1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十二年三月六日(木曜日)
午後二時三十八分開議
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議事日程 第十二號
昭和二十二年三月六日
午後一時開議
第一 勞働基準法案(政府提出) 第一讀會
第二 華族世襲財産法を廢止する法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第三 請願法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第四 會計法等の特例に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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〔朗讀を省略した報告〕
一、政府から提出された議案は次の通りである。
労働基準法案
(以上三月四日提出)
罹災救助基金法の一部を改正する法律案
(以上三月五日提出)
一、議員から提出された議案は次の通りである。
南海震災救援促進決議案
提出者
山口喜久一郎君 氏原一郎君
福田繁芳君 岡田勢一君
寺尾豊君 水谷長三郎君
關谷勝利君 早川崇君
三木武夫君
製紙原料輸入懇請に關する決議案
提出者
布利秋君 村上勇君
地崎宇三郎君 鈴木義男君
矢野庄太郎君 大宮伍三郎君
岡田勢一君
洞海灣を第一種重要港灣(國營港)に移管に關する建議案
提出者
岡部得三君 長尾達生君
古賀喜太郎君
久慈川改修速進に關する建議案
提出者
武藤常介君 加藤高藏君
教育會の第二封鎖預金解除に關する建議案
提出者 仲子隆君
省營自動車運轉開設に關する建議案
提出者 仲子隆君
茨城縣西茨城郡大池田村福田地内國有林伐採に關する建議案
提出者 菊池豐君
(以上三月四日提出)
選擧革正決議案
提出者 尾崎行雄君
標準式ローマ字採用に關する決議案
提出者
笠井重治君 米窪滿亮君
北れい吉君 三木武夫君
犬養健君 笹森順造君
國道第六號線完全改修に關する建議案
提出者
河原田巖君 宮原庄助君
加藤高藏君
常設自衞會結成に關する建議案
提出者
河原田巖君 宮原庄助君
加藤高藏君
茨城縣下漁港の築港及び改良に關する建議案
提出者
河原田巖君 宮原庄助君
加藤高藏君
常磐線上野水戸間電化實施に關する建議案
提出者
河原田巖君 宮原庄助君
加藤高藏君
小樽經濟專門學校の商科大學昇格に關する建議案
提出者
苫米地英俊君 岡田春夫君
椎熊三郎君
(以上三月五日提出)
一、昨五日議長において撤囘を許可した議案は次の通りである。
選擧革正決議案
提出者 笠井重治君
(以上三月五日提出)
一、去る四日吉田内閣總理大臣から次の通り政府委員を仰せつけられた旨の通牒を受領した。
外務政務次官 本田英作
外務參與官 原健三郎
第九十二囘帝國議會外務省所管事務政府委員
内務政務次官 林連
内務參與官 水田三喜男
第九十二囘帝國議會内務省所管事務政府委員
大藏政務次官 北村徳太郎
第九十二囘帝國議會大藏省所管事務政府委員
司法政務次官 北浦圭太郎
司法參與官 吉田安
第九十二囘帝國議會司法省所管事務政府委員
文部政務次官 青木孝義
文部參與官 川崎秀二
第九十二囘帝國議會文部省所管事務政府委員
厚生政務次官 小笠原八十美
厚生參與官 寺島隆太郎
第九十二囘帝國議會厚生省所管事務政府委員
農林政務次官 森幸太郎
農林參與官 本間俊一
第九十二囘帝國議會農林省所管事務政府委員
商工政務次官 保利茂
商工參與官 鈴木仙八
第九十二囘帝國議會商工省所管事務政府委員
運輸政務次官 逢澤寛
第九十二囘帝國議會運輸省所管事務政府委員
遞信參與官 坪川信三
第九十二囘帝國議會遞信省所管事務政府委員
内閣事務官 田上辰雄
第九十二囘帝國議會政府委員
厚生事務官 寺本廣作
第九十二囘帝國議會厚生省所管事務政府委員
一、去る四日議長において次の通り常任委員辭任の許可があつた。
第一部選出豫算委員 青木孝義君
第八部選出豫算委員 保利茂君
第九部選出豫算委員 森幸太郎君
一、去る四日常任委員補闕選擧の結果次の通り當選した。
第三部選出
豫算委員 北れい吉君(加藤一雄君補闕)
第七部選出
豫算委員 中崎敏君(西村榮一君補闕)
一、去る四日議長において次の委員を選定した。
參議院議員選擧法の一部を改正する法律案(政府提出)外一件委員
川西清君 寺尾豊君
本多花子君 松川昌藏君
三浦寅之助君 横田清藏君
天野久君 江部順治君
大久保傳藏君 松岡運君
早稻田柳右ェ門君 菊地養之輔君
鈴木義男君 原彪之助君
森三樹二君 香川兼吉君
森由己雄君 大津桂一君
一、昨五日吉田内閣總理大臣から次の通り政府委員を仰せつけられた旨の通牒を受領した。
内閣事務官 椙杜正太郎
經濟安定本部第三部長 勝賀瀬質
經濟安定本部第四部長 北岡壽逸
第九十二囘帝國議會政府委員
内務事務官 林敬三
同 田中楢一
同 久山秀雄
北海道廳長官 岡田包義
第九十二囘帝國議會内務省所管事務政府委員
一、昨五日衆議院規則第十五條但書に依り議長において議席を次の通り變更した。
一七六 服部岩吉君
二二五 山村新治郡君
二三八 辻寛一君
二四六 小此木歌治君
二四八 古島義英君
二五〇 花村四郎君
二五六 益谷秀次君
二六一 殿田孝次君
二六二 鈴木仙八君
二六三 青木孝義君
二六四 水田三喜男君
二六六 森幸太郎君
二六七 本田英作君
二六八 小笠原八十美君
一、昨五日議長において次の通り常任委員辭任の許可があつた。
第五部選出豫算委員 坂田道太君
一、昨五日常任委員補闕選擧の結果次の通り當選した。
第一部選出
豫算委員 夏堀源三郎君(青木孝義君補闕)
第八部選出
豫算委員 寺田榮吉君(足利茂君補闕)
第九部選出
豫算委員 綿貫佐民君(森幸太郎君補闕)
一、昨五日常任委員理事補闕選擧の結果次の通り當選した。
豫算委員
理事 夏堀源三郎君(理事青木孝義君去る四日委員辭任につきその補闕)
理事 寺田榮吉君(理事保利茂君去る四日委員辭任につきその補闕)
一、去る五日委員長理事互選の結果次の通り當選した。
参議院議員選挙法の一部を改正する法律案(政府提出)外一件委員
委員長 松川昌藏君
理事
横田清藏君 早稻田柳右ェ門君
菊地養之輔君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=0
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001・山崎猛
○議長(山崎猛君) これより會議を開きます。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=1
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002・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 議事日程變更の緊急動議を提出いたします。すなわち、この際日程第二及び第三を繰上げ一括上程し、その審議を進められんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=2
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003・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=3
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004・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて日程の順序は變更せられました。
日程第二、華族世襲財産法を廢止する法律案、日程第三、請願法案、右兩案を一括して第一讀會の續を開きます。委員長の報告を求めます。委員長武藤嘉一君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=4
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005・会議録情報2
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第二 華族世襲財産法を廃止する法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第三 請願法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
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報告書
一 華族世襲財産法を廃止する法律案(政府提出、貴族院送付)
右は本院において可決すべきものと議決した因つてここに報告する。
昭和二十二年三月三日
委員長 武藤嘉一
衆議院議長山崎猛殿
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報告書
一、請願法案(政府提出、貴族院送付)右は本院において可決すべきものと議決した因つてここに報告する。
昭和二十二年三月三日
委員長 武藤嘉一
衆議院議長山崎猛殿
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〔武藤嘉一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=5
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006・武藤嘉一
○武藤嘉一君 私はただいま上程されました華族世襲財産法を廢止する法律案及び請願法案の二法案の委員會の報告をいたします。
華族世襲財産法は、大正五年法律第四十五號をもつて規定せられたものでありまして、華族がその家の家格を維持する一種の家産法であります。華族は宮内大臣の許可を得て、その家寶、不動産及び有價證券たる國債、社債及び記名株式に對して、これを世襲財産として設定し、その讓渡、抵當權の設定等の處分を禁じ、またはこれを民法の強制執行、差押をなし得ないことに規定したのであります。從つて世襲財産として公告されますれば、その財産は家督相續人のみが繼承することとなり、第三者に對して對抗することができるのであります。しかしてこの世襲財産の廢止は、宮内大臣の許可を要するのであります。
新憲法は、第十四條におきまして、すべての國民は法のもとに平等であり、社會的身分または門地により差別されない。華族の制度は認めない、と規定したのであります。日本が新しく民主主義の發達強化をはかるために、本法のごとき、華族にのみ屬する特權は廢止すべきであります。また實際華族の財産の全部が世襲財産に設定されておるのではありません。ただその一部のみなのであります。この法案によつて、華族はすべて財産の移動及び消滅に對して、宮内大臣に屆出の義務がありまするので、かえつて煩雜であり、束縛があつたのであります。五月三日新憲法が實施せられまするとともに、國民平等の民主主義に則りまして、民法の例外規定でありますところの、この華族世襲財産法の廢止されるのは、當然と申さなければならぬのであります。これが憲法改正に伴いまする一連の法案として、廢止法案が上程された理由であります。
次に、付託されておりました請願法は、明治憲法の第三十條におきまして、臣民は相當の敬禮を守り、別に定むるところの規定により請願をなすことを得と規定し、またその五十條において、帝國議會は臣民より提出するところの請願書を受くることを得と規定しております。
請願法の歴史をひもといてみまするときに、この法は、文明國民として各國の國民が尊重すべきところの基本的人權でありまして、そのよつて來るところはきわめて古く、現在各國ともこれを憲法に明文化しておるのであります。まず最も古い證據は、一二一五年のイギリスの大憲章マグナカルタにその片鱗を示しておるのでありますが、降つて十七世紀になりますると、イギリスでは、請願の權利は裁判所において、人民の生れながらに有する權利――生得權、バース・ライトとして認められておりまするし、十八世紀におきましては、基本的人權の一つとして確認されております。アメリカ合衆國におきましては、その合衆國憲法の修正條項の第一條におきまして、人民は苦痛不平があれば、政府に對して請願をなし、その不平苦痛をやわらぐべきことを規定しておるのであります。主權者に對して、この請願というものがいかに重大なる國民の權利でありますかは、一七七六年のかの獨立宣言書の中に盛られております。すなわち合衆國にあるところの植民地の人々が、きわめて謙遜なる言葉を用いて、英國國王に對してしばしば嘆願をなしたにもかかわらず、英國國王はその請願を受付けず、あまつさえ、これに對して迫害をなしたるがゆえに、われわれは英國國王をここに暴君とも評すべきものであるといたしまして、やむを得ず植民地の人々は母國に對して獨立運動を起すの餘儀なきに至つたものであると叫んでおりまするのをみましても、請願の重要性を認めなくてはならぬのであります。
飜つてわが國におきましても、最近までは、大正六年の勅令三十七號をもつて請願令なる規定がありましたが、十分ではありません。過去におきまして、請願がいかに不便なものであり――日本の請願の歴史を振返つてみますときに、徳川時代のごときは基本的な人權はさらに認められず、請願をあえていたしましたところの、かの千葉縣の義人佐倉宗五郎のごときは、三百年後の今日、本人が神に祭られ、あるいはその哀史は、戯曲佐倉義民傳において人口に膾炙しておるのをみてもわかるのであります。もちろんこう申しましたからというて、請願にも程度がありまするし、またそれは平穩のうちに行われなければならぬのでありまして、イギリスにおきましても、憲章黨の運動、チヤーチストの運動が一八三九年に行われましたときには、請願者の數は百二十萬、またその請願の卷物は三マイルの長さに達したと申しまするし、また一八四八年におきまするところのイギリスにおける議會に對する請願書は、實に六百萬人の署名をもつておつたと申しまするが、眞實はただ二百萬人であつたといわれておるのであります。また請願を口實といたしまして、多數の者が議會に對して示威運動をなすのは、これも程度がありまして、イギリスの議會におきましても、一八一八年におきましては、議會のウエストミンスター・ホールの一マイル以内の所においては、請願のために會合を催してはならないというておるのであります。また北米合衆國におきましても、奴隷解放運動のきわめて熾烈でありましたときにおきましては。この請願法は一時停止をみたのであります。
今わが國の過去の請願令を振返つてみますると、あまりにも形式主義に陷り、人民の聲を十分聽くを得なくなつておつたのであります。たとえば相當の敬禮を守らなければならない。そうしなければ却下するとか、秩序風俗を亂るところの文字を用いてはならないとか、端正鮮明なるところの文字を用いなければならないとか、かりに請願をしても指令を與えないとか、請願に關して官公署の職員に強いて面會を求めたところの者は、二月以内の禁錮または五十圓以下の……。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=6
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007・山崎猛
○議長(山崎猛君) 武藤君、委員長の報告は、委員會の經過竝びに結果について御報告を願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=7
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008・武藤嘉一
○武藤嘉一君(續) 本委員會は十八名の委員に付託、前後二囘の會議において政府の説明があり、質疑に入りましたところ、社會黨の淺沼稻次郎君より、請願法に關し、中央行政官廳法案及び官吏法案の提出促進の適切なる質問がありまして、金森國務大臣より懇切丁寧なる説明がありました。採決に入りましたが、各黨とも反對はなく、自由黨は磯崎貞序君、社會黨は淺沼稻次郎君、國民黨は田中たつ君、協同民主黨は大橋喜美君の贊成がありまして、滿場一致原案通り可決いたしました。謹んで委員長として御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=8
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009・山崎猛
○議長(山崎猛君) 兩案の第二讀會を開くに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=9
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010・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて兩案の第二讀會を開くに決しました。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=10
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011・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 直ちに兩案の第二讀會を開き、第三讀會を省略して委員長報告通り可決せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=11
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012・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=12
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013・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて直ちに兩案の第二讀會を開き、議案全部を議題といたします。
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華族世襲財産法を廢止する法律案 第二讀會(確定議)
請願法案 第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=13
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014・山崎猛
○議長(山崎猛君) 別に御發議もありません。第三讀會を省略して、兩案とも委員長報告通り可決確定いたしました。(拍手)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=14
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015・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 議事日程變更の緊急動議を提出いたします。すなはちこの際日程第四を繰上げ上程し、その審議を進められんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=15
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016・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=16
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017・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて日程の順序は變更せられました。
日程第四、会計法等の特例に関する法律案の第一讀會の續を開きます。委員長の報告を求めます。委員長武藤常介君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=17
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018・会議録情報3
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第四 会計法等の特例に関する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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報告書
一 会計法等の特例に関する法律案右は本院において可決すべきものと議決した因つてここに報告する。
昭和二十二年三月五日
委員長 武藤常介
衆議院議長山崎猛殿
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〔武藤常介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=18
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019・武藤常介
○武藤常介君 ただいま議題となりました會計法等の特例に關する法律案の委員會の經過竝びに結果の御報告をいたします。
本委員會は、去る一日議長より指名されました十八名の委員によりまして、三日に委員長竝びに理事の互選を行いまして、理事には田中實司君、青木清左ヱ門君、松永義雄君、委員長には不肖私が當選いたしました。會議は一昨日と昨日の二日にわたりまして、きわめて愼重審議を重ねたのであります。
本案は、從來非常に複雜多岐にわたつておりました豫算編成の形式を明確化する目的をもつて、政府より提出されたのであります。從つて質疑應答も、限られた範圍内において行われました。ここに二、三その内容を御紹介申し上げます。その他は速記録によつて御承知を願いたいと存じます。
質問の第一は、政府は特別會計におけるところの歳入歳出豫算は、同年度の總豫算とともに提出する必要を認めないというのでありまするが、歳入を一般會計に仰ぐところの特別會計においては、いかなる編成をするやとの質問に對しまして、政府委員より、第三項は本年度限りのまつたく異例な處置であり、今後こういうことは極力避けるようにするという答辯がございました。
さらに一つの豫算の經費が、あちらにもこちらにも少しずつ出ているようなこの豫算編成の方法は、われわれ議員が實際豫算を審議するにあたりまして非常に迷惑をする、あの編成方法は今後一掃されたいという問いに對しましては、今年は時間の關係でやや御趣旨に副わない點があるが、今後は必ず滿足されるようになるとの答えがありました。
また各省の分課規程の變更を考慮せるやとの質問に對しまして、今のところそこまでは考えていないが、農業關係なら農業のある經費になるべく一本にまとめる、但しその使用は農林省で使うこともあるし、また内務省で使うこともあるというふうにしたいとの答辯があつたのであります。
そのほか、官吏の綱紀肅正その他の意味から、豫算はなるべく小さく一定のわくの中に入れてはどうであるかとの質問に對しまして、政府より、今後は支拂いの都度認證を行う制度を考えている旨の答辯があつたのであります。
かようにして討論にはいりまして、自由黨を代表せる小川原政信君、進歩黨を代表の太田秋之助君から、それぞれ原案贊成の意見が述べられ、社會黨代表の稻村順三君よりは、各省各部別に豫算を簡素化するとともに、これからは支出についても嚴重に監督の屆くようにしてほしい、また事業會計以外の豫算は、できるだけ一般會計に入れるべきである、また本年度の特別會計豫算を速やかに提出せられたいとの希望がありました。この希望意見を附しまして、贊成の御意見があつたのであります。また協同民主黨の川越博君、國民黨の伊藤幸太郎君、兩君とも同樣の意見を述べられまして、原案に贊成の意を表せられたのでございます。しこうして採決の結果、滿場一致をもつて原案の通り可決いたされました。
以上のような次第でございます。はなはだ簡單でございまするが、これをもつて報告といたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=19
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020・山崎猛
○議長(山崎猛君) 本案の第二讀會を開くに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=20
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021・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて本案の第二讀會を開くに決しました。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=21
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022・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 直ちに本案の第二讀會を開き、第三讀會を省略して、委員長報告通り可決せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=22
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023・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=23
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024・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて直ちに本案の第二讀會を開き、議案全部を議題といたします。
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会計法等の特例に関する法律案 第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=24
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025・山崎猛
○議長(山崎猛君) 別に御發議もありません。第三讀會を省略して、委員長報告通り可決確定いたしました。(拍手)
日程第一、勞働基準法案の第一讀會を開きます。厚生大臣河合良成君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=25
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026・会議録情報4
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第一 労働基準法案(政府提出) 第一讀會
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労働基準法案
労働基準法目次
第一章 総則
第二章 労働契約
第三章 賃金
第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
第五章 安全及び衞生
第六章 女子及び年少者
第七章 技能者の養成
第八章 災害補償
第九章 就業規則
第十章 寄宿舍
第十一章 監督機関
第十二章 雜則
第十三章 罰則
労働其準法
第一章 総則
(労働條件の原則)
第一條 労働條件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
この法律で定める労働條件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働條件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
(労働條件の決定)
第二條 労働條件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各各その義務を履行しなければならない。
(均等待遇)
第三條 使用者は、労働者の國籍、信條又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働條件について、差別的取扱をしてはならない。
(男女同一賃金の原則)
第四條 使用者は、労働者が女子であることを理由として、賃金について、男子と差別的取扱をしてはならない。
(強制労働の禁止)
第五條 使用者は暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
(中間搾取の排除)
第六條 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就 業に介入して利益を得てはならない。
(公民権行使の保障)
第七條 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
(適用事業の範囲)
第八條 この法律は、左の各号の一に該当する事業又は事務所について適用する。但し、同居の親族のみを使用する事業若しくは事務所又は家事使用人については適用しない。
一 物の製造、改造、加工、修理淨洗、選別、包装、装飾、仕上、販賣のためにする仕立、破壞若しくは解体又は材料の変造の事業(電氣、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは傳導の事業及び水道の事業を含む。)
二 鉱業、砂鉱業、石切業その他土石又は鉱物採取の事業
三 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壞、解体又はその準備の事業
四 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
五 船きよ、船舶、岸壁、波止場停車場又は倉庫における貨物の取扱の事業
六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他の農林の事業
七 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
八 物品の販賣、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
九 金融、保險、媒介、周旋、集金、案内又は廣告の事業
十 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
十一 郵便、電信又は電話の事業
十二 教育、研究又は調査の事業
十三 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衞生の事業
十四 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯樂場の事業
十五 燒却、清掃又は、と殺の事業
十六 前各号に該当しない官公署
十七 その他命令で定める事業又は事務所
(定義)
第九條 この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、前條の事業又は事務所(以下事業という。)に使用される者で、賃金を支拂われる者をいう。
第十條 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行爲をするすべての者をいう。
第十一條 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞與その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支拂うすべてのものをいう。
第十二條 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支拂われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。但し、その金額は、左の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出來高拂制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二 賃金の一部が、日、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。
前二項に規定する期間中に、左の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。
一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
二 産前産後の女子が第六十五條の規定によつて休業した期間
三 使用者の責に帰すべき事由によつて休業した期間
四 試の使用期間
第一項の賃金の総額には、臨時に支拂われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支拂われる賃金並びに通貨以外のもので支拂われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
賃金が通貨以外のもので支拂われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評價に関し必要な事項は、命令で定める。
雇入後三箇月に滿たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。
日日雇い入れられる者については、その從事する事業又は職業について、労働に関する主務大臣の定める金額を平均賃金とする。
第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、労働に関する主務大臣の定めるところによる。
第二章 労働契約
(この法律違反の契約)
第十三條 この法律で定める基準に達しない労働條件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
(契約期間)
第十四條 労働契約は、期間の定のないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものの外は、一年を超える期間について締結してはならない。
(労働條件の明示)
第十五條 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働條件を明示しなければならない。
前項の規定によつて明示された労働條件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
(賠償予定の禁止)
第十六條 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
(前借金相殺の禁止)
第十七條 使用者は、前借金その他労働することを條件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
(強制貯金)
第十八條 使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、保管及び返還の方法を定めて行政官廳の認可を受けなければならない。
(解雇制限)
第十九條 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間竝びに産前産後の女子が第六十五條の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。但し、使用者が、第八十一條の規定によつて打切補償を支拂う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
前項但書後段の場合においては、その事由について行政官廳の認定を受けなければならない。
(解雇の予告)
第二十條 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支拂わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支拂つた場合においては、その日数を短縮することができる。
前條第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一條 前條の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
(使用証明)
第二十二條 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位及び賃金について証明書を請求した場合においては、使用者は、遲滯なくこれを交付しなければならない。
前項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
使用者は、予め第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の國籍、信條、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。
(金品の返還)
第二十三條 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支拂い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
前項の賃金又は金品に関して爭がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支拂い、又は返還しなければならない。
第三章 賃金
(賃金の支拂)
第二十四條 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支拂わなければならない。但し、法令又は労働協約に別段の定がある場合においては、賃金の一部を控除し、又は通貨以外のもので支拂うことができる。
賃金は、毎月一囘以上、一定の期日を定めて支拂わなければならない。但し、臨時に支拂われる賃金、賞與その他これに準ずるもので命令で定める賃金については、この限りでない。
(非常時拂)
第二十五條 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他命令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支拂期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支拂わなければならない。
(休業手当)
第二十六條 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支拂わなければならない。
(出來高拂制の保障給)
第二十七條 出來高拂制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に應じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
(最低賃金)
第二十八條 行政官廳は、必要であると認める場合においては、一定の事業又は職業に從事する労働者について最低賃金を定めることができる。
第二十九條 最低賃金に関する事項を審議させるために、中央賃金委員会及び地方賃金委員会を置く。
賃金委員会には、必要に應じ、一定の事業又は職業について專門委員会を置くことができる。
賃金委員会の委員は、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者について、行政官廳が各各同数を委嘱する。但し、労働者を代表する者及び使用者を代表する者は、関係者の推薦に基いて委嘱する。
この法律で定めるものの外、賃金委員会に関し必要な事項は、命令で定める。
第三十條 行政官廳が最低賃金を定めようとする場合においては、予め賃金委員会の調査及び意見を求めなければならない。
前項の場合、賃金委員会は、一定の事業又は職業に從事する労働者の最低賃金額についての意見を、行政官廳に提出しなければならない。
行政官廳は、前項の意見について公聽会を開いた後に、賃金委員会及び公聽会の意見に基いて、最低賃金を定めなければならない。
賃金委員会は、必要であると認める場合においては、賃金に関する事項について行政官廳に建議することができる。 地方行政官廳が最低賃金を定めようとする場合においては、前三項の規定による手続を経た後に、労働に関する主務大臣の承認を受けなければならない。
第三十一條 最低賃金が定められた場合においては、使用者は、その金額に達しない賃金で労働者を使用してはならない。但し、左の場合においては、この限りでない。
一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低位な者について、行政官廳の認定を受けた場合
二 労働者の都合により所定労働時間に満たない時間の労働をした場合
三 試の使用期間中の者又は所定労働時間の特に短い者について、行政官廳の許可を受けた場合
第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
(労働時間)
第三十二條 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間、一週間について四十八時間を超えて、労働させてはならない。
使用者は、就業規則その他により、四週間を平均し一週間の労働時間が四十八時間を超えない定をした場合においては、その定めにより前項の規定にかかわらず、特定の日において八時間又は特定の週において四十八時間を超えて、労働させることができる。
第三十三條 災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官廳の許可を受けて、その必要の限度において前條又は第四十條の労働時間を延長することができる。但し、事態急迫のために行政官廳の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滯なく届け出なければならない。
前項但書の規定による届出があつた場合において、行政官廳がその労働時間の延長を不適当と認める場合においては、その後にその延長時間に相当する休憩又は休日を與えるべきことを、命ずることができる。
公務のために臨時の必要がある場合においては、第一項の規定にかかわらず、第八條第十六号の事業に從事する官吏、公吏その他の公務員については、前條若しくは第四十條の労働時間を延長し、又は第三十五條の休日に労働させることができる。
(休憩)
第三十四條 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に與えなければならない。
前項の休憩時間は、一せいに與えなければならない。但し、行政官廳の許可を受けた場合においては、この限りでない。
使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。(休日)
第三十五條 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一囘の休日を與えなければならない。
前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を與える使用者については適用しない。
(時間外及び休日の労働)
第三十六條 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官廳に届け出た場合においては、第三十二條若しくは第四十條の労働時間又は前條の休日に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。但し、坑内労働その他命令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七條 使用者が、第三十三條若しくは前條の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合又は午後十時から午前五時(労働に関する主務大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの間において労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支拂わなければならない。
前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他命令で定める賃金は算入しない。
(時間計算)
第三十八條 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
坑内労働については、労働者が坑口に入つた時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす。但し、この場合においては、第三十四條第二項及び第三項の休憩に関する規定は適用しない。
(年次有給休暇)
第三十九條 使用者は、一年間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に對して、継続し、又は分割した六労働日の有給休暇を與えなければならない。
使用者は、二年以上継続勤務した労働者に対しては、一年を超える継続勤務年数一年について、前項の休暇に一労働日を加算した有給休暇を與えなければならない。但し、この場合において総日数が二十日を超える場合においては、その超える日数については有給休暇を與えることを要しない。
使用者は、前二項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に與えるとともに、その期間について平均賃金を支拂わなければならない。但し、請求された時季に有給休暇を與えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを與えることができる。
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び産前産後の女子が第六十五條の規定によつて休業した期間は、第一項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。
(労働時間及び休憩の特例)
第四十條 第八條第四号、第五号及び第八号乃至第十七号の事業で、公衆の不便を避けるために必要なものその他特殊の必要あるものについては、その必要避くべからざる限度で、第三十二條の労働時間及び第三十四條の休憩に関する規定について、命令で別段の定をすることができる。
前項の規定による別段の定は、この法律で定める基準に近いものであつて、労働者の健康及び福祉を害しないものでなければならない。
(適用の除外)
第四十一條 この章及び第六章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 第八條第六号又は第七号の事業に從事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に從事する者で使用者が行政官廳の許可を受けた者
第五章 安全及び衞生
(危害の防止)
第四十二條 使用者は、機械、器具その他の設備、原料若しくは材料又はガス、蒸氣、粉じん等による危害を防止するために、必要な措置を講じなければならない。
第四十三條 使用者は、労働者を就業させる建設物及びその附属建設物について、換氣、採光、照明、保温、防濕、休養、避難及び清潔に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持に必要な措置を講じなければならない。
第四十四條 労働者は、危害防止のために必要な事項を遵守しなければならない。
第四十五條 使用者が第四十二條及び第四十三條の規定によつて講ずべき措置の基準及び労働者が前條の規定によつて遵守すべき事項は、命令で定める。
(安全装置)
第四十六條 危險な作業を必要とする機械及び器具は、必要な規格又は安全装置を具備しなければ、讓渡し、貸與し、又は設置してはならない。
特に危險な作業を必要とする機械及び器具は、予め行政官廳の認可を受けなければ、製造し、変更し、又は設置してはならない。
前二項の機械及び器具の種類、必要な規格及び具備すべき安全装置は、命令で定める。
(性能檢査)
第四十七條 前條第二項の機械及び器具は、認可を受けた後、命令で定める期間を経過した場合においては、行政官廳の行う性能檢査に合格したものでなければ使用してはならない。
前項の性能檢査は、同項の行政官廳の外、労働に関する主務大臣が指定する他の者に行わせることができる。
(有害物の製造禁止)
第四十八條 黄りんマツチその他命令で定める有害物は、これを製造し、販賣し、輸入し、又は販賣の目的で所持してはならない。
(危險業務の就業制限)
第四十九條 使用者は、経驗のない労働者に、運轉中の機械又は動力傳導装置の危險な部分の掃除、注油、檢査又は修繕をさせ、運轉中の機械又は動力傳導装置に調帶又は調索の取付又は取外をさせ、動力による起重機の運轉をさせその他危險な業務に就かせてはならない。
使用者は、必要な技能を有しない者を特に危險な業務に就かせてはならない。
前二項の業務の範囲、経驗及び技能は、命令で定める。
(安全衞生教育)
第五十條 使用者は、労働者を雇い入れた場合においては、その労働者に對して、当該業務に関し必要な安全及び衞生のための教育を施さなければならない。
(病者の就業禁止)
第五十一條 使用者は、傳染性の疾病、精神病又は労働のために病勢が増惡するおそれのある疾病にかかつた者については、就業を禁止しなければならない。
前項の規定によつて就業を禁止すべき疾病の種類及び程度は、命令で定める。
(健康診断)
第五十二條 一定の事業については、使用者は、労働者の雇入の際及び定期に、医師に労働者の健康診断をさせなければならない。
使用者の指定した医師の診断を受けることを希望しない労働者は、他の医師の健康診断を求めて、その結果を証明する書面を使用者に提出しなければならない。
使用者は、前二項の健康診断の結果に基いて、就業の場所又は業務の轉換、労働時間の短縮その他労働者の健康の保持に必要な措置を講じなければならない。
第一項の事業の種類及び規模竝びに定期の健康診断の囘数は、命令で定める。
(安全管理者及び衞生管理者)
第五十三條 一定の事業については、使用者は安全管理者及び衞生管理者を選任しなければならない。
前項の事業の種類及び規模竝びに安全管理者及び衞生管理者の資格及び職務に関する事項は、命令で定める。
行政官廳が必要であると認める場合においては、使用者に對して、安全管理者及び衞生管理者の増員又は解任を命ずることができる。
(監督上の行政措置)
第五十四條 使用者は、常時十人以上の労働者を就業させる事業、命令で定める危險な事業又は衞生上有害な事業の建設物、寄宿舍その他の附属建設物又は設備を設置し、移轉し、又は変更しようとする場合においては、第四十五條又は第九十六條の規定に基いて発する命令で定める危害防止等に関する基準に則り定めた計画を、工事著手十四日前までに、行政官廳に届け出なければならない。
行政官廳は、労働者の安全及び衞生に必要であると認める場合においては、工事の著手を差し止め、又は計画の変更を命ずることができる。
第五十五條 労働者を就業させる事業の建設物、寄宿舍その他の附属建設物若しくは設備又は原料若しくは材料が、安全及び衞生に関し定められた基準に反する場合においは、行政官廳ては、使用者に対して、その全部又は一部の使用の停止、変更その他必要な事項を命ずることができる。
前項の場合において、行政官廳は、使用者に命じた事項について必要な事項を労働者に命ずることができる。
第六章 女子及び年少者
(最低年齢)
第五十六條 満十五才に満たない兒童は、労働者として使用してはならない。但し、満十四才以上の兒童で、命令で定める義務教育の課程又はこれと同等以上と認める課程を修了した者については、この限りでない。
前項の規定にかかわらず、第八條第六号乃至第十七号の事業に係る職業で、兒重の健康及び福祉に有害でなく、且つその労働が軽易なものについては、行政官廳の許可を受けて、満十二才以上の兒童をその者の修学時間外に使用することができる。但し、映画の製作又は演劇の事業については、満十二才に満たない兒童についても同樣である。
(年少者の証明書)
第五十七條 使用者は、満十八才に満たない者について、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならない。
使用者は、前條第二項の規定によつて使用する兒童については、修学に差し支えないことを証明する学校長の証明書及び親権者又は後見人の同意書を事業場に備え付けなければならない。
(未成年者の労働契約)
第五十八條 親権者又は後見人は、未成年者に代つて労働契約を締結してはならない。
親権者若しくは後見人又は行政官廳は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、將來に向つてこれを解除することができる。
第五十九條 未成年者は、独立して賃金を請求することができる。親権者又は後見人は、未成年者の賃金を代つて受け取つてはならない。
(年少者の労働時間及び休日)
第六十條 第三十二條第二項、第三十六條及び第四十條の規定は、満十八才に満たない者については、これを適用しない。
第五十六條第二項の規定によつて使用する兒童については、第三十二條第一項の労働時間は、修学時間を通算して、一日について七時間、一週間について四十二時間とする。
使用者は、第三十二條第一項の規定にかかわらず、満十五才以上(第五十六條第一項但書に規定する満十四才以上を含む。)で満十八才に満たない者については、一週間の労働時間が四十八時間を超えない限り、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合においては、他の日の労働時間を十時間まで延長することができる。
(女子の労働時間及び休日)
第六十一條 使用者は、満十八才以上の女子については、第三十六條の協定による場合においても、一日について二時間、一週間について六時間、一年について百五十時間を超えて時間外労働をさせ、又は休日に労働させてはならない。
(深夜業)
第六十二條 使用者は、満十八才に満たない者又は女子を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。但し、交替制によつて使用する満十六才以上の男子については、この限りでない。
労働に関する主務大臣は、必要であると認める場合においては、前項の時刻を、地域又は期間を限つて、午後十一時及び午前六時とすることができる。
交替制によつて労働させる事業については、行政官廳の許可を受けて、第一項の規定にかかわらず午後十時三十分まで労働させ、又は前項の規定にかかわらず午前五時三十分から労働させることができる。
前三項の規定は、第三十三條第一項の規定によつて労働時間を延長する場合又は第八條第六号、第七号、第十三号、第十四号及び電話の事業については、これを適用しない。但し、第十四号の事業に使用される満十八才に満たない者については、この限りでない。
第一項及び第二項の時刻は、第五十六條第二項本文の規定によつて使用する兒童については、第一項の時刻は、午後八時及び午前五時とし、第二項の時刻は、午後九時及び午前六時とする。
(危險有害業務の就業制限)
第六十三條 使用者は、満十八才に満たない者又は女子を第四十九條の規定による危險な業務に就かせ、又は命令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならない。
使用者は、満十八才に満たない者を、毒劇藥、毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性、発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務、著しくじんあい若しくは粉末を飛散し、若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全、衞生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない。
前項の規定は、同項に規定する業務中一定のものについて、命令で満十八才以上の女子に、これを準用することができる。
第二項に規定する業務の範囲及び前項の一定の業務の範囲は、命令で定める。
(坑内労働の禁止)
第六十四條 使用者は、満十八才に満たない者又は女子を坑内で労働させてはならない。
(産前産後)
第六十五條 使用者は、六週間以内に出産する予定の女子が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
使用者は、産後六週間を経過しない女子を就業させてはならない。但し、産後五週間を経過した女子が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
使用者は、妊娠中の女子が請求した場合においては、他の軽易な業務に轉換させなければならない。
(育兒時間)
第六十六條 生後満一年に達しない生兒を育てる女子は、第三十四條の休憩時間の外、一日二回各各少くとも三十分、その生兒を育てるための時間を請求することができる。
使用者は、前項の育兒時間中は、その女子を使用してはならない。
(生理休暇)
第六十七條 使用者は、生理日の就業が著しく困難な女子又は生理に有害な業務に從事する女子が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない。
前項の業務の範囲は、命令で定める。
(帰郷旅費)
第六十八條 満十八才に満たない者又は女子が解雇の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。但し、満十八才に満たない者又は女子がその責に帰すべき事由に基いて解雇され、使用者がその事由について行政官廳の認定を受けたときは、この限りでない。
第七章 技能者の養成
(徒弟の弊害排除)
第六十九條 使用者は、徒弟、見習、養成工その他名称の如何を問わず、技能の習得を目的とする者であることを理由として、労働者を酷使してはならない。
使用者は、技能の習得を目的とする労働者を家事その他技能の習得に関係のない作業に從事させてはならない。
(技能者の養成)
第七十條 長期の教習を必要とする特定の技能者を労働の過程において養成するために必要がある場合においては、その教習方法、使用者の資格、契約期間、労働時間及び貸金に関する規程は、命令で定める。
前項の規定に基いて発する命令においては、その必要の限度で、第十四條の契約期間、第二十四條の賃金の支拂、第三十一條の最低賃金竝びに第四十九條及び第六十三條の危險有害業務の就業制限に関する規定について、別段の定をすることができる。
第七十一條 使用者は、前條の規定に基いて発する命令によつて労働者を使用しようとする場合においては、予めその員数、教習方法、契約期間、労働時間竝びに賃金の基準及び支拂の方法を定めて行政官廳の認可を受けなければならない。
使用者が前項の規定による認可に基いて労働者を雇い入れた場合においては、行政官廳に届け出て、技能を習得する者であることの証明書の交付を受け、これを事業場に備え付けなければならない。
第七十二條 前二條の規定の適用を受ける未成年者については、第三十九條第一項の規定による年次有給休暇として、十二労働日を與えなければならない。
第七十三條 第七十條及び第七十一條の規定の適用を受ける労働者を使用する使用者がその資格を失い、又は認可の條件に反した場合においては、行政官廳は、第七十一條の認可を取り消すことができる。
第七十四條 第七十條の規定に基いて発する命令は、技能者養成委員会に諮問してこれを定める。
技能者養成委員会の委員は、関係ある労働者を代表する者、関係ある使用者を代表する者及び公益を代表する者について、労働に関する主務大臣が各各同数を委嘱する。
前二項に定めるものの外、技能者養成委員会に関し必要な事項は、命令で定める。
第八章 災害補償
(療養補償)
第七十五條 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、命令で定める。
(休業補償)
第七十六條 労働者が前條の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。
(障害補償)
第七十七條 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、なおつたとき身体に障害が存する場合においては、使用者は、その障害の程度に應じて、平均賃金に別表第一に定める日数を乘じて得た金額の障害補償を行わなければならない。
(休業補償及び障害補償の例外)
第七十八條 労働者が重大な過失によつて業務上負傷し、又は疾病にかかり、且つ使用者がその過失について行政官廳の認定を受けた場合においては、休業補償又は障害補償を行わなくてもよい。
(遺族補償)
第七十九條 労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族又は労働者の死亡当時その收入によつて生計を維持した者に対して、平均賃金の千日分の遺族補償を行わなければならない。
(葬祭料)
第八十條 労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、葬祭を行う者に対して、平均賃金の六十日分の葬祭料を支拂わなければならない。
(打切補償)
第八十一條 第七十五條の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
(分割補償)
第八十二條 使用者は、支拂能力のあることを証明し、補償を受けるべき者の同意を得た場合においては、第七十七條又は第七十九條の規定による補償に替え、平均賃金に別表第二に定める日数を乘じて得た金額を、六年にわたり毎年補償することができる。
(補償を受ける権利)
第八十三條 補償を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない。
補償を受ける権利は、これを讓渡し、又は差し押えてはならない。
(他の法律との関係)
第八十四條 補償を受けるべき者が、同一の事由について、労働者災害補償保險法によつてこの法律の災害補償に相当する保險給付を受けるべき場合においては、その價額の限度において、使用者は、補償の責を免れ、又は命令で指定する法令に基いてこの法律の災害補償に相当する給付を受けるべき場合においては、使用者は補償の責を免れる。
使用者は、この法律による補償を行つた場合においては、同一の事由については、その價額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。
(審査及び仲裁)
第八十五條 業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、補償金額の決定その他補償の実施に関して異議のある者は、行政官廳に対して、審査又は事件の仲裁を請求することができる。
行政官廳は、必要があると認める場合においては、職権で審査又は事件の仲裁をすることができる。
行政官廳は、審査又は仲裁のために必要であると認める場合においては、医師に診断又は檢案をさせることができる。
第一項の規定による審査又は仲裁の請求及び第二項の規定による審査又は仲裁の開始は、時効の中断に関しては、これを裁判上の請求とみなす。
(労働者災害補償審査委員会)
第八十六條 前條の規定による審査及び仲裁の結果に不服のある者は、労働者災害補償審査委員会の審査又は仲裁を請求することができる。
この法律による災害補償に関する事項について、民事訴訟を提起するには、労働者災害補償審査委員会の審査又は仲裁を経なけれぱならない。
労働者災害補償審査委員会の委員は、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者について、行政官廳が各各同数を委嘱する。
前三項に定めるものの外、労働者災害補償審査委員会に関し必要な事項は、命令で定める。
(請負事業に関する例外)
第八十七條 事業が数次の請負によつて行われる場合においては、災害補償については、その元請負人を使用者とみなす。
前項の場合、元請負人が書面による契約で下請負人に補償を引き受けさせた場合においては、その下請負人もまた使用者とする。但し、二以上の下請負人に、同一の事業について重複して補償を引き受けさせてはならない。
前項の場合、元請負人が補償の請求を受けた場合においては、補償を引き受けた下請負人に対して、まづ催告すべきことを請求することができる。但し、その下請負人が破産の宣告を受け、又は行方が知れない場合においては、この限りでない。
(補償に関する細目)
第八十八條 この章に定めるものの外、補償に関する細目は、命令で定める。
第九章 就業規則
(作成及び届出の義務)
第八十九條 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、左の事項について就業規則を作成し、行政官廳に届け出なければならない。これを変更した場合においても同樣である。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時轉換に関する事項
二 賃金の決定、計算及び支拂の方法、賃金の締切及び支拂の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項
四 退職手当その他の手当、賞與及び最低賃金額の定をする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定をする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衞生に関する定をする場合においては、これに関する事項
七 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定をする場合においては、これに関する事項
八 表彰及び制裁の定をする場合においては、その種類及び程度に関する事項
九 前各号の外、当該事業場の労働者のすべてに適用される定をする場合においては、これに関する事項
使用者は、必要がある場合においては、賃金、安全及び衞生又は災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項については、各各別に規定を定めることができる。
(作成の手続)
第九十條 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聽かなければならない。
使用者は、前條第一項の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添附しなければならない。
(制裁規定の制限)
第九十一條 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一囘の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支拂期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
(法令及び労働協約との関係)
第九十二條 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
行政官廳は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
(効力)
第九十三條 就業規則で定める基準に達しない労働條件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となつた部分は、就業規則で定める基準による。
第十章 寄宿舍
(寄宿舍生活の自治)
第九十四條 使用者は、事業の附属寄宿舍に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない。
使用者は、寮長、室長その他寄宿舍生活の自治に必要な役員の選任に干渉してはならない。
(寄宿舍生活の秩序)
第九十五條 事業の附属寄宿舍に労働者を寄宿させる使用者は、左の事項について寄宿舍規則を作成し、労行政官廳に届け出なければならない。これを変更した場合においても同樣である。
一 起床、就寝、外出及び外泊に関する事項
二 行事に関する事項
三 食事に関する事項
四 安全及び衞生に関する事項
五 建設物及び設備の管理に関する事項
使用者は、前項第一号乃至第四号の事項に関する規定の作成又は変更については、寄宿舍に寄宿する労働者の過半数を代表する者の同意を得なければならない。
使用者は、第一項の規定により届出をなすについて、前項の同意を証明する書面を添附しなければならない。
使用者及び寄宿舍に寄宿する労働者は、寄宿舍規則を遵守しなければならない。
(寄宿舍の設備及び安全衞生)
第九十六條 使用者は、事業の附属寄宿舍について、換氣、採光、照明、保温、防濕、清潔、避難、定員の收容、就寢に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持に必要な措置を講じなければならない。
使用者が前項の規定によつて講ずべき措置の基準は、命令で定める。
第十一章 監督機関
(監督組織)
第九十七條 この法律を施行するために、労働に関する主務省に労働基準局を、各都道府縣に都道府縣労働基準局を、各都道府縣管内に労働基準監督署を置く。
労働に関する主務大臣が必要であると認める場合においては、数箇の都道府縣労働基準局を管轄する地方労働局を置くことができる。
地方労働局、都道府縣労働基準局及び労働基準監督署は、労働に関する主務大臣の直接の管理に属する。
労働基準局の職員の定員並びに地方労働局、都道府縣労働基準局及び労働基準監督署の位置、名称、管轄区域及び職員の定員は、命令で定める。
第九十八條 この法律の施行及び改正に関する事項を審議するため、労働に関する主務省及び都道府縣労働基準局に労働基準委員会を置く。
労働基準委員会は、労働に関する主務大臣及び都道府縣労働基準局長の諮問に應ずるの外、労働條件の基準に関して関係行政官廳に建議することができる。
労働基準委員会の委員は、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者について、行政官廳が各各同数を委嘱する。
前三項に定めるものの外、労働基準委員会に関し必要な事項は、命令で定める。
第九十九條 労働基準局、地方労働局、都道府縣労働基準局及び労働基準監督署に労働基準監督官を置くの外、命令で定める必要な職員を置くことができる。
労働基準局長、地方労働局長、都道府縣労働基準局長及び労働基準監督署長は、労働基準監督官を以てこれに充てる。
労働基準監督官の資格及び任免に関する事項は、命令で定める。
労働基準監督官を罷免するには、命令で定める労働基準監督官分限委員会の同意を必要とする。
第百條 労働基準局長は、労働に関する主務大臣の指揮監督を受けて、地方労働局長及び都道府縣労働基準局長を指揮監督し、労働基準に関する法令の制定改廃、労働基準監督官の任免教養、監督方法についての規程の制定及び調整、監督年報の作成、労働基準委員会、中央賃金委員会、技能者養成委員会及び労働基準監督官分限委員会に関する事項その他この法律の施行に関する事項を掌り、所属の官吏を指揮監督する。
地方労働局長は、労働基準局長の指揮監督を受けて、管内の都道府縣労働基準局長を指揮監督し、監督方法の調整に関する事項を掌り、所属の官吏を指揮監督する。
都道府縣労働基準局長は、労働基準局長又は地方労働局長の指揮監督を受けて、管内の労働基準監督署長を指揮監督し、監督方法の調整、労働基準委員会、地方賃金委員会及び労働者災害補償審査委員会に関する事項その他この法律の施行に関する事項を掌り、所属の官吏を指揮監督する。
労働基準監督署長は、都道府縣労働基準局長の指揮監督を受けて、この法律に基く臨檢、尋問、許可、認可、認定、審査、仲裁その他この法律の実施に関する事項を掌り、所属の官吏を指揮監督する。
労働基準局長、地方労働局長及び都道府縣労働基準局長は、下級官廳の権限を自ら行い、又は所属の労働基準監督官をして行わせることができる。
(労働基準監督官の権限)
第百一條 労働基準監督官は、事業場、寄宿舍その他の附属建設物に臨檢し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
医師たる労働基準監督官は、就業の禁止をなすべき疾病にかかつた疑のある労働者の檢診をすることができる。
労働基準監督官は、製造を禁止された有害物の檢査に必要な分量に限つて、無償で製品の見本又は原料を收去することができる。
前三項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帶しなければならない。
第百二條 労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。
第百三條 労働者を就業させる事業の建設物、寄宿舍その他の附属建設物、設備、原料又は材料が、安全及び衞生に関して定められた基準に反し、且つ労働者に急迫した危險がある場合においては、労働基準監督官は、第五十五條の規定による行政官廳の権限を即時に行うことができる。
(監督機関に対する申告)
第百四條 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官廳又は労働基準監督官に申告することができる。
使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
(労働基準監督官の義務)
第百五條 労働基準監督官は、職務上知り得た秘密を漏してはならない。労働基準監督官を退官した後においても同樣である。
第十二章 雜則
(法令規則の周知義務)
第百六條 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令の要旨竝びに就業規則を、常時各作業場の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、労働者に周知させなければならない。
使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舍に関する規定及び寄宿舍規則を、寄宿舍の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舍に寄宿する労働者に周知させなければならない。
(労働者名簿)
第百七條 使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その命令で定める事項を記入しなければならない。
前項の規定により記入すべき事項に変更があつた場合においては、遅滞なく訂正しなければならない。
(賃金台張)
第百八條 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他命令で定める事項を賃金支拂の都度遅滯なく記入しなければならない。
(記録の保存)
第百九條 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。
(報告の義務)
第百十條 使用者又は労働者は、この法律の施行に関して、行政官廳又は労働基準監督官から要求のあつた場合においては、遅滯なく必要な事項について報告し、又は出頭しなければなない。
(無料証明)
第百十一條 労働者及び労働者になろうとする者は、その戸籍に関して戸籍事務を掌る者又はその代理者に対して、無料で証明を請求することができる。使用者が、労働者及び労働者になろうとする者の戸籍に関して証明を請求する場合においても同樣である。
(國及び公共團体についての適用)
第百十二條 この法律及びこの法律に基いて発する命令は、國、都道府縣、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする。
(命令の制定)
第百十三條 この法律に基いて発する命令は、その草案について、公聽会で労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者の意見を聽いて、これを制定する。
(附加金の支拂)
第百十四條 裁判所は、第二十條、第二十六條、第三十一條若しくは第三十七條の規定に違反した使用者又は第三十九條第三項の規定による平均賃金を支拂わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支拂わなければならない金額についての未拂金の外、これと同一額の附加金の支拂を命ずることができる。但し、この論求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。
(時効)
第百十五條 この法律の規定による賃金、災害補償その他の請求権は、二年間これを行わない場合においては、時効によつて消滅する。
(船員についての適用特例)
第百十六條 第一條乃至第十一條、第百十七條乃至第百十九條及び第百二十一條の規定を除くの外、この法律は、船員法による船員については、これを適用しない。
第十三章 罰則
第百十七條 第五條の規定に違反した者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二千円以上三万円以下の罰金に処する。
第百十八條 第六條、第四十八條、第五十六條又は第六十四條の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
第百十九條 左の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
一 第三條、第四條、第七條、第十六條、第十七條、第十八條第一項、第十九條、第二十條、第二十二條第三項、第三十一條、第三十二條、第三十四條、第三十五條、第三十六條但書、第三十七條、第三十九條、第四十二條、第四十三條、第四十六條、第四十七條、第四十九條、第五十一條、第六十條第二項若しくは第三項、第六十一條乃至第六十三條、第六十五條、第六十六條、第七十二條、第七十五條乃至第七十七條、第七十九條、第八十條、第九十四條第二項、第九十六條又は第百四條第二項の規定に違反した者
二 第三十三條第二項、第五十四條第二項又は第五十五條第一項の規定による命令に違反した者
三 第四十條の規定に基いて発する命令に違反した者
四 第七十一條第一項の規定により認可を受けた員数、教習方法、契約期間、労働時間竝びに賃金の基準及び支拂の方法に違反した者
第百二十條 左の各号の一に該当する者は、五千円以下の罰金に処する。
一 第十四條、第十五條第一項若しくは第三項、第二十二條第一項若しくは第二項、第二十三條乃至第二十七條、第三十三條第一項但書、第四十四條、第五十條、第五十二條第一項若しくは第二項、第五十三條第一項、第五十四條第一項、第五十七條乃至第五十九條、第六十七條、第六十八條、第七十一條第二項、第八十九條、第九十條第一項、第九十一條、第九十五條第一項若しくは第二項又は第百五條乃至第百九條の規定に違反した者
二 第十八條第二項の規定により認可を受けた保管及び返還の方法に違反した者
三 第五十三條第三項、第五十五條第二項又は第九十二條第二項の規定による命令に違反した者
四 第百一條の規定による労働基準監督官の臨檢、檢診若しくは收去を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚僞の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚僞の記載をした帳簿書類の提出をした者
五 第百十條の規定による行政官廳又は労働基準監督官の要求のあつた場合において、報告をせず、若しくは虚僞の報告をし、又は出頭しなかつた者
第百二十一條 この法律の違反行爲をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行爲した代理人、使用人その他の從業者である場合においては、事業主に対しても各本條の罰金刑を科する。但し、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者又は禁治産者である場合においてはその法定代理人を事業主とする。以上本條において同樣である。)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。
事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行爲を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行爲者として罰する。
附則
第百二十二條 この法律施行の期日は、勅令で、これを定める。
第百二十三條 工場法、工業労働者最低年齢法、労働者災害扶助法、商店法、黄燐燐寸製造禁止及び昭和十四年法律第八十七号は、これを廃止する。
第百二十四條 鉱業法の一部を次のように改正する。
第七十一條第二号、第六章及び第七十五條乃至第八十條ノ四を削除し、第九十七條第三号及び第四号を削る。
第百二十五條 砂鉱法の一部を次のように改正する。
第二十三條第一項中「第七十六條乃至第七十九條」を削り、同條第二頃を削る。
第百二十六條 労働組合法の一部を次のように改正する。
第三十二條 削除
第百二十七條 第十八條第二項、第四十九條、第五十七條、第六十條乃至第六十三條、第八十九條、第九十五條及び第百六條乃至第百八條の規定は、この法律施行の日から六箇月間は、これを適用しない。
旧法によつて禁止又は制限された事項で前項の規定に係るものについては、同項の期間中は、なほ從前の規定による。
第百二十八條 この法律施行の際、満十二才以上の兒童を使用する使用者が、引き続きその者を使用する場合においては、この法律施行の日から六箇月間は、その者については第五十六條の規定は、これを適用しない。
この法律施行の際、満十六才以上の男子を使用する使用者が、引き続きその者を使用する場合においては、この法律施行の日から一年間は、その者については第六十四條の規定は、これを適用しない。
第百二十九條 この法律施行前、労働者が業務上負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合における災害補償については、なお旧法の扶助に関する規定による。
第百三十條 この法律施行前(第百二十七條第二項の場合においては、同條第一項の期間を含む。)になした行爲に関する罰則の適用については、なお旧法による。
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〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=26
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027・河合良成
○國務大臣(河合良成君) ただいま議題となりました勞働基準法案の提案理由を説明いたします。
終戰以來、勞働組合法と勞働關係調整法の制定によりまして、わが國の勞働法制は漸次整備されてきたのでありまするが、これらの勞働法制は、勞働條件の決定を公正ならしめるため、いかなる方法をとるかの手段を規定するものでありまして、未だ勞働條件そのものの實體を規定する法律は制定されていないのであります。工場法、商店法、勞働者災害扶助法、工業勞働者最低年齡法等の從來の勞働保護法は、特定の勞働者を對象とし、特定の事項について斷片的に勞働條件の内容を規定しておるものでありますが、そのねらいは、女子及び年少者の保護、あるいは産業災害の犠牲者に對する生活の扶助ということが目的でありまして、全面的に勞働條件の基準を定めることを目的とした法律ではないのであります新憲法は、その第二十七條第二項において、「賃金、就業時間、休息その他の勤勞條件に關する基準は、法律でこれを定める。」と規定しております。およそ契約の自由が絶對の原則であるということを前提といたしますれば、勞働條件の決定は、團體協約によると個人契約によるとの別なく、勞働關係當事者の自由に任せらるべきでありまして、その關係は、勞働組合法と勞働關係調整法の規定する方法と範圍内においては、もつぱら力の問題として解決されることになるのでありますが、新憲法は、勞働條件については、かかる契約自由の原則を修正いたしまして、法律が勞働條件について一定の基準を設くべきことを義務づけておるのであります。
御承知のごとく、近時における勞働不安につきましては、その原因は一にして止まらぬのでありますが、もし勞働條件が勞働者の最低生活を保障するに足るものであるならば、かかる勞働不安の原因を解消するに貢獻するところ少からざるものがあると判斷されるのであります。政府は諸般の情勢と新憲法の趣旨に鑑み、ここに勞働基準法を作成し、本議會に提案することとなつたのであります。
この法案の作成にあたり、特に政府が考慮いたしました事項の第一點は、勞働條件の決定に關する基本原則を明らかにしたということであります。既に勞働條件について、契約自由の原則を修正いたしまして、國家が基準を決定する以上、その基本原則が定めらるべきは當然でありまするが、これを法律に明らかにすることによつて、勞資雙方にとつてその赴くべきところを示さんとするものであります。本法案第一條に、勞働條件の原則として、勞働條件は勞働者が人たるに値する生活を營むための必要を充たすべきものなることを規定し、以下勞働憲章的な規定を設けてあるのは、かかる趣旨に基くのであります。
第二點は、勞働關係に殘存いたしまする封建的遺制を一掃するということであります。勞働契約締結の結果として、勞働者、使用者の間において、使用という特別關係が設定せられるのは當然のことでありますが、かかる特別關係は、ややもすれば勞働關係の當事者間に、身分的な拘束關係を惹起しやすいのであります。いわゆる強制勞働に類するがごとき極端な事例はしばらくおくといたしますも、長期勞働契約、前借金、強制貯蓄、寄宿舍制度等の所産として現存しつつある封建的な遺制は、勞働條件の基準設定にあたつて、嚴にこれを一掃すべきものと考えるのであります。
第三點は、一九一九年以來の國際勞働會議で最低基準として採擇され、今日廣くわが國においても理解されておる八時間勞働制、週休制、年次有給休暇制のごとき、基本的な制度を一應の基準として、この法律の最低勞働條件を定めたことであります。戰前わが國の勞働條件が、他の文明國に劣つていたことは、國際的に顯著な事實でありました。敗戰の結果荒廢に歸せるわが國の産業は、その負擔力において著しく弱化しておることはいなめないのでありますが、政府としては、日本再建の重要なる役割を擔當する勤勞者に對して、國際的に是認されておる基本的な勞働條件を保障し、もつて勞働者の心からなる協力を期待しすることが、日本産業復興と、國際社會への復歸を促進するゆえんであると信ずるものであります。
今日の勞働情勢は、まことに憂うべきものがあります。今日までの政府の施策の必ずしも十分でなかつたことも、率直に認めねばならぬが、何分敗戰後の國情として、萬事意のごとくまいらぬ客觀的事態のあることも事實であります。また一方思想の轉換期において、勞働者がその權利の主張に急にして、義務と責任を怠り、規律と自覺に缺けたもののあつたという事實も、否定できないのであります。しかし一切の過去をして過去たらしめなくてはならぬ。今囘の勞働基準法の制定を機とし、勞働者も、經營者も、はたまた一般國民も、心氣一轉、お互いに兄弟として、手を携え、日本再建のため、日本民族の平和的發展のために起ち上られんことを希望してやまぬ次第であります。
以上のごとき理由と考慮とに基いて、政府は勞働基準法案を本議會に提案した次第であります。何とぞ御審議の上御協贊あらんことを希望いたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=27
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028・山崎猛
○議長(山崎猛君) 質疑の通告があります。順次これを許します。椎熊三郎君。
〔椎熊三郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=28
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029・椎熊三郎
○椎熊三郎君 私は日本進歩黨を代表いたしまして、ただいま上程されました勞働基準法に對しまして、簡單に率直に政府の所信を質したいと思います。
敗戰日本の經濟復興の要諦は、勞働と資本と經營とが、その國家社會における機能と責任とを明確に認識し、その調和のもとに、破壊的階級鬪爭を避けて、生産の増強、分配の公正をはかることにあり、しかもその具體的方策のすべては、國際平和の理想に相通じ、かつそれに貢獻するものでなければならないことは、つとにわが黨が天下に宣明してきたところであります。(拍手)
この見地に立脚して本案を檢討するとき、總則の規定、女子及び年少者の規定、勞働時間、休憩、休日及び休暇の規定を初めとして、社會正義を旨として、勞働者に、これを最低の基準と見る限り、ほぼ國際水準に達する勞働條件を保障しておるものと見てよろしいのであります。かつは今後の日本經濟を正しい方向において再建する基盤ともなり、また國際勞働規約にいう社會正義を基礎として、多數の人民に對する不正、困苦及び窮乏を伴う現今の勞働状態の大いなる不安の情勢を除去して、國際平和の確立に貢獻するゆえんともなることを考え、現下のわが國情において、この程度の法案をもち得たことに滿足の意を表するものであります。(拍手)
しかしながら敗戰の痛手をこうむつた日本經濟現今の状態は、この法案の實り多い結果を期待するためにも、諸種の條件を要請する現實と、過去における勞働保護立法の實施の經驗から見て、この種の立法はいかに理想的な法文を列ねても、ときの政府、あるいは事業主、あるいは勞働者それ自身において、法を生かす工夫と誠意と力に缺くる場合があるならば、これは空文に化してしまうのであります。私どもは過去におけるこの歴史的事實に鑑みて、以下數點にわたつて政府の所信を質したいのであります。
まず第一に、この法案の實施が日本經濟の再建のあり方に關係しておるということであります。すなわち本法案の畫期的意義の實現は、かつての日本の大陸政策を基盤とする海外市場の獲得、廉價勞働、飢餓輸出の一つの線の再現に止めを刺すということ、これを根本の理念として、産業の破壞、賠償、補償の打切り等の客觀的惡條件のもとにおいて、日本經濟の復興が合理的なる一定の軌道に乘せられることを條件とするものであることを信じて疑わないのであります。
インフレーシヨンの激化、縮小再生産、經濟の破局の幻影が、多かれ少かれ人心の動向に影響を及ぼし、それが國民經濟に現わされる相貌については、政府も篤と御承知のことと思う。資本ないし經營の側においても、失われた自信からの正しい立ち直りの態勢が整わず、新しい時代の合理性に目ざめた良心的な活動は、未だ影を潛めておるのであります。勞働の側においても、大衆は激化の一途をたどる惡性インフレーシヨンの奔濤のさ中に、生存を維持する努力に精一ぱいで、勞働意欲は未だ積極的な表現を見ておらないと私は思う。しこうして賃金鬪爭の目的を達したときには、もはや物價がそれを追い越して、新しい鬪爭を必要とする現状において、勞働不安は限りを知らないのであります。自己の活動にゆがめられた熱意を持ち、その結果に滿足を感じている者は、ひとりやみ商人だけだといつても過言ではございますまい。これ惡貨は良貨を驅逐しておる日本の現實である、すべては勞働基準法以前と申すのほかはないのであります。かかる状態のままでは、この法案が實施されても、その畫期的意義の完全なる實現は期待できないことを、私は憂慮するものであります。
このような日本の現實、すなはち經濟の復興、生産の再開に關する主體的條件の欠缺の事實は、何に起因するものであるかと申しますると、その根本は、客觀的條件の複雜性、解決の困難性、從つて先行きの見透しのまつたく立たないことにあるのでありまして、政府は速やかに勞資の組織化された意見を聽き、經濟復興の計畫を樹立し、國民の輿論に問い、その十分なる納得を得て、國民經濟の運行を合理的な軌道の上に乘せ、資本經營、勞働の正しい活動意欲を高揚すべきであると私は思うのであります。(拍手)この點に關し、經濟安定本部長官の御意見を承りたいのですが、本日は豫算總會のため大藏大臣が見えられない。新任政務次官は就任早々ではございましようが、篤と政府部内御相談の上、この點について明確なる御答辯を煩わしたい。
第二に、この法案の第八條に定める適用範圍は、あらゆる産業に及び、事業場の規模の制限に關し、同居の親族のみを使用する事業を除外するだけに止まり、第八十九條によると、就業規則の作成強制も、十人以上使用の規模にまで規定が嚴格に低下せられておるのであります。中小産業に、既往及び現在のままで、このままでこの法案の實施がもしなされるとならば、この種企業にとつて、きわめて困難な事態が發生するであろうことは、火を見るより明らかであります。從來の中小産業のいわゆる強みは、申すまでもなく低勞銀、長時間勞働、封建的な徒弟制度等にあつたのでありますが、これらの産業が、從來の半封建的勞働體制を一擲して、本案の定めるような内容を實現していく能力が、はたして今日の中小産業にあるでありましようか。現在の中小産業は、勞働條件の引上げを度外視いたしましても、資金關係、原資材關係、技術關係等の隘路は、深刻をきわめておるのであります。終戰後の今日、大産業の隷屬的存在として浮び上るということも許されない事情にあり、その復興育成は多事多難と申さなければなりません。
しかし從來の半封建的な勞働體制は、前に申し述べましたる經濟復興の根本理念から申しまして、絶對に許されません。ここに中小産業は、經營それ自體の面からと、勞働の面からと、雙方から挾撃を受けて、このままでは復興どころか、存續さえも許されないのではなかろうかと杞憂せられるのであります。しかも國民經濟の上から見るならば、巨大産業は撤去整備せられ、中小産業に對する依存の度合は、從前に比し著しく重大化しておるのでありまして、經濟の復興の骨組みも、基礎産業は別として、多くは中小産業を基礎として形成せられねばならぬという、わが國の必至の情勢下におきましては、中小産業の正しき復興育成の成否は、まことに重大と申さなければなりません。この問題も結局は、合理的な經濟復興の計畫の中に編みこまなければならぬのでありまするが、技術の積極的導入、新時代に即した合理的經營、あるいは協同組合方式などの實現が、當面の急務であると考えられるのでありますが、政府當局といたしましては、行政技術的な面において、いかに工夫をなさんとするのでありましようか。特に商工大臣のこの點に關する御意見を承りたいのであります。
第三は、この法案の第二十八條以下に最低賃金の規定があるのでありまするが、おそらく將來經濟の安定期において、適正の最低賃金を確立するための根據として用意するもので、現下の惡性インフレーシヨンのもとにおける不安定状態においては、最低賃金の確立は困難でもあり、かつ社會的價値も不足であると私は思います。現在勞動爭議の經濟要求の最大の重點がここに向けられておるのでありますが、要求まる側も、要求される側も、この問題に關する限り、妥協のための合理的な基準を發見することが困難であり、勞働委員會等においても、非常に苦勞しておられるということを私は聞いております。そのために爭議は長期化し、頻度は増す現状に鑑み、この點から經濟復興の計畫を速やかに樹立せられなければ、賃金政策もその中に大きく考えられるのでなければ、勞資雙方納得するような決定を與えることができないと私は思われるのであります。すなわちこの間におきまして、社會情勢をほんとうに安定せしめるところの偉大なる、畫期的なる政府の決意に基くところの大方針を確立して實施するにあらずんば、この賃金の問題も、結局は空文に終るのではなからうかと私は憂うるのであります。
第四に、この法案の第四條には、男女同一賃金の原則を規定してあるのであります。第六章には、女子の勞働時間、深夜業の禁止、産前産後、哺育時間、生理休暇等詳細に規定されておりますが、男女の同權、女子の生理的特質に基く特別の權利が保障されておるということは、まことに畫期的な法文でございます。しかしながらこれは今日の状態、不完全なる社會設備の前においてこのことをなしても、實效をあげることはできないと思う。たとえば女子が男子と同樣なる完全勞働、ほんとうに熱意をこめた勞働をせんといたしましても、かくのごとき規定があつたといたしましても、社會設備において託兒所の設備もなければ、あるいは保險制度も完備しておらぬという状態であるならば、この法文はむしろ女子の勞働者をして、この法文あるがゆえに、かえつて苦痛の生活を味わしめるがごとき状態が釀されぬとも限らぬ。すなわち使用者は、かくのごとき條件下における女子の雇傭ということを囘避するの傾向に出るでございましよう。
あるいはまた炭坑内における女子の勞働を禁止しておるという結果は、現實九州方面においてはもはや支障を來しておるのであります。九州三池を中心とするところの炭坑内における女子勞働者の現状は、長い傳統にも基くものではございますけれども、この女子入坑の状況は、必ずしも客觀的に見るがごとく、それ自體勞務者自身が苦痛を感じておるものでもなかつたような節もあるのでありまして、中には夫婦共かせぎのごとき状態で、日々あの坑内に活動しておつたという事實もある。しかしかくのごとき法律の下に、ことごとく制限せらるるにおいては、現在の社會情勢の、このままの状態では、女子はかえつてこの法律のために不便なる状況に置かれるということを、一點杞憂せざるを得ないのであります。
すなわち國家の手によつてかくのごとき社會情勢を整備するの必要がある。休暇に對する手當等についても、社會保險等の裏づけなくしては――女子の勞働者に對するこのような特殊の社會設備の裏づけなくしては、勞働能率を高揚することができないと私は思うのであります。この點に關しまして、殊にこの法案の原案作成以來今日に至るまで非常に苦心せられましたる厚生大臣は、目下の國内情勢と照らし合わして、この點に對していかなる御所見をもつておらるるかを明確にしていただきたいのであります。
第五に、この法案の第八章には、災害補償のことが規定せられておるのであります。けれどもこれは老廢遺族保險、失業保險等を含むところの廣汎なる社會保險制度の確立があつて、初めてこの權利が十分に保障せられることは論をまたないのであります。ことに療養の問題に至りましては、今日の療養所の實情はいかがでありましようか。結核療養所その他かくのごとき類似のものは多數あるようではございますけれども、この實情はまことに不完備であります。しかもこれを擔當するところの醫者、その他これに從事する職員等の勞働者に對する態度は、いかにも封建的で、いかにもこの治療その他に對する親切さを缺いております。こういう状態では、勞働者というものは安心して勞働に從事することができない。(拍手)すなわち、かくのごとき状態を改めずして、法文のみに花を飾つても、それは常に死法に終るであろうことを私は杞憂するのであります。
第六には、この法案の第十一章は、監督機關のことを規定しておるのであります。もとよりこの法案實施の上において、相當の監督機關を必要とすることは論をまたない。しかしながら舊來の勞働保護法、その他による過去の事實から見まする時分に、この勞働者階級に對する監督機關なるものは、常に勞働者の味方ではなかつた。これは官僚の味方ないしは資本家の味方でございましようか。常に壓迫せらるるものは勞働者であつた。しかもこの監督官は、いずれもその性格において、行動において、頽廢的である。しかも經驗が不足である。しかもうぬぼれ過ぎている。獨善過ぎている。こういうものが、この法案の上における監督官として存在するならば、むしろこの法案の美點長所を缺如せしめるがごとき結果に終るであろうことを、私は憂えるのであります。(拍手)
すなわちこの際この監督官なるものを養成するにおいては、國家は十分なる用意がなければならぬ。殊に國家財政當局におきましては、この種財政方針に對しては、舊來どうしても熱意を捧げない。形式一片に終つております。そのためにこれらの人員はまことに貧困でございまして、かえつて勞働者を救うにあらずして、勞働者を苦しめるの結果に至つたことは、歴史の明らかに示すところなのであります。よつて私はこの監督機關または諮問委員會の機能等に對しても、この法案を實施せんとする政府當局においては、十分注意いたしまして、思い切つた豫算をこの分に振り向けまして、そうして監督官を十分なる訓練の下に置き、そして中央地方を通じ、監督計畫というもの、あるいは調査方針というものを十分に確立いたしまして、人員等においても十分なるお手配を煩わしたいと私は考えるのであります。(拍手)また國際勞働憲章の趣旨に則りまして、この監督機關には、ぜひとも相當數の婦人監督官を入れるべきであることを、私は特にこの際主張したいのであります。(拍手)
第七には、この法案は官公吏にも適用の範圍が及んでいるのでありますが、勞働組合法、勞調法、それに本法案と、勞働關係の法案は一通りこれで揃つたような形になつて、官公吏の地位は、ほぼこの法案の前には確定を見るかのごとき觀を呈しているのでありますが、一方官吏法というものについては、新時代に即したる何らの改善もあつたと聞かないのであります。抽象的に、今日の官吏は公僕の觀念をもつているという。過去における官吏は、天皇の官吏なりと稱して、われわれ人民を窓口においてしかり飛ばした。彼らは、かつて政黨華やかなりし時代には政黨に阿附迎合し、結託して種々なるおもしろからぬ事實を釀し、軍閥一たび擡頭すれば、これに頭を垂れて、ほとんど軍閥と結託いたしまして、今日まで一般大衆を壓迫迫害した罪、まことに算うるにいとまなきものがあるのであります。(拍手)しこうして新時代となりまして、民主主義運動が盛んになりまするや、いち早く勞働組合などを結成いたしました。これも結構だが、これを指導する一部の者の中には、はなはだけしからぬ者どももいると聞くのであります。
諸君、最近各役所等を訪問してみまするときに、ある役所では、役所の一室を勞働組合が占據いたして、それに役所の職員で組合の幹部と稱する者でございましようか、役所の仕事は一切せず、朝から晩までこの役所の一室に閉じこもつて、勞働運動に沒頭しております。あれは一體この官吏の服務規定の上からよろしいのでございましようか。總理大臣がいたら伺いたいと思う。また勞働運動のために、官廳における統制というものは、私は官紀紊亂、廢頽したのじやないかと思われる。(「その通り」拍手)
先日吉田總理大臣が、ちよつとの間農林大臣になられた。役所に初登廳したときに、玄關先から大臣室に至るまで、廊下、道路のないまでに赤旗を立てて、まるで自分の上長官、大臣を迫害するがごとき状態である。(拍手)敗戰の將軍でも侮辱的に迎えるがごとき状態をして、あの若い官吏達は、みずからの農林大臣を迎えた。あの光景は何であるか。これで一體官紀の振肅、綱紀の肅正を保てるのでございましようか。大臣の監督權、官吏の命令權、そういうものは一體この組合に對しては及ぶことができないのでありましようか。總理大臣がおられないならば、他の大臣からでも、この點に對する政府の今後の信念を私は聽いておきたい。(拍手)
すなわちこの法案と官吏法との關連において、政府はいかなる所信をもつて、今後みづから使つておる、人民のための公僕たる官吏に對して、どのような態度で臨むのか。官吏自體も、今まで天皇の官吏だと自負誇張しておつたのに、一體公僕とは抽象的な言葉であるが、どうしようというのか。ほんとうの信念を總理大臣は部下の官吏に教えておるのだろうか。この際日本民主化のために、吉田總理大臣は、ほんとうの公僕たる官吏をつくるために、官吏訓などと稱するものでもつくつてみたらどうだろうか。そうして官吏というものを、ほんとうにわれわれ人民の公僕たる官吏に養成していつてもらわなければ、私どもは安心して國家の政務をこれらに任しておくことができないのであります。
私は最後に、この法案上程とこの質疑に關聯いたしまして、二・一ゼネストの問題についてお伺いしたい。適當な方からお答え願いたいのですが、このゼネストは、政府の熱意ある行動によつて停止したのでもない。あるいはまた國民の民主的なる考え方によつてこれが收まつたのでもない。マツカーサー司令官の聲明によつて、ともかくも事態は破局に至らずして收まつたかのごとき状態を呈した。私は敗戰日本今日の國情から見て、これがゼネストに入らなかつたことを、祖國のために慶びにたえない。しかし一部この運動を指導した――それはほんの一部でしよう。少數ではありましようが、指導者の中には、はなはだけしからぬ者がある。(拍手)マツカーサー元帥の聲明が出ても、この聲明は一體何だという。われわれ敗戰國の日本人は、ポツダム宣言というものは最高至上の命令だ、これは遵奉しなければならぬが、――これは諸君何であるか。かくのごとき指令はおそらく君たちだろう。(「ノーノー」)この指導者の多くは、君らのような共産主義者がやつておる。
ところで私は…
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=29
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030・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=30
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031・椎熊三郎
○椎熊三郎君(續) 今この組合運動を指導しておるところの青年行動隊というものは一體何だ。それは徳田球一君指導するところの共産主義者じやないか。それを證據立てるものは何か。彼ら青年行動隊なるものの手に持つておるものは、諸君が命よりも大事な赤旗である。赤旗を手にしておる以上は、これは共産主義者と言われても、何とも言うことはできますまい。私はこの指令の事實をも知つておりまするが、あえて共産黨と申さなくとも、この爭議の指導者の一部の中には、國家をこのどさくさ紛れに混亂に陷れ、あえて國情を紊亂せしめて、混亂の中に彼らの政治的野望を達せんとした不逞の行動があつたということを…(發言する者多く、聽取不能)
そこで思い起す。――思い起す。本年の一月一日、吉田總理大臣は、この勞働組合運動指導者の一部の中に不逞の徒輩があつたということを言つて、天下の物議を釀した。これは實に容易ならぬ言葉なんです。そこで私どもも、そういうものがあつては、日本勞働運動界のためにこれは遺憾なことであると思つたが、今私が指摘したようなことが事實現われてきてみると、一月一日の、吉田總理大臣が、一部不逞の徒輩によつてというあの言葉も、思い當る節があるのであります。(拍手)
かくのごとくしてわれわれは、敗戰後何とかして國内の對立抗爭をなくして、ほんとうに祖國のために皆が手を握り合つて、この敗戰の状況から起ち上つて、ほんとうに正しい民主主義の國家をつくろうとしておるときに、これとは逆行して、なお國家を惑亂せしめ、そうして何か政治的の野望によつて、一擧に流血的な革命をもいとわぬがごとき氣勢を示す少數のやからがあることを、私は國家のために遺憾に思うのであります。(拍手)共産主義の理論も大變立派なものだそうでして、それはいい所もあるのだそうです。ただ私は今日の日本の政治を運營していく上において、主義の爭いではないと思う。現實の問題である。ともかくもわれわれは、今日の經濟危局を突破して、ほんとうにお互いが食つていけるような社會になつて、日本を一日も早く獨立國家にしなければならぬ。そうでなければだめなんです。そのためには、われわれはこの議會を通じても、聯立内閣をさえもつくろうとした。新黨をつくろうともした。時ならずして、ことごとく意には滿ちませんが、それでも私どもはなおその意欲を棄てない。願わくば、同僚ことごとくが超黨派的觀念になつて、救國の熱意の前に、私どもは相携えて國家のために貢獻したいと思う。(拍手)
私は共産主義の方々が、この勞働組合指導のために幾多の方法を講じておる、その熱心さには敬意を表しますけれども、そのやり方におきましては、徳田君いかに抗辯するといえども、事實がかくのごとく暴露されるに至りましては、一部の不逞のやからによつて、この爭議が運營せられたということも否みがたき事實であると思う。(拍手、發言する者多し)社會黨の諸君といえども、この點は認めざるを得ないと私は思うのであります。
そこで私は、私の意見を交えつつ論旨はここまで行つたんだが、一體政府は、この二・一ゼネストを契機として、いかなることを考えておるか。大體政府においても、勞働問題に對してはやや認識が不足しておる。熱意が足りない。ほんとうに身をもつて勞働者の中に飛びこんで行つて、彼らの不平不滿、あるいは訴うるところを親切に取上げて、眞に彼らと手を結んで問題を解決せんとするところの積極性が、この内閣には足りなかつた。なぜ總理大臣みずから、なぜ厚生大臣あるいは運輸大臣、遞信大臣みずからが飛びこんで、この人々の言うことを親切丁寧に聽いてやらぬか。
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=31
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032・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=32
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033・椎熊三郎
○椎熊三郎君(續) ここに政府當局者のはなはだ力の及ばざりし點があつたと思うのであります。今日以後、勞働運動に認識なくしては、政局を擔當するの資格はないと思う。この點において二・一ゼネスト問題について、その後の經過等についても、明らかにこの際この場において、所信を披瀝せられんことを私は期待する。
また今日の日本の勞働者は、國内においても民主主義運動を徹底せしめ、國際的にも國際勞働連盟等に加入したいという熱意をもつておる。そして勞働運動指導者の中には、一日も早くこの國際的の連合に加盟して、日本の勞働者の地位を向上せしめたいと念願しておる者がある。時も時、この敗戰の日本に、國際勞働連合から、訪日の團體が參るということが新聞に傳えられて、非常に日本の勞働者は喜びました。しかるに最近に至りましてこのことが中止になつたという。實に日本の勞働者にとつては殘念至極のことである。これには何らかしさいがあるに違いない。その點に關して、政府當局においてその内容がわかつておるならば、日本の勞働者が安心の行くようにお知らせを願いたい。ともにともに日本勞働者の地位向上、生活向上のために、政府は極力熱心なる御奔走を賜わらなければならぬと思ふのであります。最後に私簡單に、特に石炭關係の勞働者に關する問題について、一言厚生大臣、商工大臣の御意見を伺つておきたい。わが國の基礎産業の一番の重點は石炭だという。そうして三千萬トン掘り出さなければ、日本の産業は成り立たぬという。そういう時分に、資材も不足だ、食糧も足りない現下の状況において、今提案せられたる勞働基準法のごときが出て、これを嚴格に施行するときにおいて、なおかつ今日の状況の上から、三千萬トンを掘り出すの自信ありや否やということなのであります。坑口から坑口までの勞働時間が八時間に限定せられておる。しかし實際私ども北海道の夕張その他の大炭鑛において、坑口から坑口まで八時間であらうが、實際の勞働時間というものは五時間に滿たぬということです。そうすると大體坑口から切羽までの間、それは長い所では一時間もかかる所がございましようが、そういうものを引いたといたしましても、五時間に滿たない勞働時間ではあまりに不足です。それでもなおかつこの法案のごとくにして、三千萬トンの石炭が掘れるのかどうか。この法案の作成當時において、委員の方々からも、ここ一兩年の間は、特に石炭の勞務者に關する限り、別途の方途を考えたいという御意見もあつたということです。それらのいきさつをも明らかにして、この法案を實施しても、なお三千萬トン掘れるのかということを明らかにしていただきたいのであります。
以上、私は數個の點について政府關係大臣に御答辯を要求いたします。そうして殊にわれわれ全國民が一番心配いたしましたる二・一ゼネストの、その後の經過等について詳細の説明を承りたい。最後に石炭勞務關係において、この法案を實施してもなお三千萬トン掘れるかどうかということを、念のために伺つておきたいのであります。(拍手)
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=33
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034・河合良成
○國務大臣(河合良成君) ただいまの椎熊君の御質問に對して御答えいたします。第一、第二は私に對する御質問でなかつたので、第三の御質問からお答えいたします。
最低賃金と經濟復興の根本策、あるいはインフレーシヨンとの關係についてのお尋ねでありましたが、經濟界は絶えず動いておるのでありまして、特に最近のようにインフレーシヨンの傾向、あるいは通貨購買力の變動がありますればありまするほど、この勞働基準法によりまする勞働條件というものにいろいろ變化を受けることは、これは事實であります。それでそういう點から考えまして、物事をダイナミツクに考えていかなくてはならぬ點も、多分にあるとは存じておりまするけれども、一方において政府はインフレーシヨンの防止、あるいは物價の安定ということを一生懸命やつておりまして、ここらとにらみ合わせて、勞働條件を、殊に最低賃金制度をできるだけやつていくということになろうと思つております。そうして事情の變化に應じては、またそれを動かしていくということのほかに途がないというふうに考えております。
その次の第四の問題は、女子の保護に關するいろいろの規定でありましたが、この點につきましては、あるいはこれがために女子の勞働の囘避を來しはせぬかという御心配もあつたやに思います。申すまでもなくこういう問題は、一方におきましては日本の經濟の再建という問題と、一方におきましては民主主義の徹底、すなわち個性の尊嚴を尊重するという、二つの問題の交錯關係に起る問題でありまして、いろいろの角度から、いろいろの非難はあろうとは思いまするが、しかしながらともかくも〓日われわれが國際場裡にこれからはいつて、そうして一人前にやつていくには、どうしても個性の尊嚴ということを尊重しなければならぬということを、第一に考えなくちやならぬという點において、女子の問題の保護ということを徹底的にやるというような見地に立たなければならぬ問題だと考えます。
それから第五の御質問は、勞働基準法の實行と、保險制度及び醫療制度との關係についてのお尋ねでありました。これはごもつともな點でありまして、勞働基準法でうまく實施していきましても、これに伴う保險制度が完全にいきませんと、十分目的を達することができぬということは、當然のことであります。まず第一に勞働者の災害の保險については、この議會において、できるだけ早く提案するつもりでおります。なお國民健康保險につきましても、國費の關係、財政の關係で、徹底的にいきませんが、できるだけのことはやつてまいります。醫療施設についても、これは勞働條件の實行ということの裏づけをする、非常に大切な施設であることは同感でありまするが、これも御承知の通りの財政と、物資不足の事情によりまして、財政の緊縮、あるいは國庫の收支のバランスというような關係から、十分思うようにこの面に力を注ぐことができないのは、はなはだ遺憾でありまするが、その許す範圍において、できるだけのことをやるという考えでおります。
それから第六の質問は、監督機關の問題でありましたが、これはいままでの工場法の實施等につきましては、監督の機關が不十分であるということは、われわれも率直にこれを認めなくちやならぬのであります。しかし今度の法律におきましては、專門の監督機關――各地に勞働基準局というものをつくりまして、そうして直接に監督をやり、また豫算もこの財政困難の折柄にかかわらず、相當の程度においてとることができましたというような實情でありまして、また婦人の工場監督官も相當置いていくつもりであります。
それから第七の問題は、官公吏法と勞働基準法との關係でありましたが、これは官公吏も勞働者でありまするから、勞働條件については、やはり一般の勞働基準法を適用すべきことは當然のことと思います。しかしながら官公吏の職務關係、特に時間の關係について、特別の考慮をしなくちやならぬので、勞働基準法の中にこれに關する例外規定も設けて、そうして相當彈力をもたして、國務の遂行に支障ないことを期しております。なお服務紀律等の關係につきましては、官公吏の紀律が最近大分亂れたという事實は、これは政府も深くこの點を見ておるところでありまして、この點につきましては、服務紀律その他について十分に考慮をしております。これが勞働基準法による適用の上に、さらに官公吏がその紀律法の適用を受けるというような建前で進むつもりでおります。
それから第八の質問は、二月一日のゼネストの問題についてのお尋ねでありました。これは御承知の通りにいろいろの經過をたどりまして、マツカーサー元帥の聲明によつて、さいわいに事なきを得たのでありまするが、その後なお爭議が續いておりましたので――爭議行爲というところにははいりませんが、爭議状態が繼續しておりましたので、いろいろ兩者の間に折衝いたしまして、二月二十七日をもつて、勞働委員會が一應これが打切られたものであると認める状態にまで進みました。ただいまは雙方とも圓滿な状態においてあります。そうして勞働協約の締結などは、各省ごとにぼつぼつできておりまして、近いうちにはこれも全部完成することと思います。そうしてこの問題に關聯しまして、少數の指導者によつて獨裁的指導をせられた點について、政府の意見いかんということでありますが、政府はそういうことには反對であります。
第九問の石炭勞働者についてのお尋ねでありましたが、これは勞働時間の點につきまして、石炭の鑛山には多少の伸縮性ももつておる規定になつております。そのほか住宅、食糧などにつきましては、政府は三千萬トン増産の目的を達するために、できるだけのことをいたしております。大體この法律は最低條件を定めたものでありまするから、石炭増産三千萬トン遂行には、これは支障を來さないものという見解でおります。(拍手)
〔國務大臣石井光次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=34
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035・石井光次郎
○國務大臣(石井光次郎君) お尋ねの商工省に關するお答えをいたします。勞働時間と中小工業の關係についてのお尋ねがありました。十人以上使用いたしまする工場には、すべて今度のものが適用されるのであります。十人、二十人の少人數のところを特に問題としてお取上げのように拜聽いたしたのでありますが、まことに今のままの状態でまいりましたならば、時間を制間し、そうして生産がそれだけ減り、あるいは一方賃金が上るというようなことであれば、その中小工業、特に小工業は成り立たないと思います。しかし今のままであつては、どうにもならないのであります。第一は能率の點におきまして、日本の中小工業は至らないものが非常に多いのであります。こういう點につきましては、中小工業の經營合理化のために、商工協同組合制度を大いに促進してやつていくということは、椎熊君もお話の通りでありまして、これらの問題、あるいは技術の面におきまして、先ほどから私がこの席で何度も申し上げましたように、中小工業の勃興のためには、技術の指導という面、經營の合理化という面について、政府はあらゆる施設をし、また各方面の協力を得て指導をいたしていきたいと思うておりますので、これらによりまして、今の中小工業の諸君が、たとい時間は減りましても、生産の能率を上げて行くことができるだろうと期待いたしております。さらにまたこの中小工業を盛んにするためには、中小工業の金融制度の整備、それから復興營團が計畫いたしておりまする共同施設の設置等によりまして、またそれらの中小工業の産業を盛んにすることができるのではないか。かりに今日の状態でどうしても時間を延ばすことができないかというと、そうではないのでありまして、もし自分の工場の生産が上らず、經營が危うくなり、そうして勞働賃金ももらえぬというような状態になりますれば、話合いによりまして時間を延長して、自分たちの生産を上げその間にだんだんと自分たちの能率を向上せしめていくという方法は、この規定においてとられるのでありますから、私は必ずやこの規定によりまして、逆に中小工業の立派な發達を期し、世界の産業に伍していくことになり得るだろうということを期待いたしておるものであります。
それから石炭増産の點につきましては、河合厚生大臣から一應はお答えいたしたのでありますが、私どもは、今の賃金、資材の供給状態等によりましては、まだまだ不完全でありますので、いかにしてこういう面について準備をするか、また賃金等についてどう考慮をするかということについても、目下いろいろ話の進行中のものもあるのでありますが、資材ができるだけ多く供給され、賃金も適富に改訂され、そうして食糧も十分にいくようになりましたならば、現在のままにおいても、私は三千萬トンは必ず出ると思うております。この規定が出ますると、この規定の第一條にもありますように、これは勤勞者の人たるに値する生活を保障する法律でありますから、これによつて自分達の地位というものがしつかりしたものだということが保障されたら、自分達の氣持の上においても、増産をするという意欲が盛んになつてくるだらうということを、私は確信しております。このごろの賃金のいろいろな交渉の面において、聞くところによりますと、自分達はこの賃金を要求する、これだけの賃金をもらいたい、しかし一方必ずもつともつと増産するぞということを、強く言つておるということを聞いて、非常に心強く思つておるのであります。右お答えいたします。
〔政府委員北村徳太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=35
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036・北村徳太郎
○政府委員(北村徳太郎君) 椎熊君の御質問を十分に聽き得なかつた點がありまして、聽き漏らした點があるかと思うのであります、要旨は勞働基準法が實施されましても、今のようにインフレーシヨンの進行下にあつては、その方で期待する效果を十分に發揮することができないのではないかという點が第一點で、もしそうだとするならば、それについて政府の對策はどうであるか、こういうような點であつたかと思うのであります。さように了解したいましてお答え申し上げたいと思うのでありますが、第一段につきましては、お説の通りでありまして、現下のインフレーシヨン進行下にあつては、法が期待しておるところの效果を、おそらく最大限に發揮するということは、なかなか困難である。從つてどうしてインフレーシヨンを防止するかという點は、きわめて重大であると思うのでありますが、これにつきましては、財政收支の均衡化をはかるというようなことについて、せつかく最善の努力を盡しつつあるところであります。財政支出の膨張によつて、インフレーシヨンの惡循環をさしてはならい。そこで惡循環を斷つために努力を拂いつつある。それから資金、通貨の面からいたしましては、救國貯蓄運動の強化徹底によりまして、浮動購買力を吸叫する、そうしてこれを資金化するというようなことにいつて努力を拂いつつあることは、御承知の通りであります。第三に資金の配分につきまして、これを重點的に行い、最重要産業にその資金の流れを國家の意圖をもつて決定する。これは最近の御承知の施策によつて御諒解の通りでございます。かようにいたしまして、何といたしましても、インフレの防止は、消極的には以上申しましたような點でございますけれども、かくして積極的に生産を増強することなくしては、これは決してインフレ防止ができない。そこで生産を増強する。それがために、資金の面からはできるだけ浮動購買力を吸收して資金化する。その資金の配分について、最重點主義をとるというようなことをやることによつて、御質問の懸念を排除したというように考えております。
生産を増大すると申しましても、また資金を重點的に配分すると申しましても、生産の中心的な要素は勞働者であります。從いまして、この刻下最大の要請である生産の増大について、その生産の擔い手であり、その重大なる役割を負うところの生産者、すなわち勞働者各位の基本的なる權利を保護するということが、まずきわめて重要でありまして、この勞働基準法の實施と相まつて、生産意欲をますます高揚してもらい、今國家が最も窮迫しておるところの生産の増大に一般の努力をしてもらうということによつて、さらに御懸念のインフレを根本的に斷ち切るということになると考えるのであります。
なおついででございますが、勞働基準法の實施に伴いまして、豫算の面では約一億の金で、中央に勞働基準局とでも申す役所ができ、地方には勞働保護官署というようなものができ、これによつて勞働基準法の實施が圓滿にいくような計畫も、既に豫算の上に盛られておる次第であります。以上簡單でございますが、御答辯を申し上げる次第であります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=36
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037・椎熊三郎
○椎熊三郎君 殘餘の質問は委員會においてたいします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=37
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038・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山花秀雄君。
〔山花秀雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=38
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039・山花秀雄
○山花秀雄君 勞働基準法は、労働者大衆にとつて、まさしく憲法竝びに勞働組合法に次ぐ重大な法律であります。從つて全國一千萬の勞働者大衆は、本議會におけるこの法律案の審議を、きわめて重大なる關心をもつて見守つておるのであります。私は日本社會黨を代表して、否、全國一千萬の勞働大衆の總意を代表して、本法律案の二、三の重要點に關して、總理大臣竝びに厚生大臣に質問したいと思う次第であります。
まず本法律案に對する私の總括的意見を述べますと、私は大體において本法律案に贊成し、本法律案の成立を心から希望するものであります。わが國においては、新憲法が制定され、全國民の勤勞の權利と、文化的生活の權利とが保障されるに至りました。從つてその憲法に附隨して、本法律案のごとき法律が制定されるべきであろうことは、きわめて當然なことでありますが、私はかかる民主主義的法律案が議會に提出されるに至つたことを、心から喜ぶものであります。このことは、この議會に列席しておられる大部分の諸君が、ひとしく感じておられることであろうと思います。(拍手)特に私のように、勞働大衆の生活擁護のために半生をあげて戰い、そのために幾多の牢獄と鐵鎖の經驗を經てまいりました者にとつては、今日この勞働基準法が、この議會に提出されるに至つたということは、まことに感慨無量の念にたえないのであります。(拍手)
しかし私は、政府の提出したこの法律案に對して、全幅的な贊意を表するものではありません。本法律案を熟讀いたしますと、われわれ勞働者の立場に立つ者にとつて、不滿足、不十分の點が多々あるのであります。たとえば本法律案の最低賃金制に關する規定にいたしましても、また八時間勞働制に關する規定にいたしましても、それらは決してわれわれ勞働者の滿足するものではありません。否、それどころか、われわれ勞働者が斷固たる決意をもつて、政府にこの改正を迫らなければならない性質のものであります。そういう點をみますと、政府がはたして新憲法の趣旨に基いて、眞劍に勞働者の生活保護のために、本法律案を起草したかどうか疑わしくなつてくるのであります。もつとはつきり言えば、政府は新憲法實施後における勞働者大衆の進出を恐れて、それを食い止めるために、あらゆる點で苦心をしておるのではなかろうかと思われるのであります。
只今椎熊君も言われましたが、本年正月、吉田總理大臣は、その年頭の辭のラジオ放送演説において、生活擁護のためにやむにやまれぬ鬪爭をしておる勞働者に向つて、不逞の徒呼ばわりをいたしましたが、私は、政府が吉田總理大臣と同じ態度で、本法案を極力骨抜きにしようとしたのではなかろうかということを、疑わざるを得ぬのであります。いやしくも民主主義國家の總理大臣が、生活擁護のために鬪う勞働者に向つて、不逞の徒呼ばわりをするというようなことは、先進諸國においては斷じてその例のないことであります。勞働者大衆を不逞の徒呼ばわりをする人間こそが、民主主義國家の正しい發展を阻害するどころか、眞實の意味において不逞の徒であると私は斷言するものであります。(拍手)私は、政府が果して眞劍に勞働者大衆の生活を保障する氣持でこの法律案を起草したか。
〔議長退席、副議長著席〕
それとも勞働者を不逞の徒呼ばわりするような態度でこれを起草したか、その點に關して、まづ第一に政府の明確なる囘答を要求するものであります。この點は、本法律案の審議に重大なる關係をもつものであります。特に吉田總理大臣の囘答を私は要求するものであります。私は本質疑にあたりまして、吉田總理大臣の出席を特に通告しておるのでありますが、本日ここに見られない點につきましては、私はなはだ遺憾に思う次第であります。
次いで私は、本法律案起草の當面の責任者でありますところの河合厚生大臣に對して、次の四つの重要點について質問をする次第であります。
第一は、本法律案の第三章の第二十八條の規定に關するものであります。すなわち最低賃金制に關する問題であります。本法律案の第二十八條においては、こういうことが規定されております。「行政官廳は、必要であると認める場合においては、一定の事業又は職業に從事する勞働者について最低賃金を定めることができる。」、これによると、最低賃金は、行政官廳が必要と認めた場合だけに、ある特殊な事業または職業に從事する勞働者に對してそれを認めるということになるのでありますが、私はそれに對して斷固として反對するものであります。現在最低賃金制の制定は、全産業の勞働者にとつて絶對に必要なものであります。特殊な産業に限り、行政官廳が必要と認めたときだけにそれを制定するというような、そんななまやさしい問題では絶對にないのであります。最低賃金制というものは、また言うまでもなく、勞働者の最低生活を保障することを目的とするところの制度であります。
憲法第二十五條には、「すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。」ということが明確に規定されておるのでありますが、勞働者が最低賃金制の制定を要求することは、この新しい憲法の條文の具體化を要求することでありまして、これは憲法に明記されておりますところの國民の權利であるというふうに確信しておるのであります。(拍手)しかるにこの法律案によれば、勞働者のこの憲法上の權利を、一行政官廳の意思によつて左右しようというのであります。かかる規定がある以上、勞働者大衆がいかに最低賃金制の制定を要望いたしましても、行政官廳がその必要を認めなければ、それを實現させることはできないのであつて、事實上、勞働者の憲法上の重大なる權利が、これによつて剥奪されることになるのであります。この第二十八條の規定は、明らかに新憲法の精神蹂躪するところの、憲法違反の規定であります。かかる規定を反動と言わずして、何を反動と言うべきであらう。(拍手)
私はさきに總理大臣に對しまして、政府はいかなる立場に立つてこの法律案を起草したかということを質問いたしましたが、この第二十八條の規定などを見ると、どうしても例の勞働者を不逞の徒呼ばわりする態度で、これを起草したのではなかろうかということを疑わざるを得ぬのであります(拍手)私は、政府がこの第二十八條の規定を改正して、政府は本法の實施とともに、全産業の勞働者に對して、速やかに最低賃金制を制定する義務があるという意味のものになすべきであることを強く主張するものであります。(拍手)私はこの第二十八條の規定に關し、政府當局がその所見を明らかにすることを要求するものであります。
なおこの最低賃金制の問題に關しましては、最低賃金に關する諸事項を審議決定すべき賃金委員會の構成、權限等に關しては、言わねばならぬことが多々ありますが、こまかい點につきましては、追つて委員會で十分討議することにいたしまして、ここではただ政府の根本態度、すなわち政府はなぜ全産業の勞働者に對して最低賃金制を實施しないのかという點について、政府の明快なる答辯を要求する次第であります。
河合厚生大臣に對する私の第二の質問は、第三章、第二十六條の規定に關するものであります。まず法案の文章を讀上げることにいたしますが、そこにはこういうように書いてあるのであります。「使用者の責に歸すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中當該勞働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手當を支拂わなければならない。」、この規定によると、使用者は自分の都合で勝手に休業した場合においては、平均賃金の六割を支拂えばいいということになるのでありますが、これは明らかに勞働者の利益に反するものであります。一般の常識や慣例からいつても、使用者が勝手に休業した場合には、賃金の全額を支拂うのがあたりまえのことであり、從來そういう慣例は、わが國の勞働契約に當然引繼がれておるのであります。またこの第二十六條には、使用者の責に歸すべき事由による休業の場合の規定があるだけでありまして、これ以外の事由による休業の場合に對する規定が、何もないのであります。
たとえば今日のように石炭不足であるとか、隔日停電というような理由による休業の場合には、使用者は、勞働者に對して賃金を支拂わなくてもいいというのかどうか。おそらく政府としては、そういう場合には賃金を支拂わなくてもいいというような考えで、この第二十六條に、使用者の責に歸すべき事由による休業の場合だけを掲げたのであろうが、これは實にふらち極まる政府であるとわれわれは考えるものであります。もしそういうことが實行されたならば、現在の實情からみて、勞働者の生活は極度に脅かされることになり、それによつて大多數の勞働者は、最低生活すら維持することができなくなるということは、火を見るよりも明らかなことであります。
使用者が企業の全權を握つて事業を經營している以上、その企業を繼續している限り、使用者が勞働者の生活を保障する義務を負うべきものであります。これは理の當然であります。もしそういう義務を負うことのできないような、そんな危險極まる企業家がいたならば、國家はその企業家に對して、當然その企業權を剥奪すべきではなかろうかというふうに、われわれは考えているのであります。この意味において私は、本條の規定は、勞働者の責に歸すべき事由による休業のほかは、一切の休業において、使用者は賃金の全額を支拂うべきである、という内容に改正すべきものであると考えているものであります。右の點に關して、政府はいかに考えておられるか。この問題は、最低賃金制ほど重大な問題ではありませんが、現下の情勢においては、勞働者の生活に直ちに重大な影響をもつ問題でありますので、私は政府の明確なる囘答を要求するものであります。
第三の質問は、第四章、第三十二條の規定に關する問題、すなわち八時間勞働制に關する問題であります。法案の第三十二條には、こういう規定が掲げられてあります。「使用者は、勞働者に、休憩時間を除き一日について八時間、一週間について四十八時間を超えて、勞働させてはならない。」、言うまでもなく八時間勞働制は、近代的民主主義國家においては當然に實施さるべきものであつて、われわれは、それの實現のために多年鬪つてきたものでありますが、今ようやくにして、それが實現されようとしていることは、はなはだ喜ばしく感じているものであります。
だがここで問題になりますのは、政府が八時間勞働制を實施する以上、なぜ完全な八時間勞働制、すなはち休憩時間を含めての八時間勞働制を實施しようとしないかという點であります。完全な八時間勞働制、すなはち拘束八時間勞働制は、現在文明諸國家の多くにおいて實行されておる制度であつて、これを適當とするということは、今日では文明諸國民の常識になつているのであります。從つてわが國において實行するということは、今日においてはあまりに當然のことであつて、いかなる點から考えても、それは決して行き過ぎではないのであります。
現に先日國鐵總聯合と運輸省當局との間において成立いたしました團體契約においても、完全な八時間勞働制、すなわち拘束八時間勞働制がはつきり承認されてゐるのであります。たとえば官業關係の煙草勞働組合と大藏當局との間における締結においても、そのことがはつきり締結されているのであります。また民間における各種の事業場、會社においても、そのような制度が今日當然として認められているのであります。既にこれらの重要諸産業において堂々實施されるに至つた拘束八時間制を、政府はなぜ全産業に適用しようとしないか。
これに對して政府當局は、あるいはこう辯解するかもしれません。勞働基準法の規定は、最低基準を定めたものであるから、勞働者が實際に拘束八時間制を必要と感じたならば、それは勞働組合と經營當事者の間に協議決定したらいいではないか、もし政府がそんな考えでこの第三十二條の規定を決定したのであつたならば、それこそ、とんでもない、ふらちな考えであるということを私は申し上げたいのであります。何とならば、それは實質的には政府が勞働者に向つてストライキを煽動していることになるのであります。
なるほど勞働組合が實力を行使して、みずからの要求を貫徹することは、決して今日の場合不可能ではないのであります。私自身といたしましても、それだけの確たる自信はもつているものであります。だが現下のわが國の實情からすれば、なるべく鬪爭的手段を避けて、資本家側も勞働者側も、一致協力して産業復興に邁進しなければならないのが、今日の日本經濟の實状であるというふうに私どもは考ておるのであります。(拍手)このことはいまさら私がここで繰返すまでもなく、政府があらゆる機關において、それを勞働者諸君に宣傳し、その協力を求めているのであります。現に吉田總理大臣自身も、第九十一議會竝びに本議會における施政演説におきましても、それを繰返し繰返し述べているのであります。しかし政府がほんとうに、眞に勞働者と資本家の協力一致を求める考えがあるならば、政府は單に勞働者に向つて鬪爭を控えることを要求するだけでなくして資本家に向つても、できる限り讓歩を求めるべきが當然ではなかろうかというふうに、私どもは考えております。(拍手)
從つてその觀點からすれば、この第三十二條の規定のごときも、當然拘束八時間制を採用し、資本家側においてそれに對する不平があるならば、政府の力でそれを抑え、それによつて少くともこの勞働時間の問題に關しては、資本家と勞働者の間に摩擦を避けるようにするのが、政府としての當然の勞働政策ではなかろうかというふうに、われわれは考えている次第であります。(拍手)しかるに政府が、既に文明國民の間に常識となつているところの、また既にわが國のいくつかの重要産業において實行されているところの拘束八時間制を採用せず、ごまかしの八時間勞働制でお茶を濁そうとしているごときは、まことに言語道斷の態度であります。(拍手)政府がかかる態度を續ける限り、全國一千萬の勞働者は、吉田反動内閣打倒のスローガンを斷じて捨てないということを、私ははつきり申し上げておきます。(拍手)
それに現下のわが國において、特に拘束八時間制度を採用しなければならない重大事情があるのであります。それは言うまでもなく失業對策の問題でございます。今日わが國には幾百萬の失業者が存在しております。そしてそれらの失業者の大部分が、生活の必要上やむを得ず、いわゆるやみ屋をやつておるのは御承知の通りであります。これは失業者自身のためにも、産業復興の觀點からいつても、まことに遺憾至極な状態であつて、それをそのままに放置しておいていいということは、斷じてあり得ないことであります。この厖大なる失業者群をいかにして産業面に引入れるか、言いかえれば、失業者にいかにして職を與えるかということは、現下の最も重大なる問題の一つであつて、政府はそれを解決すべき重大なる任務のあることを、自己反省すべきであるということを申し上げたいのであります。
では失業者にいかにして職を與えるかといえば、それには現在よりはるかにわが國の産業が復興されなければならぬことは言うまでもないのでありますが、それと同時に、各産業における勞働者の就業時間をなるべく短縮して、失業者を一人でも多く産業面に引入れることが絶對に必要であります。以上二つの觀點からいたしまして、私は完全なる八時間勞働制の制定を斷固として主張するものでありますが、政府はこの點に關していかに考えておられるか。私はそれをこの機會において明確にすることを、あらためてここに要求するものであります。
さらにいま一つ、この法律案に關聯いたしまして、政府に質問することがあるのであります。それは本法案には、失業勞働者の生活保障に關する規定が缺如しておりますが、政府は失業者の生活保障に關しては、別個の本案を提出する用意があるかどうかという點であります。失業勞働者は、今現に勞働に從事していなくても、立派に勞働者であります。失業者は、自分自身の意思でのんべんだらりと遊んでいる人間では斷じてありません。業務につく意思をもつておりながら、職業につくことができない事情にある勞働者であります。
新憲法第二十七條には、「すべて國民は、勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」ということがはつきり記載されているにもかかわらず、この權利を實際に行使することのできない状態におかれているのが、現在の廣汎な失業勞働者であります。從つてこの失業勞働者に對して、國家がその就業を斡旋するか、もしくはその生活を保障すべきであることは、新憲法の規定からみて當然のことであります。もしそれができなかつたならば、新憲法第二十七條の規定は、まさに空文にひとしいと言わざるを得ないのであります。私はこの見地から見まして、失業勞働者に對する生活保障に關する規定を當然本法律案中に加えるべきであると考えるものでありますが、政府はこの點に關していかなる考えをもつておられるか、それを聽きたいのであります。もつとも政府が、失業勞働者の生活保障に關しては、別個の法律案を用意しているというのならば、話は別でありますが、その場合にも、本法案中に、失業勞働者の生活保障に關する事項は、別の法律においてそれを規定するということを、當然明記すべきであると私は考えるものであります。(拍手)私はこの問題について、政府當局の責任のある囘答を要求するものであります。
なお本律案に對しては多々言うべきことがありますが、それらは追つて委員會において詳細に述べることにいたしまして、この本會議における私の質問は、これで打切ることにいたしますが、念のために私の質問の要旨を列擧すると、左の五點になるのであります。
一、政府はいかなる立場に立つてこの法案を起草したかという點、すなわち政府が眞劍に勞働者の生活を保障することを目的としてこの法案を起草したか。それとも鬪う勞働者を不逞の徒呼ばわりするような態度と觀念でこれを起草したかという點、この點に關しては、特に吉田總理大臣の囘答を私は要求するものであります。
二、政府は最低賃金の問題に關して、なぜそれを全産業の勞働者に適用しようとしなかつたかという點。
三、政府は、使用者の責に歸すべき事由によらざる休業に對して、賃金を支拂わなくてもよいというように考えているのかどうかという點。
四、政府は八時間勞働制の問題において、なぜ拘束八時間制を採用しなかつたかという點。
五、政府は本法案のほかに、失業勞働者の生活保障に關する別個の法律案を用意しているかどうかという點。
私の質問は以上の五點でありますが、私は最後に一言附加えておこうと思います。それは私の主張は、あくまで勞働者の立場に立つものであるが、決して行き過ぎた主張でないという點を明確にしておきたいと思うのであります。政府は私の質問に對し、あるいはこう言うかも知れない。あなたの主張されるようなことは、勞働者側の主張としては一應もつともであるが、あまりにも急進的に勞働者保護の政策を採用したのでは、わが國の産業復興の妨げになる、政府としてはその點を考慮し、この程度の政策の實行を適當と認めてこの法案を起草したものである、これは一應もつともらしく聞える辯解でありますが、もし政府がそういう考えで、この法案の隨所に資本家擁護の意圖を盛りこんでいたものであるとするならば、それは斷じて見當違い、もしくは反動的な見解であるということを指摘しておきたいのであります。(拍手)
現在のわが國産業危機の眞の原因はどこにあるかといえば、これは明らかに資源、機械の不足から來ておるものであります。――これはもちろん軍閥と官僚と資本家の責任でありますが、そこにこそ、わが國の産業が現在のごとき危機的状態に陷つた眞の原因があるということを銘記すべきでなかろうかと思うのであります。從つてわが國の産業を眞に復興させるためには、軍國主義によつて徹底的に破壞され、もしくは喪失されるに至つた機械と資材とを、何らかの方法によつて再びわれわれの手に入れることが、絶對に必要なことであります。それではどういう方法をもつて機械と資材を手に入れるかといえば、それにはたつた一つの途しかないといふうに私は考えておるのであります。それはアメリカに借款を申し込み、そのクレヂツトによつて機械と資材とを手に入れる方法であります。この見解に對しては、わが國の資本家の一部の人々は反對し、それを一種の海外依存主義だと稱しているのであります。それこそ、自分自身が再びわが國の財閥たらんとする野心をもつておることを反映しておるものであります。事實上、帝國主義的排外思想の一變形なのであります。だがわが國がアメリカに對していかに借款を申し込もうとも、アメリカとしては、わが國の國内體制が整備され、わが國が眞の民主主義的平和國家として再建されていない限り、決してわが國の借款の申込みに應ずるはずがないというふうに、私どもは考えておるのであります。それゆえにわが國の産業を眞に復興させようと考えるならば、わが國の全國民が一致協力して、民主主義的國家體制を確立し、一刻も早く平和會議を成立せしめて、アメリカへの借款申し込みの基礎をつくることが最大の急務なのであります。
かつて戰爭前におけるわが國の資本家階級は、國内の勞働者の勞働條件を極度に劣惡化し、低賃金、長勞働時間の政策をもつて、勞働者の犠牲によつて産業を興隆せしめようということを、露骨に、資本主義的な方法をもつて採用していたのであります。現在の吉田内閣が、未だにその古き夢を追い、あくまで勞働者の犠牲によつて産業を復興せしめようというような、そんなばかげたことを考えておるものであるならば、それは言語道斷の、また非民主主義的態度であり、それこそが、わが國の産業復興を妨げる最大の原因であると言わなければならないのであります。(拍手)
もちろんわが國の勞働者階級は、平和會議成立までの過渡的段階において、いたずらに自己の利益のみを追求し、鬪爭のみをこととして、いわゆる國民全體の生活を危うくするようなものではありません。もつとも意識の後れた大衆の一部や、矯激なる思想をもつ一部の指導者の中には、そういう傾向をもつ者がないとは言えませんが、自覺ある勞働者の大多數と、健全なる指導者とは、自己の責任を十分に意識しておるのであります。そしてそれゆえにこそ、現在各方面において、勞働者大衆の自發的意思による産業經濟復興運動が盛んにまき起つておるということは、現内閣の諸公においても十分知つておられることではなかろうかと思うのであります。(拍手)
現に本法案に對する私の主張なども、現下のわが國の産業状態を十分に考慮し、あくまで行き過ぎを抑えておるものであります。たとえば勞働時間の問題につきましては、われわれは原則的には拘束七時間勞働制を妥當と考えているものでありますが、當面の諸事情、わが國の經濟、この破壞された經濟實情を考えまして、今日の段階においては拘束八時間制を主張しておるものであります。それゆえに、もし政府が本法律の制定に際して、眞に心からなる誠意をもつて、勞働者の利益を擁護する態度を示すならば、現在眞劍に産業復興に努力しつつある勞働者大衆も、また政府のその熱意を認め、極力鬪爭的態度に出ずることを抑え、一層の努力をもつて産業復興に邁進するに相違ないものであります。不肖私自身も、わが國の勞働運動の指導者の立場にある一人といたしまして、そのためには全幅の努力を惜しまないものであります。だが、もし政府があくまで資本家擁護の態度を固執し、勞働者を不逞の徒呼ばわりするような態度に出ずるならば、勞働者大衆もあくまで吉田反動内閣打倒の態度をもつて進むであろうということを、私はここにはつきり斷言いたしておく次第であります。(拍手)問題は結局政府自身の態度によつて決定さるべきものであります。
以上をもつて私の質問を終ります。政府當局の答辯を聽いた上で、若し納得のいかない點がありましたならば、私は再度質問を行つて、政府の眞意を質すつもりであります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=39
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040・井上知治
○副議長(井上知治君) 總理大臣はやむを得ぬ用務のため出席いたしておられませんから、ただいまの質疑の答辯は、適當なる機會に願うことにいたします。
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=40
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041・河合良成
○國務大臣(河合良成君) ただいまの山花君の御質問にお答えいたしまするが、只今の御質問の趣旨ないし御意見については、大體の方向として私どもは非常に贊成です。體驗からいろいろそういうふうに御主張なさることに對して、敬意を表します。しかしこれは大體の方向としての贊成を申し上げたのでありまして、現實の問題としましては、必ずしもそうはまいらぬのであります。だんだん漸を逐うて、御主張のような線にいくべきものだろうと私も思つております。
それで第一、これは私の言うことを、先ほどもつともらしいことを言うかもしれぬというので、お封じになつた感がありまするが、これはもつともらしいでなく、もつともなんです。それは第一、やはり從來の事實ということをお考え願わなくちやなりません。今日まで勞働條件がどういう状態にあつたかということを、全國的に廣くごらんを願いたい。またただいま勞働者の立場ばかりでないというお話でございましたが、それはごもつともだと思いまするが、またもう少しやはりいろいろな點から御觀察になることが必要でないかとも思います。私どもやはり一種の體驗をもつておりまして、そういう點からも、私どもも一つの人生觀をもつておるのであります。これが一つ
それから第二は、現在の實情であります。日本はどういう状態にあるか、その點もお考え願わなくてはならぬ。ヨーロツパの現在の状態において、勞働時間を延長せんとしておる國さえもあるという事情もあります。アメリカの現在の状態はどういう方向に向つておるということも、やはり御考慮願わなくちやならぬと思います。殊に日本はこれから再建しなくちやならぬ。ただいま戰後の實情においてみんなが働き得るだけ働いたかということに對して、私どもは非常に疑問をもつておる。もつと國民は働かなければならぬのだ。しかしながら勞働者の生活はできるだけ保護しなければならぬ。そういう二つの線においてこの問題を解決しなければならぬのだと思います。將來の方向につきましては、これはごもつともでありまして、できるだけ今御主張のような線に沿うて進むべきものだと思つております。
そういう觀點から、ただいまの問題に對して、四つの點についてお答えいたしますると、最低賃金を行政官廳に任せたというのは、これは結局漸進的に行くことが最も適當だろうという見地において、そういう法制の建前にいたしたのであります。また今日の實際におきまして、最低賃金を制定しなくてもよろしい工場がなかなかあるのであります。それからまた勞働基準法の適用の範圍を非常に廣汎にいたしました關係において、必ずしも最低賃金をきめなくてもよろしいという事情にあるような小さい工場などもありまして、そういう點から見まして、必要の場合に最低賃金をやる。しかしながら事實としまして、これは勞働者の生活に脅威を與えるようなときには、自然これは輿論の力をもつて、最低賃金ができなければならぬ事情になると思つております。そういうふうに、まず第一次はこれくらいというところに觀點を置いたわけであります。それからその最低賃金を全般に保障せざるがゆえに、勞働者に向つて政府が挑戰するのではないかというようなお尋ねがありましたが、これは少し思い誤つたお考えと思います。決して政府はそういう考えをもつてこの法律を出しておるのではなく、勞働者と協力一致いたしまして、心からの協力を得てやりたい。決して勞働者の犠性において資本家を擁護するなんというような考えを、いまさらもつようなことは絶對にありません。その點はどうぞ御安心あつてしかるべきことだと思います。(拍手)
それから第二番目に、休業手當の點でありますが、これは休業した場合における企業者の賠償という觀念から立てた法律ではありません。これはとりあえず最低生活を保障しなければならぬという觀點から立てたのでありまして、まず六十%くらいがモデレートであろうという考えであります。そうして使用者の責に歸すべき事由ということは、使用者は工場を建てた以上は、特別の事情のない限りは、工場に原料なり何なりを供給していかなければならぬのでありますから、この使用者の責に歸すべき事由ということは相當廣い範圍に適用されるものと思います。もちろんこれは法律の解釋をもつて決定すべき問題であります。
〔副議長退席、議長著席〕
それから第三の問題は、實働八時間は拘束八時間にしたらいいぢやないかという問題でありまするが、これもやはり第一の問題と同じく、ただいまにおいては、實働八時間以上働いている工場も相當にあるのでありまして、そうだから實働八時間ということに最低の線を引いて、それ以上のことはいかないぞということを明示したのが、この法律の趣旨でありまして、それ以上條件をよくして、そうして條件をよくするとともに、能率を上げていくというようなことができれば、多々益々便利だということでありまして、最低の線を引いたということに、どうぞ御考慮を願いたいと思います。
第四番目の點は、失業者保障の法律を出すかという意味だと拜承しましたが、憲法第二十七條の第二項によつてこの法律は規定いたしたのでありまして、この失業者の保障をいう問題は、これは一般の生活保護法、その他失業問題對策のことで決定すべきものでありまして、この憲法の附屬法として、これは規定する意思はもちません。そうして失業者保障ということに對して特別の法律をつくるかということは、これは法律をつくることも一つでありましようが、法律以外の方法でやることもできるのでありまして、たとえば生活保護法のごときは、その一面の働きをもつたものでありまする、失業保險のごとき制度を布きますれば、やはりその面に當る。しかしなが豫算上の措置でもやれるのであります。今具體的にどういうことをどうするかということの立案の考えはもちません。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=41
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042・山花秀雄
○山花秀雄君 自席から――ただいまの厚生大臣の答辯につきましては、全部私の意に滿たない點であります。これは日本の再建、産業の復興に關するお互いのイデオロギーの相違でなかろうかというふうに私は考えております。この問題につきましては、追つて委員會において、詳細なる事例をあげても十分討議を盡したいと思う次第であります。從つて私はこれで質問をやめたいと思います。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=42
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043・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案に對する殘餘の質疑は延期し、次會にこれを繼續することとし、本日はこれにて散會せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=43
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044・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶものあり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=44
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045・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。次囘の議事日程は公報をもつて通知いたします。本日はこれにて散會いたします。
午後四時四十七分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01319470306&spkNum=45
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