1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に關する法律案(政府提出)(第三七號)
日本國憲法の施行に伴う民事訴訟法の應急的措置に關する法律案(政府提出)(第三八號)
日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律案(政府提出)(第三九號)
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昭和二十二年三月二十日(木曜日)午後一時二十八分開議
出席委員
委員長 小林かなえ君
理事 小澤佐重喜君 理事 桂作藏君
荊木一久君 林田正治君
石川金次郎君 榊原千代君
米山文子君 酒井俊雄君
越原はる君
三月十九日委員大島多藏君辭任につきその補闕として米内文子君を議長において選定した。
出席政府委員
司法事務官 佐藤藤佐君
司法事務官 奧野健一君
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本日の會議に付した議案
日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に關する法律案(政府提出)
日本國憲法の施行に伴う民事訴訟法の應急的措置に關する法律案(政府提出)
日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=0
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001・小林かなえ
○小林委員長 これから會議を開きます。日本國憲法の施行に伴う民法の應急的措置に關する法律案ほか二件を一括議題とし質疑に入ります。この法律案一件々々を別々に質疑應答を終えてまいりたいというふうに考えておつたのですが、何ぶん會期が切迫しておりまして、一々やつておりますと非常に遲れるおそれがありますので、みんな一括議題としまして、そして各方面の質問をなさつてくださるようにいたしたいと思います。林田正治君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=1
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002・林田正治
○林田(正)委員 私の質問は至極簡單でありまして、三つの點について御質問申し上げたいと思います。第一は、先般司法大臣の御説明にもありましたし、あるいはまた昨日でありましたか政府委員の御説明にもあつたのでありまするが、家というものは今後も維持さるるものであるというように、至極樂觀的に御説明になつておるようでありまするが、私はそのように簡單に説明するほど、今後家が簡單に維持さるるものであるかどうかということについて、すこぶる疑問をもつておりまするので、その點について第一にお伺いしてみたいと思います。私見によりますると、日本の家というものは、私どもが自己を中心として考えるときにおいて、この自己が先祖を通じて、悠久の過去に連なり、自己の子孫を通じて、これがまた永遠の未來に繋がるものというところの觀點に、家の觀念がありはせんかと私は思います。その觀念のもとに、われわれは、あるいは子孫に對してすまない、子孫は親に對してすまないというところの祖先崇拜の觀念と、それから名譽というところの觀念が紐帶になりまして、日本のこの家族、家というものが社會的に構成されたものである、こういうふうに考えます。これは一つの確かなる事實てあり、また國民的の一つの信念であつたのでありますが、この事實なり、信念を裏づけしたのが一つの法律ではなかろうかと思います。もちろん、法律にはその事實の裏づけに不必要なるものもありましたけれども、大體においてはその事實に基いて法律ができ、いわゆる民法の親族、相續法の規定というもは、その觀點に立つてきたものである。こういうふうに私は考えておるのでありますが、しかるに今囘新憲法のいわゆる個人の尊嚴と兩性の本質的平等ということに主眼點をおかれまして、ここにも書いてあります通り、戸主、家族、そのほか家に關するところの規定は、これを適用しない。ほとんど全面的にこの規定が削除されるのでありますが、それと同時に、一方敗戰の影響を受けて、われわれ社會的に深刻なる、異常なるところの影響を受けて、今日家というものは、事實の問題からしても、法律の問題からしても、こうなつてくるとまさに崩壞状態に立ち入るものであると思いますが、それに對して政府當局は至極簡單に、家は今後も維持されるものである、淳風美俗は家によつて維持されるものであるというお考えのようでありますが、そのように簡單にお考えになることがはたして妥富であるかどうかを私は疑いたいのでありますが、どういうふうにして家を維持しておいでになりますか、その具體的の將來のお考えを承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=2
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003・奧野健一
○奧野政府委員 御承知のように、民法第二章では、戸主及び家族ということで、家に關する規定を設けておるのであります。すなわちわが國におきましては、必ず人は生れながらにしてどこかの家に屬して、その家長としての戸主になるか、あるいはその戸主に統率せられます家族になるかということに制度的に運命づけられておるわけであります。そういたしまして、戸主は、その家族が、その自分の統率している家というものから出る、あるいははいるという場合に、一々これに對して同意、許可を與えるかどうかの權限をもつておりまして、また家族の住所を選定することができることになつております。また戸主は家族の婚姻、養子縁組等について同意を與えるかどうかの權限をもつておりまして、要するに戸主が、家族のそういつたような身分關係について、一々同意權というものをもつて統率しているわけであります。ところがわれわれの營んであります實際の家庭生活というものと、いわゆる民法上の家というものとは、はなはだしく食い違つておるわけでありまして、結局家と申しますのは、戸主によつて統率されますそういう親族團體を一つのわくに入れて、これを家として戸籍の上の單位にしておるわけであります。從つて同じ家に屬する場合でも、本籍は九州にありながら生活は東京でする、また同じ家にありながら、ばらばらに生活をしているという實情でありまして、いわゆる家庭生活という實際と、民法の家というような觀念とは一致しない現状であるのであります。そこで今囘は、戸主が家族に對していろいろな居所指定權でありますとか、先ほど言いましたように婚姻とか、養子縁組の同意の權限、その他許可認可に關する行爲についての同意の權限というようなものをもつということは、個人の平等の思想からいつて憲法の精神に反するものというふうに考えまして、戸主が家族を統率するという制度を廢止するということにいたしたわけであります。そういたしますと、それなれば、かりに封建的に考えるならば、そういう全然權利を伴わない戸主というようなものを認めて、やはり家というものを民法上認めておくのが、國民感情に適するのではなかろうかという意見も相當出ているのであります。しかしながら全然權限のない戸主というものを認めて、それによつて措置していくという制度を認めることは、ほとんど無意味になつてきますのみならず、憲法の精神からいいますと、親子とか、夫婦とか、兄弟というような血族的な關係のほかに、制度的に、あるいは人工的に家というものを民法上こしらえておいて、何人も家の一員にならなければならない、しかして戸主というものに統率されていかなければならないという、戸主と、それによつて統率されます家族というわくを制度的にきめておくということは、個人の平等、個人の尊嚴ということから考えてまいりますと、やはり憲法の精神に反するものというふうに考えましたので、今囘は民法上における戸主、家族、すなわち家という制度をやめるということにいたしたのでありますが、先ほど來お話のように、實際の親族共同生活、いわゆる家庭生活というものは、これがために何ら變更を受けるものではない。これは實際の日本の家族生活、親族共同生活というものは、民法の制度上の家というものよりも、さらに根深くその以前の存在としてあるものであつて、民法上の家というのは、今言つたように戸主と家族、それを戸籍の單位にするということに過ぎないのでありますがゆえに、家の制度を民法及び戸籍法等からやめましても、實際の親族共同生活は、古來より、また將來にわたつても永遠に美風として殘るものであるというふうに考えます。そういう意味で家の民法上の規定を適用しないことにしても、實際生活、家庭生活というものには影響がないというふうに前々から大臣等からも申し上げておるわけであります。しからばこの實際のそういう家族生活の保障というふうなことをどういう方法によつてやるかというお尋ねでありますが、この點はこの次の議會に御審議を願おうと思つております、家事審判制度、家事審判法等によつて、家事審判法におきましては、家庭生活の維持ということにすべての目的を向けまして、夫婦生活、家庭生活の維持のために、いろいろな裁判所に、殊に素人の人々を參與せしめまして、それらの紛議を解決して、家庭生活の維持をはかりたいというふうに考えておるわけでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=3
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004・林田正治
○林田(正)委員 私の御質問申し上げたことと若干食い違つておるようであります、實はこの間以來政府御當局から、家は今後も維持されるということをお話になつたのは、私は一つの法律問題として、そういうこともやはりお考えになつておるという前提の下に質問いたしたのでありますが、ただいまの御答辯によりますと、全然法律的に家の問題はもう考えないのであるというお話でありますが、それならば私ももう少し意見を述べてみたいのであります。家というものは今お話の通り、なるほどわれわれの實際生活と民法の規定は相當食い違つておることは私もこれを認めます、しかしながら新しくできましたところの憲法の精神からしましても、憲法の中においては、御承知の通り從來の憲法と違いまして、相當道徳的な規定もはいつておるのでありまして、昔の法律觀念からするならば、こういうものが憲法の規定にはいるのはどうであるかと思うような事柄が、憲法の規定にも相當挿入されておるように私は承知しております。そういう點に鑑みましても、日本の長年の間の仕來りでありますところの家、淳風美俗の根源であるところの家につきましても、やはり民法の法典の中に、日本の家というものはこういうものであるというところの内容を、將來の新しき民法には規定される必要があると私は思うのでありますが、その點について御意見を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=4
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005・奧野健一
○奧野政府委員 當面の問題といたしまして、民法上のいわゆる戸主、家族、それによつてつくられております家という制度を廢止するということでありまして、殊にこの應急措置に關する法律におきましては、まず憲法の精神に照らしまして、ただいま申しましたように、憲法の精神に反すると思われるこれらの制度を廢止するということをとりあえず規定いたしたわけでありまして、家族制度、家族生活の維持というようなことを、積極的に民法に規定するかどうかということは、この際は取上げなかつたのであります。これに引續いて民法の全面的と申しますか、正式と申しますかの改正を行いたいと思うのでありますが、その際にいわゆる親族の共同生活の實際に即して、いろいろ規定を考えたいと考えておりますが、應急措置といたしましては、憲法の精神に反すると思われる分を適用しないという、一時的暫定法を今囘は出したわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=5
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006・林田正治
○林田(正)委員 私はさらに進みまして、第四條の「成年者の婚姻、離婚、養子縁組及び離縁については、父母の同意を要しない。」というこの規定についてお伺いいたしたいと思いますが、なるほどこの憲法の個人の人權ということから考えますと、成年男女の結婚について父母の同意を要しないということは、形式的には一應さように考えられますけれども、私はこの第四條の規定は、新憲法の精神をあまりにも形式的にお考えにおる結果ではなかろうか。こういうふうに想像するのであります。なぜそういうことを申すかというと、簡單にその實例を申しますならば、元來成年すなわち民法上の成年の二十歳以上の者、二十五歳ぐらいの間の者が、はたして獨立の生計を全部營んでおるかどうかということも一つの大きな疑問であります。また第二には、こういう人達が日本の從來の慣行からしまして、女性に對するところの考え方、あるいは性の問題、あるいはまた男女交際というようないろいろの方面からしまして、決してわれわれには、そういう方面についてまず二十歳から二十五歳ぐらいの成年男女が、的確なる知識と判斷をもつておるとは、とうてい日本の現状からすると言えないと思います。しかるにこの際こういうような規定が突如として施行されますならば、おそらく男女間の風紀は亂れ、あるいは一時のフアツシヨンにはやるところの結婚というようなことが行われまして、これが結局においては、あるいは離縁、離婚というような悲劇を生むところの原因に大いになると私は思います。こういうような點から考えましても、また新憲法は御承知の通り、成年男女によるところの普通選擧を標榜しておりながら、實際はやはり政治上の成年は二十五歳となつておるのでありますが、政治上の權利の行使が重大であると同樣に、結婚ということはこれまた人生にとつての一大事でありますので、こういう點からも考えまして、あるいはまた日本の宗教そのものが權威がないということから考えられましても、どうしても私は、第四條の規定はいささか輕卒に過ぎはせんかと思います。決してこの規定を、結婚上の成年を二十五歳なら二十五歳にもつていきましても、新憲法の精神に反するものではない。こういうふうに考えますが、この點についての御意見を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=6
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007・奧野健一
○奧野政府委員 形式的に申しますならば、憲法の二十四條で「婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立し、」云々というので、あるいは未成年者の場合においてさへ、父母の同意を必要とすることが、二十四條の憲法に牴觸するのではなかろうかとさへ考えられるのであります。未成年者の場合におきましては、仰せのようにこれは思慮、分別がまだ十分でないのでありますから、これに對する保護の意味で、父母の同意をなお必要とするというふうにすることは、適當であろうかと考えますが、成年者につきましては、やはり憲法二十四條から考えますと、どうしても、成年者に對してまでも父母の同意がなければ、婚姻ができないということにいたしますことは、二十四條に觸れる、憲法違反のように考えるのであります。しからばもう少し婚姻年齡等を上げる。思慮分別が相當備つてから、初めて婚姻し得る年齡としてはどうかというふうに拜承いたしたのでありますが、この點につきましては、實は應急的の措置でありますこの暫定法においては、何ら觸れないのでありますが、この次の議會に御審議を願おうと考えております。民法改正案におきましては、結婚年齡を現行法よりも高めまして、男は滿十八歳、女は滿十六歳というふうに年齡を高めたい。大體男は滿十八歳になりますれば、相手方に對する選擇、その他財産上、あるいは性的な關係において、婚姻を許すに適當ではなかろうかと考えております。もちろん實際の運用といたしましては、成年者の子供の婚姻といえども、すべて嚴然なる婚姻をいたす場合におきましては、父母ともよく相談いたしまして、事實婚姻が成立するものと考えるのでありますから、實際の運用としましては、父母の意思に反して勝手に婚姻をするというようなことは、事實あまりなかろうかと考えるのであります。何分憲法二十四條の精神を酌みまして、少くとも成年者の婚姻については、父母の同意を要するという現行の民法の規定は、憲法に違反するものと考えまして、四條のような規定を設けたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=7
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008・林田正治
○林田(正)委員 ただいま成年者の婚姻を、父母の承認を得るようにするということは、憲法違反であるという御意見のようでありましたが、しからばお尋ねしますが、憲法何條であつたか、私は忘れましたが、成年による普通選擧を行うべしという憲法の規定、それは何か貴族院で修正されたと思いますが、たしかそのように相なつておると存じます。しかるに現行の選擧法は、依然として二十五歳になつておるように記憶いたしまするが、この憲法違反はどういうふうにお考えになりますか。これは憲法違反でないとお考えになりますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=8
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009・奧野健一
○奧野政府委員 今のは憲法の第何條でございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=9
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010・林田正治
○林田(正)政府委員 何條ということは忘れましたが、御承知の通り貴族院で内閣總理大臣、國務大臣は文民でなければならないという修正がありました。あのときに成年によるところの普通選擧が行われなければならぬということが、たしか挿入されたはずであります。そうするとその規定に基いて、この選擧法も改正あるべきはずだと思いますが、それがなしてないのは何ゆえであるかを伺つてみたいのであります。それで成年による普通選擧が行わなくてもよろしいならば、この成年に關する結婚の兩親の承諾ということも、あえて憲法違反ではないではないか。こういうふうに考えるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=10
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011・奧野健一
○奧野政府委員 ただいまの點は憲法第十五條の第二項の「公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する。」ということ、これかと思います。選擧法によりますと、やはり成年による普通選擧ということになつておるのかと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=11
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012・林田正治
○林田(正)政府委員 私もそこまでは研究しておりませんが、選擧法に成年という言葉を使つてあります。これは年齡の關係でありましようが、成年という文句は、われわれの考えるところによりますと、民法上の言葉ではありませんでしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=12
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013・奧野健一
○奧野政府委員 さようであります。滿二十歳を成年ということにいたしております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=13
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014・林田正治
○林田(正)委員 それならば私の見解は間違つていないと思いまするが、政治上に成年という言葉を使つたところがありますか。公法上の問題です。それをお教え願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=14
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015・奧野健一
○奧野政府委員 成年というのは、滿二十年をもつて成年とすということになつておりまして、それはすなわち滿二十歳以上が成年ということになりますから、選擧法で滿二十歳以上の者に選擧權を與えておるということでありますれば、もちろん憲法の十五條に牴觸しないものであることは明らかであると思います。なおそのほかにも成年という言葉は、たとえば未成年者は、禁酒あるいは禁煙というふうな場合における、いわゆる未成年者なりや否やということは、民法の規定によつて滿二十歳未滿であるかどうかということによつて決定せられると思います。そういう意味で成年というような言葉を他の法律においても使つておる例はあると思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=15
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016・林田正治
○林田(正)委員 今の御説明の未成年者禁酒法というような言葉は使つてありますが、私が伺いたいのは、政治上の能力の問題において、成年という言葉を使つたことがあるかどうかということであります。選擧法なりそのほかにおいて、成年に選擧權を與えるという言葉は使つたことはないと思います。そうしますと、恐らく私の今申しました事柄は、私は決してその内容を申すわけではありません。二十歳以上の者に選擧權を與えよということを申すわけではありません。選擧權の本質からして、二十五歳以上の者に與えられるのが妥當であるという考えはもつています。しからばそれと同樣に、しかもそれが憲法違反でないならば、この結婚という重大問題を處理する上において、やはり二十五歳くらいの制限をおく方が妥當ではないかと考えます。これはこの法律が暫定法でありますので、これ以上はもう論じません。さらに新らしい法律をつくられるときに、あまり憲法の形式的解釋に墮することなくほんとうに國民の實生活に應じた新法律をつくつていただきたいということを、私は念願としてこのことを希望した次第であります。この問題はこれで打切ります。
最後に御質問申し上げたいことは、刑事訴訟法の問題でありますが、第十八條の第一號の問題であります。これは裁判官の逮捕状を得なければ結局逮捕ができないことになりますが、こういうことでは、人權の尊重には非常に結構でありましようけれども、犯罪搜査、檢擧ということには重大なる支障を來すと思うのでありますが、これはあまりに人權尊重にとらわれて現實を無視された規定だと思います。やはりこれは、原則としてはこの逮捕状が必要であるけれども、急を要して間に合わない場合においては、この第二號と同樣に、逮捕状が手に入らなくても逮捕ができるようにした方が、現實に即したことではなからうかと私は思いますが、この點を伺いたいと思ひます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=16
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017・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 お尋ねの點はまことにごもつともなことでございまして、刑事訴訟法を全面的に改正する場合には十分檢討いたしたいと存じております。ただこの暫定法におきましては、憲法第三十三條の趣旨を十分尊重いたしまして、原則として令状を得なければ逮捕することはできない。この暫定法の第八條第二號に掲げるような、こういう例外の場合だけは急速を要する場合であつて、そうして逮捕の状態が續いておる間に裁判官の令状を得られるならば、これは令状による逮捕と見て差支えなかろう。こういう趣旨で例外的に第二號を設けたわけであります。かような例外も、例外ではなく、當然認むべきかどうかというようなことにつきましては、全面的に改正の際になお考究いたしたいと存じております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=17
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018・林田正治
○林田(正)委員 大體第一號については御答辯は了承いたしました。次に第十六條の問題でありますが、上告審においては事實の審理はこれを行わないということに今度の暫定法はありますが、私はあまりこの方面の知識をもつておりませんが、御承知の通り、大東亞戰爭に入りましてから、政府は特別な便宜處分として、大審院においては事實審理をしない。たしか事柄によつては、上告審を認めない。かようになつたと存じておりますが、この第十六條によりますと、結局戰爭中の状態にまた逆戻りするということになりまして、政府が新しい憲法の精神に基いて人權尊重を宣言しながら、かえつて人權の尊重に反するようなことをなさることになりはせぬかと思うのであります。その理由をまず承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=18
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019・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 ただいまお尋ねの第十六條の點でございますが、この暫定法においては、上告裁判所において一切の事實の審理を行わない。事實の審理を必要とする場合には下級裁判所に移送または差戻しをして、十分審理を究めたい。かように考えておるのであります。その理由は、先般提案理由を御説明申上げました際に一應申述べたのでありますが、將來上告裁判所たる最高裁判所が、現在と同じように事實の審理をするということになりますれば、限られたる少數の最高裁判所の裁判官が非常に負擔が重くなりますので、法律審としての上告審の性格に徹するということも望みがたくなりますので、當分の間事實の審理を上告裁判所で行わない。その必要のある場合には下級裁判所に移送または差戻しをしよう。こういう方針で立案したのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=19
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020・林田正治
○林田(正)委員 ただいまのお話は、大體この間司法大臣の御説明でも承つておりましたが、巷間傳えるところによりますと、最高裁判所が今囘こういうふうに、事實審理をやめて法律審理だけに移つたということは、むしろ最高裁判所の判事と申しますか、その數が從來三十何人であつたのが、今囘の新しい規定では十五人かに縮少される、それであるからその負擔にたえないということが根本であると思いますが、もしそうであるとするならば、いわゆる裁判官の待遇が國務大臣と同樣になり、豫算の面からして到度從來のような機構を維持することができないというような立場からいたしまして、最高裁判所の權限が縮少されますならば、ただそれによつて迷惑をこうむるのは國民だけでありまして、こういうようなことは恐らく理由にはならないと思いますので、もしほんとうに人權尊重に徹底されるならば、やはり裁判官の待遇は高められましても、必要な人數だけは當然設置されるのがあたりまえじやないか、こういうふうに考えます。これについて御意見を承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=20
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021・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 御意見はまことにごもつともでございますが、上告裁判所で事實審理を行わない方針で立案いたしましたその理由は、ただいま申上げましたように、最高裁判所は法律審としての上告審たる性格を明らかにしようという點が一つの理由でありまするが、なおそのほかに、各國の立法令を見ても同じでありますが、上告裁判所で法律審以外に事實の審理をするというような例は、ほとんど聞いておらないのであります。これは最高峯の裁判所において、國家のいかなる僻遠の土地に行われた犯罪についても、しかも長年月を經た後で事實を調べるということは、最高裁判所の職能に出ておるものかどうかという點について、非常に疑問がありますので、事實の審理は高等裁判所止まりにいたしたらどうかというような考えになつたのであります。なお今後新らしい裁判所法によつて組織が改められますと、現在の大審院の判事は、大體東京高等裁判所の裁判官になりまして、そうして從來の大審院に繋續しておる訴訟事件を審理するということになつておるのであります。そうして裁判官の地位が一般に高められますので、その素質からいつても、將來高等裁判所の裁判官は現在の大審院の裁判官に決して劣るものではないと考えられますので、その點において事實の審理が高等裁判所止まりになりましても、從來と違つて、人權の擁護に決して缺くるところがないものと信じておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=21
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022・林田正治
○林田(正)委員 この問題については多少意見を異にいたしますけれども、これ以上述べましてもしようがありませんから、私の質問はこれをもつて終ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=22
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023・小林かなえ
○小林委員長 榊原千代君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=23
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024・榊原千代
○榊原委員 民法が今議會に至つても遂に提出される運びにならす、應急的、暫定的法律しか、しかも會期の終りになつてやつと現われるに至つたということは、非常に殘念なことで、その理由はどのような點にあつたか伺いたいと思います。申すまでもなく、民法は憲法附屬法典中で最大最重要なものであり、憲法の示す理想、憲法が國民に保障するところの個人の尊嚴とか、國民の自由平等というものは、むしろ民法によつてある程度國民の生活に具體的に現われてくるのだと思います。殊に現行民法によりまして、女性の立場を不當に抑壓され、隷屬を強いられておりましたので、これが改正によつて國民の半數である女性が解放されるということは、日本民主化にとつて重大な役割と意味と價値とをもつものであると思うのでございます。全女性は申すに及ばず、國民大衆も異常な關心と期待とをもつて、新民法の提出を注目していたのであります。この民法は、既に昨年夏司法省の法制審議會においても審議を終了いたしまして、政府の努力によりましては、九月中には成文化すことができたと思うのであります。それが今に至つても提出の運びにならずお粗末な簡單な、從つて明瞭を缺く不完全な形において、應急的に出されたということについては、理解に苦しむものでありまして、その理由を伺わせていただきたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=24
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025・奧野健一
○奧野政府委員 ごもつともであります。御承知のように司法省の司法法制審議會、内閣の臨時法制審議會におきまして、民法の改正要綱を決定いたしまして、それに基いて立案を進めてまいりまして、大體において成案を得たのであります。それを今議會に提出すべく關係方面といろいろ交渉を重ねてまいつたのでありますが、やはり準備等の關係竝びに時間的關係、言いかえますれば、本議會の會期があるいは四月いつぱい繼續せられる可能性もあるというふうに考えておりました。要するに三月中に解散ということになりましたような關係等からいたしまして、關係方面との審議が十分盡すことができなくなつたのであります。それかといつて全然手放しにして五月三日の憲法の施行を迎えますことは、たとえば婚姻の問題にしましても有效なりや否や、憲法に違反する、無效ではないかといつたようなことが一々問題になつて、最高裁判所の判斷を受けるに任せておくということは、救うべからざる混亂を來すものと考えまして、應急暫定の措置として、今囘の法案を御審議願うことになつたのでありますが、この法案の内容はきわめて簡單ではありますが、これは法制審議會等によつて決定された要綱の趣旨を大體においてくみ入れて、憲法の精神から見て排除されなければならないと思われる重要なる規定の排除をいたしておるわけであります。もちろんこの次の議會には何とかして十分關係方面とも諒解を得て、既に成案にして、未定稿としてお配りしております案のような、正式の民法の改正の案を提案いたしたい。こういうふうに考えております。また關係方面との交渉におきましても、すでに司法省でつくつておる一應の案ではありますが、これはまだ關係方面の審査は經てないということを明かにするならば、議會の議員に配付したり、あるいはこれを世間へ發表して世論を聽くというふうなこともよろしいという諒解を得ておるわけでありまして、そういうような手續もとりたいというふうに考えております。いかんせん時間的制約を受けまして、十分關係方面の諒解を得るまでに審議を盡す時間がありませんので、暫定的繋ぎの意味で、こういう暫定的法案を出すことになつたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=25
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026・榊原千代
○榊原委員 時間的制限とおつしやいますけれども、すでに私が申しましたように、去年において努力なされば成文ができていたものと思ひます。殊に政府はすべての方面において、關係方面との諒解ということにいつも原因をもつていつてしまいますけれども、私どもの關係する範圍におきましては、また經驗した範圍におきましては、連合國が決して道理を無視して難癖をつけるようなことにもなく、またぐずぐずといたずらにことを遷延するようなことはないのでありまして、從つて私といたしましては、政府がどこかに舊勢力を温存しようとするような努力をした。そういうことが濳んでいたために、すらすらことが運ばなかつたのではないかという疑惑をもたざるを得ないのであります。とかく、何んと辯明されましようと、このような國民生活の日常と切つても切れない關係をもつている重要法案が、憲法が實施されるに至るまでに完成されなかつたということは、政府の一大失態であると言うべきで、この點は、私は議會に向つて陳謝してもらいたいほどのものでございます。このような法律というものは、全體を通じて初めて意味が明瞭になり、相關連する條文について考察檢討することができるのでありまして、ここに取上げられているような條文では、それだけでは決して解決されない雜多な問題がつきまとつておりまして、一々それを質問して修正していくということは、とうてい不可能なのであります。殊に不滿に思いますのは、少くとも新しい基盤に立つて論議したいと願うにもかかわらず、現行民法という古い立場に立つてものを考えてやらなければならないという制約を受けていることであります。とにかくこれを何とかしなければ、このままでは困るという立場に立つて論議しなければならないということで、これでは本氣で審議する氣にならないものであります。そこで私は政府に、來議會にはあらゆる手段を講じて、どうしても新民法を提出するという約束をしていただきたいと思うのでありますが、いかがでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=26
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027・奧野健一
○奧野政府委員 來議會には民法の改正の成案を得て、これの御審議を願うつもりであります。この法律は昭和二十三年一月一日からその效力を失うという、暫定的處置として掲げているわけでありまして、その間においてどうしても民法の改正を行わなければならない義務を負つているわけであります。でありますから、その間において特別議會、もしくは臨時議會を政府として開かなければならないような場合もあるかとも思います。その特別議會に十分審議等ができれば結構でありますが、もしできないといたしましても、少くとも今年いつぱいということになりますると、通常議會まで待つことはおそらく不可能ではないかと思いますから、そういう場合には臨時議會を開いてでも、そういう改正を行わなければならないというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=27
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028・榊原千代
○榊原委員 それでは法文に移りまして御質問申し上げます。第三條の「戸主、家族その他家に關する規定は、これを適用しない。」ということについてでありますが、これにつきましては進歩黨の山下代議士が、十七日の本會議の席上、家族制度の問題はどうなるか、わが國古來の淳風美俗である、いい意味の家族制度はどうしても殘さなければならないということにつきまして、大臣の御所見を質問されました。ところがこれに對しまして政府の見解は、政府では木村司法大臣が次のようにお答えになつたと思います、今後、親子、夫婦、兄弟が助け合つていくわが國古來の美風は保存しなければならないことにつきましては、同感であるという意味のお答えをなさつたと思います。その間明瞭を缺いておりまして、山下氏の意味は、姑、小姑を含む從來の家族制度にまつわる美俗の意味のように聽きとれましたのに對して、大臣のお答えは、新民法に出發する新しい家をもととしての美風というような印象を受けたのでありまして、家族制度竝びに家に對するもつと的確な御説明を伺いたいと思つておりました。ところが今日林田委員の質疑に對しまして、政府委員のお答えは、これは暫定的であるから、今度の改正民法においては積極的に家族制度の問題を考慮するというようなお答えをなさいましたが、ここで私は非常な不安を感するのであります。制度的な、法律的な家族主義がまた復活されるのではないかというような不安を抱きますけれども、いかがなものでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=28
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029・奧野健一
○奧野政府委員 制度的な、法律的な家という問題、すなわち戸主、家族、その他民法に出てまいります家というものに關する規定は、これは適用しない、と申しますのは、削除するということと同じ意味であります。ただこれは暫定法である關係上、削除するというような用例を使わないで、適用しないという用例を使つたのでありますが、その意味は、民法の中から戸主、家族、家というものに關するすべての規定を抹消するという意味でありまして、その意味におきまして、制度もしくは法律としての家とか、戸主とか、家族ということは出てまいらないのであります。ただ先ほど申しましたのは、たとえば家庭における紛爭というようなものについて、家庭生活をなるべく維持するというような目的で紛議を解決するというような家事審判の制度を設けたい。すなわちその意味は、別に法律制度としての戸主、家族、家というようなものは全然考えておりません。實際の親族共同生活を圓滿に維持していくように、紛爭を解決するための家事審判制度というようなものをつくつていきたい、そうして實際的な家庭生活を、圓滑に營むことができるような制度を考えていきたいという意味であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=29
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030・榊原千代
○榊原委員 それでは、先ほどの法律的に家を守らなければならないという林田委員の御意見に對しまして、今度の改正民法において、それを御考慮なさるような御答辯をなさいましたけれども、それはどういう意味でごさいましたでしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=30
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031・奧野健一
○奧野政府委員 今度の民法で、いわゆる戸主とか、家族とか、家という問題について積極的に規定する考えはもつておりません。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=31
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032・榊原千代
○榊原委員 私は個人主義的だといわれるところの西洋において、美しい家族制度がむしろ生きておりまして、家族制度を維持しておるところの日本において、多くの家庭的、家族的ごたごたが起るということも考慮にお入れ下さいまして、新しい家庭のあり方については、十分考慮を拂つていただきたいと思うのでございます。
次に第五條につきましてお伺いいたしたいと思います。配偶者の離婚原因についての條文でございますが、「配偶者の一方に著しい不貞の行爲があつたときは」ということがございます。「著しい」という言葉には非常に含みがあり、餘裕があり、範圍が廣く、解釋をする人の意圖によりまして、いかようにも動く可能性がありまして、これによりまして當事者はときに非常に苦しまなければならないと思うので、これは削除した方がかえつて明瞭であると思いますが、いかがでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=32
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033・奧野健一
○奧野政府委員 御承知のように、民法八百十三條二號によつて、妻のみの姦通について姦通罪その他これが離婚の原因にいたしておるわけであります。八百十三條の三號は、男は姦淫罪によつて處刑された場合だけに離婚の原因になるということになつておりまして、民法八百十三條の二號、三號、この二つのみが、離婚の原因としては男女の間の平等を害しておりますがゆえに、これは削除しなければならないというふうに考えたわけであります。ところが今囘は刑法の姦通罪等の規定の改正削除は行うことができませんでしたので、それかといつて八百十三條の二號、三號のような、男女に平等でない規定を殘すということは、憲法上許されないものと考えまして、これらを含んだ意味で、當事者の一方に著しい不貞の行爲があつたときは、他の一方はこれを原因として離婚の訴えを起すことができる、すなわち妻にあつた場合たると、夫にあつた場合たるとを問わず、ひとしく平等にこれを原因として離婚の請求ができるということにいたしまして、これによつて姦通とか、姦淫とかいつたような行爲をカバーして、離婚の原因を平等にいたしたいということで、この五條の第三項を規定したわけでありまして、要するにそれはいわゆる女の姦通のみならず、男の姦通の行爲もまた、離婚の原因になるという趣旨をモデイフアイしたものであると御諒解を願いたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=33
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034・榊原千代
○榊原委員 民法改正要綱には、單に「配偶者に不貞の行爲ありたるとき」と出ておりますのが、ここで「著しい」というのを特にお入れになつたことは、どういう理由からでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=34
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035・奧野健一
○奧野政府委員 それはやはり刑法で姦通というふうなものが今度殘る關係になつておりまして、これらを含めた意味で著しい不貞行爲ということによつて、女の場合におきましては、いわゆる姦通罪にあたるべきような場合、夫の場合におきましてもやはり離婚の原因になるという趣旨を、この文字によつて現わしたのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=35
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036・榊原千代
○榊原委員 私はこの著しいという言葉がない方が、かえつて明瞭だと思いますから、これは削除していただきたいと思うのでございます。
次に離婚問題に關連いたしまして、女性というものが著しく經濟的に不利な立場に立つておるのでありまして、民法要綱の第十七條「離婚したる者の一方は相手方に對し相當の生計を維持するに足るべき財産の分與を請求することを得るものとし、裁判所は當事者双方の資力其の他一切の事情を斟酌して分與を爲さしむべきや否や竝に分與の額及方法を定むるものとすること。」この條文はぜひ挿入していただかなければならないと思うのであります。暫定的な措置法でありましても、これはぜひ入れていただきたいと思うのでまります。新憲法實施の曉においても、なお女性は弱者の立場に立たされて、泣寢入りをするほかしかたがないということは不當であると思うのであります。これを入れないために、新民法が實施される日まで何箇月かの間、多くの女性が法に保護されず、幾多反動的、封建的裁判官の、現民法を基礎とした判決を下されるということがあつては、それを見るに忍びないことだと思いますので、この點はいかがてございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=36
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037・奧野健一
○奧野政府委員 御説のように、改正要綱におきましては、離婚の場合に相當の財産分與請求を認めることにいたしておりまして、民法改正の際にはそういう規定を必ず入れたいというふうに考えております。ただ暫定措置といたしましては、憲法からは直接には、そういう要請といいますか、そういうふうに規定しなければ憲法に違反するというところまでの要請が憲法自體からあるものとは考えられませんので、この必要最小限度の暫定法案におきましては、その點には觸れなかつたのであります。この點はさらに挿入いたさなかつた理由といたしましては、今囘は家事審判という制度も規定することができません關係から、實は財産分與の場合においての、その分與をなすべきかどうか、どの程度のものを分與請求を認むべきものであるかどうかというふうなことは、どうしても現在の裁判所よりも、家事審判所といつたような、非常に強く家庭のおせわをするような制度ができて初めて相まつてその效果を發揮するように考えますので、財産分與に關する點は、ごもつともではありますが、憲法直接の要請とも考えられなかつたのと、家事審判の制度の完備をまつて、新しい民法改正にはぜひそれを入れたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=37
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038・榊原千代
○榊原委員 私は改正民法ができる日まで、これはやはり憲法に要請されております女性の解放という問題と密接な關係があるものでございますから、どうしてもこの條文は入れていただきたいと思います。
それから次は、質問があとさきになりますけれども、第四條の「成年者の婚姻、離婦、養子縁組及び離縁については、父母の同意を要しない。」という條文について御質問申し上げたいと思います。民法改正要綱では、「婚姻は兩性の合意にのみ基きて成立し」と書かれております。これまでの婚姻というものが、いかに當事者同士の幸福や意思を無視して行われたか、戸主その他父兄によつて、戸主たちの利害關係あるいは御都合に支配されてなされたかということを考えます時に、これは大きな進歩だと思うのであります。當事者の意思が最も尊重されるということは、非常に進歩だと思いますけれども、兩性の合意にのみに基きて成立しと書かれてございますけれども、屆出なくしても、事實結婚しておる者については、結婚の成立ということをお認めくださるかどうか、これをお伺いしたいと思います。それによつてその後の結婚生活というものに非常な影響があると思いますので……。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=38
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039・奧野健一
○奧野政府委員 憲法にあります婚姻は兩性の合意にのみ基いて成立しということは、これはいわゆる婚姻の成立要件として、夫婦の合意のほかに、たとえば父母の同意であるとか、戸主の同意であるとかいうことを要件とすべきものではないという趣旨に解釋しておるのでありまして、いわゆる屆出によつて婚姻の効力が生ずるということとは毫も矛盾しないものと考えております。各國の例におきましても、屆出があるとか、あるいはこれに類する儀式等によつて成立することにしておる例も多いのであります。從つて屆出という樣式を含んだ合意のみによつて成立するのだというふうに解釋しております。從いまして、今後改正する民法竝びにこの暫定措置法におきましてもいわゆる屆出によつて婚姻の法律的効力を生ずるという點には變更がないのでありまして、從つて、婚姻しない事實上の婚姻、いわゆる事實婚を法律上婚姻なりと認める趣旨ではないので、やはり屆出によつて婚姻の効力を生ずるという點は、現行法通り、またこの次の民法改正においても、婚姻は屆出によつて効力を生ずるという趣旨は變更しないというつもりであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=39
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040・榊原千代
○榊原委員 それでは、これは希望でございますけれども、屆出制度を非常に簡易にしていただいて、代書人等の手續を要しないように、たとえば隣組あたりへその形式を具えた用紙を配付していただいておくというような、手續をとつていただくことはできませんでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=40
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041・奧野健一
○奧野政府委員 お説のように、最近におきましては樣式がきまつておりまして、ただ記入すればそれでよいように樣式がきまつておりますから、屆出をなす市町村役場において、その樣式の紙を配付することになつておりますから、その樣式に記入すれば、簡單に屆出をなすことができるような制度に現在なつておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=41
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042・榊原千代
○榊原委員 次に第六條に移りまして、「親權は、父母が共同してこれを行う。父母が離婚するとき、又は父が子を認知するときは、親權を行う者は、父母の協議でこれを定めなければならない。」という條文がございまして、この場合の「父母が離婚するとき」というのと「親權を行う者は、父母の協議でこれを定めなければならない」という場合のこの「父母」というのは、兩方相手に對するものでございましようか。それともこの父母のときには、その母はあるいは私生子の母である父母を意味するのでございましようか。それをお伺いしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=42
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043・奧野健一
○奧野政府委員 初めの方の「父母」というのは、離婚するまで夫婦であつたことを前提とすることはおのずから明らかであります。從つて離婚する場合に、父母のうちどちらが親權を行うかということを父母の協議できめるという意味であります。「父が子を認知するときは」の父母といいますのは、これはまだ婚姻してないわけでありますから、その實際の認知を、父と、それから、いわゆる嫡出でないものの母親の兩者の協議できめるものであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=43
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044・榊原千代
○榊原委員 從來の民法によりますと、子は父が認知すれば、當然父の戸籍にはいることになつていましたが、この點は將來どうなるのでありましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=44
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045・奧野健一
○奧野政府委員 それは父母の協議できめるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=45
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046・榊原千代
○榊原委員 父母の協議と申しますと、この相手の婦人との間のその父母でございましようか。それとも、正當の夫婦の場合にも、第三者の婦人が介入するということもありますけれども、どちらの意味でございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=46
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047・奧野健一
○奧野政府委員 ただいま申しました意味は、相手の子供の母親と認知した認知によつて子供の父親であることがはつきりする、その間において協議によつてきめるということを申し上げたのでありますが、この點は、お手もとに配付してあります案では、恐らくこれは少しく違つているかと思います。父が認知をしたときには、父は母と協議をもつて未成年の子を引取りて、自己の氏を稱せしめて、自分の親權に服せしむることができること。ただし父に配偶者あるときは、その同意を得ることを要する。すなわち父に妻がある場合においては、妻の意思を無視しないという含みから、父の配偶者あるときはその同意を得ることを要すということにいたしておるわけでありまして、これは氏の問題とも關係いたしますので、そういうふうに規定しておりますが、この暫定措置におきましては要するにその父と母親、この母親と申しますのは、この嫡出の子にあらざる者の母親との協議で親權者をきめるということにいたしたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=47
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048・榊原千代
○榊原委員 その場合その父と母との間に正當なる夫婦の家庭にこの子供を入れたいという協議が整いましたときに、正當なる夫婦であるところの妻がそれを承認いたしません場合には、その子供及びその子供の母である婦人の地位待遇はどういうふうになるものでありましようか。これも女性にとつては重大な問題でありますから、お伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=48
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049・奧野健一
○奧野政府委員 もしかりにお配りいたしております案のように、父に配偶者ある場合に、その同意を得ることを必要とするということにいたしまして、父の配偶者が同意をしないがゆえに、その子供を引取つて父親が自分の氏を稱せしめて、自分の親權に服せしむることができない場合にはどうなるかという御質問かと考えますが、もちろん認知によつて親子の關係ができるわけでありますから、たとえば扶養義務の關係等においては、親子として子に對する扶養の義務を負うということは當然そういう効果はもつことと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=49
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050・榊原千代
○榊原委員 次に財産相續の問題にはいります。第八條第二項第三號に「兄弟姉妹とともに相續人であるときは、三分の二とする。」と書かれておりますけれども、この兄弟姉妹の意味は、家におります者だけを意味するのでございましようか、それとも家にいない、たとえば婚家先の姉妹などの場合をも含むのでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=50
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051・奧野健一
○奧野政府委員 今度は家という觀念を全部廢しました關係上、全然家があると否というような問題は起らないのでありまして、婚家先の者も含むことになるわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=51
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052・榊原千代
○榊原委員 この財産相續の問題につきましては、扶養の義務というようなことが非常な問題になつてまいりまして、扶養の義務の規定が明らかでない限り、質問を申し上げる手がかりがないと思いますので、この程度でやめますけれども、この措置法があくまで暫定的な措置に過ぎないものといたしまして、この條文が次の改正民法において權威をもつようなことがないように希望いたしまして、私の質問を打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=52
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053・小林かなえ
○小林委員長 石川金次郎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=53
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054・石川金次郎
○石川委員 初めに民法の應急措置に關する法律案で二、三お尋ねします。この法律案が應急措置法であつて、附則によりますと、二十三年一月一日からその効力を失うものとしてありますが、そこで新しい改正民法が總選擧後に、かりに臨時國會におきまして成立したといたしますと、そのときに新しい民法に効力を發生せしめて、この措置法が一月一日以前であつても効力を來さない御方針でしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=54
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055・奧野健一
○奧野政府委員 さようであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=55
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056・石川金次郎
○石川委員 それでは本法は新民法ができてまいりますまでの、ほんとうの短期間の御見當でお改めになる。こう承つてよろしうございますね。それでは簡單にお伺いしておきたいのでありますが、本法は應急措置の法律でありますから、將來改正される民法と必ずしも完璧に合致しない。齟齬いたす點のあることはやむを得ないと存じますけれども、しかしできるだけその齟齬を避けていかなければならぬと存じます。それでたとえばこういう點が出てくると思います。法制審議會においては、家がなくなりましても、系譜、祭具、墳墓、こういうものの所有權が祖先の祭祀をやる者にいくようにしてやる、こういうふうに書いてあるのであります。これは日本における家の制度が、完全に個人に立脚して廢止していないという點から來たものと思いますが、この應急措置法で見ますと、相續平等の原則に立つて、これらのものまでいわゆる共有ということにならなければならぬと思うのであります。たとへ短日月の期間でありましても、またある人にとつては、系譜とか祭具、墳墓というものは重要なものである。そういうものに對して措置を講する必要がなかつたかということをお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=56
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057・奧野健一
○奧野政府委員 先ほど申しますように、暫定措置の關係上、その點につきましては何ら規定をおかなかつたわけであります。ただ、今御指摘の點につきましては、成案を得る際にさらに考究いたしまして、もしそういう規定をおくということになれば、この法律との繋ぎの經過關係はさらに考究しなければならないと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=57
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058・石川金次郎
○石川委員 先ほど榊原委員からも言われましたが、離婚の原因について、配偶者の一方に著しい不貞の行爲があつたときというふうに書かれておりますが、そういう概念を、新しい民法に移つてまいります場合にも、大體變えないというお考えでありましようか。これを變つてくるのだ、法制審議會の答申にあつたように、著しいということを削除して、單に不貞という言葉を使つていくおつもりであるか、あるいはこれは應急措置法なるがゆえに、將來できて來る法律にそれと同一觀念を引張つていく御方針であるのか、その點を承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=58
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059・奧野健一
○奧野政府委員 先ほど申しましたように、これは刑法の姦通罪等に關する規定の取扱いその他とも關係いたすのでありますが、法制審議會の要綱に基きまして今立案しております民法の段階においては、刑法における姦通の規定を削除せられることを前提として、著しいというふうな形容詞をおかないで、不貞の行爲があつたというふうに規定いたしておるのでありまして、おそらく今度の議會には刑法の改正等も同時にされることになろうかと思うので、その場合においては、要綱通りに不貞の行爲というふうにすることとなろうと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=59
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060・石川金次郎
○石川委員 この措置法の期間中に起つた社會現象と、新しい民法が制定されてから起つた社會現象との間において、權利の保護、義務の負擔等において、異なるものがないような特別の御考慮は拂われるのでしようね。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=60
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061・奧野健一
○奧野政府委員 その關係も今度の新しい民法の附則において、それらの點を考慮したいと考えます。たとえば先ほど榊厚委員からのお話があつたように、離婚の場合の財産讓與の請求のごときも、新しい民法の附則等において、この法律施行後あるいはこの民法の施行までの間に離婚の原因のあつたような場合にも、そういう規定を遡及せしめることもできるかと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=61
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062・石川金次郎
○石川委員 そうすると場合によつては法律の遡及等も考えられてある、こういうことですか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=62
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063・奧野健一
○奧野政府委員 そういうことも考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=63
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064・石川金次郎
○石川委員 次に、この措置法——私はこれから民法の應急措置に關する法律案を民法措置法とかりに申し上げる。この措置法が、主として新憲法の第二十四條に基いて行うたようでありまするが、財産權に關する民法の規定については、何らの應急措置を講じておりません。たとえば民法の第二編、第三編、なかにも第二編の法律行爲に關する規定等についても、新しい憲法の精神よりして、新しい民法において改正しなければならぬものがあるかと存じます。たとえば現行民法が、御承知のように財産權絶對尊重の原則の上に立つており、契約自由の原則の上に立つており、新しい憲法の原則と合致していない。そういう點においては、やはり財産權に關する規定も變つてこなければならぬと私は思つているが、それに對する措置が一向講ぜられてない。そうすると當局においては新しい民法の財産に關する規定については、何らの改正も變革も要しないとお思いになるのか。かりにあつたとしても措置を講ずる必要がないと思つておられるのか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=64
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065・奧野健一
○奧野政府委員 新しく改正する民法においては、この憲法に規定している財産權に關する基本的原則を、新しく民法の改正に織り込んでいきたいと考えております。たとえば私權と公共の福祉の關係に關する規定でありますが、あるいは大體親族相續權のみならず、すべて民法が個人の尊嚴と兩性の本質的平等に立脚して、解釋していくべきであるといつた、憲法にある原則的規定は、新しい民法の改正の中に織り込んでいく考えであります。ただこの措置法はおもに親族相續に關する規定について必要缺くべからざる限度において、憲法の精神に反すると認められるものを、とりあえず排斥したといふ趣旨でありまして、財産權に關する事柄についてなんら手をつける必要がないと認めたわけではないのでありまして、必ずや今度の民法改正には、財産法に關する點についても、憲法の規定する原則的規定を掲げたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=65
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066・石川金次郎
○石川委員 そこで新憲法の精神に則つて財産關係の民法規定を改正するといたすならば、やはり應急措置法が必要となるではないでしようか。新憲法が生まれてきた。權利の内容が變つた。かりにこういう場合になつたならば、やはり法律を施行せしむるという非常手段をおとりになるか。これは、私共の考えるところによれば、容易でないことだと思う。法律なき間の權利の消滅をきたすという重大なことになると思いますが、その決心であるか、お伺いしておきます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=66
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067・奧野健一
○奧野政府委員 財産權については大體この憲法の精神によつて、たとえば財産權は濫用してはいけない。あるいは常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うのであるといつた、基本的原則は、親族相續の身分上の事柄のように、混亂の程度はそれほど著しいものとは考えません。これは現行法においても、これらの精神によつて法律の解釋が行われているように考えるのでありまして、ただこの點は民法等の上にはつきりせしむるのが至當であると考えますので、この次の改正には入れたいと思いますが、この親族相續、身分上の行爲に關しては、どうしてもなんらか暫定的な應急措置をとらないことには、非常な混亂を來すのではないかというように考えまして、とりあえず親族相續の點についてだけ應急措置を規定したわけで、その他の點については、大體憲法の精神の解釋も相當行われ得る。もちろんこの次の改正にはこれらの點を一層明白にしたいと考えておりますが、應急措置法にはその點まで及ばなかつたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=67
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068・石川金次郎
○石川委員 最近の場合に、しかるべく考究くださることをお願いして、この點については終ります。
次にこの點明らかにしておいた方がよいと思いますから、速記に載せるためにお伺いいたします。本法の第三條によつて排斥される現行民法の法規、第四篇第二章の第七百三十二條から七百五十一條までは全部適用されないということになるのでありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=68
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069・奧野健一
○奧野政府委員 さようであります。その他にもいろいろあるわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=69
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070・石川金次郎
○石川委員 次に第四條に關連して、婚姻の成立の時期についてであります。これについて屆出主義によるというのは、從來の戸籍吏に屆け出るという樣式でありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=70
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071・奧野健一
○奧野政府委員 さようであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=71
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072・石川金次郎
○石川委員 戸籍吏に屆け出るということに相なりますと、日本の現在の状態におきましては、事實結婚式をあげても屆出がなされないという場合が多いのでありまして、いわゆる事實婚といわれておるのでありますが、この事實婚の場合においては、民法上の保護を受けない、應急措置法によつても保護を受けない、こういうことに一應解釋上なると思います。そういう場合において、婚姻豫約の状態に對する保護でありますが、そういうものはどうして取扱うかということをお聽きしておきたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=72
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073・奧野健一
○奧野政府委員 まず第一に、先ほど來お答え申し上げておりますように、今後といえどもやはり屆出によつて婚姻の効力を生ずるという主義は改めないということに考えております。從つていわゆる事實婚は、法律上の婚姻とは認めない。これは文化日本に進んでいく以上は、やはり法律的にも非常に進んでまいつて、そういつたような法律的措置をみながとつてもらうということが望ましいという意味で、もし事實婚を認めていくということになると、はたして婚姻がいつあつたかというようなことについて明確でありませんし、これからだんだん法律的知識を具えて、文化的に日本が進むためには、むしろ法律が實際の事實婚を認めていくように下つていかないで、國民の文化水準が法律に合致するように上つていくことを望んでいるわけであります。しからば現在のいわゆる事實婚についてはどういうことになるかと申しますと、それは現行通り、婚姻はもしそれが不履行になれば、婚姻不履行による損害賠償といつたようなことによつて保護を與えるということにつきましては、現在より惡くなることはないと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=73
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074・石川金次郎
○石川委員 もう一度念のためにお聽きしておきたいのでありますが、兩性の合意による、こういつておるのでありますが、この合意は屆出という形式を含ませてよいという今までの局長さんのお答えでありましたが、ここに言う合意は、兩方の意思表示そのものの價値というものを主眼としたものであつて、めんどうな形式を伴わないということではなかつたかと私らは思つている。それを屆け出るという形式を含むことに一段と引上げるのか、實質上の利便は上るとおつしやるのでありますが、そうでなくして、法律が實際生活に戻つてきて保護してやるということが、今日の法律の任務でないかと思う。そういうことは外國にもあるのでありまして、これを引上げるとおつしやつたことはどうかと思う。新しい民法については、なおお考えになる御意思はありませんでしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=74
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075・奧野健一
○奧野政府委員 その點ごもつともな御質問であります。この點われわれも、婚姻の成立が兩性の合意のみによるということは、屆出というような要件を加えることか、憲法に要求しない、そういうことを要求に入れることはむしろ憲法に反するではないかという疑いも、相當強く考えたのでありますが、そのいわゆる合意というものは、ただその邊の道で約束をしたとかいうようなことで婚姻ができるというのではなく、ただ二人で約束したからすぐに夫婦として法律上認めなければならないというのではなくて、他の掣肘を受けない、自分の本心の合意によつて婚姻が成立するのだ、しかしてその合意というものがどういうふうにして現われたものであるかという點について、屆出という形式を履んだ合意の意思の發表によつてその合意を認める、すなわち合意の方式を屆出ということにするというふうに考えるべきものであつて、各國の立法例——もつともアメリカ等でコンモン・ローの場合においては、そういう形式を必要としないというふうなことでありますが、大體最近におきましては、いろいろな儀式あるいはそういう屆出というようなものを要求するのが、一般の外國の立法例であるようでもありますし、かたがた兩性の合意のみによるというその合意というのは、ただ單に約束とか、當事者同士の單なる無形な合意という意味じやなくて、その形式を具えた合意というふうに、合意の方式を、そういう屆出という方式をとらすというふうにすることは、毫も憲法二十四條に違反しないものであろうというふうに考えまして、なお屆出によつて婚姻の效力を生ぜしむることは、先ほど來申しましたように、ただ事實婚を法律が認めていくというよりは、いつから婚姻があつたということも明らかになりますし、婚姻というものによつて夫婦間に重大な法律關係が生ずるわけでありますから、その點を明確にいたすことが、國民生活の上において望ましいというふうに考えまして、屆出主義はやはり從來通り認めていきたいというふうに考えておるわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=75
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076・石川金次郎
○石川委員 屆出をもつて合意の意思表示の發現と見るのでありますが、しかし今の日本におきましては、式をあげるということがございまして、そのことを掴まえてまいりました方がかえつてよいではないか。斷じて屆出主義を動かさぬ方針であるというなら別でありますが、しかし國民生活の實際に應じて、法律が考慮してやろうということでありますならば、たとい法制審議會で議論したところでありましても、もう一度お考え直しくださつたらいかがかと存じます。その邊希望しておきたいと思います。
それから六條の「共同」の意義をお伺いいたします。共同が成立せざる場合、どうして誰がきめるのか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=76
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077・奧野健一
○奧野政府委員 親權は、現行法によりますと、御承知のように父が行つて、父がなくなつた場合、あるいは父が親權を行い得ない場合に限つて、母が第二次的に親權を行使するということになつております。ところが兩性の本質的諒解に背くものであるという考えからいたしまして、父母共同して親權を行うべきものといたしたわけであります。しからば共同、協調が保てない、協議が整わない場合においては、一體どうなるかという御質問であると考えますが、この點については、御承知のようにスイス民法等においては、夫婦の意見が違う場合には、父の意見であるということになつておりますが、それではせつかく夫婦平等の共同行使ということにせしめた趣旨を、かえつて沒却するのではないかというふうに考えまして、夫婦の間における關係においては、そういうふうに水臭く考えないで、適當に父母共同して自然に任して、意見が合致しない場合はぎりぎりどうするかというようなことを、かえつてきめない方が夫婦の間の事柄としては適當ではないかということにいたしましたわけでありまして、結局意見が合わなかつたならば、この案では自然に適したように共同してやつてもろうという趣旨であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=77
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078・石川金次郎
○石川委員 そこでちよつとお聽きしておかなけれでなりませんが、つまり問題がここに出てくるのです。夫婦が共同で親權を行う。財産處分等の親權を行う。そこで共同しなかつた。そこで今のわが國の状態におきましては、夫が妻の意思表示があつたという文書を僞造するという憂いがないと言われません。妻が共同行爲に承諾したかどうかということは、文書によつて見るよりほかない。文書に妻の承諾書を添えて子供の財産を賣つたとする。その場合にその承諾書が僞造であつたときには、買つた第三者を保護するのか、子供を保護するのか、どつちを保護するのか。子供を保護せんとすればその法律行爲は無効となり、第三者を保護せんとすれば有効としなければならぬ。そのどつちをとるか。これは將來の民法に對する政府のお考えもあると思いますから、お伺いしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=78
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079・奧野健一
○奧野政府委員 その場合にはむしろ第三者を保護すべきものと考えます。お配り申し上げておる民法の改正案には、そういう場合に一方が獨斷であつた場合でも、その場合はむしろ善意の第三者を保護する意味において、その法律行爲は有効であるということにいたしておりますが、その通り今度の改正におきましても進んでゆきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=79
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080・石川金次郎
○石川委員 そこでまた問題が起つてまいりますが、改正民法が善意の第三者を保護するということになりますれば、この措置法の間だけは善意の三者が保護されない、こういう結果が生じますが、そういうような場合においては、やはり調停か何かで御救濟になるというお考えでありましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=80
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081・奧野健一
○奧野政府委員 これはこの點も附則等によつて作意的に何等かの措置を講ずることを考慮しなければならないと考えますが、もしそういうことができなくても、ただいまの仰せのように調停行爲によつてその關係を調整していきたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=81
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082・石川金次郎
○石川委員 それから相續平等ということが實現することに相なりましたが、農家はどうなりましようか。農家財産を細分するもやむを得ずとなさるのか。あるいはこれに對して特に救濟の方法を考えられるのか。應急處置として、この短かい期間であつても生ずるであろう農家の零細化を防ごうとするお考えであるか、お伺いしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=82
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083・奧野健一
○奧野政府委員 農地の均分相續の結果による細分ということについては、相當大きな問題であると考えます。この點につきましては實は農業資産の相續に關する特別法を出す豫定にして進んでおつたのであります。ところがその點につきまして、今日まで關係方面の諒解を得ることができませんので、今囘はその點について提案ができなかつたわけでありますが、その點については、將來とも關係方面と折衝を續けていくことと考えます。これはもつぱら農林省關係において續けられるものと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=83
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084・石川金次郎
○石川委員 この新民法が出てまいります前に、この應急措置法が効力中にそういう問題が發生しないとは限りません。新しくできてまいりました民法と異なつて、あるものは非常に細分化されて困るというようなものが生ずる場合におきましては、司法省が裁判所とお打合せの上に、新しい民法に則つて解決してやるのか、十分の御誠意を示す御方針でありましようか、お伺いしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=84
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085・奧野健一
○奧野政府委員 御趣意のようにいたしたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=85
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086・石川金次郎
○石川委員 戸籍は一體應急處置を必要といたします。家と戸主とがなくなるのでありますから……。これはまだ拜見しておりませんが、いつ出てまいりますか、お伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=86
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087・奧野健一
○奧野政府委員 その點ごもつともな點であります。實は政令である程度戸籍の改正等を行いたいと思つて、條文を置いたのでありますが、いろいろ關係方面との折衝の結果、戸籍法を今囘改正するということは、ちよつとむずかしいのではなかろうかということになつてまいつたのであります。もちろん家、戸主、家族、婚姻についての父母の同意といつたような事柄は、民法の上から削除になります關係上、たとえば婚姻の場合に父母の同意、戸主の同意がなくても受付けるべきものであることは當然であります。實質的にそういつたような變更が加わることになるわけでありますが、現在の戸籍は今度新民法とともに出る戸籍法の改正まで、形式的には一應その戸籍をそのまま踏襲していきたいというふうに考えております。ただ先ほど申しましたように、實質的に、戸主とかいうものがないから、戸主の同意というものは必要じやなくなる。父母の同意を婚姻の要件にしておりませんから、父母の同意書がなくても婚姻を受付けるというような影響が、實質的には戸籍の方にありますが、とりあえず暫定の間だけは、戸籍を全部變えるというのではなく、今のままの戸籍をそのまま使つていきたいというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=87
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088・石川金次郎
○石川委員 最後にお聞きしておきたいのでありますが、現行民法が「私權ノ享有ハ出生ニ始マル」と第一條に書いてありまして私たちは隨分意義ある條文の言葉だと思います。新しい憲法の二十五條でありますが、「すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。」とこう國家が宣言をいたしました。新しい私法の根本法であるところの新しい民法に、この趣旨の宣言がなされていいと思いますが、お考えになつておられますかどうかをお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=88
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089・奧野健一
○奧野政府委員 この二十五條はむしろ社會政策的な意義をもつ、しかも國家としての公法的な立場からの規定であります。しかるに民法は私權關係に關する規定ということができますので、第二十五條のような原則は掲げるつもりはありませんが、たとえば私權關係について、この第十二條等に權利の濫用を禁止しておる點、あるいは常に權利の行使は公共の福祉のためにこれを利用しなければならないといつたような、權利の行使濫用の禁止といつたような點から、私權についても同樣なことの考えられる原則は、民法の第一番に、そういつたような原則を掲げたいというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=89
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090・石川金次郎
○石川委員 もう一點です。最後に、これは民法の私權、その權利内容は社會公共の福祉と合致するような權利に、民法について内容の變更を試みられるところの御準備はつきましたでしようか。たとえば所有權の内容とか、地上權の内容とか、債權の内容とか、そういうものであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=90
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091・奧野健一
○奧野政府委員 たとえば民法の第一條において、私權はすべて公共の福祉のために存するのだ。それから權利の行使、義務の履行は、信義に從つて誠實にこれを行わなければならないのだといつたような、原則的規定を掲げることによりまして、物の所有權なり、債權なりのあり方というものが、これによつておのずから原則的に規正されていきますので、個々的に債權、物權というところには置きませんが、いま申しましたような條文を第一條あたりに、私權全般に關する原則として掲げたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=91
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092・石川金次郎
○石川委員 今度は刑事訴訟法の應急的措置に關する法律案について御質問いたしたいと思います。この措置法を考えてまいりますのに、私たちは將來できあがつてくるであろう刑事訴訟法が、どういう原則に立つているかということを、一應お伺いしておきたいのであります、そうでなければ、この措置法をどうやつていいかということの見當がつかなくなりますので、お伺いいたしますが、まず新憲法の精神に則りましても、新しくできあがつてくる刑事訴訟法は、當事者對等主義が絶對的に守らるべきものであると信じておりますが、この點はどうなりますでしようか。
それからまた審理公開主義が徹底的に實現しなければならないと思つておりますが、双方の一方的な審理というものはないかどうかをお伺いしておきたいと思います。
それから被告の防衞の完璧でありますが、この點については、拘束を受けましたときより審判の終結にいたるまで、辯護權が完全にできるようにしなければならぬと思つておりますが、その原則の上に立つて、新しい刑事訴訟法がわれわれの前にまいりますかどうかを、お伺いしておきたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=92
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093・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 議題になつておりまする刑事訴訟法の應急的措置に關する法律でありますが、これは御承知のように、全面的な刑事訴訟法の改正が近く行われまするまでの間の應急的な、いわゆる暫定法として立案いたしたのであります。しかしながらこの應急措置法におきましても、將來全面的に改正せらるべき刑事訴訟法の立案方針に大體則つているのであります。その基本といたしますところは、新憲法において基本的人權の尊重に關するいろいろな規定がなされておりまするので、その精神に則り、刑事訴訟法においても基本的人權の擁護に關するいろいろな手續き、規定を設けなければならぬと考えておるのであります。さしあたりこの刑事訴訟法におきましても、憲法の精神に則つて、基本的人權の擁護に關する規定を設けたのであります。その點は將來の全面的な改正の場合においても、立案の方針は毫も變りはないと考えておるのであります。なおお尋ねの當事者對等主義がどこまで徹底されておるかという、お尋ねでございまするが、この應急的措置法におきましても、公判になつてからの訴訟の進行等は、大體現行の刑事訴訟法のやり方に則つておりますけれども、できるだけ當事者對等の主義を徹底しようと試みておるのであります。
次に審理公開主義はどうかというお尋ねでございますが、この點は憲法におきましても、公開裁判の迅速なる處理について規定されておりますので、その精神に則つて現行の豫審制度はこれを行わないことにいたしました。
さらに被疑者が身體を拘束された場合の辯護權についてのお尋ねでありますが、この點は措置法の第三條において從來の辯護權を非常に擴充いたしまして、被疑者が身體の拘束を受けた場合にも辯護人を選任することができるという第三條を設けまして、拘束される疑疑者の人權をできるだけ保護しようと試みたのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=93
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094・石川金次郎
○石川委員 この措置法で規定しますところの辯護人は、資格のある辯護人でありましようか。それのみを指すものでありましようか。あるいは現行刑事訴訟法第四十條によるところの、辯護士にあらざる者も許可によつて辯護人になることができるのでありますが、その辯護人も指すのでありますか、お聽ききしておきたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=94
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095・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 措置法第三條に被疑者が辯護人を選任する權利を認めたのでありますが、この辯護人は資格ある辯護士のみに限らないのでありまして、現行刑事訴訟法第四十條第二項において、裁判所の許可を得れば辯護士にあらざる者を辯護人に選任することができるというこの規定も、類推適用されるものと解釋しております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=95
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096・石川金次郎
○石川委員 きわめて適切なお考えだと思います。殊に簡易裁判所も殖えてまいつたのでありますから、辯護人はできるだけ廣くしておかなければならぬと存じます。そういたしますと、辯護人たるものを被告人が望むすべての人にこれをお許しになるという御方針でしようか、お聽きしておきたいと思います。たとえば被告がこの人ならばいいという人を、全部裁判所では許さしめていいと、司法當局はお考えでございますか。その點を伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=96
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097・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 具體的に被疑者の希望される辯護人が適當であるかどうかということは、具體的な事件でなければ、あらかじめこれをきめるということはできがたいのでありますけれども、その辯護人を擴充した精神に則りまして、裁判所または檢事局において、被疑者の希望する辯護人が、適當にその被疑者本人の利益の擁護者となり得るかどうかということを判斷して決定せざるを得ないことでありますが、恐らく具體的な場合において、できるだけ被疑者の希望に副うことと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=97
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098・石川金次郎
○石川委員 先ほど局長さんからおつしやつたのでありますが、公判はできるだけ迅速にやれ、これは憲法に書いてあります。公判は迅速にやる、眞實は發見していかなければならぬ、こういう二つの使命をもちながら、この法律案が立案されたと思います。しかしながら眞實を發見いたしますためには、迅速必ずしもいい方法ではございません。迅速によつて粗末になることもあり得るのであります。この調和をどうするか、迅速に事件を進めようといたしますれば、いきおい被告の自白を強要することになる。一體日本の刑事事件がきわめて暗かつたということ、警察の調べが暗かつたということは、自白に證據力の重きをおいたからであります。公判を急ぐといたしますれば、どうしてもこの審理というものが粗末にならざるを得ないのであります。これと眞實發見ということをどういうふうにして調和するかということについて、ひとつ御見解を承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=98
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099・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 裁判の本體はどこまでも眞實に合致しなければならぬものでありまして、裁判の審理判決は終始眞實の探究にあるものと考えているのであります。しかしながら、裁判が他面において、非常に長い時間を要して裁判が宣告されるというようなことになりますると、その裁判の結果がいわゆる時宜に適しなくなるおそれがあるのであります。この意味において、いかに眞實に合した裁判であつても、時の流れによつて、その裁判の結果が具體的には適切でないというような憾みもありますので、おそらく憲法においても迅速に裁判がなさるべきことを要望しておるのであろうと思われるのであります。お説のように裁判の眞實發見と迅速なる審理とは往々にして兩立しがたい場合があるのでありまするが、そこに裁判の局に當る者の苦心を要するところでありまして、眞實に合して、しかも迅速適切なる裁判をなされるところに理想をおいて進むべきものではないか。かように考えておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=99
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100・石川金次郎
○石川委員 そこで眞實を實現し、しかも迅速を實現するといたしますれば、審理搜査に當る人々がそれを考えて、そこへ到達せしむるような手段を興えなければならぬ。たとえばそろばんと計算器と競爭させれば、一時間では勝つても、一晝夜の競爭では計算器には勝てなくなるから、政府が裁判の眞實を實現し、裁判の迅速を實現しようとするならば、搜査官、裁判官にそれ相應の一つの方法を講じなければならぬのでありますが、それに對して司法省は十分の方法をとられたか。少くとも今年度の豫算においては、司法省において、その十分な豫算をとられたかどうか伺いたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=100
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101・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 仰せのごとく、裁判の眞理探究、迅速なる裁判を求めるという、この理想を實現いたしますためには、裁判及び檢察の局に當る者の素質を向上せしめ、これを教養訓練して、立派な裁判、檢察のなされることを期待いたさなければならぬのでありまして、この點につきましては司法當局においても、かねてよりその方面に努力いたしておるのであります。數年前から司法研究所——現在は司法研修所という名前になつておりますが、かような施設を設け、司法官試補の時代、また判檢事として一定の年限を經た者、さらに判檢事として將來いわゆる幹部級になり得るような者、こう三段階に分けまして、隨時中央に招集して、教養訓練を施しておるのであります。昭和二十二年度の豫算におきましても、今後裁判所が檢事局と分離いたした曉において、裁判の方面においては最高裁判所の指導のもとに、判事及び司法修習生を教養訓練し、また檢察方面においては檢察官竝びにその搜査の補助に當る司法事務官——ただいまは檢察輔佐官と稱しておりまするがそれらの者を、司法省が主催して、これを教養訓練しようというために、相當な費用を計上しておるはずであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=101
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102・石川金次郎
○石川委員 長くなつて恐縮ですが今度は第八條の第一項第二號であります。檢察官は死刑、無期もしくは長期三年以上の懲役もしくは禁錮に當る罪を犯したことを疑うべき十分な理由がある場合で、急速を要する場合には、裁判官の逮捕状を得ることができないときは、警察官吏は逮捕することができるという、非常的な規定でありますこれは憲法の何によられたのでありましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=102
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103・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 措置法の第八條におきまして、被疑者を逮捕するには必ず裁判官の逮捕状を得て、これを逮捕しなければならぬ。檢察官または司法警察官吏は、みずから裁判官の逮捕状を得ないで逮捕することができないという原則を第一號に掲げたのでありまして、その第二號には、例外として逮捕することができる。これはたまたま逮捕状を求めることができないという急速の場合である。しかもその被疑者が相當重大な犯罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合には、まず逮捕をしてその逮捕の繼續中に裁判官の令状を得て取調べを續行する。こういう手續を第二號に例外的に認めたのでありますが、この第二號は新憲法の第三十三條におきまして現行犯以外の被疑者を逮捕する場合には、權限を有する司法官憲の發する令状によらなければ逮捕することができないと規定されておるのでありまして、この權限を有する司法官憲というのは裁判官のみに限られるかどうか、あるいは裁判官以外に檢察官も含むか。またはさらに司法警察官も含むかという點については、憲法の御審議の際にも種々議論のあつたところでございまして政府といたしましては、司法官憲というのは、裁判官のみならず、檢察官及び司法警察官も含むといふ解釋のもとに憲法の御審議が終えたように記憶いたしておるのであります。しかしながら新憲法第三十三條において、現行犯以外の者を逮捕する場合には必ず正規の令状を得なければならぬ。こういう制限を設けられたその趣旨をよく考えてみますると、結局は人身を拘束する場合の、その人權をできるだけ保護しようという精神でありますので、その精神に則つて、この緊急措置法につきましても、逮捕する場合には必ず裁判官の逮捕状を得なければならぬ。緊急の場合、しかも重要な犯罪で理由が十分にある場合には、まず逮捕して、その逮捕の繼續中直ちに令状を得て逮捕することができるという例外を認めました。この例外は例外ではありまするけれども、かような制限のもとに緊急の場合にやむを得ずなすことであるならば、これはやはり逮捕状による逮捕状による逮捕と見ることができる。從つて憲法第三十三條の精神にも決して反することはないだろう、こういう考えのもとに第八條の第二號を立案いたしたのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=103
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104・石川金次郎
○石川委員 私は御苦心の點については心から尊敬を表します。またかくのごとき規定を必要とするのであろうところの現在と日本の實情を見ましても、私はもつともだと存じます。しかしながら規定は憲法に反するや否やというような一つの問題を含んでおると私は思つております。なるほど同法官憲と書いてあります點においては、きわめて不明確な文字であります。また憲法の審議會におきましても、議論に相なりましたこともその通りでごさいます。しかしながらこの憲法の趣旨と、またここに書いてありまする現行犯云々の場合を除くというような趣旨から考えてみましても、裁判官とこの司法官憲以外に日本憲法の上からはないと私は確信しております。そういたしますと、この第八條の二號は憲法違反になるのではないかというように考えざるを得ないのであります。そこに至るであろうということをいかに御當局が御苦心なされ、またこの規定を置かなければ搜査活動、犯罪逮捕の活動がうまくいかないという事情も御苦心のあつたこととは存じますけれども、如何にしても憲法違反ということは私は許されないと思う。そこで私はお考えを願いたいのでありますが、非常に困難な事情が出た、そこで法律が多小の不明確な點のあるのを人が利用いたしまして、それから一つの法案で一つの便宜な手段を講じようというのではなくして、憲法は生かしておいて、技術的に逮捕の方法を講じていく方法はないのであろうかという點であります。たとえば裁判官の逮捕状をもつていかなければならぬ、こういうような切迫した事態におきましても、逮捕状を持參せしむるようなある一つの態勢を拵えておけないものか、どうしてもこれは變えられない規定であるかどうかをお聽きしたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=104
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105・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 この措置法第八條の二號につきまして、場合によつては憲法第三十三條に違反するのではないかというような御意見と拜聽いたしたのでありまするが、當局といたしましては、どこまでも第八條の第二號は憲法違反ではない、かように考えておるのであります。それはただいまも申し上げたように、憲法第三十三條において必す權限を有する司法官憲法の發する令状がなければ逮捕ができい。こういう制限を設けられたのは、結局人心を拘束する場合に愼重にやらなければならぬという趣旨であります。しかしながら現行犯の場合はその證據が明らかであるから、現行犯の場合は令状がなくとも逮捕ができるということを憲法において明示されたのは、これは證據か明らかであるから現行犯の場合は令状はいらない。こういうように例外を認めておるのであります。この趣旨から考えましても、措置法の第八條の第二號に提げたような、いろいろな條件が備はつておれば、非常に急速であつて、判事の令状を前もつてもらつておくことはできない急速な場合であるとか、その被疑者の犯した犯罪が相當重大な犯罪であり、しかもその犯罪を犯したということを疑うに足りる十分な理由がある、こういう場合には、いわゆる現行犯において逮捕の場合に令状を必要としないという、この憲法の規定の趣旨から見ましても、決して第三十三條の精神には反しないものとかような考えのもとに立案いたしたのであります。急速を要する場合で、しかもあらかじめ裁判官の令状を求めておくことができない場合に、犯罪搜査。犯人の逮捕について、どうしてもかような便法を設けなければならないということは、その必要性については十分御承知のようでありますから、具體的な例について御説明いたすことは省略いたしまするが、もしさような必要な場合、しかも緊急な場合に、この措置法第八條の二號のような規定を設けないで、何とか憲法第三十三條の規定に合うような便利な方法がないかというお尋ねでありまするが、その點については、當局といたしましても十分考慮いたしたのであります。もし憲法第三十三條の規定の表面だけから、前もつて令状がなければ絶對に逮捕ができないというふうに、非常に狹く解釋いたしますると、いきおいその必要上、具體的な事件の發生前に、前もつて令状を發しておいてもらうというようなことにならざるを得ない、また令状なしにやむを得ず逮捕するというようなことも考えられるのでありまして、さようなことでは結局合法的な搜査、犯人の逮捕というようなことが行われない一つの弊害を生み出すように考えられまするので、いずれもさような方法をとらずに、どこまでも逮捕状によつて逮捕をする。緊急の場合で、しかも證據が十分にある場合には逮捕をしているその間に、直ちに令状の發行を求めて、そうして逮捕を繼續する。かような方法を考え出したのでありまして、お尋ねのようなことは十分考慮いたしたのでありまするけれども、新憲法第三十三條の規定の表面だけを見まして、これに平仄の合うようなことを實行いたしますと、動もすれば弊害が助長せられるというような心配もありましたので、本案のような規定を設けるに至つた次第でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=105
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106・石川金次郎
○石川委員 その點に關しては私のように第三十三條に違反するのではないか、こういうような疑いをもつ者は、私一人ではないかもしれません。十分納得がいきますように當局が方法を講ぜられんことをお願いいたします。十條にまいりまして、ただ概念のみをお聽きいたしたい點があります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=106
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107・小林かなえ
○小林委員長 石川君ちよつと伺いますが、まだよほどかかりますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=107
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108・石川金次郎
○石川委員 もうこれで終りであります。強制という言葉、拷問という言葉がございますが、學生みたようではなはだ相すみませんが、ここに言う強制、拷問というのは、立案者がどういう意味づけでこれを概念化せられたものか、お聽きしておきたいと思います。また不當に長き勾留ということがありますが、これは現在の刑事訴訟法には何囘も何囘も繰返して勾留するということを豫定せられておるが、大體どのくらい長く勾留したならば、自由そのものの證據力を與えないという意味なのでありますか。固よりこれは裁判所で決定すべきものでありましようけれども、立案者のお考えをお伺いいたしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=108
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109・佐藤藤佐
○佐藤(藤)政府委員 この措置法の第十條に規定してあります事柄は、新憲法第三十八條に規定されておるところとまつたく同趣旨の規定なのでありまして、わざわざ法律において繰返さなくとも、憲法に規定があるのでありますから、差支えないのではないかというような御意見もあるのでありますけれども、刑事訴訟法が一つの手續法として、搜査官憲及び裁判官においてどうしても守らなければならない大綱を掲げる必要がありましたので、第十條において憲法の規定を繰返したのであります。新憲法において御承知のように「何人も自己に不利益な供述を強要されない。」また自白だけを唯一の證據として有罪とされ、または刑の言渡しを受けない。こういうような制限がありますので、從來のような自白偏重の弊が除かれることと信じておるのであります。從來のような不當に長く勾留して自白を求める、あるいは拷問脅迫によつて自白を求めるというようなことは、おそらくなかろうと信じておるのであります。しかしながらもしそういうようなことがあつたとしましても、強制、拷問、脅迫による自白、あるいは不當に長く勾留された、あるいは勾禁された後の自白は、これを證據とすることができないという、證據能力についても制限を設けたのであります。その中で強制による自白というのは、第一項に「自己に不利益な供述を強要されない」といつておるのでありますから、これも強制による自白というものはおそらく今後ないだらうと思いますけれども、もしたまたまそういうふうに被告人の意思に反して強制的に自白を強いられたというような場合に、この自白は證據とすることができないという趣意であります。從つてその次の拷問というのも、これも被告人の意思に反して自白をした場合に、その自白が暴行、脅迫寺による場合には、いわゆる拷問による自白として證據とすることができないという制限でございます。なお不當に長く勾留もしくは勾禁された後の自白というので、從來は未決勾禁ということが相當長く續いた例もございます。一年あるいは二年という長い勾禁もあつたのでありますが、今後は憲法の精神に則りまして、從來のような長い勾禁状態をみることはなからうと思うのでありますが、もし不幸にして不當に長い勾留をなされた後に被告人の自白がありましても、その自白はこれを證據とすることができないと、こういう制限を設けたのであります。いずれも憲法の精神に從つて、被告人の意思に反する自白は證據として價値のないものであつて、さようなものを證據として採用してはならないという制限を設けたのであります。この場合の不當に長くというのが、どのくらいの期間かというお尋ねでございましたけれども、これは當該事件について具體的に考えなければ、どの程度の勾留が不當に長いことになるかどうかというふうなことは、きまらない問題であろうと考えておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=109
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110・石川金次郎
○石川委員 私の民法竝びに刑事措置法に關する、質問はこれで終りまして、御懇切な答辯に對しまして滿足いたしましたが、民事訴訟の措置法に關する質問は留保いたしておきます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=110
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111・小林かなえ
○小林委員長 よろしゆうございます。それでは本日はこの程度で散會いたします。次會は明後二十二日午後一時より會議を開きます。
午前四時七分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009212856X00219470320&spkNum=111
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