1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
○日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に関する法律案
○日本國憲法の施行に伴う民事訴訟法の應急的措置に関する法律案
○日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律案
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昭和二十二年三月三十一日(月曜日)
午前十時三十六分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=0
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001・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 是より委員會を開きます、「日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に關する法律案」外二件に付て御質問がございますならば御繼續を願ひます、御質問はございませぬでせうか、……御質問もないやうでありますから、是より討論に入りたいと存じますが、御異議はございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=1
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002・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めて討論に入ります、便宜上「日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に関する法律案」外二案を一括して議題と致します、御發言がありましたら御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=2
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003・牧野英一
○牧野英一君 此の三案の中民法の應急措置に關する法律案に付て一言申上げたい、此の民法ばかりでございませぬ、三案共に應急的措置に關する法律案であると云ふことを十分心得なければなりませぬ、從つて根本的な議論、又理論的に意見を申述べると云ふことは適當でないかと存ぜられまするけれども、併しながら此の應急措置に關する法律案の内容は、後日本式の法律が出來る時に、矢張り重大なる影響のあるものと考へられますし、のみならず此の法律それ自體として今日に於て、既に世上に誤解を招く虞があると云ふことを慮らねばなりませぬ、さう云ふ立場から少しばかりのことを申し出ることを御許しを願ひたい、民法の應急措置に關する法律案に付ては、質問の時に申上げました通り、此の法律が如何にも消極的な法律であると云ふことの爲に、却て風教を害する虞さへがありはしないかと思ふのであります、即ち我々の家族生活とは、個人の尊嚴と兩性の本質的平等をのみ原則とするのであると謂ふかの誤解を生ずるかと思ふのであります、又現に私の狹い經驗の中に於ても、相當な知識階級の人が誤解を生じて居るのに接したこと一、二にして止らないのでありますが、本會議に於て我妻君の質問になつた御言葉の中にも、明かに此の誤解と云ふことが申述べられて居るのであります、固より應急措置に關する法律として、個人の尊嚴と兩性の本質的平等に付てのみ、是は應急措置であると云ふことは、第一條に明かにせられて居りまするので、世の中の誤解は飽く迄も誤解でありまするけれども、我々の家族生活と云ふものは、一方に於ては固より二つの原則でありまするけれども、他の方面に於ては敬愛と協力との積極的な二つの原則を必要とする譯でありまするので、其の點が何等かの形に於て此の應急措置の法律案に明かにせられて居ることを私は希望致したいので、出來ることならば修正案を提出したいと思ふのであります、併しながら差迫つた今日、修正案を提出すると云ふことも出來ますまいから、後刻希望決議案を提出することに依つて此の案を賛成を致したいと思ひまするが、私共の心持だけは一つ御諒察願ひたいと思ひます、只今も同僚の方からして御注意がありましたが、第四條に、「成年者の婚姻、離婚、養子縁組及び離縁については、父母の同意を要しない」と云ふ規定、書き方……法律家に取つては現行の民法を本に致しまするから何でもないのでありますけれども、之の規定が世の中に現れまする時に、今後婚姻に付ては父母の同意を要しない、固より憲法には兩性の合意のみに依りとありまするから、此の規定はそれを承けたことで誠に尤もな規定ではありまするけれども、此の四條の規定と云ふものは、風教を援けないのでなくして、風教を却て害する虞迄もありはしないかと心配されるのであります、法律が風教其のものをそれだけに維持すると云ふことは言へないにしても、矢張り法律が風教を援けると云ふ所迄は行かなければなりますまい、殊に法律が風教に反對の效果を及す虞があると云ふやうなことは、餘程立法としては愼しまなければならぬことであらうかと考へるのであります、只今の第四條は一例に過ぎませぬが、此の法案を全體として見た時に、如何にも私共としては一種の不愉快をさへ禁じ能はざるものがあるやうな氣が致しますのであります、それで後刻尚申上げますが、我々は此の法案を通過せしめるに付ても、我々の親族、相續の關係は、單に憲法に示されて居るやうな、個人の尊嚴と兩性の本質的平等だけを原則として居るのではない、斯樣な消極的原則を出發點として、更に積極的に敬愛と協力との原則を考へて居る、さう云ふ豫定を明かにすることに依つて、此の法律案を承認すると云ふことを明かに致したいと思ふのであります、第二には民事訴訟法の法律案に付て申上げます、それに付ては、私は多くの意見を持つて居りませぬ、唯昨日、第二條に付ての質問がございまして、日本國憲法及び裁判所法の制定の趣旨に合ふやうに解釋しなければならない、私は此の規定の、是は學問上一種の概括的條項になる譯でありまするが、之に對する同僚の方の質問に對する政府の説明と致しましては、極めて事務的の點に付て色々御示しがあつたので、御尤もに拜聽致しましたが、併し成る程憲法の中には民事訴訟法と云ふものに付ての直接の規定はございませぬけれども、併し民事訴訟法と云ふものが今日の極めて形式的な、極めて煩瑣なものであることから、餘程趣を變へて來なければならぬと思ひます、其の第一歩と致しまして、裁判所法に於ては、簡易裁判所の性質として、民事訴訟法の精神が一變しなければならぬと云ふことを、臨時法制調査會に於て特に主張して置きましたので、其處では御採用願へましたのでございまするけれども、議會の法案としてはそれが御採用になることが出來ませぬでした、併し憲法を單に其の消極的な方面に於て眺めるばかりでなく、其の消極的な改革を更に積極的に展開、擴充すると云ふことになりますと云ふと、民事訴訟法に於ても相當に大きな改革があつて然るべきものであると思ひます、應急措置に關する法律に於てそれを明かにすると云ふことは出來なかつたでございませう、併しながら憲法の解釋が進むに從つて第二條の運用と云ふものには、大きな顯著な變動があり得るものではないかと考へて居りますのですし、さう云ふことの豫定の下に、私は此の法律案に賛成を致したいと思ひます、言換へれば民事訴訟法改革の全面的な改正の時に於ては、民事訴訟法に對する世界的な新たな要望が如何なるものであるかと云ふことを、更に十分當局に於ては御考へ直しを願ひたいと思ふのであります、從來の民事訴訟法は、如何にも論理的に其の構造に於ては立派なものではありますけれども、何處迄も十九世紀の舊い個人主義の形が殘つて居りますが、是は餘程趣を異にすることにならねばならぬと云ふことは、少くともヨーロツパの大陸派の人々は之を議論致して居るのであります、英米法の方は、實は私能く心得て居りませぬ、併しながら英米法の少くとも法律の書物を讀みますと、是は甚だ英米らしく傳統的なものに泥んで居りますので、今後どう云ふ風に改革になるのでございませうか、甚だ不案内でありますが平素大陸の法律思想を研究して居りまする立場から考へまして、憲法との關係上第二條には、當局の説明を超えて思想的な、理論的な或ものを我々は考へて居ると云ふことを申上げて置きたいと思ひます、次に刑事訴訟法に付てでござりまするが、刑事訴訟法の第二條にも同じことが見えて居りますので是は民事訴訟法に付て申述べたと同樣でござりまする、次に刑事訴訟法に於きましては、質問の時に申上げました通り、第八條の第二號でございまする憲法に現れて居りまする「司法官憲」と云ふ言葉は、誠に是は困つた言葉と申しては相濟まぬ恐縮な次第でございますれども、憲法審議の當時、大いに議論のあつた點で、是が刑事訴訟法に如何なる影響を及すかと云ふことに付ては、甚だ懸念に堪へざるものがありまするので、私は特に修正意見と云ふものを提出して、色々御相談申上げた次第でありまするけれども、致し方がない、「司法官憲」で通りました、そこで第一に心配せられまするのは、第二號の規定が憲法に反するものと認められる、解せられる虞がないとせずと云ふことを考へて置かねばなりませぬ、最高裁判所が、斯樣な手續に依つて、檢察官又は司法警察官が人を逮捕したる時に、其の處分を無效なるものとすると云ふことになり、其の結果國家賠償の問題に迄立ち至る虞があると云ふことを考へて置かねばならぬと思ひます、此の點に付ては憲法の規定を如何樣に解釋するにしても差障りのないやうに、當局に於ては微妙な立案があるべきものかと窃かに期待をして居りましたが、矢張り差當り致し方がなかつたのでございませうか、斯樣な規定になりまして、此の點に付ては最高裁判所の意見次第では、結局大きな問題が起る虞があると云ふことを留保して、私は此の案に賛成を致したいと思ひます、誠に貴族院として立法の審議に與る者が、斯樣な曖昧な考を述べて置くと云ふことは恐縮な次第でございまするけれども、今突如として此の案を手に致しましては、私の方でも之に對する對案を考へるに聊か骨が折れますので、多少の日子を與へられ、餘程考慮しなければならぬ問題でありまするけれども、其の考慮も許されない今日、矢張り此の法案を此の儘として私としては賛成を致しまするけれども、併しながら此の案を、此の案として提出せられた政府に於ては十分の御覺悟も御ありになつたことでございませうが、我々としては其の懸念の次第だけは申述べて置きたいと思ひます、斯樣な懸念の下に併しながら斯樣な制度のあることは實務上御尤もであると云ふことは私は十分拜察申上げまする、そこで其の運用のことを考へますと云ふと、第二號に「直ちに裁判官の逮捕状を求める」と云ふことになつて居ります、實は若し檢察官及び司法警察官吏が司法官憲であると云ふことに付て十分の信念を御持ちになるならば、こんな遠慮には及ばぬ譯で、もつと立派に動きの附くやうに御規定になつたらどうかと思ふ次第でございますが、併し政府委員の説明と致しましては、其處に矢張り、十分遠慮をして是だけのことを規定したと云ふ御説明でございました、それはそれとして伺ひまするが、同時に併し「直ちに」とあつて、如何にも敏速に事が運ばれるやうになつて居りまするけれども、それには別に制限がございませぬので、「直ちに」は、唯「直ちに」なつて居りまする、要するにそれは刑事訴訟法第百二十七條及び第百二十九條の制限を受けるに止まると云ふことになりますると云ふと、折角御遠慮になつた「直ちに」が、實は大した效能のないことになります、と云ふ風に、段々考へて見ますと云ふと、此の規定は如何にも新憲法に依つて人權擁護の爲に、人權保障の爲に周到に御出來になつたやうに思ふのでありまするが、斯樣な形式にも拘らず、實は從來通り如何樣にともやれる途が開いてあると云ふことになる譯であります、此の規定の下に於ても、法を運用する者の精神が改まらぬ限り、盥廻しでも何でも出來る途は十分あるかのやうに私は考へまするので、其の點は我々として、矢張り氣附いて居ると云ふことだけを申上げて置きたいと思ふのであります、併しそれかと言つて、是も何とかもう少し考へて見たいと思ひましたけれども、今此の短日月、毎日色々忙しい此の開會中としては、私共としても、今直ちに修正の案を用意すると云ふだけの餘裕がございせぬ、當局に於ても十分御考になつた上での御立案と私は拜察致しまするので、私共の懸念だけを、此の點に付て申上げて賛成を致したいと思ひます、次に第十條でございます、第十條に付て昨日の質問の時に、憲法の通り御書きになつたかと云ふことを申しました、それに付て憲法の「抑留」「拘禁」と云ふ言藥を其の儘御用ひになつて居る點に付、私の疑として居る點を申述べて、政府委員から説明を伺ひました次第でございます、憲法に於きましては「抑留」及び「拘禁」と云ふ文字が尚二箇條に用ひられて居ります、それ等を相對照して考へますることに依つて、此の「抑留」及び「拘禁」と云ふ文字の意義、解釋に付ては、既に餘程議論があるのであります、其の議論のことは兎に角と致しまして、此の應急措置法に於ては「勾留」と云ふ文字を使つて、現行の刑事訴訟法と足並を揃へてあるのであります、之に付ては憲法の當時、司法大臣に御伺を申しまして、「抑留」又は「拘禁」と云ふことに付ては、どう云ふ意味に御解釋になつて居るかと云ふことを伺つて置きましたが、其の時の御説明として私が記憶して居る所と、昨日政府委員から伺つた説明との間には、どうも食ひ違いがあるやうに思ひまする、そこで其の食ひ違いのことを今此處で更めて申す積りもございませぬ、それで若し憲法の規定を此處へ此の儘御取入れになるならば、外の第八條に於ては憲法の規定を刑事訴訟法に順應せしめて……、其處には「抑留」とか「拘禁」とか云ふ文字が用ひられて居ない、刑事訴訟法だけでうまく動くやうになつて居りまするのですから、十條に付ても、矢張り刑事訴訟法らしい用語に御改めになつて、我々が適用をする上に、はつきりするやうに御用ひ下さつたならば、刑事訴訟法としてはもつと體を成したことになるのではなからうかと考へる次第でございますけれども、まあ是は憲法の規定を矢張り心得の爲に擧げたことで、其の儘持つて來たと云ふ御説明でございまするので私としては其の説明の御心持は十分伺ひまするけれども、刑事訴訟法の立案としては、後日無用な誤解を生じて、徒に紛議を生ずることになりはしないか、其の意味に於て刑事訴訟法の立案としては、用意が少し缺けて居るのではないかと云ふ疑を持つのであります、併しながら是も暫定の規定でございますので、何れ全面的に刑事訴訟法を修正なさいます時には、十分に御考慮になることでございませう、さう云ふ私共の心配、或は以上申上げました各種の心配は杞憂に過ぎないかも知れませぬ、或は私が誤解をして居るのかも知れませぬけれども、數日來、此の法案を繰返し拜見致しました所で斯樣な疑、心配を持つて居ると云ふ次第を披瀝し、併しながら此の事情でございまするから、此の三法案に對しては賛成の意を表しますると云ふことを申上げて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=3
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004・我妻榮
○我妻榮君 私は「日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に關する法律案」に付て二つの點で意見を述べて置きたいと考へます、第一は此の均分相續と云ふ制度を本法案が採つて居りまするが、それに關聯して農業家族の相續と云ふ問題であります、均分相續と云ふ原則を此の法案が採つて居りますと云ふことは、新憲法の理想から見て尤もなことだと思ひます、從來のやうに長男が全財産を相續して、次男以下が何等の財産の分配に與らないと云ふことは、子供達の間の非常な不公平、不平等である、又次男以下の子供達が經濟的發展をする基礎を十分に持ち得ないと云ふやうなことから、均分相續と云ふ原則を採ると云ふことが、正に新憲法の要請する所だと云ふことは、私固よりそれを認めるのであります、併し此の原則を文字通りに適用して行きますと、日本の農業が滅亡に陷る外ないだらうと云ふことは、昨日あたりの各委員會の御發言からも十分窺はれる所であります、で、私の考へる所に依りますと、農業家族、殊に自作農の家族に於ては、相續に當つて其の自作地を分割することは絶對に許されない少なくも三町歩以下と云ふやうな、當局が所謂適正規模の自作農として居られる、其の最小限度の農地は相續に因つて絶對に分割しちやならないと云ふことが第一點だと思ひます、それから次に、農地其のものを分割しないと致しましても、次男以下の子供達に金で分けてやると云ふことになりますと、農業を承繼する子供が立上り際から、非常に澤山の債務を負擔すると云ふことになる、さうすると、農地は割れない即ち經營は割れなくても、借金を生ずると云ふことになつて、經濟的には矢張り割れたと同じ結果になる、此の點も亦之を防止しなくちやならない、即ち第一の問題としては、農地を相續に因つて分割しないと云ふことでありますが、更に加ふるに、相續に因つて借金を生ずると云ふことをも防がなければならない、此の相續に困つて農地の分割することと、所謂債務過重になると云ふこととを防ぐと云ふことは、どうしても立法を以て考へなければならない重大な事だと思ふのであります、斯樣に農業の場合に、特別の立法的措置を講じなくちやならぬと云ふことは、決して長男の特權を認めようと云ふのではないのであります、のみならず家と云ふものの財産を鞏固にしようと云ふことを考へて居るのでもないのであります、社會的の立場に立つて、日本の農業を維持發展させなくちやならぬと云ふ、さう云ふ立場から言つて居るのであります、從つて新憲法が子供達の間の平等と云ふものを要請すると致しましても、新憲法は同時に社會公共の福祉と云ふことを非常に強い理想として居るのでありますから、我が國農業を維持發展すると云ふ社會公共の目的から見て、均分相續と云ふ原理に、必要なる調整も加へて行くと云ふことは、決して新憲法の趣旨に反するものではないと私は確信するのであります言換へて申しますと、均分相續は新憲法の要請する原理である、併しながら日本農業の維持發展と云ふ社會公共の立場から、之に相當の調整を加へると云ふことも、亦新憲法の禁ずる所ではないと云ふ風に考へるのであります、さう云ふ意味で、當局は此の法案と同時に、さうした特別の立法的措置をなさるべきであつたと私は思ふのであります、併し昨日當局の御説明に依りますと、當局もさう云ふ御考ではあつたのだけれども、色々事情があつてやれなかつたと云ふ御話であります、併し是はどうしても早急にやらねばならない重大な問題だと思ひますので、當局に向つて更に其の困難を打開して、一日も早く特別の立法を作ることに努力せられむことを強く希望するのでありますが、若し皆樣の御同意を得ることが出來ますならば、それを此の委員會の希望決議と致しまして、當局が關係方面其の他を交渉なさる際の後援、力附けと云ふことに致したいと思ふのであります、以上が第一點であります、第二點は、家事審判所と云ふ制度の問題であります、家庭生活を民主化する爲に、此の臨時措置法が、其の實現に於て誤解を招く虞があると云ふことは、只今牧野委員が縷々御述になつた通りでありまして、其の點に向つて誤解を防ぐやうな希望決議をしたいと云ふ御意見にも私賛成致します、併し更に、さうした趣旨を實際的に實現する爲には、單にさうした教育的なことだけではなく、進んで一つの特別な制度を作ると云ふことが必要だらうと思ふのであります、具體的に申しますと、家庭生活の中に色々な問題が起きた時に、それを本當に親身になつて相談相手となつてやる國家的な施設が必要である、さうして爭になる前に義理人情或は醇風美俗に適した解決をしてやる、萬一爭になつた場合でも、從來の裁判のやうに、單に權利義務で形式的に處理するのでなく、徳望人格のある者が義理人情を能く噛み分けて解決をしてやると云ふ、さう云ふ施設、即ち豫々問題になつて居りました家事審判所と云ふやうなものが、仲に入つて事を處理して行くことが最も適切なのではないか、極言すれば、此の家庭生活の民主化と云ふことが、家事審判制度と云ふものと相俟つて實際に其の效果を擧げるとさへ言ひ得るのではないかと思ふのであります、御承知の通り、家事審判所は非常に歴史的な制度でありまして、幾度もそれを要望されましたけれども、何分大きな豫算を要する事なのでありまして、其の點で困難に打つ突かつて居たやうであります、併し何時かはやらねばならない、其のやる時には必ず豫算と云ふ大きな問題と鬪はねばならぬことは當然なのでありますから、之を數年延して見た處で、日本の財政状態で今なら樂にやれると云ふやうな時期が來やうとは思はれませぬ、從つてやると云ふ決心をされた以上は、矢張り困難に打つ突かつて一日も早く之をやるべきであらうと、就ては民法を全面的な改正をする際には、必ず家事審判制度を同時に創設すると云ふやうな氣持で當局の御努力なされむことを、切に希望する次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=4
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005・霜山精一
○霜山精一君 私は此の三案に付きまして意見を申上げたいと思ふのであります、新憲法の實施に當りまして、民法、刑法其の他の法律に、重大なる改正を加へなければならぬことは當然なことでありまして、恐らく之を十分にやるに付きましては、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法等の全面的改正をやると云ふことが極めて必要であると考へて居つたのであります、處が民法、刑法、刑事訴訟法、民事訴訟法と簡單に申しまするけれども、是は孰れも大法典でありまして、不斷であれば、恐らく斯くの如き法律は其の一つを捉まへても、十年若しくは二十年の長い調査期間を經て、初めて是等の法律の改正と云ふことが行はれるのが通常であります、然るに憲法は公布の後六箇月の間に施行されるのでありまするからして、其の六箇月の短期間の間に、是等大法典の全面的改正をすると云ふことは、殆ど不可能ではないかとさへ考へられるのであります、併しながら當局に於かれましては、此の點に付て非常に御努力になりまして、或程度の改正の草案が出來上つたやうであります、併しながら私の心配して居りました通りに、遂に本議會に其の本格的な改正が間に合はない、色々な都合で今議會に提出することが出來なくなつたのであります、其の爲に本法案即ち極く應急的な、臨時的な規定を設けられて、應急的な、暫定的な措置を講ぜられると云ふことの已むを得ざる状態に至りましたことは、誠に遺憾に考ふるのであります、併しながら最早已むことを得ない事情でありまするから、私共としては是等の暫定的の規定に對して賛成を致す次第であります、併しながら是は極めて暫定的、應急的なものでありまして、非常に我々としては不滿足な點が多々ありまするし、又今迄述べられたやうに色々な缺點もある譯であります、例へば憲法に規定してある公務員の不法行爲に關する損害賠償の規定が見當らない、或は又憲法に補償に關する規定が四十條にありまするが、此の規定に依りますると、現行の補償法を改正しなければならぬと思ふのでありまするが、此の點に付ての法案が出來て居らない、或は又民法の改正に伴ひましては、戸籍法の改正と云ふことも當然やらなければならぬにも拘らず、是も提出することが出來ない、或は又先程御話になりました通り、家事審判所に關することも、何等手を觸れて居らない、或は又農業資産に關する立法も出來ないと云ふ風に、色々な點にまだ甚だ不足して居るのであります、憲法が實施されましても、實際は憲法の精神が十分に行ひ得ない状態になつて居るのであります、是は誠に遺憾なことでありまするけれども、已むを得ない、斯くの如き暫定的の法律に付きましては、其の内容から見ましても、非常に其の解釋、適用に困るやうな場合が生ずるのではないかと云ふことを惧れるのでありまするけれども、已むを得ない所でありまするから、司法當局としては、十分に是等の暫定法の運用に對して萬全を期せられたいと思ふと同時に、來るべき最初の國會に於きまして、此の暫定措置でなく、本格的な、全面的な改正案を立案されまして、之を國會に提出し、此の新憲法の精神に副ふ所の立法を完成せられることに十分な努力を拂はれむことを希望する譯でありまして、其の意味に於きまして、私は此の三案に對して希望決議を御願ひ致したいと思ふのであります、希望決議の案を朗讀致します
希望決議
本委員會に付託された政府提出の諸法律案は、日本國憲法の基本的原則を實現するための暫定的應急的措置として止むを得ざるものとして承認するが、その内容には不充分なるものが多々あるので、日本國憲法の字義と精神に即した、愼重且つ周到な本格的全面的改正を、國會に於て速かに完成し得るやう、政府は萬全の努力をすべきことを強く希望する、
右決議する。
さう云ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=5
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006・牧野英一
○牧野英一君 今霜山委員より希望決議の御話がありましたから、それに引續いて、私の提出致したいと思ひまする希望決議の案を申述べます
本法案は、日本國憲法第二十四條の下に民法の運用を調整するため、最少の限度において應急措置の規定を設けたのに止まる結果、家族生活の尊重については世に遺憾な誤解を生ずる虞がある。依つて、政府は、立法上及び行政上、家族生活における敬愛協力の精神を明かにするため、至急十分の措置を採られんことを希望する。
右決議する。
是が私の提出致します案でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=6
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007・我妻榮
○我妻榮君 私も先程申述べました希望決議の案を朗讀致します
本法案による均分相續はこれを文字通りに適用するときは、さなきだに零細なわが國の農業を滅亡に導くおそれがある。均分相續の原則は、新憲法の要求するところなるはこれを認むるも、我が國の農業を維持發展させるために、これに適當な調整を加へることも亦、新憲法の禁じない所と信ずる。よつて政府において、速に相續による農地の細分化及び債務過重を防止するために特別の立法的措置を講ずべきことを要望する。
右決議する発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=7
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008・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 他に御發言はございませぬか……御發言もないやうでありまするから、直ちに採決を致します、本委員會に付託されました三案共に、原案通り可決することに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=8
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009・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、仍て三案は、全會一致を以て可決致しました、次に希望決議に付て採決を致します、最初に霜山君より提出されました希望決議案を議題と致します、本決議案を當委員會の希望決議と致すことに、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=9
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010・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、次に牧野君より提出されました希望決議案を議題と致します、本決議案を當委員會の希望決議と致すことに、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=10
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011・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、次に我妻君より提出されました希望決議案を議題と致します、本決議案を當委員會の希望決議と致すことに、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=11
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012・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、ちよつと此の際訂正致して置きますが、霜山君の御提出の希望決議案は、委員會に付託されました三案全部に付てのものでありますから、それを御承知願つて置きます、改めて伺ひますが、其の三案全部に對して霜山君の決議案を附することに付て、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=12
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013・奧田剛郎
○委員長(男爵奧田剛郎君) 御異議ないものと認めます、仍て以上、本委員會に提出されました三つの決議案は全部、當委員會の希望決議を致すことに決定致しました、以上を以ちまして、當委員會の付託になりました法案全部の審議を終了致しました、一言御挨拶を申上げますが、誠に不馴れでありまして、大變御迷惑を掛けたことと存じまするが、委員皆樣方の非常なる御援助に預りましたことに對しまして厚く御禮を申上げます、それでは是にて散會を致します
午前十一時二十五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=13
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014・会議録情報2
出席者左の如し
委員長 男爵 奧田剛郎君
副委員長 子爵 高木正得君
委員
公爵 九條道秀君
侯爵 淺野長武君
伯爵 橋本實斐君
子爵 秋月種英君
大谷正男君
子爵 清岡長言君
牧野英一君
渡部信君
霜山精一君
男爵 内海勝二君
我妻榮君
山隈康君
有馬忠三郎君
國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
政府委員
司法事務 官佐藤藤佐君
同 奧野健一君
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〔參照〕
日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に關する法律案、日本國憲法の施行に伴う民事訴訟法の應急的措置に關する法律案及び日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律案ノ三案ニ對スル希望決議
本委員會ニ付託サレタ政府提出ノ諸法律案ハ、日本國憲法ノ基本的原則ヲ實現スルタメノ暫定的應急的措置トシテ止ムヲ得ザルモノトシテ承認スルガ、ソノ内容ニハ不充分ナルモノガ多々アルノデ、日本國憲法ノ字義ト精神ニ即シタ愼重且ツ周到ナ本格的全面的改正ヲ國會ニ於テ速カニ完成シ得ルヨウ、政府ハ萬全ノ努力ヲスベキコトヲ強ク希望スル。
右決議スル。
(霜山委員提出)
日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に關する法律案ニ對スル希望決議
本法案ハ、日本國憲法第二十四條ノ下ニ民法ノ運用ヲ調整スルタメ、最少ノ限度ニオイテ應急措置ノ規定ヲ設ケタルノニ止マル結果、家族生活ノ尊重ニツイテハ世ニ遺憾ナ誤解ヲ生ズル虞ガアル。
依ツテ、政府ハ、立法上及ビ行政上、家族生活ニオケル敬愛協力ノ精神ヲ明カニスルタメ、至急十分ノ措置ヲ採ラレンコトヲ希望スル。
右決議スル。
(牧野委員提出)
日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に關する法律案ニ對スル希望決議
本法案ニヨル均分相續ハ、コレヲ文字通リニ適用スルトキハ、サナキダニ零細ナワガ國ノ農業ヲ滅亡ニ導クオソレガアル。
均分相續ノ原則ハ、新憲法ノ要求スルトコロナルハコレヲ認ムルモ、ワガ國ノ農業ヲ維持發展サセルタメニ、コレニ適當ナ調整ヲ加ヘルコトモ亦、新憲法ノ禁ジナイトコロト信ズル。ヨツテ、政府ニオイテ、速ニ相續ニヨル農地ノ細分化及ビ債務過重ヲ防止スルタメニ、特別ノ立法的措置ヲ講スベキコトヲ要望スル。
右決議スル。
(我妻委員提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009200818X00419470331&spkNum=14
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