1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十二年三月十三日(木曜日)
午後二時六分開議
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議事日程 第十六號
昭和二十二年三月十三日
午後一時開議
第一 昭和十四年法律第七十八號を改正する法律案(寺院等に無償にて貸付しある國有財産の處分に關する件)(政府提出) 第一讀會
第二 衆議院議員選擧法の一部を改正する法律案(政府提出) 第一讀會
第三 教育基本法案(政府提出) 第一讀會
第四 裁判所法案(政府提出) 第一讀會
第五 罹災救助基金法の一部を改正する法律案(政府提出) 第一讀會
第六 証券取引法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第七 日本証券取引所の解散等に關する法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第七 選擧革正決議案(尾崎行雄君提出)
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〔朗讀を省略した報告〕
一、政府から提出された議案は次の通りである。
昭和二十二年度特別会計歳入歳出予算案
(改第二号)昭和二十一年度改定歳入歳出総予算追加案
(改特第一号)昭和二十一年度特別会計改定歳入歳出予算追加案
(改追第一号)予算外國庫の負担となるべき契約を爲すを要する件
(以上三月十一日提出)
衆議院議員選挙法の一部を改正する法律案
教育基本法案
裁判所法案
(以上三月十二日提出)
一、昨十二日貴族院から受領した政府提出案は次の通りである。
證券取引法案
日本證券取引所の解散等に關する法律案
一、昨十二日貴族院において、本院から送付の次の政府提出案を可決した旨、同院から通牒を受領した。
會計法等の特例に關する法律案
一、議員から提出された議案は次の通りである
選擧運動の文書圖畫等の特例に關する法律案
提出者
大野伴睦君 石黒武重君
西尾末廣君 三木武夫君
笠井重治君 野坂參三君
中野四郎君
(以上三月十一日提出)
羽咋町、氷見町鐵道敷設促進に關する建議案
提出者
殿田孝次君 綿貫佐民君
省營自動車の強化擴充に關する建議案
提出者 今井耕君
地方競馬法改正に關する建議案
提出者
堀川恭平君 馬越晃君
森崎了三君 石原圓吉君
木下榮君 松澤兼人君
臨時資金調整法改正に關する建議案
提出者
堀川恭平君 馬越晃君
森崎了三君 石原圓吉君
木下榮君 松澤兼人君
土木工事五箇年計畫實施に關する建議案
提出者
大塚甚之助君 坂東幸太郎君
小川原政信君
(以上三月十二日提出)
一、去る十一日衆議院規則第十五條但書に依り議長において議席を次の通り變更した。
二 三重縣選出議員
五五 津島文治君
六〇 降旗徳弥君
六五 山田悟六君
六六 山崎岩男君
七一 柴田兵一郎君
七二 村井八郎君
七七 江部順治君
七八 宮澤才吉君
七九 原捨思君
八〇 飯島祐之君
八五 生方大吉君
八六 早稻田柳右ェ門君
八七 吉澤仁太郎君
八八 金光義邦君
九三 喜多楢治郎君
九四 小笹耕作君
九五 江川爲信君
九六 天野久君
一〇二 菅又薫君
一〇三 寺田榮吉君
一〇四 小坂善太郎君
一〇五 神戸眞君
一〇六 中村嘉壽君
一〇七 仲川房次郎君
一〇八 八木佐太治君
一〇九 堀川恭平君
一一〇 舟崎由之君
一一一 瀧澤濱吉君
一一二 鈴木強平君
一一三 橘直治君
一一四 本間俊一君
一一五 吉田安君
一一六 寺島降太郎君
一一七 原健三郎君
一一八 竹内歌子君
一二一 菅原エン君
一二〇 森山ヨネ君
一二一 齋藤てい君
一二三 中山たま君
一二四 最上英子君
一二五 村島喜代君
一二六 本名武君
一二七 圖司安正君
一二八 西山冨佐太君
一二九 九鬼紋十郎君
一三〇 小川半次君
一三一 加藤高藏君
一三二 松岡運君
一三三 宮前進君
一三四 佐伯忠義君
一三五 桂作藏君
一三六 林田正治君
一三七 荊木一久君
一三八 佃良一君
一三九 武藤嘉一君
一四〇 古賀喜太郎君
一四一 岡部得三君
一四二 馬越晃君
一四三 青木泰助君
一四四 池村平太郎君
一四五 武藤常介君
一四六 稻本早苗君
一四七 細川八十八君
一四八 日比野民平君
一四九 大久保傳藏君
一五〇 小野瀬忠兵衞君
一五一 鈴木明良君
一五二 山口光一郎君
一五三 小池新太郎君
一五四 青木清左ヱ門君
一五五 八坂善一郎君
一五六 中村又一君
一五七 關谷勝利君
一五八 宮原庄助君
一五七 白木一平君
一六〇 荒木武行君
一六一 井上東治郎君
一六二 五坪茂雄君
一六三 椎熊三郎君
一六四 石黒武重君
一六五 松田正一君
一六六 鈴木周次郎君
一六七 關根久藏君
一六八 星一君
一六九 大島定吉君
一七〇 長尾達生君
一七一 地崎宇三郎君
一七二 成島勇君
一七三 犬養健君
一七四 苫米地義三君
一七五 長野長廣君
一七六 太田秋之助君
一七七 楢橋渡君
一七八 佐藤久雄君
一七九 平野増吉君
一八〇 中川重春君
一八一 小林かなえ君
一八二 有馬英二君
一八三 田中萬逸君
一八四 木村小左衞門君
一八五 一松定吉君
一八六 齋藤隆夫君
一八七 岡本實太郎君
一八八 原夫次郎君
一九〇 川崎秀二君
一九一 坪川信三君
一九二 北村徳太郎君
一九三 林連君
一九四 逢澤寛君
一九五 保利茂君
三二九 柏原義則君
四四三 加藤シヅエ君
四四四 石原登君
一、去る十一日議長において次の通り常任委員辭任の許可があつた。
第七部選出豫算委員 仲川房次郎君
第九部選出豫算委員 綿貫佐民君
一、去る十一日常任委員補闕選擧の結果次の通り當選した。
第二部選出豫算委員 大矢省三君(今村等君補闕)
第三部選出豫算委員 宮前進君(岡部得三君補闕)
第六部選出決算委員 西村榮一君(中崎敏君補闕)
一、去る十一日委員長理事互選の結果次の通り當選した。
労働基準法案(政府提出)委員
委員長 矢野庄太郎君
理事
小島徹三君 椎熊三郎君
土井直作君
統計法案(政府提出、貴族院送付)委員
委員長 庄司一郎君
理事
花村四郎君 青木泰助君
前田榮之助君
一、去る十一日議長において次の委員を選定した。
船員法を改正する法律案(政府提出)委員
磯崎貞序君 栗原大島太郎君
近藤鶴代君 廣川弘禪君
三浦寅之助君 森崎了三君
馬越晃君 五坪茂雄君
鈴木明良君 佃良一君
中川重春君 大矢省三君
奧村又十郎君 金井芳次君
米窪滿亮君 石崎千松君
布利秋君 松原一彦君
一、去る十一日次の通り特別委員の異動があつた。
勞働基準法案(政府提出)委員
辭任小川半次君 補闕山下春江君
統計法案(政府提出、貴族院送付)委員
辭任井出一太郎君 補闕丸山修一郎君
一、昨十二日吉田内閣總理大臣から次の通り政府委員を仰せつけられた旨の通牒を受領した。
大藏事務官 今泉兼寛
同 東條猛猪
第九十二囘帝國議會大藏省所管事務政府委員
一、昨十二日議長において次の通り常任委員辭任の許可があつた。
第六部選出決算委員 東隆君
第七部選出決算委員 二階堂進君
第五部選出豫算委員 黒田壽男君
第六部選出豫算委員 島田晋作君
一、昨十二日常任委員長補闕選擧の結果次の通り當選した。
建議委員長 村井八郎君(委員長律島文治君去る六日委員辭任につきその補闕)
一、昨十二日常任委員理事補闕選擧の結果次の通り當選した。
建議委員
理事 小笹耕作君(理事橘直治君去る六日委員辭任につきその補闕)
一、昨十二日常任委員補闕選擧の結果次の通り當選した。
第七部選出
豫算委員 吉澤仁太郎君(仲川房次郎君補闕)
第九部選出
豫算委員 森崎了三君(綿貫佐民君補闕)
一、去る十二日委員長理事互選の結果次の通り當選した。
船員法を改正する法律案(政府提出)委員
委員長 中川重春君
理事
磯崎貞序君 馬越晃君
米窪滿亮君
一、昨十二日特別委員理事補闕選擧の結果次の通り當選した。
統計法案(政府提出、貴族院送付)委員
理事 氏原一郎君(前田榮之助君昨十二日理事辭任につきその補闕)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=0
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001・山崎猛
○議長(山崎猛君) これより會議を開きます。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=1
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002・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 議事日程變更の緊急動議を提出いたします。すなわちこの際日程第八を繰上げ上程し、その審議を進められんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=2
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003・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=3
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004・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。政府はこの議事日程變更に同意せられました。よつて日程の順序は變更せられました。
日程第八、選擧革正決議案を議題といたします。提出者の趣旨辯明を許します。提出者尾崎行雄君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=4
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005・会議録情報2
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第八 選挙革正決議案(尾崎行雄君提出)
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選挙革正決議案
選挙革正決議
近々行はるべき各種の選挙は、新日本の建設を担当すべき職員を選定するものであるから、何れも國家の運命に関する重大事件だが、就中衆議院議員の総選挙は、その中で最も重大なるものである。故に本院議員は、その職責上悉く協力一致以て從來の弊習を攘除するがために盡瘁せざるべからざる責任ありと信ず。
茲にこの決議を爲し、本院の誠意を彰明す。
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〔尾崎行雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=5
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006・尾崎行雄
○尾崎行雄君 總選擧はいずれの時においてもきわめて大切なものでありまするが、今日は平常とは違い、これから日本が生き返るか、あるいはこのまま倒れてしまうか、その境目に立つ手始めの總選擧となりまするから、特別に全國人民の注意を請いたいのであります。
舊憲法もかなりよい憲法でありましたけれども、議會も、政府もその運用を誤つたがために、遂にこの日本帝國を滅亡させるまでに至つた。主たる罪人は、むろん軍閥、官僚でありまするけれども、議員も大體これに贊成をいたし、全國人民は選擧によつて投票し、この亡國の手傳いをいたしたのであります。このたびの總選擧は、新憲法を行うべき一番最初の働きを務めなければならぬ。舊憲法の運用を誤つたために、日本は滅亡した。新憲法の運用よろしきを得れば、この滅亡したる國を再び生かして、獨立國になすことができるかもしれません。またぜひそうしなければならぬ。しかしながら、はたしてその責任を盡すことができるや否やは大問題であります。
現に日本を滅亡に導いた同じ人間でありますから、魂も根本的に入れかえなければならぬ。すなわち今までしたような選擧のしかたをすれば、滅亡の上にさらに過ちを犯して、再び生き返ることはできないという結果に落ちるのである。
〔議長退席、副議長着席〕たとえば、せつかくできたところのよい憲法も、かえつて國に害をなすということになる。つまり憲法の善惡よりか、全國人民の善惡の問題なので、いかなるよい憲法といえども、運用その途を誤れば、國を滅ぼすことができる。現に日本はそれを證明しておる。
またさらに言いかえれば、憲法がよければよいほど運用はむつかしいものであります。知識と徳義に缺けた人間は、惡い憲法ならばどうかこうか運用はできるが、よい憲法は運用できないのがあたりまえの道理である。しこうして遺憾ながらわが國のみならず、また全世界の知識道徳はよほど低い。文化がなお淺い。その中でも日本のみならず、東洋は歐米に比べればさらに一層劣つておると認めなければならぬ。うぬぼれた者は、天地正大の氣ことごとく神州に集まるなどと言つて、日本が世界第一の國のように考えておる者もありましようけれども、それは根本の間違いである。かく公平に見れば、まだ東洋人は全體として歐米人より知識も道徳も劣つておる。從つて憲法の運用もきわめて幼稚である。
殊にわが國現在の議會制度及びその運用は、非常に過ちが多いことを認めなければなりません。諸君の日常なすところのものを拜見いたしますると、現在やつておるこの憲法の運用が正しきものであると考えておいでるかのごとく見えますけれども、現在の運用は、根本的に間違つておるのであります。これを第一に御承知を願いたい。間違つておらなければ、明治、大正の世の中を經て、大分よい國になつたところの日本帝國を、今日の窮境に陷れる氣ずかいはないのであります。(拍手)これを陷れたといふことが、わが國民の知惠も道徳も、まだ舊憲法すら滿足に行うことができないという程度であつたということがわかる。それがわかるならば、さらに進んだところの新憲法は、なおさら容易に正しく行うことができないということだけは、お認めにならなければならない。これを虚僞と迷信とに基いて、勝手なわけもわからぬ理窟をつけて、立派に運用できるがごとくお考えになると、これは亡國の上にさらに過ちを重ねる途であつて、日本を復活せしめることは絶對にできません。
第一、立憲政治は、この議會は――立憲政治によつて開かれたところの議會は、打ちとけて國家全體のために懇談熟議すべき場所であります。討論ではない。懇談熟議、おのおのおのれの主張はあるけれども、それはごく穩やかに述べて、お互いに讓り、力を協せて國家全體の利益をはからなければならない。それが議會の本體であつて、英語の議會などというのは、懇談會という意味で發足しておるのであります。ところが日本では懇談會どころではない。議場というものは討論會のごとく、恐しい、はげしい言葉を用いて、互いに惡口讒謗するのが議會の眞面目と心得て、今日もなおそれを繼續してござるように見受けられます。(拍手)第一にこれを改めなければならぬ。
しかしながら、このことについては私どもは大責任があります。かくのごとき間違つたる議會運用の例を開いたのは、殘念ながら私どもである。(笑聲、拍手)それは懺悔すると同時に、深くお詫びをせなければならぬ。われわれが四、五十年間やつたことがどうやら手本になつて、今日もなお各黨、各派みなやつておいでるようでありますけれども、これは非常に惡いことなのであります。その惡い戰法、戰略をなぜ用いたかということは、あとから詳しく説明いたしますが、容易ならざる原因があつた。
今の諸君は多くはおわかりになりますまいけれども、日本は明治四年までは、はつきり數は知りませんが、一口に三百諸侯と申しましたが、三百ほどの獨立國があつたのであります。藩というと何でもないように今の方は思つておりまするけれども、事實は獨立國なのであります。天皇陛下ありといえども、まつたく權力がない。徳川將軍ありといえども、初め二、三代は力はありましたろうけれども、それからは衰えて、各藩を制禦することができない。
現に末期の徳川は、長州藩を三度征伐にまいりましたが、三度とも敗れて、引きもどつたということをごらんになれば、日本というものは、その當時は地理的名稱であつて、未だ國家をなしておらぬ。國家の實權を握つておつたものは藩であつて、藩は兵馬の權をもつております。生殺與奪の權を握つておる。法律もつくれば、租税もとる。しかして藩札と稱して貨幣も發行しておりました。生殺與奪の權を握り、兵馬を養い、貨幣も發行すれば、何と名づけようとも、これは事實の獨立國であります。この獨立國が三百いくつあつて、日本という地理的名稱のもとに進んでおつたのが、明治四年までの状況である。このことをよく心に入れておおきになりませんと、私のいうことはおわかりにならぬはずであります。
この獨立國のうち、薩長土肥、最も勇敢であつたところのこの四箇國が、連合して徳川を倒した。これを手傳つたものもありますけれども、主として徳川を倒して、日本全體を征服したものは、この四箇國であります。從つてこれが四箇國の連合内閣をつくつた。それが明治維新であります。むろん上には朝廷をいただいておりましたけれども、久しい間、大名よりもなお哀れな暮しを遊ばしておつた名義だけの朝廷でありますから、實際日本を支配したのは薩長土肥の四藩、四藩というよりも四箇國であつたとお考えになつた方がわかる。そのうち、肥前と土佐は比較的兵馬の權も何も弱かつたものと見えて、遂に四箇國の連合から追いのけられて、薩摩と長州の政府になつた。これが明治の初めの働きであります。
その薩長政府の二箇國の支配のもとに立つておるときに、國會が開かれて、われわれは初めて議會に出たのでありまするから、公平に見ますと、日本一箇國は、日本という全體は、わずか薩摩と長州という強國の支配を受けておつたのである。われわれが議會に立つて働いた第一の目的は、この薩摩と長州という強國を何とかしてたたき拂つて、日本を日本人全體のものにしたというのが、われわれの唯一の目的であつたのであります。
これをするのにはどうしたらよろしいか。兵馬の權を握つておる彼らが、生殺與奪の權を握つておる。憲法はあるけれども、かなりよい憲法はつくつたけれども、この運用にあたつては、立憲國として最もたちの惡いドイツ、オーストリアを手本として、かくのごとき議場の構造のしかたまで、立憲政治未發達の國を手本としてつくり、從つて議院法その他議會附屬の法律諸法というものは、ことごとく行政部を主體として、立法部がただその道具になつて、壓力を押えつけるために、議院法でも何でもできておることを御承知にならなければならぬ。
ほんとうの立憲國であるならば、議事堂には、人民から選擧せられた議員のほかは、何人といえども出席を許すべきはずのものでないということは、常識上子供でもわかるはずである。いわんや發言などということは、もつてのほかのことである。議事堂というものは、議員のほかは何人も入れるべきものではない。ただ行政部と立法部の調和をはかるがために、行政部の人の説明等も聽くべき必要があるときには、委員會でも開いて、非公式にそこに行政官を呼び出して説明させるというのが、普通の立憲政治の運用方法である。
その委員會として一番大切なのは全院委員會であつて、ここには全部が集まつて非公式の會を開いて、打ちとけて、政府の役人らにも、委員會にだけは大臣を初めとして出席發言を許し、その他には一切許さぬというのが正しき運用の途である。しかるに不幸にしてわれわれの力では、いろいろの事情もあつて、その一番大切な全院委員會をばろくろく開かなくて、ほかのことで鬪つておつたものでありまするから、今日もただその惡い習慣を手本にして、現在の諸君もやはり全院委員會の運用及び利用ということをなさらぬようであります。これらが根本の間違いであります。
しかして議員というものは――これも歐米諸國の先進國でも行われておらぬから、日本ですぐ行えということは無理でありますけれども、全體議員ともなるべきものが、みずから立つて候補者になつて、どうかおれを選んでくれなどということは、民主主義の精神に背く働らきであります。まことに全國の人民が、魂のはいつた人間であるならば、選擧人の方が集まつて適當な人を選んで、どうかおれ達の生命財産を、おれ達に代つて保護してくれといつて、議員に頼むのがほんとうの筋道である。この筋道は小さいところでは行われておる。町村の總代とか、ある團體の總代を選ぶ場合に、日本においても、總代となるべきものが運動して、どうかおれを總代に選んでくれなどという見苦しい働きはせぬと思います。みな頼む方の人が費用も何も受持つて、どうかあなたはこの村を代表し、あるいはこの團體を代表して、われわれの利益を保護してくれといつて、頼む方が運動すべきはずのものである。
すなわち議員もその通りにせなければならぬというのが根本の理想でありまするが、これはまだ歐米にも滿足には行われておりません。ある程度までは行われておる。選擧人の方から頼む。日本においても少しも行われておらぬ。しかし私の選擧區のごときは、それであります。明治二十三年のときから、私が頼むのではない、お前達が希望するならば議員になつてやろうということが、私の立場でありましたから、入費なども、土地の有志者が毎年五十錢づつ持ち寄る。そんなに大勢持ち寄る必要はないが、せめて一萬人も、五十錢づつ選擧費その他の運動費として持ち寄る者があれば、毎年五千圓は集まる。議會が二年か三年ごとに解散をせられるとしても、まず選擧入費は餘るほどあるから、それで選擧入費を支拂い、殘つたらばそれを政治教育に使えというのが、私の二十三年以來の立場であります。(拍手)
それが私は正しい途であると考えておりますから、全世界にこのやり方を廣めたいという希望はもつておつたけれども、無力不徳にして、日本にすら廣まりません。大部の人にはやらせましたけれども、どうしても實際に行われない。私のところでは、ちようど三代そのことを行つておりますから、今日ではややその規則になつております。現にこの前の總選擧のときのごときは、私はごらんのごとく老衰して、目もきかず、耳も役に立たぬ。とても議員の職務は務まらぬのみならず、國を亡國に導いたという責任をも痛感いたしまして、私は辭退した。もう議員には決してならぬというお斷りは發しましたけれども、從來の慣例が殘つて、やはり選擧區の人は私を選んだ。むろん私は一錢の費用も、一通の手紙も出しません。三代も養成したのであるから、それであつても當選はいたしました。これが正しき道である。
けれども私は、それをすぐ日本全國に行えなどとは申しません。歐米にすらもまだ滿足に行われておらぬ道である、日本において行われぬのは無理はないから、諸君がみずから候補者となつて、自分の金を使つて、ほとんど哀訴嘆願のごとく、選んでくれというような運動をするものがあつても、心には笑いますけれども、表はとがめずにおります。けれども行く行くは、その本筋も行わなければならぬということだけは、今からお考えを願いたい。決してそこまではいかぬけれども、この次は國家を生かすか、もうこのまま殺してしまうかという、國のわかれ目の第一囘の總選擧でありまするから、これまでやつたようなやり方は、絶對におやめを願いたいのであります。
これまでやつた通りのやり方を繰返しますれば、現在のような議員ができます。現在の議員は、はたして議會の責任を盡しておるとお考えになつておりますか。私は實に申しわけないが、自分はその責任の十分の一も盡していないということを自覺しております。およそあたりまえならば、この大戰爭が終つて一年半も經ちましたならば、日本は戰爭の禍いをいくばくか輕くする方に向わなければならぬはずであるが、現在の日本の状態はいかがに相なつておりますか。一年半ばかりの間に、衣食住その他の生活に關する困難を感ずるところの悲慘な状態が、どれだけか直りましたか、直らぬか。
私は目と耳がふさがつておりますから、日本の現状を親しく見ることはできませんけれども、たまたま私の耳目にはいるところによれば、むしろ惡くなるとも、よくはなつておらぬようであります。なぜでありますか。行政部も立法部も、當然盡さなければならぬ職務を盡さないから、惡くなるのである。あたりまえのことさえすれば、惡くなろうはずがないのであります。あれほどの大戰爭はやんだ。これからは少しでもよくならなければならぬが、現在なお惡くなりつつある。また惡くなるために手傳つております。今日の状態は、一軒でいえば、父母が今ともに大病で、生きるか死ぬかの境に立つておるときである。このときにあたつて、兄弟喧嘩を枕もとでしておつて、それが父母の病氣にどういう影響を及ぼすかということは申すまでもなくわかつておる。今日本はそういう状態である。日本は今瀕死の状態である。獨立權を失つて、外國軍が駐在しておる、あわれはかなき状態である。父母が死にかけておる、大病にかかつておると同じ状態にある。
そのときにおいて、行政部、立法部は何をしておる。議會では倒閣運動をいたします。政府彈劾をいたします。内閣更迭も企てる。まるで父母の枕もとで毆り合いをしておると同じような状態であることを、諸君は何とお感じになるのか。これが民主主義である。議會政治であるとお考えになつたら非常な誤りである。この他すべてのことが根本を誤つて、相談場所を喧嘩場所とすることから始まつて、今日のごとき悲慘な状態を釀しておるのである。
現にこの間のゼネラル・ストライキのごときも、もしあれをやつたならば、あのときによほど血が流れております。これが根據となつて、暴動内亂は各地に起つたであろうと思います。これはあまり私が悲觀し過ぎるというお感じもありましようけれども、わが國民は、きわめて感じの鋭い、輕佻浮薄な人間でありますから、かつては、たしか大正年間であつたと思いますが、米が一石五十圓になつてすらも、全國に三十何箇所という暴動が起つて、兵隊を繰出しました。米が一石五十圓どころではない、五百圓であるか五千圓であるかわからぬように上つていつて、その上に衣食住が非常に缺乏しておる今日でありますから、動機さえあれば、全國に暴動内亂が起るというくらいなことは、たれでも考えなければならぬはずのものであります。
しかるに議會その他のものは、暴動内亂の種まきとなるべき運動をいくらでもやつておる。政府も議會もこれをとめようとはせぬ。いよいよこれは大變と、私は眠ることもできず心配しておると、實に殘念なることであるが、まぎわに至つて、アメリカの司令部がこれを差止めました。實にはずかしいことであります。國家の治安を保つために必要な措置を、日本人はこれだけおつても、行政部も立法部も少しも施さぬで、駐屯軍に――それを止めてもらつて、ようやく治安を維持してもらつたということは、實に殘念きわまることであります。しかしながら、彼らが止めてくれたから、どうかこうかまだ今日の状態を維持しておるのであります。止めずにおつたら、もうよほどひどい流血事件が各地に起つておるだろうと思います。
これから後といえども、その通りであります。二千年の帝國でありながら、一國の治安を維持することができない。秩序を維持することができない。官紀を維持することができない。屬僚屬官たちは、長官に向つて喧嘩をしておる。世の風教を維持すべき學校教育に當つておるところの教員らは、職務をなげうつて東京に出て、増給運動をしておる。實に驚くべきことであります、しかしてその増給運動なるものが、いくばくか彼らの、せめて命でも助けることになるならば、まだ間違いながらも多少の理窟はありましようけれども、あの運動をすれば生産は減るし、消費は殖える。運動するだけでも腹はよけい減る。着物もげたも壞れる。生産が減り、消費が殖えるということは、札を下落せしめるということである。さなきだにインフレーシヨンになるという心配のあるときに、札を下落せしめる運動を、全國總がかりでやるなどということをいたしますれば、手當や給料をいくら殖やしても、食つていくことはできません。そのくらいのことは子供でもわかるはずである。
現に、運動を始めたころは、一月に六百圓もあればどうかこうか生きていけるというものもあつたそうですが、運動の末に至つては、もう七百圓では足らなくなる、なおもつと續ければ千圓にしても生きてはいけません。その例はヨーロツパに今囘もいくらもあるが、この前の大戰爭の後にもいくらもある。その事實を眼前に見ながら、それをやるというに至つては、徳義の不足のみならず、知識も不足である。この知徳ともに缺けて、向う見ずの輕薄なる人間をこのままにしておけば、日本は結局自滅するほかにしかたがない。私は不幸にしてこれを深く確信するのであります。
なお一言つけ加えておくのは、諸君は、尾崎は氣違いのようなことを言うとお感じになるだらう。ごもつともなことでありますが、私がこれまで五十年間の經驗によりますと、よい方の豫感で私の見込みが當つたことは、ほとんどありません。しかしながら惡い方の見透しは、大抵當つております。それゆえに、自分がこう感じて、みずから非常に震えておるのであります。これで行けば、日本は獨立を囘復することはできないという豫感が、私には非常に強いのである。不幸にしてこれが當るであろうと思います。
この前のような總選擧をこの次に繰返し、國家を滅亡に導いたところの舊憲法と同じように新憲法を運用するならば、これがだんだんつのつて、遂に自滅に陷るほかに到達點はないと私は感ずるのであります。實に殘念であります。たびたび私の豫感が當つたから、今度も當りはせぬかと憂えるのであります。當らなければ、まことに祈つてもない幸いでありますが、不幸にして當るであろうと思う。ここにおいて私は、議會政治を根本的に改める、今まで五十年間やり來つたことは、根本から間違つているということを御承知願いたいのである。これには多少理由があるが、そのことは後に詳しく説明いたします。
しかして選擧のことは、從來やり來つたことを根本的に改める、また選擧民に向つても、私は根本に心がけを改めよということを、今ここでも忠告しておりますが、これからはなお忠告するはずであります。
第一に、金をよけい使う候補者には、もうそれきりで投票を入れるなということを私は言うのであります。おのれの金すらもむだ使いする人間を、生命財産の監督者に選びますれば、人の金をもなおむだ使いすることは請合いであります。ゆえに選擧費を多少でも使う者は、議員たるの資格なきものと鑑定せよと、私は全國選擧民に告げるのであります。
第二には、縁故情實、殊に職權等を濫用して、縁故情實をたどつて投票を集むるような者には、絶對に投票を入れるな。かくのごとき者は、やはり縁故情實によつて、自分のためにはいかなる國家の損害でも顧みずやるという資格を具えている者でありますから、さような者には入れるな。
第三には、これは細微なことでありますけれども、他にも關係があるから述べまするが、多くのはり札などをはつて、同じ名前を十枚も百枚もはり出すというような人たちには、もうそれをもつて、この人は物のわからぬ人間であると判斷して、投票を入れるなということであります。自分の名前の、しかも一つの名前に片かなと平がなの振りがなをつけて、三樣に書いたはり札を、立派な紙に――この紙不足で必要な文書すらも出版もできない場合において、同じ所に何十枚も何百枚もはり出すというのは、ほとんど發狂的人間であると見てよろしいのであります。このかなをつける名前を使うなどということが、日本の今日の非常な失態であつて、全體名前というものは、人に知らせるためにつけるのである。讀めないような名前は、つける必要はないくらいのことは、わかりそうなものである。それが日本全國古來の惡習慣のためにわからぬで、殊に上の方の名前、恐多いが、皇族あたりのお名前になりますと、私どもくらいの知識では讀めません。なぜ讀めない名前をつけるか。讀めない名前をつける必要はないではないか。みなこれは教育の弊害である。中華民國の二千年か三千年前の古典に使われた文字を引出してきて、お名前に用いる。讀めようはずがない。年號もその通りで、昭和とか大正とか明治などという、みな中華民國の古典から出してつける。これをつけるがために、大化といい、元龜、天正といつても、何年前のことか私どもにはわからない。わざわざあんな名前をつけて、わからぬようにするというほど愚なことはありませんけれどもこれがすべて日本の古來の教育の根本に間違つている原因となつているのでありますから、これは他の方法で私は改めることを主張します。漢字を廢するということになれば、こういうばかげたことは自然にやむだろうと思います。
要するに今度の選擧には、これまで何十囘かやつたような選擧を、根底から改めて改良をするという心持をもつてお臨みを願いたい。それについて私は、天皇陛下は御大權の大部分を人民に御讓與になりましたけれども、古來日本の教育からして、政治的でなくとも、大層尊ばれて、全國民を動かす力がありまするから、今囘の總選擧は、既往の總選擧とはよほど違うという意味で、おのれの責任を明らかにすると同時に、その御趣意を明細に述べた詔を請いたいのであります。選擧肅正のために必要なる詔を、天皇陛下から下し賜わらんことを希望するのであります。このことは議會の決議としてお望みになることもよかろう。あるいは政府が氣がついて詔勅を奏請するもよかろう。どうしても陛下がいくばくかの責任、國家を滅亡に導いた責任をお感じになつて、これを生きかえす方に働くには、この選擧から改めなければならぬぞという懇切な詔を賜わりたく考えておるのであります。(拍手)
既にこれを陛下にお願いする以上は、御同樣も前非を悔悟して、魂を改めて、次の選擧に臨むという事實を示さなければならぬ。それはどうしたらよろしいかといえば、今日は滅亡状態に陷つて、外國の軍隊の支配の下に住んでおる世の中でありまするから、この時にあたつて、政黨政派などを立てて互いに軋轢するということは、實に國家有害のことであるから、當分日本が立ち直るまでは政黨をば解散するということを、斷然各黨派が御贊成にならんことを熱望いたします。これだけのことをせなければ、陛下だけに詔勅をお願いするということは、私は無理だと思います。上下一體として、陛下は責任上改めよという詔勅を發し、議會の方は、これまでの國を誤つた政黨政派――亡國の手傳いをやはり政黨政派は大いにしたのでありますがゆえに、これを解散する。
しかしながら立憲政治は、結局政黨政治でなければならぬはずのものでありまするから、國家が囘復し、進駐軍も撤退いたし、日本が純然たる獨立國となつて、もうあたりまえに生きていくことができる場合になつたならば、ここで立派な政黨をつくるという、あたりまえの道を歩いてよろしいが、今日のごとく生きるか死ぬるかわからぬときに、政黨政派をつくつてお互いに軋轢すれば、親を殺す助けとはなるけれども、親の病氣を治す手傳いには何にもなりませんということは申すまでもない。ゆえにどうか、せつかくつくつた政黨ではありまするけれども、今囘の選擧に臨む前には、各黨各派全部解散をいたして、擧國一體となつて選擧をやる。眞に正しい人、國のためになる人、縁故情實をやらない人、徒黨的働きをなさない公平なる人を選ぶということの立場で御出陣を願いたい。
實を申しますると、政黨の經歴は、今生きておる人のうちでは、私が一番深いだろうと思います。この深い經驗から見ると、日本人の、久しい間植えつけられた封建的思想感情のもとにおいては、ほんとうの政黨というものはどうしてもできません。徒黨はできます、封建的徒黨はできます。日本を三百いくつの團體にわかつて、お互いに城を築いて攻め合うような思想感情をば繼續するところの政黨はできます。これは徒黨であつて、政黨ではございません。
私が經驗するところによれば、大隈候をいただいてつくつた改進黨も、板垣伯をいただいた自由黨も、また私は伊藤公をいただいて政友會の組織にも參加して、これらに働いていましたが、この三黨派とも、伊藤がやつても、大隈がやつても、板垣がやつても、どうしても政黨にはならなかつたのであります。みな徒黨になつてしまつた。無理はございません。數百年の間養い來つた封建的思想感情が――一朝一夕にして、半世紀やそこらで、立派な政黨がつくれると思つた私どもが、若氣の至り、むしろ無知の結果であつた。できません。どう働いてもできぬ。すぐ封建的徒黨になつてしまう。ゆえに黨でこうきめる、黨議でこうきめれば、善惡正邪を問はず、それに服從した。それは政黨ではない、徒黨であります。
これは諸君もこの間示したように、私が總選擧について、一と一と合わせると二となりますぞという意見を出したところが、私は滿場一致で贊成すると思つて、だれにも相談せずに突然と出したのでありますが、不思議なことには、新しい議員は大低贊成いたしました。私の一番縁故の深い自由黨、進歩黨の人は、多分こぞつて反對をしたと思います。驚くべきことである。何十年間私と共に働いた人が、自由黨と進歩黨の中にはまだ多少殘つております。ゆえにこの意見には、まだ政黨の關係も新しい議員よりかよく知つておるべき自由黨、進歩黨の人が、第一番に私に贊成しなければならぬ筋道である。しかるに反對した。これが正邪曲直を何も問わず、國のためを考えず、黨の決議、すなわち黨の面目を維持するためには反對しなければならぬと考えたために、良心を背いて反對したものであると私は斷定する。(拍手)
その結果二度ほど恥をおかきになつた。第一の候補者は放逐せられた。第二の議長は辭職を餘儀なくせられた。これだけ恥をかいたならば、もうおわかりになつたと思つているが、まだわからないようであります。(拍手)もう徒黨的思想が骨髓にしみこんでいるという證據は、ここに現われている。これで總選擧に臨めば、現在の結果よりか惡くなつても、よくはならぬことは、私は確信しております。どちらが當るか、いま二、三箇月經つてみれば結果がわかりますから、よく御記憶を願いたい。私一個の意見が當るか、諸君の意見が當るか、見てごらんなさい。私は今の精神で選擧に臨めば、次の總選擧は、現在よりかもつと惡い結果を生ずると豫感しております。どうぞお試し願いたい。
以上は、政黨をもしどうしても解散することができないのならば、どうかみな合同なさることを希望する。主義が違うとか、方針が違うなどということを、理窟ありげに述べる人がありますけれども、それは事實に合わない。違つた事實であります。今日のごとく日本には四つか五つの政黨がありまして、どれも過半數をもたない政黨でありますから、どれの黨派に投票を入れて勝たしても、その意見を行うことはできません。現に自由黨と進歩黨が連合して政府黨となつている。この黨派は多少意見が違うから、二つの黨派を結んでいるのである。もし意見が同一であつて、二つの黨を結ぶというならば、これは政黨ではない、徒黨である。何か他の目的で徒黨を結んでいるものである。意見が同一であるならば、一つにならなければならぬはずである。違うから黨を立つている。違うものが連合するならば、おのおのその主張を曲げて、ある程度まで讓らなければ、連合的働きはできません。自由黨の意見も行われなければ、進歩黨の意見も行われない。兩方の意見が行われないで、ただ政府に立つておるということは、國に利益は一向ないのであります。むしろ害の方が多いかもしれない。ただ多少讓り合つても、主義政策が幾分か行われるということであれば、それだけが國のためになりますけれども、その他は害になる。お互いに讓り合つて、牽制して、曖昧な、中途半端な働きよりできないというのが、今日官紀紊亂、秩序亂れて無政府状態に陷つた一つの大原因と思います。
ゆえに一黨派が絶對過半數を占める見込みがない間は、黨派に投票を入れるということは、結局無意味になるのであります。それを反對に、黨派は問わず、政見も問わず、國家がこの滅亡状態に陷つておる以上は、政見や黨派などという、そういう小さいことは言わないで、ただ一に國家のために、この國家を立て直して獨立國にするためには、反對黨の主義主張でも、正しければそれに贊成するという、眞の正しい人を選ぶことが一番大切であります。黨派に入れた投票はむだになることは、絶對過半數を占め得ない間は明らかであります。
アメリカ人やイギリス人は、二大政黨對立でありまするから、人を選ばずして、政黨の主義方針に投票を入れよということは、まことに意義のあることであり、それが絶對過半數を得れば、すぐ内閣を組織してその主義方針を行うことができる。これは二大政黨對立の場合にして初めてできることである。三黨以上の黨派がある時には、讓り合うよりほかに、政府を維持することもできない。讓り合うということは、己れの主張、政策をある程度曲げるということである。どれだけ曲げるかわからぬものに投票を入れるということは、結局無意味な投票に近いものであるということを御承知願わなければならぬ。
ゆえにどうしても合同もせず、解散もできず、おのおの政黨の立場に立つならば、全國選擧民は、なるたけそういう人には當分の間投票を入れないこと、國家が生き返つて、衣食住が滿足にできるような事態に到着するまでは、黨派の人には投票を入れるなと私は宣傳するが、諸君もまたどうかその立場で選擧に臨まれたいと希望いたします。全く無益なことであります。よし絶對過半數を得る見込みがあつても、今日外國の軍隊が日本に駐屯しておるというはずかしい間は、黨派に入れないで、まず黨も何も持たないで、全國一體となつてお互いに讓り、お互いに助け合つて、一刻も早く日本を生き返らせるように努めることが、眞に忠君愛國の道と考えております。
わが國人は、忠義とか愛國とかいうことはおそろしく心得ておるがごとく言いますけれども、もともと虚僞と迷信を根本として教えた忠君愛國の道でありますから、實際に當ると、全く無意味に諸君はやつております。いやしくも忠君愛國の心があるならば、今日この状態の下において、別々に黨派を立てて爭い合つて、お互いに主義主張の妨害をするというようなことは、できようはずがないのであります。一番困る米でも、政府が強權で出せと言えば、いや出すなという。どつちへも行けないで、いよいよ食うことができなくなる。萬事その通りなのであります。
この前も申した通り、都會に火事が起つた時には、火の消し方とか、持場の爭いをやつている場合ではない。めいめいの流儀によつてまず火を消して、しかる後、次の火事を待つまでの間には、消し方の流儀もよかろう、持場の爭いもよかろうが、火事のまつ最中に喧嘩をして、都會をみな燒土にするということは、實に不心得の至りでありますが、現在もそれをやつておる。
ゆえに日にますます惡くなる。今後いよいよ惡くなる。今日わずかに治安を維持しているのは、アメリカの兵隊があるためである。あれが引揚げてごらんなさい。必ず暴動内亂が各地に起り、強盜、窃盜がますますはげしくなる。はなはだしきに至つては、會議中議院に押し寄せるとか、總理大臣官邸に泊り込む。實に驚き入つたことである。國家が生死の關頭に立てる場合において、いやしくも忠君愛國の心のある者が、そんなことができるはずのものでございません。そういうことをすればするほど國は惡くなる。
殊にわが國においてはそうであります。同じことでも、沈着な民族と輕率な民族とでは、していけないことがたくさんあります。大衆運動やストライキのごときは、沈着な歐米人では、相當に許しても害はありません。ところが人殺しの好きな日本人――私は人殺しの好きな日本人という言葉を使いましたが、これもどうぞ數字を算えてごらんなさい。明治以後、日本一流の人間で暗殺せられた者、また暗殺されかかつて致命傷を受けた者が幾人ありますか。歐米の文明諸國すべて合わせて、二百年間ぐらいの間に殺されただけが、日本において明治以後殺されておる。多少の虚名でも何でもありながら、生きているのは私一人だけであります。あとの者は皆殺されるか、怪我をしております。そういう人殺し好きの、亂暴な、感じやすい人間が、大衆運動とかゼネストとか、歐米人の眞似をすると、これは内亂暴動が絶えません。暗殺強奪の奨勵となる。(拍手)政治をする以上は、國民性を考えなければならぬ。國民性も考えないで、ただ外國の眞似をするというに至つては、非常な禍の種である。
私は元來共産主義者には非常な同情をもつている者であります。今なすところの仕事はよくわかりませんけれども、なすところの働きには不同意の點が多いかも知れませんが、その主義方針には多大の同情をもつておる。どうかあの諸君の希望を通るようにしたいという考えは、無力ながら始終もつております。またその主張も、ほんとうには理解しておりませんから、どれがかの人々の本心か私にはわかりませんが、私は言葉は少し違うかも知れませんが、均産主義者であります。産を均しくする。共産というと、何か弱い人も強い人も、馬鹿も利口も、共同生活でもする主義のように考えられますが、私はそれには不同意であります。私はそれには反對であります。
人間は力次第に生活をすべきものであります。富める者があくまで貧しき者を救うということは、よいことでありますけれども、それは義務や法律として救うのでなく、人情として救う。人間は力次第、生活はすべて共産ではなく均産――産を均しくして、力次第に一代だけ暮すのが、人間世界で一番よいことを思つております。ゆえに共産主義と多分大同――近いでありましようが、私はよほど前から均産主義を主張している者であります。故に官職の相續は惡い。相續はすべて惡い。均産主義からいえば、爵位の相續も惡い、財産の相續も惡い、裸で生れて、育つことは親に育てられて、あとは獨立獨行して力次第、どんなぜいたくな暮しをしてもよいし、どんな貧乏な暮しをしてもやむを得ぬ。力相當に生きるというのを、私は均産主義と申している。これが一番よい途と考えております。
もし共産主義者がそこまで同じであるとおつしやるならば、私は共産黨の仲間をば最も重んずるものである。しかしその人たちが、もしロシヤがやつたようなあの道を踏んで共産を行おうとお考えになるならば、私は殘念ながら絶對に反對せざるを得ない。(拍手)ロシヤはロシヤらしく行い、日本は日本らしく行わなければならない。ロシヤでは、皇帝、皇族ことごとくみなごろしにしてマルクス主義を行いましたが、日本ではそんなことをする必要は少しもないのである。あたりまえの手段で正しき道を踏んで行えるのでございます。少し餘談にわたりましたが、政黨解消という點においては、そこまで言わなければならぬ。
殊に共産主義に對して、私自身もおわびをしなければならぬが、殊に國家がおわびをしなければならぬ。日本帝國は、何にもわからぬ連中が寄り集まつて、共産主義と稱するものを非常に虐待いたしました。承われば、この議員中にも、十八年も牢に入れられたお方があるという。驚き入つたることである。えらいお方であると私は感心している。私は一日牢に入れられてすらも憤慨にたえなかつた。二、三年入れられたのでは、私は死んでいるだろうと思う。十八年も辛抱するということは、實にえらいお方である。(笑聲、拍手)
いわんや、その方々は知識においては非常にすぐれた人であると見えて、共産主義者の述ぶることというのは、ときどき傳え聞くところで、いかにも私は感心することが多いのである。ゆえにこの方々をして、どうか正しき道を踏ませたいと思つておりまするが、それには國家が謝罪せよ、これまで虐待したことは非常に自分たちが惡かつたというので、國家全體が謝罪をして、おわびをして、向うの人にもそれを改めてもらうという手續を踏まなければならぬと思います。(拍手)十年以上もああいう無意味な虐待を受けますと、どうしても復讐心は非常に強くなるのが人情であります。殊に日本人は封建教育の結果、世界に類例のないほど復讐心が強いのであります。この日本人民の知識にすぐれた者を、いわれなく片はしから牢に入れる、何千人も入れたでありましよう。中にはよほど殺したものもあるそうである。
すなわち國家みずからこういう病人をつくつたのであります。これらの人が病的にロシヤの眞似をしたいと思うならば、これを私は病的と言います。その病源は國家がつくつて、骨髓にしみこむまで國家がこれを虐待したから、その病氣が起つたのである。ゆえにこれを治すには、天皇を初めとして國家がまず謝罪して、しかる後どうぞ改めてくれと哀訴嘆願すべき筋道のものと私は考えております。自分の惡いことをばたなにあげて、人の身をとがめるということは、實に不都合なやり方であるが、わが國にはその流儀が多いのであります。
要するに冷靜にお考えになつて、今日は黨派に投票を入れてもそれは實行できないで、國の生き返るじやまになつて、お互に黨派爭いで無益な喧嘩をするばかりの手傳いになるということを、どうぞあまねくお知らせを願いたい。現にその通りやつております。
一年半の間に何をいたしました。自由黨なり進歩黨なり共産黨なり、あらゆる政黨が何をいたしました。これぞといつて、あげて示すべきものは何にもないと思います。今日の日本は無政府状態、官紀紊亂、上下混亂して、丁の屬官雇人から大臣までが警告を受けるというような世の中をつくつたのは、彼らの人がみな手傳つているのであります。
それからたくさん改めなければならぬことがあります。今の政務官という――政務次官とか參與官などというものが、今では議員中には名譽の職となつておりまするが、これは立憲主義から申しますると、よほどの惡制度であります。(拍手)けれども、私どもはやむを得ずこれをつくつた。なぜといえば、薩長という二つの獨立國が日本を横領して、もうあたりの者をば――日本人を入れないというので、薩長及びそれらの手下、私どもはその手下の主なる者を、薩長の歸化人と申しております。歸化した人間――大分わが國には歸化人がおります。言葉なども、薩摩言葉を學んだ者がわれわれの知合いにはかなりあります。みな歸化人である。かくのごとく薩長にこびた者がすべて諸官省を占領している。
たまたま私どもが、政黨の力をもつて内閣にはいつて、一省の長官となつて行つてみると、祕書官と敵の城に籠城したような境遇に立たされたのであります。あたり近所みな敵である。次官、局長、あらゆる者がみな敵である。ただ大臣以下祕書官と一人か、二人、敵の陣營に籠城するというのが、明治年間の實情である。これではどうしても議會政治に近づくことができない。行うことができぬのみならず、近づくことができぬ。何とかして行政部内のことを、多少立法部の人も知らなければならぬけれども、彼らは固く門戸を閉ざして、薩長人及び歸化人のほかは入れないことにしておりまするから、はいることができない。そこでやむを得ずむりに政務次官とか參與官などというものを設けて、これだけは入れてくれよという談判をして――脅迫的に談判をして、ようやくそれが行われてできたのであります。
そういう状態のもとにおいてしたのですから、せつかく政務次官や參與官を入れても、今ではどうか。諸君は大層働いているかもしれないが、私どもがしている間は、ただ給料取りの食客同樣な位置でありました。(拍手、笑聲)こんなものでは役に立たぬ。まことに立憲政治から言うならば、あんなものを入れる必要はなかつた。議員みずから常設委員を設けて、各官廳の必要な所にはみなはいつて行つて、取調べさすべきものであります。ところが常設委員會を設けることは、議院法で禁止せられておつた。これは薩長が議院政治を行わせない豫防法として、すべての法律や規則をつくつているからむりはないが、入れない。ゆえに今日はあんなものを設けるよりか、早く諸君が常設委員を設けて、各廳の必要なことは、みな常設委員を設けて、向うの者をこちらの委員會に呼び出してそれを調べるという手續をせなければ、民主主義の實をあげることはできない。
これまでのやり方は、すべて行政部が主體、議院は厄介な補助機關ということで、薩長軍閥、藩閥政府はすべての組織をしたのである。この組織が惡いということは、立憲政治の手本として國民が學んだところのドイツはどうなつた。滅亡しているでしよう。オーストリアはどうなつたか。これも滅亡している。
およそ帝室制度なども、日本は初めはロシヤ、後はドイツを手本にしたのである。われわれは絶對に反對をした。日本の帝室に帝室財産などをつくる必要は少しもない。これは皇帝が敗れて、ホーヘンツオルレン伯などと稱えて外國に逃亡でもしたときには、こんなものが入用になるかも知れませんが、そんな危險のちつともない日本においては、少しも必要ないと私は書いて公にして、たしか新聞の發行停止まで食いました。しかしその通りになつておる。すべて惡いものを手本にしておる。皇室も手本にしてドイツ通りにすれば、わが皇室もおのずからドイツ皇室と同じ状態に陷るべき筋を履んでおるのである。
この前の大戰爭のときには、ドイツ皇帝をば、イギリスではロンドンにひつぱつて來て、裁判にかけて死刑に行うというのが、イギリスの大多數の意見でありました。そのことを萬國會議から歸つたロイド・ジヨージが議會に報告したときに、私はたまたま傍聽席におりましたが、あの冷靜なイギリス人が、割れるがごとき大喝采をいたしました。日本はその道を履んでおるのであります。日本も、皇帝が主權を人民に讓つたくらいで、安穩にしておられるということは、文化の進歩したおかげで、これが三十年前であつたら、やはり向うは死刑に處するというべき状態でありましたろう。これらのことも一通りは――眞に忠君愛國の心があるなら、お考えにならなければならぬ。
要するにすべてのものを根本的に變えなければならぬ。今まで四、五十年間やつて來た議會の慣習は、ことごとく惡いということをお考えにならなければならぬ。もし材料がなければ、書記官に命じて、歐米のよい立憲國――君主國ではイギリス、ベルギー、スエーデンくらい、共和國ではアメリカあたりの議院の實例を調べさせれば、材料はいくらもある。今、日本の議會は、帝室も滅亡し、國家も多分完全に滅亡するだろうと思いますが、ドイツ、オーストリアの手本をすべてやつておるのである。諸君も知らず知らずその先例を履んで、亡國を手本として議會政治をやつておる。選擧も政治もみな亡國の手本でやつておいでになるということを、どうか御承知願いたい。
あまり言葉を單純に率直に申しまするから、諸君の感情を損うかも知れませんが、私の言うことはすべて事實に基いた意見であります。調べさせてごらんなさい。諸君が現在やつておることは、みな亡國の手本であります。亡國でない少黨分立の中で、やや手本になつてあるのは、フランスあたりを手本にする方もあるかも知れませんが、これは非常に惡い。あれほど文化の進んだ國で、どうしてあんな運用をしておるか、私には解し得ません。黨派が大層たくさんある。ゆえにフランスにはよい内閣をつくることはできません。大抵の内閣が五、六箇月の壽命であります。私の知つておるある總理大臣のごときは、一人でありながら九度總理大臣になりました。そんな國で、とても立憲政治などがほんとうに行われるはずはない。
どうしても行く行くは、度量を大にして、小異は捨てて大同について、二大政黨くらいに日本を鍛えあげた後には、政黨内閣は大層よいものになる。今の文化程度では、まず政黨内閣がよい。しかしそれは二大政黨にすることのできるくらいの度量と、特に知識の發達した人間でなければならぬ。今のように、いくつもいくつも立つて、お互いに國家をよそにして親の枕もとで喧嘩騷ぎをしておるようなやり方であつては、立憲政治は決して發達いたしません。
實はこれはまだ選擧肅正の決議案の序文でございます。これからが私の本旨にはいりたいのでありまするが、ごらんのごとく何分老衰をした男で、聲もひどくかれましたから、これから後の本問題に對する説明は、一通りわかるように書いておきましたから、ここで讀みあげてもよろしいのであるが、聲も續かぬと思いまするから、ここに殘しておいて、書記官に讀んでもらうか、あるいは讀まずとも、私の演説の補遺として官報にでも掲げていただけば、それで壇を降つた方が、諸君のためにもよかろうと思います。
はなはだ長い間、お聽きにくい言葉で申譯ありませんけれども、これは誠心誠意から出たことであつて、この通りにしなければ、日本は決して生き返ることはできません。今の通り行けば、惡くなるばかりである。その一番の證據は、次の總選擧の結果をごらんになると、すぐわかる。必ず今度より惡くなります。どうぞそれだけは御記憶を願いたいのである。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=6
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007・井上知治
○副議長(井上知治君) 尾崎君の申出につきましては、議長において適當に取計らいます。
採決いたします。本案に贊成の諸君の起立を求めます。(「案の本文を讀んでもらわぬとわからぬ」と呼ぶ者あり)本決議案の趣旨に贊成の諸君の起立を求めます。(「何の案だ」と呼ぶ者あり)改めて申し上げます。尾崎行雄君提出、選擧革正決議案、これに贊成の諸君の起立を求めます。
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=7
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008・井上知治
○副議長(井上知治君) 起立多數。すなはち本案は可決されました。(拍手)
日程第一、昭和十四年法律第七十八號を改正する法律案の第一讀會を開きます。大藏政務次官北村徳太郎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=8
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009・会議録情報3
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第一 昭和十四年法律第七十八號改正する法律案(寺院等に無償にて貸付しある國有財産の處分に關する件)、(政府提出) 第一讀會
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昭和十四年法律第七十八号を改正する法律案
昭和十四年法律第七十八号を次のように改正する。
第一條 社寺上地、地租改正、寄附(地方公共團体からの寄附については、これに実質上負担を生ぜしめなかつたものに限る。)又は寄附金による購入(地方公共團体からの寄附金については、これに実質上負担を生ぜしめなかつたものに限る。)によりて國有となつた國有財産で、この法律施行の際、現に神社、寺院又は教会(以下社寺等という。)に対し、國有財産法によつて無償で貸し付けてあるもの、又は國有林野法によつて保管させてあるもののうち、その社寺等の宗教活動を行うのに必要なものは、その社寺等において、この法律施行後一年内に申請をしたときは、社寺境内地処分審査会又は社寺保管林会分審査会に諮問して、主務大臣が、これをその社寺等に讓與することができる。
社寺境内地処分審査会及び社寺保管林処分審査会に関する規程は、勅令でこれを定める。
第二條 この法律施行の際、現に國有財産法によつて社寺等に無償で貸し付けてある國有財産で、前條第一項の規定による讓與をしないもののうち、その社寺等の宗教活動を行うのに必要なものは、同條同項の申請をしたものについては、讓與をしないことの決定通知を受けた日から、六箇月内に、その他のものについては、この法律施行の日から、一年内に、申請をしたときは、社寺境内地処分審査会に諮問して、主務大臣は、時價の半額で、隨意契約によつて、これをその社寺等に賣り拂うことができる。
前條第一項に規定する行政処分について、訴願をした者は、前項の期間満了後も、その裁決書を受領した日から、なお三箇月内に、前項の賣拂の申請をすることができる。
第三條 第一條第一項又は前條第一項の規定によつて、讓與又は賣拂をする國有財産の範囲は、勅令でこれを定める。
第四條 第一條第一項又は第二條第一項の規定によつて、讓與又は賣拂をすることができる國有財産(以下從前の土地という。)が、その讓與又は賣拂前に、耕地整理法による耕地整理又は都市計画法若しくは特別都市計画法による土地区画整理の施行地区に編入せられた場合において、その從前の土地に係る換地処分に関して、國が清算金の交付又は補償金の支拂を受ける場合は、主務大臣は、從前の土地にあつた社寺等が、換地処分の告示のあつた時から、一年内に、申請をしたときは、第一條第一項に規定する從前の土地に係る清算金又は補償金については、その金額に相当する債権を、第二條第一項に規定する從前の土地に係る清算金又は補償金については、その金額の半額に相当する債権をその社寺等に讓渡することができる。
國が耕地整理法、都市計画法又は特別都市計画法の規定によつて、費用を負担せしめられる場合又は從前の土地に係る換地処分に関して、國が清算金を徴收せられる場合は、第一條第一項に規定する從前の土地に係る負担金又は清算金については、その金額に相当する債務を、第二條第一項に規定する從前の土地に係る負担金又は清算金については、その金額の半額に相当する債務をその社寺等に負担せしめる。
第五條 從前の土地が、その讓與又は賣拂前に、耕地整理法による耕地整理又は都市計画法若しくは特別都市計画法による土地区画整理の施行地区に編入せられた場合において、從前の土地にあつた社寺等が、その交付せられた換地以外の土地に移轉する必要のあるときは、主務大臣は、その社寺等が、換地処分の告示のあつた時から、一年内に、申請をしたときは、その社寺等に対し、第一條第一項に規定する從前の土地の換地及び從前の土地に定著する國有物件については、讓與を、第二條第一項に規定する從前の土地の換地及び從前の土地に定著する國有物件については、時價の半額で、賣拂をすることができる。
前項の規定によつて讓與又は賣拂をする場合には、社寺境内地処分審査会又は社寺保管林処分審査会に諮問しなければならない。
第六條 この法律に規定する行政処分に対して、不服のある者は、訴願をすることができる。
前項の訴願を裁決する場合には、社寺境内地処分審査會又は社寺保管林処分審査会に諮問しなければならない。
第七條 第二條第一項及び第五條第一項の規定による賣拂代金については、命令の定めるところによつて、十年内の年賦延納又は土地による代物弁済を認めることができる。
附 則
第八條 この法律の施行期日は、勅令でこれを定める。
第九條 國有財産法の一部を次のように改正する。
第五條第三号を削る。
第二十四條 削除
第十條 この法律施行前に、神社、寺院、教会又は佛堂の合併によつて、その用に供しなくなつた國有財産で、その神社、寺院、教会又は佛堂が、この法律施行の日までに、讓與を申請したものについては、その神社、寺院又は教会の宗教活動を行うのに必要なものに限り、前條の規定にかかわらず、國有財産法第五條第三号の規定は、なおその効力を有する。
前項の規定によつて、讓與をする場合には、社寺境内地処分審査会に諮問しなければならない。
第一條第一項、第二條第一項又は第五條第一項の規定によつて、讓與又は賣拂をすることに決定したものについては、國有財産法第二十四條の規定は、前條の規定にかかわらず、その讓與又は賣拂の日まで、なおその効力を有する。
第十一條 國有林野法の一部を次のように改正する。
第三條第三項を削る。
第十七條 削除
第十二條 神社又は寺院の植栽した森林は、その神社又は寺院において、この法律施行後六箇月内に申請をしたときは、主務大臣が、森林の管理経営上特に必要があると認定したものに限り、この法律施行の日から、國有林野法の規定による部分林を設けたものとする。
第十三條 從前の社寺保管林で、第一條の規定によつて、神社又は寺院に讓與し、又は前條の規定によつて、部分林とするもの以外のものについては、その神社又は寺院が費した有益費は勅令の定めるところによつて、これを補償する。
前項の規定によつて、補償をする場合には、社寺保管林処分審査会に諮問しなければならない。
第十四條 この法律施行の際、現に社寺等に無償で貸し付けてある皇室財産令の規定による御料に属する土地が、國有財産法の規定による雜種財産となつたときは、その時から、この法律を適用する。但し、第一條第一項中「地方公共團体からの」とあるのは、「國又は地方公共團体からの」と、「國有となつた」とあるのは、「御料となつた」と讀み替えるものとする。
前項の雜種財産で第一條第一項、第二條第一項又は第五條第一項の規定によつて、讓與又は賣拂をすることに決定したものについては、雜種財産となつた日から、その讓與又は賣拂の日まで、その社寺等に無償で貸し付けたものとみなす。
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〔政府委員北村徳太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=9
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010・北村徳太郎
○政府委員(北村徳太郎君) 昭和十四年法律第七十八號改正法律案の提案理由を御説明を申し上げます。現在神社、寺院等に對しましては、御承知の通り國有財産法、國有林野法、または寺院等に無償にて貸付しある國有財産の處分に關する法律等の規定によりまして、國有境内地を無償で貸付け、または社寺上地の森林を、社寺保管林として使用收益せしめ、もしくは國有境内地の讓與、賣拂等に關しましては、特別の規定を設けてありましたのでございまするが、これは一面において、これらの國有財産は昔から社寺等の所有であつたものが、明治の初年に行われました地租改正の必要に伴う土地の官民有區分の査定、または社寺上地處分等によりまして、國有となつた關係もあり、また他面において、宗教團體を保護いたしまして、その教化作用を十分に遂げさせようという趣旨から、かようなことになつているのでありまするが、この際このような沿革的な財産上の特殊關係を整理する必要があるのでございます。つきましては、これらの社寺境内地または社寺保管林が國の所有となりました沿革を考慮いたしまして、この際これを社寺等に對し、一定の條件の下に讓與するか、または時價の半額賣拂等をいたしまして、從來の特殊關係を整理せんとするものでございます。
以上の理由でこの改正法律案を提出いたした次第でございます。何とぞ御審議の上、速やかに御協贊を與えられんことを希望いたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=10
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011・井上知治
○副議長(井上知治君) 本案の審査を付託すべき委員の選擧についてお諮りいたします。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=11
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012・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は議長指名十八名の委員に付託せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=12
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013・井上知治
○副議長(井上知治君) 山口君の動議に御異議はありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=13
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014・井上知治
○副議長(井上知治君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。
日程第二、衆議院議員選擧法の一部を改正する法律案の第一讀會を開きます。内務大臣植原悦二郎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=14
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015・会議録情報4
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第二 衆議院議員選擧法の一部を改正する法律案(政府提出) 第一讀會
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衆議院議員選挙法の一部を改正する法律案
衆議院議員選挙法の一部を次のように改正する。
第二條第二項及び第三項中「地方長官」を「市町村會議員選擧管理委員會」に改める。
第三條第二項及び第三項中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又は道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。
第五條中「帝國臣民」を「日本國民」に改める。
第六條 禁治産者及準禁治産者竝ニ懲役又ハ禁錮ノ刑ニ處セラレ其ノ執行ヲ終リ又ハ執行ヲ受クルコトナキニ至ル迄ノ者ハ選擧權及被選擧權ヲ有セズ
第七條 削除
第八條中「選擧事務」を「都議會議員選擧管理委員、道府縣會議員選擧管理委員及市町村會議員選擧管理委員、都議會議員選擧管理委員會、道府縣會議員選擧管理委員會及市町村會議員選擧管理委員會ノ書記、投票管理者、開票管理者及選擧長竝ニ選擧事務」に改める。
第九條 在職ノ裁判官、檢察官、會計檢査官、收税官吏及警察官吏ハ被選擧權ヲ有セズ
第十條中「及待遇官吏」を「、待遇官吏及地方公共團體ノ吏員」に、「内閣書記官長」を「内閣官房長官」に改め、同條に次の一号を加える。
八 國務大臣祕書官
第十一條中「東京都議會議員、北海道會議員及府縣會議員」を「都道府縣及市町村ノ議會ノ議員」に改める。
第十二條第一項中「市町村長」を「市町村會議員選擧管理委員會」に、「住居」を「住所」に改め、同條第三項乃至第五項中「住居」を「住所」に改める。
第十三條、第十四條第一項及び第十五條中「市町村長」を「市町村會議員選擧管理委員會」に改める。
第十六條第一項中「前條市町村長」を「前條市町村會議員選擧管理委員會」に、「市町村長」を「市町村會議員選擧管理委員會ノ委員長」に改め、同條第二項中「大審院」を「最高裁判所」に改める。
第十七條第二項中「市町村長」を「市町村會議員選擧管理委員會」に改める。
第十八條第二項中「議會」を「國會」に改め、同條第三項を削り、同條第四項中「勅命ヲ以テ之ヲ定メ」を削り、「公布ス」を「公示スベシ」に改める。
第十九條ノ二 衆議院議員ノ選擧ニ關スル事務ハ都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會之ヲ管理ス
都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ハ衆議院議員ノ選擧ニ關スル事務ニ付テハ市町村會議員選擧管理委員會ヲ指揮監督ス
第二十條 投票管理者ハ選擧權ヲ有スル者ノ中ニ就キ市町村會議員選擧管理委員會ノ選任シタル者ヲ以テ之ニ充ツ
投票管理者ハ投票ニ關スル事務ヲ擔任ス
第三十六條中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。
第三十七條中「地方長官ニ」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ニ」に、「地方長官ハ」を「委員會ハ」に、「告示セシムヘシ」を「告示スベシ」に改める。
第四十四條 開票管理者ハ選擧權ヲ有スル者ノ中ニ就キ市町村會議員選擧管理委員會ノ選任シタル者ヲ以テ之ニ充ツ開票管理者ハ開票ニ關スル事務ヲ擔任ス
第四十九條第二項中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。
第五十二條第一項第五号但書及び第五十二條ノ二第一項第三号但書中「官位、」を削り、「住居」を「住所」に改める。
第五十三條中「開票管理者」を「市町村會議員選擧管理委員會」に改める。
第五十四條 開票管理者ハ開票録ヲ作リ開票ニ關スル顛末ヲ記載シ開票立會人ト共ニ之ニ署名スベシ開票録及投票録ハ市町村會議員選擧管理委員會ニ於テ議員ノ任期間之ヲ保存スベシ
第五十八條 選擧長ハ選擧權ヲ有スル者ノ中ニ就キ都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ノ選任シタル者ヲ以テ之ニ充ツ
選擧長ハ選擧會ニ關スル事務ヲ擔任ス
第五十九條中「選擧長ノ屬スル」を削る。
第六十四條 選擧長ハ選擧録ヲ作リ選擧會ニ關スル顛末ヲ記載シ選擧立會人ト共ニ之ニ署名スベシ選擧録ハ第四十九條第三項ノ報告ニ關スル書類ト併セテ都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ニ於テ議員ノ任期間之ヲ保存スベシ
第六十七條第一項中「公布」を「公示」に改め、同條第二項中「爲サムトスルトキハ」の下に「本人ノ承諾ヲ得テ」を加え、同條第三項の次に次の一項を加える。
一ノ選擧區ニ於テ議員候補者ト爲リタル者ハ他ノ選擧區ニ於テ議員候補者ノ屆出ヲ爲シ又ハ其ノ推薦屆出ヲ承諾スルコトヲ得ズ
同條第五項中「前四項」を「第一項乃至第三項及前項」に改める。
第六十八條第一項中「二千圓」を「五千圓」に改める。
第六十九條第二項中「年齡多キ者ヲ取リ年齡モ亦同シキトキハ」を削り、同條第五項を次のように改める。
第七十五條第一項第五號及第六號ノ事由第七十四條ノ期限前ニ生ジタル場合ニ於テ第一項但書ノ得票者アルトキ又ハ其ノ期限經過後ニ生ジタル場合ニ於テ第二項ノ規定ノ適用ヲ受ケタル得票者アルトキハ選擧會ヲ開キ其ノ者ノ中ニ就キ當選人ヲ定ムベシ
第七十一條第二項中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。
第七十二條中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。
第七十三條第一項中「選擧長」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改め、同條第二項及び第三項を削る。
第七十五條第一項中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に、「十四日」を「二十五日」に改め、同條第三項中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に、「大審院長」を「裁判所ノ長」に、「二十日」を「三十日」に改める。
第七十六條中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改め、「且」の下に「都道府縣ノ長ヲ經テ」を加える。
第七十七條中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。
第七十八條中「四年トシ」を削り、同條但書を削る。
第七十九條第二項中「議院法第八十四條ノ規定ニ依ル衆議院議長ノ通牒」を「衆議院議長ヨリ其ノ旨ノ通知」に、「地方長官」を「都道府縣ノ長ヲ經テ都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改め、同條第三項中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に、「選擧ノ期日ヨリ一年以内」を「第七十四條ノ期限前」に、「選擧ノ期日ヨリ一年經過後」を「其ノ期限經過後」に改め、同條第五項中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に、「二十日」を「三十日」に改め、同條第六項中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改め、同條第八項中「地方長官」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に、「十四日」を「二十五日」に改める。
第八十一條中「選擧長」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ノ委員長」に、「大審院」を「高等裁判所」に改める。
第八十三條第一項中「大審院」を「高等裁判所」に、「選擧長」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ノ委員長」に改め、同條第二項中「檢事」を「檢察官」に改める。
第八十四條第一項中「大審院」を「高等裁判所」に改め、同條第二項中「檢事」を「檢察官」に改める。
第八十五條中「檢事」を「檢察官」に改める。
第八十六條第一項中「大審院長」を「裁判所ノ長」に、「關係地方長官」を「關係都道府縣ノ長ヲ經テ都議會議員選擧管理委員會又ハ關係道府縣會議員選擧管理委員會」に改め、同條第二項中「訴訟ニ付判決アリタルトキ」を「訴訟繋屬セザルニ至リタルトキ」に、「關係地方長官」を「關係都道府縣ノ長ヲ經テ都議會議員選擧管理委員會又ハ關係道府縣會議員選擧管理委員會」に改め、同條第三項中「帝國議會」を「國會」に改める。
第八十九條第二項中「選擧事務所(其ノ數二箇所以上ナルトキハ主タル選擧事務所)所在地ノ警察官署」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。
第九十四條中「地方長官(東京都ニ在リテハ警視總監)」を「都議會議員擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。第九十六條 何人ト雖學校ノ兒童、
生徒及學生ニシテ年齡二十年未滿ノモノニ對スル特殊ノ關係アル地位ヲ利用シテ選擧運動ヲ爲スコトヲ得ズ
第九十八條ノ二を削る。
第九十九條中「選擧事務ニ關係アル官吏及吏員」を「第八條ニ掲グル者」に改める。
第百條ノ二を削る。
第百一條第二項を削り、同條第五項中「第八十九條第二項ノ屆出アリタル警察官署」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。
第百一條ノ二第二項中「議員候補者ノ承諾ヲ得ズシテ其ノ推薦ノ屆出ヲ爲シタル場合ヲ除クノ外」を削る。第百一條ノ四 支出責任者ニ非ザル者ニシテ議員候補者ノ爲ニ選擧運動ニ關スル收入ヲ收受シタルモノハ直ニ金額、收入ノ種類其ノ他必要ナル事項ヲ支出責任者ニ通知スベシ立候補ノ屆出前ニ收受シタル選擧運動ニ關スル收入ニ付テハ立候補ノ屆出後直ニ支出責任者ニ通知スベシ
第百二條第一項第一号及び第二号中「三十錢」を「命令ヲ以テ定ムル金額」に、同項第三号但書中「地方長官(東京都ニ在リテハ警視總監)」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に改め、同條第二項中「地方長官(東京都ニ在リテハ警視總監)」を「都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會」に、「公布」を「公示」に改める。
第百四條ノ二 選擧運動ニ關スル收入トハ選擧運動ノ費用ニ充ツル目的ヲ以テ收受シタル金錢ヲ謂フ選擧運動ノ費用ニ充ツル目的ヲ以テ財産上ノ義務ヲ免レ又ハ建物、船車馬、印刷物、飮食物其ノ他ノ金錢以外ノ財産上ノ利益ヲ收受シタル場合ニ於テハ其ノ義務又ハ利益ヲ時價ニ見積リタル金額ヲ以テ選擧運動ニ關スル收入ト看做ス
第百五條 支出責任者ハ命令ノ定ムル所ニ依り選擧運動ノ費用及選擧運動ニ關スル收入ヲ都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ニ屆出ヅベシ
第百六條 議員候補者ヲ推薦シ又ハ支持スル政黨其ノ他ノ團體ノ代表者又ハ主幹者ハ命令ノ定ムル所ニ依り選擧運動ノ費用及選擧運動ニ關スル收入ヲ二以上ノ都道府縣ノ區域ニ亘リ又ハ主タル事務所所在地ノ都道府縣以外ノ區域ニ於テ議員候補者ヲ推薦シ又ハ支持スル團體ニ在リテハ其ノ主タル事務所所在地ノ都道府縣ノ都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ヲ經テ内務大臣ニ、其ノ他ノ團體ニ在リテハ其ノ主タル事務所所在地ノ都道府縣ノ都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ニ屆出ヅベシ
前項ノ規定ハ政黨其ノ他ノ團體ノ支部ニシテ議員候補者ヲ推薦シ又ハ支持スルモノニ之ヲ準用ス
第百七條 前二項ノ屆出ヲ受理シタルトキハ内務大臣又ハ都議會議員選擧管理委員會若ハ道府縣會議員選擧管理委員會ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ屆出ノ要旨ヲ公表スベシ
第百八條 第百五條及第百六條ノ規定ニ依ル屆出書類ハ之ヲ受理シタル内務大臣又ハ都議會議員選擧管理委員會若ハ道府縣會議員選擧管理委員會ニ於テ議員ノ任期間之ヲ保存スベシ
前項ノ期間内ニ於テハ命令ノ定ムル所ニ依リ何人ト雖屆出書類ノ閲覽ヲ請求スルコトヲ得
第百八條ノ二 支出責任者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ帳簿ヲ備ヘ之ニ選擧運動ノ費用及選擧運動ニ關スル收入ヲ記載スベシ
支出責任者ハ前項ノ帳簿竝ニ命令ヲ以テ定ムル選擧運動ノ費用及選擧運動ニ關スル收入ニ關スル書類ヲ議員ノ任期間保存スベシ
第百九條中「選擧運動ノ費用」の下に「及選擧運動ニ關スル收入」を加える。
第百十一條中「百圓」を「千圓」に改める。
第百十二條第一項中「二千圓」を「二萬圓」に改め、同條第二項中「選擧事務ニ關係アル官吏又ハ吏員」を「第八條ニ掲グル者」に、「三千圓」を「三萬圓」に改める。
第百十三條第一項中「三千圓」を「三萬圓」に改め、同條第二項中「選擧事務ニ關係アル官吏又ハ吏員」を「第八條ニ掲グル者」に、「四千圓」を「四萬圓」に改める。
第百十五條中「三千圓」を「三萬圓」に改める。
第百十六條第一項中「官吏又ハ吏員」を「官吏若は吏員又は第八條ニ掲グル者」に改め、同條第二項中「官吏又ハ吏員」を「官吏若ハ吏員又ハ第八條ニ掲グル者」に、「三百圓」を「三千圓」に改める。
第百十七條中「選擧事務ニ關係アル官吏、吏員」を「第八條ニ掲グル者」に、「千圓」を「一萬圓」に改める。
第百十八條第一項中「五百圓」を「五千圓」に改め、同條第二項中「二千圓」を「二萬圓」に改める。
第百二十條中「百圓」を「千圓」に改める。
第百二十一條第一項中「千圓」を「一萬圓」に改める。
第百二十二條中「二千圓」を「二萬圓」に改める。
第百二十四條中「三百圓」を「三千圓」に改める。
第百二十五條中「五百圓」を「五千圓」に改める。
第百二十六條中「千圓」を「一萬圓」に改める。
第百二十七條第一項中「五百圓」を「五千圓」に改め、同條第二項中「千圓」を「一萬圓」に改め、同條第三項中「二千圓」を「二萬圓」に改め、同條第四項中「選擧事務ニ關係アル官吏、吏員」を「第八條ニ掲グル者」に、「二千圓」を「二萬圓」に改める。
第百二十八條中「百圓」を「千圓」に改める。
第百二十九條中「第九十五條、」の下に「第九十六條若ハ」を加え、「若ハ第九十八條ノ二」を削り、「五百圓」を「五千圓」に改める。
第百三十條中「三百圓」を「三千圓」に改める。
第百三十一條中「第九十九條」の下に「、第百一條ノ四、第百五條、第百六條」を加え、「三百圓」を「三千圓」に改める。
第百三十二條第一項中「第五項若ハ第六項」を「第四項若ハ第五項」に、「百圓」を「千圓」に改める。
第百三十四條中「五百圓」を「五千圓」に改める。
第百三十五條中「三百圓」を「三千圓」に改め、同條第一号中「第百五條」を「第百八條ノ二第一項」に改め、同條第二号を削り、同條第三号中「第百七條第一項」を「第百八條ノ二第二項」に改め、同号を第二号とし、同條第四号中「第百七條第一項」を「第百八條ノ二第二項」に改め、同号を第三号とする。
第百三十七條第一項中「選擧ニ付本章ノ規定を準用スル議會ノ議員ノ」を「本章ノ規定ヲ準用スル選擧ニ於ケル」に改め、同條第四項を削る。
第百三十九條の前に次のように加える。
第百三十八條の二 投票管理者、開票管理者又ハ選擧長選擧權を有セザルに至リタルトキハ其ノ職ヲ失フ
第百四十條第一項中「勅令」を「命令」に、「其ノ選擧區内ニ在ル選擧人ニ對シ選擧運動ノ爲ニスル通常郵便物を選擧人一人ニ付一通」を「選擧運動ノ爲ニスル通常葉書ヲ議員候補者一人ニ付一萬枚」に改め、同條第二項中「公立學校」を「學校」に收め、同條第四項及び第五項を次のように改める。
都議會議員選擧管理委員會又ハ道府縣會議員選擧管理委員會ハ命令ノ定ムル所ニ依リ議員候補者ノ氏名、經歴等ヲ掲載シタル文書ヲ發行スベシ
同條第六項中「市町村長」を「市町村會議員選擧管理委員會」に改める。
第百四十三條中「關係地方長官」を「關係都道府縣ノ長ヲ經テ都議會議員選擧管理委員會又ハ關係道府縣會議員選擧管理委員會」に改める。
第百四十四條中「其ノ組合管理者ハ之ヲ町村長」を「其ノ組合會議員選擧管理委員會及組合會議員選擧管理委員又ハ組合管理者選擧管理委員會及組合管理者選擧管理委員ハ之ヲ町村會議員選擧管理委員會及町村會議員管理委員」に改め、同條に次の一項を加える。
町村制第三十八條ノ町村ノ町村長選擧管理委員會及町村長選擧管理委員ハ本法ノ適用ニ付テハ之ヲ町村會議員選擧管理委員會及町村會議員選擧管理委員ト看倣ス
第百四十五條第一項中「第三項」を「第一項」に、「市長ニ關スル規定ハ區長」を「市會議員選擧管理委員會及市會議員選擧管理委員ニ關スル規定ハ區會議員選擧管理委員會及區會議員選擧管理委員又ハ市會議員區選擧管理委員會及市會議員區選擧管理委員」に、「住居」を「住所」に改め、同條第二項中「町村長ニ關スル規定」を「町村會議員選擧管理委員會ニ關スル規定」に改める。
第百四十八條 削除
附 則
第一條 この法律は、次の総選擧から、これを施行する。但し、附則第十條及び第十一條の規定は、次の市町村の議会の議員又は長の選挙から、これを施行する。
次の地方公共團体の議会の議員又は長を選挙する場合において、衆議院議員選挙法の改正規定がまだ施行されていないときは、同法の改正規定は、当該選挙に対するその準用については、既に施行されたものとみなす。
第二條 在職の行政裁判所長官及び行政裁判所評定官は、日本國憲法施行までの間、この法律の規定にかかわらず、被選挙権を有しない。
第三條 改正後の衆議院議員選挙法第十條中「内閣官房長官」とあるのは、日本國憲法施行までの間、「内閣書記官長」と読み替えるもの
とする。
第四條 改正後の衆議院議員選挙法第十六條第二項中「最高裁判所」とあり、改正後の同法第八十一條、
第八十三條第一項及び第八十四條第一項中「高等裁判所」とあるのは、日本國憲法施行までの間、「大審院」と読み替えるものとする。
第五條 総選挙の期日は、日本國憲法施行までの間、改正後の衆議院議員選挙法第十八條第四項の規定にかかわらず、勅命を以てこれを定めて公布しなければならない。
第六條 次の総選挙については、衆議院議員選挙法第七十四條中「十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
第七條 参議院議員選挙法の一部を次のように改正する。
附則第二條を次のように改める。
第二條 削除
附則第五條乃至第八條を次のように改める。
第五條乃至第八條 削除
第八條 東京都制の一部を次のように改正する。
第九十三條ノ二十中「含ムモノトシ」の下に「同法第百四十條第四項中氏名、經歴等トアルハ政見等トシ」を加える。
第九條 道府縣制の一部を次のように改正する。
第七十四條ノ二十中「含ムモノトシ」の下に「同法第百四十條第四項中氏名、經歴等トアルハ政見等トシ」を加える。
第十條 市制の一部を次のように改正する。
第三十九條ノ二但書中「吏員トアルハ選擧管理委員、區選擧管理委員、選擧管理委員會及區選擧管理委員會ノ書記、選擧長、投票分會長竝ニ開票分會長」を「第八條ニ掲グル者トアルハ投票分會長及開票分會長」に改める。
第四十條但書を次のように改める。
但シ衆議院議員選擧法第百十二條第二項、第百十三條第二項、第百十六條、第百十七條及第百二十七條第四項中第八條ニ掲グル者トアルハ投票分會長及開票分會長を含ムモノトス
第十一條 町村制の一部を次のやうに改正する。
第三十六條ノ二中「第九十五條、」の下に「第九十六條、」を加へ、「第百條ノ二、」を削り、同條但書を次のように改める。
但シ同法第九十九條中第八條ニ掲グル者トアルハ投票分會長及開票分會長ヲ含ムモノトス
第三十七條但書を次のように改める。
但シ衆議院議員選擧法第百十二條第二項、第百十三條第二項、第百十六條、第百十七條及第百二十七條第四項中第八條ニ掲グル者トアルハ投票分會長及開票分會長ヲ含ムモノトス
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〔國務大臣植原悦二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=15
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016・植原悦二郎
○國務大臣(植原悦二郎君) ただいま上程に相なりました衆議院議員選擧法の一部を改正する法律案につきまして、提案の趣旨及びその概要を御説明申し上げます。
大選擧區制限連記を骨子といたしまする現行衆議院議員選擧法につきましては、前囘の總選擧の結果等に鑑み、議論のかまびすしいものがあります。必ずしも滿足であつたとは申されません。政府といたしましても、選擧法全般にわたつて根本的再檢討を加えてきたのでありますが、最近における政治情勢の要請により、急速に選擧を行うことになりましたので、この際とりあえず、選擧の執行に必要な、日本國憲法の制定、地方制度の改正及び參議院議員選擧法の制定等に伴う最小限度の規定の整備を行うことといたし、本改正案を立案した次第であります。以下、改正案の内容の主要な事項について御説明申し上げます。
第一には、選擧權及び被選擧權に關する事項であります。代議政治の本義に則り、普通選擧の精神を擴充するため、でき得る限り選擧權はこれを擴充することが望ましいのであります。さきの改正における選擧權の大擴張に次いで、缺格條項を整理いたすとともに、被選擧權につきましても、必要な改正を加えることといたしたのであります、まず選擧權につきましては、破産者で復權を得ない者、貧困のため公私の救助を受け、または扶助を受ける者及び一定の住居を有しない者は、從來缺格者とされていたのでありますが、これらの者は、かかる境涯に陷つた原因が、個人的の責に歸すべきものよりは、むしろ社會的の原因に基くものが多いのでありまして、その經濟的無能力は、必ずしも直ちに政治的無能力を意味するものではありません。殊に終戰後におきましては、戰災、引揚げ等の不可抗力によりまして、このような地位におかれている者の數は少くないと想像されますので、これらの者に對しても選擧權を賦與し、その意思と主張を表明させる機會を與えることを適當と認めまして、缺格條項からこれらを除外し、先般の地方制度の改正と歩を一にさせることとしたのであります。さらにいわゆる刑餘者につきましては、刑の執行を終り、または受けることがなくなつた以上、その反社會性は拂拭されたものとみるべきでありますから、これらの者に對しましても、平等な一國民として基本的權利を保障することが適當であるばかりでなく、行刑處遇上も適當であると認められますので、これにも選擧權を與えることといたしました。
次に被選擧權につきましても、選擧權と照應した措置を講ずることといたしますほか、新憲法の精神に從い、華族の戸主にも被選擧權を與えることといたしますとともに、選擧管理委員會制の採用に伴い、必要な規定の整備を行うことにいたしました。
兼職禁止の職に、新たに地方公共團體の吏員及び市町村その他これに準ずるものの議會の議員を加えましたのは、國會法案の規定に相對應させるとともに、改正憲法下における職員の職責の重大性に鑑み、他の職との兼務を避けなければならないという點におきましては、官吏と吏員、都道府縣の議會の議員と市町村會議員との間に、本質的に差異を認めがたいからであります。
第二に、選擧管理委員會制の採用であります。選擧事務の執行を中立不偏のものとすると同時に、選擧の民衆化と日常化とをはかりますことが、最も重要な事柄であります。このため、地方議會の議員及びその長の選擧竝びに參議院議員の選擧における管理機關として、各種の選擧管理委員會が設置されることに至つたのでありますが、衆議院議員の選擧におきましても、これと同樣の措置を講ずることにしたのであります。しかしながら衆議院議員の選擧管理機關としては、類似の機關を別個に設置することなく、各部道府縣の選擧管理委員會をもつてこれに當らせ、衆議院議員の選擧に關する事務に關しましては、市町村の選擧管理委員會を指揮監督することができるものとし、この選擧管理委員會制の採用に伴い必要な規定の整備をいたしました。
第三に、議員候補者及び當選人に關する事項であります。從來の重複立候補は、選擧界を混亂に導く恐れがあるばかりでなく、當選人の決定その他選擧事務の執行を複雜にさせる缺點がありますので、改正地方制度及び參議院議員選擧法の例に倣い、推薦屆出の場合には、必ず本人の承諾を得なければならないこととし、かつ同一人が二以上の選擧區から立候補はできないことといたしました。なお近時におきます物價騰貴の現況に鑑みまして、泡沫候補濫立の弊を防止するため、供託金の額を五千圓に引上げることといたしました。繰上補充は、元來便宜的な當選人または缺員の補充方法でありますが、これを一年にもわたつて認めますときは、いわゆる次點者ねらいの便乘的候補者の輩出を促す危險がある等、弊害を伴いますので、繰上補充は、同點者を除き、當選人が未だ確定しない當選承諾期間内に限つてこれを認めることにいたしました。なお現行法による當選承諾期間は十日でありますが、來るべき總選擧の特殊性に鑑みまして、選擧の結果をでき得る限り速やかに確定させますために、特にこれを五日間に短縮することにいたしました。
第四は、選擧運動に關する事項であります。參議院議員選擧法の制定に伴い、選擧公報の制度を改めて、經歴公報の制度を採用することにいたしました結果、選擧公報の發行區域におきます文書の頌布制限に關する制限を撤廢するとともに、事後の挨拶行爲に關する制限をも撤廢することとしたのであります。なおさきに御協贊をいただきました參議院議員選擧法の改正に照應いたしまして、學校の兒童、生徒に對する特殊の關係ある地位を利用して行う選擧運動を禁止する旨の規定を新たに設けました。
第五は、選擧運動の費用に關する事項であります。選擧運動の費用の増大が、選擧界の腐敗をもたらす最大の原因である點に鑑みまして、選擧運動の費用の最高制限額の制度は、これを保持することにいたしたのはもちろんでありますが、さらにこれと併行して、議員候補者及び政黨その他の團體の選擧運動の收入、支出を公開せしめ、二者相まつて、議員候補者及び政黨その他の團體の自肅を促しますとともに、一般選擧人に對する公正な判斷資料を提供することといたしまして、選擧の公正明朗を期することにいたしたのであります。なお選擧運動の費用の最高額の基準は法律で定められておりますが、これは必ずしも適當ではなく、かたがた現在の最高額も、最近の物價變動の状況からは適當ではなくなつておるので、選擧施行時におきます物價等の事情を考量いたしまして、實際に即して適正に定め得るように、命令で定める金額とすることとしたのであります。
第六は、罰則に關する事項であります。最近におきまする物價の高騰の状況に鑑み、かつ參議院議員選擧法の規定との權衡上、罰金はこれを一律に十倍に引上げることといたしました。なお選擧運動の收入及び支出の公開性の採用、未成年者の學校の兒童及び生徒等に對しまする特殊の關係ある地位を利用する選擧運動の禁止等に伴い、所要の罰則を整備したのであります。
第七は、選擧公營に關する事項であります。選擧公報の發行及び新聞紙による議員候補者の氏名等の公告は、最近におきます用紙需給の状況よりいたしましては、とうていその實行が不可能であると認められるばかりでなく、兩者やや重複する感もありますので、參議院議員選擧法の例に倣い、選擧公報の發行と議員候補者の氏名等の新聞紙の公告を統合いたしまして、經歴公報を發行し、議員候補者の氏名、經歴等を掲載せしむることといたしました。なお經歴公報は、總選擧のみならず、再選擧及び補缺選擧等にもこれを發行することにしましたので、これに伴い、再選擧及び補缺選擧の選擧期日を延長する措置を講じたのであります。
次に無料郵便物の制度は、參議院議員選擧法の改正に倣いまして、選擧運動のためにする通常葉書を、議員候補者一人につき一萬枚を限り無料をもつて差出し得るものといたしました。その他改正憲法、參議院議員選擧法の制定及び地方制度の改正に伴い、選擧に關する訴訟の出訴裁判所を高等裁判所といたし、演説會開催のために必要な施設の公營の對象となるべき學校の範圍を、公立學校ばかりでなく、官立及び私立學校をも含ませることとする等、必要な規定の整備を加えたのであります。
何とぞ速やかに愼重御審議の上、御協贊あらんことをお願いいたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=16
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017・井上知治
○副議長(井上知治君) 本案の審査を付託すべき委員の選擧についてお諮りいたします。
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018・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は議長指名十八名の委員に付託せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=18
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019・井上知治
○副議長(井上知治君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=19
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020・井上知治
○副議長(井上知治君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。
日程第三、教育基本法案の第一讀會を開きます。文部大臣高橋誠一郎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=20
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021・会議録情報5
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第三 教育基本法案(政府提出) 第一讀會
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教 育 基 本 法 案
教育基本法
われらは、さきに、日本國憲法を確定し、民主的で文化的な國家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。
われらは、個人の尊嚴を重んじ、眞理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。
ここに、日本國憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。
第一條(教育の目的) 教育は、人格の完成をめざし、平和的な國家及び社会の形成者として、眞理と正義を愛し、個人の價値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な國民の育成を期して行われなければならない。
第二條(教育の方針) 教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によつて、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。
第三條(教育の機会均等) すべて國民は、ひとしく、その能力に應ずる教育を受ける機会を與えられなければならないものであつて、人種、信條、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない。
國及び地方公共團体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によつて修学困難な者に対して、奬学の方法を講じなければならない。
第四條(義務教育) 國民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。
國又は地方公共團体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴收しない。
第五條(男女共学) 男女は、互に敬重し、協力し合わなければならないものであつて、教育上男女の共学は、認められなければならない。
第六條(学校教育) 法律に定める学校は、公の性質をもつものであつて、國又は地方公共團体の外法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。 第七條(社会教育) 家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、國及び地方公共團体によつて奬励されなければならない。
國及び地方公共團体は、図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設の利用その他適当な方法によつて教育の目的の実現に努めなければならない。
第八條(政治教育) 良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。
法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
第九條(宗教教育) 宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。
國及び地方公共團体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
第十條(教育行政) 教育は、不当な支配に服することなく、國民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。
教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸條件の整備確立を目標として行われなければならない。
第十一條(補則) この法律に掲げる諸條項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない。
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
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〔國務大臣高橋誠一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=21
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022・高橋誠一郎
○國務大臣(高橋誠一郎君) 今日上程に相なりました教育基本法案につきまして、その提案の理由竝びに内容の概略を御説明申し上げたいと存じます。
民主的で平和的な國家再建の基礎を確立いたしまするがために、さきに憲法の畫期的な改正が行われたのでありまして、これによりまして、ひとまず民主主義、平和主義の政治的、法律的の基礎がつくられたのであります。しかしながらこの基礎の上に立つて、眞に民主的で文化的な國家の建設を完成いたしまするとともに、世界の平和に寄與いたしますること、すなわち立派な内容を充實させますることは、國民の今後の不斷の努力にまたなければなりません。そうしてこのことは、一にかかつて教育の力にあると申しましても、あえて過言ではないと考えるのであります。かくのごとき目的の達成のためには、この際教育の根本的刷新を斷行いたしまするとともに、その普及徹底を期することが、何よりも肝要でございます。
かかる教育刷新の第一前提といたしまして、新しい教育の根本理念を確立明示する必要があると存ずるのであります。それは新しい時代に即應する教育の目的、方針を明示し、教育者竝びに國民一般の指針たらしめなければならないと信ずるのでございます。
次にこれを定めまするにあたりましては、これまでのように、詔勅、勅令などの形式をとりまして、いわば上から與えられたものとしてではなく、國民の盛り上りまする總意によりまして、いわば國民みずからのものといたしまして定めるべきものでありまして、國民の代表者をもつて構成せられておりまする議會におきまして、討議確定するために、法律をもつていたすことが新憲法の精神に適うものといたしまして、必要かつ適當であると存じた次第であります。さらに、新憲法に定められておりまする教育に關係のある諸條文の精神を一層敷衍具體化いたしまして、教育上の諸原則を明示いたす必要を認めたのであります。
さてこれらの教育上の原則、竝びにさきに申し述べました教育の根本理念は、單に學校教育のみならず、廣く家庭を含めましたところの社會教育にも通ずべきものでありまして、これらの根本の理念竝びに原則は、個々の教育法令に別々に掲げることなく、基本的な單一の法律に規定いたしまして、その他の教育法令は、すべてこの法律に掲げまする目的竝びに原則に則つて制定せらるべきものとすることが適當であると考えるのでありまして、この法律をそこで教育基本法と稱した次第でございます。
以上申し述べました理由に基きまして、この法案を作成したのございまするが、この法案は、教育の理念を宣言する意味で、教育宣言であるとも見られ、ましようし、また今後制定せらるべき各種の教育上の諸法令の準則を規定するという意味におきまして、實質的には、教育に關する根本法たる性格をもつものであると申し上げ得るかと存じます。從つて本法案には、普通の法律には異例でありまするところの前文を附した次第であります。
次にこの法案の内容について御説明申し上げますると、まずこの法律制定の由來、趣旨を明かにいたしまするがために、ただいま申し上げましたところの前文を附してございます。次に本文にはいりましては、第一條に、新時代に即應すべき教育の理念を明らかにいたしまするがために、教育の目的を掲げました。次に第二條におきましては、このような教育の目的をいかに達成すべきか、その方針を明示いたしました。第三條、教育の機會均等のくだりにおきましては、新憲法第十四條第一項及び第二十六條第一項の精神を具體化いたしました。第四條、義務教育におきましては、新憲法第二十六條第二項の義務教育に關する規定を一層はつきり規定いたしました。さらに第五條、男女共學におきましては、新憲法第十四條第一項の精神を敷衍いたしまして、男女共學を説きました。第六條、學校教育におきましては、學校の性格、教員の身分について規定いたし、第七條におきましては、社會教育の原則を説いたのでございます。第八條、政治教育におきましては、民主主義社會における政治的教養の重要性竝びに學校における政治教育の限界を示したのであります。第九條、宗教教育におきましては、新憲法第二十條の信教の自由の規定が、教育上いかに適用せらるべきであるかを示したのであります。第十條、教育行政の條下におきましては、教育行政の任務の本質とその限界を明らかにいたした次第でございます。
以上、本法案制定の理由、性格竝びに内容を御説明申し上げましたが、この法案は、教育の根本的刷新について議すべく、昨年九月内閣に設けられましたところの教育刷新委員會におきまして、約半歳にわたりまして、愼重審議を重ねましたところの綱要をもとといたしまして、政府において立案作成したところのものでございます。何とぞ愼重御審議の上、御協贊あらんことを御願い申し上げる次第でございます。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=22
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023・井上知治
○副議長(井上知治君) 本案の審査を付託すべき委員の選擧についてお諮りいたします。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=23
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024・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は議長指名十八名の委員に付託せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=24
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025・井上知治
○副議長(井上知治君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=25
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026・井上知治
○副議長(井上知治君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。
日程第四、裁判所法案の第一讀會を開きます。司法大臣木村篤太郎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=26
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027・会議録情報6
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第四 裁判所法案(政府提出) 第一讀會
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裁判所法案
裁判所法目次
第一編 総則
第二編 最高裁判所
第三編 下級裁判所
第一章 高等裁判所
第二章 地方裁判所
第三章 簡易裁判所
第四編 裁判所の職員及び司法修習生
第一章 裁判官
第二章 裁判官以外の裁判所の職員
第三章 司法修習生
第五編 裁判事務の取扱
第一章 法廷
第二章 裁判所の用語
第三章 裁判の評議
第四章 裁判所の共助
第六編 司法行政
第七編 裁判所の経費
裁判所法
第一編 総則
第一條(この法律の趣旨) 日本國憲法に定める最高裁判所及び下級裁判所については、この法律の定めるところによる。
第二條(下級裁判所) 下級裁判所は、高等裁判所、地方裁判所及び簡易裁判所とする。
下級裁判所の設立、廃止及び管轄区域は、別に法律でこれを定める。
第三條(裁判所の権限) 裁判所は、日本國憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の爭訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
前項の規定は、行政機関が前審として審判することを妨げない。
この法律の規定は、刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。
第四條(上級審の裁判の拘束力)上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。
第五條(裁判官) 最高裁判所の裁判官は、その長たる裁判官を最高裁判所長官とし、その他の裁判官を最高裁判所判事とする。
下級裁判所の裁判官は、高等裁判所の長たる裁判官を高等裁判所長官とし、その他の裁判官を判事、判事補及び簡易裁判所判事とする。
最高裁判所判事の員数は、十四人とし、下級裁判所の裁判官の員数は、別に法律でこれを定める。
第二編 最高裁判所
第六條(所在地) 最高裁判所は、これを東京都に置く。
第七條(裁判権) 最高裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 上告
二 訴訟法において特に定める抗告
第八條(その他の権限) 最高裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
第九條(大法廷・小法廷) 最高裁判所は、大法廷又は小法廷で審理及び裁判をする。
大法廷は、全員の裁判官の、小法廷は、最高裁判所の定める員數の裁判官の合議体とする。但し、小法廷の裁判官の員数は、三人以上でなければならない。
各合議体の裁判官のうち一人を裁判長とする。
各合議体では、最高裁判所の定める員数の裁判官が出席すれば、審理及び裁判をすることができる。
第十條(大法廷及び小法廷の審判) 事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。
一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。
二 前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。
三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。
第十一條(裁判官の意見の表示)裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない。
第十二條(司法行政事務) 最高裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、最高裁判所長官が、これを総括する。
裁判官会議は、全員の裁判官でこれを組織し、最高裁判所長官が、その議長となる。
第十三條(事務局) 最高裁判所の庶務を掌らせるため、最高裁判所に事務局を置く。
第十四條(司法研修所) 裁判官その他の裁判所の職員の研究及び修養並びに司法修習生の修習に関する事務を取り扱わせるため、最高裁判所に司法研修所を置く。
第三編 下級裁判所
第一章 高等裁判所
第十五條(構成) 各高等裁判所は、高等裁判所長官及び相應な員数の判事でこれを構成する。
第十六條(裁判権) 高等裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 地方裁判所の第一審判決に対する控訴
二 第七條第二号の抗告を除いて、地方裁判所の決定及び命令に対する抗告
三 地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の第一審判決に対する上告
四 刑法第七十七條乃至第七十九條の罪に係る訴訟の第一審
第十七條(その他の権限) 高等裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
第十八條(合議制) 高等裁判所は、裁判官の合議体でその事件を取り扱う。但し、法廷ですべき審理及び裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定があるときは、その定に從う。
前項の合議体の裁判官の員数は、三人とし、そのうち一人を裁判長とする。但し、第十六條第四号の訴訟については、裁判官の員数は、五人とする。
第十九條(裁判官の職務の代行) 高等裁判所は、裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その管轄区域内の地方裁判所の判事にその高等裁判所の判事の職務を行わせることができる。
第二十條(司法行政事務) 各高等裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、各高等裁判所長官が、これを総括する。
各高等裁判所の裁判官会議は、その全員の裁判官でこれを組織し、各高等裁判所長官が、その議長となる。
第二十一條(事務局) 各高等裁判所の庶務を掌らせるため、各高等裁判所に事務局を置く。
第二十二條(支部) 最高裁判所は、高等裁判所の事務の一部を取り扱わせるため、その高等裁判所の管轄区域内に、高等裁判所の支部を設けることができる。
最高裁判所は、高等裁判所の支部に勤務する裁判官を定める。
第二章 地方裁判所
第二十三條(構成) 各地方裁判所は、相應な員数の判事及び判事補でこれを構成する。
第二十四條(裁判権) 地方裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 第十六條第四号の罪、第三十三條第一項第一号の請求及び罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟以外の訴訟の第一審
二 簡易裁判所の判決に対する控訴
三 第七條第二号の抗告を除いて、簡易裁判所の決定及び命令に対する抗告
第二十五條(その他の権限) 地方裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限及び他の法律において裁判所の権限に属するものと定められた事項の中で地方裁判所以外の裁判所の権限に属させていない事項についての権限を有する。
第二十六條(一人制・合議制) 地方裁判所は、第二項に規定する場合を除いて、一人の裁判官でその事件を取り扱う。
左の事件は、裁判官の合議体でこれを取り扱う。但し、法廷ですべき審理及び裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定があるときは、その定に從う。
一 合議体で審理及び裁判をする旨の決定を合議体でした事件
二 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪(刑法第二百三十六條、第二百三十八條又は第二百三十九條の罪及びその未遂罪並びに昭和五年法律第九号第二條又は第三條の罪を除く。)に係る事件
三 簡易裁判所の判決に対する控訴事件並びに簡易裁判所の決定及び命令に対する抗告事件
四 その他他の法律において合議体で審理及び裁判をすべきものと定められた事件
前項の合議体の裁判官の員数は、三人とし、そのうち一人を裁判長とする。
第二十七條(判事補の職権の制限) 判事補は、他の法律に特別の定のある場合を除いて、一人で裁判をすることができない。
判事補は、同時に二人以上合議体に加わり、又は裁判長となることができない。
第二十八條(裁判官の職務の代行) 地方裁判所において裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その所在地を管轄する高等裁判所は、その管轄区域内の他の地方裁判所の裁判官に当該地方裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
第二十九條(司法行政事務) 最高裁判所は、各地方裁判所の判事のうち一人に各地方裁判所長を命ずる。
各地方裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、各地方裁判所長が、これを総括する。
各地方裁判所の裁判官会議は、その全員の判事でこれを組織し、各地方裁判所長が、その議長となる。
第三十條(事務局) 各地方裁判所の庶務を掌らせるため、各地方裁判所に事務局を置く。
第三十一條(支部・出張所) 最高裁判所は、地方裁判所の事務の一部取り扱はせるため、その地方裁判所の管轄区域内に、地方裁判所の支部又は出張所を設けることができる。
最高裁判所は、地方裁判所の支部に勤務する裁判官を定める。
第三章 簡易裁判所
第三十二條(裁判官) 各簡易裁判所に相應な員数の簡易裁判所判事を置く。
第三十三條(裁判権) 簡易裁判所は、左の事項について第一審の裁判権を有する。
一 訴訟の目的の價額が五千円を超えない請求(行政処分の取消又は変更の請求を除く。)
二 罰金以下の刑にあたる罪又は選択刑として罰金が定められている罪に係る訴訟簡易裁判所は、禁錮以上の刑を科することができない。禁錮以上の刑を科するのを相当と認めるときは、訴訟法の定めるところにより事件を地方裁判所に移さなければならない。
第三十四條(その他の権限) 簡易裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
第三十五條(一人制) 簡易裁判所は、一人の裁判官でその事件を取り扱う。
第三十六條(裁判官の職務の代行) 簡易裁判所において裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その所在地を管轄する地方裁判所は、その管轄区域内の他の簡易裁判所の裁判官又はその地方裁判所の判事に当該簡易裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
第三十七條(司法行政事務) 各簡易裁判所の司法行政事務は、簡易裁判所の裁判官が、一人のときは、
その裁判官が、二人以上のときは、最高裁判所の指名する一人の裁判官がこれを掌理する。
第三十八條(事務の移轉) 簡易裁所において特別の事情によりその事務を取り扱うことができないときは、その所在地を管轄する地方裁判所は、その管轄区域内の他の簡易裁判所に当該簡易裁判所の事務の全部又は一部を取り扱わせることができる。
第四編 裁判所の職員及び司法修習生
第一章 裁判官
第三十九條(最高裁判所の裁判官の任免) 最高裁判所長官は、内閣の指名に基いて、天皇がこれを任命する。
最高裁判所判事は、内閣でこれを任命する。
最高裁判所判事の任免は、天皇がこれを認証する。
内閣は、第一項の指名又は第二項の任命を行うには、裁判官任命諮問委員会に諮問しなければならない。
裁判官任命諮問委員会に関する規程は、政令でこれを定める。
最高裁判所長官及び最高裁判所判事の任命は、國民の審査に関する法律の定めるところにより國民の審査に付される。
第四十條(下級裁判所の裁判官の任免) 高等裁判所長官、判事、判事補及び簡易裁判所判事は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。
高等裁判所長官の任免は、天皇がこれを認証する。
第一項の裁判官は、その官に任命された日から十年を経過したときは、その任期を終えるものとし、再任されることができる。
第四十一條(最高裁判所の裁判官の任命資格) 最高裁判所の裁判官は、識見の高い、法律の素養のある年齢四十年以上の者の中からこれを任命し、そのうち少くとも十人は、十年以上第一号及び第二号に掲げる職の一若しくは二に在つた者又は左の各号に掲げる職の一若しくは二以上に在つてその年数を通算して二十年以上になる者でなければならない。
一 高等裁判所長官
二 判事
三 簡易裁判所判事
四 檢察官
五 弁護士
六 別に法律で定める大学の法律学の教授又は助教授
五年以上前項第一号及び第二号に掲げる職の一若しくは二に在つた者又は十年以上同項第一号乃至第六号に掲げる職の一若しくは二以上に在つた者が判事補、裁判所調査官、最高裁判所事務総長、裁判所事務官、司法研修所教官、司法次官、司法事務官又は少年審判官の職に在つたときは、その在職は、同項の規定の適用については、これを同項第三号乃至第六号に掲げる職の在職とみなす。
前二項の規定の適用については、第一項第三号乃至第五号及び前項に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
三年以上第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授の職に在つた者が簡易裁判所判事、檢察官又は弁護士の職に就いた場合においては、その簡易裁判所判事、檢察官(副檢事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。
第四十二條(高等裁判所長官及び判事の任命資格) 高等裁判所長官及び判事は、左の各号に掲げる職の一又は二以上に在つてその年数を通算して十年以上になる者の中からこれを任命する。
一 判事補
二 簡易裁判所判事
三 檢察官
四 弁護士
五 裁判所調査官、司法研修所教官又は少年審判官
六 前條第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授
前項の規定の適用については、三年以上同項各号に掲げる職の一又は二以上に在つた者が裁判所事務官又は司法事務官の職に在つたときは、その在職は、これを同項各号に掲げる職の在職とみなす。
前二項の規定の適用については、第一項第二号乃至第五号及び前項に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
三年以上前條第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授の職に在つた者が簡易裁判所判事、檢察官又は弁護士の職に就いた場合においては、その簡易裁判所判事、檢察官(副檢事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。司法修習生の修習を終えないで簡易裁判所判事又は檢察官に任命された者の第六十六條の試驗に合格した後の簡易裁判所判事、檢察官(副檢事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数についても、同樣とする。
第四十三條(判事補の任命資格)判事補は、司法修習生の修習を終えた者の中からこれを任命する。
第四十四條(簡易裁判所判事の任命資格) 簡易裁判所判事は、高等裁判所長官若しくは判事の職に在つた者又は左の各号に掲げる職の一若しくは二以上に在つてその年数を通算して三年以上になる者の中からこれを任命する。
一 判事補
二 檢察官
三 弁護士
四 裁判所調査官、裁判所事務官、司法研修所教官、司法事務官又は少年審判官
五 第四十一條第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授
前項の規定の適用については、同項第二号乃至第四号に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
司法修習生の修習を終えないで檢察官に任命された者の第六十六條の試驗に合格した後の檢察官(副檢事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。
第四十五條(簡易地裁判所判事の選考任命) 多年司法事務にたずさわり、その他簡易裁判所判事の職務に必要な学識経驗のある者は、前條第一項に掲げる者に該当しないときでも、簡易裁判所判事選考委員会の選考を経て、簡易裁判所判事に任命されることができる。
簡易裁判所判事選考委員会に関する規程は、最高裁判所がこれを定める。
第四十六條(任命の欠格事由) 他の法律の定めるところにより一般の官吏に任命されることができない者の外、左の各号の一に該当する者は、これを裁判官に任命することができない。
一 禁錮以上の刑に処せられた者
二 彈劾裁判所の罷免の裁判を受けた者
第四十七條(補職) 下級裁判所の裁判官の職は、最高裁判所がこれを補する。
第四十八條(身分の保障) 裁判官は、公の彈劾又は國民の審査に関する法律による場合及び別に法律で定めるところにより心身の故障のために職務を執ることができないと裁判された場合を除いては、その意思に反して、免官、轉官、轉所、職務の停止又は報酬の減額をされることはない。
第四十九條(懲戒) 裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。
第五十條(定年) 最高裁判所の裁判官は、年齢七十年、下級裁判所の裁判官は、年齢六十五年に達した時に退官する。
第五十一條(報酬) 裁判官の受ける報酬については、別に法律でこれを定める。
第五十二條(政治運動等の禁止)裁判官は、在任中、左の行爲をすることができない。
一 國会若しくは地方公共團体の議会の議員となり、又は積極的
に政治運動をすること。
二 最高裁判所の許可のある場合を除いて、報酬のある他の職務に從事すること。
三 商業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。
第二章 裁判官以外の裁判所の職員
第五十三條(最高裁判所事務総長) 最高裁判所に最高裁判所事務総長一人を置く。
最高裁判所事務総長は、一級とする。
最高裁判所事務総長は、最高裁判所長官の監督を受けて、最高裁判所の事務局の事務を掌理し、事務局の職員を指揮監督する。
第五十四條(最高裁判所長官祕書官) 最高裁判所に最高裁判所長官祕書官一人を置く。
最高裁判所長官祕書官は、二級とする。
最高裁判所長官祕書官は、最高裁判所長官の命を受けて、機密に関する事務を掌る。
第五十五條(司法研修所教官) 最高裁判所に別に法律で定める員数の司法研修所教官を置く。
司法研修所教官は、一級、二級又は三級とする。
司法研修所教官は、上司の指揮を受けて、司法研修所における研究、修養及び修習の指導を掌る。
第五十六條(司法研修所長) 最高裁判所に司法研修所長を置き、一級の司法研修所教官の中から、最高裁判所が、これを補する。
司法研修所長は、最高裁判所長官の監督を受けて、司法研修所の事務を掌理し、司法研修所の職員を指揮監督する。
第五十七條(裁判所調査官) 最高裁判所及び各高等裁判所に通じて別に法律で定める員数の裁判所調査官を置く。
裁判所調査官は、二級とする。
裁判所調査官は、裁判官の命を受けて、事件の審理及び裁判に関して必要な調査を掌る。
裁判所調査官の任命は、一般の二級事務官吏に任命される資格を有する者の外、第六十六條の試驗に合格した者についてもこれを行うことができる。
第五十八條(裁判所事務官) 各裁判所に通じて別に法律で定める員数の裁判所事務官を置く。
裁判所事務官は、一級、二級又は三級とする。
裁判所事務官は、上司の命を受けて、裁判所の事務を掌る。
二級の裁判所事務官の任命及び敍級は、一般の二級事務官吏に任命され、又は敍級される資格を有する者の外、第六十六條の試驗に合格した者についてもこれを行うことができる。
第五十九條(事務局長) 各高等裁判所及び各地方裁判所に事務局長を置き、裁判所事務官の中から、最高裁判所が、これを補する。
各高等裁判所の事務局長は、各高等裁判所長官の、各地方裁判所の事務局長は、各地方裁判所長の監督を受けて、事務局の事務を掌理し、事務局の職員を指揮監督する。
第六十條(裁判所書記) 各裁判所に裁判所書記を置き、裁判所事務官の中から、最高裁判所の定めるところにより、最高裁判所、各高等裁判所又は各地方裁判所が、これを補する。
裁判所書記は、裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管その他他の法律において定める事務を掌る。
裁判所書記は、その職務を行うについては、裁判官の命令に從う。
裁判所書記は、口述の書取その他書類の作成又は変更に関して裁判官の命令を受けた場合において、その作成又は変更を正当でないと認めるときは、自己の意見を書き添えることができる。
第六十一條(裁判所技官) 各裁判所に通じて別に法律で定める員数の裁判所技官を置く。
裁判所技官は、二級又は三級とする。
裁判所技官は、上司の命を受けて、技術を掌る。
第六十二條(執行吏) 各地方裁判所に執行吏を置く。
執行吏は、最高裁判所の定めるところにより各地方裁判所がこれを任命する。
執行吏に任命されるのに必要な資格に関する事項は、最高裁判所がこれを定める。
執行吏は、他の法律の定めるところにより裁判の執行、裁判所の発する文書の送達その他の事務を行う。
執行吏は、手数料を受けるものとし、その手数料が一定の額に達しないときは、國庫から補助金を受ける。
第六十三條(廷吏) 各裁判所においては、廷吏を雇う。
廷吏は、法廷において裁判官の命ずる事務その他最高裁判所の定める事務を取り扱う。
各裁判所は、執行吏を用いることができないときは、その裁判所の所在地で書類を送達するために、廷吏を用いることができる。
第六十四條(任免・敍級) 裁判官以外の裁判所の職員の任免及び敍級は、一級のものについては、最高裁判所の申出により、内閣が、二級のものについては、最高裁判所がそれぞれこれを行い、三級のものについては、最高裁判所の定めるところにより最高裁判所、各高等裁判所又は各地方裁判所がこれを行う。
第六十五條(勤務裁判所の指定) 裁判所調査官、裁判所事務官(事務局長又は裁判所書記たるものを除く。)及び裁判所技官の勤務する裁判所は、最高裁判所の定めるところにより最高裁判所、各高等裁判所又は各地方裁判所がこれを定める。
第三章 司法修習生
第六十六條(採用) 司法修習生は、高等試驗司法科試驗に合格した者の中から、最高裁判所がこれを命ずる。
前項の試驗に関する事項は、政令でこれを定める。
第六十七條(修習・試驗) 司法修習生は、少くとも二年間修習をした後試驗に合格したときは、司法修習生の修習を終える。
司法修習生は、その修習期間中、國庫から一定額の給與を受ける。
第一項の修習及び試驗に関する事項は、最高裁判所がこれを定める。
第六十八條(罷免) 最高裁判所は、司法修習生の行状がその品位を辱めるものと認めるときその他司法修習生について最高裁判所の定める事由があると認めるときは、その司法修習生を罷免することができる。
第五編 裁判事務の取扱
第一章 法廷
第六十九條(開廷の場所) 法廷は、裁判所又は支部でこれを開く。
最高裁判所は、必要と認めるときは、前項の規定にかかわらず、他の場所で法廷を開き、又はその指定する他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる。
第七十條(公開停止の手続) 裁判所は、日本國憲法第八十二條第二項の規定により対審を公開しないで行うには、公衆を退廷させる前に、その旨を理由とともに言い渡さなければならない。判決を言い渡すときは、再び公衆を入廷させなければならない。
第七十一條(法廷の秩序維持) 法廷における秩序の維持は、裁判長又は開廷をした一人の裁判官がこれを行う。
裁判長又は開廷をした一人の裁判官は、法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対し、退廷を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。
第七十二條(法廷外における処分) 裁判所が他の法律の定めるところにより法廷外の場所で職務を行う場合において、裁判長又は一人の裁判官は、裁判所の職務の執行を妨げる者に対し、退去を命じ、その他必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。
前項の規定する裁判長の権限は、裁判官が他の法律の定めるところにより法廷外の場所で職務を行う場合において、その裁判官もこれを有する。
第七十三條(審判妨害罪) 前二條の規定による命令に違反して裁判所又は裁判官の職務の執行を妨げた者は、これを一年以下の懲役若しくは禁錮又は千円以下の罰金に処する。
第二章 裁判所の用語
第七十四條(裁判所の用語) 裁判所では、日本語を用いる。
第三章 裁判の評議第七十五條(評議の祕密) 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聽を許すことができる。
評議は裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、祕密を守らなければならない。
第七十六條(意見を述べる義務) 裁判官は、評議において、その意見を述べなければならない。
第七十七條(評決) 裁判は、最高裁判所の裁判について最高裁判所が特別の定をした場合を除いて、過半数の意見による。
過半数の意見によつて裁判をする場合において、左の事項について意見が三説以上に分れ、その説が各各過半数にならないときは、裁判は、左の意見による。
一 数額については、過半数になるまで最も多額の意見の数を順次少額の意見の数に加え、その中で最も少額の意見
二 刑事については、過半数になるまで被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見
第七十八條(補充裁判官) 合議体の審理が長時日にわたることの予見される場合においては、補充の裁判官一人が、審理に立ち会い、その審理中に合議体の裁判官の一人が審理に関與することができなくなつた場合において、これに代つて、その合議体に加わり審理及び裁判をすることができる。
第四章 裁判所の共助
第七十九條(裁判所の共助) 裁判は、裁判事務について、互に必要な補助をする。
第六編 司法行政
第八十條(司法行政の監督) 司法行政の監督権は、左の各号の定めるところにより、これを行う。
一 最高裁判所は、最高裁判所の職員並びに下級裁判所及びその職員を監督する。
二 各高等裁判所は、その高等裁判所の職員並びに管轄区域内の下級裁判所及びその職員を監督する。
三 各地方裁判所は、その地方裁判所の職員並びに管轄区域内の簡易裁判所及びその職員を監督する。
四 第三十七條に規定する簡易裁判所の裁判官は、その簡易裁判所の裁判官以外の職員を監督する。
第八十一條(監督権と裁判権との関係) 前條の監督権は、裁判官の裁判権に影響を及ぼし、又はこれを制限することはない。
第八十二條(事務の取扱方法に対する不服) 裁判所の事務の取扱方法に対して申し立てられた不服は、第八十條の監督権によりこれを処分する。
第七編 裁判所の経費
第八十三條(裁判所の経費) 裁判所の経費は、独立して、國の予算にこれを計上しなければならない。
前項の経費中には、予備金を設けることを要する。
附 則
この法律は、日本國憲法施行の日から、これを施行する。
裁判所構成法、裁判所構成法施行條例、判事懲戒法及び行政裁判法は、これを廃止する
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〔國務大臣木村篤太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=27
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028・木村篤太郎
○國務大臣(木村篤太郎君) ただいま議題となりました裁判所法案の提案理由を御説明申し上げます。
日本國憲法は、その第六章において司法に關する規定を設け、現行憲法の司法に關する規定に著しい改正を加えましたことは、各位御承知の通りであります。從いまして現行憲法のもとに、裁判所構成法によつて定められております裁判所制度も、これにより改正の必要を生ずるに至つた次第であります。政府におきましては、改正憲法制定後の短期間内に最大の努力を拂いまして、國民の期待と國際的關心とを十分に考慮の上、本法案を立案いたし、今日提案いたす運びと相なつた次第であります。
次に本法案の内容について、重要なる諸點を概略御説明申し上げたいと思います。その第一は、裁判所の設置については、最高裁判所のことは、改正憲法で直接定められておりますので、下級裁判所についてのみ定め、これを高等裁判所、地方裁判所及び簡易裁判所といたしまして、個々の裁判所の設立、廢止及び管轄區域につきましては、別に法律で定めることといたしました。これらの法律案も、やがて提案いたす運びと相なつておる次第であります。
第二に、裁判權につきましては、裁判所は從來の民事、刑事のほか、いわゆる行政事件にもわたりまして、一切の法律上の爭訟を裁判することを明らかにし、また行政機關が行政處分について審判をする場合との閣係をも明らかにしているのであります。もつとも改正憲法が直接規定をいたしております兩院議員の資格に關する爭訟及び裁判官の彈劾に關する裁判は、もとより裁判所の權限には屬さないのでありまして、本法案におきましても、この點を明らかにいたしておるのであります。
第三に、最高裁判所につきましては、改正憲法が廣範圍の權限を與え、かつきわめて高い權威を期待しておりますことは、これまた御承知の通りでありまして、この趣旨に從い、その構成及び事件の取扱い等につきましては、特別の考慮をいたしまして、特にその裁判官につきましては、長官のほか判事十四人といたしまして、その任命資格は、いわゆる法曹または法律學者としての豐富な經驗のある者のほかに、從來の經歴等にとらわれず、識見の高い人材を廣く求め得る道を開き、最高裁判所をして眞に權威ある最高の司法機關たらしめることを期しているのであります。
第四に、下級裁判所のうち、高等裁判所は、大體現在の控訴院に相當いたすのでありますが、第二審事件のほかに、特別の事件の第一審及び簡易裁判所事件の上告をも扱うことといたしております。地方裁判所は、これまた大體現在の地方裁判所の權限と區裁判所の權限を有することといたし、一般の第一審事件のほか、簡易裁判所事件の控訴を扱い、その事件の取扱いは、從來の合議制のみである點を改め、特殊の事件を除いては、事件の性質に從つて合議體または一人で行うことができるようにいたしたのであります。簡易裁判所は、輕微な民事、刑事の事件を扱い、全國數百箇所にこれを設け、簡易な手續によつて、爭議の實情に即した裁判をするよう工夫いたしておるのでありまして、司法の民衆化に貢獻するところ少からざるものがあろうと期待いたしておるのであります。
第五に、裁判官については、前述の最高裁判所の裁判官のほかに、高等裁判所長官、判事、判事補及び簡易裁判所判事の四種を設け、それぞれについて、その地位にふさわしい任命資格を規定しました。裁判官の定年については、最高裁判所判事はすべて七十歳、その他の裁判官は一律に六十五歳とし、裁判官の身分の保障については、御承知の通り、改正憲法により下級裁判所の裁判官について十年の任期が定めてありますほかは、現行制度以上に保障を厚くいたし、司法權獨立の全きを期しております。なほ從來の司法官試補及び辯護士試補の制度を改め、これを司法修習生の制度に統一し、將來の法曹は、在朝在野を問はず、司法修習生の修習を終つた者であることを必要とし、その修習を最高裁判所の管理に屬させて、法曹の素質の向上を期しておるのであります。
第六に、司法行政については、最高裁判所を最高の監督機關とし、改正憲法の規定により、最高裁判所以下各裁判所でこれを行い、その事務を處理するために、簡易裁判所以外の各裁判所にそれぞれ事務局を設け、所要の職員をおくことといたしているのであります。
最後に、裁判所の經費につきましては、これを獨立して國の豫算に計上することといたし、一般行政の經費とは別個に取扱わるべきことを明らかにいたしているのであります。
はなはだ簡單ではありますが、以上をもつて裁判所法案の概略を御説明申し上げました。何とぞ愼重御審議の上、速やかに御協贊を賜わらんことをお願いいたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=28
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029・井上知治
○副議長(井上知治君) 本案の審査を付託すべき委員の選擧についてお諮りいたします。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=29
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030・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は議長指名十八名の委員に付託せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=30
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031・井上知治
○副議長(井上知治君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=31
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032・井上知治
○副議長(井上知治君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=32
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033・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 議事日程變更の緊急動議を提出いたします。すなわちこの際、山口喜久一郎ほか八名提出、南海震災救援促進決議案を議題となし、その審議を進められんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=33
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034・井上知治
○副議長(井上知治君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=34
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035・井上知治
○副議長(井上知治君) 御異議なしと認めます。政府はこの議事日程變更に同意されました。よつて日程は變更せられました。
南海震災救援促進決議案を議題といたします。提出者の趣旨辯明を許します。提出者寺尾豊君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=35
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036・会議録情報7
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南海震災救援促進決議案(山口喜久一郎君外八名提出)
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南海震災救援促進決議案
南海震災救援促進決議
昨年十二月二十一日の未ぞ有の震災による南海地方の惨害は、正に言語に絶するものがある。罹災地域における民生の安定、産業施設の復興等を図るに当つては、南海地方における公共事業計画を樹立しその発展を目標として不断の考慮を拂うべきである。
よつてこの際政府は、右震災地方の復興にあらゆる手段を盡し、罹災同胞救援のため必要なる期間継続的措置を講ずべきである。
衆議院は、茲に院議を以て政府に対し南海震災地方不断の救援のため積極的にこれが対策の実施を促すものである。
右決議する。
━━━━━━━━━━━━━
〔寺尾豊君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=36
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037・寺尾豐
○寺尾豊君 私はただいま上程をされました、各黨共同提案によりまする南海震災救援促進決議案につき、提出者一向を代表いたしまして、その提案理由を御説明申しげたいと存じます。まず決議文を朗讀いたします。
南海震災救援促進決議
昨年十二月二十一日の未ぞ有の震災による南海地方の慘害は、正に言語に絶するものがある。罹災地域における民生の安定、産業施設の復興等を圖るに當つては、南海地方における公共事業計畫を樹立しその發展を目標として不斷の考慮を拂うべきである。
よつてこの際政府は、右震災地方の復興にあらゆる手段を盡し、罹災同胞救援のため必要なる期間繼續的措置を講ずべきである。
衆議院は、茲に院議を以て政府に對し南海震災地方不斷の救援のため積極的にこれが對策の實施を促すものである。
右決議する。
舊臘二十一日未明、南海地區一帶を襲いました大震災、これは古來稀有の強震でありまして、その被害は、中部、近畿、中國、四國、九州など、本邦西部全地域にわたつており、人畜、建造物、諸施設などに甚大なる損害を與えたのであります。すなわち被害をこうむりましたところの府縣は、長野、岐阜、靜岡、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、廣島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎の實に二十五府縣に及んでおりまして、直接損害をこうむつた罹災者は、總数二十三萬餘の厖大なる數に上つておるのであります。
その内譯を見ますと、死者は各府縣を通じまして一千三百五十四名に及び、負傷者は三千八百七名、行方不明百十三名、合計五千二百七十四名に達しております。家屋の倒壞三萬五千二百六十三戸、浸水家屋二萬八千八百七十九戸、流失千四百五十一戸、燒失二千五百九十八戸、船舶流失二千三百四十九隻、田畑の流失、浸水は六千七百十八町歩、道路、橋梁、堤防の損壞二千三百二十箇所以上、その他全被害地域にわたる鹽田、生活必需物資、鐵道、電信電話等の損傷は、おびただしい額に上つておるのであります。
このうち特に甚大な被害をこうむりましたのは、和歌山縣、徳島縣、香川縣及び高知縣でありまして、高知縣のごときは、死者及び負傷者において全總數の半ばを占め、倒壞、浸水、流失家屋二萬二百九十八戸という大損害をこうむつたのであります。その有形、無形の損害は、優に百億を突破するのでありますが、これを當面直ちに復舊を要します道路、堤防等の應急施設の費用だけにいたしましても、十數億に達する見込みでありまして、その災害の復興は容易ならぬものがあるのであります。
かかる大震災は、南海地方では九十餘年前の安政の大地震以來のものであり、近くは關東大震災や三陸、近畿地區大地震をはるかに凌ぐものでありまして、被害地區の廣汎にしてその震度の強烈なる、いずれも從來に比を見ないものであります。殊に今次地震の震源地が、潮岬南西百キロの海底であり、しかも滿潮時に近く發生しましたために、非常なる高潮となつて、二メートルから四、五メートルを越ゆる大津波が、伊豆附近より九州にわたるきわめて廣い範圍に來襲いたしまして、ますますその被害を大きくしたのであります。和歌山縣串本町、新宮市、徳島縣淺川村、香月縣坂出港、高知縣、中村町、宇佐町、野根町のごときは、ほとんど全滅の慘状を呈しております。
私は、震災直後本院より慰問團員としまして、四國方面の罹災地をつぶさに視察慰問いたしたのでありますが、被害の豫想以上に大きいのに驚いたのであります。宇佐、野見、須崎三漁港のごときは、一瞬にして、數百戸に上る家屋と、漁民の生命と、多數の船舶を流失し、灣内は、家や家財道具や犧牲者、木材等の漂流物により全海面を埋め盡し、その慘状實に目をおおわしむるものがありました。また地震により地殻に一大變動を與え、四国東南端附近は一メートル餘の隆起をいたしまして、遠洋漁業の基地として、水産資源獲得に多大の貢獻をしております室戸、室戸岬の兩港のごときは、その隆起のために港が淺くなりまして、百トン級の漁船の出入さえも不可能になり、まつたく使用ができなくなつたのであります。當面最も重要なる遠洋漁業に大頓挫を來しましたことは、まことに憂慮すべきことであります。また西部地方は逆に一メートルあまり沈下いたしまして、高知市下町一帶のごときは、浸水はなはだしく、四千五百餘戸に甚大なる被害を與え、さらに水魔は、各地の住宅のみならず、田畑數千町歩を襲い、未だに一面の泥海と化しておる状態でありまして、食糧問題の上からも一大脅威を受けるに至つているのであります。しかもこれらの復舊には簡易なる急場凌ぎの處置を施して、一時押えをなしつつあるに過ぎませんので、刻々迫つてまいります雨期をひかえ、急速に根本的な工事施設をいたしません限り、水害による再度の慘事發生を見ることは明らかであります。これらのことにつきましても政府は速やかに周密なる計畫を立て、恒久的な復興に努力すべきであると存ずるのであります。
敗戦の創痍未だ癒えざるのとき、かくも厖大なる物的人的資源を瞬時にして失いましたことは、復興途上にあるわが國として、まことに痛恨の極みであると言わなければなりません。この不慮の天災により生命を失われました多數の同胞、及びその遺家族、竝びに大きな被害を受けられましたところの罹災者各位に對しましては、眞に同情の念にたえざるものがあります。
私は今囘の大震災につきまして特に留意すべき重要な點があると存じます。それは大部分の罹災者が、空襲の被害を受け、敗戰の痛苦をなめつつ辛うじて起ち上り、その燒けはてた廢墟の上にみずからの生計を築くために、ようやく再建の一歩を踏み出した途端に、この震害をこうむつたのであります。いかに天災とはいいながら、その試錬のあまりにも慘烈なる、實に從來の震災などに比べものにならない深刻さをもつているのであります。私どもは戰死者の遺族、戰災者及び海外引揚者等の援護救濟に努力を盡してまいりましたが、これと同時に今囘の南海大震災の罹災者に對しましても、これまでと同樣に、否、それにも増して、ぜひとも温かい救援の手を差延べなければならないと存じます。今南海地方の罹災者たちは、戦災に續く大震災により、心身ともに大きな痛手を受けながら、懸命の力を揮つてその復興に再び起ち上ろうといたしております。この涙ぐましい努力にできるだけの力を貸し、これを押し上げ助けていくことこそ、國家の務めであり、同胞愛に燃える全國民の情であると存ずるのであります。
既に政府におきましては、震災各府縣の罹災者救濟のために應急の措置をとられ、また緊急諸施設のための經費を豫算に計上せられておりますので、その努力は一應諒といたしまするが、あまりにも小額なるをはなはだ遺憾に存ずるのであります。殊に復舊に要しまする諾物資は、非常に缺乏をいたしております。從つて價格は高騰しており、これに伴いまするところの諸經費も、またはなはだしい値上りをいたしております。ゆえにこの程度の豫算ではまことに心細いのでありまして、所期の復舊をなしますることは、とうてい不可能であると存じます。よつて政府はこの際思い切つて豫算を増額し、その應急救援と並行して、根本的な復興對策に全力を盡されんことを切に希望いたすものであります。
次に私は、今囘の震災に際しまして寄せられましたところの、連合軍の間髪を入れざる適切なる救援の處置に對し、罹災者一同を代表しまして、心からなる感謝の意を表するものであります。(拍手)すなわち地震直後の交通、通信の壞滅に瀕しましたときに、飛行機をもつて僻地の罹災者に食糧を投下し、あるいは艦艇を派して、衣料、藥品その他貴重なる救恤物資を搬送し、あるいは軍用車をもつて避難民を輸送するなど、絶大なる御援助に、各地罹災民はひとしく感激のほかなかつたのであります。また御名代として、閑院、竹田兩宮殿下の罹災地の御慰問を初め、救濟に對し寢食を忘れて挺身されました官民各位の熱烈なる同胞愛に對しましても、衷心より感謝の言葉を申し述べたいと思います。
最後に科學者各位におかれましても、地震の科學的分析を徹底的に行い、世界の地震國をもつて任じまするわが國といたしまして、本研究に全力を傾注せられ、極力被害を最小限度に防止し得るごとく、不斷の御努力をお願いするものでございます。
以上、提案の趣旨を御説明申し上げました。何とぞこの趣旨を諒とせられ、本決議案に御贊成を賜はらんことを切望いたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=37
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038・井上知治
○副議長(井上知治君) これより討論に入ります。
〔「大臣がいないじやないか」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=38
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039・井上知治
○副議長(井上知治君) 内務大臣は豫算の分科會に行つておられます。齋藤てい君。
〔齋藤てい君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=39
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040・齋藤てい
○齋藤てい君 私は進歩黨を代表いたしまして、ただいま上程されました南海震災救援促進決議案に對しまして、全幅の贊意を表するものでございます。
今囘の南海地方を襲いました地震は、わが國未曾有の大地震でございまして、一昨々年熊野灘に起つた東南海大地震よりも、また關東大震災よりも、まことに廣範圍にわたる、本邦最大級のものと言われておるのでございます。私も當時命ぜられまして、本院の震災慰問團の一員といたしまして、近畿班に加わり、親しくその震源の中心地和歌山縣の慘害状況をまのあたり見てまいりまして、實にその慘澹たる被害状況と、自然の暴威の強大さとに驚かされたのでございます。その被害の詳細は當時すでに新聞、ラジオ等によりまして、いち早く報道されておりまするから、私はここで省略させていただきまするが、私はこれより、現地慰問をいたしまして特に胸を打たれた二、三の實情を御報告いたし、併せて一般の御同情に訴えたいと存ずる次第であります。
かの大地震は、ちようど昨年十二月二十一日の夜明前、すなわち午前四時ごろの出來事でございまして、まだ多くの人たちは眠りからさめやらぬ時で、震災と同時に襲い來つたあの大津浪で、人々は皆寢卷姿のまま、あるいは丘へ上り、あるいは二階や屋根に、瞬間の避難をいたしたのでございます。從つて家財や、大事な衣類や、食料品等は、ことごとく浪にさらわれてしまつたのでございます。しはすの嚴冬、しかも夜明の骨を刺す寒さに、皆ぬれねずみの寢卷に震えたのでございます。
和歌山は、御承知の通りえんえん海岸線に沿つて都市村落を營んでおる關係上、この津浪に襲われた方々が非常に多いのでございまするが、人命の被害は、全般から見まして非常に輕少でありましたことは、不幸中のさいわいと言うべきでございます。このことは、先年の熊野灘大地震の體驗による平素の心用意があつたからとのことでございます。しかし一方被害を見ますると、家や、家財や、衣類、食料品竝びに農耕地、その他鐵道、船舶等の流失、倒壞、浸水、燒失等による損害は、實に實に甚大なものでございます。
現在戰災者、復員者、引揚者等の處遇、更生は、國家再建の重要課題でありまするが、これらの人々にも増して悲慘な境遇に追ひ込められましたる罹災民、殊に衣食住の三者を同時にしかも全部奪い去られた罹災民を救うことは、刻下喫緊の急務と言わねばなりません。この罹災者の中には、戰災者と引揚者の方々が非常に多く加わつておられたことは、かえすがえすもお氣の毒の至りであります。戰災者、引揚者の方々は、せつかく安住の地を求めてはるばる歸國され、惡戰苦鬪の末、ようやく一家をなされたのもほんのつかの間、また再び苦難に突き落されたのでございます。これらの人々の心中をお察し申し上げるときに、うたた同情の涙を禁じ得ないものがございます。
かような苦難の中にも、災害地の人人は實に沈著かつ意氣軒高たるものがありましたことは、非常に心強く、また頼もしき限りでございます。殊に青年層の組織力團結力による復舊推進は、實に目ざましいものがございます。彼らは自力更生を誓つて復舊に挺身し、相當成績をあげてはおりますが、何にいたせ、復興の資金や資材や生活必需品の缺乏は、いかんともすることができないのでございます。從つて復興完遂は容易ならぬ状態におかれているのでございます。この際政府はよろしく迅速なる應急措置を講ぜなければならないことは、申すまでもございません。
まず應急處置といたしまして、復興資金の融通、資材の供給、封鎖預金の特別解除、租税の減免、農業保險金特別拂等の緊急對策を樹立し、もつてこれが急速なる實施を要請してやまない次第でございます。
なお先ほども自由黨の方から申されましたが、この機會において一言申し上げたいことは、皇室の御仁慈と、總司令部の御厚意と、一般國民の御同情に對してでございます。皇室におかせられましては、このたびの大震災にあたり、多額の御内帑金を賜わりたる上、かしこくも竹田宮、閑院宮兩殿下を勅使として御差遣賜わり、親しく災害地を御慰問くださいまして、かつまた優渥なる激勵のお言葉を賜わりましたることは、まことに恐懼感激の極みでございます。また聯合軍總司令部におかれましては、いち早く災害状況の通信連絡、治安維持の確保にあたられ、かつ罹災民救助のため、多大なる食糧品、衞生資材その他救援物資を放出してくださいましたことは、罹災者はもちろん、國民といたしまして、その御厚意に對し、衷心感謝にたえない次第でございます。また隣接縣初め、各地府縣より、時を移さず金品その他救援物資を多數お送りいただきました深い御同情に對し、罹災者を代表いたしまして、ここに深甚の謝意を表する次第でございます。
ただこの上は、關係罹災地はもちろんわれわれ國民が一致協力して、この大自然の暴威を、天がわれわれ日本人に下した一大試煉なりとして、何らひるむところなく、復興日本建設に一路邁進いたさねばならぬと確信いたす次第でございます。(拍手)政府におかれましても、十二分に本決議案の趣旨に透徹されまして、迅速果敢に復興對策に萬全を期せられ、速やかにこれが實地に移されんことを、ひたすら要望いたしてやまない次第でございます。これをもちまして、私の贊成演説といたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=40
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041・井上知治
○副議長(井上知治君) 氏原一郎君。
〔氏原一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=41
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042・氏原一郎
○氏原一郎君 私は日本社會黨を代表いたしまして、ただいま上程の決議案に贊成の意見を申し上げたいと存じます。
今囘の南海震災には、今後の救援竝びに復舊對策につきまして、根本的に考えなければならない點が三、四あると存じます。その第一は、今囘の震災が、戰災の創痍がいまだ全くいえないで、復興のことがほとんど緒につかざるうちに、かくのごとき災害に見舞われたということであり、また第二は、被害の區域が、戰災のごとく主として都市の區域に限定されないで、農村、山村、漁村等、非常に廣汎な區域にわたりまして、農林、水産、工業等の各産業はもとより、公共施設たる道路、橋梁、港灣、堤防、學校、官衙等の損害が多大に上つておるということであります。と同時に、提案者からも申されました通り、外地引揚者、戰災者等にして、戰爭によつて大きな痛手を受け、殘る力のすべてをあげて復興に專念をしておりましたものが、再びたたきつけられたというような者が少くないということであります。もう一つは、本年雨季までにこれらの震災地における救援復舊對策を完成しない場合におきましては、龜裂を生じております道路、堤防等は、決壞、崩壞を來し、損害をより深刻にし、かつ廣汎なものにするおそれが非常に大きいということであります。また農林、水産業等におきましては、耕地、林道、炭がま、漁港、漁場あるいは漁具等の復舊に速やかなる復興の手を打たなければ、國民生活の根本となりまする食糧生産にも大きな影響があるという、以上五つの特殊の條件が、この震災救援竝びに復舊對策に基本的に考えられなければならないと存ずるのであります。從いまして私は、この際本決議案に對する政府の態度として、十二分の御考慮を願いたい二、三の點について、贊成意見の中に政府に要望いたしたいと存じます。
その第一は、現下の國力、殊に地方公共團體等のの自力による復舊は、現在の地方財政力及び經濟事情等から考えまして、とうてい困難であるという事情を政府は深く考えて、從來の災害補助率等にとらわれることなく、むしろこの際震災復舊竝びに救援については、政府は交付金を各地方に交付すべきであるということであり、第二は、國が昭和二十一年度及び二十二年度において行わんといたしまする公共事業等については、すべて優先的に、震災地區府縣にこれを重點的に配分することを考えなければならないという點であります。第三は、補助助成と同時に、現下の經濟事情から考えて、復舊資材の確保、裏づけについての十分なる用意を整えてほしいということでございます。いかに政府が資材の割當をいたしましても、この救援復舊は、チケツトだけではとうてい困難でございますので、政府はこの點について十分なる措置を考えなければならないと存じます。第四は、産業の復舊、罹災者の自力による起ち上りにつきましては、國費をもつてするところの助成のほかに、資金の融通、封鎖預金の解除等、格別な配慮を拂わなければならないという點でございます。なお現に戰災地區におきましては、借地借家の問題をめぐりまして、社會問題が多く發生をいたしておりまするが、この際政府はこれら震災地區におけるこの問題解決のためには、罹災地借地借家法のごときを震災地區にも適用する等の措置をも考えなければならないではないかと存ずるのであります。
最後に、今囘の震災におけるところの政府の救援復舊對策は、ややもすれば正確なる数字の把握に欠くるところがございまして、當初政府の計畫としては、被害の程度について和歌山三、高知二、徳島一というふうに比率を定めておつたかのごとくに傳えられておりまするけれども、だんだんと被害地の實相が明確になりました今日におきましては、これらの比率は根本的に誤つておるということが明らかにされております。この際政府は、今後の救援復舊對策については最も正確なる數字を把握せられて、いわゆるある種の政黨の有力者の運動であるとか、あるいは與黨の庄力であるとかいうことでなしに、實際に正しい數字の上に立つての救援復舊對策を樹立すべきであるということを切願するものであります。以上、政府に對する要望事項を掲げまして、私は本決議案に滿腔の贊意を表する次第でございます。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=42
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043・井上知治
○副議長(井上知治君) 伊藤幸太郎君
〔伊藤幸太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=43
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044・伊藤幸太郎
○伊藤幸太郎君 私は國民協同黨を代表いたしまして、ただいま上程に相なりました南海地方震災救援促進決議案に對し、滿腔の誠意をささげて、その贊意を表する者であります。(拍手)
今囘の大震災は、大正の大震災にも比する、むしろ地域廣袤におきましては、それよりも大なる大災害であつたと信ずるのであります。無謀なる戰爭、不幸なる戰爭によつて受けました戰災、竝びに十九年十二月七日の震災による災害等、ようやくその復興の緒についたという、そのときにあたりましての今度の災害でありまするから、この被害同胞の苦しみは一層大きなものがあります。いわゆる住宅、家財の倒壞流失、耕地の荒廢等、産業の再建、民主の確保等、各種悲觀的の實相は、あまりにも深刻なるものがあります。
この際政府は積極果敢なる復興對策をとるのでなければ、この地方の罹災同胞の塗炭の苦しみは、日に増大するばかりでございます。この同胞の全身創痍を受けた有樣は、まことに悲慘を極むる状態でありまして、この際交通、通信、運輸等の復興對策、耕地の復舊等、まことに大規模な土木事業を必要とするものであります。今日わが國は、資材竝びに資本の方面におきましても、大きなる缺乏の状態にあることは明らかなことでございまするが、この救援復興は一日もゆるがせにすることのできない重大喫緊事でございます。この際政府におきましては、豫算の増額、復興資材の確保等、萬難を排して積極果敢にこの救援の事業を促進せらるることこそ、まことに喫緊の要務であると信ずるのであります。本決議案に對し、全幅の贊意を表するものであります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=44
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045・井上知治
○副議長(井上知治君) 紅露みつ君
〔紅露みつ君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=45
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046・紅露みつ
○紅露みつ君 私はただいま上程されました南海救援促進決議案に對し、無所屬倶樂部を代表いたしまして、贊成の意を表するものでございます。
被害その他につきましては、既に決議案の趣旨辯明において詳細なる御發表があり、かつ各派代表の方々により縷縷開陳せられました通りでございまして、現下疲弊困憊の極にありまするわが國情に加えて、これはまたあまりにも無殘なる試錬であることに心痛いたしまする折柄、これが救援に關しまして、各派の共同提案として、今日ことに取上げられたことにつきましては、被害地選出議員として感謝のほかなく、殊に被害激甚を極めましたわが徳島の全縣民に代りまして、衷心より感謝の意を表明し、なお復舊に關し、今後一層皆樣の御協力を願つてやまない次第でございます。(拍手)
そもそも地震に津浪の伴いますることは、古來常識とされておりまするが、今囘もその例に違はず、地震よりも津浪による被害が、はるかに甚大でございまして、該地方海岸線一帶は、丈餘に及びまするところの高潮によりまして、餘す所なく慘禍をこうむり、その護岸堤防は自然の猛威に遇いまして、ひとたまりもなく、一瞬にいたしまして多數の決壞箇所を生じ、ために家屋及び諸物資の流失、人畜の死傷少からず、橋梁、道路の破壞枚擧にいとまなき多數に上り、その他林産物等の損害も、またおびただしいものがあります。時に鹽田におきしては、ほとんど壞滅に近い状態に立ち至つております。漁村におきましてはその生命線と頼みまするところの漁船、漁具の大部分が流失し、また隣接農村におきましては、農耕地のほとんどが海水の浸入するところとなりまして、かつては美しき水田でありました地域も、むなしく海底に沒して、廣漠たる太平洋と打連ぬるに至り、未だに潮の干潮につれまして、家屋内に浸水を繰返しつつある所もございます。またかつては孜々として漁業に專念せし一部落のごときは、跡かたもなく流失して、眞に一物も留めず、そのありし日をしのぶべくものもなき一面の砂原と化し去り、現地に立つてこれを見まするとき、まことに暗澹たる慘状でございます。
これら損失の額につきましては、ここに數字をあげまする煩を避けまするが、この厖大なる復舊の費用が地方民の負擔にたえざるは申すまでもなく、これが政府に對する要望といたしましては、まずぜひとも九割以上の國庫補助をもつてせらるること、及び復舊資材の急速かつ多量の特配方、この二點が焦眉の問題であります。これに次いでは、地方起債の許可、低利資金の簡易なる貸出し、及び義捐金に對する封鎖預貯金の特別措置等であります。
特にここで強調いたしたいと存じますることは、政府はこれらの措置を急速確實に實施されまして、本年度水田の植付けに支障なからしめることであります。もしこれが施策の遷延によりまして、本年度植付けの時期を失しましようか、罹災地住民の困窮はもとより、ひいては全國的食糧事情に波及するところ、またはなはだ大なるものあるは明らかであります。またこの意味におきまして、食糧増産の一環を擔いまする漁村に對しても、漁船、漁具、漁網、漁油のごとき、また現下鹽の事情に鑑みまして、鹽田の復舊のごとき、ともに政府の深甚なる御考慮を切望するものでございます。なほまた水田の復舊に關しましては、農地制度の改革期にありまする現在、地主、小作のいずれが復舊の責任を負うべきやが問題とされ、その一方法といたしまして、被害田は政府において一旦これを買い上げ、復舊の上、再び前の所有者にこれを賣り渡さるべきであるとの議も起りつつあります。この點、政府におかれましても、眞劍なる御研究を煩わしたいと存じます。
次に、救援用といたしまして、衣料の特配を要請いたしたいと存じます。罹災直後、疊、ふとん、毛布などの代用といたしまして、むしろが充當されたのでございます。しかしこれとても、にわかにおびただしい需要を滿たさすに足らずして、やむをえず農家にわらの供出を求めまして、これを唯一の防寒用といたしました。そうして衣料につきましては、舊軍隊用のものを集めて配給する手はずをとりましたが、これは男子用にして、かつおとなもののみであることは申すまでもございません。そこで私どもは、現地視察の途上におきまして、ふとん、毛布のほかに、婦人、子供用の綿反物、綿及び學童服等の至急配給方を商工大臣あてに懇請いたしましたが、これらは未だに實現せず、幼兒を抱えました母親が、また學童たちが、いかにして昨今の寒氣をしのぎつつあるやを思いまするとき、眞に胸を痛ましめるものがございます。顧みまするに、往年關東の大震災における、またその後三陸の津浪における、いずれも救援用として第一に衣料の寄附を全國的に募り、各家庭またあげてこれに應募し、かくて罹災者は、不幸のうちにも温かい同胞愛にひたり得たのでございます。しかるに現在の纖維事情は、各自の生活にさえ事缺く状態でございまして、たとへ親戚故舊たりとも、これを讓るべき餘裕をもち得ず、よつて至急これがお手配方を政府に要請する次第でございます。
最後に、一言附け加えまして、政府の猛省を促したいと存じますることは、地震そのものは、なるほど現在文化の過程におきましては、不可抗力の自然現象に屬しまするが、しかしこれを事前に察知するということは、研究次第で可能であるということが、近時科學者たちの發表によつて期待さるるに至つております。しかもわが國は、世界有數の地震國であるにかかわらず、これが等閑に付されていることは、まことに遺憾のきわみであります。今囘の災害によりまする死傷者の多くが、戰災等による疎開者でありまして、土地不案内の上に、津波に關する知識の乏しかつたという事實、また現下貴重なる物資、特に現下貴重なる食糧その他おびただしき物資の流失等、顧みて悔い多きものがあります。
〔副議長退席、議長着席〕
これらは、地震を豫知し得て事前に十分の準備を施しておりましたならば、被害を最小限度に食い止め得たであろうと、かえすがえすも遺憾に存じます。また今囘の經驗によりますると、津波の被害は、港灣の形によつて著しく輕重の差を生ずると言われております。從つてこれが適切なる施設を加えまするにおきましては、津波そのものの威力をも輕減し得ると考えられるのであります。政府はこの際急速に震災の復舊をはからるるはもちろん、一面におきましては、これらの貴い經驗を生かして將來に備え、思い切つてこの種科學的研究機關を新設あるいは強化し、もつて地震を豫知し、これに伴う律波につきましても、能う限りの準備を施し、國民に對しては、これが知識の普及をはかり、また港灣等につきましては、これを理想型に改修する等、今囘を契機といたしまして、災害防止に萬全の策を立てられんことを強く要望いたしまして、私の贊成意見を結びます。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=46
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047・山崎猛
○議長(山崎猛君) 中西伊之助君
〔中西伊之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=47
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048・中西伊之助
○中西伊之助君 日本共産黨は、ただいま上程中でありまする決議案に、滿腹の贊意を表するものであります。(拍手)
今度の震災につきましては、關東震災に比すべき慘状であつたということであります。その犧牲になられた方に對しましては、日本共産黨といたしまして、深く弔意を表する次第であります。
皆樣も御承知の通り、こうした決議案は、議會においてたびたび通過しております。しかしその後の經過、すなわちその決議を實踐するということになりますと、一向われわれ首肯し得ないのであります。ただ決議倒れということになつていることは、皆樣もおそらく御承知であらうと存じます。今後やはりそういうことを續けてはならない。政府當局は、民主主義時代と申しましても、やはり官僚主義を清算し切れない。繁文縟禮を續けて、タイムリーにそうした救濟をするということに對しては、ほとんど無能力であります。議會はこれに對して全面的に政府を鞭撻し、今度のこの意義ある決議を、直ちに最も有効適切に實行せしめたいと存じます。これをもつて贊成の辭といたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=48
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049・山崎猛
○議長(山崎猛君) これにて討論は終局いたしました。採決いたします。本案を可決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=49
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050・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて本案は可決せられました。(拍手)
日程第五、罹災救助基金法の一部を改正する法律案の第一讀會を開きます。厚生大臣河合良成君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=50
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051・会議録情報8
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第五 罹災救助基金法の一部を改正する法律案(政府提出) 第一讀會
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罹災救助基金法の一部を改正する法律案
罹災救助基金法の一部を次のように改正する。
第一條、第二條第一項、第七條及び第十五條ノ二中「府縣」を「都道府縣」に改める。
第三條中「府縣」を「都府縣」に改め、同條に次の一項を加える。
北海道ニ於テ貯蓄スベキ罹災救助基金ノ最少額ハ百萬圓トス
第十五條、第十六條、第十七條、第十九條、第二十條及び附則第二項中「府縣」を「都道府縣」に、「府縣會」を「都道府縣會」に、「内務大臣及大藏大臣」を「厚生大臣、内務大臣及大藏大臣」に改める。
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
北海道罹災救助基金法は、これを廃止する。
北海道罹災救助基金法により貯蓄した罹災救助基金は、罹災救助基金法により貯蓄した罹災救助基金とする。
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〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=51
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052・河合良成
○國務大臣(河合良成君) ただいま議題となりました罹災救助基金の一部を改正する法律案について、提案の理由を説明いたします。
非常災害に際しての救護に關する法律といたしまして、一般に罹災救助基金法があるのでありますが、その他に北海道につきましては、その地域が廣大であるがゆえに、他に比して多額の基金を必要とすること、及び基金の急速な造成をはかる必要があつたこと等の特殊の事情によりまして、北海道罹災救助基金法が設けられておるのであります。ところが同法の施行期限は四十年間と定められており、その期間が滿了したことと、同法による基金も既に相當額に達し、北海道について特別法を設けておく必要がないものと認められますので、罹災救助基金法の一部を改正して、北海道にもこれを適用されるようにし、北海道罹災救助基金法は、これを廢止しようとするのであります。何とぞ御審議の上、速やかに御協贊を與えられんことを希望いたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=52
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053・山崎猛
○議長(山崎猛君) 本案の審査を付託すべき委員の選擧についてお諮りいたします。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=53
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054・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は政府提出統計法案委員に併せ付託せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=54
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055・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=55
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056・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。
日程六及び第七は關連せる議案でありますから、一括議題となすに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=56
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057・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。日程第六、證券取引法案、日程第七、日本證券取引所の解散等に關する法律案、右兩案を一括して第一讀會を開きます。大藏政務次官北村徳太郎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=57
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058・会議録情報9
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第六 証券取引法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第七 日本証券取引所の解散等に關する法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
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証券取引法案
証券取引法目次
第一章 総則
第二章 株式又は社債の発行に関する届出
第三章 証券業者
第四章 証券取引所
第一節 設立及び組織
第二節 会員
第三節 管理
第四節 有價証券市場における賣買取引
第五節 有價証券市場における賣買取引の受託
第六節 解散
第七節 監督
第五章 証券取引委員会
第六章 雜則
第七章 罰則
証券取引法
第一章 総則
第一條 この決律は、國民經済の適切な運営及び投資者の保護に資するため、有價証券の発行及び賣買その他の取引を公正ならしめ、且つ、有價証券の流通を円滑ならしめることを目的とする。
第二條 この法律において有價証券とは、左に掲げるものをいう。
一 國債証券
二 地方債証券
三 特別の法律により設立された法人の発行する債券
四 社債券
五 特別の法律により設立された法人の発行する出資証券
六 株券
七 外國又は外國法人の発行する証券で前各号の証券の性質を有するもの
第三條 この法律において証券業とは、有價証券の賣買、賣買の媒介、引受又は募集若くは賣出の取扱をなす営業をいう。
第四條 この法律において目論見書とは、株式又は社債の発行に際し使用する説明書その他の文書で、事業に関する計画又は收支見込を記載したものをいう。
第五條 この法律において有價証券市場とは、一定の秩序のもとに有價証券の賣買取引が行われる市場をいう。
第二章 株式又は社債の発行に関する届出
第六條 株式又は社債(特別の法律により設立された法人の発行するものを除く。第二十二條に規定する場合を除き以下同じ。)を発行しようとするときは、会社成立前の場合においてはその発起人(合併に因り会社を設立する場合においては設立委員)、会社成立後の場合においてはその取締役(株式合資会社においては業務を執行する無限責任社員)及び職務代行者(株式会社又は株式合資会社の商法第二百五十八條第二項、第二百七十條第一項又は第二百七十二條第一項の職務代行者をいう。以下同じ。)の全員が、命令の定めるところにより、当該株式又は社債に関し、左に掲げる事項を政府に届け出なければならない。但し、当該発行に係る株式又は社債の額面総額が二十万円未満であつて、政府の指定する場合は、この限りでない。
一 会社の目的、商号及び資本又は出資に関する事項
二 会社の事業
三 会社の最近三事業年度の業務成績
四 会社の財産に関する事項
五 最近三事業年度末における会社の株式價格
六 当該株式又は社債の発行に因り取得する資金の使用計画
七 当該株式又は社債の種類、銘柄、数量及び金額
八 当該株式又は社債の募集又は募集の委託の條件
九 目論見書に記載する事項
十 その他命令で定める事項
外國会社がこの法律の施行地内において株式又は社債を募集しようとする場合は、商法第四百七十九條第二項に規定する代表者が、前項の届出をしなければならない。
第一項の規定による届出書の中に、訂正を必要とするものがあるときは、前二項に掲げる者は、訂正届出書を政府に提出しなければならない。
第七條 前條第一項第九号の記載事項と異なる事項を記載した目論見書は、株式又は社債の発行に際し、これを使用することができない。
第八條 第六條の規定により届出を必要とする株式又は社債については、左に掲げる期間の経過後でなければ、株式若しくは社債の募集若しくは募集の委託をし、合併に因る株式の割当をし又は発起人において株式の引受をしてはならない。
一 第六條第一項の規定による届出書の提出があつた日から十五日
二 前号の期間内に第六條第三項の規定による訂正届出書の提出があつたときは、その提出があつた日から十五日
三 第九條の規定による照会又は処分があつたときは、政府が別に指定する期間
第九條 政府は、第六條の規定により提出があつた届出書類に形式上の不備があると認めるときはその補完を命じ、又はその内容の中に重要な事項について眞実に反するものがあり若しくは重要な事項の記載の省略があると認めるときは、届出者に照会し、必要があるときは、訂正届出書の提出を命ずる。
前項の処分は、前條の規定により株式若しくは社債の募集若しくは募集の委託又は株式の割当若しくは引受をすることができることとなつた日以後は、これをなすことができない。
第十條 第六條第一項若しくは第三項又は前條第一項の規定により提出があつた届出書類に、眞実に反する記載があり又は重要な事項の記載の省略があつたときは、当該届出書類の届出者は、その記載を信じて株式の申込をし若しくは社債の募集に應じた者又は当該株式若しくは社債を取得した者に対し、連帶して損害賠償の責に任ずる。但し、届出者が故意及び過失がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
前項の責任は、第八條の規定により株式若しくは社債の募集若しくは募集の委託又は株式の割当若しくは引受ができることとなつた日から三年を経過したときは、時効によつて消滅する。
第十一條 前條の規定は、第七條の規定に違反して第六條第一項第九号の記載事項と異なる事項を記載した目論見書を使用した者に、これを準用する。
第十二條 株式会社又は株式合資会社は、命令の定めるところにより、事業年度ごとに、業務又は財産の状況に関する報告書を作成し、毎事業年度経過後二箇月以内に、これを政府に提出しなければならない。但し、その発行した株式又は社債の額面総額が二十万圓未満であつて、政府が指定する場合は、この限りでない。
第九條第一項の規定は、前項の場合に、これを準用する。
第十三條 第六條又は前條の書類は、命令の定めるところにより、政府にこれを備え置き、その全部又は一部を公衆の縱覽に供しなければならない。
何人も、命令の定めるところにより、手数料を納め、前項の書類の謄本又は抄本の交付を請求することができる。
第十四條 第十二條の規定により書類を提出しなければならない者が解散したときは、その取締役(株式合資会社にあつては業務を執行する無限責任社員)は、遅滯なく、その旨を政府に届け出なければならない。
第三章 証券業者
第十五條 証券業を営もうとする者は、命令の定めるところにより、政府の免許を受けなければならない。
前項の免許を受けた者(以下証券業者という。)は、命令の定めるところにより、免許料を納めなければならない。
第十六條 純財産額が政府の指定する額に満たない者は、前條第一項の免許を受けることができない。
前項の純財産額の算定に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第十七條 左の各号の一に該当する者は、第十五條第一項の免許を受けることができない。
一 破産者で復権を得ないもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終つた後、又は執行を受けることがないこととなつた後、五年を経過するまでの者
三 第十八條第二項、第十九條第二項又は第三十條の規定により免許を取り消され、取消の日から五年を経過するまでの者
四 営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者又は禁治産者でその法定代理人が前各号の一に該当するもの
五 法人でその取締役その他業務を執行する役員の中に第一号乃至第三号の一に該当する者のあるもの
第十八條 証券業者の純財産額が第十六條第一項の規定により政府の指定する額を下ることとなつたときは、政府は、直ちにその営業を停止しなければならない。
前項の場合において、証券業者の純財産額が六箇月以内に第十六條第一項の規定により政府の指定する額以上に回復しないときは、政府は、第十五條第一項の規定による免許を取り消さなければならない。
第十九條 証券業者が第十七條第一号、第二号、第四号又は第五号に該当することとなつたときは、免許は、その効力を失う。
政府は、不正の手段により第十五條第一項の免許を受けた者のあることを発見したときは、その免許を取り消すことができる。
第二十條 証券業者は、命令の定めるところにより、営業保証金を供託しなければならない。
前項の営業保証金は、命令の定めるところにより、國債証券を以て、これに充てることができる。
証券業者とその営業に関し取引をした者は、その取引に因り生じた債権に関し、営業保証金について、他の債権者に先だち弁済を受ける権利がある。
第二十一條 証券業者は、左の場合においては、その旨を政府に届け出なければならない。
一 商号を変更しようとするとき
二 支店その他の営業所又は代理店を設置しようとするとき
三 本店その他の営業所を変更しようとするとき
四 証券業の外他の営業を営もうとするとき
前項の規定により届け出た事項は、政府がその届出を受理した日から十日後でなければ、これを実施してはならない。
政府は、第一項の規定により届け出た事項の中に適当でないと認めるものがあるときは、その実施の停止を命ずることができる。
第二十二條 証券業者たる株式会社でその資本金額が命令で定める額以上の者は、他の法律の制限にかかわらず、社債募集の委託を受け、又は社債募集の委託を受けた会社
がないこととなつた場合の事務承継者となることができる。
第二十三條 証券業者が有價証券の賣出又は有價証券の募集若しくは賣出の取扱をしようとするときは、命令の定めるところにより、政府に届け出なければならない。
第二十一條第二項及び第三項の規定は、前項の届出に、これを準用する。
第二十四條 証券業者は、有價証券を賣買したときは、命令の定めるところにより、賣買に関する書類を作成し、これをその賣買の相手方に交付しなければならない。
第二十五條 証券業者は、命令の定めるところにより、営業に関する帳簿を備え置き、これに必要な事項を記載しなければならない。
第二十六條 証券業者の営業については、四月から九月まで及び十月から翌年三月までを、その営業年度とする。
第二十七條 証券業者は命令の定めるところにより、営業年度ごとに、営業報告書を作成し、毎営業年度経過後二箇月以内に、これを政府に提出しなければならない。
政府は、必要があると認めるときは、命令の定めるところにより、証券業者に対し、前項の営業報告書を新聞紙に掲載すべき旨を命ずることができる。
第二十八條 政府は、必要があると認めるときは、証券業者に対し、その営業若しくは財産に関する報告を命じ又は当該官吏をして営業若しくは財産の状況若しくは帳簿書類その他の物件を檢査させることができる。
第二十九條 政府は、証券業者の営業又は財産の状況により、これと取引する者の利益を保護するため必要があると認めるときは、その営業を停止し、又は制限し、財産の供託を命じその他必要な命令をすることができる。
第三十條 証券業者又はその取締役その他業務を執行する役員が左の各号の一に該当する行爲をしたときは、政府は、第十五條第一項の免許を取り消し、又は営業の停止若しくは取締役その他業務を執行する役員の解任を命ずることができる。
一 営業に関し詐欺の行爲を以て他人から金錢若しくは有價証券の交付を受け又は営業に関し、他人に交付すべき金錢若しくは有價証券を不正に領得したとき
二 営業に関し、取引の相手方に対し、有價証券に関する重要な事実について虚僞の陳述をして、有償証券の賣員その他の取引をし又はその勧誘をしたとき
三 法令又は法令に基いてする行政官廳の処分に違反したとき
第三十一條 政府は、命令の定めるところにより、証券業者のなす有價証券の賣買その他の取引に関する爭について当事者たる証券業者又はその相手方の申立があつたときは、その爭の解決を図るため仲介をしなければならない。
証券業者が前項の仲介に基く協定を履行しないときは、政府は、当該証券業者に対し、六箇月以下の営業の停止を命ずることができる。
第四章 証券取引所
第一節 設立及び組織
第三十二條 証券業者は、命令の定めるところにより、政府の免許を受け、証券取引所を設立することができる。
第三十三條 証券取引所は、一の地区については一に限り、これを設立することができる。
前項の地区は、命令でこれを定める。
第三十四條 証券取引所は、社團法人とする。
証券取引所は、会員組織とする。
第三十五條 証券取引所は、有價証券市場の開設を、その目的とする。
証券取引所は、前項の目的を達成するために直接必要な業務の外、これを営むことができない。
第三十六條 証券取引所の定款には、左に掲げる事項を記載しなければならない。
一 目的
二 名称
三 当該証券取引所に関する地区
四 事務所の所在地
五 基本金及び出資に関する事項
六 会員に関する事項
七 会員信認金に関する事項
八 経費の分担に関する事項
九 役員に関する事項
十 会議に関する事項
十一 業務の執行に関する事項
十二 会計に関する事項
十三 公告の方法
証券取引所は、その定款を変更しようとするときには、その旨を政府に届け出なければならない。
第二十一條第二項及び第三項の規定は、前項の届出について、これを準用する。
第三十七條 証券取引所の開設する有價証券市場(以下本章中有價証券市場という。)は、当該証券取引所に関する地区において一箇所に限る。
第三十八條 第三十二條の免許を受けたときは、その免許を申請した証券業者は、命令の定めるところにより、証券取引所の設立の登記をしなければならない。
証券取引所は、設立の登記をなすに因り成立する。
第三十九條 証券取引所は、命令の定めるところにより、登記をしなければならない。
前項の規定により、登記すべき事項は、登記をした後でなければ、これを以て第三者に対抗することができない。
第四十條 民法第五十條の規定は、証券取引所に、これを準用する。
第二節 会員
第四十一條 証券取引所の会員は、証券業者に限る。
第四十二條 純財産額が政府の指定する額に満たない者は、会員となることができない。
会員の純財産額が前項の規定により政府の指定する額を下ることとなつたときは、政府は、直ちにその者の有價証券市場における賣買取引を停止するとともに、その旨を証券取引所に通知しなければならない。
前項の場合において、会員の純財産額が六箇月以内に第一項の規定により政府の指定する額以上に囘復しないときは、政府は、証券取引所に対し、当該会員の除名を命じなければならない。
前三項の純財産額の算定に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第四十三條 会員は、定款の定めるところにより、出資をしなければならない。
会員の責任は、定款の定める経費負担の外、その出資額を限度とする。
第四十四條 会員の持分は、定款の定めるところにより、証券取引所の承認を受け、当該会員が脱退しようとするときに限り、これを讓り渡すことができる。
第四十五條 会員は、定款の定めるところにより、証券取引所の承認を受けて脱退することができる。
第四十六條 前條に規定する場合の外、会員は、左の事由によつて脱退する。
一 会員たる資格の喪失
二 死亡又は解散
三 除名
第四十七條 会員が脱退したときは、証券取引所は、定款の定めるところにより、その持分を拂い戻さなければならない。
第四十八條 会員は、定款の定めるところにより、証券取引所に対し、会員信認金を預託しなければならない。
会員信認金の額は、政府の定める額を下つてはならない。
会員信認金は、命令の定めるところにより、証券取引所の指定する有價証券を以て、これに充てることができる。
会員に対して有價証券市場における賣買取引の委託をした者は、その委託に因り生じた債権に関し、当該会員の会員信認金について、他の債権者に先だち弁済を受ける権利がある。
第四十九條 証券取引所は、その秩序を保持するため、定款の定めるところにより、会員に対し一万円以下の過怠金を課し、その者の有價証券市場における賣買取引を停止し若しくは制限し、又はこれを除名することができる。
第五十條 会員が脱退した場合においては、証券取引所は、定款の定めるところにより、本人若しくはその一般承継人又は他の会員をして、その有價証券市場においてなした賣買取引を結了せしめなければならない。この場合においては、本人又はその一般承継人は、その賣買取引の結了の目的の範囲内において、なおこれを会員とみなす。
前項の規定により証券取引所が、他の会員をして、その賣買取引を結了せしめるときは、本人又はその一般承継人と他の会員との間に、委任契約が成立していたものとみなす。
第三節 管理
第五十一條 証券取引所に、左の役員を置く。
理事長 一人
理事 二人以上
監事 二人以上
役員は、定款の定めるところにより、会員が、これを選挙する。
第十七條各号の一に該当する者は、役員となることができない。
第五十二條 理事長は、証券取引所を代表し、その事務を総理する。
理事は定款の定めるところにより、証券取引所を代表し、理事長を補佐して証券取引所の事務を掌理し、理事長事故あるときはその職務を代理し、理事長欠員のときはその職務を行う。
監事は証券取引所の事務を監査する。
第五十三條 役員が、第十七條各号の一に該当することとなつたときは、その職を失う。
役員は、他の証券取引所の役員を兼ねることができない。
政府は、不正の手段により役員となつた者のあることを発見したときは、証券取引所に対し、当該役員の解任を命じなければならない。
第五十四條 政府は、理事又は監事の職務を行う者のない場合において、必要があると認めるときは、仮理事又は仮監事を選任することができる。
第五十五條 証券取引所は、左の方法による外、業務上の資金(会員信認金として預託を受けたものを含む。)を運用することができない。
一 國債又は地方債の買入
二 銀行への預け金又は郵便貯金
第五十六條 民法第四十四條、第五十一條、第五十四條、第五十七條、第六十條乃至第六十六條及び非訟事件手続法第三十五條第一項の規定は、証券取引所にこれを準用する。
第四節 有價証券市場における賣買取引
第五十七條 有價証券市場における賣買取引は、当該有償証券市場を開設する証券取引所の会員に限り、これをなすことができる。
第五十八條 証券取引所は、その開設する有償証券市場における賣買取引の種類及び期限を定めようとするときは、政府の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、また同樣とする。
第五十九條 証券取引所は、命令の定めるところにより、業務規程を作成しなければならない。
証券取引所は、前項の業務規程を作成しようとするときは、政府に届け出なければならない。
これを変更しようとするときも、また同樣とする。
第二十一條第二項及び第三項の規定は、前項の届出について、これを準用する。
第六十條 証券取引所は、取引物件として上場する有價証券の銘柄を定めようとするときは、命令の定めるところにより、賣買取引の種類ごとに、政府に届け出なければならない。その上場を廃止しようとするときも、また同樣とする。
第二十一條第二項及び第三項の規定は、前項の届出について、これを準用する。
第六十一條 会員が有價証券市場における賣買取引に基く債務の不履行に因り他の会員に対し損害を與えたときは、その損害を受けた会員は、その損害を與えた会員の会員信認金について、他の債権者に先だち弁済を受ける権利がある。
第四十八條第四項の規定による有價証券市場における賣買取引の委託者の優先権は、前項の優先権に対し、優先の効力を有する。
第六十二條 証券取引所は、命令の定めるところにより、その開設する有償証券市場における相場及び賣買取引高を公示しなければならない。
第六十三條 第五十條の規定は、会員の有價証券市場における賣買取引がこの法律の定めるところにより停止された場合に、これを準用する。
第五節 有價証券市場における賣買取引の受託
第六十四條 会員は、本店若しくは支店その他の営業所又は代理店以外の場所を、有償証券市場における賣買取引の受託の取扱をなす場所とすることができない。
本店以外の営業所又は代理店を有價証券市場における賣買取引の受託の取扱をなす場所としようとするときは、会員は、その所属する証券取引所の承認を受けなければならない。
証券取引所は、前項の承認をしたときは、遅滯なく、その旨を公告しなければならない。
会員は、その代理店がその会員のためなした受託の取扱につき委託者に対し與えた損害を賠償する責に任じなければならない。
第六十五條 何人も、有價証券市場における賣買取引について委託の媒介若しくは取次をし又は委託者の代理人となることを営業とすることができない。但し、証券業者が委託の媒介をなすことを営業とすることは、この限りでない。
第六十六條 会員は、委託を受けた有價証券市場における賣買取引について、有價証券市場において賣付、買付又は受渡をしないでこれをしたと同一又は類似の計算を以て、委託者に対し、その決済をすることができない。
会員が、前項の規定に違反したときは、証券取引所は、当該会員に対し一万円以下の過怠金を課し、その者の有價証券市場における賣買取引を二箇月以上停止し又はこれを除名しなければならない。
第六十七條 会員は、有償証券市場における賣員取引の委託を受けるときは、命令の定めるところにより、委託者から委託証拠金を徴しなければならない。
前項の委託証拠金の額は、当該委託により賣買取引される有價証券の價額又は賣買取引委託金額の百分の三十以上で、政府の定めるところにより算定した額を下つてはならない。
前項の有償証券の價額の算定に関し、必要な事項は、命令でこれを定める。
第一項の規定による委託証拠金は、命令の定めるところにより、有償証券を以て、これに充てることができる。
第六十八條 会員は、有償証券市場における賣買取引の委託を受けるときは、委託者から証券取引所の定める委託手数料を徴しなければならない。
証券取引所は、前項の委託手数料について、政府の認可を受けなければならない。
第六十九條 会員は、委託を受けた有價証券市場における賣買取引が成立したときは、命令の定めるところにより、賣買報告書を作成し、これを委託者に交付しなければならない。
第六節 解散
第七十條 証券取引所は、左の事由に因り解散する。
一 定款に定めた事由の發生
二 総会の決議
三 会員が一人になつたこと
四 破産
五 設立免許の取消
第七十一條 残余財産は、定款又は総会の決議により別段の定をする場合の外、平等に、これを会員に分配しなければならない。
第七十二條 民法第六十九條、第七十條、第七十三條乃至第七十六條及び第七十八條乃至第八十三條、商法第百二十五條、第百二十六條、第百二十八條、第百二十九條、第百三十一條、第四百十九條及び第四百二十七條並びに非訟事件手続法第三十五條第二項、第三十六條、第三十七條ノ二、第百三十五條ノ二十五第二項第三項、第百三十六條、第一項、第百三十七條及び第百三十八條の規定は、証券取引所の解散の場合に、これを準用する。但し、民法第七十條及び第七十四條中「理事」とあるのは、「理事長及び理事」と読み替えるものとする。
民法第四十四條、第五十四條、第五十七條、第六十係及び第六十一條の規定は、証券取引所の清算人に、これを準用する。
第七節 監督
第七十三條 政府は、必要があると認めるときは、証券取引所に対し、その業務若しくは財産に関する報告を命じ、又は当該官吏をして業務若しくは財産の状況又は帳簿書類その他の物件を檢査させることができる。
第七十四條 政府は、証券取引所の行爲が法令若しくは法令に基いてする行政官廳の処分に違反したときは、左の処分をすることができる。
一 証券取引所の設立免許の取消
二 証券取引所の業務の一部又は全部の停止
三 証券取引所の業務の一部の禁止
四 役員の解任
第七十五條 政府は、命令の定めるところにより、有價証券市場における賣買取引に関する爭について当事者たる会員又はその相手方の申立があつたときは、その爭の解決を図るため仲介をしなければならない。
会員が前項の仲介に基く協定を履行しないときは、政府は、当該会員に対し、六箇月以下の有價証券市場における賣買取引の停止を命ずることができる。
第七十六條 この法律に規定するものの外、有償証券市場における賣買取引に関し生ずる弊害を防止するため必要な事項は、命令でこれを定める。
第七十七條 証券取引所には、営業税を課さない。
第五章 証券取引委員会
第七十八條 有價証券取引の適正を図り投資者の利益を保護するため、政府に証券取引委員会(以下委員会という。)を置く。
委員会は、前項に定める目的を達成するため、左の事務を行う。
一 この法律施行に関する方針について審議すること
二 この法律に基く命令及び重要な処分について審査し、承認すること
三 この法律の施行に関する事項について調査し、必要がある場合は、関係者の意見を徴し又はその帳簿書類の提出を求めること
四 有價証券に関する調査を公表すること
五 この法律の施行のため必要な予算の作成に関與し、必要がある場合は、その結果を内閣に報告すること
第七十九條 委員会は、委員三人を以て、これを組織する。
委員は、学識経驗のある者の中から、内閣でこれを命ずる。
委員の任期は、三年とする。但し、この法律施行後最初に委員となる者の任期は、その一人は三年、一人は四年、一人は五年とし、前任者の任期満了前に補欠任命を受けた委員の任期は、前任者の残任期間とする。
第八十條 委員は、その任期中、その意に反して解任されない。
委員の服務に関しては、官吏服務規律を準用する。
第八十一條 委員会に委員長を置き、委員の中から、これを互選する。
第八十二條 第七十八條乃至前條に定めるものの外、委員会に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第六章 雜則
第八十三條 政府が第九條第一項(第十二條第二項において準用する場合を含む。)の規定により書類の訂正を命じようとするとき又は第十八條、第十九條第二項、第二十九條、第三十條、第三十一條第二項、第四十二條第二項第三項第五十三條第三項、第七十四條若しくは第七十五條第二項の規定により命令その他の処分をしようとするときは、命令の定めるところにより、その処分の相手方を審問しなければならない。但し、その処分の相手方が正当の事由がなく審問に應じないときは、この限りではない。
第八十四條 株式会社又は株式合資会社は、命令の定めるところにより、その取締役(株式合資会社にあつては業務を執行する無限責任社員)、監査役及び当該会社の資本(株式合資会社にあつては出資総額と株金総額の合計額)の百分の十以上に相当する株式を有する株主が当該会社の株式を取得し又は讓渡したときは、政府に報告書を提出しなければならない。政府は、必要があると認めるときは、株式会社又は株式合資会社に対し、政府の定める方法により、前項の株式の取得又は讓渡に関する公告をなすべきことを命ずることができる。
第八十五條 証券取引所以外の者は、有價証券市場を開設することができない。
何人も、前項の規定に違反して開設された有價証券市場において取引をしてはならない。
第七章 罰則
第八十六條 左の各号の一に該当する者は、これを二年以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。
一 有價証券の募集若しくは賣出のため又は有價証券市場における相場の変動を図る目的を以て、虚僞の風説を流布し、僞計を用い又は暴行若しくは脅迫した者
二 第三十二條の規定に違反し免許を受けないで証券取引所を設立した者
三 前條第一項の規定に違反し有價証券市場を開設した者
第八十七條 左の各号の一に該当する者は、これを一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 第六條第一項の規定による届出がないのにその株式又は社債を募集、募集の委託若しくは合併に因る株式の割当をした者又は株式の引受をした発起人
二 第六條又は第九條の規定による届出書類に、虚僞の記載をし又は重要な事項の記載を省略してこれを政府に提出した者
三 第七條の規定に違反した者
四 第八條の規定に違反し株式若しくは社債の募集若しくは募集の委託又は株式の割当若しくは引受をした者
五 第十五條第一項の規定に違反し免許を受けないで証券業を営んだ者
六 第二十一條第一項、第二十三條第一項、第三十六條第二項、第五十九條第二項又は第六十條第一項の規定により届け出るべき事項を届け出ないで実施した者
七 第二十一條第三項(第二十三條第二項、第三十六條第三項、第五十九條第三項又は第六十條第二項の規定により準用する場合を含む。)の規定による実施を停止する命令に違反した者
八 第十八條第一項又は第四十二條第二項の規定による処分に違反した者
九 証券取引所の開設する有價証券市場における相場を僞つて公示した者
十 公示若しくは頒布の目的を以て証券取引所の開設する有價証券市場における相場を僞つて記載した文書を作成し又はこれを頒布した者
十一 第六十四條第一項の規定に違反した者
十二 第六十五條の規定に違反し有價証券市場における賣買取引の委託の媒介若しくは取次をし又は委託者の代理人となることを営業とした者
十三 第八十五條第二項の規定に違反し取引をした者
第八十八條 証券取引所の開設する有價証券市場によらないで、有價証券市場における相場により差金の授受を目的とする行爲をした者は、これを一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。但し、刑法第百八十六條の規定の適用を妨げない。
第八十九條 証券取引所の役員(仮理事及び仮監事を含む。)又は使用人が、その職務に関して、賄賂を收受し又はその要求若しくは約束をしたときは、これを三年以下の懲役に処する。
前項の場合において、收受した賄賂は、これを沒收する。その全部又は一部を沒收することができないときは、その價額を追徴する。
第一項の賄賂を供與し又はその申込若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
第九十條 左の各号の一に該当する者は、これを一万円以下の罰金に処する。
一 第十二條第一項、第二十七條第一項又は第八十四條第一項の規定による報告書を提出せず又はこれに記載すべき事項を記載せず若しくは虚僞の記載をした者
二 第二十八條又は第七十三條の規定により報告すべき事項を報告せず又は虚僞の報告をした者
三 第二十七條第二項又は第八十四條第二項の規定による政府の命令に違反した者
四 第五十八條又は第六十八條第二項の規定により認可を受けるべき事項を認可を受けないでした者
五 第二十一條第二項(第二十三條第二項、第三十六條第三項、第五十九條第三項又は第六十條第二項の規定により準用する場合を含む。)の規定に違反した者
六 第二十五條の規定による帳簿を備え置かず又はこれに虚僞の記載をした者
七 第七十六條の規定に基く命令に違反した者
八 第二十八條又は第七十三條の規定による檢査を拒み、妨げ又は忌避した者
第九十一條 取締役、株式合資会社の業務を執行する無限責任社員、職務代行者若しくは支配人、証券業者(証券業者が会社の場合においては、取締役、業務を執行する社員、職務代行者又は支配人)又は証券取引所の理事長、理事(仮理事を含む。)若しくは清算人は、左の場合においては、五千円以下の過料に処する。
一 この法律又はこの法律に基いて発する命令に定める登記をすることを怠つたとき
二 第十四條の規定に違反し届出を怠つたとき
三 第五十五條の規定に違反したとき
四 第五十六條において準用する民法第五十一條の規定による財産目録若しくは社員名簿を備え置かなかつたとき又はこれに不正の記載をしたとき
五 第六十四條第三項、第七十二條において準用する民法第七十九條第一項第二項又は同法第八十一條第一項の規定に違反し公告をすることを怠り又は不正の公告をしたとき
六 第七十二條において準用する民法第七十條第二項又は同法第八十一條第一項の規定に違反し破産宣告の請求をすることを怠つたとき
七 第七十二條において準用する商法第百三十一條の規定に違反し証券取引所の財産を分配したとき
第九十二條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、第八十六條第二号第三号、第八十七條、第九十條第一号乃至第七号の違反行爲をしたときは、その行爲者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本條の罰金刑を科する。
附 則
第一條 この法律施行の期日は、各規定について、勅令でこれを定める。
第二條 有價証券業取締法、有價証券引受業法及び有價証券割賦販賣業法は、これを廃止する。
第三條 取引所法の一部を次のように改正する。
第一條中「免許ヲ受ケテ」の下に「本法ニ依リ」を、「物件」の下に「(有價証券ヲ除ク以下第二十八條ニ規定スル場合ヲ除クノ外同シ」)を加える。
第二條、第十一條ノ四第二項、第十六條ノ二第二項、第十六條ノ三、第二十二條第一項及び第二十七條乃至第二十九條中「農商務大臣」を「主務大臣」に改める。
第四條ノ二を削る。
第十一條第一項を削り、同條第四項を次のように改める。
合名会社、又ハ株式合資会社ニ在リテハ其ノ無限責任社員中、株式会社又ハ有限会社ニ在リテハ其ノ取締役中前二項ニ該当スル者アルトキハ会員又ハ取引員トナルコトヲ得ス
第十一條ノ二第一項中「、第二項又ハ第四項」を「又ハ第三項」に改め、同條第二項中「農商務大臣」を「主務大臣」に、「、第二項若ハ第四項」を「若ハ第三項」に改め、同條第三項中「第一項、第三項又ハ第四項」を「第二項又ハ第三項」に改め、同條第四項中「農商務大臣」を「主務大臣」に、「第一項、第三項若ハ第四項」を「第二項若ハ第三項」に改める。
第十八條中「有價証券ニ在リテハ三箇月、」を削る。
第四條 この法律施行前になした行爲に対する罰則の適用については、旧有價証券業取締法、旧有價証券引受業法及び旧有價証券割賦販賣業法は、この法律施行後も、なおその効力を有する。
第五條 旧有價証券業取締法、旧有價証券引受業法、旧有價証券割賦販賣業法又は日本証券取引所法の規定により免許を取り消された者は、第十七條の規定の適用については、これをこの法律の規定により証券業者の免許を取り消されたものとみなす。
第六條 この法律施行の際現に旧有價証券業取締法により有價証券業を営む者、旧有償証券引受業法により有價証券引受業を営む者若しくは旧有價証券割賦販賣業法により有價証券割賦販賣業を営む者又は銀行若しくは信託会社でこれらの営業を営む者は、第十五條の規定施行の日から六箇月を限り、同條第一項の免許を受けたものとみなす。
前項に掲げる者が同項の期間内に第十五條第一項の免許を申請した場合においては、その申請に対する免許又は不免許の処分の日までも、また、前項と同樣とする。
第十五條第二項、第十六條及び第十八條の規定は、前二項の規定により第十五條第一項の免許を受けた者とみなされた者については、これを適用しない。
第一項又は第二項の規定により第十五條第一項の免許を受けた者とみなされた者の営業保証金については、第二十條第一項の規定にかかわらず、なお從前の例による。
第七條 この法律又はこの法律に基いて発する命令に規定した事項について、政府のなした違法処分に因り権利を害されたとする者は、当分の間、行政裁判所に出訴することができる。
日本証券取引所の解散等に関する法律案
第一條 日本証券取引所法は、これを廃止する。
第二條 この法律施行前になした行爲に対する罰則の通用については、旧日本証券取引所法は、この法律施行後も、なおその効力を有する。
第三條 日本証券取引所は、これを解散する。
日本証券取引所は、清算の目的の範囲内においては、なお存続するものとみなす。この場合において、旧日本証券取引所法は、その範囲内において、なおその効力を有する。
第四條 日本証券取引所の清算人は、日本証券販引所の役員又は役員であつた者以外の者の中から、裁判所がこれを選任する。
第五條 日本証券取引所の清算は、裁判所の監督に属する。
第六條 日本証券取引所の解散又は清算に関する登記については、勅令の定めるところによる。
前項の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これを以て第三者に対抗することができない。
第七條 清算人は、就職の後、遅滯なく日本証券取引所の財産の現況を調査し、財産目録及び貸借対照表を作成し、これを監事に提出し、その承認を求めなければならない。
清算人は、前項の承認を得た後、遅滯なく財産目録及び貸借対照表を、裁判所に提出しなければならない。
第八條 清算人は、事業年度ごとに、財産目録、貸借対照表及び事務報告書を作成し、事業年度経過後二箇月以内に、これを監事に提出し、その承認を求めなければならない。
監事は、前項の書類を承認した後、遅滯なく意見書を、裁判所に提出しなければならない。
前條第二項の規定は、第一項の場合に、これを準用する。
清算人は、前項の規定により第一項の書類を裁判所に提出した後四箇月間、これを主たる事務所に備え置かなければならない。
商法第二百八十二條條二項の規定は、前項の場合に、これを準用する。
清算人は、第三項の規定により第一項の書類を裁判所に提出した後、遅滯なく同項の貸借対照表を公告しなければならない。
第九條 前條第一項の書類が裁判所に提出された時から六箇月以内に、出資者がその書類につき日本証券取引所に対し異議を述べなかつたときは、日本証券取引所は、清算人又は監事に対し、その責任を解除したものとみなす。但し、清算人に不正な行爲があつたときは、この限りでない。
第十條 日本証券取引所は、清算の実行上必要があると認めるときは、出資者の半数以上であつて資本金額の半額以上に当る出資者の同意を得て、その財産の一部を出資して、不動産の賃貸を主たる目的とする株式会社を設立することができる。
前項の株式会社の設立については、商法第百六十五條の規定は、これを適用しない。
第十一條 前條の場合においては、残余財産は、金銭及び前條第一項の出資によつて得た株式ごとに出資の口数に應じて、これを出資者に分配する。
前項の場合において、分配に適しない数の株式又は政府、戰時金融金庫若しくはその出資額が日本証券取引所の資本金額の百分の一以上に相当する金額を超える出資者に分配すべき株式については、同項の規定にかかわらず、当該株式を処分して得た代金の交付により残余財産の分配を行う。
第十二條 日本証券取引所の財産につき清算が終つたときは清算人は、遅滯なく決算報告書を作成し、これを監事に提出して、その承認を求めなければならない。
第七條第二項、第八條第二項、第四項乃至第六項及び第九條の規定は、前項の場合に、これを準用する。
第十三條 商法第百二十四條、第百二十五條、第百二十八條、第百三十一條、第四百十八條、第四百二十一條乃至第四百二十五條及び第四百二十九條並びに非訟事件手続法第百三十五條ノ二十五第二項第三項、第百三十六條第二項及び第百三十七條の規定は、日本証券取引所の清算に、これを準用する。
民法第四十四條及び第五十四條並びに商法第三十九條第二項、第百二十九條第三項、第二百五十四條第二項、第二百六十一條第一項、第二百六十五條、第二百六十六條第一項、第二百七十四條、第二百七十六條第一項、第二百七十七條第一項本文、第二百七十八條及び第四百三十五條、破産法第百六十六條並びに非訟事件手続法第百三十五條ノ六十四の規定は、日本証券取引所の清算人に、これを準用する。
商法第二百六十五條、第二百六十六條第一項、第二百七十四條、第二百七十七條第一項本文及び第二百七十八條の規定は、日本証券取引所監事に、これを準用する。
第十四條 日本証券取引所の清算人又は監事は、左の場合においては、五千円以下の過料に処する。
一 第六條の規定に基いて発する命令に違反し登記することを怠り又は不正の登記をしたとき
二 第七條第二項(第八條第三項又は第十二條第二項において準用する場合を含む。)若しくは第八條第二項(第十二條第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反し財産目録、賃借対照表、事務報告書、決算報告書若しくは意見書を裁判所に提出しなかつたとき又はこれらの書類に不実の記載をしたとき
三 第八條第四項(第十二條第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反し書類を備え置かなかつたとき
四 第八條第五項(第十二條第二項において準用する場合を含む。)の規定において準用する商法第二百八十二條第二項の規定に違反し書類の閲覽又はその謄本若しくは抄本の交付を拒んだとき
五 第八條第六項(第十二條第二項において準用する場合を含む。)若しくは前條第一項において準用する商法第四百二十一條第一項に定める公告をすることを怠り又は不正の公告をしたとき
六 第十一條又は前條第一項において準用する商法第百三十一條の規定に違反し残余財産を分配したとき
七 前條第一項において準用する商法第百二十四條第三項の規定に違反し破産宣告の請求をすることを怠つたとき
八 清算の終了を遅延させる目的を以て前條第一項において準用する商法第四百二十一條第一項の期間を不当に定めたとき
九 前條第一項において準用する商法第四百二十三條の規定に違反し債務の弁済をしたとき
十 前條第二項において準用する商法第二百七十四條に定める調査を妨げたとき
附 則
この法律の施行期日は、勅令でこれを定める。
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〔政府委員北村徳太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=58
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059・北村徳太郎
○政府委員(北村徳太郎君) ただいま議題となりました證券取引法案ほか一件につきまして、その提案の理由を御説明申し上げます。
初めにまず證券取引法案につき御説明申し上げます。
有價證券の發行及び賣買その他の取引を公正ならしめるとともに、有價證券の流通を圓滑ならしめまして、國民大衆が廣く有價証券を安心して保有することができるようにいたすことは、資本の形成が主として有價証券の形式をもつて實行せられている今日、わが國經濟再建のために不可缺の事柄であることは、今さら申すまでもございません。のみならず、わが國經濟再建の根本要件たる經濟の徹底的民主化を達成いたしますためにも、ぜひとも必要な事柄であると申して過言ではありません。從來わが國におきましては、有價證券、殊に株券は、ややもすれば一部人士の壟斷するところとなるか、あるいはまた投機の對象となることが多く、一般大衆の健全なる投資物として、いわゆる大衆がこれを保有することは、比較的少かつたように存ずるのであります。これは要するに、一般大衆の證券に對する知識が低いことがおもなる原因であると存じますが、同時に一般大衆が、自己の自由な判斷と責任とにおいて有價証券を選擇保有する場合に、證券發行者の内容を公正に熟知する機會に惠まれなかつたこと、及び有價證券取引所等の取引の機構が、投機思惑を助長したか、あるいはまた價格その他についての極端な統制を可能ならしめた結果、有價證券取引の公正と圓滑とが實現できなかつた點にも、また大きな原因があつたと存ずるのであります。なおまた現行の有價證券業取締法、有價證券引受業法及び有價證券割賦賣買業法は、今日とはまつたく異なる状況のもとに制定されたものでありますから、前述の要請をとうてい充たし得るものではないと認められるのであります。よつて今般新たに證券取引法を制定いたし、國民經濟の圓滑なる運營と、投資家の保護を眼目といたしまして、株式または社債の發行に關する屆出制度を設け、證券取引所及び證券業者の制度を整備いたしまして、速やかに證券取引の民主化をはかり、わが國經濟の今後の健全な發展に資せしめんとする次第であります。
以下、本法案についてその内容のおもなる點を簡單に説明いたします。まず株式または社債の發行に關する屆出制度を設けることといたしたのであります。すなわち本法施行後、新たに一定の株式または社債を發行しようとするときは、あらかじめ會社の發起人または役員等は、當該會社の事業計畫、資産の状況等について、政府に對し詳細な屆出をいたすこととし、投資家は、これらの資料に基いて、自己の判斷と責任とにおいて證券投資ができることといたすのであります。もし右の屆出書に眞實に反する記載があり、または重要な事項の記載を省略した場合には、屆出義務者は、當該株式または社債の取得者に對し損害賠償の責に任ずることとし、右屆出書の中に記載した事項と異なる事項を記載した目論見書の使用者も、また同樣に損害賠償の責に任ずることとし、屆出書の内容の眞正を確保し、目論見書による誇大宣傳を防止することにいたしておるのであります。なお株式發行者は、毎事業年度、業務または財産の状況に關する報告書を提出しなければならないことといたしまして、常に會社の實態を公表し、これによりまして、投資家の保護に遺憾なきを期することにいたしたのであります。
第二に、證券業者に關しましては、投資家の保護、證券業者の資質の向上の見地より、一定の純資産を常時保有することをその要件といたしまして、また從來の有價證券業者、有價證券引受業者及び有償證券割賦販賣業者の區別を廢止し、證券業者は、原則としてこれらの者の營んでいた業務を取扱うことができることといたしたのであります。
第三に、證券取引所に關しましては、會員組織の證券取引所を設立することといたしたのであります。これはわが國における株式會社組織の取引所に關する過去の經驗、及び米國を初め諸外國の例に徴し、また取引所の本質から見まして、營業者の團體をその本體とする會員組織が理想的であると考えられるからでございます。次に委託者の保護、會員の資質の向上等の見地から、新たな規定といたしましては、まず證券取引所の會員は、一定の純資産を常時保有することをその要件としたこと、次に會員が取引所に納付する會員信認金に對しては、賣員取引の委託者が、第一順位として他の債權者に先だち辨濟を受ける權利を有することとしたこと、さらに有價證券市場における賣買取引が成立したときは、當議會員の發行した賣買報告書を委託者に交付しなければならないこととしたこと等でございます。
第四に、政府は、證券業者または取引所會員のなす賣買その他の取引に關する爭いにつきまして、當事者であるところの證券業者もしくは會員、またはこれらの取引の相手方の申立により、爭いの解決の仲介をもしなければならないこととし、爭いの簡易迅速な解決をはかることができることといたしたのであります。
第五に、新たに證券取引委員會の制度を設け、この法律の施行に關する重要事項について、獨自の立場から調査、審議等を行い、投資家保護の見地から、證券行政運營の中樞となるべき獨立的機關といたしたのであります。
以上證券取引法案についてその大要を説明いたした次第であります。近く財閥の解體、制限會社の保有株式の制限、特別經理會社の整備再建及び財産税の徴收等に伴い、處分移動される有價證券の數量金額は、厖大な數量金額に上るものと豫想されるのでありますが、これらが迅速に廣く大衆の手に分散保有せられ、圓滑公正に處理されるためには、證券取引機構を整備し、その活用をはかることは、有價證券處理調整協議會の運營と相まつて急を要することと存ぜられるのであります。かかる點を考えてみましても、速やかに本法案を制定する要があると存じます。
次に、日本證券取引所の解散等に關する法律案につき、御説明を申し上げます。別途新たに制定せられまする證券取引法により、會員組織の證券取引所が設置されますのに伴い、戰時中の必要に基いて設置された日本證券取引所を急速に解散いたしますため、本法案を提出いたしました次第であります。
以下本法案の内容につきまして、その主要な點を御説明いたします。まずこの法案は、日本證券取引所法の廢止と、日本證券取引所の解散とを規定いたしたのでございます。次に、清算は主務官廳の監督といたさずして、栽判所の監督のもとにこれを行うことといたし、清算人は、日本證券取引所の役員または役員であつた者以外の學識經驗者の中から裁判所が選任することとし、その任務につきましては、一般の清算人の場合と同樣にいたしました。また清算の實行上必要があると認めるときは、出資者の半數以上であつて、資本金の半數以上にあたる出資者の同意を得て、日本證券取引所は、その財産の一部を出資して、不動産の賃貸を主たる目的とする株式會社を設立し、殘餘財産は、金錢及びその出資によつて得た株式ごとに出資者に分配することができることといたしたのでありますが、政府、戰時金融金庫及び資本金の百分の一を超える大出資者に對する分配は、これに分配すべき株式を處分して得た代金を交付して、これを行うことといたしたのであります。なお昭和二十一年大藏司法省令第四號第一條第一項に規定する有價證券賣買取引事業特別會計に屬する財産は、日本證券取引所に屬しないものとして、閉鎖機關保管人委員會がこれを管理することとし、今囘の清算とは別個に處理することといたしております。本法案の主要な點は、以上申し述べた通りでございます。
本法案は、議券取引法案と一體をなすものでございますから、何とぞ御審議の上、速やかに協贊を與えられんことを切望いたす次第でございます。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=59
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060・山崎猛
○議長(山崎猛君) 各案の審査を付託すべき委員の選擧についてお諮りいたします。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=60
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061・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 動議を提出いたします。日程第六及び第七の兩案は、一括して政府提出昭和十四年法律第七十八號を改正する法律案委員に併せ付託されんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=61
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062・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=62
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063・山崎猛
○議長(山崎猛君) 異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。これにて議事日程は議了いたしました。次會の議事日程は公報をもつて通知いたします。本日はこれにて散會いたします。
午後五時七分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=63
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064・会議録情報10
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〔尾崎行雄君演説參照〕
選擧革正決議案説明書
現在は藩閥、軍閥、官僚等が跋扈横行し、全國大多數者の自由と權利を抑壓したる事態は、既に一掃され、國人全體が此國の主權を掌握することになつたのだ。
言ひかへればこれまでは、日本は天皇陛下の所有物といふ名義の下に、少數な權力者のために支配され、全國大多數の人民は、その奴隷の如く取扱われ、その生命財産すら、少數な權力者のために我儘ほうだいに取扱われてゐたのである。
國會開設後四、五十年をへても、尚は此惡政がつづき、正しい愛國者で、憲兵や警察のために拘留監禁されたものが澤山あつた。然るに幸か不幸か、外戰に敗北し、アメリカ軍が駐屯することになつてから、形勢俄かに一變し、軍閥官僚の徒は、戰犯者として追放され、憲法までも改正されて日本國は始めて全國民の共有物となり、國内の物事はすべて國民多數の意見によつて決定することになつた。更に換言すれば、日本が日本人全體の所有物となつたのだ。既にこうなつた以上は、同國人中に、意見の相違はあつても、仇敵と視るべき團體はないはずだ。然るに議會の現状を見るに、各黨各派が對立反抗し、特に在朝黨と在野黨とは、不倶戴天の仇敵でもあるかの如く對立抗爭し、互に他黨の短所缺點を暴露し、又其の効果を妨碍減殺し合つている。その結果は全國民の損害をかもすことになる。これは、我々が國會開設以來三、四十年にわたる長い間、藩閥軍閥などという國敵を討伐するために、止むを得ず用いた所の非常手段にかぶれた結果であろう。全國民が現在の悲境に陷つたのは、國民の一小部分たる軍閥が武力を濫用し、全國民を制壓し、以て無謀の外戰を起したためであつた。此國敵を征討せんがため、我我が各種の非常手段を用いたのは、止むを得ざる次第であつたことを察知しなければならぬ。
敗北降伏後の現在の日本は我々が議會に於て討伐した終戰以前の藩閥、軍閥とは、全くその性質を異にし、内にも外にも仇敵はない、然るに少数の閥力を以て全國民を制壓する所の公敵討伐のために、我々が止むを得ず採用した議會的戰法戰略を、現在の政黨各派が、そのまま襲用するのは、時世の推移と國體の變化を眼中におかざる所業と言わざるを得ない。
今日は全國民中に意見の相違はあつても、仇敵はないのみならず、同胞擧つて、非常の究境に陷り、衣食住にすら苦しんでいる、この現状に在つては、苟も人心あるものは、爭鬪するかわりに、互讓共援以て差し當り衣食住の窮乏を充實しなければならぬ。同胞兄弟の反抗爭鬪が止まない限り、いづれの團體が勝つても物資は缺乏し、紙幣は下落し、生活は、ますます困難に赴かざるを得ない。
現在議會の内外に行われる民衆運動なるものは、いづれもみな消費の増加、物資の減少、紙幣の下落を來し、以てますます全國多數人民の生活を困難ならしめる結果に陷らざるものはない。一昨年前半期まで敵として戰つた米國が、共助共援の態度をとり、わが國人の衣食住を充足せしめんと努めているのに、わが同胞は、かえつて黨を立て、派をわかち、互にその施設を妨碍し、もつてますます生括の困難を増加している。この根本的大誤謬を悔悟し、その方針を一變するにあらざれば、現在の慘状は、今後ますます増加するとも減少する氣遣いはない。のみならず今後ますます險惡におもむき、暴動内亂各地に續發し、外戰以上の慘状を現出せんもまた未だ知るべからず。いな、その憂惧が頗る多い。然らばどうしたらこの危難を豫防し、全國人民をして互讓共援もつてこの國難をのりきらしめることができようかと考えるに、國民生活が、ほぼ安定するまでの間、對立抗爭するところの政黨各派をして、自發的に解散せしめるより外に、良法はなかろうかと思う。
我國人は、二千年近く專制政治の下に生存してきた結果でもあろうか、その良心が薄弱で服從心が強い。又徒黨的感情も頗る旺盛だ。故に政治的又は經濟的團體を作れば、動もすれば正邪曲直を問わず、所屬團體多數の意見に服從することになり、又他の團體と對抗することになる。現在の各政黨及び勞働團體の行爲を見れば、誰れでもこの事實を確認することを得べし。現に各地に於ける未知の人物より寄せられたる書状中には、自分は教職にある者が職務をなげうつて増棒に奔走するのは、よろしくないと信ずるが、組合の決議だから止むを得ず之に同意してゐると書いてある者が少くない。又、政黨員中には、その良心に背いて黨議に服從するものが頗る多い。平時、各黨各派が對立抗爭する場合に於ては、此の如き非良心的なふるまいをする者があつても大した弊害もなかろうが、今日の如き國家死生存亡の際に於ては、こんな團體の對立抗爭があれば、國家朝野の要務をますます澁滯攪亂し、遂に救ふべからざる究境に陷らざるを得ない。現にわが帝國は、官紀荒廢、秩序紊亂、無政府状態に陷つている。
二月一日實行の豫定であつたゼネストは、米國駐屯軍の明言を待つまでもなく、國家の破滅を招くべき大罪惡だから、帝國政府はとくにこれを禁止すべきはずであつたのに、何もなさず、活然傍觀していた、帝國の一大危難が駐屯軍のために救われたのは、實に慚愧の至りである。他國人から日本人は、自らその治安を維持する能はざるもの、即ち獨立の資格なきものと評せられても、之に答える言葉はなかろう。
軍閥官僚が無謀の戰爭を起せるがために生じたる今日の國難は、建國以來未曾有の屈辱兼慘禍であるが、國民の多數も亦誤つてこれを贊助したのだから、徒らにお互に咎め合いばかりしていて救療の努力を怠つてはならない。
特に終戰降伏後一年半を經て今日に至るも、國民の究苦は、少しも輕減しないばかりか、ますます増加の傾向すらあるを見れば、終戰後の跡始末に關する吾人の振舞にも、亦多大の缺點ありしを反省せざるべからず。特にわが國よりは、深大の戰禍を受けた歐洲諸國中には、既に囘復の徴證を示せるものあると聞いては、更に一層深く反省しなければならない。
現在に於ける生活難の本源
敗北降參という精神的苦惱以外の困苦は、衣食住の缺乏であるが、三者中最も缺乏せるは、爆撃された大都市住民の家屋であつて、その他の全國大多數人の衣食の分量は、終戦當時に比して別に減少したようにも思われない。果して然らば、いわゆる食料不足の本源は、實物の不足ではなく、その分配が宜しくないためである。言いかえれば、思慮と道徳の不足のためであろう。農民は穀物の供出を惜しみ、商人は儲藏品を隱匿し、以てさなきだに峡乏せる物資をして、實際以上に缺乏したるが如き形觀を呈示し、以てますます需要者を苦しめ、又紙幣を下落せしむ、此の類の手段によつて、物價を騰貴させることは、その實、紙幣を下落させることになるのだが、知識の乏しい人々は、それすら諒解しないようだ。
現に農民の握つておる數萬圓の紙幣は、數年前の數千圓の實價もないではないか。此分でゆけば、やがて數百圓、いな、數十圓の價もないことになるだろう。かくて同胞を苦しめて、自分も損をするのは、全く智徳缺乏の結果である。
兎に角、現在の困苦則ち衣食住の缺乏、特に衣食の缺乏は、戰禍が主因で、同胞の心得違ひがその副因だ。世の中が終戰當時よりも、一層わるくなつたのは、全く副因のためである。主因は過去にあるから、容易に之を改めるわけにはゆかないが、副因の方は、現在及び將來にもわたるから、同胞の心得次第で、之を改め將來の窮困を豫防し、一歩進んで國難を救濟することも出來る。その方法如何。
民主國となつた現在の日本に於ては、全國民に選ばれた衆議院議員が、先づその手本を示し、以て全國民を指導しなければならぬ。その手本は平時における各黨各派が反抗鬪爭の態度を一變し、同胞愛の精神を以て、互讓共援の實を擧ぐるに在り。
この旨意を實行せんと欲せば、國難がやや輕減し同胞の生活が、ほぼ安定するまでの間、暫く政黨を解散し、擧國一致内閣を組織せざるべからず。同胞の文化が一層進歩すれば、政黨を解散せずとも、現在のまま之を保存して、各派總合の聯立内閣を組織し以てその目的を達し得べきが如くにも思われるが、多年封建思想に由て薫育された我同胞は、徒黨的思想感情が、頗る旺盛で、政黨を結べば必づ他派を仇敵視し、その結果、正邪曲直を問わず、黨議に服從し、動もすれば、社會公共の利害を顧みず、自黨の私利私益を圖るに至る。故に先づ政黨政派を解散しないかぎりは、擧國一致内閣を作るも、早晩必ず内訌を生じ、分裂抗爭するに至る。これは予が半世期以上にわたる議院生活に於て實驗した所だから、多分まちがいはなかろう。
平生ならば、こんな注文をすることは、無理だろうが、國家が死生關頭に立つてゐる今日に於ては、唯一の活路として、諸君が誠心誠意以て此問題を考慮されんことを切望する。
滿場の諸君がもし愼思熟慮の上、予の卑見を採用し、上述の如き擧國一致の應急内閣を組織し、互讓共援以て難局に當らば、必ず相當の好結果を收むるを得べし。
各黨互に軋礫爭鬪して、倒閣運動や、ゼネスト煽動等の代りに、官規振肅、秩序の囘復、物資供出、低價販賣等の方法を立案實行せば、現在の如き國難増加の傾向を一變して輕減救治に向わしむるを得べし。
明治の初年に於ては、薩長土肥の四藩(生殺與奪の全權より通貨發行、軍備等に至るまで、獨立國の全權を掌握せるもの)が、聯立内閣を組織して、廢藩置縣を斷行し、以て日本を統一せしめた。之に比すれば、今日政黨政派を解散し、以て擧國一致の内閣を組織し、以て外戰後に起れる國人の非行惡業を制止するが如きは寧ろ容易の業であろう。
もし之を爲さずして今日のままに推移せば、物資はますます缺乏し、紙幣はいよいよ下落し、詐欺、暴行、殺人、強奪ますます増加し、遂に内亂暴動各地に起り、外戰以上の慘禍を捲き起すに至るであろう。
事ここに至れば、米國軍の力をかりて、治安を囘復し、又維持せざるを得ない。これは、我大和民族に獨立の資格なきを證明するに均しき事態である。豈に長嘆大息せざるを得んや。
謹んで同僚諸君の虚心担懷以て靜思熟考せられんことを切望す。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X01719470313&spkNum=64
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