暴露されるところの運命となるのでありまして、恩赦精神が蹂躙されるところの矛盾撞著した結果を招來するおそれが多分にあるのであります。このためには、あるいは家庭的の悲劇を惹起するやもわからぬのでありまして、また一切の社會人は、彼の過去のさような暗い影を知らずに、あるいは忘れてしまつたものまでも、再びここに暴露されるということになりまして、司法保護事業法という法律の精神にも反することはむろんのこと、ただいま議題となつておりまする恩赦法の恩赦精神にも背反するおそれが、多分にあることを恐れます。かようなことはまことに文明國として殘念である。司法保護の建前から言いましても、恩赦法の精神の上から言いましても、望ましからざることである。こういう意味において國務大臣の御答辯を本員が要求した次第でありまして、それらに對しまして、司法大臣がただいま裁判所構成法の改正の委員會に行つておりますので、公選立候補者の資格問題關係の主管大臣であられる關係上、金森國務大臣より御答辯あるやの情報に接しましたのであります。よつてこれより金森國務大臣の御所見を承りとうございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=19
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020・金森徳次郎
○金森國務大臣 お尋ねの點はまことにごもつともな論點を含んでおるものと存じております。この資格審査の關係から文書をお出し願うときに、中に書かれまする事柄の中に、今お示しになりましたような大赦とか特赦とかいうことによつて、既にぬぐわれたる過去の缺點を書き表わさないようにする方が望ましいということは、確かに一つの事由ある論點と存じております。ところが、實際今度の事情といたしまして、この資格審査の方は、人の刑罰状態なんかを調べるのではございません。ある一人の人につきまして、過去の詳密な履歴書を出していただいて、その履歴書に基いて全般的に追放該當者であるかどうかをきめるという立場でありまするがために、法律上の問題としては、もう缺點が除かれておりましても、事實のあつたことを、やはり明らかにして審査をしなければなりませんので、そこで今仰せになりましたような犯罪とか、刑罰の結果とかいうことを列擧しなければならぬことになるのも、また一面やむを得ない事情があるわけであります。それから、ひとりそればかりでなく、罰せられなくても、逮捕せられたということだけでも書かなければならぬというふうになつております。このことは、なつておりますとこう申しますと、いかにもわきから批評的に考えてお答えをしておるように見えますけれども、大體問題が昨年の一月四日に、いわゆる公職追放の覺書というものが與えられておりまして、その覺書に附屬いたしまして、この覺書を實行いたしますためのいろいろな細目が、はつきり書いてありまして、そのBという附屬表の中に、調査表にはこういうことを書かなければならぬということが示されておりまして、その中に調査表のB號の第十二というものがありまして、今問題になつておりますようなことは精密に書くべきことになつておるのであります。かような覺書とその細目に基きまして、この事務を執行していく關係でありますから、どうしても書いていただかなければ、國際的な關係において義務を果すことができないということになろうと思つております。そういたしますと、さようなことを書かれた文書を秘密に扱えば、いろいろな缺點は自然除かれることと思うのでありますが、これを秘密に扱うということは、一面においては好ましい理由がありますけれども、追放關係のことを最も的確にやつていきまするために、これはとても普通の方法ではできません。大體この追放ということは、刑罰でも何でもございませんので、ただ日本が起き上つていく立場から見て、政治その他の公職に關係することを好まざる人をふるいにかけて選り分けよう、そこである一つの理想から願みて、ふるいにかけて選りわけよう。こういうわけでございまして、どうもその點は別個の見地から考えていかなければなりません。さようなふるいをかけますときに、とても政府だけで個々の人の履歴がわかるわけでもございません。それを絶對公平というような建前でやつていきますためには、國民の批判に訴えるということが必要であります。そこで提出されましたところの調査表は、何人でもこれを見ることができるという手續にしていくよりほかに、また途がないことになつてきます。そんなような事情で、昨年一月四日の覺書の附屬のB號の十二項というものの中に、具體的に、こういうことは調査表に書かなければならぬということが示されておりまするけれども、またかようか調査表を一般の公開に供さなければならぬということが、種々なる制約からして定まつておるのでございまして、その結果この二つを合わせますと、いかにも個人の過去に嚴密な批評を加えて行くような感じが起つてきますけれども、何分にもこの重大なる追放者關係のことをやりまするためには、どうしても絶對絶命で、ほかにうまい方法がないのでありまして、現在のところは、かようなふうになつておりまして、はなはだ遺憾ではございまするけれども、この方法をとつていくのが正當である、こうお答えを申し上げるよりほかに途はないと存じております。ただ今お示しになりましたように、その點も十分考うべきことでありまするから、ごく追放關係と縁故の薄いような事柄につきまして、何らか記載を簡便にするとかいう方法で、今のような思わしからぬ點の、せめて一分でも救い得るような餘地があるかもしれないのであります。今すぐというわけにはいきませんけれども、そういう點があるかも知れませんから、その點は何とか工夫をいたしまして——工夫といいましても、はつきり目途のあることではございませんけれども御趣旨をなるべく達成するように、努力してみたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=20
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021・庄司一郎
○庄司委員長 大體御趣旨のある點諒承いたしました。ただ本員は司法保護事業に二十有餘年の體驗の上において、もし社會に忘れ去られている古い前科等が、この資格申請書の調査書によつて一般に公開された場合、政黨政派が苛烈にあるいは無謀に對抗するようになりますと、何某候補者が何十年前に賭博を打つた前科一犯者であるとか、あるいは何犯者であるとか云々というような選擧妨害に近いことまで流布される恐れがあり、それが大赦、恩赦等によつてまつたく復權し、立派な方に立直つておる人でありましても、過去の古きずを洗い立てられるというようなことは、かなり選擧妨害に濫用されるおそれもあります。また子供が親の古い前科等を知らなかつたものが、偶然そういう記録によつて、あるいは第三者より耳にして、子供が親の前科を知るというような、家庭的の悲劇をみることもあり得ると思うのであります。そういうことは、人道的な大きな問題でございまして、適當な機會にきわめて簡單に、たとえば明治何年の同月に刑法第何條の處刑を受けたことがあるというような簡單な記録ならよろしいのでございますが、あれにはなるべく詳細に云々ということがあります。まことに司法保護というような建前と、恩赦法の御趣旨から言いまして、望ましからざることでございます。このことも政府におかれましては御善處をお願い申し上げたいということを要望いたしまして、金森國務大臣に對するところの質問はこれで打切ります。
木村司法大臣に對し御答辯を願つておるのは、昨年十一月三日の大赦により、三十八萬何千人が恩赦を受けた喜ばしい新憲法公布の喜びの訪れがあつたのであります。その際に不幸にして罪質罪名等の關係でございましよう、あるいは短期間内において一囘恩赦を受けた者、凶惡なる犯罪、あるいは常習犯のようなもの等で、あの恩惠に浴せざりし者が、相當全國各刑務所にあるようでございます。また釋放された者の中においても、あるようでございます。相當刑務所内の座談會等では、不平不滿が横溢しておるような状態であります。殊に長期の受刑者は、戰爭中において食糧事情の上から食糧の量を減され、しかも國家のため戰爭完遂のためにはという御指導のもとに、二人前も三人前も勞役を強化され、また喜んで勞働に服した諸君であります。受刑者といえども、戰時中においては非常に働いた諸君であります。罪名罪質のいかんを問わず、一部の者だけが取殘されて、差別待遇的に恩赦から漏れているということは、まことに殘念であります。もしそれこの恩赦法等により新憲法實施の五月三日等を期して、さいわいにも司法大臣のお働きにより、内閣總理大臣より天皇の御認證を受けて、ここに再び新しい恩赦法による第一囘の恩赦が行わるるような幸いがあれば、まことに獄裡の中に恩寵に感激するものがあると思うのであります。もしどうしても新憲法の實施日等において、第一囘のこの恩赦法による恩赦の施行ができないというような事情が萬一ありました場合、さいわいに從來行われております假釋放をひとつ相當擴大強化されまして、十數年あるいは二十數年という長い長期刑等において、恩赦に漏れております者等を、假釋放の擴大強化によつてその刑期を短縮され、近き將來において天日を仰ぐことができ得るような措置を講じていただくことが結構なことである、かように考えます。よつて恩赦法の施行と同時に、いま一度恩赦關係のことを御考慮を願い、萬一不可能の場合においては、假釋放の擴充をおはかりくださつて、御善處を願いたい。これらに對する司法大臣の御所見を承りたいということを、午前中に申し上げたのであります。重複して委員各位にはなはだ恐縮ですが、さような意味において御所見を承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=21
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022・木村篤太郎
○木村國務大臣 ただいまの御質疑にお答えいたします。恩赦は申すまでもなく國家の恩惠であります。恩惠はなるたけ廣く、事情の許す限りこれを及ぼすということが、趣旨であろうかと考えております。この恩赦法施行後に、いつ恩赦が行われるかどうかということは、ただいま言明の限りではありませんが、假にいつかの日に實施後初めて恩赦が行われるものといたしますると、その恩赦の根本精神をよく把握いたしまして、なるべく委員長の仰せになりました趣旨に副いたいと存じております。なおこの際假出獄の活用の點について申し上げたいのであります。この假出獄は、私はぜひともうまく運用いたしたいという考えを前々からもつておるのであります。就任以來この制度の活用につきまして、司法當局では相當考慮いたしてきた次第であります。今後とも、あらゆる觀點から考えまして、この假出獄の制度の活用ということについて、十分な努力を拂いたいと考えております。殊に恩赦法施行とにらみ合わせまして、事情の許す限り假出獄の制度の活用ということを考慮いたしたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=22
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023・庄司一郎
○庄司委員長 なおこの際いま一點だけお伺いしたいと思います。受刑者をして眞に改過遷善の實をあげしむるためには、教誨師というような精神的の指導のお役人もございますが、直接受刑者に日夕當つておりますところの刑務官吏、あるいは看守諸君、これらの待遇は相當改善をしてもらわなければならないと考えております。新聞の報道によれば、刑務所看守の本俸及び諸手當の合計の平均は四百三十圓であると傳えられております。現下わが國官公吏中における最小限度の俸給生活者であるのが、看守諸君である。從つて看守の志願者も、その學識經驗においてきわめて程度が落ちております。一般の巡査諸君よりは、はなはだ遺憾ながら程度が落ちております。ぜひ素質のいい、相當の教養のある青年がこの刑務所官吏を志願することができ得るように、また一家の生活の安定をはかり得ることができるように、はなはだ惠まれておりません刑務所の下級官吏諸君のために、大臣におかれては一段と御考慮を願つて、彼らの待遇改善に處していただきたい。これによつて氣持よく受刑者のよき友となり、受刑者の指導者たり得るのであります。そういう點において、刑務所官吏のために一段と追加豫算その他の方法で御善處あらんことを希望してやまないのであります。この一點だけ御所見を承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=23
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024・木村篤太郎
○木村國務大臣 まつたく刑務官に對して御同情ある御意見を承りまして、私感謝にたえません。由來刑務官が物心兩方面において他の行政官に比べて非常に低位にあつたということは、私は率直に認めざるを得ないのであります。就任以來しばしばその聲を大にいたしまして、その改善を私は叫んでおつたのであります。さいわいにして漸次改善されてまいりました。なお全般にわたりまする官吏の給與これとにらみ合わせまして、ただいまその點についての改善策を考究中であります。もつとも今お説にありましたように、刑務官は、いわゆる一たび刑を犯した人でありますが、これを善良なる國民の一員として國家に役立たさせることを目ざして、晝夜働く貴い職に當つておる人であります。この人たちに對して、物心兩方面から大いに報いなくてはならぬということは、國家としては當然のことであります。司法當局の一員といたしまして、私は將來ともそれらの生活改善については、全力を注ぎたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=24
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025・庄司一郎
○庄司委員長 了承いたしました。ほかに委員各位におかれまして、ただいま司法大臣は豫算總會竝びに裁判所法案等の委員會にもお出ましの關係上、時間がございませんけれども、簡單な御質問ならば結構だと思います。御發言の御希望の方は、この際恩赦法に絡んで御發言しかるべしと考えるのでございます。どなたか御發言の方はありませんか——それではほかにないようでありますから、恩赦法に關する質疑は大體この程度で打切つてよろしうございましようか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=25
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026・庄司一郎
○庄司委員長 滿場御異議がないようでございますから、これで一應打切ります。なお各派の政務調査會、幹部會、代議士會等におはかり下さいまして、明日午前中の本委員會において討論を終結したいと思います。さよう御諒承を願つておきます。それでは恩赦法關係はこれで一應終りました。
さらに本委員會に付託されておる統計法案に關しまして、これを議題として討論に移りたいと思います。この討論に入る前に、氏原委員より一つの試案として附帶決議を提出されております。その内容を全文御參考のために朗讀いたします。
統計の改善發達のためには統計制度の刷新機構の擴充を急速に實現することが特に重大であるので、政府はこの點に遺憾なきを期せられたい
午前中に申し上げましたように、大體この附帶決議を附することに、各派とも御贊成を願うことができますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=26
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027・今井はつ
○今井(は)委員 それは各派の共同提案としていただきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=27
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028・庄司一郎
○庄司委員長 これは先程申し上げたように、所屬は社會黨の氏原一郎委員の提案でございますが、ここに提出後本委員會全體の成案となるわけであります。そのことは先例上御承知の通りでございます。それでは氏原委員の御案をそのまま本委員會の案として、御贊成をお願い申し上げたいと思います。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=28
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029・庄司一郎
○庄司委員長 滿場異議なく御贊成をいただきました。それではこれから討論に移ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=29
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030・今井はつ
○今井(は)委員 私は僭越ながら自由黨を代表して、本案に各派共同提案による附帶決議を附し、贊成をいたすものでありますが、一言本案實施につき希望を申し上げたいと存じます。
過日來先輩諸氏が盛んに論じられたことでございますが、日本には立派な憲法がありながら、その運用よろしきを得ず、今日塗炭の苦しみに陷りました事實に鑑みまして、國家經濟再建の指針となる本案は完全なものでありましても、その運用よろしきを得ずんば、ただ官僚の増員、國家無用の負擔となるのみでありまして、國家經濟の指針となるものではありません。本案のねらいは正確な統計にある。正確な統計は完全なる調査にあると存じます、完全な實地調査を行わず、机上の計算をなして統計々々というのは、あたかも木によつて魚を求めるようなものでありますから、正確な調査の實績をあげられ、戰時中の遺物の統制經濟の是正をなす指針として、一日も早く經濟再建を期せられんことを希望いたしまして、贊成の意を表します。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=30
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031・庄司一郎
○庄司委員長 丸山君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=31
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032・丸山修一郎
○丸山委員 從來わが國の統計は、正確度において非常に遺憾な點があつたことは、各委員から申された通りでありまして、今後この法案を實施するにあたつても、ただいま御發言があつた通り、その運營のよろしきを期せねばなりませんが、由來わが國統計の不正確というようなことの根源は、調査の方法、あるいは機構というよりも、もつと根本的に國民生活の中に科學性が滲透してない。そこに大きな根本原因がある。かように考えなければなりませんから、一面制度の上に機構を擴充すると同時に、永き將來にわたつて、日本國民生活に科學性を樹立するということを併進しなければ、最後まで正確なものは得られないということを懸念するものであります。よつて附帶決議のごとき趣旨において、また一面教育教化の面から國民の科學性を充實するという點にも政府は御努力せられんことを望んで、國民協同黨を代表して本案に贊成をするものであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=32
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033・庄司一郎
○庄司委員長 氏原君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=33
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034・氏原一郎
○氏原委員 私は日本社會黨を代表いたしまして、本案に對し、次の附帶決議を附して贊成の意を表したいと存じます。すなわち附帶決議は、統計の改善發達のためには、地方における統計制度の刷新、機構の擴充を急速に實現することが特に重要であるので、政府はこの點に遺憾なきを期せられたいというのであります。私のこの附帶決議を本法案に附しまするゆえんのものは、今囘の統計法の制定によりまして、中央における統計制度の刷新、機構の擴充ということは、一應完璧を期し得るかのごとくに考えられまするし、また同時に指定統計として指定されましたものにつきましては、同樣改善發達の跡を見ることができると思いまするけれども、地方における國家全體の統計の基礎となりまする、すなわち細胞となりまする地方における統計の制度は、數十年の昔からの機構、數十年前からの制度をそのままに承繼いでおりまして、まことにその間における改善の餘地が少いのであります。從いまして政府が統計法を公布いたしまして、その實施を見るに至りましても、基本となるべき地方統計の改善發達のために、適切妥當なるところの對策を立てませんければ、とうてい國家全體の統計が、ただいまも今井委員の仰せられましたように、日本經濟再建のための基礎的條件としての、大量的數量觀察の數字を求めることは、不可能であろうと存じます。これらの意味におきまして、私どもはただいま申し上げました附帶決議を附して、原案に贊成をいたしたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=34
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035・庄司一郎
○庄司委員長 森山君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=35
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036・森山ヨネ
○森山委員 ただいまの御説明の附帶決議を付しまして、全面的に贊成をいたしたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=36
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037・庄司一郎
○庄司委員長 それでは討論はこれにて終局いたしました。これより採決をいたします。原案に贊成の諸君は御起立を願います。
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=37
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038・庄司一郎
○庄司委員長 起立總員。よつて本案は原案通り可決いたしました。
次に委員氏原一郎君より提出されました御承知の通りの附帶決議を採決いたします。この附帶決議に贊成の諸君の御起立を求めます。
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=38
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039・庄司一郎
○庄司委員長 起立總員、よつてこの附帶決議もまた決定いたしました。
この際お諮り申し上げます。恩赦法案關係の討論等は、先ほど申し上げたように、明日までに各派の委員各位が各派と御協議の上、それぞれ御意見をお持寄り願うことにいたしたいと思います。なお本委員會に併託になつております罹災救助法の一部改正の法律案でございますが、これはまだ政府委員も來ておらず、また參考の關係書類も來ておりません。よつて暫時休憩の上、厚生省に要求をいたして政府委員はもちろんのこと、關係書類等を取寄せてから始めましようか、あるいはこれらを明日に讓りましようか——ちよつと御參考のために申し上げます。
厚生省から今日はどうしても都合が惡いので、明日にして欲しいというような申出でがあつたそうでございます。それではいかがでございましようか、本日はこれで散會いたしまして、明日はやはり午前十時にこの席で、續行したいと思いますが、さように御諒承を願えますか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=39
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040・庄司一郎
○庄司委員長 それでは本日はこれで散會いたします。
午後二時五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212758X00319470314&spkNum=40
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