1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和二十二年三月三十日(日曜日)
午後三時五十九分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第三十一號
昭和二十二年三月三十日
午後一時開議
第一 衆議院議員選挙法の一部を改正する法律案(政府提出) 第一讀會の續
第二 昭和十九年度歳入歳出總決算
昭和十九年度特別會計歳入歳出決算
第三 昭和十九、二十年度國有財産増減總計算書
第四 青年禁酒法案(和崎ハル君外二十一名提出) 第一讀會
第五 製紙原料輸入懇請に關する決議案(布利秋君外五名提出)
第六 標準式ローマ字採用に關する決議案(笠井重治君外五名提出)
第七 畜産振興に關する決議案(香川兼吉君提出)
━━━━━━━━━━━━━
〔朗讀を省略した報告〕
一、政府から提出された議案は次の通りである。
特別調達廳法案
(三月二十九日提出)
一、議員から提出された緊急質問は、次の通りである。
石炭増産に關する緊急質問(伊藤卯四郎君提出)
司法權獨立と肅正に關する緊急質問(辻井民之助君提出)
(以上三月二十九日提出)
一、昨二十九日常任委員補闕選擧の結果次の通り當選した
第四部選出
決算委員 田中重彌君(上林山榮吉君補闕)
一、昨二十九日委員長理事互選の結果次の通り當選した。
特別調達廳法案(政府提出)委員
委員長 石原圓吉君
理事
渕田長一郎君 關谷勝利君
井上良次君
一、昨二十九日議長において次の委員を選定した。
特別調達廳法案(政府提出)委員
石原圓吉君 大井直之助君
栗山長次郎君 塚田十一郎君
渕田長一郎君 横田清藏君
太田秋之助君 佐藤久雄君
關谷勝利君 武藤常介君
八坂善一郎君 井上良次君
伊藤卯四郎君 金子益太郎君
長谷川保君 安藤はつ君
秋田大助君 木下榮君
一、昨二十九日特別委員理事補闕選擧の結果次の通り當選した。
石油配給公團法案(政府提出)外四件
委員
理事 舟崎由之君(理事小野瀬忠兵衞君昨二十九日委員辭任につきその補闕)
一、昨二十九日次の通り特別委員の異動があつた。
昭和十四年法律第七十八號を改正する法律案(寺院等に無償にて貸付しある國有財産の處分に關する件)(政府提出)委員
辭任稻本早苗君 補闕宮前進君
辭任井上徳命君 補闕河野金昇君
石油配給公團法案(政府提出)外四件
委員
辭任鈴木茂三郎君 補闕西村榮一君
辭任小野瀬忠兵衞君 補闕舟崎由之君
辭任小笹耕作君 補闕江川爲信君
辭任増井慶太郎君 補闕石崎千松君
辭任豊澤豊雄君 補闕木下榮君
辭任竹山祐太郎君 補闕増井慶太郎君
辭任大矢省三君 補闕鈴木茂三郎君
衆議院議員選擧法の一部を改正する法律案に對する修正案(大野伴睦君外一名提出)外三件委員
辭任大久保傳藏君 補闕稻本早苗君
辭任有田二郎君 補闕本多花子君
辭任佐藤乕次郎君 補闕永谷昇君
辭任藥師神岩太郎君 補闕今井はつ君
辭任村上勇君 補闕武田信之助君
辭任稻本早苗君 補闕圖司安正君
辭任鈴木義男君 補闕細田綱吉君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=0
-
001・山崎猛
○議長(山崎猛君) これより會議を開きます。日程第一、衆議院議員選擧法の一部を改正する法律案の第一讀會の續を開き、前會の議事を繼續いたします。
――――◇―――――
第一 衆議院議員選挙の一部を改正する法律案(政府提出) 第一讀會の續発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=1
-
002・山崎猛
○議長(山崎猛君) 修正案に對する委員長の報告は、便宜上第二讀會においてこれを許すことといたします。本案の第二讀會を開くに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=2
-
003・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて本案の第二讀會を開くに決しました。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=3
-
004・椎熊三郎
○椎熊三郎君 直ちに本案の第二讀會を開かれんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=4
-
005・山崎猛
○議長(山崎猛君) 椎熊君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=5
-
006・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて直ちに本案の第二讀會を開き、議案全部を議題といたします。この際修正案に對する委員長の報告を求めます。委員長山口喜久一郎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=6
-
007・会議録情報2
――――◇―――――
衆議院議員選挙法の一部を改正する法律案 第二讀會(確定議)
━━━━━━━━━━━━━
報告書
一 衆議院議員選挙法の一部を改正する法律案に對する修正案(大野伴睦君外一名提出)
右は本院において可決すべきものと議決した因つてここに報告する。
昭和二十二年三月二十九日
委員長 山口喜久一郎
衆議院議長山崎猛殿
━━━━━━━━━━━━━
報告書
一 衆議院議員選挙法の一部を改正する法律案に對する修正案(鈴木義男君外六名提出)
右は本院において否決すべきものと議決した因つてここに報告する。
昭和二十二年三月二十九日
委員長 山口喜久一郎
衆議院議長山崎猛殿
━━━━━━━━━━━━━
報告書
一 衆議院議員選挙法の一部を改正する法律案に對する修正案(徳田球一君外二名提出)
右は本院において否決すべきものと議決した因つてここに報告する。
昭和二十二年三月二十九日
委員長 山口喜久一郎
衆議院議長山崎猛殿
━━━━━━━━━━━━━
〔山口喜久一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=7
-
008・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 ただいま議題と相なりました衆議院議員選擧法の一部を改正する法律案に對する修正案の、特別委員會における經過竝びに結果について御報告申し上げます。
本修正案は、本月二十七日の本會議におきまして、特に三十名の委員に付託せられたのであります。委員會は、一昨二十八日委員長、理事の互選を行いまして、午後より引續き會議に入り、まず修正案の提案者の趣旨辯明を順次に求めまして、次いで質疑にはいつた次第であります。
委員會に審査を付託せられましたる案件は、中選擧區單記制を主張するところの大野伴睦君ほか一名提出の修正案と、府縣單位大選擧區移讓式比例代表制に立脚する鈴木義男君ほか六名提出の案と、記號式(名簿式)完全連記制を唱える原彪之助君提出案と、全國一選擧區比例代表制に立つ徳田球一君ほか二名提出の修正案の四案であります。質疑應答の詳細は、速記録についてごらんを願うことといたしまして、ここではそのおもなる事項の二、三を御紹介申し上げることにいたしたいと存ずる次第であります。
委員會における熾烈なる論議の焦點は、選擧區制と投票方法でありました。なおこれら修正案の本委員會における審議の對象、竝びにその修正の範圍等に關する根本的法理問題についても論議されたのであります。すなわち本委員會における付託の案件は、先ほど申し上げましたる四つの修正案ではありまするが、なぜ政府提出の原案も、ともに付託せられなかつたのであるか、またその修正の範圍は、原案ともいうべき政府提出、選擧法の一部を改正する法律案が、本委員會に付託されておらぬのであるから、そこに何らかの制約があるのではないかとの意味の質疑がありました。これは委員會は付託を受けた事件を審査するのではありまするが、議院に發案權がありますので、その修正の範圍には何らの制限もないものと解されるのであります。
またさきの選擧法の一部を改正する法律案の委員會におきまして、一度政府提出の原案に對する修正がきめられたものを、さらに本委員會でこれに對して修正を議することは、一事不再議の原則に反するものではないかとの質問がございましたが、これは未だ本會議で議院意思の表明がない限りにおきましては、一事不再議の原則には反しないとの解釋をいたした次第であります。
次に委員より、さきに政府が選擧法の一部を改正するにあたりまして、今囘は最小限度の事務的改正に止めるとの言明があつたのにもかかわらず、今囘政府の提案ではないとはいうものの、突如として根本的修正案を提出されたのは、何らかの政治的意圖があるのではないか、その理由いかんとの質疑に對しましては、政府から、ここに議題となつている修正案は議員提出のものであり、政府はこれに關心をもつてはいるが、これに對し何ら關與したことはない旨の答辯があり、かつまた提案者よりは、提案者側としては、ただこの制度が現下諸種の情勢から、最適の選擧制度であると信ずるがゆえに提案した旨の答辯がございました。
次に、現行制度の弊害に對する政府の所見いかんとの質疑に對しましては、現行の大選擧區制限連記制は、幾多の缺陷を藏しているが、そのおもなるものとしては、投票者の熱意を缺くがごとき感を與えるおそれがあるのであつて、ここに同一選擧人が異なる政黨の候補者を連記するがごとき弊害もあることは、常識として一般に認められている旨の答辯がありました。提案者よりは、中選擧區單記制は、大小選擧區制の缺陷を緩和しつつ、比例代表の精神を活かしていく最も適當なる制度であると思われるから提案した旨の答辯がありました。また政府當局より、大選擧區比例代表制は合理的基礎を政黨におくが、國民の思想を反映するのには小選擧區制がよい、しかしこれには情實を伴いやすく、地方的に膠着する缺陷があるのであつて、結局國民の思想に基礎をおいて、かつ政黨に立脚する制度としては、中選擧區單記制が適當な制度であると考える旨の所見を述べられた次第であります。
次に參議院議員選擧法には大選擧區制を採用し、衆議院議員選擧法には、交通機關の發達した今日、むしろ小選擧區制ともいわるべきこの制度に政府が同意する理由いかんとの質疑に對しまして、衆參兩院はおのおのその性質及び權能を異にし、しかも兩院議員は、ひとしく國民の直接投票によつて選擧せられることになつているがゆえに、この兩者の差異に應じて、その選出方法も異なるのは當然のごとく考えらるる旨の答辯がありました。
次に、別表における區分の基準いかん、また人口及び地區は何を根據としてわけたのかとの質問に對しましては、提案者より、議員數は、人口及び地勢、行政區畫を參酌いたしまして、大體人口十五萬を基準として、按分比例により決定された數字である旨の答辯がありました。
以上、質疑の要點をかいつまんで申し上げましたが、なおその他政黨政治の本質に關して、諸般の論議が、あらゆる角度から熱心に繰返されたのであります。その間幾たびか委員會の懇談會が開かれては協調が保たれ、窮しては通じ、論じては解し、かくして本委員會における質疑は徹底的に展開され、まさに立法府言論の殿堂たるにふさわしい、緊張と靜謐のうちに行われたことを、特にここに強調して御報告申し上げる次第であります。
かくして、昨二十九日午後質疑を終了いたしまして、續いて直ちに討論に入り、日本自由黨を代表して坂東幸太郎君、日本進歩黨を代表して椎熊三郎君、日本社會黨を代表して淺沼稻次郎君、國民協同黨を代表して石崎千松君、無所屬倶樂部の細迫兼光君、日本共産黨を代表して徳田球一君、及び日本農民黨を代表して中野四郎君より、それぞれ意見の開陳があり、續いて採決の結果、徳田球一君ほか二名提出の修正案、及び鈴木義男君ほか六名提出の修正案は、いずれも少數をもつて否決せられました。大野伴睦君ほか一名提出の修正案は、多數をもつて可決されたのであります。この段、簡單ながら御報告申し上げます。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=8
-
009・山崎猛
○議長(山崎猛君) 質疑の通告があります。これを許します。田原春次君。
〔田原春次君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=9
-
010・田原春次
○田原春次君 ただいまの山口委員長の御報告に對する質疑をいたします。總じてこの報告は、まことに簡單粗暴であると私は見るのでありまして、ただいまの報告を聞いただけでは、一つもその經過がわからないのでございます。元來この問題は、山口君も觸れましたように、三月の二十日に委員會が最初に開かれ、およそ五日間少しも議事は進まず、そしてその間に、政府の出しました最初の修正案が本會議に報告され、續いてその報告に附帶いたしまして、大野伴睦君以下數名の人々の出しました修正案が出たのである。
これがまた委員會に還つて審議を進めたということになつておるのでありますが、その審議はわずか三日間でありまして、なるほど各黨から、それぞれ割當てられた數の委員は出席はいたしましたものの、質問は御承知のごとく選擧區制の問題であり、從つて別表の問題であるのでありますから、別表に關しましてどこに論點があつたか、どの黨はどういう主張をしておつたのであるか、こういう點の報告が少しもなされておらぬのでございます。
たとえば今の御報告の中にも、最後に各政黨から意見の開陳があつた、そして贊否の討論の結果、大野君以下數名の出したその案が、多數をもつて可決されたというだけに止まつておりまして、たとえばその反對の論據はどこにあつたか、共産黨はどういう論據で討論の最後において反對をしたか、社會黨の代表委員はどういう論據で反對をしたか、あるいは贊成者はどういう論據の贊成をしたか、これらを一々詳細にこの議場で報告すべきものであると思うのであります。
なぜならば、これほど會期の末期になつて突如として出されたその形式に對しまして、非常な反對が起つたことは、われわれ多くの議員の知つておるところである。またそのために五日間も――最初の岩本委員長の時代の委員會に、いわゆる大野君案なるものを出すならば、少くともその五日間に、連日、よしんば夜の十時まで議論をいたしましても、相當これははかどつておつたものと思うのであります。
しかるにそのことをなさず、その委員會に出せ、出す意思があるかということをしばしば聽きましても、なかなかそれを出さず、當時世間一般に傳えられておりましたうわさによれば、あくまで、最後までその案を出さずして、本會議で一擧に押切るといつたようなうわさがしきりに擴がつたのであります。あるいはまた提案者の自由、進歩兩黨からも、さような放送がしばしば廊下において傳えられたのであります。これが他の多くの黨派の、お互いわれわれにとりまして、非常な關心となりまして、さような暴擧をするようであるならば、それはどうしてもその暴擧を止めるようにしなければならぬということが、御承知のごとく岩本君の委員長の時代におけるあの審議の状態であつたことは、山口君といえどもよく知つておるはずである。
そうすれば、ともあれそのために三十名の委員に新しく構成されまして、その席に出まして論議をしたことでありますから、特に一番重要點でありまする別表につきましては、あるいは人口の問題といい、あるいは交通の關係といい、その他いろいろな角度から論ぜられました内容を、詳細にこの議場で報告する義務があると思う。この點につきまして、あまりにも簡單過ぎる山口君の報告に、非常な不滿をもつものであります。それにつきまして、私自身が納得の行きかねておりまする別表の一々について、質疑をしてみたい。それに對して委員長は、あの數日間における質疑應答の間に、各黨から出ました別表に關する小委員會の經過なり、あるいは最後のその討論なりを詳細知られているはずでありますから、その角度からの御報告を追加すべきものである、こう考えまして、質問しようと思うのであります。
第一は、これを見まして感じますことは、東京、大阪のような大都會のわけ方は、三名主義が比較的多い。一例をあげますと、東京都の第一區の千代田區、これは神田と麹町を含んでいるのであります。中央區は京橋、日本橋を含んでおります。港區は芝、麻布、赤坂を含んでおります。新宿區は、四谷、牛込、淀橋を含んでいる。文京區は小石川、本郷を含み、台東區は淺草、下谷を含んでおりますが、ここは四名ということになつております。しかるに第二區は、品川區と大田區と三つの支廳管内でありますが、これは三名になつている。その根據はちつともはつきりされなかつた。
これらの問題に對する質問や、また提案者側の答辯に對する報告が、ほとんどこの議場では明瞭にされておりません。そうかと思いますと、このことは大阪市も同樣でありまして、また京都も同樣であります。京都も第一區が三名、第二區が京都市の區を三つ入れまして、そうして郡がはいつておりますが、四名、第三區が福知山市と舞鶴市を入れまして、郡が十ばかりありますが、これが三名であります。また大阪もそうでありまして、三名と四名とになつている。こういう所は交通の點からいきましても、他の多くの郡部をもつておりまする縣とは非常に差があるにもかかわらず。かようなところは三名主義が多い。あるいは四名になつている。
しかるに栃木縣の例をとりますと、第一區は宇都宮市、あと四郡で、これは五名になつている。第二區は足利市、栃木市、佐野市、あと四郡で、五名であります。その他あるいは岡山縣の例を見てみましよう。岡山縣も、第一區と第二區は五名ずつになつております。交通の關係から申しますと、東京、京都、大阪に比べまして、はるかに不便でありまして、一面選擧費用は、自動車の點におきましても、いろいろかさんでき、短時間の間に各政黨の政策を浸透せしめる意味におきましては、非常な不便がある。そういう郡部におきましては、五名という大ざつぱな、戰爭勃發前の制度をそのまま踏襲しておるやに見られまするし、この點が、われわれ議員の納得の行きかねる點であつたのでありまするが、これらに對して、どの委員はどういう質問をなし、どの黨派はどういう意味においてこれに贊成したか。そういう報告こそ、この差迫つた今日の委員會の委員長の報告としては、當然なすべきことであります。
詳細を官報で見ろなどと申しますけれども、おそらく今日の議事の載りました官報は、二週間以上後でなければ、お互いの現議員の手もとには屆かないのであります。しかるに、ともかく豫定からいきますならば、明日をもつて會期は終り、そして豫定通りいきますものでありますならば、四月の二十五日をもつて投票されるところの衆議院議員選擧が展開され、この間に幾多の不便をわれわれは忍ばなければならない。このことはどの黨派と言わず、共通に聽きたいところであろうと私は思う。(拍手)
なおまた中には、わけ方についての疑問もあつたと思うのであります。その證據には、この謄寫版刷の原案なるものが、ひそかに用意されておつたかに見えますが、その間においても、途中をいろいろ切り張りしておるところを見ますと、相當この案が明らかになつたので、それでは困るというような、その地方々々の自由、進歩兩黨の關係者からの抗議や、更改の要求があつたものと想像することができるのでありますが、かようなものは入れてある。
さらにまた先般の委員會の進行中におきましても、やはり正誤訂正の形におきまして、多少の入替えがあつたのでありますから、そうすればなおのこと、この原案をつくりました大野君の意見を代表する人々から、詳細にわたつてその方針を議員全般に周知せしめ、それからこれに對する反對の意見もまた詳細にわたつて周知せしめ、本日本會議で堂々たる議論をやり、内外――特に御承知のごとく、海外各國も今度の選擧には非常な關心をもつておりまするし、そういう時期の選擧區制の改正であればあるほど、一般にすぐわかるところのこの本會議の議場におきまして、詳細その討論の内容を報告すべきものであると思うのであります。
この報告をいま一度追加報告として、各縣別にわたりまして、人口の點、從來の經過等を加えて、納得のいくように報告すべきであるのに、何ゆえにそれを省いたか。これまた數を頼みにして、報告は簡單にし、なるべく議事を簡單に片ずけようという、そういう數から來る一つの謀略ではないかというような疑があるのであります。(拍手)
區制のわけ方の點につきましては、各人さまざまの疑問をもつておつたのであります。委員でありませんから、それにつきまして一々委員外の議員からは發言はなかつたのでありますが、たとえば一例をあげますと、福岡縣のわけ方につきましても、いろいろな議論が出ておるのであります。すなわち現行の二つの區制のわけ方を、さらに小わけに四つにしております。それを第一區、福岡市ほか六郡、これを定員五名とし、第二區、若松、八幡、戸畑、直方、飯塚の五市と關係三郡として、これを五名、第三區は久留米市、大牟田市ほか六郡をもつて五名、第四區は小倉市、門司市、田川市ほか四郡をもつて四人となつております。
これも地元においては非常な問題のあるところでありまして、皆樣の中には御承知の方もあろうし、おそらく山口君も御承知と思いますが、北九州に五つの市が相隣合つて存在しております。北九州五市合併論というものが、しばしば地方的にはその必要を論じられてきておる。交通の關係におきましても、産業の關係におきましても、まつたくそれはもう隣合わせになつておる。しかるに今度の選擧區制のわけ方の原案によりますと、これを縱に切りまして、若松、八幡、戸畑三市は、第二區という方にはいり、それと隣合つておりまする小倉市、門司市というのを第四區に編入しておるのであります。こういうわけ方は、やはり私は提案者に非常な偏頗な計畫があつたのではないか、地方の要望を無視していたのではないかという疑を懷かされるところの理由であろうと思う。
多くの人々が知つておりまするように、アメリカでゲリマンダーという有名な言葉がある。その言葉を使えば、多くのアメリカの政治に關心をもつた人は、皆笑い出すぐらいによく知つておる。すなわちあれは、選擧區制を自分の――その時の大きい黨派の都合のよいように取換えまして、むり押しにそれを法制化して實行しようとしたのであつて、マサチユセツツ州の知事のゲリー氏がその案を立てたというので、しかもその恰好が、その州内のわけ方が、結果におきましては、さんしよう魚に似ておつた。さんしよう魚のことをサラマンダーという言葉がありますが、サラマンダーに似ておるではないか。ゲリー氏のつくつたサラマンダーではないか。しまいにはそのサラを除きまして、ゲリーマンダーゲリーマンダーと言つておるのは、皆樣御承知の通りであります。
こういう區のわけ方は、各區のものに看取されるのであります。從つて自由、進歩兩黨以外の黨を代表して委員に出ておりまする委員の間から、一々の點につきまして、人口構成あるいは過去の經過、今日以後の産業、交通、地方政治等の觀點から、こうもかえたらよかろうという意見の出たことは當然だと思うのです。
それをわれわれに全然祕しまして、詳細は速記録を見れと言うだけでは、どうもこれは納得のいきかねることであると思う。でありますから、今の報告はそれ自身がまことに簡單で要領を得ておりません。文章は相當うまくつくつてあるようでありますけれども、そこに至るまでの經過を報告するのが、ほんとうの委員長の報告でなければならぬ。小さな法案でありましたならば、なるほど二週間の後に配付されまする官報を見まして、それで納得する場合もありますけれども、これほどもみまして、これほどいろいろな方面に波紋を投げまして、善惡兩面からの世間の批判を受けつつ、しかも各黨派はみずからその信ずる方面に立脚いたしまして、あるいは主張し、あるいは攻め、あるいは防いだのでありますから、當然今日の報告は、あたかも山口君の所屬しておりまする自由黨において、かつて所屬しておりました芦田均氏が、憲法の委員會の報告をしたごとく、堂々と一時間ぐらいにわたつても結構であつたのでありまして、詳細にわれわれに、耳から直接その經過を入れていただきまして、なるほど委員會の苦心はそこにあつたか、なるほど各黨の主張はそういうふうにわかれておつたかということを知らせるのが、親切な態度でなくてはならぬというふうに考えるのであります。(拍手)
なおまた今の報告の内容そのものにも、私は二、三の疑義がある。先ほど山□君は、最初にこの法案は、われわれ社會黨側の委員から、委員會において一、二指摘されましたように、一事不再議の原則に反するではないかという質問を受けておるはずであります。すなわち現行法をかりに甲といたしまして、これに對する政府の修正を乙といたします。この甲、乙二つは、既に本會議に報告濟みになつておる。それに附隨いたしまして、自由、進歩兩黨の出しました、大野君以下數名の提案である、別表を含むところの修正が出たのでありまして、かりにこれを丙といたします。そうすると、この丙だけを、山口君が後ほど委員長となりました新委員會にかけたことになつておるのであります。
すなわち本會議において委員長報告が一應ありましたあと、突如として附隨的に提出いたしました丙案のみを切り離して、さらにこれを審議したというかつこうでありまして、その間甲乙兩案は、本會議に宙ぶらりんになつておるというかつこうになつたのであります。でありますから、一應委員會はそれで終了しておるものに附隨して、新たに論議をしておるのでありまして、確かにこれはいわゆる一事不再議の原則に反しておるというふうに、われわれは解釋をする。
この點につきまして、委員會では相當つつこんで質問をやつたようでありますが、その答辯はまことに曖昧でありまして、解釋論に終始しておつたようであります。また過去においても、この議會においてそういう前例はないのであります。でありますから、甲乙兩案の本會議における委員長報告に附隨して兩案を出すという形でなく、別個獨立に單獨の法案として出しておつたのならば意味がありますけれども、かようなかつこうで附隨せしめましたことは、確かに一事不再議の原則に反しておる。そこまで前例を破つてやりました割には、本會議の報告がはなはだ簡單であるというところに、私の不滿と疑問があるのであります。(拍手)
次は、その委員會の質問の續行中における報告のしかたでありますが、これもはなはだしく簡單でありまして、少しも要領を得ておりません。一例をあげますと、なぜこんな別表案だけを含んだものを出したかと、こう聽きますと、それに對しまして、現下諸情勢云々ということを答えておるそうでありますが、その現下諸情勢というものを、どうしてもつと詳細に掘り下げて、われわれに報告してくれなかつたか。現下諸情勢という言葉は、今から千年前にも使えまするし、明日も使えまするし、百年後も使えるのであります。(拍手)現下諸情勢というものは、まことに意味不明瞭なものでありますが、どういう現下諸情勢であつたかということは、委員會においては、もつとくわしく質問があつたはずである。それを知りたい。
現下諸情勢をいいとか惡いとかいうことは第二といたしまして、どういう情勢の變化があつたかということを、少くとも明らかにせぬことには、これから投票しようという氣持をもつておりまする國民大衆に、わかりかねると思うのであります。今こそこの議場におきまして、詳細に委員會における質問のやりとりを報告されまして、即日これが新聞やラジオを通じて、鹿兒島から北海道の有權者大衆に徹底し、なるほどそういう現下の諸情勢であつたかということを納得せしめなければならぬ。いたずらに言葉じりをとられることを恐れ、あるいは答辯の失敗を恐れまして、ごく簡單な、あやふやな言葉を使うのは、從來の官僚の答辯のしかたであります。(拍手)
少くとも大野君は、長い間純粹な政黨人としてきておる。その大野君等の提案いたしました法案でありまするし、この説明者も議員でありますから、議員提出の法律案の答辯に對しまして、現下諸情勢といつたような、簡單にして曖昧なその答辯に滿足するはずはないと思うのであります。(拍手)どうかこの點については、もつとくわしく現下諸情勢というものを檢討しました結果を報告しなければならぬと思う。
次は、現行制度がどこに弊害があるか。大選擧區制限連記制でよいではないかという質問があつたはずであります。これに對しまして、現行制度に弊害があるという答辯があつたかもしれませんし、弊害はないが、中選擧區單記制をよりよいものとするという答辯があつたかもしれませんが、そのことは、結論だけが山口君によつてこの議場へ報告されたに過ぎないのでありまして、ちよつとも詳細なるその利害得失が報告されておりません。非常に忙しいときではありまするけれども、せつかく今日において、新しい別表を天下に示すというときでありまするから、現行大選擧區制限連記制の利害得失と、それから中選擧區單記制の利害得失を、明瞭に、たれにでもわかるように報告さるべきでありまして、それらの點につきましての委員長の注意が足らなかつたのではないか。あるいはことさらにこれを省いたのではないか。そういう疑いがありますので、これを私は山口委員長に問い質してみたいと思うのであります。
これを要するに、今囘のこの原案なるものは、農村、小都市にはなはだ不便であり、大都會に對しましては、比較的小人數に割り切つておるというところに、一貫せる原則もなく、納得のゆく理由も少しも發見されないのでありますから、これらを納得のいくようにするために、もう一應山口君はこの壇上に上りまして、改めて詳細に、全國の四千萬有權者大衆が納得し、これに協力する氣持の起るような程度において、委員會における主要なる論點を、公平に親切に報告すべきであると思いますが、はたしてその用意があるかどうか。これも併せて質問申し上げたいと思うのであります。以上をもちまして、私の山口委員長に對する質問を終るわけでございます。
〔山口喜久一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=10
-
011・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 ただいま田原君より、委員長報告があまりに簡單ではないかというお尋ねがありましたが、まさしくその通りであります。(拍手)御承知の通り、本委員會はただいま御報告申し上げましたる通り、一昨日の午後一時から夜の十時四十分まで、また昨日も引續き十時過ぎまで、開かれまして、ほとんど連續的に論議が盡されたのであります。これをもし委員長を克明に本会議において御報告をするとなれば、二時間や三時間では、委曲は盡されないのであります。
徳田君の御演説のごときは、合わせて三時間くらいかかつたろうと思うのであります。あまりにその論議は廣汎多岐にわたりまして――しかしながらあくまでも、先ほど御報告申し上げたる通り、眞劍に論議されたのであります。でありまするから、會期も迫つておる今日、私が委員長報告としてこの時間をたくさんとることよりも、そうして私のこの不辯をもつて語ることよりも、速記録がきわめて正確でありまするがゆえに、その詳細を速記録に讓りまして、私はその骨子を述べて、皆さんの御諒解を得ようとした次第であります。(拍手)この點は、尊敬する田原君も、その委員長の苦心に對しては、御諒承願えることだろうと思つておる次第であります。
なお私からお答えするのが適當であるとして、これ以上いろいろ申し上げますと、また討論的論議にわたるおそれがありまするので、私はこの本會議の生彩を缺き、あるいは逸脱しない程度において、私の御答辯申し上げることが適當であるという點に關しまして、御返事を申し上げておきたいと思います。
ただいま田原君より委員長に、一事不再議の點についてお尋ねがありました。これに對しましては、委員會においても、社會黨の佐竹晴記君から縷縷論議されたのであります。原案を審議のためこれを委員會の審査に付し、委員會の決定を經たる後、本會議で本院の意思を決定する場合、原案に對し修正案を提出し得るのは當然でありまして、本會議においてその修正案を審議するのが從來の例であります。しかるに委員會は、本會議の審議の便のため、事前審査をなすものでありまするがゆえに、この修正案を本會議で決定する前に、委員會に付託して事前に審査せしむるということは、私は決して違法ではないと解釋しておるのであります。また本會議で本院の意思が確定する前であるから、一事不再議の問題とはならないと判斷をいたしております。(拍手)しかもその審査した内容が、全然異なる新たなる内容である場合においては、なおさら正當であると信じておる次第であります。
なお現下の諸情勢に鑑みて、この自由黨、進歩黨提出の改正案が適當であるという點につきましては、すなわち物資の缺乏、あるいは食糧事情、交通事情等、この敗戰のつらさがますます迫つてくる現段階において、われわれどもとしては、どうしてもこれを提出しなければならなかつたという、提案者の説明があつた次第でありまして、私は提案者の説明以上に私の意見を差加えることは、ここに避けたいと思う次第であります。(拍手)
なお區制の問題につきましては、一一ここでその論議の御披露をいたしますことは、相當時間もかかる問題であり、かつまたこの問題は全委員が懇談會を開き、特に社會黨の委員諸君の要求によつて、別室において懇談會が開かれて、おそらくその懇談會においては、十分田原君の屬せられるところの社會黨の委員諸君が諒承せられた形において、解決された問題であります。(拍手)
なお修正案に對する私の説明の足らざる點等に關しましては、提案者たるわが黨の小澤佐重喜君に讓ることにいたしたいと思う次第であります。以上をもつて何とぞ御諒承あらんことを、切にお願いする次第であります。(拍手)
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=11
-
012・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=12
-
013・田原春次
○田原春次君 山口君の御答辯は、少しも私の質問に觸れていない點がありますが、特に小澤君にそれを讓つて、小澤君からと言うのでありますから、小澤君はやはり登壇されて、私の質問に對する答辯をしていただきたいと思います。(拍手)
〔小澤佐重喜君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=13
-
014・小澤佐重喜
○小澤佐重喜君 田原春次君にお答えいたします、大體ただいま山口君から御報告になつたのでありますから、御質問の中の、山口君のお答えのない部分だけをお答えいたしたいと存じます。
まず第一に、別表の問題でありますが、別表は、委員會におきましても相當論議せられまして、愼重に審議を經たのでありますが、要するに別表のいわゆる選擧區の決定にあたりましては、まず第一に人口というものを考慮いたしました。その次には地理的關係、すなわち地勢、あるいは風俗人情、すなわち歴史的關係、行政區畫等を考慮いたしまして、そうして選擧區を決定いたしたのであります。
從いまして、そのいわゆる一區、二區についての割振りが、非常に變な形になつておりますということは、これは委員會でも申し上げましたが、從來の別表の作成方針が、その行政區畫のいわゆる最小單位というものを郡市に限つております。すなわち町村という關係まで考慮しまして、そうしてここに人口、地勢、歴史、行政區畫というようなことを考えますならば、かなり、いま田原君の御指摘じやないような案ができるのでありますが、從來の慣習に基きまして、すなわち最小の行政區畫というものを郡市に求めました結果、人口におきましても、それぞれ一見しましては非難すべき點が多々あると存じます。しかしでき得る限りそうした不公平のないように、いまの根本原則を適用して出たのが、ただいまの案になつておりまする別表でありまするから、何とぞその點を御諒承願いたいと存じます。(拍手)
なお第二點といたしまして、中選擧區の短所、あるいは長所等につきましては、委員會において提案趣旨にも詳細に説明しておりますから、ここでは省略させていただきます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=14
-
015・山崎猛
○議長(山崎猛君) 田原君、質疑がありますか。――原彪之助君。
〔原彪之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=15
-
016・原彪之助
○原彪之助君 私は今囘の選擧法の一部を改正する法律案をめぐつての諸現象に對して、まことに不可解な點が非常に多いのでこざいます。まず第一に、政府が提出いたしました選擧法の一部を改正する法律案なるものは、條文の部分的修正と見ていいのであります。決して選擧法の根本的改正を意味しているものではありません。ところがこの政府原案に對して、自由、進歩兩黨の諸君は、區制及び投票の方法まで變更する、いわゆる選擧法の性格を根本的に一變するところの修正案を、おんぶさせて出したのであります。これはちようど赤ん坊におとなが負ぶさつたようなものであつて、まつたく政府の原案に便乘して、同僚永谷君の言う、いわゆるきんちやく切り的な選擧法の改正を企圖したものと言わざるを得ない。(拍手)
なおそれはそれといたしましても、この修正案が議員提出の議案であると言いながら、この案をめぐつての政府の態度に、すこぶる不明朗な點が幾多あることを、まことに私は遺憾とするものである。(拍手)私のまず第一に抱く疑念は、與黨と政府との間には、あらかじめ意思の通謀があつて、今日のごときこうした根本的改革を、突如として出したのではないかとさえ感ずるのであります。(拍手)私はその政府の態度に對しまして、二、三質してみたいと存じます。
まず政府が今囘の選擧法の一部改正を企圖いたしましたことは、これは近く行う選擧に對して必要やむを得ざる部分として、その一部の改正案を提出したことは、會期が切迫した今日といえども、私は諒とするものであるのでございますが、この一部改正案に對して、ただいまも申しましたように、與黨の諸君が根本的な改革を意味するところの修正案を提出されたということは、なるほど民主主義の確立には、議員の選出方法というものは、まことに重要な關係をもつているものであることは申すまでもないのでございますが、しかしながらそれほど重要なものであるだけに、私どもは十分なる時をかして、愼重審議する必要があると思う。(拍手)
それにもかかわらず、會期の切迫いたしました今日、こうした重大な修正案を、突如として政府の改正案に便乘して提出されるということは、まことに私どもとしては、その提案者の心事を了解するに苦しむのであつて、まつたくこのやり方は、深夜に電報配達夫がやつてきて戸をたたく、電報配達夫だと思つて戸を開けたところが、そのすきに乘じて強盗にはいつたと同じような、強盗的修正案と私は言いたいのであります。(拍手)しかもその電報配達夫と強盗との間に意思の通謀があつたとするならば、なおさらもつてのほかであります。
政府は一體こうした改正案をかねてから考えておられたかどうか。またこの會期中にそうしたことをする考えであつたかどうかという點でございますが、私どもはどう見ましても、この案をめぐつての委員會における政府閣僚の態度から推しまして、どう考えても與黨との間に意思の通謀があつたと斷ぜざるを得ない節々があるのでございます。
第一植原内相は、この改正案に對しては重大な關心をもつていると言われて、委員會における答辯では、提案者以上の熱意をもつて、今囘の中選擧區單記に改正することを支持されるかのごとき言辭が、しばしば繰返されているのであります。中選擧區單記の制度が、現行の大選擧區制限連記制よりもすぐれているかどうかという點については、これはそれぞれ議論のあるところでございましようが、政府はこの今囘の改正案に對しては、場合によつてはしばしば、これは議員の提案であつて、政府の關知するところではないと逃げられながら、しかもなおある場合、必要なときになると、非常な熱意をもつて、この中選擧區單記制への復歸が、この際現行法よりもすぐれているゆえんを説かれるということは、いかにも私どもにしてみるならば、提案者と政府閣僚との間には、あらかじめ十分なる意思がしめし合わされておつたものではないかと、疑わざるを得ないのでございます。
また幣原國務大臣にいたしましても、委員會における質疑應答の中に、決して私はこの選擧法において、今囘の改正によつて、婦人代議士の進出を阻止しようと考えているものではありませんというような意味の御答辯があつたのでありますが、これらのことから總合して考えまするのに、私どもとしてはどうしても政府竝びに與黨の間には、今囘のこの改正案を、一部の改正案の名をかりて、虚に乘じていわゆる押込み強盗式に、しやにむにこうした根本的改正をしようとしておられたのではないかという點に、非常に深い疑念をもつものでございます。
政府がかりに意思の通謀がなくして、提案者ではないといたしましても、民主政治を確立いたしまして、民主的な政治運營の責任を負つているところの政府にして、今囘のごとき選擧法改正のやり方が正しいと、これを是認しておられるかどうかという點でございます。
決して私は手續の問題を言つているのではございません。政治的な意味において、はたしてこうしたやり方が、民主政治と重要な關係をもつている選擧法の改正にあたつて、期日なき今日、急遽こうした方法によつて、しかも強引に押し切ろうとする。そうしたやり方を民主的なものとして、政府は是認しておられるかどうかという點でございます。
さらに國民協同黨の松原議員からは、まことに情理を盡し聲涙ともに下るがごとき眞摯な態度をもつて、選擧法改正の重要なるゆえんを説いて、こうしたとき、あわただしくこうしたことをしないで、新國會にこのことを委ねて、十分愼重審議したらどうだという忠告的な勸告さえも、植原内相に對してなされたのであります。
そのときに植原内相は、これは議員提出の法案であつて、私の關知するところではありませんという意味の答辯をしておられる。これらは、長い間議會政治の經驗をもたれ、選擧法がいかなる意味をもつておるものであるかを十分御了解になつておられる植原内務大臣としては、まことにふまじめと申してよろしいか、(拍手)何と言つてよいか、まことに私はその態度を遺憾とするものが多々あるのでございます。こういうう點から見ると、常に私は、政府といたしましては、口に議員提出の法案であると言いながら、内心この改正を希望しておられるものという感じを受けとらざるを得ないのであります。ところが植原内務大臣は常に、選擧法に對する自分の考えは、小選擧區、いわゆる一人一區の制度をもつて理想とするということを、しばしば言つておられるのでございまするが、この修正案は、植原内相が常に理想案としておられるところの小選擧區制ではないのでございます。しかもこの内相の考えられる理想的な案でないところの今囘の改正を、しかも與黨の諸君は、數をたのんで非民主的な方法によつて、あえて強引に押し切らうとしておられる。
しかもそれをわれわれの見るところでは政府としては通過を希望していられるがごとき感じを受けるとすれば、一體政府はこの改正によつていかなる國家的な寄與がなされるとお考えになつていられるのであるか。
はたしてこの改正案をむりにでもここでなし遂げることによつて、日本の民主化にどれだけの利益があると思われるか。それなくしては、私はこうした今囘の選擧法改正をめぐつての政府の熊度というものには、解せないものがあると思うのでございます。
私どもの見るところをもつていたしますならば、今囘のこの改正案がもたらす結果は、進歩的な、革新的な分子の進出を阻止して、選擧ブローカーの活動を容易にして、政治ボスの勢力を増大する以外の何ものでもない。(拍手)いわば日本の政治の民主化の逆行以外の何ものでもないと思うのであります。(拍手)いわば私は、これこそ日本民主化への反逆的な陰謀であると思うのであります。(拍手)なおまた幣原國務大臣は、一體今囘の改正をどういうふうに見、かつ考えておられるかという點に疑問をもつておるものでございます。
提案者は、提案理由の説明に、現行法のいわゆる大選擧區制限連記制は、官僚の空想に出るものであるという意味のことを言うておられるのであります。そのことについても、私は幣原國務大臣としては、何らかの感想がなくてはならぬと思うのでありますが、しかしそれは別といたしましても、現行法が提案され、成立いたしましたのは、幣原總理大臣のとき、幣原内閣によつてなされておるのでございます。
しかもその提案にあたつては、すなわちそれまで行われておりましたところの中選擧區單記の選擧法を改めて、大選擧區制限連記制にするときの理由としては、大選擧區になれば、廣く人材を求めることができる便があるということ、またそれによつて大選擧區をとる以上、比例代表制に進むことを理想とするが、しかし現在の段階においては、そうした飛躍的改革をなし得ない事情があるがゆえに、漸進的に制限連記制によるものだ、いわば將來の大選擧區比例代表制にいくことを理想として、それの漸進的な一段階として、現行法である大選擧區制限連記制をとるというふうに説明されているのでございます。
そうすると、當時の幣原内閣總理大臣は、選擧制に對しては、大選擧區比例代表制に進むことをもつてよしとお考えになつておられたものと解釋するのでございます。ところが今囘の改正案は、それとは逆に、植原内務大臣が理想とせられるところの小選擧區制への一歩前進であつて、大選擧區比例代表制に對しては逆行しているのであります。この意味において、委員會において植原内務大臣も、今囘の改正は、自分の理想とする小選擧區制に近づくということも、自分が可とする一つの理由であると明らかに言つておられるくらいであるのでございます。
この改正案の目ざす方向は、まさに幣原國務大臣が選擧理論として考えられる方向とは、逆の方向を指しているものであるのであります。これについて幣原國務大臣は、一體どう考えていらつしやるか、もちろんこの選擧制度については、人おのおの理論をもつて論ずるところあることは、言うまでもございません。學説においても、それらのものが併行しつつある現状でありまするから、それぞれの理論のあることに決して不思議はないのでありまするが、もし幣原國務大臣の理論をもつてするならば、あえて現行法を改正する必要はないのであります。もし行うとするならば、私は大選擧區制の方向に向つて行われるはずであると思うのでございます。にもかかわらず、今囘の事實上の改正は、その逆の方向を指している。これを容易に認容され、支持されるがごとき態度をとつていられることは、一體何ゆえであろうか。
これを要するに、今囘の改正案というものは、まつたくその理論的根據を缺いているのであります。植原國務大臣の理想とせられる小選擧區制は、立派に一つの理論をもつている。また幣原國務大臣がよしと考えておられるらしい大選擧區比例代表制も、これも一つの理論を立派に具えているのであります。
ところがその中間にある中選擧區制というものは、まつたく理論的根據を缺いている便宜論にしか過ぎない。しかもこれは明らかに提案者が、今囘の改正は便宜に出るものであると言つておられるのでありまするから、まさにこれは便宜論であります。便宜論によつて今囘の改正をあえてするとするならば、一體この便宜を受けるものは、はたしてたれであるのでありましようか。(拍手)またこの便宜をあるものに與えようとするかのごとき疑念を抱かせる、不明朗なる政府の態度に對しては、これはわれわれこの機會に、日本民主化に重要なる意義をもち、關係をもつている選擧法の改正をめぐる院内の動きに、非常に深い關心をもつている國民諸君の前に、ぜひとも明らかにしておかなくてはならぬ點であると考えますがゆえに、あえて政府の所見を質したゆえんでございます。(拍手)
〔國務大臣植原悦二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=16
-
017・植原悦二郎
○國務大臣(植原悦二郎君) 原君の御質問にお答えいたします。政府は政府の所信によりまして、必要とするところの選擧法の改正案をこの議會に提出いたしました。それに對しまして、議員諸君が、當然有する發案權をもちまして、これに修正を加えることは當然のことで、議員多數の御意向がそれにありまするときには、これを尊重してその御意見を採擇することが、眞に民主主義に徹するものだと思うのであります。それのみならず、この改正案がいかに國家に寄與するかという點につきましては、‥‥
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=17
-
018・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=18
-
019・植原悦二郎
○國務大臣(植原悦二郎君)(續) この改正案は、政黨の發達をよりよく助成いたしまして、政局を安定せしむるに、現行選擧法よりはさらによろしいと思います。民主化を徹底せしむる上においても、現行選擧法よりはさらに有利であると思います。
その他原君の御隨意の御意見に對しては、かれこれ御批評の限りではありません。(拍手)
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=19
-
020・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) ただいま原君の申述べられたごとく、現行法は、確かに私が内閣の首班でおりました時代に、起草せられ、提案せられたものであります。しこうして議會の多數をもつて通過して成立いたしたのであります。もとより私はその當時におきましては、この現行法が最も適當であると信じたのであります。おそらくはこの議員の多數も、そう思われたでありましよう。爾來、時勢の進化によりまして、今囘自進兩黨の議員の方が、これに修正を加えたいという趣旨で、議案を提出になりました以上は、‥‥‥
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=20
-
021・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=21
-
022・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君)(續) 私としてこれに反對すべき理由は何もありません。(拍手)私は議員の方々の御意向を尊重して、これに對して何らの反對をしないという態度を、もつているのであります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=22
-
023・原彪之助
○原彪之助君 ただいまの‥‥‥
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=23
-
024・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=24
-
025・原彪之助
○原彪之助君(續) 御答辯は‥‥‥
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=25
-
026・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=26
-
027・原彪之助
○原彪之助君(續) 今囘の改正は、與黨と政府との間に意思の通謀があつて、拔き打ち的にこうしたことになつたという印象は、決して國民大衆の頭からぬぐい去られないものであるということを申し上げておきます。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=27
-
028・山崎猛
○議長(山崎猛君) これにて質疑は終了いたしました。鈴木義男君外六名提出の修正案及び原彪之助君提出の修正案については、提案者よりそれぞれ撤囘の申出があります。これを許可するに御異議ありませんか。
〔「異議なしと」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=28
-
029・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて撤囘を許可するに決しました。
討論の通告があります。順次これを許します。佐竹晴記君。
〔佐竹晴記君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=29
-
030・佐竹晴記
○佐竹晴記君 私は日本社會黨を代表いたしまして、討論をいたしたいと存じます。
私は政府提出原案については、先の委員會の岩本委員長報告通りの修正、竝びにその餘の原案全部に贊成をいたします。議員提出修正案については、ただいまの岩本委員長報告の修正以外の分には反對であります。私が特にここに論じなければなりませんのは、大野伴睦君ほか一名提出の修正案、すなわち中選擧區制竝びに單記制採用の修正案に對し、絶對に反對の意見を表明いたしたいことであります。
まず第一に考察しなければならぬことは、ただいまの山口委員長の報告を適法なものとして、これをうのみにすることが、はたして正當のものと言うことができるであろうかという點であります。
三月の二十七日、三十名の委員に付託された議案は、大野伴睦君外一名提出の修正案ほか三件であります。いずれも議員提出修正案であります。この修正案によつて修正さるべき政府原案は、既にさきに十八名の委員に付託せられて、その審議を終えて本會議に移され、その委員長の報告も終つておつたのであります。その後三十名の委員に付託されたのは、この原案と切離して、修正案のみ委員付託とされたのであります。
よつて私は三十名の委員會において、委員長に對し、この委員會に付託された案件の内容いかんを、質疑いたしましたところ、大野君外一名提出ほか三件の修正案であることを、明らかにされたのであります。從いましてこの委員會においては、議員提出修正案のみが議題となつており、修正案によつて修正さるべき政府原案は、この委員會の審議の對象ではないということを、明らかにしたのであります。
はたしてしかりといたしますならば、原案を伴わない修正案が、獨立して審議されることになるのであります。しかし原案を伴わない修正案なるものは、法理上あり得べからざるところであります。(拍手)有數の公法學者にその意向を質してみましたが、同樣の意見を開陳されておるのであります。ゆえにもし原案を伴わない修正案を議決いたしましても、それはまつたく架空のものであり、修正の實を表し得べき道理はないのであります。
よつて私はただいま委員長報告の通り、委員會で修正案が可決されたといたしましても、これは後の三十名の委員會の委員長報告であります。これをもつて政府提出の原案に變更を加うるの效力、すなわち修正の效果を收め得たものということはできないのであつて、政府提出原案に對する修正が加えられたるものとしての議決には、斷固反對せざるを得ないのであります。
〔議長退席、副議長著席〕
さらに別個に問題になりますものは、かりに右私の所論が許されないといたしましても、政府提出の原案はまつたく事務的處理案であり、選擧區制や單記、連記に觸れた、否、豫想した議案ではございません。從いましてその修正案は、その原案の範圍においてなさるべきものである。その範圍を逸脱して修正するがごときは、法理上許さるべきことでないと私は信ずるのであります。
すなわち政府提出の原案そのものが、現に行われておる衆議院議員選擧法の第二十七條第一項竝びに別表の改正をはかつておるものであるといたしまするならば、その改正をしようといたしまする原案に對し、それはこうありたい、ああもしたいという修正案が、おのずからわいて出るのでありましよう。しかし今囘の政府提出改正原案は、ごうもこれらの區制竝びに單記、連記の制度には觸れていないのであつて、原案そのものが、今囘議員提出修正案のごとき、修正さるベき何ものをも包含していないのであります。よつてその修正案は、その根本においてまつたく據りどころなきものと言わざるを得ません。(拍手)ゆえにこの趣旨においても、大野君外一名の修正案は、斷じて認めるわけにはまいらないのであります。
かりに一歩を讓つて、その議論が成立しないものといたしましても、きわめて輕微な事務的處理案を出しておきながら、これに對し原案よりははるかに重大であります根本的修正案を、便乘的に提出するがごときは、まつたく議員の發議權を濫用するものであり、權利の濫用として、一般法理の上から見ましても、これは許さるべきものでないと信ずるがゆえに、われわれはこれを正常なるものとして肯定することはできないのであります。(拍手)ゆえにわれわれは、この無謀きわまる大野君外一名の修正案は、斷固拒否せざるを得ません。(拍手)
法理論に關します檢討は、この程度にいたしておきまして、進んで實質的、政治的考察を加えるの必要があると思うのであります。すなわち、何がゆえにかくのごとき重大なる修正案を、會期切迫の今日、議員提出案として突如提出し、多數をたのんで一擧これを乘り切らなければならないのか。私はこの點は後世に殘るべき重大なる問題でありまするがゆえに、十分檢討を加えておく必要があると思うのであります。
内務大臣は、さきの十八名委員會において、政府提出改正案を説明するにあたりまして、何とおつしやつたのでありましようか。かように述べている。「大選擧區制限連記制を骨子といたします現行衆議院議員選擧法につきましては、前囘の總選擧の結果等に鑑み、論議のやかましいものがありまして、政府といたしましても、選擧法全般にわたつて根本的再檢討を加えてきたのでありますが、最近における政治情勢の要請により、急速に選擧を行うこととなりましたので、この際とりあえず選擧の執行に必要な、日本國憲法の制定、地方制度の改正及び參議員議員選擧法の制定等に伴う、最小限度の規定の整備を行うことといたし、本改正案を立案した次第であります。」と述べられているのであります。(拍手)
政府はこの事務的な規定を、しかもとりあえず選擧を執行するに必要やむを得ない最小限度の規定を整備するに止め、選擧區制竝びに單記、連記に關しては、何ら改正を企てはいたしませんということを、明確にしているのであります。(拍手)よつて十四日、委員會が開會せられまするや、こうした事務的な、輕微な、しかも應急的な改正案であるので、あえて深刻なる檢討を加える必要もなかろう、速やかに議了する必要もあるので、自然質疑者も各派から一人あてくらい出して、制限された短日時の間において議了してしまおうじやないかという、各派の諒解が成立いたしまして、よつて二、三日の間審議を續けてまいりました。
その程度ならばもう審議を打切つてもよろしい、議了という状態にはいりましたときに、自進兩黨は何をしたか。爾來會議を休んだではないか。しかして一切の審議をなさずに、何をしておつたか。(「社會黨は暴力を振つたじやないか」と呼び、その他發言する者あり)別室において、自進兩黨のみがひそかに謀議、謀略をこらしておつたではないか。(拍手)眞に國家のために、眞劍に國家のために選擧法を審議しようとするならば、何がゆえに各派に呼びかけ、全會一致、ほんとうに國家のために、眞劍に和やかなる審議を續けなかつたのでありますか。(拍手)しかるにそのことをなさずして、自進兩黨のみがひそかに別室において密議をこらし、二十日まで休んでおるじやないか。
しかも再び再開されるや、あにはからん、その委員會に對し、單記、連記に關する規定、及び選擧區制の別表を修正するところの議案を、政府提出原案に絡まつて、議員提出修正案として突如これを出し、一擧に押し切ろうという形勢が、おのずから明らかになつてまいつたので、われわれ社會黨といたしましても、かくのごとき陰謀はこれを撃碎し、明るみに出して、正しい選擧法の改正をしなければならぬと、われわれが宣言せざるを得ない状態にあるということは、けだし當然であるといわなければならぬのであります。(拍手)
ここにおいて、私どもが直觀をいたしましたのは、政府提出の事務的原案は、當初の方針通りにいけば、二、三日でもう濟んでおるのであります。しかるにことさらにそれを濟まさずにおいて、數日休んだ後、さらに根本的修正案を出そうというごときは、當初の諒解を裏切るものであり、その裏切行動に出ずるがために、數日休んで密議謀略をこらしておるということは、われわれはこれに對して正々堂々鬪わなければならぬ。よつてわれわれは、このボス政治を打破いたしまするがために、陣容を整え、委員をかえて、相當の準備をして質疑をなすべく委員會に臨んだ。まず私もその質疑の通告をしたのであります。
ところがなんぞ、われわれが一言をも發するの餘裕を與えずして、自進兩黨は多數をたのんで、われわれの發言を抑壓したではないか。(拍手、「議會政治は多數決じやないか」と呼ぶ者あり)議會政治は、少數派にも十分發言するの機會を與えて、多數派といえども、とるべきものはこれをとつて、正しい政治をするところに議會政治はある。多數をたのんで、一言をも發せしめざるがごとき、これを抑壓するがごときは、斷じて民主主義立憲政治ということはできないのである。(拍手)
これに引續いて、われわれの發言を二十分に制限する旨の動議を出したものはたれか。しかして多數をたのんで、再びまた押し切つたのはたれか。自進兩黨ではないか。(拍手)かくのごとき専制横暴は、東條内閣時代でさえもなかつたのである。何という暴擧であろうぞ。かくのごとき行動は、議會自身言論を蹂躙するものであり、民主主義を放棄するものであると言わざるを得ない。われわれがこれに抗し、その暴擧を撃碎し、民主主義を防衞しなければならない立場に立ち至つたのは、けだし當然のことであり、派生的紛糾がこの間に生れたといたしましても、その責任はあげて自進兩黨にありと言わざるを得ないのである。(拍手)
われわれは終始一貫、政府提出原案とこの修正案は、斷じて切り離すべきことを強調したのでありますが、自進兩黨は反省せず、委員會の紛糾に鑑み、遂に本會議に至つて所期の修正案を提出しようと決意し、このことが日を逐つて明らかにされ、遂にこれが實行されたではないか。何がゆえにかくのごとく重大なる根本的修正案を、先例をも無視し、突如本會議に提出して、一擧にこれが通過を期せなければならないほど、無理をしなければならなかつたのか。私どもはその理由を知りたかつたのであります。
私は後に付託されました修正案の委員會において、極力その内容を追究したのでありますが、遂に目的を達することができなかつた。よつて私は具體的に聽いてみた。世間ではいう。この修正案によつて、共産黨その他を抑えようとするにありと言う者があるが、はたしていかんと聽いてみた。だが、要領を得なかつたのである。しかも選擧區制をあやつることによつて思想を抑えようなぞというがごときは、まことに論外であると言わざるを得ない。(拍手)
われわれがこれを追究いたしまするや、政府いわく、斷じて思想を取締る考えなぞは、毛頭ないと言つている。毛頭ないと言つている政府、良心に鑑みてみよ。その意圖なしとたれが言い得るか。ゆえにさようのことがあるべきでないのにかかわらず、これが天下に公言されている以上、政府はみずからその内容を明らかにし、誤解を解くべき責任があつた。だが、われわれの質疑に對しては、消極的なる答辯をするのみであつて、その實體を十分に明らかにし得なかつたところに、政府の腹の中に内藏している氣持が、どのようなものであるかということを、われわれは感知せざるを得なかつたのであります。(拍手)
その他幾多のことを私どもは聽いてみた。どうしてこの議會のもう濟みそうになつた間際に、突如として、しかも抱合せで、便乘的に出して、多數をたのんで一擧に押し切らなければならぬのか、その内容を明らかにせよと言つたが、具體的にその内容を明らかにしてもらうことができなかつた。よつて結論はかくのごとく生れた。すなわち自進兩黨が次の選擧に多數を得んとするところの、黨利黨略に出發しているものだとより見ることが、私はできなかつたのであります。(拍手)
見よ、今度出されているところのあの修正案をひもといて見よ、最初は印刷してある。その上に附箋が幾多はられておるではないか。しかも今度の懇談會においても、ある者が申し入れてくると、その意見を聽いてそれをかえざるを得ない。あちらへ押され、こちらへ押され、黨利黨略のためにこの問題をいろいろと料理してまいつたことを、われわれは否定することはできないのであります。
審議の状況についてもごらんなさい。朝の十時に招集しておいて、われわれが十時に出て行く。午後の四時までやらぬじやないか。(拍手)實際午後の四時か五時ごろ出て來て、發言禁止と言う。なんと、うろたえたことか。(拍手)議會が言論の府であるならば、何がゆえに午前十時から堂々と論議を交さないのか。論議をよそにし、別室に引きこもつて、自進兩黨のみが別表づくりに專念しておつたことを考えるならば、われわれはかくのごとき案には、絶對反對せざるを得ないのである。(拍手)
マツカーサー元帥より吉田内閣總理大臣に寄せられた書簡には、何とあるか。この日本の經濟危機に直面し、政黨政派を超越し、國家的見地に立つて日本再建のために盡せよとある。しかるに自進兩黨はどうであるか。各黨各派の諒解を得ることなしに、午前十時に招集しておきながら、われわれを放りぱなしにしておいて、別室において密議を凝らし、別表いじりをやつておつたというのでは、これで超黨派的――ほんとうに國家を護るところの見地に立つての修正案であると言うことができようか。(拍手)
もし、それほんとうに正しく國家を再建しようという熱意に燃えて、諒解を求めて、われわれとともに審議をしたならば、なんぞ暴力が起きましよう。(拍手)
〔「言うことが詭辯ばかりではないか」と呼び、その他發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=30
-
031・井上知治
○副議長(井上知治君) 靜肅に。‥‥発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=31
-
032・佐竹晴記
○佐竹晴記君(續) 諸君、かくのごとき、状態のもとに、この改正案に對する修正案を、何がゆえに突如出さざるを得なかつたのか。われわれは斷じて理解することができない。われわれが理解することができぬ以上、斷じて贊成することはできない。
しかも今度の修正については、政府は何ら關係せずと言い張つているけれども、政府にも關係なしとは、私は言わせないのであります。政府竝びに與黨合作になる修正案であると私どもは見ておる。(拍手)すなわち、その一例を示しましよう。われわれが質問をいたしました際に、選擧區制の點を衝いた。ところが小澤提出議員におかれましては、岩手縣以外には知らぬとおつしやつた。しかして區制の問題は内務省につくつてもらつたから、事務當局に聽かなければ説明ができぬというところに落ちついて、當日はその問題は審議することができなかつたのである。内務省關係なしと、たれが言い得るか。政府竝びに與黨合作による、一部の階級にのみ御都合のよいこの修正案に、われわれ斷乎反對せざるを得ないのであります。
しかも昨年法律を變えたばかりである。朝令暮改、政府竝びに與黨が、自分の御都合のよいように、選擧の迫りましたまぎわに事務的案を出しておいて、突如議員から修正案を出して、内閣が迭るたび、選擧が行われるたびに、かくのごとき修正が次から次へと繰返されていくならば、日本の民主主義は、實に恐るべきところに到達するであろうということを、強く警告せざるを得ないのであります。(拍手)
私はかるがゆえに、かくのごとき修正案に對し、斷固反對の意を表しまして、討論を終了する次第であります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=32
-
033・井上知治
○副議長(井上知治君) この際、食事のため暫時休憩いたします。
午後五時四十五分休憩
――――◇―――――
午後七時十八分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=33
-
034・山崎猛
○議長(山崎猛君) 休憩前に引續き會議を開きます。松原一彦君。
〔松原一彦君登壇〕
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=34
-
035・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=35
-
036・松原一彦
○松原一彦君 私は國民協同黨を代表いたしまして、政府提出の選擧法中一部改正案に對して贊成の意を表し、さらに今囘附け加えられましたる大野伴睦氏外一名提出の修正案に對しましては、遺憾ながら反對の意を表するものであります。また共産黨提出の修正案には反對いたすのであります。以下反對の理由を申し述べたいと思います。
私は反對せんがために反對するようなことはいたしません。私が反對するゆえんのものは、選擧を大切に思うからであります。選擧は、この新しい憲法のもとにおきましては、最も愼重に、最も大切に取扱わるべき基本的條件のものであるということを信ずるからであります。日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動するという原則に從いまして、眞に公正なる代表者をば選擧することから始まらねばならぬと信じます。その基本條件である選擧でありまするがゆえに、今囘選擧せられまするところの國民代表によりまして、新しい性格をもつたところの國會が構成せられるのでありまするから、今囘の選擧は、いやしくも後代物議の種になり、あるいは物笑いの種にならないような用意をもつて、十二分に念を入れたる選擧が行われねばならないことを固く信ずるものであります。しかるに今囘提出せられました修正案は、いかに私がひいき目にみましても、まつたく輕率、不明朗なる提案であることを認めざるを得ないのであります。(拍手)
本來選擧は、民主主義の國におけるところの國民が、直接政治に責任をもつ第一歩の出發點であります。もしここに重大なる過ちがありましたならば、その政治はまことに不明朗なるものとなり、國民の信を裏切るものとならざるを得ないのであります。(拍手)出發點一歩の誤りは、到着點におけるおびただしい大きな誤りに到着いたすのであります。それがもし誤つたならば、國の興亡に關係するからであります。私は以下實證をあげて、これをば御批判を得たいと思う。
一體議會政治の是認せられる唯一の思想的なる根據は何であるか。それは正しい民意を、正しき選擧によつて議會に表現するという根本的條件があるのであります。この思想的なる根本條件に、もしこれを妨げるものがあり、その運營の上に支障を來すようなものがありましたならば、議會政治の是認せられる唯一の思想的根據は、遺憾ながら失われざるを得ないと私は信ずるのであります。(拍手)
今日までの日本の選擧史を顧みますると、この選擧をば最もゆがめ、陰鬱にし、暗黒ならしめたるものは、その最大なるものの一つが官憲の干渉であります。さらにこれに伴うて行われたるものが、買收その他の不正なる行爲であります。今や議會の信用が、新聞でも見らるる通りに、地に墜ちんといたしております。われわれは民主主義の國において、議會の權威が地に墜ちる、かようなことがあつては斷じてならないと思うものであります。(拍手)
議會の權威が地に墜ちて、どこに民主主義の國がありましようか。どこに新しい脱皮したる日本の世界に對する誓いが果されると思われるでありましようか。(拍手)議會を權威あるものたらしめんがために、法の權威を重んずるがために、私どもはこの選擧を愼重に取扱い、萬遺憾なからしめんとする用意をもつて。この言葉を申すものであります。
諸君、もし一方的なる意思において選擧がゆがめられるならば、いかなる結果を招來しまするかは、去る十七年に行われましたる翼贊選擧が最もよい實例であります。(拍手、「恥を知れ」と呼び、その他發言する者多し)もちろん私は恥を知つております。
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=36
-
037・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=37
-
038・松原一彦
○松原一彦君(續) 私は恥を知つているがゆえに申します。
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=38
-
039・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=39
-
040・松原一彦
○松原一彦君(續) 私は翼贊選擧の初期には加わつたものであります。しかしながらあの選擧のなり行きを見ましたときに、私は實に憤慨にたえませんでした。かくのごとき選擧が行われたならば、私はこの正しき議會政治の運用ができない、選擧を毒するものであると信じまするがゆえに、私は憤然として、長い間從事しておりました選擧肅正中央連盟を解散して、選擧の方面から私はまつたく手を引いたのであります。今日新しい議會が成立するこの際におきまして、かくのごとき輕率、不明朗なる選擧法の改正が議會に提案せられましたということを、私はあの當時の無謀なる翼贊選擧の實體に照し、いかにも危險千萬に感ぜざるを得ないものがある。(拍手)
本來民主主義というものは、思想的には、私は自由主義に立脚するものと信じております。自由主義とは何かということを、賢明なる諸君の前に講義する必要はありますまい。しかしながら自由黨である以上は、自由を標榜しておられるのであります。自由とは何か。いわゆるリベラルの内容は何か。それは公明ということであります。自由は公明であることであります。(拍手)明るいことであります。自由は寛容性をもつことであります。寛大であり、包容力をもつところに、自由の特性があるのであります。さらに自由は公平無私でなくてはならない。偏頗があつてはならないところに、自由の特性があるのであります。
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=40
-
041・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=41
-
042・松原一彦
○松原一彦君(續) 自由主義とは、申すまでもなく進歩主義であり、改良主義でなくてはなりません。しかるに自由黨から提案せられましたる今度の選擧法の、提案のいたし方といい、その内容といい、どこに公明があるか。(拍手)どこに寛大なるものがあるか。どこに公平無私なるものがあるか。どこに進歩性があるか。(拍手)この根本的條件を確立せずして、眞の平和なる民主國家は私はあり得ないと信ずるものであります。(拍手)新憲法によつて構成する新日本の性格も、またこの自由主義の根據の上に立たねばならないものであることを疑いません。この意味におきまして、私は今囘の提案がこの根本的條件のすベてに背いているものであることをば例證をあげて申し上げたい。
第一は、公正なる正當性を缺いております。第二は、愼重性を缺いております。第三は、寛容性を缺いております。第四は、公正妥當でありません。まことに不合理きわまるものであります。第五は、進歩的でありません。第六は、政治道徳に缺けるところのものがあるのであります。(拍手)第七は、議會史上に惡例を殘すものであります。(拍手)この七つの條件によつて、私は今囘提出せられましたる修正案は、斷じて許容すべからざるものであることをば申し述べたい。(拍手)
第一は、何ゆえにこれが正當性を缺いておるかということをば申し述べたい。それはその議題の提出にきわめて不公正なるものがあり、不明朗なるものがあるからであります。(「木村公平ここにあり」と呼ぶ者あり、笑聲)私は委員の一人として、この問題の推移をことごとく知つておるものであります。
本月十三日、この議案が政府から提出せられまして、委員會にかけられましたときまでは、何ら不明朗なるものはございません。十四日になりましても、何もありません。十五、十六日となりましてから、急に樣子が變つてまいつたのであります。そうして休會を續けること數日、委員は何がゆえにかくも休會を續けねばならないかが、まつたくわからなかつたのであります。そうするうちに、何かがあるぞという豫想が、いろいろな方面からまわつてまいつたのであります。
そうして突如としてこの委員會は再開せられましたが、それから後はひたすらに私どもが聽きましても、與黨の諸君には、このしりに何かがありそうなことを言われながらも、どうしてもこれを明確にせられないのであります。遂に二十六日に至りまして、われわれは懇談會を開きまして、この問題は一應われわれの責任ではないからして、政府提出の法律案の審議に止めて、和やかにこの問題を打切り、もし緊急に提案せねばならないものがあるならば、それは獨立してお出しになるがよろしい、政府には提案權があり、また議員には發案權がある、いかなるものが出ようとも、われわれは少しも苦にするものではない、御自由にお出しになつたらよいではないか、何かがあるといつたような妙なものをうしろに隱し、電光石火、拔打ち的にかくのごとき重大なる議案と思わるるものを扱われるという態度、これは斷じて公正なるものではないと斷じたのであります。本村公平君、はたしてこれが公平なる處置でありましようか。(拍手)
しかもわれわれ委員は、情理を盡して、さような強引なるものを、かくのごとき強引な方法によつて扱うことはいかにも不合理であるからと、幾たびか忠告もし、懇談もいたしたのでありまするし、委員諸君もことごとく同感でありまするが、不思議や黨に歸ると態度が一變し、激勵叱咤せられて歸るという有樣をば、われわれはまざまざと見たのであります。何という不明朗なことでありましよう、いかにも私どもにはわからないのであります。
もちろん私は暴力の終始を見ておりますから、この際一應私の見解を申し上げておきましよう。社會黨側の委員諸君は、隨分長い演説をやつております。長い演説は議事の進行を妨害するものだという非難がたびたび起つております。私もそれを感ぜぬではございません。しかしながら議員に與えられたる特權、同時に少數黨に與えられたる特權は、演説のほかにはないのであります。正しい演説によつて、正しく論議を進めるときに、これをば阻止すべき何らの權利はないはずであります。(拍手)
もし必要に應じて議員が自分の主張をば演説することを、長いからというて阻止せられるということがあるなら、議員みずから自己の特權を放棄するものであります。(拍手)世界には長時間の演説の歴史はいくつもあり、十九時間に亙つて演説をしたという記録も殘つておる。現にこの壇上において六時間の演説をしたわれわれの先輩もあるのであります。演説を阻止すべき理由は何もない。少數黨は演説によつて何とか與黨の諸君の迷蒙を啓こうとしたのであります。(拍手)よけいなことは申しません。現にわれわれがこの委員會の最中に、佐竹君が修正の意見を述べまして、第百條の二を削除するということをば申し出ましたときに、自由黨、進歩黨の委員諸君は、即時に贊成したではありませんんか。
私はその内容を申し上げましよう。それは一つの政府の手落ちであると私は思うが、百條の二をば削除すると書いてありますのは、選擧が終つて、當選御禮等の行爲をばいくらやつてもよろしいという結果になるのであります。その條項がもし削除せらるるといたしまするならば、これはゆゆしきことである。當選御禮の葉書は何萬枚出してもよい、また自動車に乘つて、祝賀の宴會をいくらやつてもよい、こういうことになるのであります。でありますからして、與黨の諸君も、そうだ、その條項は削るとあるのをば、さらに削らねばならないのだと、かように異口同音に贊成せられまして、少數黨の意見は、この問題に限つては確かに通つておるのであります。だからして、言わねばわからないじやありませんか。(拍手)
諸君が議案の内容を愼重に審議せず、いい加減にお扱いになるとしたならばかような大きな過ちができまするので、これを削ることによりまして、われわれお互いは、何がしは非常にたくさんな禮状を出した、何がしは出さなかつたなどという非難を受けないで濟む結果になつたのであります。
しかしながら諸君、一方參議院議員の選擧法には、これが削られておるという事實がある。そうしますると、今囘の選擧が終つたときに、參議院議員の當選者はいくらお禮状を出してもよければ、宴會を開いてもいいのであります。衆議院議員の當選者は、二百枚以下のはり紙と自筆の挨拶状しか出されないということになつておるのであります。これでよろしうございますか。諸君、諸君に伺います。これは社會黨の提案によつて衆議院議員の方は取下げられましたけれどもが、參議院議員の方は殘つてしまつた。われわれが議案を審議するにあたりましては、いかにも愼重に取扱わねばならないという理由が、ここに明らかにせられたではございませんか。
さらに私は申し上げます。私はただいまこの委員會の推移の中に、長演説によつて選擧を妨害するからということの辯明を申したのでありまするが、それまでこの委員會場には、騷擾は決してなかつたのであります。たまたまかような説が傳わつてまいりました。二十六日に、進歩黨では、幣原總裁から、どうあつてもこの案は通さなければならないという、實に切實なる激勵があつたということが傳わつてまいりました。同時に進歩黨の諸君の中には、何とかこれは圓滿に、おとなしく、滿場一致で決議のできるようにいたしたいと、心を碎いておられた諸君も、多數あつたやに聞いておりまするけれどもが、この總裁の激勵を受けましては、感奮興起して、どうしてもこれを押し切らなければならない、もし社會黨が妨げをするならば、血を見てもこれは押し切らなければならないという激勵の演説があつたということが傳わつたのであります。(拍手)
爾來、委員會は殺氣立つてまいつた。この演説が傳わつて以來、委員會の席上非常な殺氣が加わつてまいつた。(「見てきたようなうそを言い」と呼ぶ者あり)私はうわさを申しておる。見てはおりません。さような噂が傳わつて以來、この委員會場は非常な殺氣を帶びてきた。そこで私は心配をいたしたのであります。このまま推移したならば、必ず血を見る悲慘なことができはしないか。血を見るような悲慘なことができてまでも、どうあつても押し切らねばならないほどの重大問題であるであろうかどうかを、私は切に疑つたのであります。ここに問題取扱いの公正妥當ならざるものがあり、いかにも愼重性を缺いたものがあると斷ずることに、何の不思議がありましよう。(拍手)
さらに私は、この修正案の結果現わるるであろうところの少數――ある特殊の政黨のこうむる大きな被害を思うのであります。これはもちろん選擧の結果現われるものであるならば、いかように現われようともかまいません。私は決して共産黨の辯護者でもなければ、ひいき者でもありません。現にこの演壇上から共産黨を攻撃しておる者の一人であります。
私はここで明らかにしておかなければならぬことがあると思う。坊間、いや、この議會内において、ひそかに傳えらるるところによりますると、この選擧法の修正案は、共産黨の締出しのための方便であるということであります。それはとんでもないことであります。まつたく虚構の事實と私は考えます。斷じて、そういう意圖のもとにこの案がつくられたものでないことを私は固く信ずるのであります。(「その通り」)
また傳えるところによれば、それは政府の意圖である、現行選擧法はそのままでもいいけれどもが、萬やむを得ずこうせなければならないものがあるからだ、これは天下の一大事といつたようなことが、ある側から傳えられて、やむを得ずこの修正案に贊成せざるを得なくなつた人々もあるやに傳えられておることであります。私はこれはまつたく無根のことであり、虚構のことであり、斷じてさようなことによつてこの修正案が出されたものでないことを、日本の名譽のために、議會の神聖なる權威のために、私は諸君とともに固く信じたいと思うものでありまするが、いかがでしようか。(拍手)しかしこの案がかくのごとき疑いをもたるる理由が、實はあるのであります。
それは何であるかと申しますると、この案が實施せられたならば、かような結果が生ずるのであります。昨年四月十日に行われましたる總選擧の結果は、自由黨が一千三百五十萬五千七百四十六票をもつて第一黨となつております。進歩黨は一千三十五萬五百三十票をもつて第二黨、社會黨は九百八十五萬八千四百八票をもつて第三黨、協民黨は一百七十九萬九千七百六十四票、共産黨は二百十三萬五千七百五十七票をとつておるのであります。以下は略します。
これを比例いたしますると、自由黨は總投票數の二割四分三厘を占めており、進歩黨は一割八分六厘、社會黨は一割七分七厘、協民黨は三分二厘、共産黨は三分八厘五毛という比例をもつておるのであります。もしこの比例の通りに比例選擧が行われますれば、この比例の通りなる議員の數が得られるのであります。この通りの正しい比例によつて議員の數を獲得せられたといたしますれば、自由黨は百十一人、進歩黨は八十七人、社會黨は八十三人、協民黨は十五人、共産黨は實に十八人が選擧せられることになるのであります。
ところが昨年行われましたる選擧の地域は、大選擧區とは申しまするけれども、實は全國選擧區に比べますると小選擧區であります。その小選擧區は、大選擧區に比べれば、必ず保守陣營の方が多數の票を占めて多數の當選者を出し、分散せる有權者をもつ革新陣營は、比例よりもはるかに低い當選者をみるという事實があります。これは明らかなる事實であります。
それは現に昨年の選擧がこれを實證いたしておる。自由黨は、比例選擧でいくならば百十一人でありまするが、全國選擧區に比べればはるかに小さい一府縣一選擧區、あるいは一府縣を二分したる選擧區であつたために、百四十人という多數を占めて、實に二十九人をもうけておるのであります。確かにプラスしておるのであります。進歩黨は、實際は九十四人の當選者を出しまして、七人をプラスしているのであります。社會黨は、八十三人當選すべきものが九十二人當選して、九人のプラスであります。しかし協民黨は一人のマイナスであり、共産黨は十三人のマイナスであります。
そうでありまするから、選擧區が小さくなれば新興勢力はだんだん締め出しを食い、それから保守勢力は非常に、比例以上に多數の數を獲得するという、畫然たる事實があるのでありまするからして、世間では、これは共産黨締め出しの選擧區を設定したのではないかという疑いをもつのであります。それは私は疑いであつて、斷じてそうではないと思う證據をお目にかける。現政府はさような卑怯なことはおやりにならない、決してさような不公正なことをやる意思をもつておられないということの證明をいたしたいと思う。
それは何で證明できるかというと、現に參議院議員選擧におきましては、選擧區を擴大して府縣を一選擧區といたしましたために、東京都のごときものが一選擧區となつており、さらにその上に日本全國を一選擧區としたる全國選擧區をもつて、現にただいま全國選擧區には選擧が行われているのであります。これは現内閣がやつたことであり、諸君がこの二月にこの議場において承認したる參議院議員の選擧法であります。
であるがゆえに、政府は決して小選擧區によつてある一種の人々を締め出すとか、あるいは好ましからざる政黨をば少くするというような意圖をもつておらぬ證據が、歴然としてここにあがつている。私は政府のために、この浮説、誤つたるうわさをば、ここに固く辯護いたしたいと思う。そういう意圖はない。もしかりそめにもそういう意圖がありましたならば、これは政府の大責任であります。
憲法には何と書いてあるか。憲法第十四條には、「すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社會的身分又は門地により、政治的、經濟的又は社會的關係において、差別されない。」と書いてある。この新憲法の精神に反くやうな行爲をば、現政府はとられようとは、私は夢にも思わないのであります。
私はここに實證をあげて、政府のために辯明し、世界各國の方々に向つても、私はこの壇上から、日本の政府は斷じてさような差別的なことをやつておるものでないということをば申し述べたいと思つて、實はこの壇に立つたものであります。もしさような誤りがありまするならば、またさような浮説が飛びまするならば、今後一切この問題は、さような計畫のもとに行われたものではない、もしたれかがさようなことを口實にして、そうしてこの重大問題を輕々しく取扱つた者があるとするならば、罪は取扱つた人にあると思う。その人が責任を負わなけれはならないのであります。
こう考えてみますると、今度の修正案は、これがこのまま實行せられまするならば、必ずや自由黨は大きくなるのであります。共産黨は今より小さくなるかもしれないのであります。進歩黨も大きくなりましよう。社會黨も相當にさびがついておりまするから、これも少し大きくなりましよう。われわれ小會派は小さくなります。間違いのない事實であります。
しかし私は、植原内相からたびたび、選擧區を小さくせねばならないということをば聞かされております。その理由の最も大きなものは、小選擧區でなければ政治の安定力が生れないということであります。政治の安定力を求めることは、現下の日本における最も急務とするところであります。私もどうかして政治の安定を求めたい、何とかして大きな安定性のある政黨が得たいということをば、常に念じておるものの一人でありますが、小選擧區になれば、保守的なる性格をもつた政黨が必ず大きくなるに違いない。もしそれが今度の選擧において行われまするならば、必ずや保守黨の側は今よりはるかに大きくなつて、それが政治の安定力となるものではないかと、かように考えておらるる方々もありはしないかと私は思う。
しかしこれは一つの迷妄である。これは大きな妄想であると私は斷定いたしたい。何となれば、今日數においていかに多くをとろうとも、一方的なる政黨のみによつて日本の政治が安定せないことは、現に先般來、雲の峯のごとくに起つては消え、起つては消える、あの連合内閣の計畫は何でありましよう。まさしく私はこれを證明するものだと思う。
與黨の諸君は、現に二百六十のいすを占めておられる。絶對多數であります。しかしながら絶對多數を占めながら、政治の安定性を缺いたゆえんはどこにある。すなわちその政黨のもつ性格、その政策の中に、どうしても國民を納得せしめざるものがあるがゆえに、一黨一派をもつては政治の安定性を得ることができないゆえをもつて、あの連立内閣は幾たびか企てられた、なまなましい事實があるのであります。
こういう點から申しましても、ある作爲をもつて一方的なる政黨の増大をはかつたところで、斷じて政治に安定性は得ないということを私は申述べる。私はその證據をば歴史によつて證明いたしたいと思う。日本の選擧區は既に幾たびかの變遷をいたしておりまするが、明治二十二年議會が發生した當時は、小選擧區であります。山縣内閣において、小選擧區制のもとに出發いたしたのでありまするが、これが十一年續いて、明治三十三年に、同じく第二次山縣内閣のときに、小選擧區制をとつたる山縣首相が、その小選擧區制の弊に堪えかねて大選擧區に改めたのであります。これが十八年續きまして、大正八年に選擧法の第三次の改正があり、その改正が原内閣によつて行われて、小選擧區になつたのであります。小選擧區が大選擧區に移り、さらに小選擧區になりましたが、有名なる原白頭宰相の強引なる政策によりまして、小選擧區を設定して、あらゆる干渉を行いました結果は、政友會は從來百六十五名の政黨でありましたものを、一擧にして二百七十八名をかち得たのであります。まことに日本の選擧史上における奇蹟とも言うべき大勝利を博したのであります。すなわち政友會はわが世の全盛を誇つたのであります。かくして政治はまさに安定したのであります。
選擧區を小さくし、一方的なる政黨の數を増せば、形の上においては、確かに一應は政治は安定いたしまするが、一方的なる政治の安定は、必ずや横暴を生み、必ずや國民の怨嗟を買うという必然的なる報いがくる。諸君、その結果はどうであつたか。大正十年の秋、原首相は凶刄に倒れたではありませんか。しかも續いて行われたる大正十三年の總選擧におきましては、全盛を誇つたる政友會は轉落して、わずか百六人の當選者しか得られなかつたのであります。(「委員會でやつたじやないか」と呼ぶ者あり)
私は選擧を語れば、選擧の歴史を語らざるを得ない。因果は必ず報いるものである。そうしてその當時比較的進歩性をもつておると言われて、世間に買われておりました憲政會、すなわち進歩黨の前身と言うてもよろしいでございましよう。憲政會は一擧に百五十二人をかち得て、第一黨になつたのであります。もちろんこのときも小選擧區ではありましたけれども、人心が政府を離れて、そうして野黨である憲政會は非常に苦しい中から起ち上つて、遂に第一黨をかち得たという事實がある。(「論理が一貫しておらぬ」と呼ぶ者あり)少しも一貫しておらぬことはない。小選擧區にすれば保守黨が増大するという事實がある。
この結果から見ましても、今度の修正案は斷じて政府の意圖から出たものでなく、これは保守黨の諸君が、昨年の秋以來われわれにも案を一度示し、しかもそれが成立せず、議會にかかわらず、また關係筋の承認も得られないために、今日までむし殺しになつておつたものを、ようやく途を開いて、閉會間際にとつさに、しかも強引に、陰謀的に提出せられたる案であると斷ずることに、何の不思議がありましようか。
諸君がその責を負わず、實はわれわれの提案ではないというようなことを、誤つても言わるることがあつたならは、それは責を政府に負わすものであります。まさしく今度の案は、保守温存の陰謀的計畫のもとに行われたる、與黨の暴案であると私は斷ずるものである(拍手)
私は、この際いささか私の所見を申し上げておきたいと思う。世の中には、非常に共産黨のきらいな人がある。私もまさにその一人でありますが、しかしながら議會政治というものは、その國にある思想、その國にあるところの政治的なる主張をもつ者を、そのままそつくり正しく議會に移して、これをば言論の上に爭わせなければならない性質をもつているものである。もし誤つて、ある黨派は好ましからずとし、議會の門に垣根をつくつて、あるものは入れる、あるものは入れないというような、かような偏頗なことが行われたとしましたならば、一體その結果は何でありましよう。
たとい共産黨を好ましからざる政黨と斷ずる者がありましようとも、わずか五人や六人の共産黨がここに議席をもつて、一體何をしましようか。私は議會そのものの性格から申しましても、議會そのものの使命から申しましても、民主主義の國における議會そのものは、冷靜に、公平に、あるべき政黨、あるべき思想をもつ人々を、當然議會に集めて論議すべきものであつて、これを締め出して、一方的にある人々によつてのみ國事が論ぜられるといつたような不公正なことがあつてはならないと思う。(拍手)
私は議會政治の神聖なる原則に從つて、かように申すのであります。でありまするがゆえに、共産黨の諸君が、わずか五人や六人ここに議席に著いたからといつて、何ら一點非難すべきことはない。私は昨年以來一箇年の經驗に過ぎませんけれども、共産黨からこの議席において脅かされたる、ただ一つの事實もない、覺えもない。むしろ徳田君のあの咆哮が、大いにわれわれの眠りをさましてくれる。實に愉快なる存在であつたことを認めるものであります。(拍手)
また野坂君の冷靜なる、あの論理的な演説が、いかに鋭いものであらうとも、この議會には何らの影響をも與えてはおりません。交渉團體にすらも加えられてはいないのである。しかしながら、この議會という革命に對する安全辨の蓋をしたならば、もしこの人々を締め出して、これを門外に追い出したならば、一體諸君どうなると思う。徳田君が赤旗を振つて何十萬のゼネストを指導したとするならば、われわれは一體いかなる脅威を感ずるでありましようか。
本來――諸君、まじめにお聽きください。これは原則であります。議會政治の原則であります。あるべきものを議會に集めて論議を盡すことが、議會政治でありまするがゆえに、議會は公正にあらゆるものをばここに入れなければならないのであります。そこに議會の革命に對する安全辨がある。(發言する者多し)
私は、であるがゆえに申しておる。今度の修正案が、社會黨や共産黨をば締出すというような、愚かな考えをもつて出たものではないということをば、この議場で證明するために申しておる。
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=42
-
043・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=43
-
044・松原一彦
○松原一彦君(續) しかし私は、それでは諸君に問う。諸君、私にひそかに話した人が、現に此處に幾人もおるじやないか、この議案はどうしても通さなければならないと‥‥。それを信じて、心ならずとも現行選擧法で一應は行つて、改めて新國會において愼重に選擧法をば考えねばならないという、十二分に心の中にはそれを信じておる人がありながら、それはいかないと教えられて、そうして心ならずもこの杜選なる修正案に贊成した諸君があるじやないか。(拍手)もし諸君にして一片の政治的良心があるならば、日本の憲政を護るために、今少しく冷靜に顧み給え。(拍手)
私は今まで、この修正案に公正妥當ならず、合理性を缺いておるということをば申したのでありますが、まことに合理性を缺いておるものであることをここに論證いたしまして、反對の理由といたしたいと思うものであります。
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=44
-
045・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=45
-
046・松原一彦
○松原一彦君(續) 今囘與黨の諸君が急遽提案せられましたる修正案は、大選擧區ではいけない、中選擧區でなければならないと言われるのでありますが、ここには何らの變えねばならない證據はないのであります。
小選擧區は一人一選擧區が原則ではありますけれどもが、今日のごとく全國をもつて一選擧區とするような擴大せられた時代におきましては、五人以下の選擧區はまさに小選擧區であります。交通が發達し、ラジオが行われている今日、五人以下の選擧區が小選擧區的性格をもつものでないとたれが斷ぜられましよう。由來あらゆる方面でもつて論じ盡されておりまするところの小選擧區のもつ造弊は、今度の中選擧區においても共通して現われるであろうことを、私は信じて疑いません。その小選擧區に現われる弊害とは何でありましようか。私は以下申し述べたいと思う。
第一は、多數者の求むるところの候補者が當選しないという事實であります。小選擧區においては、かような事實があるのであります。諸君、私は委員會においても、小選擧區論者である植原内相に申したのでありますが、ここに百人の有權者がある。小選擧區において三人の立候補者があつたとしたときに、甲は三十五票をとり、乙は三十四票をとり、丙は三十一票をとつたときに、三十五票が當選するのであります。從つて甲は三十五人を代表するものでありまするが、殘りの有權者六十五人は、ついに代表者を出すことができないのであります。
諸君、選擧は多數の者の意見を代表するものでなくてはなりません。しかも百人中三十五人の意思のみが選擧に代表せられて、殘り六十五人が代表せられないとしたならば、一體いかなることが起りましようか。
〔「それは知事の選擧だ」と呼び、その他發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=46
-
047・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜粛に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=47
-
048・松原一彦
○松原一彦君(續) 知事とは違います。北さんともあろう者が、議員の選擧と知事の選擧と間違えられる道理はありません。
議員は、あるべき國民のすべての代表者でなくてはなりません。であるがゆえに、三十五人の意思を代表する者があり、三十四人の意思を代表するそれより少い者があり、三十一人の意思を代表するさらに少い者があつてよろしい。これが比例選擧の要求せらるるゆえんであります。それでなければ、多數代表の専制となり、少數代表の意見は公正に議會には現われないという大きな缺點がある。(「餘りに低脳過ぎる」「わからぬことを言うな」と呼ぶ者あり)いかに低脳であろうとも、私には言論の權利がある。
また小選擧區には、非常に多くの死票が生ずるという事實がある。ただいま申し上げましたように、小選擧區は、一部の人々の當選を得ることはありまするけれどもが、多數の人々の死票が殘るという大きな缺點をもつている。これを例證してお目にかけたいと思う。
〔「いい加減にせぬかい」「やれやれ」「默つていろ」と呼び、その他發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=48
-
049・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=49
-
050・松原一彦
○松原一彦君(續) 私は選擧區が大きくなれば死票が少くなり、選擧區が小さくなれば死票が多くなるということの例證をあげて、御説明申し上げたいと思う。
明治四十五年五月に行われました第十一囘の總選擧においては、一割八分七厘の死票しか現われておりません。これは大選擧區であつたのであります。續いて行われましたる總選擧には、二割二分六厘、さらにその次には二割三分一厘の死票に過ぎなかつたのでありまするが、原内閣時代、すなわち政友會内閣時代におきましては、小選擧區になつたがために、大正九年には三割一分五厘の死票を出し、同じく十三年五月に行われましたる第十五囘の總選擧におきましては、三割八分四厘という、過去に見ざる大きな死票を出したのであります。これも小選擧區のもつ大きな弊害の一つであります。
〔發言する者多く、議場騷然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=50
-
051・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=51
-
052・松原一彦
○松原一彦君(續) さらに小選擧區におきましては、大きな人物が現われず、議會の人物がどうしても小さくならざるを得ない事實がある。これは諸君も御承知の通りである。選擧區が小さくなればなるほど、情實因縁が多くなる。地方にあつて地方の世話をするようなまめな人々が多く當選し、知名の大人物が非常な苦戰に陷つて落選するといつたような事實は、數うるに暇がない。現に高橋是清氏が落選し、尾崎行雄氏が非常な苦境に陷つておる。北先生のごときも、おそらく隨分苦しい選擧をおやりになつたと思つておる。もし今囘のごとき、あわただしく選擧區を縮小するようなことがありましたならば、おそらくこれは今日までほとんど絶えたかと思われましたところの買收の弊害のごときも、あるいはまた起らざるを期せないと私は思う。選擧の弊害は、大きくなればなるほど少いのであります。これは嚴然たる事實であります。その他は、私は今數えることをやめます。
さらに今囘與黨の方から、連記制はいけないということがしきりに叫ばれておる。その理由はいろいろあげられておりまするが、私は取るに足らない理由であると信じます。どうしても單記制でなくてはならない理由は、私はいまだかつて聞きません。その理由をば私はここに申し述べたいと思います。
植原内相は、甲の政黨の首領と、その反對の政黨の首領とを竝べ書いたものがある、まことに噴飯すべきことである、これは白と黒の石を一緒にして碁を打つようなものであると言われたのであります。もしそういう事實があれば、そういう判斷を下すことができるかと思いますが、この春、現内閣が内務省においてつくりましたところの一つの選擧法は、おそらく關係筋においても諒解せられたと思うものでありまするが、あの選擧法は中選擧區完全連記制であつたことを、私は承知いたしております。現内閣はこの二月には、完全連記制の構想をもち、これを關係筋にも質して、政黨法とともに諒承を得ておるものと私は信じておる。
その時分に私はこう思つた。私どもの縣において、私どものごとき小黨は、おそらくこの春においても、わずか二名か四名しか立てないであらう。その時分に五名書かねばならないとなつた時に、私はだれを書くかであります。私は公正に考えて、私は自分の黨派から立つておる者は書きまするが、もし餘白がありましたならば、芦田先生を一人入れるでありましよう、またさらに片山哲先生を一人入れるでありましよう。片山先生と芦田先生とは黨派を異にしておるものではありまするが、私は議會には黨派を異にする人がおらねばいかぬと思うのであります。一方的の政黨があつてはならないと思う。今の日本の民度において、またさらに進んだる自由主義者は、斷じて一方的な投票はいたしません。私どもは健全なる反對黨をば求むるものであります。かるがゆえに黨派を違えた者をば連記したといつて、何も憤飯すべきものではない。連記制を否認する理由とはならないと私は申しておるのであります。
第五には、私は今度の修正案は進歩的でないと斷ずるものであります。何となれば、選擧區の歴史の變遷のあとを見ますれば、日本の選擧區は小選擧區から大選擧區となり、さらに小選擧區となり、普通選擧施行と同時に中選擧區となり、さらに昨年の春からは大選擧區となつた。その上にこの二月には全國的選擧區までも設けられ、だんだんと選擧區は擴大の一方に進んでおるのであります。これが歴史的の進運であります。それは現内閣の構成においても是認せられたる、現内閣が責任をもつて行われねばならないところの、現行選擧區法制度であつて、現に諸君が贊成してつくられたるところのこの參議院選擧法であります。
かくのごとき嚴然たる事實がありながら、このせつぱつまつた際において、愼重なる審議も行わず、一擧にして囘れ右をする中選擧區に移すところに、どこにこの制度の進歩性があるか。私は進歩性があるならばお示しを願いたいと思うのであります。斷じて進歩性があるのではありません。
私どもは、今日の選擧にもし弊害があるといたしましたならは、それは官僚が選擧に干渉することをば、まず第一にやめねばならないと言うのであります。私ども今日まで多年悩み拔いてまいりました弊害の一つは、官憲がややもすれは選擧のたびごとに干渉を行うということであります。しかしながら私は、幣原國務相に對して、禮讚の辭を奉りたいと思う。私は長く選擧を見てまいりましたが、昨年の四月十日に行われたる選擧のごとき明朗なる選擧は、まつたくなかつたのであります。警察官はいかにものびのびと選擧の取締りをやりました。選擧は官憲の干渉なく、いかにも立派な選擧であつたのであります。日本に選擧始まつて以來五十九年、幣原國務相が總理大臣であつたときのごとく‥‥発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=52
-
053・山崎猛
○議長(山崎猛君) 松原君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=53
-
054・松原一彦
○松原一彦君(續) いかにも‥‥。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=54
-
055・山崎猛
○議長(山崎猛君) 反對の論旨をお進め願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=55
-
056・松原一彦
○松原一彦君(續) 議長の御注意でありましたから、反對の理由を申し述べます。
その幣原總理大臣が、御自身において自信をもつて、責任をもつて、進歩的現行選擧法を制定しておかれながら、わずか一年を隔てずして再び、あるいは官憲の要望の結果ではないかと世間に疑わしむるような、かくのごとき選擧法の提案を總裁として出されたことを、心から遺憾に思うものであります。(拍手)‥‥‥
さらに私は、諸君、
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=56
-
057・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=57
-
058・松原一彦
○松原一彦君(續) 私はこの修正案に反對するがゆえに、幣原國務大臣にお尋ね申し上げたい。この修正案を委員會に提出した際に、小澤氏は提出者としてかように申しておる。現行選擧法は、選擧に經驗なき官僚の机上の空想に築かれたものであるからして、まつたく價値なきものであるという説明であつたのであります。
そこで私は幣原國務相にお尋ね申し上げたい。(「質問か」と呼ぶ者あり)いや質問ではない。私はこれは重大なる責任問題であると思う。諸君、これが重大なる責任問題でなくして何であるか。一昨年の冬に制定せられましたる、幣原内閣當時の選擧法は、選擧に經驗なき官僚の机上の空想であつて、今日一刻も生かしておくことのできないほどに修正を要しなければならない重大缺點をもつものであるならば、その官僚の空想の上に選擧法をつくらして、これをば實施したる責任を幣原國務相はおとりにならねばならない。これが政治道徳に背くものでなくて、何でありましようか。(拍手)いかにも矛盾きわまりなきものである。これがわからないですか。諸君、どうしてこれがわからないのか。(發言する者あり)
私は先刻から、政府のために、政府の意圖から出たものではないと申しておりまするから、政府のために辯護をいたしておる。しかしながら、かくのごとき矛盾のあるものをば、幣原國務相が恬然として、しかも激勵して、自己の‥‥‥。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=58
-
059・山崎猛
○議長(山崎猛君) 松原君、松原君、あとに四人通告者がありますから、反對の趣旨を簡單に説明せられんことを望みます。
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=59
-
060・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=60
-
061・松原一彦
○松原一彦君(續) それならば、私はさらに諸君に聽きたいと思う。(發言する者多し)提案者に聽くのに何が惡いか。提案者は‥‥‥。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=61
-
062・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=62
-
063・松原一彦
○松原一彦君(續) 自由、進歩兩黨は、本年の二月に、何ゆえに參議院の選擧に大選擧區制をとつたのでありますか。(拍手)參議院選擧には大選擧區、しかも超大選擧區、全國的選擧區をとりながら、どうして今日現行選擧區をば、そうまで急に縮小しなければならない理由があるのか。これが大きな矛盾であるのだ。
諸君、今囘の共産黨の提案は、全國選擧區であります。共産黨の提案である全國選擧區と同じ選擧區を、現内閣は本年二月につくつておるではありませんか。(拍手)それならば、なぜ諸君は同じ國會の議員である參議院議員を選擧する選擧のその直前に、參議院議員選擧法の修正を申し出られなかつたのでありましようか。これが矛盾でなくして何でありますか。どうしてこれが矛盾でないか。(「討論でないじやないか」と呼び、その他發言する者あり)私は討論をいたしておる。討論以外の何ものもいたしておらぬ。
さらに第七は、かくのごとき強引なる陰謀的修正案を、この重大議案山積せる終末の議會に持出して、しかも議場に血を見るも押しきつてしまおうとするごとき暴戻なることを、數の威力において遂に通したというがごとき惡例を、議會史に殘したくないのであります。これが惡例でなくて何でありましようか、諸君。(拍手)間違つてもこれが通つたならば、わが神聖なる議會史は、一つの大きな惡例を永遠に殘さねばならないのであります。(拍手)どうしてそれがおわかりにならないか。みずから議會を冒涜するものでなくて何であろう。
私は結論を申し上げます。私は諸君がいかに怒號せられようとも、冷靜にお考えになり、いやしくも一片の政治的良心があるものである限り、斷じてかくのごとき無謀なる提案に贊成せられる道理はないと思う。(拍手)私は日本の議會を重んじ、新憲法の精神を尊重し、愼重重大に選擧を取扱いたいために、その結果がいかになりましようとも、あらためて來る國會においてこの選擧法の修正を論議し、すべてのものの納得のいく結果を得て實行しても、何ら一點差支えはない。萬やむを得ず、私どもはこの修正案には反對しまするが、しかしできた結果が、これと同じものができるかはわかりません。
私は必ずしも大選擧區のみに膠着するものではない。時の變遷により、あるいは社會の實情によりますれば、いかなるものができてもよろしいが、このせつぱつまつた際には、一應現行のままでやつておいて、改めて愼重なる研究を積まれんことを切に諸君に要望して、私の反對意見を終るものであります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=63
-
064・山崎猛
○議長(山崎猛君) 淺沼稻次郎君。
〔淺沼稻次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=64
-
065・淺沼稻次郎
○淺沼稻次郎君 私はただいま議題になつておりまするところの衆議院議員選擧法の一部を改正する法律案に關する委員長報告に對しまして、岩本委員長の報告に贊成をし、山口委員長の報告に反對をするものであります。(拍手)すなわち十八名を委員といたしますところの委員會における修正の部分竝びに政府原案に贊成をいたしまして、大野伴睦君ほか一名提出の修正案に反對をするものであります。(拍手)以下要點を述べまして各位の御贊成を得たいと存ずるものであります。
選擧法を論ずるにあたりまして、お互いはいま一應、前々議會においてお互いが審議決定をいたしました日本国憲法の、國會竝びに國民の基本的權利に關しますところの終章を見て、その上に論議を進めていきたいと思うのであります。
憲法前文には、「日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動し」、こう述べております。さらに国民の權利及び義務の條章において、「第十五條公務員を選定し、及ばこれを罷免することは、國民固有の権利である。すべて公務員は、全體の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する。すべて選擧における投票の祕密は、これを侵してはならない。選擧人は、その選擇に關し公的にも私的にも責任を問はれない。」と規定してあります。
さらに國會の條章には、「第四十一條 國會は、國權の最高機關であつて、國の唯一の立法機關である。」、「第四十二條 國會は、衆議院及び參議院の兩議院でこれを構成する。」、「第四十三條 兩議院は、全國民を代表する選擧された議員でこれを組織する。兩議院の議員の定數は、法律でこれを定める。」、さらに内閣の條章において、「第六十七條 内閣總理大臣は、國會議員の中から國會の議決で、これを指名する。」、こういう規定があるのであります。
從いまして選擧は、その公務員を選定いたしますところの國民の基本的權利の行使であります。それをきめておるのがこの選擧法であります。さらに國會が重大なる意義をもつて國家の最高機關として決定され、しかも國民が投票して選んだ國會議員が集まつて、總理大臣を指名議決いたしますところの重大な任務をもつておりまする國會を構成するその構成法であります。從いまして、これが審議にあたりましては、非常なる愼重な態度をもつて臨まなければなりませぬ。その審議は愼重であるばかりでなく、國民の納得する方途が講ぜられなければならぬと思うのであります。(拍手)特に審議にあたりましては、先ほど定數を缺くがごとき状態がありましたが、これは國民に對する、私はこの重大法案を審議いたしまする議員の態度では、斷じてないと思うのであります。(拍手)。(「それは社會黨じやないか」と呼ぶ者あり)
政府は四月二十五日に總選擧執行という日取りを發表しております。私どもには選擧を前にいたしまして選擧法を改正しなければならぬという理由が明確でないのであります。私どもの了解に苦しむところであります。先日同僚鈴木義男君も引用されたのでございまするが、三月二十七日の朝日新聞の評論に、「選擧を目の前に控えて選擧法を改正しようというのは、試合直前にグラウンドの入口でルールをかえようと爭うにひとしい。ルールが惡いならかえるのもよいが、去年の總選擧から既に一年近くの時日が經過しているのに、いざ選擧という時に土俵ぎわで、土俵が廣い狹いと、投票者を待たせて論議に日を暮している形だ。この流儀でいくと、試合ごとにルールが變更されるという風潮にならぬとも限らぬ。中選擧區單記制そのものがいいか惡いかは別として、會期の終點まぎわでのこうした提案の仕方が、民主的かどうかと疑われるのである。」こういうのが載つておるのであります。正しく私はその通りであろうと思います。この案の取扱い方が非常に非立憲的に扱われておるということを、私どもは遺憾に思うのであります。(拍手)從いまして案の取扱いの觀點より、私は本案に反對せざるを得ません。
選擧法の一部改正に關する法律案は、十三日に本會議に提案されまして、十四日に委員長、理事の互選を行いまして、さらに十五日に質問をやりましたのち、二十日まで休憩をいたしまして、二十日に再開をされておるのであります。しかも二十日に再開をしてから質問を打切りまして、さらに討論にはいりましてから、優に六日かかつておるのであります。討論にはいりましてから六日かかるということは、未だかつてない前例でもあろうと私どはも思うのであります。
なぜそういうような状態が出てきたかと申し上げまするならば、提案されてありまするのが一部改正に關する法律案であります。從いまして委員の側から申し上げまするならば、その後の方に選擧法という大きなものがあるに違いありません。しかし委託を受けましたのは、一部改正は關する法律案であります。それを原案といたしまして私どもは審議を進めればよいはずであります。しかしいろいろ議論としておるうちに、この一部改正案に關連をいたしまして、いわば頭の出ておるところの改正案は、一部改正で頭であります。
胴體全體に關して大きな改正を加えようとする案が出るような傾向が見受けられてまいりました。これでは非常に非立憲な行動でありまして、委任されたものは一部改正の原案であります。しかもその本でありまする選擧法を改正する。この點から申しまするならば、何もそのことは私は合理的でないというのではありません。その點は議員には發案權があるのでありまするから、その委員會において決定したものに對して、本會議の席上において修正することもあり得るのであります。また前例なしとはいたしません。
しかしながら今は政黨政治の時代でありまして、委員會の構成というものは、少くとも政黨を代表いたしまして、政黨の代表者により委員會を構成されておるのであります。從いまして修正の意見がありまするならば、その委員を通じて修正案の提出をなして、それで委員會で愼重審議を行つて本會議に報告とくるのが、私は政黨のとるべき立憲的行動でなければならぬと思います。私はさよう考えるのであります。
しかし出てまいりました案は、一部改正案でありまして、私どもはそういうような行動をとつてもらいたいということをたびたび要求をいたしました。先ほども議題になつたのでありまするが、懇談會を開きまして、懇談會の席上において、われわれは案の内容については疑問をもつておる、しかし案の取扱い方においては少くとも立憲的にやつてもらいたい、立憲的にやるためには、修正案をこの委員會に出すか、そうでなければ單獨法案として本會議の席上に案件を出して、四十五名くらいの大委員會を組織して、その中において民主的にこれを行うことが當然なさなければならない、ぜひやつてもらいたいということを望んだのでありまするが、容れるところとならずして、この本會議の席上にまいりましたところが、修正案が出てまいつたのであります。
委員長岩本君は、少くとも自由黨出身の委員長であります。委員長としては自由黨の代表者ではないけれども、自由黨から出た人であります。しかもその中には、自由黨、進歩黨を含めた委員がおるのであります。從つて委員長の報告に對してさらに修正を加えるということは、自己の出した委員に對して不信任的な態度を示すということになつて、明らかに政黨政治の否認的傾向であります。(拍手)
そういう工合に、しかも出た案件を委員會に今度付託をいたしました。いまだかつてこの前例はありません。一旦出ましたところの修正案を、さらに委員會に付議したという前例はないのであります。もしこれが許されるということになりますれば、どの案件についても、もう一遍修正案に對して、それを委員會に送るということをやつておつたら、何遍やつたつて協議はつきないという結果になるのでありませんか。(拍手)
この點が、私は案の取扱い方におきまして、非常に立憲的でないというのであります。少くともこの選擧法というような、先ほど私が朗讀いたしましたような、重大意議をもつ法案、しかも新憲法制定によりまして、國會は總理大臣を指名議決するの重大なる任務を受けなければならない。しかもその總理大臣を指名議決するのは、衆議院議員として選ばれてその行動をとるのであります。その根本を決めまするところの選擧法であります。從つて非常に愼重なる態度をもち、しかも案の取扱いにつきましては、立憲的になさなければならぬのであります。しかも同じ黨派から出ました委員長報告に對して、一つは贊成の意思を表示し、一つは反對の意思表示をしなければならぬということは、私どもといえども非常に苦しい立場であるということは、御諒承願いたのしであります。(拍手)
〔議長退席、副議長著席〕
次には、この案件の取扱いに對しまするところの政府の態度であります。これが不明朗であります。この點が私が本案に反對をいたしまするところの第二の點であります。どういう點が不明朗であるかと申し上げまするならば、委員會において、私どもはたびたびこの案件に對する政府の態度を伺いました。先ほどもこの席上において、われわれの同僚原君が幣原國務大臣竝びに植原内務大臣に對しまして、本件に對する政府の態度を伺つたのであります。政府は、この案が通過いたしまするならば、同意の意味を表示しておるのであります。
私どもは議員といたしまして、まさに議案審議に對して行動中であります。われわれの行動の終らぬうちに、政府みづから政府の態度を表明して、この案件に對してわれわれは同意だということは、明らかに行政府の壓力をもつて、われわれ議員の政治に對する一つの束縛を加えたものといつても、斷じて私は過言ではないと思ふのであります。(拍手)未だかつてこういうことはございません。
しかもその答辯の内容について申し上げてみましよう。先ほど伺つておりましたところが、これは委員會におきまするところの植原さんの答辯と同樣であります。植原内務大臣に、一體政府は選擧法を改正しなければならぬというなら、なぜ選擧法を政府獨自の立場において提案をしないかと伺いました。これは私は政府が提案するのが當然だと思うのであります。
その席上において、現行法に缺員がある、從つて中選擧區單記制が最もよいと思う、こういう言明をしております。またこの前私が議席より質問をいたしました際におきましても、同樣な答辯をしておるのであります。すなわち中選擧區單記制は、小選擧區制を理想として、その過渡的制度としてよい、こう言つておるのであります。また幣原さんは、委員會におきまして、この修正案が出たら婦人が出られないようなことになる、こういうようなことを伺いますと、それを阻止する意思はない、まだ出られます、こう言つておるのであります。
二人の答辯を聽いておりまして、明らかにこれらの方々が提案者であるといつたような感じを私はもたざるを得ませんでした。提案者なら、この政權――只今の政府は自由、進歩の共同政權でしよう。自由、進歩の共同政權でありますならば、自由、進歩のもつておりますところの政策を、政府を通じて實行することが、自由、進歩を代表する閣僚の態度でなければならぬと私は思うのであります。從いましてその政策實行は、政府が案に同意するの態度を示すまでは、自由、進歩のもつておるところの政策を、政府みずからとりあげて、政府の發案權において、われわれ議員に問うのが政府のとるべき態度でなければならぬと私は考えております。すなわちそうでなければ、この内閣の性格は、戰時中の内閣と同じような官僚超然内閣ということになります。
官僚超然内閣でありますならば、それは何をか言わんやであります。少くとも自由、進歩兩黨の連合政權でありますならば、自由黨、進歩黨のもつておるところの政策を、政府みずからとりあげて、その政策を實行することが、吉田内閣に與えられた使命でなければならぬと思うのであります。その行動をとらざるところに、政府の態度に不明朗さがあります。政府の態度の中に不明朗さがあります。何らか政府は與黨との間において話合いをつけながら、自分が提案するよりかも、自進兩黨の共同提案の形においてやつた方がいいというような感じを私ども受けるのであります。
現にその作成につきまして、私は委員會におきまして質問をいたしました。政府はこの案の作成竝びに提案に對して關與しておりはしないか、もし關與しておるということになれば、これは重大な問題であると私は申し上げたのであります。
新聞の傳うるところによりますならば、問題が紛糾しました際に、閣議の席上に兩黨幹事長竝びに議長を招致して、政府は原案でいくということをきめた、こう言つておるのであります。少くとも閣議の席上に、幹事長竝びに議長といつたような、閣議構成以外の人がはいることはあり得ない。でありますから、私は新聞は信じませんでした。しかし何らかの形において、懇談會が開かれておるでしよう。そうしてその席上において、原案でいこうということを確かに申合せたに違いないと思うのであります。惡い意呼において考えれば、ここにおいても政府と與黨とは一體になつて、そうして原案というものをもちつつ進んできたということの疑をもたざるを得ません。
それからもう一つは、この案の作成にあたりまして、植原内務大臣に、關與しておりはしないか、關與しておるように考えられるが、政府はどうかと問いましたところ、政府としては關與しておらない、こう言はれました。政府という制度についても相當議論があるが、少くとも政府としては關與しておらない、しかし下僚の中には相談にあずかつた者があるかもしれない、あとで打消しましたけれども、下僚で相談にあずかり、これに關與した者があるかもしれぬと承つたときに、私は唖然としたのであります。(「どうでもいいぢやないか」と呼ぶ者あり)どうでもよくはないのであります。こういうことは、非常に重大な問題でありまして、そういうような政府の處置が、私どもには納得できないのであります。
私は、この案に對しまするところの政府の態度について考えてみまするならば、政府は當然選擧が終了いたしましてから、現に一年にもなんなんとしておるのでありまするし、たびたび内務大臣に伺いますというと、政府みずから選擧法の缺陷は承知しておりまして、それぞれ案をつくつておるということも、われわれ聞き及んでおるのであります。また政府においては、法制審議會をつくりまして、憲法附屬の法典につきましては、法制審議會の議を經て、政府發案の形において、これをこの議場に問うておるのであります。しかるに選擧法においては、一遍もそういう會合が開かれておりません。
私は、少くとも政府がほんとうに過去に行われましたところの選擧に對して批判をして、みずから發案權をもつて提案しようという試みがありまするならば、いわゆる與黨の出しまするところの修正案に便乘せるにあらずして、みずからの手において、貴衆兩院議員竝びに學識經驗者、さらには人民の代表も加えて、そこに一つの案をつくつて、公聽會等を開いて、それから十分審議した結果これを出すということが、私は政府のとるべき態度でなければならぬと思うのであります。(拍手)しかしその措置がとられなかつたところに、私はこの案の不明朗さがあるということを考えなければなりません。
殊に私がこれを強調いたしまするゆえんのものは、今囘行われますところの選擧は、終戰二年目の選擧であります。しかも參議院議員選擧、その他地方選擧は開始されつつあります。この選擧は、世界環視の中に行われるのであります。この選擧を通じて一體日本はどれだけ民主化されるであろうかというので、世界の關心は日本の選擧に集まつておると思うのであります。
その選擧を執行するルールというものが、與黨、政府の話合いによつて、議事の公明を缺き、さらには委員會の運用等におきましても、納得のできないようなことをやつて、そのルールの上に選擧が行われたということになりまするならば、日本民主化のために大きな汚點を遺すものであろうと言つても過言ではありません。私もそういうような觀點よりいたしまして、第二點に、政府が本案にとりました態度は非常に不明朗であるということよりいたしまして、本案に反對をするものであります。
第三點は、提案の理由竝びに案の内容に入るのでありまするが、提案の理由は、私どもには明確でありません。先ほども山口君は、情勢の變化という言葉をもつて、提案者はこれを説明されたと言つております。情勢の變化という表現だけでありまして、具體的に提案者より承りましたことは、小選擧區、大選擧區、中選擧區の利害得失であります。さらに制限連記に對しますところの批判であります。これがいけないから、それで修正案を出すということであります。しかし情勢の變化ということにつきましては、提案者から説明がありません。
少くとも選擧法の改正というものは、現に日本においては民主革命が進行中でありますから、日本の民主化をはかるには、一體どういうような選擧法がいいかということが、客觀的な立場で、なければならぬのであります。これなくして、ただ漫然としてこれを變えるわけにはまいりません。少くとも日本の民主化ということを目標として、いかなる選擧法を採用することによつて、日本の民主化が行われるかということが、私は前提條件でなければならぬと思うのであります。
この點につきまして、提案者に尋ねたのでありまするけれども、提案者には明確なる答辯もございません。言われましたのは、小選擧區のもつ弊害―選擧區が倭小で、地方的人物が出る、選擧鬪爭が激甚で、買收が盛んである、官權の濫用干渉がかつて行われた、しかしこれはなくなるであろう、四番目に議員の行動が地方的になりやすい、この弊害をあげております。
大選擧區制に對しますところの弊害といたしましては、府縣の區域の廣狹の差、さらには選擧區域が廣いから運動が困難である、選擧運動の費用がかさむ、しかし中選擧區は、小選擧區の弊害と大選擧區の弊害を併せてとつて、それで中庸を行くなら中選擧區はいい、これが提案の一つの理由であります。しかしこの提案の理由は、選擧の方法に對しまするところの提案の理由であつて、ここに區制を變えなければならない提案の理由は、私どもは了解しかねたのであります。
さらに制限連記の問題につきましては、こういう缺點をあげておる。投票に對する熱意がない、選擧人は政策の異なる黨派に投票する、制限連記により比例代表の意味は實現できない、この三つの弊害をあげておつたのであります。これに對して、私どもは篤と質問をし、その言わんとするところを聽かんといたしたのでありまするが、結果において了承しかねたのであります。時間がありませんから、十分論議を盡すわけにはまいりませんでした。
たとえば今度改正になりますところの中選擧區案というものは、三人ないし五人の案であります。中選擧區案につきましては、四人ないし七人案もあるでありましよう。いろいろの案があるでありましようが、三人ないし五人案でありまして、小選擧區制の擴大されたものであります。いわば三人ないし五人の選擧區と小選擧區とは、割合に近いのであります。さらに大選擧區制と中選擧區制との間におきましては、また現行のものからいたしましても、四名ないし七名という案もあり得るのでありますから、そういうようなことになりますと、三人ないし五人に至るには、まだ一つの段階があるのであります。
從いまして、この中選擧區制の修正案というものは、いわば小選擧區制の擴大されたものでありまして、この中選擧區制でいく限りにおきましては、小選擧區制の弊害をそのまま、取入れてまいります。この中選擧區によつて、一體提案者の望むような人が出て、そうして小選擧區のもつ弊害である、選擧區の倭小のために地方的人物が出る、選擧鬪爭が激甚で買收が盛んだ、議員の行動が地方的になりやすい、この點から申し上げまするならば、私はこれと同じような弊害が、中選擧區制にも伴つてまいると思うのであります。ちつともこれによつて弊害は除去せられるものではありません。
さらに大選擧區制の弊害をあげておりますけれども、區域が廣いために費用がかかるということは、選擧の方法に徹底的公營を期しておらないからであります。選擧運動というものが公營という手段をもつて行はれまするならば、大選擧區制におきましても、その運動は十分行えまするし、さらに加えまして選擧費用は絶對にかからぬということになりまして、大選擧區制が惡いと言いながら、これに對して救濟方法は講ぜられておらないのであります。ただ惡いと言う。この點につきまして私どもどうしても納得がまいりません。
さらに制限連記の問題であります。およそ將來の政治、現在日本に行われておる政治、さらに將來に對する日本政治の動向を考えてみまするならば、議院内閣責任制が確立した以上は政黨政治が中心であります。從つて政黨が投票の對象にならなければなりません。その政黨を投票の對象といたしまして行われる選擧の方法は、何が一番いいかということになりますれば、われわれは撤囘をいたしましたけれども、大選擧區比例代表制が一番いいと考えておるのであります。
すなわち大選擧區比例代表制というものは、選擧の對象というものが個人ではございません。その對象は政黨であります。政黨を對象として單記移讓式のものになつてまいるのでありますから、少くともこれでなければならぬと私は考えるのであります。理想的に言えば、全國を一選擧區といたしまして、そうして比例代表制を採用することが、私は最も理想的なものだと考えるのであります。しかしそれは理想論であつて、現實にあてはまりません。從つて私どもは現實に一番あてはまる方法としては、大選擧區比例代表制という方法をとるのであります。
しかし現在施行されておりますところの大選擧區制限連記制なるものは、この前の幣原さんが首班たりし内閣の時代において、理想としては大選擧區比例代表制がいいのであるが、次善の策として、比例代表を含めた制限連記制をとるということを表明されて、これが採用になつておつたのであります。從つてこれの對象は政黨であります。
ところがこの弊害に對して、投票に熱意がないと言つております。私は投票に熱意がないというようなことは考えられないのでありまして、だれでも自分の投じまする投票は、少くともその投票を通じて、自分が國民主權、人民主權の立場に立つて、自分のもつた統治權を行使するというこの熱意に燃えて投票されるのだと思うのであります。斷じて熱意がないなんということは、言えないと思うのであります。
ところが提案者いわく、甲の人間は熱意に燃えて書くが、乙の人間は熱意に燃えて書かない。私はそういうことは、選擧民に對する一つの侮辱であると思うのでありまして、選擧民は、投票した人を通して自分たちの考えておることを政治に反映するという熱意に燃えて、投票されることだろうと思うのであります。斷じて熱意に燃えておらぬということは了解しかねます。
さらに選擧民が政策の異なる黨派に投票するということ、これは日本におきまするところの現在のような民度におきましては、やむを得ないと思うのであります。今まで日本の投票の對象というものは、政黨であつたり、個人であつたり、あるいは兩方が混合されてきたのであります。政黨と限つておりません。投票の對象は、政黨もいいが、個人もいい。對象が二つでありますから、自然投票の上において、鳩山さんと書いて、わが黨の山口靜江を書くということも、これはあり得ることだと思います。御婦人の中にそういう人があつたこともあり得ることだと思います。また自由黨の人を書いて、共産黨の人を書くということも、私はあり得ることだと思います。
それは要するに、政黨の政策にも贊成するが、それと同時に、あの人ならばという、政黨と個人と混合の形において投票を行使してきた日本國民にとりましては、當然だと私は思います。だから、日本の民度がその程度であるという場合におきましては、必ずしも私はその政黨が異なつて投票したから、その投票が意義がないというわけにまいらぬと思うのであります。
それよりか、これが目標としては、政黨の政策を對象としてやつておるのでありますから、政黨の政策を中心として投票が行われるやうにいたしていくことが、お互い政黨政治を發達させるために、とるべき態度でなければならぬと思うのであります。すなわち今度中選擧區單記になつたら、投票の對象は何になるでありましようか。投票の對象は完全に個人に歸るのであります。個人に歸るのでありますから、結果から見ますならば、個人中心の選擧が行われます。せつかく政黨政治を發達せしめようと思つて前進させた日本の政治形態というものを、中選擧區單記という制度によつて、また個人の姿に引返すという結果になるのでありますから、私はこれに對して反對するのであります。
こういう點を考えるならば、私どもの反對は、何も理窟に合わない反對ではないのでありまして、日本に將來政黨政治を確立しようというお考えがありますならば、一旦政黨政治の目標に向つて進んでおるものを、個人を對象とした投票に還す必要はないと思うのであります。もしこれを還すといたしますならば、中選擧區においては、地盤、かばん、そろばん――三ばん主義といつて、この三つ揃つておる者が地方的名士であります。要するにそういう人が當選して、そうでなくて、金もなく、さらに有名でもない、しかし日本再建のためには熱意に燃えておるというものは、かえつて落選するという結果になつて、金がものを言い、あるいは顏がものを言うという結果になるのでありまして、われわれはこれに反對せざるを得ないのであります。こういう觀點よりいたしまして、私どもはこの單記制に反對せざるを得ません。
さらにその次は、案の内容の別表の問題であります。これは私どもにはどうしても納得がいかないのであります。どういう點が納得がいかないかと申しますならば、一體どのような論據でこの別表をつくつたか。別表をつくるにおいては、やはり一つの理論的根據がなければなりませぬ。少くともその理論的根據は、提案者との質疑應答の中に、私が、民度も考えたろう、交通も考えたろう、行政地形、いろいろなことを考えたろうと言つたら、そうだそうだと私の言うことを納得してくれましたが、提案者の説明は、便宜主義できめたというのであります。これはこの提案に對して非常に解せない點であります。
次には、常識できめたというのであります。およそ法律をきめるには、常識できめることも、さらには便宜できめることも、あり得ないと思うのであります。少くとも私は、一つのレールがあつて、その基準の上に、どうするかということがきまつてこなければならぬと思うのであります。その基準は示されておりません。だからこの表を見ますと、隨分矛盾する所があります。一選擧區が他より十二萬もよけい人口をもつておつても、定員が同數であつたり、ないしは二千だけしか多くなくて、一方は一人多かつたり、非常な矛盾がこの別表の中にはあるのであります。なぜあるかというと、便宜主義でやつたからであります。
そこで私は、この便宜主義とは一體どういうことであるかということになれば、やはり提出者所屬の政黨の上部の人には便宜であるかもしれぬけれども、下部の方には不便であると同時に、他の民主主義團體方面には不便でないかと言つたら、委員長は苦笑しておりましたが、その缺陷が本案の本然の姿なりと言つても過言でないと私は思うのであります。(拍手)
そこに私はこの案の非常なる缺點を見出さなければなりませぬ。何も三名と小さく切らずに、少くとも五名なら五名、多きを望んで切つたらいいというような氣がするのであります。全體を通じて計算すると、三名の區が多いのであります。だから、こういうように切つたことは、一面から申し上げますならば、松原君の言われました通り、共産黨對策ではなかろうかということも思われる。こういうような考えも出てくる。
要するに、政治が政黨政治でなければならぬということは、人民の意思がどれだけ政治に反映するかということであります。選擧區が小さくて、當選者が少くても、全國的に投票數が集まつた場合におきましては、それを通じて政治に參與するという形が現われてきてしかるべきでありますから、そこで政黨を尊重するという形が現われてこなければならないのであります。でありますから、そういう制度をとらずして、そうして今申し上げましたように、ずたずたに切る政策をとるということは、明らかに小黨に對する彈壓であります。すなわち彈壓であれば、結果におきましては、日本の民主主義を阻害するという結果になるのでありまして、どうしてもわれわれは納得のいかない點があるのであります。
以上、私はいろいろあげて説明してまいつたのでありますが、第一點が、先ほど申し上げました通り、何といたしましても案の取扱いが非立憲的である。これは私が先ほど申し上げましたことで、議員各位におきましても、御了承がいつたことであろうと思うのであります。
さらに政府の態度が不明朗である。政府が超然内閣でありますなら別でありますが、一見超然内閣のような形をしながら、そうでなくて、兩黨の總裁がはいつて内閣を形成しておるのでありますから、少くとも立憲的行動というものは、その政黨のもつておる政策を、兩黨總裁を通じて實行するという態勢がとられなければならぬと思うのでありまして、自分は知らざるごとき態度をもつて與黨にやらせるというこの樣式が、私どもには了解しかねるという點が第二點であります。
第三點は、案の提案の根本の趣旨が、情勢の變化といつております。先ほどこれに關しましては、幣原國務大臣も、情勢の變化があつて變つたような意味のことを答辯されておりました。しかし私はそういう情勢の變化はないと思うのであります。いかように情勢の變化があつたがということを聽こうと思つても、どうしても明白にしてくれません。日本は民主主義革命が進行中でありますから、この民主主義革命というものがほんとうに民主的に行われて、日本が民主化するような方途を講じなければなりませぬ。そうなると、理窟から申しますならば、どうしても比例代表制を目標として、いま一囘くらいは制限選擧でやつて、そうして人民の考えておることが、やはり比例代表の意味を含めた形において議會に反映せしめる態勢をとるのが當然であると思うのでありまして、委員長報告には承服しかねるのであります。
〔副議長退席、議長着席〕
第四は、先ほど申し上げました通り、區制の問題について了解しかねる。これは私の申し上げたことで、多くの人が、私の申し上げた中選擧區、小選擧區竝びに大選擧區の利害得失に對する議論につきましては、自由、進歩の所屬の議員にしても贊成のことだろうと私は思うのであります。さらに加えまして、制限連記制を今やめてしまうということにつきましても、相當私は議論があろうと思います。自分の良心に訴えて聽いたときには議論があるにかかわらず、この案を通さなければならぬというところに、まだ日本においては封建的ボス政治の殘骸があるということを知らねばなりませぬ。(拍手)私はこの封建的殘滓でなるボス政治というものをなくなさなければならぬと思うのであります。
繰返して申しますが、先ほど伺いましたところが、本日七時のラジオ・ニユースにおきまして、政府は明日議會を解散するやの意をきめたということを報道しておつたということを私は伺いました。はたしてしかるかどうか知りませんが、まだわれわれは行動中でありまして、會議は明日一日あるのでありますから、必ずしも私は政府がその意をきめたということでもなかろうと思います。しかし明日は必然的に議會が解散になり、明後日より選擧が行われることでありましよう。
この選擧が行われるにあたりまして、選擧を前にして、競技が行われんとしておるのに、今われわれはこの壇上で、そのルールをいかにするかということについて、喧々囂々の間に議論をいたしております。冒頭に述べた朝日新聞の評論は、お互いにとつて反省すべきものがあろうと存じます。お互いはどうかこの點を反省していきたいと思うのであります。われわれの主張に心より贊成いたされまして、でき得べくんば、修正反對の動議が滿場一致をもつて可決あらんことを希望いたしまして、私の討論にかえる次第であります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=65
-
066・山崎猛
○議長(山崎猛君) 細迫兼光君。
〔細迫兼光君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=66
-
067・細迫兼光
○細迫兼光君 私はただいま議題になつておりまする問題、その中でも殊に私が論議の中心といたしたいのは、大野氏外一名提出の、いわゆる中選擧區單記制に變えようとする修正案であります。私は結論においては、これに反對であります。でありますが、決してこれは自由黨、進歩黨の御提案であるからということで反對するのではありません。私自身といたしましては、ほんとうにまつすぐに考えまして、反對せざるを得ないものだと信ずるからであります。
私は御承知のように無所屬の一員でありまして、どの政黨が勝利を得ようとも、直接的な影響はありません。しかも私は、御承知かも知れませんが、今度の選擧には立ちませんし、立とうとしても立てない地位にあるのでありまして、この選擧がどうなろうとも、直接私個人にとりましては、利害の關係はないのであります。ただ私が思うのは、一に國として、國民としてどうあるべきか、われわれがもつべき選擧法はいかなるものでなければならないかということを、私自身としては、ほんとうに、まつすぐに考えたつもりであります。
それで私はここでほんとうに討論がしたい。討論がしたいといつても、ただ論を鬪わすのではなく、私の言うことも聽いてくださつて、理窟があれば採用していただきたい。また皆さんの御意見も、私はほんとうに聽きたい。そうしてそれに理窟があれば、私もそれに贊成をしたいと思うのであります。まあ一應私の言うところも聽いていただきたいと思う。
私どもは、ときどきほんとうの自分の使命ということを反省する必要があると思います。これはわかり切つたことを言うなと、おしかりをこうむるかもしれませんが、たとえばそれが必要でありまして、官吏などは、官吏は國民の公僕だということを言います。自分の口でも言います。
でありまするが、永い間官廳におつてやつておりますというと、いつの間にか、國民のためというよりも、法規にとらわれまして、何かわれわれ人民が言つて行きましても、その問題が直接によいか惡いかという處置を考えないで、法規はどうなつておるか、命令はどうなつておるか、本省からの訓令はどうなつておるか、帳面が先にくる。こういうふうに、いわゆる法規の奴隷になつてしまいまして、國民の公僕という、ほんとうの自分の使命を忘れた態度になつてしまうおそれがあるのであります。
われわれは、ときどき自分のほんとうの使命を反省する必要があると思う。一言に言えば、われわれの使命は、もとより言うまでもなく國のため、國民のために、ほんとうによいことをするのだということ、そうしてその國民の代表となつて、國家の重大なことを決定するのだという、この立場を少しも離れてはいけないと思うのであります。これはもう言うまでもないことであります。
今日國のためということには、いろいろな問題がもちろんあります。われわれの目の前には、非常に大きな問題がある。たとえば食糧問題にいたしましても、あるいは石炭の問題にいたしましても、非常に大きな問題がある。
これらはもちろんそれぞれ解決いたしていかなければならないのであるが、それらの一番基本になる大きな國の目標、國の歩んでいく目標は何であるかといえば、日本の國を民主化していくというこの大きな目標、この大きな線というものが、國全體としては大きな國是と申しましようか、それであると思います。あらゆる政策、あらゆることが、この大きな線から離れないようにやつていかなくてはならない、かように私は確信いたすのであります。
すなわち憲法にいたしましても、民法を改正するにしても、あるいは刑法その他の政策をするにいたしましても、すべてこの大きな線に沿うようにもつていかなければならぬ、かように確信するのであります。これには、たれしも御異存のないことと確信いたします。
そこでこの選擧も、この線に沿いまして、日本を民主化させるための選擧、かように認識いたしまして、そしていかにしたら、日本をほんとうに健全な民主國家にすることができるか、こういう觀點からこの選擧法のことも論じ、考えなくてはならぬと考えます。これにもどなたも御異論のないことと私は確信いたします。
そこで、それにはこの來るべき選擧はいかなる意味をもつているか、來るべき選擧の意義をはつきりと把握してかからなくてはならぬと思います。この選擧法の改正は、もちろんずつと將來の選擧をも支配するでありましようが、さしあたりわれわれの目の前に來ている、來るべき選擧に適應すべく改正するのでありますから、來るべき選擧の意義というものをはつきり把握して、その意義を最もよく活かすような選擧法をつくらなくてはならぬ、かように確信する次第であります。
そこで來るべき選擧の意義をいかに把握すべきか、來るべき選擧の意義について、ここに二つの見方があります。これから少し吉田首相などの惡口に聞えることも出ますが、決して惡口を言いたいために言うのではありません。事實でありまして、決して個人的なことでも何でもありません。
來るべき選擧の見方に二つあると私は見ます。その一は、吉田首相の見方であります。これは各閣僚が承認せられるところであります。その吉田首相の選擧についての見方の片鱗が、かつて二月十四日、この席から吉田首相がなされました施政方針演説の末尾に現われている。これは一度引用したことがありますが、すなわちその演説の一節に、かように述べておられる。
「現下のごとく労働爭議の續發により、ひいて各方面に一致を缺き、民主政治の圓滿なる發達を妨げつつあるがごとき外觀を呈するにおいては、わが國に對する國際の批判も自然低下し、連合國の同情も離れ、遂に物資の輸入も減退して、さらに國家經濟再建の遲延せらるるのみならず、かくては講和條約の時期も自然遲延せらるるに至らざるかを恐れるものであります。ここに見るところあつて、マツカーサー元帥は、本議會後總選擧を勸告せられたものと想像いたします。」すなわちこれが、吉田首相のこの選擧の意義に關する一つの見方であります。
すなわち吉田首相は、勞働爭議が續發して、いろいろ惡いことが起きてくる、國際の信用が低下する、産業の再建が遲延する、講和條約が遲延する、それでこの選擧をやれとマツカーサー元帥が勸告せられたのだ、かように理解をしておられるのであります。
このことについてわれわれが質問をいたしましたが、未だに御囘答はありません。それはあつてもなくても、この演説は事實であります。すなわち勞働爭議が非常に續發するので、困つたことがいろいろ起るから、それでこの選擧をするのだ、かように考えておられる。これは非常におかしな解釋でありまして、どうもロジツクが合わぬように私は思うのであります。
勞働爭議が續發して、困ることが起るなら、それはいい施策をして、勞働爭議が續發しないようにすればよい。何も選擧をせにやならぬ理窟があるか。かようにどうもロジツクが合わぬように思うのでありますが、とにかくこういうことを言つておられる。これはすなわち、勞働爭議を強いてここに連絡をもつように理解しますれば、勞働爭議が起つて困るから、起らないような状態にするために、選擧で政状を安定さすためにこの選擧をやるのだ、かように理解せられておるのかと想像せられるのであります。
もう一つの見方は何であるかと言いますれば、その際もちよつと引用いたしましたAP通信の東京支局長ラツセル・ブライアンスという人が、こういうことを書いている。これは御承知のように、世界に千五百も特約の新聞をもつておる通信社でありまするが、その人がこういうように書いておられる。日本の保守勢力は現在政府を牛耳つているが、政變を求める聲が全國に起つたときに、マツカーサー元帥は總選擧を行うべきことを命じたのである。かようにラツセル・ブライアンス氏は、この選擧を理解しておるのであります。すなわち保守勢力と彼は言つている。それが政府を牛耳つておるんだが、政變を求める聲、すなわちこの政府に變つてもらいたいという聲が全國に擴がつて起つたので、それでこの國民の批判は一應受けさせるがよかろうというので、マツカーサー元帥は選擧を行うべきことを勸告した。かようにこのラツセル・ブライアンス氏は言つておるのであります。
なおまた、これはそれだけではありません。ちよつと拾い讀みしただけでも、たとえばニユーヨーク・ヘラルド・トリビユーンなんかは、こういう意味のことを言つておる。日本の民主化がどうも非常に遲いことを不滿に思つておりまして、今度の選擧において日本國民が、吉田内閣の閣僚をまた選擧して當選させるようなことになつたら、世界は非常に失望するだろうということを、これはニユーヨーク・ヘラルド・トリビユーンが社説で書いている。(拍手)
あるいはまたロスアンゼルスのイヴニング・ニユース・ペーパー、これは、日本の議會は民主的でない、かくのごとくでは、日本の民主化は前途遼遠である。かようなことを書いておる。(「反對の議論もある」と呼ぶ者あり)反對の議論もたくさんあります。こういうのは、ちよつと眼に當つただけであります。
それでとにかく世界的にも、そういう眼で來るべき選擧を見ている人がずいぶんあります。私も一つはさように思つておる。今度の選擧は日本民主化のための一里塚でなくてはならぬ。日本の民主化を推進する一里塚の選擧でなければならぬ、かように私は確信しておるのであります。
さて、そういう觀點からこの選擧法を見ますと、選擧法はもちろんよいものでなければならぬ。これはもちろん誰しも反對する人はないことであります。選擧法はよい選擧法でなければならぬ。それではどんな選擧法がよいのか。こういう具體的なことになつてくると、意見がわかれます。たとえば中選擧區單記制がよい選擧法だ、かように確信しておられる諸君がたくさんにある。あるいはまた、全國一區の比例代表式がよいのだといつて、確信しておられる人がある。どういうのがよいかという具體的なところになつてくると、説がわかれてまいります。
しかしながらそのよい惡いをきめるには、一つの標準がなければならぬ。私は特に一般的に申しましたならば、よい選擧法というのは、さきに松原氏が言われましたように、この議會が日本の縮圖であるという状態になるような選擧法が、一番よいと思うのであります。すなわち日本の全國の人間がいろいろな考えをもつておる。その比例によつて、いろいろな種類の考えのものが集まつた状態がここに現われるような選擧法が、一番よい選擧法であると、かように考えております。それがためには、いわゆる死票、役に立たない投票ができるだけ少いものでなくてはならぬ、かように考えます。これも誰しも御異存のないところであると思います。
しかしそういうことから申しますれば、松原氏も先ほど共産黨のことを引いて言れましたが、とかく新興勢力というものは、選擧區が狹くなればなるほど不利な立場に立つのであります。しかしながら何よりかより、來るべき總選擧の意義から考えまして、すなわち日本を民主化するための一里塚でなくてはならない、一つの大事な仕事でなくてはならないという觀點から言いますと、從來の選擧における封建的なものを打破する。從來の選擧にありました中の封建的なものを打破して、そうして民主的なものにかえていく。これが何よりかより大切な、一番の眞髓になるものでなくてはならない。かように考えます。
いろいろな議論があります。たとえば選擧費用がどつちが多くかかるとか、少くかかるとかいうようなことの問題もあります。あるいは狭い方が意見がよく徹底するとか、あるいは廣くてもラヂオだから徹底するとか、いろいろな議論があります。しかしながらたとい選擧費用がたくさんかかつても、あるいは少くかかつても、あるいは極端に言いますれば、意見が徹底しても徹底しなくても、そんな問題は少少どうでもよい。ここに封建的な昔からの惰性の、いけない分子、いけない状態が選擧にありますならば、それを打破する。そういう選擧法でなくてはならぬ。かように確信するものであります。
從來の選擧法における封建的な一番惡いものといえば、何であるかと言いますれば、これはいわゆる選擧ブローカー、あるいはボス、こういうものの存在が、選擧における一番保守的な存在であります。かように私は確信する。すなわちたとえば元の政友會あるいは憲政會、民政黨というような昔の状態におきましては、御存じのように激烈なところでは、もう非常にゆるがすベからざる系統、筋をもつておりまして町から村へ、村から字へ、山間、谷合に至るまで、いわゆるボスといつてはなんでありますが、とにかく政友會系あるいは民政黨系というような系統が、くもの網の目のように目を張りまして、容易にこれは、ほかからうかがい寄りましても、打破することのできない状態にあつたのであります、これがずいぶんといろいろな腐敗の根源になつておつたことは、誰しも異論のないところであると思うのであります。
これは近時非常にその存在は薄らいできたと思います。薄らいできたとは思いますが、まだまだ根を張つておると私は思うのであります。そうして從來の政友會あるいは民政黨というものの張りました網の巣は、まだまだかなりに強く存在しておる。
これはおのおの觀察によつて違いましようが、私の見るところでは、この政友會あるいは民政黨の遺産相續人である――黨まで言つてはいけないかも知れませんが、自由黨あるいは進歩黨の諸君に、やはりこの網の目は相當有利に働いておると私は見るのであります。私の獨斷かもしれませんが、さように見るのであります。
この舊來の保守的な、一番いけない選擧ブローカー、あるいは選擧ボスというものを打破するためには、どうしても大きな選擧區にすればするほど效果がよいと私は思います。どうしても小さい選擧區になりますというと、個人的な影響が非常に多い。しかもそれが政見による網の目であればよいのでありますが、とにかく平生のいろいろのせわをする、あるいはある人によりますというと、平生から縁故があろうがなかろうが、自分の選擧區の中に――選擧區といつてはなんでありますが、近所に死ぬ人があると、必ず香奠を包んでいくというような人もありますが、そういうことによつてのいわゆる選擧勢力、地盤の養成というようなことが、どうしても行われております。
それはしかしながら、いくら努めても大きな範圍にできることはありません。狭い範圍ならそれができる。その人がそういう惡いことによつて培つた勢力は、狭い範圍に限られておる。しかし選擧區が狭くなれば、その狭いことがそのまま有用に利用せられる。それではあくまでこの選擧ボス、選擧ブローカーのの網目が活用せられる結果になるのであります。これはいけない。なるべくそういうことが、いうことをきかない、效力をもたない、廣い選擧區にすることが、いわゆる選擧法の民主化と申しましようか、來るべき選擧をして意義あらしめるための根本の目標でなくてはならぬと思うのであります。
私はこの選擧法の審議におきまして、非常に時間のなかつたことも遺憾に思います。またいろいろ御提案の趣旨辯明を聽いてみましても、どうも納得のいかないところも隨分あります。私はそれらのことについて、小さく入つて論議もしてみたいと思いましたが、なるべく時間を短くきりたいため、一切を省きます。
たとへば選擧區の分割にいたしましても、人口と定員というものが、どうしても完全に公平にはなかなか割りきれないものでありまして、これはもう別表について攻撃しようと思えば、どんな別表でも攻撃し得ると思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=67
-
068・山崎猛
○議長(山崎猛君) 細迫君、約束の時間はあと五分です。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=68
-
069・細迫兼光
○細迫兼光君(續) どんな別表をつくつても、攻撃のできないようにすることはむずかしいと思います。
しかしそれは全國を各府縣に割るといえば、その不公平はただ一囘で濟むのでありますが、全國を各府縣にわけて、そうしてまたそれを小さくわけるといえば、やむを得ざる不公平が二度行われることになりまして、小さくなればなるほど、その不公平の度は増大していく理窟になるのであります。これは惡意と善意とにかかわらず、そういうことは必然であります。
そういう必然的に惡いことになる結果が見えておりながら、その惡いことをしてはいけないと思う。できるだけよいことをせにやいかぬ、かように考える。そういう點から言いましても、選擧の區域はなるべく大きい方がいい、かように考えます。
その他いろいろなことも論じてみたいのでありますが、賢明な諸君に訴えるのに、多くのことを言う必要もないと思う。私の申したことが、多少でも理窟があると思つて下さいますならば、どうか私とともに、この大野氏ほか一名提案の、中選擧區單記制に變えようという案だけは、これはいけないという方に一つ御贊成を願いたいと思う次第であります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=69
-
070・山崎猛
○議長(山崎猛君) 石田一松君。
〔石田一松君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=70
-
071・石田一松
○石田一松君 私は國民協同黨を代表いたしまして、先ほど本案の山口委員長の報告になりました部分に對して、全面的に反對の討論をいたしまして、その補足討論とも言うべきものでございますが、私は實に辛い立場におります。議事を圓滿に運營すべき院内の交渉係を承つておりまして、殘念ながら多分の時間がありません。ただこれはわれわれ野黨が來るべき總選擧に、現行選擧法で選擧をすれば少しでも多數になるだろうと思つていた矢先に本修正案が出たので、ただ單に一黨一人の利害のために反對をしておるものではないということを申し上げておきます。
どうも日本人は、人の前でいいことをするときには、恥かしがるものでございます。かかる陰謀をやるときには、味方が多ければ多いほど、日本人は一緒になつてやる惡い癖をもつております。(拍手)その惡い日本の國民性が、この議場にまざまざと、今われわれの前に展開しようとしております。(拍手)何という情けないことでございましよう。
先ほど同僚の淺沼君は、朝日新聞のさる記事を引用なさいまして、野球のルールとおつしやいましたけれども、まことにこれはいい比喩だと思います。たとえば早慶戰において、早稻田の方は右投手ばかり、慶應の方は左投手ばかりそろつておるときに、野球のルールを直ちに變えて、右投手ばかりでなければプレートに立てないときめたならば、慶應がどんなに一生懸命にやりましても、左投手しかもつていないのですから、この野球はまけます。こんな野球は見に行く人もなければ、そんなゲームに興味をもつ人もありません。(拍手)
結果から言いますと、今民主政治の一段階にある日本の選擧民のある投票熱というものに、この修正案が次第次第にブレーキをかけておるのじやないかと私は考えます。(拍手)こういうことが、民主日本の發足において、この議場で公々然と行われるところに、まだまだ日本の民主化遠しという感を深く抱いておるものであります。
たくさん申し上げたいことがあるのでありますが、一言だけ聽いて下さい。
〔「どんどんやれ」と呼び、その他發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=71
-
072・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=72
-
073・石田一松
○石田一松君(續) 明日新黨を結成しようとなさつていらつしやる方々、新聞で知るところによると、民主黨と名前をかえようとなさつてゐる方々、健全なる保守政黨になろうとなさる方々、この方々が、もしほんとうに健全なる保守政黨と生れ變るんだつたら、本案に直ちにここで反對をなされば、あなたたちの明日の保守政黨は、文字通りにこれが健全なる保守政黨になりますが、ある一部の陰謀に加擔をして、この法案にこの場では贊成しておいて、明日名前をかえて民主黨となろうとも、これは絶對に健全なる保守政黨とはなれません。心の中で、これは困つたなあと思つていらつしやるのでしたら、明日政黨がなくなるのですから、變つたところでひとつやつてください。私は國を思うために、約束を履行いたしまして、十分以内で降壇いたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=73
-
074・山崎猛
○議長(山崎猛君) 徳田球一君。
〔徳田球一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=74
-
075・徳田球一
○徳田球一君 私は日本共産黨を代表いたしまして、大野伴睦君外一名の提出にかかる修正案に對して、反對する者であります。
この問題に關しましては、委員會において質疑もなし、かつ討論もいたしましたが、その討論の際、私はもつともつとたくさんこの反對討論を續けようとしましたところ、委員長たびたびなる懇請によりまして、非常に短く打切つたのであります。それゆえに本日この議場におきまして、殘りの部分、特に選擧區畫に關する部分に對しまして、詳しい討論をすることを約束したのであります。本日もまたこの約束に副いまして、これだけのことについては、いかなる多數をもつても押切れないだけの約束をしているのでありますから、交渉會においてもその點は十分認められてやるのでありますから、諸君もまた雅量をもちまして、この私の反對論に對して、特に傾聽あらんことを希望する次第であります。(拍手)
そもそも選擧區畫の問題は、各代議士諸君に對しまして、非常なる利害關係があるのであります。同時にまたこれは選擧權者に對しましても、非常なる利害關係があるのであります。從つて未だかつてこの選擧區畫の改正におきまして、大爭亂が起らなかつたことはないのであります。
この選擧區畫の改正は、日本においては特にそうでありますが、諸外國におきましても、非常に大論爭を引起し、從つてまた刄傷さたも起しておるのであります。ですから選擧區畫に對しましては、常に絶對多數をもたなければ、これを變更することはできない状態になつておるのであります。このたびも、また自由黨、進歩黨が絶對多數をもちまして、この選擧區畫を改めようとしておるのであります。
しかるに選擧區畫の問題になりますと、自由黨内部にも、進歩黨内部にも、この問題に關して決して意見の一致を見ることはできないのである。それは當然である。これは利害關係のある問題であるから、なかなか一致は見られない。從つてこれらがいかに利害關係があつて紛糾したかということに關して、證據がある。
これを開いて見ますと、茨城縣に關しましては、最初はこれを三區にわけたのである。この三區にわけたものが、大體以前の中選擧區の區畫でありまして、大體これに落ちついて地盤ができている。だから中選擧區といえば、この區畫を出すのが普通であります。たれでもこれにはちよつと反對ができない。しかしながら、おのおの利害關係がありますから、なかなかこれで承知せぬ。とうとうたれが押し切りましたか、一且これが印刷されているにかかわらず、提出せられたときには、ちやんとこれがくつついている。よけいなものがくつついている。これが今度は四區になつている。四區になるとどうです。これはみな小さくなりまして、三人、三人、三人、三人、これでは現在ではほとんど小選擧區にひとしい。おのおのの勢力のあるところ、地盤のあるところを、むりやりこれに押しこめたことが明らかである。これは自由黨の諸君といえども、決して反對できないところであろうと思う。
それゆえに委員會内の懇談會になりまして、どなたが衝いたかしらないけれども、この缺陷をぐんぐん衝かれたが最後、どうです。やはり利害關係が絡まつていながら公然と出して、これがぐんぐん衝かれると、このくつついているやつをひつぱいで、またもとの身に還ろうというのである。こういうことが始終起つている。
なおまた、これは京都府の選擧區でありますが、これもまた、はなはだしい。こういう亂暴なことは、かつてなかつた選擧區の定め方であります。なぜならば、京都市という一つの固まつたもの、これはまた自治體であつて、生活の上からも、區畫の上からも、何の上からも、これを別のものとくつつけるはずはないのである。
しかるにこれが、下京區から以下は、下京區、右京區、伏見區、この三つをそのもとに引離しまして、わざわざ郡部とくつつけてあるのであります。その結果はどうなるか。その結果は、まん中に第一區がありまして、第二區は、それをぐるぐるまわつてやらなければいかぬことになつている。そういうばかげたことになつている。しかしそれが、まん中でひとつ切れておるのであります。
一方二區は、ちよつと一區劃離れている。從つてこれに行きますときには、これをどんどん通過して行かなければならぬ。行つたり來たりしなければならぬ。こんな選擧區なんてものは、あるはずはないのである。それを自由黨の原案におきましては、むりやりに、わざわざこういう選擧區をこしらえまして、いかにもこれは利害關係によつてやつたのでありますということを、歴々ここに現わしている。まつたくこれは自分自身で、この中選擧區のわけ方がいかに不合理であるかということを示している、完全なる證據であると言わざるを得ないのである、
しかるにこのことも、またぞろつつこまれまして、仕方なしに今度はこれを一區、二區にわけまして、下京區だけはこつちへくつつけまして、依然として右京區と伏見區は郡部にくつついておるのである。何ゆえにこれをくつつけたか。そこに問題がある。すなわち五人ないし三人に限定しなければならないということをむりやり押しつけたものだから、こうなつた。これは小澤君に特に答えるのでありますが、この問題につきましては、これは懇談會できめた。私は懇談會には行つておらぬから、この問題が懇談會の……。
〔「そんな餘言なことは言わぬでもよいじやないか」と呼び、その他發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=75
-
076・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=76
-
077・徳田球一
○徳田球一君(續) 話してもいいと言つたじやないか。言つておきながら、なんということです。
この問題に關しまして、懇談會の報告をいたしましたときに、特にわれわれはこれに關しましては不服であること、これが委員會において再び論議さるべきことを提議したのであります。しかるにこの提議に對しましては、既に質疑を打ちきつているから、本會議において特にこれを論議してもらいたいという保留つきで、これは收まつたのであります。私がここに懇々言うのは、なんら諸君に對して信義を失つているわけではないのであります。
かかることがなぜ起つたか。これまた三人、五人以外の、この小さい範圍の中にすべてをわけようとするから、こうなつたのである。そもそもこれは便宜主義によつてでき上つておるということを、自由黨の提案者諸君が言うておるのにかかわらず、この便宜主義でいつているなら、なぜこれを五人に止めることが必要か。六人、七人、八人に延ばしても、便宜であればいいじやないか。そもそもが便宜である。これをわざわざ五人に押しつめて、五人から出ずべからずということをやつたのは、一體どこに原因するか。
これは中選擧區とは名ばかりである。實際上には、ほとんど小選擧區たる性質を有せしむるために、わざわざこれを五人に押しつめたのである。同じ便宜主義とはいえ、これがむりやりに小選擧區に押しつめるための便宜主義であるということを、ここにおいて明確に暴露しておる。これは重大なるものである。
さて、この區畫がいかにむちやくちやであるかということに關しましては、自由黨の内部、進歩黨の内部の諸君も、十分御承知でありまして、おのおのの地盤に對しましての考慮から、これがはなはだしく、最も有力な人々に有利にできていることに對して、さんざん訴えられておるのであります。なぜこういうものをむりにつくるか。選擧は公平たるべし。選擧は國民の意思が公平に、公正に反映するようにならなければならないのである。にもかかわらず、かくのごときことをむりにやつているのは、すなわちこの中選擧區が地盤主義でありまして、反動勢力をここに成長せしむる基礎であることを明らかにしているのである。しかもおのあの自分の勢力をここへ植えつけて、拔くべからざるものとするために、わざわざこしらえたものであることは、これはなんとしても否みがたいものである。
しかるにこの選擧區を定めるにあたりまして、原則といたしまして、――ここに提出者から出しておりますところの資料がある。これによりますと、人口の總數を議員の定數で割りまして、すなわち四百六十六人で割りまして、議員一人當りの人口十五萬六千なんぼという基準數を出しまして、この基準數によつて各縣の人口を割り、各縣の議員數を出しておるのである。
この各縣の議員數の割出しにおきましては、これは第一次のものでありますために、ここでは大體におきまして、議員數の振り當は大きい差は出ておりません。むろん小ない差は出ております。これなら大體我慢することができる。大體公平にできておる。でありますから、一縣を大選擧區にいたしますれば、議員の配置の方向は、大體この方向で公平に行くわけである。誰しも反對するわけにはまいりません。大選擧區が有利であることは、これは當然である。當然ここに歴々現われておるわけであります。
しかるに各縣のそれぞれの數を固定しておきまして、この固定した數の中で、今度は行政區畫を主にいたしまして、一區、二區、三區、四區と分けました結果は、一體どうでありましよう。この結果は、實に驚くべき亂暴なもので、誰が考えても不合理のようにできておる。この不合理の點を、われわれは述べなければなりません。
これも提案者から提出しております資料でありますが、東京の第六區と第七區は、おのおの議員數は五人であります。しかるにここにおきましては、人口數におきまして十三萬人の相違をしておる。十五萬が大體標準でありますならば、一方は議員を一人殖やしていいと誰でも言いたくなる。こういうふうな不公平ができておる。
ところが、それがもつともつとひどいのは、こうである。北海道の第四區でありますが、これは炭鑛地方であります。ここにおきましては、八十八萬五千なんぼというので、これが五人になつております。しかるに大阪の第四區におきましては、僅かに五十六萬の數字でもつて、これが四人であります。一人違いであります。この間の差がいくらあるかというと、驚くなかれ三十四萬人の差がある。誰が考えましても、こんな不公平がどうして承知ができますか、十五萬人ごとに一人づつ殖やすというのに、大阪は五十六萬で四人、北海道の炭鑛地帶におきましては、八十八萬人でもつて僅かに五人である。一人違うのに、ここに三十四萬人という數字が出てゐる。これは誰が見ても承知するものでない。(「ばかを言うな」と呼ぶ者あり)ばかを言うなではない。數字を見れば直ぐわかるのであります。
この點につきましては、提出者である小澤君がきゆうきゆういわせられまして、なんともかんとも、はや返事ができない。返事ができないがために、濟まないけれども懇談會ということになつたのである。これは當然である。これほどのものになる、その基礎がどこにあるか。
これをもう少し、時間がありますから詳しく述べたいと思いますが、大體北海道の第四區におきましては、一人當り十五萬いくらとしまして、數字が下のパーセンテージは五・五八三二と出ておりますから、四捨五入となりますと、これは六人になります。ところがこれが五人である。五人しかいけないという、そういう鐵則を設けておるものですから――いわゆる小選擧區でなければいけないという鐵則を設けておるものですから、これは六人になるべき性質のものを、五人にしておる。
ところが他方におきまして、はなはだしいものになりますと、四捨五入に足らないものを四捨五入しておる。これは愛媛縣の第一區でありまして、わずかに三十八萬二千人なんぼでもつて、三人になつておる。一人當りは十二萬七千人である。そうしてこの比率から言いますと、二・四九五でありますから、四捨五入からしますと、これは落さなければならない。二人でなければならぬ。しかるにここでは三人になつておる。こういう亂暴なことはしよつちゆうある。まだまだある。諸君がおもしろく聽かれるならば(笑聲)私はもつともつとたくさんこれを出したいと思うのであるけれども、少々耳の痛いところもあると思いまして、もう勘辨してやりまして、もう一つここで大缺陷を見出しておきたいと思うのである。
これは各區の議員一人當りの人口が出ておりますが、原案によりますと、修正されたのではない、現在通過している案でありますが、大阪府の第五區におきましては、議員一人當りの人口が十八萬六千人になつておる。ところが、一方これが郡馬縣の第二區になりますと、十三萬一千であります。どうです、この間の違いは。五萬五千という違いである。一人當りの議員の振當ての數字でありますよ。これほどに違つておる。まつたくだれだつて、これでは承知ができない。何だ、べらぼうめ。そんなこと言つたつて、だめじやないか。こういう不當な割當て方に對して、だれがこれを承知する。承知はできない相談である。だからして、この選擧區の割當におきまして、もめることは當然である。きつともめる。もめるにきまつている。
こういうものを法律に出すためには、少くともこれは半年以前に出しまして、いかに大野君が有力であろうとも(笑聲)論議に論議をつくして、お互いにせり合つてみてもお互いにこれを融通し合いまして、どうしてもがまんができないようなものを出してはいかぬのである。がまんができるようにしなければならぬ。ところが實際上そういうふうにはせずに、この議會の終ろうとする一番最後に、これをむりやり本會議に上せまして、本會議だけで、すつすつと通そうとした。
この魂膽も、この選擧區區分のこの別表の爭いが紛糾することに原因しておるのである。これを突いて突いて突きまくれば、委員會は一箇月經つたつてこれは終りはしない。それを見越しまして無法なものをば、わざわざこれを最後に出しまして、そつと通そうとしたのである。どつこい、そうはいかない。この委員會が大もめにもめまして、亂鬪に及ばんとするほどの大活劇を演じましたのも、この別表のかかる不合理に存するのである。(拍手)
これが不合理でなければ、當然みんなが承知いたしまして、これを通したでありましよう。ですから、自由黨の作成せられました作成者自身、これが不合理である、無法であるということを、諸君自身がこれを承知しておつたはずだ。これを承知しておらぬならば、正當のものだと思うならば、早くから出したに違いない。從つてかかる別表を、一旦大多數でもつてきめましても、次のときには必ず大喧嘩になる。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=77
-
078・山崎猛
○議長(山崎猛君) 徳田君、あと五分であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=78
-
079・徳田球一
○徳田球一君(續) そうしてこれに反對する人々の黨が、これが有力になりますれば、再びこの別表で今度はまた無法に押してくる。だからそういう場合には、現在これを無法に押さないことがよろしい。これを無法に押してくると、また無法に押される。そういうことは何遍繰返したつてだめである。しよつちゆうこれに動搖する一方である。從つて議會に出てまいりまして、常に欝積した忿懣があるのである。何事にかかわらず、お互いに角突合いをより一層はげしくしなければならぬ。ただで濟むものか。より一層尖鋭化する。より一層喧嘩の種を播かざるを得ないのである。
だからして諸君は、この別表によるところのこの選擧法の修正を今これを取下げまして、そうしてこの次の選擧に、だれでも承知するようなものをこしらえられることがよろしいのである。しからばこのよろしいのは何か。よろしいのは、區分をしないことだ。區分をすれば、必ずこれは喧嘩になる。區分を――選擧區畫というものを、全部、一つ殘らずにぽつかり取去ることだ。それなんだ。これが共産黨の提出してある修正案であります。すなわち全國一選擧區完全比例代表である。これを出しますれば、こういうことによつて角突き合いして喧嘩する必要はない。だれだつてかれだつて、正當の理論には頭を下げて、すつすつと通るわけである。また今後におきまして、全投票數によつて、お互いに比例代表で出すのでありますから、だれびとでも、この比例代表によつて出たことに對して文句は言えないのである。これは力の相違でありますから、いわゆる合理的にこれはできておるのである。
かかる合理的な主張、これを諸君が多數であるからといつて、むりやりに押し下げまして、そうしてこういう不合理なものを、わざわざ通そうとすることは、これは何としても、自由黨及び進歩黨がある種の野心をもつて、しかもこれは反動勢力をより強くしようとする野心をもつて、勞働者、農民の勃興している勢力、この勃興してくる勢力、これを抑えつけようとするものと思われたつてしかたないではないか。
今や勞働者は、ストライキをすることにつきまして、大いなる國難を感じつつある。從つてこの政黨に向つて、議會に議席を占めることによつて、政權をみずからの手にとることによつて――彼等が生活權の擁護を完全にするには、その途しかないことになつたのである。從つて勞働者が、この選擧に對して非常なる熱誠をもちまして、奮起してきたことはこれは當然である。この情勢を見まして、政府がこれを彈壓しようとするこのたくらみが、これである。
しかるに政府は、みずからの責任をもつてやらずに、これを與黨である自由黨、進歩黨の提案として、議員の發議權に對して、これを抑えることができないからという、これ一點張り、何らの根據なしに、何らの理由なしに、これを政府がうのみにして、そうしてこの野望を達しようとするところに、この大紛亂が起つておるのである。
勞働組合、農民組合、その他大衆の諸團體全體、この問題に對しては大反對である。斷固として鬪爭することになつておるのである。從つてまたこの案を提出し、これを支持せられておるところの自由黨及び進歩黨に對し、一票たりとも入れないことを、斷固として決意しておる。(拍手)諸君はこの點を考えるなら、この案をすべからく撤囘し、わが黨の提出しておる、最も理想的な全國一選擧區完全比例代表制に對して、喜んで諸君が贊成せられることは、國民としてもまた喜ばしい義務であろうと信ずるのである。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=79
-
080・山崎猛
○議長(山崎猛君) これにて討論は終局いたしました。これより採決に入ります。まず徳田球一君ほか二名提出の修正案につき採決いたします。本修正案に贊成の諸君の起立を求めます。
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=80
-
081・山崎猛
○議長(山崎猛君) 起立少數よつて徳田球一君外二名提出の修正案は否決せられました。
次に大野伴睦君外一名提出の修正案につき採決いたします。この採決に對しては、村上勇君外三十名より、記名投票をもつてすべしとの要求があります。また石田一松君外三十名より、無名投票をもつてすべしとの要求があります。よつて記名投票をもつて採決するや、または無名投票をもつて採決するやを決定せなければなりません。そのいずれにするやの採決は、起立をもつて決します。(「ノーノー」「反對」と呼ぶ者あり)記名投票をもつて採決するに贊成の諸君の起立を求めます。
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=81
-
082・山崎猛
○議長(山崎猛君) 起立多數。よつて記名投票をもつて採決するに決しました。
これより記名投票を行います。大野伴睦君外一名提出の修正案に贊成の諸君は、白票、反對の諸君は青票を持參せられんことを望みます。閉鎖。議席第一番より順次投票せられんことを望みます。
〔各員投票〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=82
-
083・山崎猛
○議長(山崎猛君) 投票漏れはありませんか。――投票漏れはありませんか。――投票漏れなしと認めます。投票凾閉鎖。開厘。開鎖
〔書記官投票の數を計算〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=83
-
084・山崎猛
○議長(山崎猛君) 投票の結果を書記官長より報告いたさせます。
〔大池書記官長朗讀〕
投票總數二百二十三
可とする者 白票 百七十
否とする者 青票 五十三
〔拍手〕
〔參 照〕
大野伴睦外一名提出の修正案を可とする議員の氏名
安部俊吾君 青木孝義君
荒船清十郎君 有田二郎君
石井光次郎君 石原圓吉君
稻田直道君 今井はつ君
岩本信行君 上塚司君
植原悦二郎君 内海安吉君
江藤夏雄君 小川原政信君
小澤國治君 小澤佐重喜君
大井直之助君 大石倫治君
大谷瑩潤君 大塚甚之助君
大野伴睦君 大久保留次郎君
加藤睦之介君 木村公平君
木村義雄君 北れい吉君
小峯柳多君 近藤鶴代君
坂本實君 庄司一郎君
島村一郎君 杉田馨子君
鈴木仙八君 田中重彌君
田中善内君 高橋英吉君
竹内茂代君 武田信之助君
塚田十一郎君 辻寛一君
圓谷光衞君 寺尾豊君
殿田孝次君 中島守利君
夏堀源三郎君 葉梨新五郎君
花村四郎君 林讓治君
原侑君 坂東幸太郎君
樋貝詮三君 廣川弘禪君
平岡良藏君 平塚常次郎君
深津玉一郎君 古島義英君
本多花子君 本田英作君
星島二郎君 牧野寛索君
益谷秀次君 松浦東介君
三浦寅之助君 三ツ林幸三君
水田三喜男君 水谷昇君
水口周平君 村上勇君
森幸太郎君 山口喜久一郎君
山口好一君 山本勝市君
藥師神岩太郎君 横田清藏君
亘四郎君 綿貫佐民君
逢澤寛君 青木泰助君
天野久君 荒木武行君
井上東治郎君 井上知治君
飯島祐之君 石黒武重君
稻本早苗君 荊木一久君
生方大吉君 馬越晁君
江川爲信君 江部順治君
小川半次君 小笹耕作君
小野瀬忠兵衞君 大久保傳藏君
大島定吉君 太田秋之助君
岡部得三君 岡本實太郎君
加藤高藏君 金光義邦君
川崎秀二君 木村小左衞門君
北村徳太郎君 五坪茂雄君
小坂善太郎君 小林かなえ君
古賀喜太郎君 齋藤隆夫君
齋藤てい君 佐藤久雄君
佐伯忠義君 白井秀吉君
柴田兵一郎君 椎熊三郎君
鈴木明良君 鈴木周次郎君
菅原エン君 菅又薫君
關根久藏君 關谷勝利君
田中萬逸君 橘直治君
竹内歌子君 地崎宇三郎君
佃良一君 坪川信三君
寺島隆太郎君 寺田榮吉君
苫米地義三君 中川重春君
中村嘉壽君 中村又一君
長野長廣君 楢橋渡君
長野重右ェ門君 原健三郎君
原捨思君 林連君
林田正治君 日比野民平君
一松定吉君 舟崎由之君
降旗徳弥君 保利茂君
星一君 堀川恭平君
本間俊一君 本名武君
松田正一君 宮原庄助君
宮前進君 宮澤才吉君
武藤常介君 村井八郎君
村島喜代君 最上英子君
森山ヨネ君 八木佐太治君
八坂善一郎君 山口光一郎君
山崎岩男君 山下春江君
山田悟六君 吉澤仁太郎君
吉田安君 早稻田柳右ェ門君
和崎ハル君 田中源三郎君
細田忠治郎君 森崎了三君
否とする議員の氏名
淺沼稻次郎君 荒畑勝三君
井伊誠一君 伊藤卯四郎君
石川金次郎君 今村等君
上田清次郎君 大矢省三君
加藤シヅエ君 叶凸君
川島金次君 菊地養之輔君
榊原千代君 田中松月君
高津正道君 高瀬傳君
冨吉榮二君 戸叶里子君
中崎敏君 中村高一君
西尾末廣君 原彪之助君
細野三千雄君 松谷天光光君
松本七郎君 松永義雄君
松岡駒吉君 松尾トシ君
前田榮之助君 水谷長三郎君
森戸辰男君 森本義夫君
山花秀雄君 山崎道子君
山口靜江君 山下ツね君
安平鹿一君 米窪滿亮君
安藤はつ君 石崎千松君
石田一松君 岡田勢一君
河野金昇君 野本品吉君
早川崇君 船田亨二君
松原一彦君 大石ヨシエ君
細迫兼光君 柄澤と志子君
高倉輝君 徳田球一君
野坂參三君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=84
-
085・山崎猛
○議長(山崎猛君) 右の結果、大野伴睦君外一名提出の修正案は可決されました。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=85
-
086・山崎猛
○議長(山崎猛君) 最後に、ただいま修正議決せられました部分を除いた原案は、委員長報告通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=86
-
087・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつてその通り決しました。これにて本案の第二讀會は終了いたしました。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=87
-
088・椎熊三郎
○椎熊三郎君 本案の第三讀會を省略して、第二讀會議決の通り修正議決せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=88
-
089・山崎猛
○議長(山崎猛君) 椎熊君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=89
-
090・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて本案は第三讀會を省略して、第二讀會議決の通り可決確定いたしました。(拍手)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=90
-
091・椎熊三郎
○椎熊三郎君 殘餘の日程はこれを延期し、明三十一日は午前十時より本會議を開くこととし、本日はこれにて散會せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=91
-
092・山崎猛
○議長(山崎猛君) 椎熊君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=92
-
093・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。議事日程は公報をもつて通知いたします。本日はこれにて散會いたします。
午後十時三十五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213242X03119470330&spkNum=93
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。