1. 会議録本文
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000・会議録情報
明治三十八年二月十七日（金曜日）午前十時二分開會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=0
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001・岡部長職
○委員長(子爵岡部長職君) 唯今ヨリ開會イタシマス、昨日三名ノ小委員ヲ選定
シテ本案ノ審査ヲ委託イタシマシタ、所デ昨日充分ニ審査ヲ逐ゲラレテ本日諸君ト共ニ
右ノ三君カラ報告ヲ得ルコトニナリマシタ是ヨリ小委員ノ調査ノ結果ノ報告ヲ求メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=1
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002・富井政章
○富井政章君 ソレデハ僭越ナガラ私ガ協議ノ結果ヲ御報告イタシマス、昨日我〓三
人ハ御委託ヲ受ケテ夕刻マデ協議ヲイタシマシタガ尙今朝モ本會議ノ後ニ、殘ッタ一件
ヲ議シタノデアリマス、各條ニ付テノ協議ノ結果ヲ御報告イタシマス前ニ此法律案全體
ニ對スル我〓ノ意見ヲ申シマス、我ミ三人トモ此法律案ハ今日ニ最モ有益ナル施設ト
認メマシテ全然贊成ヲ表シタノデアリマス、寧ロ其點ニ於テハ一モ異論ハナカッタ、是ヨリ
各條ニ付テ述ベマスガ質問ハ出マシテモ修正ニナラナング條ハ略シテ宜シカラウト思ヒマス
ガ、ソレデ宜シウゴザイマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=2
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003・岡部長職
○委員長(子爵岡部長職君) 宜シウゴザイマセウ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=3
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004・富井政章
○富井政章君 第一條ニ付テハ大イニ質問ガ出マシタガ畢竟是デ宜カラウト云フコト
ニナリマシテ····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=4
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005・岡部長職
○委員長(子爵岡部長職君) チヨット富井君ニ御注意シマスガ質問ノ都合ニ依リマ
シテハ諸君ノ參考ニナリサウナ所ハ特ニ··発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=5
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006・富井政章
○富井政章君 ハイ第一條ニ關シテ我ミガ出シマシタ最モ重要ナル質問ハ第一項ノ
列記ハ果シテ完全ナモノデアルカ、是デ脫漏スルコトハ決シテ無イカト云フ質問デアリマシ
タ、政府委員殊ニ農商務省ノ當局者ハ責任ヲ以テ遠キ將來ハ知ラズ今日ニ於テハ現
行ノ法規ニ照シテモ亦實際ノ情況ニ照シテモ是デ缺〓ハ無イト認ムト云フ答辯デアリマ
シタカラ遂ニ原案ニ滿足シタノデアリマス、第二條ニ於テ二ノ修正ヲ加ヘマシタ、第二行
ノ「其ノ他ノ物」トアルヲ「其ノ他工場ノ用ニ供スル」ト致シタノデアリマス、其理由ハ原案
ノ如クニ「備附ケタル」トアルノミデハ範圍ガ廣過ルデアラウ、例ヘバ遊ビ道具ナドモ這入ル
譯デアリマス、ソレマデニスル必要ハ無カラウ、却ッテ弊害ガ有ルデアラウト云フ趣意デ工場
用ノ物ニ限ルト致シタノデアリマス、ソレカラ次ニ「所有ニ屬スルモノ」ノ數字ヲ削リマシタ、
是ハ言ハズトモ當然ノコトデアルト云フ理由ニ過ギナイノデアル······續ケテ終ヒマデズット
ヤリマセウカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=6
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007・岡部長職
○委員長(子爵岡部長職君) ズット願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=7
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008・富井政章
○富井政章君 第三條ニ於テハ第二行目ノ「前條ノ」以下ヲ改メタノデアリマス「其ノ
土地又ハ建物ニ備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物ニシテ前條ノ規定ニ
依リ抵當權ノ目的タルモノノ目錄ヲ提出スヘシ」ト改メマシタ、是ハ少シク實質ノ修正ニナ
リマス、前條ノ上段ニ規定シテアル附加シテ一體ヲ成スト云フコトヲ除ク主意デアリマ
ス、若シ是等ノモノニ付テマデ一々登記ヲ要スルト甚ダ煩雜ニ過ギルデアラウ、例ヘバ建
物ノ建增ヲシタト云フ如キ場合ニモ一々登記ヲ要スルコトニナル譯デアリマスガ、ソレデハ
餘リ煩ハシイト存ジマシテ斯ク改メタノデアリマス、ソレカラ第四條ニ於キマシテハ但書ト
云フ言葉ノ下ニ「ニ揭ケタル別段」ト云フ其數字ヲ加ヘタノデアリマス、是ハ唯主意ヲ明
瞭ニシタニ過ギマセヌ、第五條ハ最モヤカマシイ條文デアリマシテ之ニ付テハ今朝ニ亙ッテ
尙他ノ委員諸君ノ御意見モ伺ッテ假ニ御目ニ掛ケタ如クニ極メタノデアリマス、先ヅ第
一項ノ修正ハ文字ノ修正ニ過ギマセヌ「工場ノ所有者カ」以下ヲ改メマシテ「第二條ノ
規定ニ依リテ其ノ目的タル物カ第三取得者ニ引渡サレタル後ト雖其ノ物ニ付之ヲ行フ
コトヲ得」斯ク變ヘマシタ、其所以ハ本條ノ主意ハ人ノ方カラ見ルベキ規定デ無クシテ物
ノ方カラ見ルベキ規定デアラウ、條文其モノガ無效トナルニアラズシテ抵當權ノ效力ガ害
セラレナイト云フコトヲ規定シタノデアリマス、ソレ故ニドコマデモ物ヲ本體トシテ規定シタ
方ガ宜カラウト云フダケデアリマス、少シモ原案ノ主意ハ變ラヌノデアリマス、第二項ヲ置
キマシタ「前項ノ規定ハ民法第百九十二條乃至第百九十四條ノ適用ヲ妨ケス」ト致シ
タノデアリマス、是ハ原文第一項ノ但書ト殆ド同一ノ主意デアリマシテ政府委員ノ說明
ニ依レバ原文ニハ單ニ「善意ナリシトキ」トアリマスケレドモ、善意ニシテ且ツ過失ナキトキ
ト云フ主意デアルサウデアリマス、果シテ然ラバ直チニ民法第百九十二條ヲ引用シタ方
ガ至當デアラウ、且第百九十三條及第百九十四條ノ規定モソレト同時ニ引用スルガ
當然デアラウト考ヘマス、ソレデ此三箇條ヲ引クコトニ致シタノデアリマス、此條ニ付テ
起リマシタ大問題ハ若シ出來ルコトナラバ本案ノ主意ヲ極メテ例ヘバ第三取得者ガ善
意ニシテ過失ナキモノデアッテモ抵當權ノ實行ヲ受ケネバナラヌト云フ方ニスル方ガ宜イノ
アハスタラツカ、我ミニュウマリナルヲ希望シタンダリンシ、第三ツ
テハ實ニ酷ナ結果トナル譯デアリマス、殊ニ初ノ第三取得者ヨリ借受ケルトカ質ニ取ル
トカ致シタ轉得者ニ取ッテハ最モ迷惑ヲ感ズル場合ガ多ウカラウト思ヒマス、ツレ故ニ政
府委員トモ段々交涉シテ何カ策ガ無カラウカ、施行細則ニ於テ何カ方法ヲ設ケテ抵當
權ノ效力ヲ完ウスル仕方ガ無カラウカト云フコトヲ談ジタノデアリマスケレドモ、機械器具
等ニ一々燒印ヲ捺スト云フ譯ニモイカヌ、同ジヤウナモノガ澤山アル譯デアリマスカラ、ドウ
シテモ占有者ニ損害ガ生ズルト云フコトヲ防グト云フ譯ニハ參ラナイ、ソレ故ニ遂ニ此第
二項ヲ置クト云フコトニ致シマシタ、併シ之ニ付テ最モ諸君ノ御注意ヲ請ヒタイコトハ、
此條ハ初メ政府委員ヨリ說明モアリマシタ通リ工場財團ヲ作ッタ場合ニ適用セラレル規
定デハナイノデアリマス、單獨ニ土地又ハ建物ヲ抵當トシタ其抵當權ノ效力ガ機械、器
具等ニ及プト云フ、其場合ニ於ケル抵當權ノ效力ヲ定メタモノデアリマス、ソレ故ニ此場
合ニ於テハ左マデ抵當權ノ保護ヲ極端ニマデ全ウスル必要ハナカラウ、之ニ反シテ工
場財團ヲ作ッタ場合ニハ此中ノ一部分ヲ處分スレバ初ヨリ抵當權ノ目的トナッタモノヲ
減スノデアリマスカラ、擔保ノ效力ヲ完ウスル爲ニ寧ロ財團ノ中デ占有者ノ利益ヲ犧牲
ニ供スル方ガ至當ト考ヘタノデアリマス、是ニ付テモ餘ホド利害ノ判斷ニ惑フタノデアリ
マスケレドモ、既ニ第十三條ニ於キマシテハ本條第二項ノ如キ規定ヲ置カナイコトニ致
シタ、ソレ故ニ財團ノ上ニ抵當權ヲ設定シタ場合ニハ第三取得者ハ縱令抵當權者ヨリ
其モノヲ、取得シタ物ヲ取上ゲラレテモ致シ方ガ無イ、唯工場ノ所有者ニ對シテ損害賠
償ノ請求權ヲ有スルコトニナルノデアリマス、是ハ第三取得者ニ取ッテハ如何ニモ酷ニ感
ズル場合ガアリマスルケレドモ、ドウシテモ双方ノ利益ヲ調和スルコトハ出來ナイノデアリマ
スルカラ、折角斯ノ如キ法律案ヲ設ケタ以上ハ抵當權者ノ利益ヲ保護スル方ガ至當
デアラウト云フ考デ遂ニ第五條ニ違ッタ仕組ニスルコトニ決シタノデアリマス、其解釋ニナ
ルデアラウト云フコトハ第五條ニ置イタヤウナ第二項ノ規定ガ無イ、ソレカラ第四十九條
ノ第二項ヲ削ル積リデアリマス、卽チ財團ニ屬スルモノヲ處分シタモノニ適用スベキ罰則
ガ無クナル、サウシテ單ニ四十九條ノ第一項ニ於テ第五條ニ揭ゲタルモノヲ處分シタ場
合ノミニ適用スベキ罰條ヲ揭ゲル譯デアリマス、ソレデアリマスルカラ自ラ財團ガ抵當權ノ
目的トナッタ場合二ハ第五條第二項ノ如キ結果ニナラナイト云フモノデアリマス、斯ノ如ク
ニ財團ガ抵當トナッタ場合ニハ第三取得者ノ利益ヲ犠牲ニ供スルト云フコトニ致シタノ
デアリマスガ、如何ニモ忍ビザルコトヲ忍ンダノデアリマスルカラ我〓ハ充分政府委員ニ希望
ヲ表シテ置イタノデアリマス、卽チ後ニ此法律ノ施行細則ヲ定メラレルニ當ッテハ登記ノ仕
方、或ハ抵當權ノ目的トナルベキ物ノ示シ方等ニ付テ爲シ得ルダケノ制限方法ヲ設ケテ
抵當權ノ爲ニ不測ノ損害ヲ蒙ルモノ無キヤウニシテ欲シイト云フ意見ヲ述ベタノデアリマ
ス、ソレハ政府委員ニ於テモ爲シ得ルグケノ途ヲ講ジヤウト云フコトデアリマシタ、次ハ第
八條ニ一ツノ修正ヲ加ヘマシタ、第一ハ第一項ニ少シ文字ヲ附加ヘマシタ「數箇ノ工場
カ各別ノ所有者ニ屬スルトキ亦同シ」卽チ數人ノ者ガ別々ニ工場ヲ所有シテ居ルト一ムフ
場合ニ、ソレ等ノ者ガ共同シテ一ノ工場財團ヲ作ッテ之ヲ抵當權ノ目的トナスコトニス
ルコトガ出來レバ甚ダ便利デアラウト云フ考デアリマス、原文デモ其解釋ニナルカモ知レマ
セヌガ餘ホド疑ハシイト存ジマシテ是ダケノコトヲ書加ヘルコトニ致シタノデアリマス、ソレカ
ラ第三項トシテ「工場財團ハ抵當權ノ消滅ニ因リテ消滅ス」ト云フ一項ヲ置クコトニ
致シマシタ、是ハ此項ガ無クトモ第四十八條ノ規定ヨリシテ間接ニ分ルコトデハアリマ
スガ少シ明瞭デナイ、工場財團ト云フモノハ單ニ抵當權ノ目的ノ爲ニノミ存在スルモノ
トスル立法ノ精神デアリマスルガ故ニ其主意ヲ明瞭ニスルニ必要デアラウ、既ニ鐵道抵
當ニモ同樣ノ規定ガアリマスニ依テ斯ノ如キ一項ヲ置クコトニ致シタノデアリマス、ソレ
カラ第十條ニアル「一箇月」ヲ「二箇月」ト致シマシタ、是ハ一箇月デハ餘リ短キニ失スル
デアラウト云フ主意ニ過ギナイノデアリマス、工場財團ヲ抵當ニ入レルト云フコトニ付テ
ハ固ヨリ保存登記ノ前ニ株主總會ヲ開クト云フコトヲ云フノデアラウト思ヒマスケレド
モ、尙此事ニ關シテハ一度ナラズ總會ヲ開クト云フコトハ必要ナ場合モアラウト思ヒマス
カラ、今少シ期間ヲ長クシタ方ガ宜カラウト云フ考デアリマス、ソレカラ第十一條ノ一ヲ
「工場ニ屬スル土地及工作物」ト致シテ第三ノ「土地及」三字ヲ削ルコトニ致シマシタ、
是ハ唯條文ヲ簡明ニシタニ過ギマセヌ、第二號ノ「船舶、牛馬」ヲ削リマシタノモ例示
法デアル以上ハ斯ノ如ク多クノ物ヲ列ベル必要ハ無イト云フ考ニ過ギマセヌ、第四ノ「土
地又ハ水ノ使用權」ト云フモノヲ削リマシタ、此〓ニ付テハ十分ニ諸君ノ御考ヲ煩シタ
イ、「土地又ハ水ノ使用權」ト云フモノハ最モ多クノ場合ニ於テハ地役權デアラウト考ヘ
ルノデアリマス、地役權デアレバ第十六條ニ規定シテアル、此所ニ改メテ書ク必要ハ無
イノデアリマス、唯行政法規ニ於テ特殊ノ使用ヲ認メタ場合ガ無イカト云フコトガ一ツ
ノ疑問デアリマス、原案モ多分、主トシテ其場合ヲ云フ積リデアッタノデアリマセウ、最モ疑
ハシキ場合ハ例ヘバ河川法ノ第十八條ニ規定セル場合ノ如クデアラウト思ヒマス、併シ
是ハ純然タル權利デナイト云フ說モアルクラ井デ、一ノ權利トシテ認メルト云フコトニ付テ
ハ餘ホド疑ガ存シテ居ルノデアル、又政府委員カラ聞ク所ニ依レバ此權利ノ如キハ一
身ニ專屬スル權利デアッテ相續人ニ移ル權利デナイト云フヤウナ說明モアリマシタ、果シテ
然ラバ純然タル權利トシテ之ヲ認メルト云フコトハ甚ゲ不安心ニ思ッタノデアリマス、鐵道
抵當法ヲ見マシテモ「用水ニ關スル工作物及其ノ敷地竝之ニ屬スル器具機械」トソレ
カラ「地役權」ト、水ニ關シテハ此二ツシカ揭ゲテナイ、果シテ然ラバ其第一ノモノハ有體
物デアリマシテ此條ノ第一及ビ第二ニ這入ルノデアリマス、水ノ使用權ノ方ハ鐵道抵
當法ニ於テモ改ッタ第五號ノ地役權ニ這入ルヨリ外仕方ガナイト思ヒマス、果シテ然ラ
バ此法律案ニ於テハ地役權ハ第十六條ニ規定シテアリマスガ故ニ、之ヲ削ッテモ鐵道
抵當法ト內容ヲ異ニスルト云フコトニナラヌト考ヘマス、旁。以テ此一號ハ削ルコトニ致
シマシタ、ソレカラ第十三條ノ「他人ニ屬スル物權若ハ貸借」トアリマスノヲ「他人ノ權
利」ト改メマシタ、是ハ殆ド文字ノ修正ニ過ギマセヌ、物權ト貸借ト列ベルト云フコトハ
如何ニモ體裁ガ惡イト考ヘタノデアリマス、權利ト法律行爲ト列ベルト云フコトハ如何
ニモ面白クナイ、第二項ニ於テ「所有權以外ノ物權、貸借」トアルノヲ「所有權以外ノ
權利」ト致シタモ同一ノ趣意デアリマス、此後ニ數箇條ノ修正ガアリマス、皆ナ同ジ理
由ニ基クモノデアリマス、第二項ノ終ニ一ノ重要ナル修正ヲ加ヘマシタ「但シ抵當權者
ノ同意ヲ得テ賃貸ヲ爲スハ此ノ限ニ在ラス」是ハ或ル場合ニ於テハ工場財團ニ屬スルモ
ノヲ利殖スルコトニナルノデアリマス、故ニ甚ダ重要デ必要デアラウト思フ、而シテ抵當權
者ノ同意アル以上ハ少シモ弊害ナキコトデアラウト思ヒマス、ソレ故ニ此同意ト云フ制限
ヲ以テ賃貸ヲ認メルコトニ致シタノデアリマス、第十四條第二項ハ「物權ノ目的又ハ貸
借」トアルヲ「權利」ト致シタ所以ハ前ニ申シタ通リデアリマス、唯文字ノ修正ニ過ギヌノ
デアリマス、「但シ抵當權者ノ同意ヲ得テ之ヲ賃貸スルハ此ノ限ニ在ラス」ト云フ但書ヲ
置クコトニ致シマシタ、是モ實質上ノ一大修正デアリマシテ、其理由ハ第十三條第二項
ニ付テ申上ゲタ所ト相異ルコトハアリマセヌ、此場合ニ於テハ殊ニ有要デアラウト考ヘタ
ノデアリマス、先日委員會ニ於テ小松原君デアリマシタカ、縷々御述ベニナリマシタ通リ
財團ガ手腕ノ足ラナイ人ニ依テ管理セラレテ居ル爲ニ十分ニ利益ヲ生ジナイ、生ジ得ル
ダケノ利益ヲ生ジナイ、斯ル場合ニハ第一ニ抵當權者ガ損害ヲ蒙ル、第二ニハ工場ノ所有
者モ損害ヲ蒙ル譯デアル、尤モ工場ノ所有者ハ巨額ノ負債ヲ爲シテ居レバ痛痒ヲ感ジナ
イ、自暴自棄デ自分ヨリ進ンデ利殖ノ途ヲ圖ラナイカモ知レマセヌガ、抵當權者ニ取ッテハ
斯ル場合ニハ甚ダシイ迷惑デアリマス、競賣トカ云フヤウナ事ハ素ヨリ最後ノ手段デ、成ル
ベク病ニ罹ルヨリモ病ニ罹ラヌ中ニ豫防スル方ガ宜イト云フ理窟デ、成ルベクハ競賣ナド
ハセズニ濟ムヤウニシタ方ガ宜シイノデアリマス、ソレ故ニ此場合ニ於キマシテモ抵當權者
ノ同意ガアレバ少シモ差支ナイコトデアリマスルニ依テ賃貸借ヲ許スコトニ致シタ譯デアリ
マス、第二十三條ニ於キマシテ「職權ヲ以テ」ノ上ニ「登記官吏ハ」ノ五字ヲ加ヘマシタ、
是ハ登記官吏ニ違ヒナイト誰モ解スルノデアリマスガ、主客ガ隱レテ居ッテ如何ニモ體裁
ガ惡イト認メタダケノコトデアリマス、第二十四條ノ「前條ノ場合ニ於テ」ノ下ニ「登記官
吏」ノ四字ヲ加ヘタノモ同樣ノコトデアリマス、其行ノ終リニ「動產ニ付物權若ハ貸借ニ
因ル」トアリマスノヲ「動產ニ付」ト致シマシタノハ前キニ申上ゲタ第十三條ニ於テ「物權
若ハ貸借」トアルヲ「權利」ト改メマシタ筆鋒ニ倣ッタニ過ギマセヌ、此條第一項ニ但書
ヲ加ヘルコトニ致シマシタ「但シ其ノ期間ハ一箇月以上三箇月以下トス」、原文ニハ單ニ
一定ノ期間內トナッテ登記官吏ハ五日ト極メルコトモ出來ル、一年ト極メルコトモ出來
ル少シ極端デハアリマスケレドモ最長期モ最短期モ極メテナイガ爲ニ、同ジヤウナ場合
ニモ實例ハ區々ニナルデアラウト思ヒマシテ、公平ヲ得ル爲ニ斯ノ如ク最長最短ノ兩期
ヲ法律ニ一定スルト云フコトニシタ方ガ穩カデアラウト一云フコトヲ考ヘタノデアリマス、斯ノ如
キ例ハ民法ナドニモ多少アルト考ヘマス、第二十五條第一項ノ一物權又ハ貸借ニ因ル」
ヲ「其ノ」ト致シマシタノハ前ノ文例ニ倣ッタニ過ギマセヌ、第二十七條第一號ノ「他人ニ
屬スル物權若ハ賃借權」トアルノヲ「他人ノ權利」ト致シタノモ同一デアリマス、此場合
ハ權利ト法律行爲ト竝ンデ居ルノデハアリマセヌ、物權ト賃借權ト竝ンデ居ルノデアリマスケ
レドモ既ニ登記簿ニ依テ玆ニ書イテアル事抦ガ目的タルコトガ明白デアルト云フ以上ハ
自カラ物權若クハ登記シタル賃借權ニ限ルト云フコトハ分リ切ッタコトデアリマス、果シテ
然ラバ他人ノ權利ト云フテ差支ナイコトデアル、却テ其方ガ正シイト考ヘタノデアリマス、
同條第三號「動產ニ關シ物權若ハ貸借ニ因ル權利」トアルノヲ「動產ニ付」ト改メマシタ
ノモ前ノ文例ニ出デタニ過ギマセヌ、第二十八條ノ場合ニ「登記官吏カ」ト入レマシタノ
モ唯體裁上ノ理由ニ出デタノデアリマス、第二十九條ノ「物權若ハ貸借」ヲ「權利」ト
致シマシタノモ更ニ說明ヲ要スルコトデナイト思ヒマス、第三十三條第一項モ同樣、第三
十四條及第三十七條ノ初ニ「登記官吏カ」ト云フ五字ヲ加ヘマシタノモ前ニ申シタノト
同一ノ理由デアリマス、第三十八條第二項ニアル「承諾書」ヲ「同意書」ト改メマシタノ
ハ第六條、第十三條、第十四條等ニ於テハ何時モ同意ト云フテアル、ソレ故ニコヽモ
「同意書」ト云フタ方ガ穩當デアラウト云フダケノコトデアリマス、「又ハ之ニ對抗スルコト
ヲ得ヘキ」ヲ「之ニ代ルヘキ」ト改メマシタ、是モ文字ノ修正ニ過ギマセヌ、「同意書又ハ之
ニ」ト云ヘバ「之」ト云フ言葉ハ同意書ヲ受ケルガ穩カデアラウト思フ、然ルニ原文ニ依レ
バ抵當權者ヲ受ケルコトニナッテ居ル、サウシテ抵當權者ニ對抗スルコトヲ得ベキ裁判ト
云フ言葉ハ不動產登記法ニハ用井テアリマスガ少シ明瞭デナイ、抵當權者ガ不當ニ同
意ヲ拒ンダ場合ニ同意書ガ代ルノデアル、同意ト同一ノ效力ヲ有スル裁判ヲ言フノデアリ
マスカラ寧ロ「之ニ代ルヘキ」トシタ方ガ明瞭デアラウト考ヘタノデアリマス、ソレカラ第四
十二條ニ於キマシテ二箇所「消滅」ヲ「滅失」ト斯ウ改メマシタ、第四十四條ニモ二箇
所アリマス、是ハ消滅ト書イテモ面白クモナシ、又滅失ト書イテモ面白クナイノデアリマ
ス、「モノ」トアル所ハ有體物モ權利モ含ンデ居ルノデアル、民法其他ノ法令ノ用例ニ從
ヘバ權利ハ消滅ト云ヒ、有體物ハ滅失ト云フコトニナッテ居リマス、ソレ故ニ兩方ノモノ
ニ通ジタ言葉トシテハ滅失又ハ消滅ト云フヨリ外ハナイノデアリマス、併ナガラソレモ諄イ、
而シテ工場財團ヲ組成スルモノハ權利ハ少ナクシテ有體物ガ多イノデスカラ、寧口有體
物ヲ眼中ニ置イテソレニ通ズル言葉卽チ「滅失」ト云フコトニシタ方ガ穩カデアラウト云フ
ダケノコトデアリマス、是ナドハ何レデモ宜シイカト思ヒマス、ソレカラ第四十六條ノ「利害
關係人」ヲ「抵當權者」ト改メマシタ、是ハ實質上可ナリ大キナ修正デアラウト思ヒマス、
原案ニ依レバ單ニ「利害關係人ノ申立」トアリマスカラ是ハ利害關係人殘ラズト云フコ
トデハ無カラウ、卽チ如何ナル利害關係人ト雖モ本條ニ定メタル申立ヲナスコトガ出來
ル、而シテ其場合ニハ裁判所ハ工場財團ヲ個々ノモノトシテ競賣又ハ入札ニ付スベキ旨
ヲ命ズルコトガ出來ルノデアリマス、然ルニ此條ニ規定シタル裁判所ノ權力ト云フモノハ
實ニ强大ナルモノデアッテ非常ナ異例デアラウト思フ、工場財團ノ抵當權ノ目的トナッタ
モノヲ、ツレヲ崩シテバラ〓〓ニ競賣ニ付スルト云フコトハ初ヨリ當事者ガ考ヘタ所ニ違反
スルコトデアッテ、斯ノ如キコトヲ濫用セラレルヤウナコトガアッテハ餘ホド困ルダラウト思フ
ノデアリマス、ソレ故ニ成ルベク狹メタイ、成ルベク狹メテ工場ノ所有者ガ言フテ出テモイ
ケナイ、又普通ノ債權者ガ言フテ出テモイケナイ、サウ云フ利害關係人ノ申立ハ斥ケテ
單ニ抵當權者ノ申立デナケレバナラヌ、而シテ抵當權者ガ數人アレバ例ヘバ一番抵當、
二番抵當、三番抵當ト云フヤウニ幾人モアレバ其全員ノ申立ヲ必要トスル、別ニ全員
ト書カナケレバ全員トナルダラウト思ヒマス、現ニ鐵道抵當法第七十條ニハ丁度本條ト
對等スル場合ニ就テ抵當權者ト言フテアル、而シテ政府委員ノ說明ヲ聞ケバ、抵當權
者ガ數人アル場合ニハ其全員ヲ言フ主意デアルコトハ勿論デアルト云フ說明デアリマシ
タ、次ニ第四十九條第一項ノ文字ヲ少シ改メマシタ、第一行ノ終リカラ變ルノデアリマ
ス「權限ヲ有スル者カ讓渡又ハ質入ノ目的ヲ以テ第二條ノ規定ニ依リ抵當權ノ目的タ
ル物ヲ第三者ニ引渡シ又ハ引渡サシメタルトキハ」云々、是ハ原文ト殆ド實質ガ變ルコト
デハアリマセヌガ、原文ニ質入ノ場合ガ除カレテ居マス、是ハ讓渡ノ場合ト少シモ區別ス
ベキモノデナイト思ヒマスカラ質入ノ場合ヲ加ヘルコトニシタノデアリマス、ソレカラ第二項
ヲ削ルコトニ致シマシタ、是ハ先刻第五條ノ修正ヲ說明イクシマシタ時ニ申上ゲマシタ
通リ、工場財團ニ屬スルモノヲ處分シタ場合ニハ常ニ抵當權者ヲ保護スルト云フ主義
ヲ採ッタ結果デアリマス、抵當權者ガ如何ナル場合ニ於テモ損害ヲ被ラナイト云フコトデ
アル以上ハ、抵當權者ニ損害ヲ被ラシムルヲ目的トシテ爲シタ行爲ヲ罰スル必要ハ無イ
譯デアリマス、本條ノ主意ハ抵當權者ヲ害スル行爲ヲ、間接ニ其事實ノ生ズルコトヲ
豫防シヤウト云フ主意デアルト解スルノデアリマス、果シテ然ラバ此項ハ寧ロ削除シタガ至
當デアラウト云フ考デアリマス、又第三項ノ「本條」ヲ「前項」ト改メタイト思ヒマス、ソレカ
ラ第五十條「毀壞」ト云フコトガ二箇所アリマスガ、之ヲ「毀損」ト致シタイ、「毀壞」ト云
フト壞シテ仕舞フト云フ言葉デアリマスルガ、壤サナクテモ此條ニ依テ罰シテ宜イ所爲ガ
澤山アラウト思ヒマス、大切ノ書物ニ一面ニ墨ヲ塗ッテ仕舞ッタトカ云フヤウナ場合ガア
ラウト思フ、尤モ「毀損」ト書ケバマルデ壞シタト云フ場合ハ漏レルカモ知レナイガ、併ノ
此場合ハ罰スル方カラハ、小ハ大ヲ兼ネルト云フ方ノ見方ガ宜イノデアラウト思フ、無論
「毀損」ト言フテ置ケバ「毀壤」ハ含ムト云フコトニナルト思ヒマス、或ハ毀、損ト別ケテ讀
メバ毀ノ方ハヒドイ所マデイクカモ知レナイ、兎ニ角毀損ノ方ガ宜カラウト云フ考デアリマ
ス、ソレカラ「他人ヲシテ」ト云フノハ無益デアラウト思フ、ソレデ之ヲ削リマシタ、修正ノ
〓ハ以上述ベタダケデアリマス、尙御分リニクイ所ガアレバ十分ニ御質シヲ願ヒマス、尙
足ラヌ所ガアレバ十分ニ御加ヘヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=8
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009・岡部長職
○委員長(子爵岡部長職君) 諸君、先刻來小委員ノ御一人タル所ノ富井君カラシ
テ審査ノ結果ヲ御報告ニナリマシタ、三君ノ昨日來ノ非常ナル御勉强ヲ以テ斯ク精密
ナル審査ヲ遂ゲラレマシタコトニ對シマシテ我ミハ誠ニ三君ニ向ッテ謝スル所デアリマス諸
君ニモ此修正ニ付テ別ニ御質問ガ無イ樣デアリマスカラ、是ヨリ逐條討議ニ移ルノデア
リマスガ、大體ニ於テハ無論諸君ニ於カレテモ御異議ナイコトト認メテ逐條議ニ移ラウト
考ヘマス、御異存ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=9
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010・岡部長職
○委員長(子爵岡部長職君) 然ラバ逐條議ニ移リマスガ、旣ニ諸君カラ御質問モ無
イ位デアリマスカラ、全部ヲ一括シテ問題ニ供シテ宜シウゴザイマスカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=10
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011・岡部長職
○委員長(子爵岡部長職君) 然ラバ全部ヲ一括シテ問題ニ供シマス、小委員ノ修正
ノ通リ全部可決ト認メテ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=11
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012・岡部長職
○委員長(子爵岡部長職君) 然ラバ可決ト認メマス、是デ一讀會ガ終リマシテゴザイ
マスカラ三讀會マデ引續イテ決了シタモノト認メテ宜シウゴザイマスカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=12
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013・岡部長職
○委員長(子爵岡部長職君) 然ラバ是デ議決イタシマシタ
午後二時一分〓會
出席者左ノ如シ
委員長子爵岡部長職君
委員
子爵新莊直陳君名村泰藏君平山成信君
小松原英太郞君山脇玄君男爵吉川重吉君
男爵藤大路親春君馬屋原彰君富井政章君
穗積八束君
國務大臣
司法大臣波多野敬直君
政府委員
司法次官石渡敏一君司法省民刑局長河村讓三郞君
農商務省森田茂吉君
商工局長発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002100879X00419050217&spkNum=13
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